著者
原 夕紀子 飯島 久美子 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.76, 2011 (Released:2011-08-30)

目的緑色野菜に含まれるクロロフィル系の色素は、加熱により分解、変色しやすいため、調理過程を予測するには色と物性両方の定量的把握が必要である。本研究では、ゆで加熱・炒め加熱・揚げ加熱による野菜の色と硬さの変化を定量的に扱い、これらの単独加熱に炒め加熱を加えた組み合わせ加熱において、色と硬さの変化を予測し、最適条件の設定を行った。さらに「油通し」に代わる前処理法として「湯通し」の効果を検討した。 方法試料としてピーマンを用い、ゆで加熱では70~99.5℃、炒め加熱と揚げ加熱では100~190℃の各温度で加熱し、色(色差計,-a*/b*)と硬さ(テクスチャーアナライザー)を測定し、-a*/b*を緑色度とした。各温度における色の変化と軟化の速度定数を求め、試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した。ゆで加熱後に炒め加熱(湯通し)を、また揚げ加熱後に炒め加熱(油通し)を行い、単独加熱で算出した色の変化と軟化の速度定数から、組み合わせ加熱における試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した。 結果いずれの加熱操作も、加熱初期段階に緑色度の増加がみられ、その後に退色が起こるため、2段階で解析した。100℃における緑色度増加の速度定数はゆで>あげ>炒め、退色はあげ≧ゆで>炒め、軟化の速度定数は、あげ>ゆで>炒めの順に大きかった。単独加熱の結果を用いて、組み合わせ加熱における試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した結果、ほぼ一致した。また、「湯通し」は「油通し」より、炒め時の外観が良好で、簡便な前処理としての利用が期待でき、実際の調理における油通しや湯通しを用いた組み合わせ加熱への本法の応用可能性が示された。
著者
岩本 彩子 杉山 佳菜子 中山 真 梅原 頼子
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.107-113, 2021 (Released:2022-02-01)
参考文献数
34

This study investigated the stress-reducing effect of kabusecha containing of high amounts of theanine, a nutritional component of green tea, on daily high-stress person. The subjects were 109 college students and staffs who live in different environments (12 men, 97 women, 19-67 years). Twenty-nine person with high stress (2 men, 27 women, 19-58 years old) were selected by Stress Response Scale-18 (SRS-18), one of the subjective stress evaluation methods. As a single-blind study, a 30-days tea challenge was conducted on them divided into two groups, one is kabusecha containing theanine and the other is barley tea without theanine. The quantitative stress level was assessed with SRS-18 and salivary amylase and blood pressure as objective stress evaluation methods. The quantitative stress levels were assessed with salivary amylase and blood pressure as objective stress evaluation and SRS-18 as subjective evaluation. As a result, the salivary amylase level and SRS-18 score decreased significantly in the kabusecha group. It was speculated that kabusecha has an anti-stress effect by suppressing the autonomic nervous system pathway, especially the sympathetic nervous-adrenal medullary axis. Interestingly, blood pressure and SRS-18 score also decreased significantly in the barley tea group. It was considered that barley tea induces a stress-reducing effect by a stress response activation pathway different ,from that of kabusecha. These findings suggested that kabusecha has the stress-reducing effect of on someone with high stress in daily life using a combination of subjective and objective measures of stress. In the future, it is expected that as one of the stress coping methods, people could select the tea according to individual stress by clarifying the involvement of various nutritional components in the psychological stress-reducing effect.
著者
武田 久吉
出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.352, pp.85-96, 1916 (Released:2007-05-24)
参考文献数
14

