著者
山本 和生
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

酵母CAN1遺伝子について突然変異を見ると,haploidの場合は1x10^<-6>の頻度で,diploid hetrozygousな場合は,1x10^<-4>の頻度となる。従って,diploidでは,DNA複製に依存した間違いによって突然変異が生じ,diploidの場合は,組み換えや染色体喪失などdynamicな染色体の再構成がその原因であることが分かった。次に,染色体喪失生成機構を知るために,DNA損傷性の突然変異は誘発しないが,発がん性を持つ化学物質を用いてその作用機構を調べた。用いたのは,o-phenylphenol(OPP)等の代謝物について,酵母でaneuploidyを強く誘発することが分かった。OPPの代謝物で酵母を処理した場合,1)塩基置換などの突然変異は誘発しない。2)aneuploidyの頻度は10^<-3>のオーダーとなる。3)酵母β-tublinと結合し解離作用を阻害する。4)FACS観察では,細胞周期をG_2/Mで止める。4)蛍光顕微鏡の観察では,M期後半で細胞周期を止める。OPPによる細胞分裂阻害をすり抜けた細胞は,ある確率で染色体喪失を生じる。CINは次の突然変異やCINを促すことで,更に次の変化を促し,発がんに至る。従来発がん機構の説明として,がん抑制遺伝子やprotooncogeneの突然変異が蓄積してがんが生じるという説(がん突然変異説)がある。現実のがんを見るとがん突然変異説で説明できない場合が大変多い。その一つとして.DNA損傷は作らない化学物資による発がんがある。本研究で,そのような化学物資の代表として,OPPを取り上げ,naeuploidyによって,その作用を及ぼすことを明らかにした。がんaneuploidy説の開幕である。
著者
都築 暢夫 加藤 文元 志甫 淳 山崎 隆雄 中島 幸喜 山内 卓也 河村 尚明 阿部 知行 諏訪 紀幸
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

リジッド解析的な手法と微分形式から定まるコホモロジー理論(p進コホモロジー)などの数論幾何におけるp進的方法の基礎付けを行い、数論的多様体の研究に応用した。複素単位円板上の半安定族のモノドロミー作用の核と余核を記述する完全列のp進類似として、正標数代数曲線上の半安定族におけるp進Clemens-Schmid完全列を構成した。正標数幾何的単枝多様体上のアイソクリスタルの純性に関して、開集合への制限関手の充満忠実性を得た。この結果、完備幾何的単枝多様体の1次リジッドコホモロジー群が重さ1の純であることを得た。さらに、p進コホモロジーの重み理論や数論的D加群の理論を深化・発展させた。
著者
陶山 佳久 中澤 文男 PARDUCCI Laura BENNET Keith D.
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

湖底堆積物や山岳氷河に含まれる古代花粉試料のDNA分析により、花粉試料の種識別や種内系統に関する情報を取得する研究を行った。湖底堆積花粉のDNA分析では、スカンジナビア半島の北方針葉樹が最終氷期から生き残っていたことを明らかにした。また、花粉分析法と堆積物DNA分析による古植生解析の比較を行った。山岳氷河から得られた花粉のDNA分析では、形態からは同定できない節レベルの識別に成功した。これらの成果は、堆積花粉のDNA分析による過去の植物の遺伝情報取得法として新たな提案となる。
著者
佐藤 衆介 瀬尾 哲也 植竹 勝治 安部 直重 深沢 充 石崎 宏 藤田 正範 小迫 孝実 假屋 喜弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.行動変化を指標とした家畜福祉飼育総合評価法の開発:ドイツ語文化圏で使用されている家畜福祉総合評価法であるANI(Animal Needs Index)法を我が国の酪農及び肉牛生産に適用した。そして本法は、放飼・放牧期間に偏重していることを明らかにした。さらに、(1)改良ANI(Animal Needs Index)法並びに家畜福祉の基本原則である5フリーダムスに基づいた飼育基準を作成した。(2)評価法改良のため、身繕い行動並びに人との関係の指標である逃走距離に関する基本的知見を収集した。(3)福祉評価においては、動物の情動評価も重要であることから、ウマを使い、快・不快に関する行動的指標を明らかにし、それは飼育方式評価に有効であった。2.生理変化を指標とした家畜福祉飼育総合評価法の開発:ニワトリの脳内生理活性物質のうちエンドルフィン(ED)が快情動の変化を捉えるのに適していること、またEDがMu受容体を介してストレス反応の調節にも関与することを明らかとした。また、輸送時の福祉レベルを反映する免疫指標を検索し、末梢血のNK細胞数やConA刺激全血培養上清中のIFN-γ産生量が有用であった。3.家畜福祉輸送総合評価法の開発:RSPCAの福祉標準に基づき、我が国の家畜市場に来場する家畜運搬車輌を対象に、福祉性評価を実施した。また、国内における子牛の長距離輸送および肥育牛の屠畜場への輸送について、行動・生理・生産指標に基づくストレス評価を行った。RSPCAの標準に基づく評価では、国内の運搬車輌は概ね福祉的要件を満たしていたが、一部、積込路の傾斜角度とそこからの落下防止策に改善の余地のあることが明らかになった。国内輸送時のストレス評価では、明確な四季を有する我が国では、季節により牛に対して負荷されるストレス要因が異なることが確認され、季節に応じた福祉的配慮が必要であることが示された。
著者
大野 公一 YANG Xia
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

