著者
福嶋 路
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、地域における企業家的活動とそれをサポートする地域に存在するネットワークの特質を調査したものである。いくつかの企業者ネットワークを取り扱った研究はこれまでにもいくつかあったが(例えば金井(1994)、サクセニアン(1991)など)、これらは既存のネットワークを静態的に捉え、性質の異なるネットワーク間の比較という視点からその特質を捉えてきた。本研究ではこれらネットワークがいかに生成され成長し地域企業家を支援するにいたったのかという動態視点を採用することが目指された。また企業者ネットワークの国際比較も試みられた。本研究にあたって、岩手県とテキサス州オースティンの事例が取り上げられた。両者とも、20年前までは必ずしも経済的に発展している地域とはいえなかったが、両地域において大学を中心とした企業家活動を支援する地域ネットワークを形成してきた。この間、これら地域にはインキュベーター、リエゾン・オフィス、企業家教育、企業者ネットワークなどといった仕組みがほぼ平行して出現し、これらが一つのシステムを形成し有機的に一体化し地域の企業家活動を促進してきたことが明らかになった。さらに本研究では日米といった異なる国の地域を取り上げたことによって、国際比較が可能となった。具体的にいうと岩手県のINSと、オースティンにおける複数のビジネスネットワーク(TBN,ASCなど)との比較が試みられている。現在、オースティンのビジネスネットワークは調査中ではあるが、日米におけるネットワーク形成方法の違い、つまりプロセス志向の日本とシステム志向のアメリカという対比が仮説として提示された。
著者
佐藤 伊久男 柳沢 伸一 斎藤 寛海 斎藤 泰 三浦 弘万 渡部 治雄 鶴島 博和
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

この2年間我々は、《特殊ヨ-ロッパ的》社会構造に着目しつつ前近代の統合的諸権力の構造と展開を把握することに努めてきたが、その際独断に陥らないよう研究史をフォロウし、その研究史を対象化するために史料に沈潜し、また研究成果の相互批判に努めてきた。これらの目的は、本研究費補助金により著しく促進された。さて我々の研究は、第1領域《地域的諸集団と統合的諸権力》、第2領域《統合的諸権力における教会の地位》、第3領域《統合的諸権力と官僚》を単位に進められ、その結果は、未発表の独立した諸論文(もしくはその要約)からなる『研究成果報告書』としてまとめられた。その中で、佐藤伊久男が中世イングランドの国家と教会との関係において12世紀が大転換期であることを解明したのに続き、第1領域で、三浦弘万氏はカ-ル大帝による他部族併合過程におけるグラ-フシャフト制の導入の意義を強調し、斎藤泰氏は原スイス永久同盟の形成過程における渓谷指導層の利害の決定性を示し、柳沢伸一氏は宗教改革期の帝国都市とスイス都市との同盟に帝国の統治構造の特殊性を見、斎藤寛海氏は16世紀ヴェネチアの食糧政策の中から特殊イタリア的な支配構造の特質を摘出した。第2領域では、渡部治雄氏は帝国教会制との絡みでドイツ王国成立を国王ジッペからディナスティ-への構造的転換として把握し、鶴島博和氏はイングランド統一国家の原理が部族国家統合のへゲモニ-ではなく教会に由来すると主張した。第3領域では、小野善彦氏は領邦国家において君主の公的経営と学識法曹の私的経営とが役得プフリュンデとしての地方行政官職の形で癒着していたとし、神宝秀夫氏は絶対主義時代の領邦軍制(職業的常備軍と選抜民兵制)に見られる君主と内外の権力者との二元主義が特殊ヨ-ロッパ的特質の1つであると指摘した。今後は国家史を「官僚と軍隊」の観点から追究していく計画である。
著者
寺山 恭輔
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

