著者
河野 荘子
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成14年度は、非行少年の自己統制能力に関して、非行進度と家庭環境との関連性から検討し、学会で口頭発表をおこなった。本研究では、非行少年(少年鑑別所に入所中の男子少年、平均年齢16.4歳)の自己統制能力と、非行進度(過去の施設入所歴の有無・少年鑑別所への入所回数・非行の初発年齢の3つの下位分類からなる)、家庭環境(実父の有無・実母の有無の2つの下位分類からなる)の関連性を検討するため、共分散構造分析をおこなった。その結果、実父母と何らかの要因によって、生別もしくは死別し、家庭環境が不安定な状態になると、自己統制能力が低くなることが示された。家庭環境が不安定になると、しつけがおろそかになってしまいがちとなり、自己統制能力の低さに結びつくと解釈できた。しかし、自己統制能力の低さと非行進度との関係性は、意味のある結果を見出すことができなかった。こうなった要因の1つとして、少年鑑別所入所者は、受刑者よりも比較的犯罪傾向が進んでいないため、施設入所歴や少年鑑別所入所回数といった客観的指標のみでは非行進度が明確になりにくい可能性が考えられた。非行行動に関わる機会が多いなどの環境の問題も考慮に入れる必要があるかもしれない。上記の結果を、犯罪者の自己統制能力の構造と比較すると、どちらも、実父母の有無は、自己統制能力の形成に大きく影響を及ぼすことが指摘できた。ただ、犯罪者は実父の有無の影響をより大きく受けていることが示されていたが、非行少年に両親の間で影響の差は見られなかった。非行少年から犯罪者へと、反社会的傾向を強める者は、実父との関係に何らかのより大きな問題を抱えていることが推測された。
著者
小笠原 正幸
出版者
宇都宮大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

リンゴでは,伐採跡地に植えた苗木の生育は劣り,樹冠の拡大が悪いため思うように園地を充実できないことが多い.本研究では,改植障害を回避し樹勢をコンパクトに生育させ,省力的で高品質な果実生産のできる新たな栽培技術の可能性を検討した.供試品種は'ふじ'とし,伐根後定植5年目の地植区,伐根後植穴に遮根シートを埋設した定植5年目の遮根区,伐採後伐根はせず株間の中間に植穴を掘り,そこに不織布ポットを埋設した定植4年目の不織布区を設けた.調査方法は,生育特性,生育中の果実品質,収穫果の果実品質,収量,剪定時間および剪定枝重を調査した.生育特性についてみると満開時期は遮根区・不織布区で4月22日,地植区で4月24日,収穫時期は遮根区・不織布区とも満開後202日目,地植区においては満開後204日目であった.生育中の果実についてみると,果色は遮根区が優れた.収穫果実についてみると,硬度は遮根区で14.4ポンドと高かった.糖度は全処理区において15.3%前後,酸度においては,遮根区で0.227%と低かった.収量,剪定時間および剪定枝重についてみると,総収量は地植区で37.3kg,遮根区で22.9kgおよび不織布区では19.4kgとなったが,上物率からみると地植区で94%,不織布区で71%および遮根区50%と地植区が優れた.剪定枝生体重は不織布区で2,767gと多く,遮根区では140gと少なかった.剪定時間は地植区で19分24秒,遮根区で13分37秒と短くなった.以上の結果から地植区と比較すると,遮根区は遮根により根の伸長が抑制され,新梢長の早期停止による葉数の減少と葉面積の減少が着色を向上させたと思われる.不織布区はポットの側面は根が貫通する不織布のためか,地植区と同等の果実品質を示しており,樹勢の衰弱もなかった.以上のことから,根域の違いの影響は地上部の生育に顕著に現れたためであり,今後更なる検討を行い,本農場リンゴ園における改植更新からの早期成園化の適切な技術を明らかにして行く予定である.
著者
近藤 満
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

金属錯体ユニットの水素結合による連結や一次元型配位高分子の集積を利用したチューブ状チャンネルを構築した。これらの金属錯体を用いて、メタノールの除去と接触に応答したチャンネル骨格の崩壊と再構築、メタノールの添加を契機としたより大きなゲスト分子の捕捉に成功した。一方、一次元型配位高分子を用いて、温度に応答してチャンネル構造を可逆的に変化させる相転移挙動を発現させることに成功した。
著者
日下部 元彦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

