著者
清水 隆 羽田 真悟 真方 文絵
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.Supple, pp.215-220, 2016-03-31 (Released:2016-10-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

子宮への細菌感染によって発症する子宮炎や子宮内膜炎などの炎症性子宮疾患に罹患した乳牛では,卵巣機能が低下することが知られているが,そのメカニズムについては不明な点が多い.感染細菌由来の内毒素であるリポポリサッカライド(LPS)は,生体内の生理現象に対して悪影響を及ぼすが,卵巣機能に対するLPSの作用に関する知見は少ない.本稿では,子宮炎牛の血中LPS濃度が分娩後に高値に推移していること,子宮炎牛における同一の卵巣内卵胞でもLPS濃度が異なること,高濃度のLPS濃度を保有している卵胞ではステロイドホルモン産生が減少していることなどについて概説する.
著者
平井 晃一 佐々木 章史 近藤 武 秋山 知宏 金内 昭憲 天田 望 斉藤 祐二 中野 清治 高瀬 真一
出版者
一般社団法人 日本体外循環技術医学会
雑誌
体外循環技術 (ISSN:09122664)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.149-154, 2013 (Released:2013-07-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1

開心術体外循環中に生じた高カリウム血症(K=5.5mmol/L以上)を補正する手段として、体外循環中でも簡便に施行できる落差灌流式血液透析濾過法を考案した。体外循環中に高カリウム血症を呈し本法を施行した連続11症例(男:女=2:9、平均年齢63.6&pm;12.9歳)を対象とした。本法では輸血セット(内径3.0mm)を用い、血液濾過用補充液(サブラッド®BSG)を落差により血液と向流になるように血液濃縮器(MAQUET BC140plus®)ホローファイバー外側を灌流させた。総落差は150cm、血液流量は400mL/minとした。体外循環中の心筋保護液注入によるカリウム負荷量は69.0&pm;33.1mmolで、照射赤血球濃厚液輸血量は5.5&pm;3.6単位であった。血中カリウム濃度の最高値は6.41&pm;0.76mmol/Lであったが、本法の施行により体外循環離脱までに4.82&pm;0.22mmol/Lと有意に(p<0.0001)低下した。また体外循環開始直後と離脱直前ではナトリウム、カリウム、水素イオン濃度指数、重炭酸イオン濃度に有意差を認めなかった。本法は体外循環中に生じた高カリウム血症の補正に有用であった。
著者
西川 和孝 川本 実穂 田中 章江
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.339-345, 2014 (Released:2015-01-01)
参考文献数
29

The oxalic acid content of spinach has become a major human health concern due to its toxicity. We investigated in this study the residual oxalic acid content in spinach and the free oxalic acid content in the cooking solution. The water temperature and duration of boiling were important factors for the residual oxalic acid content of spinach, while the water volume and salt concentration had no influence. However, the content of free oxalic acid in the cooking solution was influenced by the water volume, salt concentration, water temperature, and duration of boiling. In particular, the oxalic acid content in the cooking solution decreased with increasing salt concentration. Cooking spinach by boiling was demonstrated, and a follow-up questionnaire survey of junior high school students was conducted. The results of the questionnaire survey clarified that there was insufficient understanding of the preparation of vegetables by boiling as studied at the elementary school level. However, most students understood how to boil spinach after the teaching demonstration, and the results of a cluster analysis showed that the students' interest as well as knowledge about spinach had increased
著者
宇田津 徹朗 木下 尚子 藤原 宏志
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1.琉球列島における稲作の始まりと伝播ルートの存否について琉球列島に所在する34の遺跡について調査分析を実施し、琉球列島におけるグスク時代と貝塚時代後期における稲作の存在について検討を行った。その結果、グスク時代の遺跡については、稲作の存在を分析的に確認することができたが、貝塚時代後期については、稲作の存在を示すデータは得られなかった。特に、グスク時代には琉球列島全域で稲作が営まれていたことを示すデータが得られている。また、プラント・オパール形状解析の結果、栽培されていたイネはジャポニカであることも明らかとなっている。以上の結果から、貝塚時代における稲作および南方ルート成立の可能性は低く、列島に稲作が定着したのは、グスク時代であると考えられる。なお、この結果は、現在までの考古学的な調査所見とも矛盾のないものとなっている。2.北部九州における縄文後期、晩期における稲作の存在とその広がりについて南方ルートを除く2つの伝播ルートの可能性を検討するために、これらの共通の窓口である北部九州における縄文後晩期の稲作の存在とひろがりについて調査を行った。具体的には、北部九州に所在する13の遺跡の土器や土壌についてプラント・オパール分析を実施し、検討を行った。その結果、7つの遺跡で、縄文後期あるいは晩期の試料からイネプラント・オパールが検出され、北部九州における縄文後晩期の稲作の存在とその広がりについて確認をすることができた。今回の結果は、北部九州を窓口とする伝播ルートの可能性を支持するものであり、今後、さらに調査事例を増すことにより、検証を進める必要がある。
著者
バーミンガム ジョージ・A 八幡 雅彦
出版者
別府大学短期大学部
雑誌
別府大学短期大学部紀要 = Bulletin of Beppu University Junior College (ISSN:02864991)
巻号頁・発行日
no.36, pp.123-130, 2017-02

