著者
森田 優子
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.336-339, 2017

<p>日本の医療は,治療の質は世界でもトップクラスだと言われて久しい.しかし,入院中の患者・家族のケアは欧米に比べ不十分だと言われている.小児がんや難病の子ども達と家族の精神的ケアを目的に,認定特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズでは,ハンドラーと呼ばれる臨床経験のある看護師と,ファシリティドッグのチームを病院に派遣している.</p><p>ファシリティドッグとは,特定の施設に常勤し,職員として勤務する犬のことである.癒しを目的とする触れ合い活動に留まらず,より治療に関わる仕事をしている.ファシリティドッグが介在することにより,採血の時に泣き叫ぶ子どもが落ち着いて実施することができたり,手術室まで同行すると落ち着いて入室することができる.</p><p>闘病中だからと我慢するのではなく,闘病中であっても,楽しいこと・笑顔になれることは重要である.</p><p>小児医療では,患者家族のケアも必要であるが,ファシリティドッグの存在により,不安やストレスを軽減することができると言う家族も多く,また,同じハンドラーとファシリティドッグが頻回に訪問してくるため信頼関係が築かれ,医療スタッフには言えない本音を出せる家族もいる.</p><p>多忙な業務の中で,ファシリティドッグに会うと気持ちが和らぐと言う医療スタッフも多く,ファシリティドッグは,子ども達と家族を笑顔にするだけでなく,医療スタッフを含め病院全体を笑顔にしている.</p>
著者
櫻井 三紀夫
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.27-32, 1991-02-25 (Released:2011-02-09)
参考文献数
2

地球規模で進行している砂漠化を抑制し, 砂漠の緑地化を促進するための大規模潅漑システムとして, 内陸砂漠地帯に人工海水湖を形成しその周辺に海水淡水化設備を設置して灌漑・緑地化を行う方式を提唱する。人工海水湖を形成する理由は, 海水淡水化して, 内陸に供給する方式に比べて次の点で有利だからである。(1) 淡水化設備や蒸留用熱エネルギーに投資する前に, 早期に低コストで内陸に水を送れる。(2) 内陸での自然蒸発により海水湖周辺の湿潤化, 雨量の増加が期待でき, 淡水化設備の建設よりも早いペースで淡水総量を増大できる。(3) 淡水化設備を利用価値の低い砂漠地帯に置くことにより, 海岸部の高価値地域の占拠面積を縮少できる。このような考え方に基づき砂漠灌漑システムの基本構想を検討し, 次の事項を明確化した。(1) 人工海水湖は盆地状岩盤地帯に形成すべきこと, (2) 海水湖形成過程での自然蒸発促進のため水路方式あるいは広域散水方式の採用が望ましいこと, (3) 500km2 (琵琶湖程度) の湖水域に年降雨量500mm相当の海水を供給し, 50km2の緑化地帯に年降雨量1000mm相当の淡水を供給するシステムの仕様を試算した結果, 構成単位システムとして実現性ありと判断された。
著者
松本 隆
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.e21-e25, 2021-07-15

盗まれた個人情報は多様な犯罪者コミュニティに拡散されていく.筆者はデジタル・フォレンジック調査の中で,サイバー犯罪者が攻撃にかけるコストに注目し,盗まれた個人情報を売買するダークマーケットの調査を行った.その結果,氏名/性別/住所/生年月日など4情報が羅列された名簿データではなく,Fullzと呼ばれるような,複数の情報ソースを組み合わせた,より深く「他人になりすます」ための情報により高い値が付く傾向にあることが分かった.また,具体的な悪用のしやすさや,悪用者の安全性に考慮された「商品」が,ダークマーケットにおいてはより評価され,価格に反映されていることが分かった.
著者
三浦 良造
出版者
日本評論社
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.p650-664, 1992-05

論文タイプ||論説
著者
大曲 薫
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.145-157,287, 1997-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
31

During the past decade, the U. S. Congress has considered many proposals for campaign finance reform. One of the most prominent issues raised by contemporary campaign practices is the contribution of political action committees (PACs) and the substantial reliance of federal election candidates on PACs as a source of funding. The Congress watchdog body, Common Cause, has accused of PACs for its undue influence over the electoral process and the public policy.This article summarizes the issues of campaign finance reform focusing on PACs and analyzes the former Common Cause's president Wertheimer's reform proposal. His proposal intends to curtail the influence of special-interest money, to create a competitive electoral process and to help restore the public confidence in the U. S. political system. We can characterize it as a neo-progressive grass-roots model. This grass-roots model disregards the explosion of groups and the new pluralism of the U. S. political system beginning 1970s, so can't see the positive role of PACs in the U. S. political system. The real reform proposal must take into account the positive role of PACs and its relation to the political party seriously. In the last section, this article summarizes the professor Sabato's another reform proposal characterized as a party-centered model and analyzes its merits and implications for the future of the U. S. campaign finance reform.
著者
宮武 勇登
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
応用数理 (ISSN:24321982)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.15-22, 2018-09-26 (Released:2018-12-26)
参考文献数
35