分子やクラスターの平衡構造(EQ)はポテンシャルエネルギー表面(PES)上のエネルギー極小点に相当し、化学反応の遷移状態(TS)はPES上の一次鞍点で近似できる。化学反応は、量子化学計算に基づくPES上でEQとTSを探索することによって理論的に解析または予測できる。しかし、PESは振動の自由度と同数の変数を持つ多次元関数であり、PES全体を考慮したグローバル反応経路探索は非常に難しい課題であった。そのような反応経路ネットワークの探索では、そのネットワーク自身を辿るのが最も効率が良いが、TSからEQへと反応経路を上ることのできる一般的な手法(超球面探索法)を開発し、自動的なグローバル反応経路探索を可能にした。本研究では、超球面探索法を以下の問題に応用した。(1)昨年度に引き続き、星間分子であるアセトアルデヒド、ビニルアルコール、および、エチレンオキサイドを含む組成であるC_2H_4OのPESに本手法を応用し、その反応経路ネットワークの全貌を解析した。さらに、CH_3ラジカルとHCOラジカルなどへの解離極限付近を、それらの電子状態を記述できる量子化学計算と本手法を併用して調べたところ、ローミング機構と呼ばれるラジカル対の再結合反応の遷移状態を初めて見出した。(2)キラリティーを持つ最も単純なアミノ酸分子であるアラニン分子について、そのD体からL体への熱変換反応経路を本手法によって系統的に探索し、4種類のD-L変換経路を見出した。さらに、競合する異性化過程および分解過程を系統的に調べた結果、4種類のD-L変換経路のうちの一つが、最も熱的に有利な過程であることを確認し、アラニン分子を気相中でレーザー光等により過熱した場合には、D-L変換が最も熱的に起こりやすいことを見出した。
著者
中村 僖良 山田 顕 小田川 裕之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、高結合KNbO_3圧電結晶について、ECR酸素ビームとPLD(パルスレーザデポジション)を組み合わせた独自の方法により、高品質な単結晶膜をエピタキシャル成長させることを目指している。本年度の成果概要を以下に示す。1.Nd:YAGレーザ4倍波を用いるPLDにECR酸素ビームを組み合わせた膜成長法を採用して(110)MgOおよびSrTiO_3基板上に膜成長を行い、擬立方晶(001)配向のKNbO_3膜の成長に成功した。2.ECR酸素ビームを導入した場合と単なる酸素ガスを導入した場合について実験を行い、ECR酸素ビームが膜成長に有効であることを明らかにし、酸素圧力、ECRパワー、基板温度などの最適条件を求めた。また、膜の組成比をEDSにより調べた結果、ターゲット組成比K:Nbが1:1よりも2:1の場合の方がK/Nb【approximately equal】1.0の良い膜が得られることがわかった。3.X線ロッキングカーブ測定を行い、半値幅FWHMの膜厚依存性を明らかにした。4.ポールフィギュア測定により、膜がエピ成長していることを検証し、基板との面内方位関係を決定した。5.X線回折用高温アタッチメントを用いてKNbO_3結晶と基板の格子定数の温度による変化を調べるとともに、成長時および冷却する際の相転移点通過時における基板との格子定数の関係で決まる面方位との関係について考察した。6.参考のため、格子定数がほぼ同じBaTiO_3強誘電薄膜を同じ方法で作成・評価して比較検討した。7.膜の導電率を測定し、10^6Ωcmと比較的高いことがわかった。またD-Eヒステリシス曲線を測定し、強誘電性を確認した。8.薄膜の圧電性の評価を行い、超高周波厚み縦振動の電気機械結合係数k_tは約27%であることがわかった。9.相転移点付近でポーリングすることにより2種類の90°ドメインからなる有極性マルチドメインを形成し、その圧電特性などを調べて圧電性がエンハンスされることを明らかにした。
著者
境田 清隆 榊原 保志 高橋 日出男 榊原 保志 高橋 日出男
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