宇宙背景放射の観測から推測されるバリオン密度に対して標準ビッグバン元素合成理論が予言する^7Liの存在度が、昔できた星で観測される存在度と一致しない問題がある。この問題の原因として、強い相互作用をするエキゾチックな重い長寿命粒子の効果が可能性として考えられる。宇宙初期に色を持つエキゾチックな重い長寿命粒子(Y)が存在すると、色の閉じ込めにより、強い相互作用をするエキゾチックな重い粒子(X)に閉じ込められると考えられる。Xの組成は、宇宙初期のクオーク・ハドロン相転移後に、2つのX粒子の衝突に付随する対消滅で減少する。X粒子は通常の原子核と束縛状態を形成し宇宙の軽元素組成に影響を与え得るのだが、その影響は宇宙で元素合成が起こる時期のXの存在度に依存する。今年度は、強い相互作用をするX粒子に閉じ込められる、色を持つY粒子の共鳴散乱を通した対消滅を研究し、Xの存在度について知見を得た。宇宙での2つのXの衝突の際に、YとY(Yの反粒子)で構成される共鳴状態を経由してY粒子の対消滅が起こると仮定し、Yの初期組成、質量、Xのエネルギー準位、YY共鳴状態の崩壊幅をパラメターとした時の対消滅率をモデル化してXの最終組成を計算した。採用した設定での結果として、X粒子の存在度は従来の見積よりも著しく大きくなる場合がある一方で、有意に小さくなる場合はなかった。最終組成の計算結果は、^7Liの組成が減少したり、^9BeやBの組成が増大したりするのに必要な量の見積値に達している。Xの最終組成は、相転移の状況に依存する可能性がある。粒子が軽元素組成に与えた影響が観測的に確かめられれば、相転移に関する情報を軽元素の始原組成から引き出せる可能性がある。将来、このように相転移の痕跡を調べられる可能性を指摘した。
著者
鈴木 利一
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

春季から夏季にかけて、東シナ海の広い範囲(特に北東域を中心に)で、群体形成藍藻であるトリコデスミウムを採集し、その表層分布の特性と付着生物(トリコデスミウムを特異的に摂餌するカイアシ類Macrosetella gracilis幼生に注目)との量的関係を調査した。細胞糸が複雑に絡み合う群体を形成するこの藻類は、体容積を測定することが困難である為、細胞内に存在するクロロフィルa量でその生物量を指標した。また、この藻類のクロロフィルaと、他の植物プランクトンが含有するクロロフィルaとを確実に区別する為に、20μm目合いのプランクトンネットにより採取されたサンプルの中から、トリコデスミウム細胞糸のみを直ちに実体顕微鏡下で分離し、ジメチルホルムアミド溶媒で抽出した後に、蛍光光度計で測定した。この研究を通してわかったことは、以下のとおりである。(I)塩分が増加すると、トリコデスミウム現存量の最大値が指数関数的に増加した。(II)海水温が増加すると、トリコデスミウム現存量は指数関数的に増加した。(III)植物プランクトン現存量に対して、トリコデスミウム現存量が占める割合はクロロフィル濃度にして0.05〜17%になった。(IV)細胞分裂途中の割合で指標した相対的な細胞増殖速度は、現存量の大小とあまり関係がなかった。(V)Macrosetella gracilisの成体の現存量と、トリコデスミウム現存量との間には量的な関係が見られなかった。(VI)Macrosetella gracilisの幼生の現存量と、トリコデスミウム現存量との間には正の関係が見られた。(VII)ネット動物プランクトンの乾燥重量とは負の関係がみられた。これからの課題としては、付着生物群のなかで、微細なものに焦点を絞り、その相互関係を中心に研究を進めていくことが急務であると推察された。
著者
亀岡 智美 中山 登志子 舟島 なをみ
出版者
独立行政法人国立国際医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、チーム医療の要である看護師が専門性発揮状況の自己評価に活用できる尺度の開発をめざす第一段階として、他職種と協働・連携する中、看護の専門家の立場から意識的に展開している実践を解明した。全国45病院の看護師902名を対象に質問紙調査を行い、収集したデータを質的帰納的に分析した。結果は、看護師が、看護の専門家の立場から意識的に展開している実践35種類を明らかにした。それは、〈患者の個別状況を考慮しながら健康上、生活上の問題解決を支援する〉、〈患者や家族の心情、苦痛や本音を聞き出し、必要な人物に代弁して伝える〉等である。このような本研究の成果は、最終目的とする尺度開発の基盤となる。
著者
安部 治彦 河野 律子 竹内 正明 近藤 承一
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、反射性失神を中心に失神の原因と頻度、就労に関すること、長距離バス運転手の失神状況を分析し、更には失神の治療としての薬物治療と非薬物治療の効果、及び原因疾患の鑑別診断に関する植込み型心電計(ILR)の有用性を調べ、欧州での成績と比較検討した。就労中の失神が原因で辞職する患者は少なくないことが判明した。長距離バス運転手の事故の多くは運転中に失神発作を来していることが原因であることは判明した。ストレスが原因と考えられた。反射性失神の治療として起立調節訓練法は極めて有効性の高い治療法であり、患者自身は自宅で行うことができるため非常に有用な治療法であることが判明した。植込み型心電計は、原因不明の失神患者の鑑別診断に高い有効性を示し、その成績は欧州に比し本邦ではより高い原因疾患の診断率があった。今後本邦での多施設前向き研究が望まれる。
著者
上 真一 井関 和夫 柳 哲雄 大津 浩三 井口 直樹 上 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