スターリン体制確立期にあたる1930年代について、主要な決定機関たる政治局の諸決定を特別ファイルを含めてほぼくまなく収集したが、その他の史料館の史料も利用しながら、最初の事例としてソ連のモンゴル政策について本にまとめた。当該問題に関連して、秘密警察その他これまでアクセスの困難であった史料を利用した多くの著作を収集し、アルヒーフ史料とともに、新疆、ソ連極東地域について著作を準備中である。その他の地域についてもまとめる作業を行っている。
著者
磯部 彰 金 文京 三浦 秀一 若尾 政希 大塚 秀高 新宮 学 磯部 祐子 鈴木 信昭 高山 節也 中嶋 隆藏 勝村 哲也 尾崎 康 藤本 幸夫 関場 武 栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本領域研究では、共同研究及び個別研究の両形態をとって研究を進めてきた。研究組織を円滑に運営するため、総括班を設け、目的達成への道標として数値的目標を掲げ、構成員が多角的方法をとりながらも、本研究領域の目標を具体的に達成し得るようにした。本研究では、東アジア出版文化を基軸とする新学問領域を確立することを目標とし、その骨格をなす要素を数値的目標に設定した。それは、(1)東アジア出版文化事典の編纂準備、(2)東アジア研究善本・底本の選定と提要作成、(3)東アジア研究資料の保存と複製化、(4)日本国内未整理の和漢書調査と目録作成、であり、更に、(5)東アジア出版文化研究の若手研究者の育成、(6)国際的研究ネットワークの構築などを加えた。初年度には、総括班体制を確立し、ニューズレターの発刊、ホームページの開設、運営事務体制の設定を行い、計画研究参画予定者を対象に事前の研究集会を実施した。平成13年度からは、計画・公募研究全員参加の研究集会と外国研究者招待による国際シンポジウムを毎年開き、国内の研究者相互の交流と国外研究ネットワークの構築を推進した。前半2年は、総括班の統轄のもとで、主として東アジア出版文化をめぐる個別研究に重点を置き、共同研究の基盤強化を図った。新資料の複製化も同時に進め、東アジア善本叢刊4冊、東アジア出版文化資料集2冊を刊行する一方、展覧会・フォーラムなどを開き、成果の社会的還元を行なった。研究面では、後半は共同研究を重視し、調整班各研究項目での共同研究、並びに領域メンバーや研究項目を越えて横断的に組織した特別プロジェクトを4ジャンル設定し、総括班の指導のもとに小研究域として定着させた。年度末ごとに報告書を編集する一方、前後の終了時に研究成果集を作成している。研究領域の数値的目標は約四分之三達成し、窮極の目的である新学問領域設定も、概然的ながら構想化が具体的になった。
著者
村上 学
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

目的)抗ガン剤の治療において、多剤耐性細胞の存在は重要であるが、近年になり、MRP(multidrug resistance associated protein)というP-糖蛋白が関与しない多剤耐性機構の存在が明らかとなった。MRPは抗ガン剤を排出するポンプ機能を有し、ガン細胞における抗ガン剤の細胞内濃度を低下させることにより多剤耐性を示すと考えられている。各種カルシウムチャネル阻害薬がMRP発現細胞において抗ガン剤の排出を阻害することが知られているが、その機構は不明である。本研究はMRPとカルシウムチャネルとの間における相互作用の存在を仮定し、MRP発現細胞におけるカルシウムチャネルの発現プロフィル、チャネル特性、カルシウムチャネル過剰発現による抗ガン剤の効果を調べることを目的とした。結果)1)MRP発現細胞における電位依存性カルシウムチャネルの発現プロフィルおよびチャネル特性の検討すべてのMRP発現細胞において、カルシウムチャネルalpha1Dの発現が確認された。さらに細胞膜表面におけるチャネル特性を、電気生理学的方法等により解析したが、機能を有するカルシウムチャネルは測定感度以下であった。2)カルシウムチャネルalpha1C遺伝子の過剰発現によるMRP発現細胞における薬剤感受性の変化カルシウムチャネル遺伝子をMRP発現細胞に過剰発現させたところ、エトポシド、およびビンクリスチンに対する感受性が増加し、エトポシドの細胞内蓄積が増加した。考察および総括)MBP発現細胞ではカルシウムチャネルは発現しているが、細胞膜表面における機能的チャネルをほとんど構成しないことが明らかとなった。また、カルシウムチャネル遺伝子の過剰発現がMRPのポンプ機能を低下させたことから、MRP発現細胞においてもカルシウムチャネルがカルシウムチャネル阻害薬の標的分子である可能性が示唆された。
著者
伊藤 洋介
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中性子星連星系などの相対論的連星系からの重力波の直接観測には、連星の運動方程式を高精度で求めておく必要がある。本研究では、ポスト・ニュートン近似法を用いて、第1原理から導出された方程式としては世界最高精度である3.5次精度の運動方程式の導出に成功した。また、時空に特異線が存在しないという要請を課すことにより、アインシュタイン方程式と無矛盾な電磁場が存在する時空における点電荷の運動方程式を導出した。
著者
高田 春比古 根本 英二 中村 雅典 遠藤 康男
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