仙台市においては海風、長野市においては山風という局地循環がヒートアイランドを緩和している実態を観測結果から捉えようとした。仙台では春季から夏季にかけての海風吹走日に、3~5℃の気温低下が観測されるが、その効果は都心でも低減しなかった。長野においては、北西方向の裾花川から吹き出す山風が都心を冷却している実態が明らかになった。また東京都心では海風を含む南風吹走時に新宿などの風下に強雨が発現することが明らかになった。
著者
川島 滋和
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は国内水産物の価格形成メカニズムに着目し、(1)産地価格と水揚量の市場間連動に関する研究と(2)国際価格が日本の水産物市場の価格形成に与える影響について分析を行った。前者は東北地方の主要サンマ漁港である女川と気仙沼の価格・水揚量データを用いて分析を行い、後者は輸入比率の高い7品目(サケ・マス類、マグロ類、エビ、イカ,タコ,カツオ,カニ)を対象に輸入価格と国内価格の長期均衡関係と誤差修正過程を明らかにした。分析結果は以下にまとめられる。第一に,気仙沼と女川のサンマ産地価格の長期弾力性は約1.0と推計され,東北地方におけるサンマの産地市場の価格形成は効率的であり,価格情報はすでに統合されていると結論づけられた。第二に,産地市場の長期代替性は1.3と推計された。個々の産地市場は代替関係にあり,漁業者の水揚行動は産地の価格情報に速やかに反応していることが明らかになった。第三に、国内水産物の短期的な価格形成に着目すれば,水産物価格は主としてそのときの水揚量によって決定されており、国内での需給バランスが短期の価格形成において重要な役割を果たしていることが分かった。第四に,輸入比率の高い国内水産物の長期的な価格形成には輸入価格の影響が強く反映されていた。水産業におけるグローバル化が進展するにつれて、日本の水産業は、国内価格の維持と国際競争という2つの課題に直面している。今後は、国際競争力を維持していくためにも、水産物の輸出振興と資源管理や品質管理を考慮した水産物の差別化が必要となるであろう。
著者
吉沢 豊予子 跡上 富美
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