2002年以降ほぼ毎年のようにエチゼンクラゲが大量出現し、エチゼンクラゲ大発生は東アジア縁海域全体の環境問題となっている。また、沿岸域ではミズクラゲの大量出現が相変わらず継続しており、クラゲ発生の機構解明と制御方法の開発は重要な課題となっている。本研究ではクラゲ類の大量出現に関し以下の成果を得た。(1) 黄海、東シナ海のエチゼンクラゲの目視調査下関-青島、上海-大阪間の国際フェリーを利用した調査から、本種は6月中旬から中国沿岸域で出現し始め、7月下旬に対馬近海に到達することが明白となった。本フェリー調査は、本邦沿岸域の大量出現を早期予測するために不可欠の項目となった。(2) エチゼンクラゲ生活史の解明本種のポリプからクラゲに至る飼育に成功し、生活史の解明を行った。本種の無性生殖速度は、ミズクラゲに比較すると1-2オーダーも低かったが、ポドシストは水温5-31℃、塩分5-33の範囲で生残し、さらに有機物に富んだ泥中でも生残可能であったことから、高い環境耐性を有することが確かめられた。ポドシストの一斉出芽が大量発生を引き起す要因となる可能姓が指摘された。(3) ミズクラゲポリプの貧酸素耐性と天敵生物による捕食ミズクラゲのポリプは貧酸素条件下(>3 mg O_2L^<-1>)でも無性生殖能力があった。エビスガイ、クモガニは特異的にポリプを捕食する天敵生物であることが明らかとなったが、これらは貧酸素条件下では生残は不可能であった。富栄養化などに伴う海底の貧酸素化がミズクラゲの大量発生をもたらす一因となることが明らかとなった。また、温暖化もクラゲの増加をもたらすと推定された。
著者
堀澤 健一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、タンパク質の試験管内スクリーニング技術であるin vitro virus (IVV)法を応用し、アルギニンメチル化酵素群の標的となる基質タンパク質を、試験管内で網羅的に解析する系の構築を目指した。代表的なアルギニンメチル化酵素であるPRMT1の基質タンパク質の試験管内スクリーニングのモデル系を構築し、種々の検討を行った。その結果、夾雑タンパク質存在下において既知基質タンパク質が1度のプルダウン操作により約11倍濃縮されることを確認でき、PRMTs基質タンパク質の試験管内探索のモデル系を確立することができた。
著者
安村 典子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ヘレニズム文学の至宝、カリマコスの諸作品を研究し、(1)カリマコス詩歌の文学的意義を考察すること、(2)カリマコスを中心とするヘレニズム文学の特質について考察すること、(3)カリマコス並びにヘレニズム文学が後代に与えた意義を究明すること、主としてこの三点に焦点をあてて考察した。カリマコスの作品は、神々への『讃歌集』6編と『起源物語』、それに風刺詩の断片が残るのみである。いずれの作品もいまだ日本語に翻訳されておらず、その研究もほとんど行われてこなかった。本研究では、これらの作品を初めて日本語に翻訳し、それらが緻密で文学技巧を駆使した薫り高い文学であることを研究した。これにより、古典文学に関心を抱く人々にカリマコス文学の全容を提示するものである。
著者
佐々木 貴教
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では、地球型惑星の大気および表層環境について、その形成と初期進化を理論的手法によって議論する。初年度に初期金星大気の進化についての結果が得られたので、前年度からはより一般的な地球型惑星に着目して研究を進めた。近年発見が相次いでいる太陽系外の地球型惑星、および巨大な地球型惑星(スーパー地球)について、その系の特徴が木星・土星の衛星系の特徴と類似している点に注目し、巨大ガス惑星周りの衛星形成についての研究を行った。具体的には、惑星形成モデルを衛星形成に適応することにより、木星・土星の衛星系(ガリレオ衛星・タイタン)の形成過程を計算した。計算の結果、衛星形成環境の違いから、木星・土星の衛星系の特徴の違いが自然に説明されることが明らかになった。また近年注目されている原始惑星系円盤内での氷境界の移動について、その表式を惑星形成モデルに組み込み、様々なパラメータの下で形成される地球型惑星の特徴について見積もった。その結果、氷境界の移動を考慮すると極めて水に富んだ地球型惑星しか作ることができないことが示唆された。以上の結果は、太陽系やスーパー地球系の形成過程の違いにも重要な示唆を与えており、今後一般的な地球型惑星の形成・進化の議論が大きく進むことが期待される。また巨大ガス惑星周りに形成される周惑星円盤の特徴を議論することで、原始星周りに形成される円盤についても新たな知見が得られている。これも地球型惑星の形成環境を議論する上で非常に重要な結果である。以上の成果について、複数の論文および学会において発表を行った。
著者
上枝 美典
出版者
福岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、現代認識論(分析系知識理論)において現在脚光を浴びている「徳認識論」(virtue epistemology)の理論的整備の一助として、「徳」という概念の明確化を計るものである。方法論は以下の通りである。まず、「徳」概念を、そのルーツである西洋古典思想の文脈の中で分析し、その主要な要素を抽出する。次に、現代認識論における「徳」概念を、同様に、現代認識論の文脈の中で分析し、主要素を抽出する。次に、双方の主要素を比較することによって、二つの文脈における「徳」概念の共通性と相違点を明らかにする。最後に、それらの相違が持つ哲学的、哲学史的意味を考察する。西洋古典思想における「徳」概念の分析として注目すべきは、13世紀のキリスト教神学者トマス・アクィナスの主著『神学大全』第2部第55問題「徳の本質について」の論述である。その論述を総合すると、「徳」(特に、人間的な徳)とは、人間に固有な理性的能力をして、善い結果を生み出すように働かせるような、一種の習慣である。一方、現代認識論における「徳」についてであるが、「徳」概念の理解に関して、大きく二つのグループが存在する。この二つのグループの関係については、本研究の計画段階では、未だ明らかでなかったが、研究を進める中で、それぞれ異なる二つの徳認識論と見なすべきではないかということが、次第に明らかになった。一つのグループは、Ernest Sosaに代表されるグループであり、Alvin Plantinga,Alvin Goldman,John Grecoらが、主要なメンバーである。彼らは、様々に変化する状況において、安定して真なる信念を生み出すような能力のことを「徳」と呼ぶ。もう一つのグループの代表はLinda Zagzebskiであり、アリストテレス的な行為者の動機を重視した「徳」理論を、そのまま認識論に持ち込もうとする。これら双方は、古典的徳理論の二つの解釈可能性を示すものとして興味深い。
著者
堀 裕次
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