報告者らはこれまでに、i)歯周病関連細菌のLPS,口腔レンサ球菌ならびにCandida albicansより調製した細胞壁画分を、細菌細胞壁ペプチドグリカンの要構造に当たる合成ムラミルジペプチド(MDP)を前投与したマウスに静脈注射すると、アナフィラキシー様ショック反応を惹起すること、ii)LPSによるショック反応の背景には血小板の末梢血から肺等への急激な移行と、臓器での凝集・崩壊、それに続発する急性の組織破壊が起こっており、MDPはこのような血小板反応を増強すること、iii)さらに、一連の反応の成立には、補体が必須であることを明らかにしてきた。本研究の当初の計画では、マンナンを主要構成多糖とするC.albicansの細胞壁がmannose-binding lectin(MBL)と結合して、所謂レクチン経路を介する補体活性化を起こす結果、血小板崩壊に続発するアナフィラキシー様反応が起こるとの作業仮説の実証を目指していた。しかし、研究の途上で、マンノースホモポリマー(MHP)を保有するKlebsiella O3(KO3)のLPSに極めて強力なショック誘導作用を認めたので、先ず、MHP保有LPSを供試する実験を実施した。即ち、横地高志教授(愛知医大)より、KO3の他、E.coli O8とO9(いずれもMHPよりなるO多糖を保有)さらに、O8およびO9合成酵素をコードする遺伝子をE.coli K12(O多糖欠くR変異株)に導入して得た遺伝子組替えLPSの分与を受けて、MHP保有LPSが例外無く強力なショック反応と血小板反応を惹起すること、さらに、松下操博士(福島医大)の協力を得て、MHP保有LPSはヒトMBLと結合して、血清中のC4を捉えて、補体系を活性化することを証明した。
著者
高田 春比古 根本 英二 中村 雅典 遠藤 康男
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