近年、第一次世界大戦とアイルランドの係りに関する研究が盛んで、この戦争を描いたアイルランド文学作品が見直されつつある。北アイルランド出身の小説家ジョージ・A・バーミンガム(George A. Birmingham,1865-1950、本名ジェイムズ・オウエン・ハネイJames Owen Hannay)は、第一次世界大戦で従軍司祭として志願し、フランスで戦うイギリス陸軍に随行した。その時の体験は回想録『フランスの従軍司祭』(A Padre in France ,1918)にまとめられている。また第一次大戦とアイルランド独立戦争を題材とした短篇小説集『我々の犠牲者』(Our Casualty and Other Stories ,1919)を出版した。両作品とも兵士たちの人間性、死と向き合う心理を映し出した知られざる戦争文学の名作であると言えよう。短編小説「意中の娘」("His Girl")は『我々の犠牲者』に収められた1篇で、第一次世界大戦を題材としたユーモア、悲哀、人間性に富んだ作品である。バーミンガムの本質を示す作品として、また後世に伝えられるべき名作としてここに翻訳紹介する。
著者
西村 誠次
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

【目的】末梢神経損傷を伴う外傷手で,示指各関節の屈曲あるいは伸展による各関節トルク値を算出し,示指屈曲・伸展運動における手内筋の関与を検討した.【対象】末梢神経損傷を伴う外傷手4例8手(年齢23.8±4.8歳)の示指を対象に健側手と対照させた.症例1と2は手内筋の回復が見られない手内筋マイナス群で,症例3と4は回復が見られる手内筋プラス群とした.【方法】4枚の歪みゲージ(日本電気三栄社製,N11-FA-10-120-11)を用いた自作の指押し力測定器具で指押し力を測定し,各々の関節からの距離との積によって各関節トルク値を算出した.各々測定は3回おこない最大値を記録した.【結果と考察】屈曲トルク値は,手内筋マイナス群ではDIPで最も大きく,PIPとMPはDIPの約1/3であった.PIPのトルク値が減少したのは,虫様筋の麻痺により深指屈筋の収縮力が有効に作用しなかったためと考えられたが,その機序は解明できなかった.またMPトルク値の減少はMPの屈筋群である第1背側骨間筋の麻痺によるものとも考えられる.伸展トルク値は,健側では,MP(IP伸展位),MP(IP屈曲位),PIP,DIPの順で大きく,患側では,MP(IP屈曲位),MP(IP伸展位),PIP,DIPの順であり,健側ではMPのIP伸展位が,患側ではMPのIP屈曲位が最も大きい値を示した.MP伸展力は指伸筋で作られるが,健側のIP伸展位では虫様筋が収縮しFDP腱を遠位方向に引き,FDPによる拮抗作用を減少させることでIP伸展位が大きい値を示したと考える.一方,患側では虫様筋が収縮しないため,PIP関節の肢位によってFDPによる拮抗作用は減少せず,IPI屈曲位で指伸筋は他動的に伸張され,その分収縮力が有効にMPに作用し大きい値で測定されたと考える.すなわち,手内筋の麻痺によってPIP,MP関節の屈曲力と伸展力はともに減少することが示唆された.
著者
赤枝 尚樹
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.69-85,186, 2012-02-29 (Released:2015-05-13)
参考文献数
34