一、やへむぐら族 (Stellalae 一名 Galieae) ニ屬スル植物ハ Didymaea ヲ除クノ外通常葉状ノ托葉ヲ有ス。二、葉状托葉ハ種類ニヨリテ各節ニ二個以上十個ニ達シ、相對シテ生ズル二個ノ眞正葉ト共ニ、輪生状ニ配列ス。三、托葉ハ其ノ數各節二個ナルトソレ以上ナルトヲ問ハズ、通例各一個ノ始原體ヨリ發生ス。然レドモ時ニハ二個ノ始原體ガ發生ノ途上ニ於テ癒合シテ、一個ノ托葉ヲ生ズルコトアリ。此ノ如キ複性ノ托葉ハ一個ノ兩岐セル中肋ヲ有スルカ又ハ完全ナル二個ノ中肋ヲ有シ、托葉ノ先端ハ多少二裂ス。四、複性ノ托葉ハ莖ノ下部又ハ上部ニ出現スルコト多ケレドモ、時ニハ莖ノ中部ニ生ズルコトアリ。莖ノ下部ニアル場合ニハ通例葉器ノ員數ノ増加ノ一段階トナリ、上部ニアル時ハ減少ノ一階梯ヲナスモノト認ムルコトヲ得レドモ、其ノ何レトモ斷定シ難キコト往々アリ。五、やへむぐら族植物ノ甲析ニ於テハ通例第一節 (又ハ時ニ第三四節ニ至ルマデ) 四個ノ「葉」即チ二個ノ眞正葉ト二個ノ托葉ヲ生ズ。而シテ或種ニ於テハ莖ノ上部ニ至ルニ從ヒテ五個以上十二個ノ「葉」ヲ生ズルコトアリ。六、葉ノ數ノ増加ハ元來各節ニ二個アル托葉ガ二裂又ハ數裂シタル結果ニ外ナラズ。七、あかね科 (Rubiaceae) 植物ノ祖先ガ各節四個ノ托葉ヲ有シタリシハ疑フノ餘地ナシト雖モ、其ノ一族ナルやへむぐら族ノ直接祖先ニ於テハ各節四個ヅヽノ托葉ノ中相隣接セル二個ノモノガ癒合シテ、終ニハ各節只二個ノ托葉ヲ生ズルニ至レルモノヽ如シ。故ニ現今生存セル種類中、各節四個ノ「葉」ヲ有スルモノハ本族中原始的ノモノナリト見ルヲ得ベク各節ニ五個以上ノ「葉」即チ三個以上ノ托葉ヲ有スル種類ハ此ノ點ニ於テ高等ナルモノナリ。八、やへむぐら族ノ植物ノ托葉ハ元來披針形ナリシナルベク、從テ常ニ此ノ如キ托葉ヲ有スル Didymaea mexicana ハ原始型ニ近キモノニシテ、みやまむぐら(Galium paradoxum)ハやへむぐら屬中最原始的ノ種類ナリ。
著者
武田 久吉
出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.352, pp.85-96, 1916

一、やへむぐら族 (Stellalae 一名 Galieae) ニ屬スル植物ハ <i>Didymaea</i> ヲ除クノ外通常葉状ノ托葉ヲ有ス。<br>二、葉状托葉ハ種類ニヨリテ各節ニ二個以上十個ニ達シ、相對シテ生ズル二個ノ眞正葉ト共ニ、輪生状ニ配列ス。<br>三、托葉ハ其ノ數各節二個ナルトソレ以上ナルトヲ問ハズ、通例各一個ノ始原體ヨリ發生ス。然レドモ時ニハ二個ノ始原體ガ發生ノ途上ニ於テ癒合シテ、一個ノ托葉ヲ生ズルコトアリ。此ノ如キ複性ノ托葉ハ一個ノ兩岐セル中肋ヲ有スルカ又ハ完全ナル二個ノ中肋ヲ有シ、托葉ノ先端ハ多少二裂ス。<br>四、複性ノ托葉ハ莖ノ下部又ハ上部ニ出現スルコト多ケレドモ、時ニハ莖ノ中部ニ生ズルコトアリ。莖ノ下部ニアル場合ニハ通例葉器ノ員數ノ増加ノ一段階トナリ、上部ニアル時ハ減少ノ一階梯ヲナスモノト認ムルコトヲ得レドモ、其ノ何レトモ斷定シ難キコト往々アリ。<br>五、やへむぐら族植物ノ甲析ニ於テハ通例第一節 (又ハ時ニ第三四節ニ至ルマデ) 四個ノ「葉」即チ二個ノ眞正葉ト二個ノ托葉ヲ生ズ。而シテ或種ニ於テハ莖ノ上部ニ至ルニ從ヒテ五個以上十二個ノ「葉」ヲ生ズルコトアリ。<br>六、葉ノ數ノ増加ハ元來各節ニ二個アル托葉ガ二裂又ハ數裂シタル結果ニ外ナラズ。<br>七、あかね科 (Rubiaceae) 植物ノ祖先ガ各節四個ノ托葉ヲ有シタリシハ疑フノ餘地ナシト雖モ、其ノ一族ナルやへむぐら族ノ直接祖先ニ於テハ各節四個ヅヽノ托葉ノ中相隣接セル二個ノモノガ癒合シテ、終ニハ各節只二個ノ托葉ヲ生ズルニ至レルモノヽ如シ。故ニ現今生存セル種類中、各節四個ノ「葉」ヲ有スルモノハ本族中原始的ノモノナリト見ルヲ得ベク各節ニ五個以上ノ「葉」即チ三個以上ノ托葉ヲ有スル種類ハ此ノ點ニ於テ高等ナルモノナリ。<br>八、やへむぐら族ノ植物ノ托葉ハ元來披針形ナリシナルベク、從テ常ニ此ノ如キ托葉ヲ有スル <i>Didymaea mexicana</i> ハ原始型ニ近キモノニシテ、みやまむぐら(<i>Galium paradoxum</i>)ハやへむぐら屬中最原始的ノ種類ナリ。