性差における女性特有のケアの検証-女性とリンパ浮腫との関係から-における3年間の研究により,以下の内容を明らかにすることができた.1. 健康な成人女性の生理学的指標を用いた,浮腫に関連するデータの蓄積である。今まで浮腫に関連する健康な成人女性のデータがなかったため、今回のデータが浮腫に影響を及ぼす関連因子を明らかにすることができ,浮腫の予防等の指導に意義あるものと思われる.成人女性5名を対象に最低3日間の朝・夕の下肢周囲測定,下肢のポンプ機能測定,むくみの自覚,BMI,筋肉率,体脂肪率を測定しその関連を統計的に分析した.その結果,下肢の周囲測定においては朝夕で有意差は認められなかった.下肢のポンプ機能はVRT(Venous Refilling Time)を使用し測定した。その結果朝夕では、VRT値は夕方低下するものの有意差は認められなかった。また、VRT値と年齢、体脂肪率,筋肉率,BMIとの関連を調査した結果年齢,体脂肪率,BMIで負の相関が認められ,筋肉率と正の相関が認められた(p<.001)。2. がん患者のリンパ浮腫に対する知識およびセルフケア能力およびリンパ浮腫と関連因子を明らかにするため,がん患者会参加者35名の協力を得て,調査を実施した.今回の協力者は子宮頸がん,体がん,卵巣がんの患者で有り、80%リンパ廓清を行っていた.リンパ浮腫に対する医師からの説明は約40%のみが術前に聞いており,その後は雑誌あるいは患者仲間からそれぞれ3割の方々が情報を得ていた.今までリンパ嚢腫を含めリンパ浮腫にり患した経験のある者が、45.7%と多く,この方々はとらえず手術をした病院へ出かけるか、自己セアで対処していた.その後自己流の予防ケアをされている方々が、8割おり、この方々は自己効力感も高めの傾向にあった。正しい知識を与え、セルフケアにつなげる必要がある。
著者
吉野 博 持田 灯 富永 禎秀 佐藤 威 苫米地 司 深澤 大輔
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.風による雪の輸送・堆積現象の解明とその制御に係わる観測、風洞実験およびモデリングの調査建物の形状や想定している気象条件、測定項目などの観点から国内外で過去に行われた研究事例を分類した。また、既往の数値解析事例おける雪粒子のモデル化や乱流モデルについて比較検討した。2.雪面の熱収支、積雪時の市街地表面の熱的特性の変化に係わる観測およびモデリングの調査モデル化に有用な信頼性の高い測定例を収集するとともに、既往の数値モデルの精度、適用範囲を調査し、比較・検討した。3.雪の貯蔵技術に係わる観測、実験及びモデリングならびに雪エネルギー賦存量の予測モデルの調査既往の数値モデルの精度、適用範囲を調査し、比較・検討した。また、これらを高精度に予測するための水分収支モデル等の情報を収集した。さらに、融雪量の算定の基礎となる気象情報に関して、利用可能なデータ・ソースを調査した。4.既存の数値予測モデルの評価1.〜3.の調査結果に基づき、建築・都市空間における雪の飛散・堆積、積雪面の影響下の放射場の影響等を組み込んだ、積雪環境の高精度の数値解析手法を構築するための基礎的資料を整備した。5.数値解析技術の克雪・利雪施設の設計、雪国の居住環境デザインへの応用のための検討既往の克雪・利雪施設、屋根雪処理システム等の設計手法、運用実績を調査し、問題点を抽出した。そして、数値解析を設計プロセスに組み込んだ新たな積雪環境のデザイン手法を確立するために必要とされる開発項目を整理した。
著者
有光 秀行
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

フェリックス・リーバアマンの旧蔵書で、東京大学図書館のオンラインカタログ上で「リーバアマン文庫」としては未登録の文献100点あまりを発見した。それらとあわせ、上記オンラインカタログで登録済みの文献すべてについて、献辞の有無や、書き込みの状況を調査した。ハインリッヒ・ブルンナーやヒューバート・ホールといった著名な学者たちとの知的交流や、中世史研究のみならず、第一次世界大戦など同時代の世界情勢に寄せる深い関心が明らかになった。
著者
安田 二郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究課題の一環として、許嵩撰『健康実録』(全二〇巻)に対して総合的な分析と考察を試みた。明らかにした主たる論点は、以下のごとくである。1.『健康実録』は、六朝史に関する基礎的知識も不十分な許崇が、基づく文献を精読することもなく、忽忽裏にあらわしたハサミとノリの編纂物にほかならず、しかも、構成上の調整も誤りの訂正も未遂行のままの、未完の稿本とこそ捉えられなければならない。2.各王朝の興亡は予じめ天によって決められているという定命論、それと密接に関連する、帝王を生み出す土地は固定していないという王気移動論が、全篇を貫ぬく根幹のパラダイムである。3.許嵩は、江陵を都とした後梁王朝を、王気が健康から去って長安へ帰着する天の定めの予兆として捉え、独自の意義を付与している。4.同書撰述の動機と目的は、玄宗に拮抗して即位した粛宗の正当性と、その即位の地たる霊武が、長安に代る唐王朝の新帝都たるべきを、王気移動論に基づいて主張することにあった。5.しかしながら、その主張に反して、至徳二載(757A.D.)年末、長安は帝都として再確定を見ることとなり、このため許嵩は、断筆を余儀なくされた。6.『健康実録』は、余りにも現代史に過ぎた歴史叙述にはかならず、自らが革新する思想をもって余りにも直哉に自己投企し、それ故に精神的に爆死せねばならなかった、唐代中期の一知識人許嵩の墓標という言い方も、決して的をはずしてはいない。
著者
市川 隆 高遠 徳尚
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