Arl13bはArf/Arlファミリーに属する低分子量G蛋白質であり、近年の順遺伝学的手法を用いたスクリーニングにより、その欠失により繊毛の形態や機能に異常を生じることが明らかとなってきた。ヒトにおいてもArl13bの変異が繊毛性疾患であるジュベール症候群を引き起こすことが知られている。これまでに申請者らは、哺乳動物細胞および線虫を用いた解析により、Arl13bがN末端側に受けるパルミトイル化修飾により繊毛の膜に局在し、繊毛内物質輸送システム(IFT)を介した繊毛の正常な形成および機能に関与することを見出していた。本年度はArl13bの繊毛への局在化メカニズムの解明を試み、Arl13bのパルミトイル化酵素の探索を行った。その結果、Arl13bがゴルジ体に局在するパルミトイル化酵素によってパルミトイル化される可能性を見出した。そこで培養細胞を用いてゴルジ体からの小胞輸送系を阻害したところ、Arl13bの繊毛への局在量が減少し、代わりにゴルジ体に集積する様子を観察した。実際にゴルジ体からの小胞輸送系を遺伝子発現抑制法により阻害しても、Arl13bの繊毛への局在量が減少したことから、Arl13bがゴルジ体でパルミトイル化された後、小胞輸送系を介して繊毛へと運ばれている可能性を見出した。今後Arl13bの機能および局在化メカニズムのより詳細な分子基盤を探ることにより、繊毛の形態維持機構や繊毛性疾患の発症機構が明らかになることが期待される。
著者
浅尾 直樹
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