1 0 0 0 OA 安筑史料叢書

著者
安筑史料叢書刊行会 編
出版者
高美書店
巻号頁・発行日
vol.第4輯, 1941
著者
齋藤 英文
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.35-37, 2015

Boeing787で本格的な実用化時代を迎えたMEAの将来について,MEAAPの研究会活動を通じて検討を重ねてきた.短時間使用のエンジンスタータを除けば,航空機装備システムの中で最大の電力消費者であるECSは,エネルギ消費に課題があると認識し,ECSが発揮すべき機能に基づいて,エネルギ消費改善の方法を検討している.ECSは,与圧・換気・温度調節という3つの機能が求められるが,構成するサブシステムがこれらの機能を最適に担う形態を追求すると,冷却時のエネルギ利用効率の大幅改善のために,ACSをVCSに置き換える技術獲得が重要であるとの結論に至った.ACSを代替するVCSとして,具体的に実現するための課題を明確にし,課題解決に向けた研究を進めている.併せて,電力量の増大に伴う電力制御機器の冷却は,ユーザでの保守作業改善のために液冷を廃することが望ましい.そこで,新たな冷却方法であるAACS方式を提案し,その検討を進めている.これらについて,解説する.
著者
浮ヶ谷 幸代
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.53-80, 2017-03-31

本稿では、まず日本の近代化のなかで「精神病」という病がいかに「医療化」されてきたのか、そして精神病者をいかに「病院収容化(施設化)」してきたか、その要因について明らかにする。諸外国の「脱施設化」に向かう取り組みに対して、日本の精神医療はいまだ精神科病院数(病床数)の圧倒的な多さと在院日数の顕著な長さを示している。世界的に特殊な状況下で日本の精神科病院数の減少が進まない要因について探る。精神医療の「脱施設化」が進まない中、北海道浦河赤十字病院(浦河日赤)では日本の精神医療の先陣を切って「地域で暮らすこと(脱施設化)」に成功した。浦河日赤の「脱施設化」のプロセスには二度の画期がある。第一は、精神科病棟のうち開放病棟が閉鎖となったプロセスであり、それを第一次減床化とする。第一次減床化のプロセスについて詳細に描き出し、減床化に成功した要因について明らかにする。第二は、精神科病棟全体の廃止に至ったプロセスであり、それを第二次減床化とする。そのプロセスに起こった政治的なできごとや浦河町が抱える問題をもとに、第二次減床化に進まざるを得なかった浦河日赤の置かれた状況について描き出す。この二度にわたる「脱施設化」のプロセスを描き出すために、エスノグラフィック・アプローチとして、医師や看護師、ソーシャルワーカーなどの病院関係者、社会福祉法人〈浦河べてるの家〉の職員、そして地域住民へのインタビュー調査を行った。精神科病棟廃止に対するさまざまな立場の人が示す異なる態度や見解について分析し、浦河日赤精神科の二回にわたる「脱施設化」のプロセスを描き出す。第二次減床化の病棟廃止と並行して、浦河ひがし町診療所という地域精神医療を展開するための新たな拠点が設立される。診療所が目指す今後の地域ケアの方向性を探る。そのうえで、診療所が目指す地域精神医療のあり方と海外の精神医療の方向性とを比較し、浦河町の地域精神医療の特徴と今後の課題について考察する。最後に、今後のアプローチとして、精神障がいをもちながら地域で暮らす当事者を支えるための地域精神医療を模索するために、「医療の生活化」という新たな視点を提示する。
著者
稲垣 忠 内垣戸 貴之 黒上 晴夫
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.103-111, 2006-09-20 (Released:2016-08-03)
参考文献数
22
被引用文献数
3