国立極地研究所を中心として日本が開発を進めている南極の氷床「ドームふじ」は標高が高く(3810m)、大気の透過率も高いと予想される。しかしシーイング等の天文学的条件に関するデータがない。そこで、ドームふじの天文学的気象条件(シーイング、測光夜数、背景光の明るさ)の調査を行うために、口径40cmの極地用望遠鏡を開発した。-80度で正常に動作するためには、できる限り同じ材質で熱膨張などの影響をさける必要がある。特にドームふじはきわめて厳しい環境にあるので、現地での調整はできる限り少なくしなければならない。そこで常温で調整した後、冷却化でも性能を維持する軸受けなどを開発した。また運搬と現地での組み上げを容易にするために、総量200kg余りある望遠鏡は5分割できる構造とし、最低2人での組み上げができることを確認した。本装置の極寒環境での性能を評価するために、平成20年2月に日本で一番寒い場所といわれる北海道陸別町に分解した望遠鏡を運搬し、現地で組み上げ実験観測を行った。最低気温は-23℃だったが、この極寒環境においても、望遠鏡、制御システムなど必要な観測装置は暖める必要もなく、正常に動作し、当初の性能が出ていることを確認した。その他、極寒で動作する機械部品、電気・電子回路の技術的検討、大型望遠鏡の雪上設置法の検討、シーイング測定装置DIMMの開発、SODAR乱流強度の微小熱擾乱への較正を行った。
著者
深谷 優子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,日本の文化・社会に特有の省略や直接表現を避けた言語表現の代表として俳句を取りあげ,俳句理解に関連する個人特性測定のための尺度として,読書経験・読書態度尺度を開発した。また,ピアレビュー(共同推敲)の教授技法を用いたところ,主に俳句理解の質的側面が支援可能であること,またその前提として,自分で予想したり考えたりするなどの思索専念傾向の態度を保障するような環境づくりが重要であることが明らかとなり,俳句理解の支援のための実践的な方策の示唆を得た。
著者
海老澤 丕道 林 正彦
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は、前年に引き続き超伝導や電荷密度波における準粒子の新奇なダイナミクスと粒子-ホール対称性の破れについて、ミクロなレベルからのの研究を行った。(1)電荷密度波の時間に依存するギンツブルグ・ランダウ方程式(TDGL)に関する研究前年の成果を受けて以下の研究を進めた。・CDWのTDGLに関するミクロなレベルからの導出に関する研究非平衡状態を解析可能なKeldyshグリーン関数の方法を用いて、導出したTDGLの理論的正当性に関して検討した。(広島大・高根美武氏との共同研究)・CDWのダイナミクスのシミュレーション手法の開発前年に引き続きTDGLを用いたCDWダイナミクスのシミュレーション手法を開発した。特に、従来から用いられてきたTDGLと我々が新規に導出したものとの違いについて、数値的な観点から明らかにする方法を検討した。(2)グラフェンにおける粒子-ホール対称性と超伝導電流に関する研究前年度の研究で1層および2層のグラフェンにおける超伝導近接効果(超伝導-グラフェン-超伝導接合)の振る舞いについて解析し、2層系では接合を流れる臨界電流に、特異な温度および電極間距離に関する振動が現れることを示した。本年度は、特にグラフェンにAB副格子(sublattice)が存在する効果を定量的に明らかにすることを目指して研究を進めた。具体的には前年度議論したトンネル・ハミルトニアンの方法を、副格子を区別して定式化し、計算を行った。その結果、2層グラフェンの振動現象は、AB副格子で交互に起きており、それらを平均すると1層系と同様に振動のない単調な振る舞いを示すことが分かった。現在さらに、振動現象を物理的に観測する為の手段についても検討しており、一定の成果を得ている。
著者
宮岡 礼子 大仁田 義裕 小谷 元子 山田 光太郎 岩崎 克則 梶原 健司 中屋敷 厚 長友 康行 佐々木 武 岩崎 克則 大津 幸男 梶原 健司 長友 康行 中屋敷 厚 山田 光太郎 二木 昭人 マーティン ゲスト ウェイン ラスマン 庄田 敏宏 入谷 寛 石川 剛郎 梅原 雅顕 川久保 哲 田丸 博士 藤岡 敦 松浦 望 西納 武男
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