報告者は、前年度にナノポーラス金の作成法を検討し、有機シラン化合物の酸化反応においてこの金属材料が優れた触媒として機能することを明らかにした。そこで今年度は、本申請研究の目的であるフロー合成に本金属材料触媒を適用するべく検討を行った。まずフロー合成に適する反応としてアルコールの酸素酸化反応に注目し、この反応における本金属材料の触媒活性を調べた。その結果、酸素風船による酸素雰囲気下メタノール溶媒を用いると、様々な2級アルコールが温和な条件下で酸化され、対応するケトン体が高収率で得られることを見出した。他の金の固体触媒としては、金微粒子による酸素酸化反応が既に広く研究されているが、一般に過剰量の塩基を添加する必要がある。これに対し本触媒反応は、そのような添加剤を何も加えなくても反応が進行するため、操作が極めて容易である。またこのことから、ナノポーラス金によるアルコール酸化は、金微粒子触媒の場合と異なる反応機構を経由していることがわかる。続いて本反応をフロー合成に適用した。まず内径2mm、長さ15cmのステンレス鋼製のチューブに粉末状のナノポーラス金を詰めて触媒カラムを作成した。二本のシリンジにそれぞれアルコール溶液と酸素ガスを詰めて、マイクロリアクターで混合した後、触媒カラムを通過するようにフローシステムを作成した。その結果、シリンジポンプを用いてアルコールと酸素を押し出し、触媒カラムから出てきた生成物を解析したところ、収率よく生成物が得られることを見出し、しかもフラスコを用いたバッチシステムよりも、反応時間を大幅に短縮することができた。以上の結果は、ナノポーラス金触媒を用いたアルコールの酸素酸化が、気相-液相-固相の三相系によるフロー合成に適していることを示しており、本申請研究の目的を達成することができた。
著者
川島 秀一 YONGQIN Liu LIU Yongqin
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

消散構造を有する非線形偏微分方程式に対し、その線形化方程式の基本解に基づく安定性解析と、様々な非線形波の漸近安定性に関する組織的な研究の展開を目指して研究を進め、次のような成果を得た。1.記憶型の消散効果を考慮した板の振動方程式の初期値問題を考察した。その消散構造が可微分性損失型であることを確認し、Fourier空間での各点評価を示すことで線形解の減衰評価を示した。また、Fourier-Laplace変換により基本解を構成するとともに、対応する解作用素の減衰評価を利用することで、半線形問題の時間大域解の存在とその最良の減衰評価を示した。可微分性損失型の消散構造の解明に寄与する成果である。2.記憶型の消散効果を考慮した線形Timoshenko系の初期値問題を考察した。その消散構造は、系の持つパラメータの値により標準型にも可微分性損失型にもなり得ること、いずれの場合も摩擦型消散効果を取り入れた場合に比べて消散構造がより脆弱であることを示した。また、Fourier空間でのエネルギー法を適用することで、解のFourier空間での各点評価を示すとともに、対応する最良の減衰評価を示した。さらに、Fourier-Laplace変換により基本解を構成し、付随する解作用素の減衰評価を与えた。記憶型と摩擦型の消散効果の違いを明らかにした点に意義がある研究成果である。
著者
松久保 隆 大川 由一 田崎 雅和 高江洲 義矩 山本 秀樹 坂田 三弥
出版者
東京歯科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、食品の咀嚼性の評価方法や個人の咀嚼性を解析するための指標食品を得ることを目的としている。今期の課題は、平成2年度に得られた結果をふまえて食品咀嚼中の下顎運動解析によって得られる運動速度の各咀嚼サイクルが、食品の咀嚼中の状態変化をとらえることが可能かどうか、各咀嚼サイクルの出現頻度と被験者の咀嚼指数および歯牙接触面積とにどのような関係があるかを検討することを研究目的とした。顎関節に異常がない成人6名を被験者とした。被験食品は、蒲鉾、フランスパン、スルメ、もち、ガムミ-キャンディ-、キャラメル、ニンジンおよびガムベ-スとした。被験食品は一口大とした。下顎運動はサホン・ビジトレナ-MODEL3を用い、前頭面における下顎切歯点の軌跡を記録し、下顎運動速度の各咀嚼サイクルの開口から閉口までを1単位として分解し、パタ-ン分類を行なった。被験者の中心咬合位での歯牙接触面積ならびに石原の咀嚼指数の測定を行なった。下顎運動速度の各咀嚼サイクルは、被験食品で6種のパタ-ンに分類できた。すなわち、Uはキャラメル摂取の最初に認められるパタ-ンでとくに開・閉口時に食品の影響を著しく受けるもの、Vは開・閉口時に速度が遅くなるパタ-ン、Wは閉口時に速度が遅くなるパタ-ン、Yは開口時に速度が遅くなるパタ-ン、Xは人参の摂取初期に認められるパタ-ン、Zは開・閉口時ともに速度に影響がみられないパタ-ンであった。各パタ-ンの出現頻度と咀嚼指数および接触面積との関係を解析した結果、咀嚼性が高いと考えられる人は、硬い食品で、食品の影響をほとんど受けないパタ-ンZおよび閉口時に影響をうけるパタ-ンWが多く、閉口および閉口時に影響を受けているパタ-ンVが少ないと考えられた。このパタ-ン解析は、咀嚼中の食品の物性変化を表わすものとして重要な情報と考えられ、個人の咀嚼能力を示す指標食品の選択にも重要な歯科保健情報の一つと考えられた。
著者
武藤 貞嗣 森田 繁 舟場 久芳
出版者
核融合科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