The purpose of this study is to explore the complex generation processes of unconventionality. Unconventionality is defined as the urban way of life by C. S.Fischer, who advocated the subcultural theory of urbanism. This theory insists that unconventionality is generated by the subcultural variety of an urban place. However, since some scholars say that unconventionality is generated by the community liberation process, as advocated by B. Wellman, opinion varies as to the generation mechanism of unconventionality. What causes this disagreement? We believe that this disagreement has arisen from the breadth of scope of unconventionality, so we here propose that unconventionality displays two main facets. One is ‘orientation to variety’, defined as an attitude of toleration towards various lifestyles, while the other is ‘orientation to change’, defined as an attitude preferring change to preservation of the status quo. In this paper, we investigate separately the determinants of the two facets of unconventionality, using the data of the Japanese General Social Survey (JGSS) 2003, which have been linked with aggregate-level data. Using a multilevel structural equation model, we examine the subcultural theory of urbanism and the community liberated perspective. From analysis of the multilevel model, we found two results. First, ‘orientation to variety’ is generated by the mechanism of the subcultural theory of urbanism. Second, ‘orientation to change’ is generated by the mechanism of the community liberated perspective. The results from this study indicate that the subcultural theory of urbanism is not the only one to explain unconventionality; unconventionality is generated by complex processes which contain the mechanism of the subcultural theory of urbanism and also the mechanism of the community liberated perspective. Moreover, they suggest that both the subcultural theory of urbanism and the community liberated perspective are supported in Japan.
著者
石生 義人
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.72-87, 2012

本論文では,2004年大統領選挙時点におけるイラク戦争支持の決定要因をサーベイデータを使って分析した。その結果,アメリカ人のイラク戦争支持に影響を与えていた社会・心理的特徴は,帰属政党,信仰宗教・宗派,愛国心,最終学歴であることがわかった。 帰属政党に関しては,共和党帰属者が最もイラク戦争支持傾向が強く,民主党帰属者が最も弱かった。信仰宗教・宗派に関しては,キリスト教バプテスト派が最も支持傾向が強く,ルター派・メソジスト派の支持が特に弱かった。愛国心はイラク戦争支持に正の影響を与えていた。最終学歴に関しては,大学院等の教育を受けている人の支持傾向が弱く,短大卒以下の最終学歴を持つ人の支持傾向が強かった。これら四つの要因が,イラク戦争の正当性を批判的に評価することを促進または抑制し,その結果として戦争支持態度が影響を受けたと考えられる。
出版者
日野市
巻号頁・発行日
2009
著者
稲葉 敦 島谷 哲 田畑 総一 河村 真一 渋谷 尚 岩瀬 嘉男 加藤 和彦 角本 輝充 小島 紀徳 山田 興一 小宮山 宏
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.809-817, 1993-09-10 (Released:2009-11-12)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5

太陽光発電の大規模導入を前提として, 多結晶シリコンとアモルファスシリコンの太陽光発電システムのエネルギー収支を検討した.本試算には, 開発中の技術の導入, 太陽電池セル製造プロセスの効率向上が仮定されている.系統連系することを仮定し, 蓄電設備を持たない集中配置型の発電所を建設する場合のエネルギーペイバックタイムは, 年間10MWの生産規模で, 多結晶では5.7年, アモルファスでは6.3年となった.100GWの場合は, さらに技術開発が進行すること, およびスケールアップ効果により, 多結晶で3.3年, アモルファスで3.0年となる.集中配置による太陽光発電システムでは, 発電所を建設するためのエネルギー投入量が大きく, 生産規模に応じた発電システムを構築することが重要である.
著者
森賀 一惠
出版者
富山大学人文学部
雑誌
富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.117-144, 2020-08-20
著者
宮澤 大志 白井 英彬 五味 恭佑 江戸 優裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】ウィンドラス機構は足部の剛性と柔軟性を制御する上で重要であるが,臨床での定量評価は難しく,簡便な方法が示されてはいない。そこで,本研究ではウィンドラス機構の働きを,臨床で評価可能な中足趾節関節(以下,MP関節)の伸展に対する内側縦アーチの挙上率で定義した。その上で,他の理学所見や歩幅との関係からウィンドラス機構が破綻した症例に対する介入の糸口を見出すことを目的とした。【方法】対象は,健常成人25名(男性12名・女性13名:年齢24.5±2.1歳・身長164.0±9.1cm・体重55.0±10.0kg)とし,ウィンドラス機構の定量評価と,歩幅・下肢の関節可動域(以下,ROM)および筋力の計測を行った。ウィンドラス機構の評価は,全足趾のMP関節の伸展0度に対する他動的な伸展20度条件における舟状骨高の変化率と定義した(以下,ウィンドラス比率)。計測肢位は端座位とし,大腿遠位部に体重の10%の荷重をかけた。歩幅の計測は目盛をつけた歩行路上の歩行をビデオカメラにて矢状面から撮影して判定した。ROMおよび筋力は,股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈をランダムな順に計測した。筋力は徒手筋力計ミュータスF-1(アニマ社製)を使用し,アニマ社が規定する方法に準拠して計測した。また,筋力は3回計測,歩幅は4回計測した平均値を採用し,各々体重比(%BW)と身長比(%BH)を算出した。統計学的分析は,各項目間の関係をPearsonの相関係数を用いて,危険率5%(p<0.05)で検討した。【結果】ウィンドラス比率の平均は,108.9±4.9であった。ウィンドラス比率とその他の項目の関係は,反対側の歩幅(r=0.44)・足関節背屈ROM(r=0.46)・足関節底屈筋力(r=0.44)に有意な相関を認めた。足関節背屈ROMと足関節底屈筋力(r=0.45)および反対側の歩幅(r=0.38),足関節底屈筋力と反対側の歩幅(r=0.45)にも有意な相関を認めた。【結論】本研究で定義したウィンドラス比率は,MP関節の伸展によるアーチ拳上の大きさを表す。したがって,ウィンドラス比率が高ければ足部の剛性を効率的に高めることができるため,足関節底屈筋による足関節底屈トルクを効率的に前足部へ伝達できると考える。歩行中,このような強力なテコとしての役割が足部に求められるのはTerminal Stance(以下,TSt)である。TStは下腿前傾に伴って足関節背屈を強めるとともに前足部に荷重が移行し,反対側の下肢を振り出す時期である。このようなTStの要求に合わせて,ウィンドラス比率と足関節背屈ROMおよび底屈筋力,反対側の歩幅に相関を認めたと考える。臨床上,MP関節を伸展してもアーチが挙上しないウィンドラス機構が破綻した症例に遭遇する。足部内在筋強化や足底板などによりウィンドラス機構の改善を図るとともに,足関節底屈筋や背屈ROMの拡大により,安定したTStの構築に繋がると考える。
著者
織田 成人 平澤 博之 北村 伸哉 上野 幸廣 島崎 淳也 中西 加寿也 福家 伸夫 伊藤 史生
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.219-228, 2007-06-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