先に申請者らは、歯周病に深く係わるとされるPorphyromonas gingivalis,Prevotella intermedia等の黒色色素産生菌(BPB)のリポ多糖(LPS)をマウスに静脈注射すると、通常のLPSでは報告のない全身アナフィラキシー様反応を惹起する事を見出した。さらに、この反応の背景には血小板の末梢血から肺・肝等への急激な移行と、臓器での凝集・崩壊、それに続発する急性の組織破壊が起こる事を明らかにした。これらの反応の機序解明を目指して、補体系との係わりに焦点を絞って研究した。研究にあたっては、アナフィラキシー様反応惹起能が強いKlebsiella 03(K03)のLPS(愛知医大・横地高志教授より分与を受けた)を主として供試した。その結果、1.先天的に補体因子C5を欠くDBA/2マウスやAKRマウスではアナフィラキシー様反応や血小板の崩壊が起こらない。2.C5抑制剤K-75 COOHを予め投与されたマウスやコブラ毒素を投与して補体を枯渇させたマウスでも、アナフィラキシー様反応や血小板崩壊が起こらない。3.補体活性化作用が弱いKO3変異株のLPSでは、血小板の一過性の肺・肝への移行はみられるが、やがて血液に戻り、アナフィラキシー様反応も認められない。これらの知見はLPSによって惹起される血小板-アナフィラキシー様反応には補体活性化が必須がであることを示唆している。報告者は、K03 LPSの0多糖部のマンノースホモポリマー(MHP)がレクチン経路(近年解明された第3の補体活性化経路)を介して補体を強力に活性化して、集積した血小板を崩壊させ、アナフィラキシー様反応を惹起するとの作業仮説を立てた。実際、4.Esherichia coli 0111:B4にMHP合成遺伝子を導入した変異株のLPS(横地教授より分与)では、親株のLPSに認められない強力な血小板反応とアナフィラキシー様反応惹起作用が認められた。今後、歯周局所でもBPB LPSによって、同様の機序による急性炎症が惹起されている可能性を探究する予定である。
著者
千種 眞一 片岡 朋子
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

従来の文字類型学を概観し,系統発生的な進化の最高段階としてのアルファベットを基盤とする文字学が東アジア文字文化圏の漢字その他の文字に関する形字法に基づく文字類型学を不十分にしか扱えないことを論じた。そして自足型アルファベット・アルファベット包含型表語文字組織・アルファベット排他的記憶型文字組織からなる文字の音韻形態的分類を柱とする文字類型学によって提案されている進化論的モデルを適用して、日本文字における漢字仮名まじり文という書記体系や音読み・訓読みのシステムを考察することにより、進化論的モデルから見て、日本漢字が中国漢字よりも明らかに表語的な文字としてきわめて興味深い事例であることを明らかにした。大和語に対する中国漢字のいわゆる訓読みの現象が、漢字のもつ本来の音声的な関係を捨象して、もっぱら表語的に利用されている文字も可能だという意味からである。漢字の認知文字論的な考察では、形字法的な観点から日本の常用漢字、とくに形声字に焦点を当てながら、独体字・合体字の構成に関して、いわゆる部首を意味範疇認知情報単位、音符を音声認知情報単位、字訓語(あるいは字音語)を意味認知情報単位と捉えなおすことによって、漢字の認知文字論的な分析の可能性を示した。部首別・音符別の漢字分布などを調査して、部首が意味範疇認知情報単位として十全に機能しているものから、さらに情報検索指標として、そして単なる文字構成要素としてほとんど字形の中に埋没しているようなものに至るまでさまざまな機能の仕方を見せていること、音声認知情報単位としての音符も意味の共通性を明確に認知させるほどには機能していないこと、しかしながらこうした状況があるからこそ、これらの意味範疇的あるいは音声的情報だけでなく、複合文字表現のもたらす情報をも駆使して、漢字の認知プロセスが成功裡に行われているということを明らかにした。
著者
佐藤 衆介 二宮 茂 山口 高弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

終日放牧、半日放牧=フリーストール(FS)、繋留舎飼の順で、睡眠は長く、敵対行動は少なくなった。放牧では血中オキシトシン(Oxy)が高く、N/L比やコルチゾール(Cor)は低かった。放牧地での刈取草摂食に比べて立毛草摂食で、Oxyは高く、Corは低くなった。エンリッチメント処理では、立位休息が短く、睡眠、摂食、伏臥、親和行動が多く、内臓廃棄は低く、肉質評価は高かった。ブラッシング処理後にOxyは上昇した。運動場解放により、行動は多様化し、Oxyは上昇した。
著者
茂田 正哉
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