遠隔地の学校間で電子メール,電子掲示板,テレビ会議システムなどを用いて交流する学校間交流学習は,インターネットを用いた授業実践として広く取り組まれている.筆者らは,学校間交流学習における,学習者の活動プロセスと教師の学習環境設計に着目した授業設計モデルの開発を試みた.モデル開発の方法として,1)先行研究および構成主義の学習観に基づくモデル構築,2)実践経験者への調査によるモデルの精緻化,を行った.その結果,学習の活動プロセスを明確にする「枠組みモデル」と,設計の順序を示す「手順モデル」から構成した授業設計モデルを,学習論と実践経験者の知見を反映したものとして開発することができた.
著者
福島 智子
出版者
学校法人松商学園松本大学
雑誌
松本大学研究紀要 = The journal of Matsumoto University (ISSN:13480618)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.81-89, 2020-03

本稿では、社会学的視点から、家庭で毎日の献立を考える人びと(多くは女性)の選択に影響を与える「家庭料理」規範を分析する。諸外国における「家庭料理」研究を参照しながら、現代日本におけるジェンダー化されたフードワーク(献立の作成や食材の調達、調理など)のあり方を明らかにする。
著者
疋田 敏之
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.125-128, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

小児周期性症候群は国際頭痛分類第2版で片頭痛に分類されている. その中に周期性嘔吐症 (CV), 腹部片頭痛 (AM), 小児良性発作性めまい (BPV) が含まれる. いずれの疾患も診断の決め手となる検査はなく, 臨床経過と発作の特徴および器質的疾患の否定後に診断される. CVの頻度は白人で2%との報告があり, 国内の報告も多い. 海外の報告でAMはありふれた疾患とされ, AMの有病率は1~4%との報告がある. BPVは海外の報告によると学童での有病率は2.6%である. しかし, AMもBPVも国内での報告は少ない. もし, 概念が浸透していないために診断されていないのであれば, 適切に診療される例が増えることを願う.
著者
野本 尭希 小倉 圭 川村 卓
出版者
日本コーチング学会
雑誌
コーチング学研究 (ISSN:21851646)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.103-114, 2021-10-20 (Released:2021-12-28)
参考文献数
30

The purposes of this study were to gain knowledge to improve individual tactics through how players acquire practical wisdom by focusing on experience and reflection while providing narrative cases on practical wisdom of individual tactics of baseball batting. We conducted an interview with one college baseball player. After reviewing the case, we found the following contents.     1) By repeatedly conducting the process to collect failure cases from game experiences and then applying the lessons of failure to the next playing opportunity, the player will be able to update his playing image immediately during the game. Thus, it is required that the objective of learning is to promote the above-mentioned process by reflecting on failure experiences.     2) With the corrective intention of technical skills, a player becomes aware of needs for a series of processes to achieve a stable technical capability such as realization of change in skill, cause assessment, and selection for correction method. Thus, it is required that the objective of learning is to identify where the issue lies in the series of processes.     3) By aiming to play against and conquer pitchers with individual tactics as a player never experienced before, the player attempts to acquire new tactical variations and the necessary technical skills. Thus, for obtaining new variations of individual tactics, it is recommended that players need to gain more experiences to play against pitchers with individual tactics as never experienced before.
著者
高木正幸著
出版者
土曜美術社
巻号頁・発行日
1987
著者
村瀬 敬子
出版者
佛教大学社会学部
雑誌
社会学部論集 = Journal of the Faculty of Sociology (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
no.71, pp.47-66, 2020-09