目的 : 千葉県の救急・集中治療施設における急性肺傷害 (acute lung injury; ALI) /急性呼吸急迫症候群 (acute respiratory distress syndrome; ARDS) の発症率, 治療, 転帰等について調査し, population-basedのALI/ARDS発症率を推計する。研究デザイン : 多施設共同前向きコホート研究。セッティング : 千葉県内の3次救急医療施設および大学附属病院を中心とする12施設のICU。方法 : 2004年10月1日~12月31日までの3ヵ月間の全ICU入室患者を対象に, SIRS (systemic inflammatory response syndrome), ALI/ARDSをスクリーニングした。ALI/ARDSの診断基準は, 1994年のAmerican-European Consensus Conferenceの定義を用いた。調査票を用いてALI/ARDS患者の背景病態, 原因, 重症度, 合併臓器障害, P/F比, 人工呼吸器装着の有無, 各種治療, ICU在室期間, ICU退室時および28日後の転帰等を調査し検討した。結果 : 調査期間内に1,632例が登録され, このうちSIRS症例は770例 (47.2%), ALI/ARDS症例は79例, 発症率は全症例の4.8%, SIRS患者の10.3%であった。ALI/ARDS症例の平均年齢は64.0±17.1歳, P/F比は平均150.7±70.6で, P/F比300-201の症例が19例 (24.1%), 200以下のARDS症例は60例 (75.9%) であった。入室時APACHE IIスコアは24.7±8.9, SOFAスコアは8.8±4.3, 肺以外の臓器障害数は2.2±1.4臓器であった。ALI/ARDS79例中71例が人工呼吸管理を要し, これら症例のventilator free days (VFD) は平均12.1±10.6日であった。ALI/ARDS症例の平均ICU滞在日数は18.8±9.6日, 28日生存率は68.4%であった。結論 : これらのデータから推計すると, 千葉県におけるALI/ARDSの発症率は人口10万人当たり年間6.1人であった。
著者
戀川好町 戯作
出版者
[和泉屋市兵衛]
巻号頁・発行日
1793

恋川好町(鹿都部真顔)作、歌川豊国画の黄表紙。江戸・和泉屋市兵衛刊。中本3冊。恋川好町は真顔の戯作者名。自序に「みつのとうしの初春 すきや座鋪のあるし真顔題」とあるので、寛政5年(1793)の発刊と知られる。近藤清春作・画の『どうけ百人一首』の黄表紙化。「でんぢでんぞう」(天智天皇のもじり)という百姓を登場させ、娘のおしかと親子3人で正直一遍に世を送り、幸せになるという大筋に、「秋の田のかりほすまでにひよりよく我子供らをらくにすごさん」以下、『どうけ百人一首』の歌詞を作者名とともに適宜、絡める。女性に対する教訓色が強いのは、寛政の改革後の黄表紙の通性といえる。外題に冠称された大谷徳次は、江戸また上方で活躍した歌舞伎役者で、道化方を得意とした。(鈴木淳)(2017.2)