本年度は前年度に構築した有限差分法による数値計算モデルを現実の問題に適用し,熱水噴出に伴う流れの3次元数値解析を行った.具体的には,熱水活動の確認されている現実の深海カルデラ内の流れについて数値計算を行い,流れの構造を調べた.既に得られている観測データから,一般にカルデラより上部では温度や塩分濃度が成層状態であるのに対して,熱水活動の見られるカルデラ内では温度や塩分濃度が水深によらず一定であることが分かっている.しかし,温度および塩分濃度が均一化するメカニズムについては,これまで解明されていなかった.本研究では,実際の複雑なカルデラ形状も考慮しながら,粒子法および有限差分法による詳細かつ大規模な3次元数値シミュレーションを試みた.その結果,カルデラ内の温度や塩分濃度の均一化は,熱水プルームを駆動力とした対流による混合作用により促進されることを明示した.カルデラ内において噴出した高温低密度の熱水は浮力により上方への流れを生むが,浮力と重力が釣り合う高さで水平方向へと広がる一方,熱水プルームの周囲から低温高密度の流体が流れ込むことによって,カルデラ内に大規模な対流が発生し,最終的に温度や塩分濃度が均一となるというメカニズムを示した.また,深海の熱水噴出による流れの数値計算モデルの確立のために,随時「海底下の大河」計画に携わる研究者等との意見交換を行い,現実の深海の熱水活動に関する情報を得て研究を遂行した.熱水噴出孔の位置や規模を変化させて数値計算を行うことで流れ場の特徴を捉え,観測された温度等のデータから流れの構造や熱水噴出孔の位置の特定を試み,本モデルによる流体数値シミュレーションの現実的な利用を目指した.
著者
高田 雄京 奥野 攻 越後 成志 菊地 聖史 高橋 正敏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

静磁場による骨の成長誘導の可能性を調べるため、耐食性に極めて優れた無着磁および着磁白金鉄磁石合金(Pt-59.75at%Fe-0.75at%Nb)をウィスターラットの両側脛骨にそれぞれ1〜12週埋入し、骨親和性と静磁場刺激による骨誘導を光学顕微鏡とX線分析顕微鏡を用いて評価した。同時にコントロールとして、骨および生体親和性の高いチタンおよび生体用ステンレス鋼(SUS316L)においても同様の実験を行い、それぞれの骨成長を比較検討した。その結果、静磁場の有無に関わらず白金鉄磁石合金表面に形成する新生骨のCa/Pは、チタンや生体用ステンレス鋼と同等であり、皮質骨との有意差はなかった。また、4週以降では、いずれも埋入金属全域を新生骨が覆い、白金鉄磁石合金に形成した新生骨は、静磁場の有無に関わらず微細領域においても皮質骨と同等のCaとPの分布を示し、十分に成熟した骨であることが明らかとなった。これらのことから、白金鉄磁石合金に形成する新生骨の成熟度、形成形態、形成量は静磁場の有無に依存せず、いずれもチタンに準じ、生体用ステンレス鋼よりも優れていることが明らかとなった。特に、白金鉄磁石合金において、静磁場の有無に関わらず生体為害性が全く現れなかったことから、生体内で利用できる磁性材料としての可能性が非常に高いことが示唆された。しかし、白金鉄磁石合金の形状が小さく局所的で強力な静磁場が得にくいことや、ウィスターラットの骨代謝が速いことから、本研究課題の期間内では静磁場による骨の成長速度の相違を明瞭に見出すことができなかった。今後の課題として、局所的で強力な静磁場を付与できる磁石とラットよりも骨代謝の遅い動物を用い、静磁場刺激による骨の成長誘導を試みる必要があると考えられる。
著者
木島 明博
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