本稿の目的は1950年代後半から60年代前半を代表する料理研究家であった江上トミを文化仲介者と位置づけ,家庭料理とジェンダーの結びつきという観点からその表象を分析した。特に階層文化のあり方に注目し,主婦自らが料理を作るべきだとする規範(「手づくり規範」と呼ぶ)の強さの背景にどのような理由があるのかを考察した。江上トミ(1899-1980)は初期のテレビの料理番組に出演し,多くの料理にかかわる本にかかわり,料理学校の経営も行っていた料理研究家である。その特徴あるアピアランス(外見やキャラクター)や良妻賢母と料理を結びつけた言説によって,「理想の母」というイメージを持ちながら,幅広い活動によって有名性を獲得していた。「理想の母」としての江上トミのイメージは二つの「知」によって支えられている。ひとつは料理研究家としての正統性を象徴する〈高級文化〉としての「世界の料理」であり,もうひとつは地方名家の母から娘への「伝承」である。江上トミにおける両者の結合は,「世界の料理」を女性が「手づくり」することが「階層の表現」ともなる文化を生み出した。こうしたことから,本稿では,家庭料理の「手づくり規範」の背後には「手づくり」を「愛情の表現」とするだけでなく,「階層の表現」ともする二重の意味づけがあることを指摘し,この二重性によって,主婦自らが料理を作ることに強い規範性があるのではないかと考察した。料理研究家江上トミ文化仲介者手づくり規範階層
著者
冨岡 佳奈絵 松本 絵美 岩本 佳恵 髙橋 秀子 長坂 慶子 魚住 惠 菅原 悦子 村元 美代 渡邉 美紀子 佐藤 佳織 阿部 真弓
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】岩手県の伝統的な家庭料理を次世代に継承することを目的に地域ごとに聞き書き調査を行った。その中から、行事食の特徴と地域による違いについて報告する。</p><p>【方法】調査は、岩手県を7地域(県北・県央・中部・北上高地南部・県南・沿岸・奥羽山系)に分け、平成24〜26年に実施した。対象は、地域に30年以上居住している61〜96歳の女性18人とし、昭和30〜40年代の食事と、この頃から伝わる家庭料理について聞いた。その調査結果から、行事食の特徴について比較検討した。</p><p>【結果】正月の雑煮は、しょうゆ仕立ての角もちが基本で、沿岸では「くるみ雑煮」、県南では「ひき菜の雑煮」、かつて沿岸北部では、雑煮ではなく「まめぶ」のところがあった。雑煮のほか、沿岸では「氷頭なます」、県北では「手打ちうどん」があった。桃の節句には、県央・北上高地南部では「ひなまんじゅう」「きりせんしょ」、中部では、くるみを散らした「ごまぶかし」があった。田植えの小昼(おやつ)に、北上高地南部では「小豆まんま」があった。県南では、農作業の節目ごとに餅を食べ、冠婚葬祭にも餅は欠かせず、婚礼の際は「餅本膳」があった。一方、県北では、冠婚葬祭に「手打ちそば」だった。盆には、沿岸・北上高地南部・奥羽山系では「てん(ところてん)」、さらに奥羽山系では「カスべの煮つけ」があった。御大師様の日には、県南では「果報団子」があった。年取りには、全域で「なめたがれいの煮つけ」がみられ、沿岸では「干し魚(はも)入りの煮しめ」、奥羽山系では、ぜんまいの一本煮や凍み大根、身欠きにしんの入った「煮しめ」があった。各行事において、その時季の地場産物や気候風土をいかした食材を調理し、地域・家庭で継承されていた。</p>
著者
木之下 道子 木下 朋美 大山 典子 山下 三香子 久留 ひろみ 進藤 智子 山﨑 歌織 新里 葉子 森中 房枝