X線スペクトルイメージ測定用試作器を製作して較正実験を行なった。本測定法は、光源の輝度が大きいほどエネルギー分解能と時間分解能が両立して向上する。よって、高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設・ビームライン14Cに於いて放射光を用いた実験を行なった。二結晶分光器から射出される幅0.3 mmの二次光を単色光として直径1 mmのタングステンピンホールに通し、ダイナミックレンジが16 bitのX線CCDカメラを用いて画像測定を行なった。その結果、試作器の動作が設計通りであることを確認できた。また、スペクトルを求めるために必要な数値を得ることができた。
著者
片岡 龍峰 佐藤 達彦 塩田 大幸 保田 浩志
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

太陽の爆発現象から地球に向かって放出される太陽高エネルギー粒子(SEP)の影響は、最大規模のもので航空機パイロットの1年間の被ばく線量基準に達するおそれがあるため、宇宙天気予報でも最重要課題として知られている。最高エネルギーSEPによる航空機被ばく線量を物理的に、かつ定量的に予測することを目的とし、3段階モデルを用いて、過去に発生した最高エネルギーSEPイベントについて、地上の中性子モニター観測値を用いた定量的な検証を重ねることで、最高エネルギーSEPの宇宙天気予報システムWASAVIES (WArning System for AVIation Exposure to SEP) を開発した。
著者
黄瀬 浩一 岩村 雅一 大町 真一郎 内田 誠一
出版者
大阪府立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

人間が外界とやりとりをする重要な情報の多くは,読む・書くという行為による.本研究では,このうち書く行為に焦点をあて,そのすべてをライティング・ライフ・ログとして記録することに挑戦する.記録は単なる画像データとしてではなく,どの文書のどの位置に何を書いているのかを認識する処理による.これにより,書く行為を元にした様々な処理,例えば,学習支援やユーザの興味推定が可能となる.この挑戦を可能とするため,本研究では,ペンに取り付けたカメラから得た時系列画像を用いて筆跡を復元する処理,それを文書の正しい位置に配置する処理の2つを考案,改善した.その結果,高い精度で筆跡が復元可能であることがわかった.
著者
唐原 一郎
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

リグニン形成は植物が陸上進出する際に獲得した重要な抗重力反応である.リグニン形成を含めた植物の抗重力反応に植物ホルモンが関与するか否かを検証した.過重力刺激を与えたシロイヌナズナのトランスクリプトーム解析から,過重力により発現変化する遺伝子の中でオーキシン関連のものが多く含まれることが確認された.そこで過重力を与えたDR5 :: GUS形質転換体を用いて過重力処理区と1G対照区においてDR5 :: GUSの発現を調べた.その結果DR5 :: GUS形質転換体の花茎において強いGUS発現が検出された.またそのときの花茎におけるリグニン合成関連遺伝子の発現は増加した.次にシュート頂からのオーキシンの供給を絶つ目的で摘芯処理を行ったDR5 :: GUS形質転換体に過重力を与え解析を行った結果,過重力による花茎内のGUS発現増加は見られず,リグニン合成関連遺伝子の発現も増加しなかった.このことから過重力による花茎におけるリグニン形成の促進には内生オーキシン量の増加が関与することが示唆された.