母系遺伝をし、交又しないとされている核外遺伝子のミトコンドリアDNAは、核内遺伝子(アイソザイム)と遺伝様式が異なることから、集団の世代を越えた繁殖構造を母系の観点から捉えることができる遺伝標識として近年脚光を浴びてきている。しかし、集団構造の解析に効果的に応用するためには、多くの個体の分析を簡単に行える手法の開発と、魚類のmtDNAの基本となる制限酵素切断地図の作成を行い、切断型の変異が塩置換によることを確認しなければならない。本研究はヤマトゴイおよびサクラマス類を対象として以下のことを明らかにした。(1)ヤマトゴイとサクラマス類のmtDNA精製度の高い簡易単離法として、木島ら(1990)のアルカリ処理法にグラスビ-ズによる精製法を加えた一連の手法を開発した。(2)ヤマトゴイのmtDNAを15種類の制限酵素で切断し、5種類のハプロタイプの存在を明らかにした。(3)これらの制限酵素切断型変異から5種類のハプロタイプの制限酵素切断地図を二重消化法によって作成した。(4)作成した制限酵素切断地図の比較によってヤマトゴイの制限酵素切断型の変異が単純な塩基の置換によって起こっていることを示唆した。(3)(2)によって、制限酵素切断片の長さの比較(RFLP)によってヤマトゴイのmtDNA分析による比較ができることを確認できた。また、魚類においても同様にRFLP法によってmtDNAの制限酵素切断型変異の比較ができることを示唆した。(4)そこで6塩基認識の6種類の制限酵素を用いてサクラマス2系統、ヤマメ1系統、アマゴ1系統の養殖集団のmtDNAの切断型変異を明らかにし、特別な選択を行っていないサクラマスとヤマメは天然からいくつかの母系が起源となって繁殖されているが、パ-に選択を重ねたアマゴは単一母系から生産されているという繁殖構造が推定された。
著者
泉 武夫 長岡 龍作 シュワルツ・アレナレス ロール 井上 大樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

兜率天上の弥勒菩薩の造形について、インドから日本中世までの展開過程をおおよそ明らかにした。中国唐代までは持水瓶・交脚形が主流であるが、宋代およびその影響を受けた日本中世では持麈尾・趺坐形が浸透する。また兜率天浄土の表現についても、中央アジアから中国、日本に至る図様形成と変容状況を遺品から跡づけた。とくに日本中世の兜率天曼荼羅図のタイプを整理することができた。
著者
仲村 春和
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

視神経繊維の大部分は視蓋の表層を走り、標的付近で内側に向きを変えシナプスを作るが、本研究により、最初から視蓋の深層を走る一過性の一群があることが明らかにされた。En2は視蓋の発生初期に後ろとしての位置価を与えるが、視神経が視蓋に到達した頃に、SGFS,g-j層で発現している。En2の強制発現により、En2発現細胞は視蓋の浅層に到達することはなかった。E1.5にEn2をトランスフェクトし、Doxによりその発現をE8.5に誘導すると、浅層でEn2を発現した細胞はi層に戻っていった。このことから、En2が視蓋総計性に深く関わっていることが示唆された。Neuropilin1(NRP1)がE8.5視蓋のIV,V層に、そのリガンドSema3AがVI層に発現している。IV,V層の細胞は接戦方向の移動をする細胞により構成されることが本研究により明らかとなった。その接戦方向の移動にSema-Neuropilinの反発系が関与していることが示唆された。Sema3Aを強制発現すると視蓋の層構造が乱れることから、semaphorin-neuropilinの反発系が視蓋の総計性に大きな役割を果たしていることが示唆された。
著者
曽根原 理 牧野 和夫 福原 敏男 佐藤 眞人 大島 薫 松本 公一 岸本 覚 山澤 学 大川 真 中川 仁喜 和田 有希子 万波 寿子 クラウタウ オリオン 青谷 美羽 杉山 俊介
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の近世社会において、東照宮が果たした役割を考えるため、関係する史料を各地の所蔵機関などで調査した。また、近世初期に東照宮を設立する際に基盤となった、中世以来の天台宗の展開について、各地の天台宗寺院の史料を調査した。加えて、年に二回のペースで研究会を行い、各自の専門に関する報告を行い議論した。そうした成果として、日本各地の東照宮や天台宗寺院に関する著作と論文を公表することが出来た。
著者
原 研二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究においては,19世紀オーストリアの主要な小説の分析を通じて,この時期のオーストリア小説に描かれた個人が,はじめから安定した単位ではなく,むしろつねに不安を抱え込んでいたものであることが明らかにされた。シールズフィールドから,グリルパルツァー,シュティフタ-,アンツェングルーバー,エーブナ-=エッシェンバッハ,そしてさらに世紀転換期の作家の作品に至るまで,繰り返し人間の自我が実体を欠いている様子と,その欠落を暴力的に埋めようとする文学的な試みが行われたことが明らかにされた。これは特殊オーストリア的な問題として理解されるだけではなく,ゲーテ以来の近代ドイツ小説の展開それ自体と密接な関係を持つ問題である。特に,従来正当な評価を受けることのなかったシールズフィールドとエーブナ-=エッシェンバッハについて詳細な検討を試み,彼らの作品を抜きにして,近代オーストリア小説,またドイツ小説の歴史の正当な評価があり得ないことを論証した。成果の一部は,日本独文学会において口頭で発表され,日本語の論文としてまとめられただけではなく,海外の研究者との交流の便を考えドイツ語の二編の論文にまとめられた。世紀転換期にマッハによって端的に指摘されのちの近代オーストリア小説のきわめて重要な課題となる「救いがたい自我」の問題が,19世紀においてすでにきわめて変化に富んだかたちで顕在化したことが,これらの論文で明らかにされている。さらに今後,こうした成果に基づき,今世紀の前半に至る近代ドイツ小説の流れが,新しい視点から書き直されることが期待される。
著者
大町 真一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