Continuous stage Runge-Kutta (CSRK) methods, which were introduced around 2010, are a framework of iterative numerical methods for solving ordinary differential equations. It turned out that some CSRK methods preserve some underlying geometric structures of differential equations, such as symplecticity or energy-preservation of Hamiltonian systems. This paper reviews CSRK methods and their recent developments with emphasis on their structure-preservation properties.
著者
杉山 佳生
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.3-11, 2008

本研究の目的は、スポーツの実践を主たる課題とする大学の体育授業において、学生のコミュニケーションスキルにどのような変化が見られるのかを検討し、その向上プロセスの解明に結びつく知見を得ることであった。調査対象者は、選択科目として開講されている大学の卓球の授業に参加し、調査の実施に同意した大学1、2年生67名である。これらの学生は、授業の序盤と終盤に、コミュニケーション基本スキル尺度(ENDE2)、感情コミュニケーションテスト(ACT)、及び対人的志向性尺度に回答した。また、ダブルスの試合を主として行った6回の授業において、試合終了時及び授業終了時に、コミュニケーションや満足感に関する自己評価を行った。得られた結果は、以下のとおりである。1)授業の前後において、感情表出スキル得点に有意な向上が認められたが、それ以外のスキルや志向性は、向上しなかった。変化を個別に見ると、4分の1から3分の1の学生が、10%程度以上のスキル得点の上昇を示していた。2)ダブルスの試合時におけるコミュニケーションについての自己評価は、解読、伝達のいずれの側面においても、授業後半で向上していた。3)授業時の自己評価の変化と授業前後のコミュニケーションスキル・対人的志向性の変化との間には、一貫した関係は認められなかった。以上の結果を踏まえて、考察では、体育の授業を通じて一般的なコミュニケーションスキルを向上させるためには、般化を意図した適切な介入が必要であると論じられた。また、「個」に焦点を当てた研究の必要性が指摘された。
著者
影山 摩子弥
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.37-45,75, 2003

資本主義は,理性主義のシステムである。つまり,資本主義は,科学・技術や思考といった理性の成果や機能に依拠しているだけではなく,理性の特性(対象化認識のツール,一般性・普遍性,ヒエラルキー,自律性)を形態的に体現している。それを明らかにして始めて,環境問題,ノーマライゼイションに基づく福祉,知識創造,NPO・ボランティア組織,ネットワーク組織が,新しいシステムを求めるものであることが明らかになる。
著者
柴田 葵
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.48-56, 2012-11-24 (Released:2018-04-04)

本稿では、「彫刻シンポジウム」(Bildhauersymposion/sculpture symposium)の初期(1959年から1970年まで)の歴史を記述し、シンポジウムの理念と担い手の変遷について論じることを目的とする。彫刻シンポジウムは、冷戦構造下のヨーロッパの政治状況を背景として、1959年ザンクト・マルガレーテン(オーストリア)の石切り場で誕生した芸術活動である。1956年のハンガリー動乱を背景に、58年に彫刻家カール・プラントルが制作したモニュメント「境界石」が、彫刻シンポジウムを生む直接の契機となった。プラントルは、新時代の彫刻のあり方として、「石切り場における芸術」を提唱し、さらには芸術家のエゴイズムを克服しうるユートピア的な共同体を、彫刻シンポジウムの中に見出す。彫刻シンポジウムは、次々と他地域に飛び火し、1960年代には国際的な芸術運動としての様相を呈するに至った。マルガレーテン、フォルマ・ビバ、リンダブルンなどの.主要な彫刻シンポジウムは、彫刻家同士の創造性を触発し、世界各地で新たなシンポジウムを生み出す孵化装置としての役割を果たした。それと同時に1960年代半ばから、彫刻シンポジウムにおける主体と目的に根本的な変容が見られ始めた。作家主導からパトロン(行政・企業など)主導へ、創作プロセスの重視から完成作品の恒久設置に力点が置かれるといった傾向が見られるようになる。シンポジウムの多様化にともなう理念の揺らぎ、シンポジウムそのものへの本質的懐疑など、60年代にはシンポジウムに対するあらゆる批判・議論が噴出することになった。彫刻家たちによる1970年の2つのプロジェクト-都市計画「ステファン広場」と環境造形「日本の溝」は、このような諸問題に対する作家からの応答としてなされたものであった。
著者
岡田 祥平 Okada Shohei オカダ ショウヘイ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-31, 2008-02

「標準語」は規範性を持った「唯一の正しい言語」であるという見方が、一般的、代表的なようである。そのような認識の背景には、「標準」という語に(強い)「規範性」の色彩が付随するうえに、殊日本においては、1945年以前の「標準語」強制教育の記憶も存在していると考えられる。しかし、近年になり、スタイルを軸にして「標準語」をとらえる立場の真田信治によって、「標準語」を「唯一の正しい言語」と見なすのではなく、「標準語」にも多様性が存在することを認める主張が提示されるようになった。ただ、先行研究ではほとんど取り上げられていないが、真田以前にも「標準語」の多様性を認める言説が発表されている。そこで本稿では、先行研究では看過される傾向にある真田以前の「標準語」の多様性を認める言説の中から、特に1940年前後に発表されたものを、彼らの「標準語」の定義とともに紹介する。本稿で取り上げる言説の筆者は、熊滞龍、崎山正毅、白石大二、服部四部の4人である。