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】鹿児島県は、奄美群島などの島しょ部を含み南北600kmに渡る。温帯から亜熱帯気候に属し自然豊かで食材の変化に富み、南方の国々等の影響を受けながら食文化が発達してきた。昔から続く鹿児島の行事食を次世代に伝え継ぐ目的で本調査を行った。</p><p>【方法】平成24〜26年に鹿児島の行事食について聞き書き調査した内容に加え、郷土誌やふるさとの食のレシピ集等を併せて資料とした。</p><p>【結果】餅が貴重だった時代、鹿児島の正月料理には里芋を用いる風習があった。正月飾りに里芋と餅を並べたり、子孫繁栄を願った「八つ頭の雑煮」に「かしわのうま煮」「煮豆」「刺身」「なます」「干し柿」など手作りの家庭の味を楽しんだ。年始客のもてなしには「焼き海老の雑煮」「春羹」「こがやき」なども加えられた。奄美群島ではおせち料理や雑煮に代わって、「餅の吸い物」「刺身」豚または鶏の吸い物からなる「三献」が大切にされる。七草粥は7歳の子供の成長を地域ぐるみで見守る行事としての意味合いがある。桃の節句に欠かせないちらしずしは「さつますもじ」と呼ばれ、祝菓子としての「軽羹」「高麗餅」「いこ餅」「小豆羹」「木目羹」などの蒸し菓子が作られてきた。端午の節句では、もち米を木灰汁につけ、竹の皮で包んで3時間以上煮た「あく巻き」が作られる。また、サンキライの葉で包む「かからん団子」肉桂の葉で包む「けせん団子」「ふっの餅」(よもぎ餅)などもある。盆料理は「かいのこ汁」や「といもがらのなます」「糸瓜のそうめん汁」「落花生豆腐」と「鼻つまん団子」などが特徴的だ。秋の収穫を祝う行事では「煮しめ」や「山芋のおとし揚げ」などもある。以上のように鹿児島に根付く独特の行事食が多く見受けられた。</p>
著者
辻 美智子 堀 光代 西脇 泰子 木村 孝子 長屋 郁子 坂野 信子 長野 宏子 山澤 和子 山根 沙季 横山 真智子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】岐阜県に伝承されている家庭料理の中で、おやつとして食べられている料理の特徴についてまとめることを目的とした。<br />【方法】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」のガイドラインに沿い、岐阜県の家庭料理について平成24年~27年に聞き書き調査を行った。調査対象地域を岐阜、西濃、中濃、東濃、飛騨の5圏域に分類した。対象者は調査地で30年以上居住し、家庭の食事作りに携わった43名である。聞き書き調査の結果からおやつに関する料理を抽出し、圏域別に特徴をまとめた。<br />【結果】岐阜圏域の「みょうがぼち」は、空豆餡を小麦粉生地で包み、茗荷の葉を巻き、蒸して作られ、初夏の食材を活かし田植えの合間に食されていた。西濃圏域の今尾地区の「竹寒天」は、竹神輿の材料である竹の中に寒天液を流し込んで作られ、左義長に出されていた。中濃圏域では初午の「まゆだんご」や端午の節句や田植え休みの「ぶんだこ餅」など、米や米粉に砂糖や小豆を加えたおやつを作り、ハレの日に食されていた。中濃・東濃圏域では、新米の収穫時期に「五平餅」が作られ、来客時にも供されていた。東濃圏域の「からすみ」は、米粉に好みの味(黒砂糖、抹茶、胡桃、紫蘇など)を加えて蒸したものであり、桃の節句には欠かせないものであった。また、秋には特産の利平栗を用いた「栗きんとん」や「栗蒸し羊羹」も親しまれていた。飛騨圏域の「甘々棒」はきな粉を主原料とした飴菓子であり、かつて寒冷地の農業普及に大豆の栽培が奨励され、大豆を美味しく食べる工夫がされていた。内陸県である岐阜県のおやつは、田畑や山などで収穫される季節の食材を活かし、小麦粉・米・米粉に砂糖、小豆などを用い、折々の喜びを食にも込めていた。