テンプレートマッチング法による幾何学的変形を受けた画像の高速な探索を実現することを目的とし、画像を多項式で近似し、指定された位置とアスペクト比の部分画像のみを対象とすることで高速な探索を実現できる手法を開発した。また、本研究課題の応用として、実時間で画像を取得しながら物体を探索するシステムを構築した。具体的には高度道路交通システムへの応用を想定し、交通信号の自動検出および識別のためのシステムを構築した。
著者
佐野 健太郎
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、シストリックメモリアーキテクチャに基づき、データ圧縮を指向した4次元データ数値計算専用プロセッサを設計し、FPGAによる実装を通じ性能評価を行った。以下、本研究課題の実績について概要を述べる。平成17年度では、圧縮アルゴリズムと並列性に関する研究を行い、その高速処理に適したシストリックメモリアーキテクチャを提案した。また、本アーキテクチャに基づき、FPGAによる競合学習専用プロセッサの試作を行った。性能評価の結果、本試作プロセッサは汎用プロセッサと比べて高い速度向上を実現することを確認した。平成18年度では、より汎用な高速4次元数値データ処理を可能とするために、単精度浮動小数点演算に特化したシストリックアレイプロセッサを設計した。本アレイプロセッサの基本処理要素「セル」のデータパスはマイクロプログラムにより制御され、プログラムを変更することにより様々な計算問題を扱うことができる。計算に必要なデータは各セルに分散された局所メモリに格納され、FPGAの持つ総メモリバンド幅を最大限に活かした超並列計算が可能である。本研究では、単一のFPGA上に12x8のセルから成るシストリックアレイを実装し、n次元数値計算の例として2次元の計算流体力学問題を用い性能評価を行った。2次元正方キャビティ内の定常流を計算したところ、僅か60MHzで動作するシストリックアレイプロセッサは、3.2GHz動作のPentium4プロセッサと比べ7倍もの高速計算を実現した。この評価は2次元の数値計算に対するものであるが、提案プロセッサは理論的に4次元データを高速計算可能である。以上、本研究課題では、4次元データの高速処理に対する提案アーキテクチャの有効性が確認できた他、コンパイラ等、今後実用的なシステムを構築する上で必要な開発の指針が明らかとなった。これは、重要な成果である。