等径超曲面の分類問題の大部分を解決し,運動量写像で表現することにより,可積分系理論との関連性を根拠づけた.特異点をもつ曲面の基礎理論を進展させ,種々の局所・大域理論を明らかにし,ルジャンドル写像を用いた新しい視点を開発した.リーマン・ヒルベルト対応を介してパンルヴェ方程式の力学系を研究し,カオス性の観点を開拓した.高種数Gromov-Witten理論のモジュラー性,ミラー対称性を論じ,また量子コホモロジーから得られる正則微分をポテンシャルにもつ曲面の構成を通じて,tt*幾何に貢献した.
著者
佐々木 公明 日野 正輝 長谷部 正 山本 啓 小林 一穂 照井 伸彦 赤松 隆 徳永 幸之 林山 泰久 福山 敬 徳川 直人 平野 勝也 伊藤 房雄 村山 良之 横井 渉央 張 陽
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

日本の集計データに基づいた幸福関数の統計的分析は「他者との比較」を表す生活水準が住民の幸福度に影響を与えることを示す。一方、物質の豊かさの価値よりも心の豊かさに価値を置く方が幸福度を増加させる。幸福度は所得満足度と共に単調に増加するが、所得満足度は生得水準の単調増加ではなく、「快楽の踏み車」仮説があてはまる。社会環境を表す所得分配の不平等と失業率はいずれも個人の幸福度に負の影響を与えるが、不平等よりも失業が住民の幸福により大きな影響を与える。
著者
小谷 元子 塩谷 隆 新井 仁之 熊谷 隆 井関 裕靖 納谷 信 楯 辰哉 石渡 聡
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

幾何学と確率論の異なる分野の関わりを通じて、これまで扱えなかった特異性のある空間や離散的な空間の幾何学の新たな研究方法を開拓することを目的とし、ランダムウォークの量子版である量子ウォークや、非対称ランダムウォークの長時間挙動の幾何学的理解、ランダム群の固定点性質、Alexandrov空間のBishop-Gromov型の不等式、ランダムグラフの収束性などに関する結果を得て、発表した。
著者
渋谷 努
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現地調査によって1970年代から80年代初頭にフランスのパリ郊外ノンテールに住み働いていた北アフリカ出身者が記憶にとどめている移民たちによる社会運動には、MTA(mouvement travailleur arabe)があった。彼らの活動は、パレスティナ住民の支援だけではなく、フランスの労働組合に積極的に参加していなかったアラブ諸国出身移住労働者を労働活動に参加させた。既存の労働団体とは一線を画して、労使交渉に臨んだ。また、移民たちに運動の組織化のノウハウを伝えた。彼らの活動は十年弱で終了し、団体も解散した。しかし、彼らの活動の中心的な役割を果たした者は、以降の移民による運動の中心的な役割を果たしており、移民の社会運動が成立する基礎を形作った。文献調査として北アフリカ出身移民第二世代を指す際に用いられることが多い「Beur」という言葉の1987年から2008年8月の間でのLe Monde紙上への掲載状況を調査した。掲載された総数は1924回だった。Beurは文芸や映画と結びつけて用いられる場合が最も多く、政治や選挙と次いで結びつけられていた。さらに1998年にサッカーのワールドカップがフランスで開催され、フランスチームが優勝した際にアルジェリア出身移民の子どもが活躍したことから、その後このチームのことをマスコミだけではなく政治家もblack-blanc-beurと呼ぶようになった。この表現は多様な出身者からなるフランス社会の統合を示すものとして象徴的に用いられるようになった。Beurにはイスラームと関連されて用いられることもあったがイスラム主義者と対比する形で世俗的または穏健なイメージが与えられた。以上のような肯定的なイメージとは異なり、Beurを侮蔑的な表現と関連づける大きな要因が郊外問題であり、都市暴動などの暴力であることが明らかとなった。