著者
星野 伸明
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は実証と理論の両面で進めた。まず実証面では労働力調査個票データを匿名化し、匿名化手法のリスクや有用性を実証研究するための基盤を構築した。また実証の妥当性を確保し、日本の匿名化実務について指針を得るため、外国の先進的事例を調査してまとめた。理論面では、リスク評価の対象として頻出する疎な分割表の挙動を説明するため、極限条件付き複合ポアソン分布族の性質を評価した。特に、ベル多項式に依存した新しい漸近論を提案した。
著者
田中 悟 林 秀弥
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、企業間コーディネーションとしてのM&A行動や戦略的提携行動に対するインセンティブを明らかにした上で、これらの企業行動が経済社会にどのような効果を持つかを経済学・法学の両視点から検証することを目的として行われた。研究はまず、M&Aや戦略的提携行動に対して企業間の垂直的関係がどのような意味を持つかに焦点を当てて行われた。その結果、M&Aや戦略的提携行動に対するインセンティブが垂直的関係下で生じる買い手独占力と上流・下流両市場における市場競争の態様に大きく依存することが明らかとなった。次に、この種の垂直的関係を意識した企業間コーディネーションが流通分野や情報通信分野において多く見られることに着目して、この2分野に焦点を当てた検討を行った。情報通信分野においては、主に法学的視点からの検討が行われた。従来のM&A規制の問題点の精査を行った上で、この分野においては、企業のM&A行動を考慮したときにプラットフォーム規制のあり方が経済社会の成果に大きな影響を及ぼすことが示された。他方、流通分野においては、M&Aや戦略的提携行動が-チェーン展開を通じて-地域的に独立な複数の市場に対して行われるという顕著な特徴を持っている。こうしたときには、買い手独占力を背景としてチェーン企業が享受する投入物価格の低下が、買い手独占力を持たない企業の投入物価格の上昇をもたらす"Waterbed Effect"が生じる。この種の効果は、小売り企業の買い手独占力が水平的位置にあるライバル企業に外部効果を与えることを意味し、極めて大きな競争政策上の含意を持つことになる。そこで、この種の効果を考慮した法と経済分析を行い、買い手独占力をめぐる競争政策の運用に当たっては、買い手独占力が水平的な競争関係にもたらす外部効果をより詳細に検討することが必要となる点を明らかにした。
著者
居村 暁 島田 光生 森根 裕二
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

肝移植後の再発はcirculating cancercellあるいは肝移植時すでに存在するmicrometastasisによる再発であり制御困難である。今回、脾注肝転移(経門脈的)モデルを作成して癌細胞の肝転移メカニズムを検討した。MH134マウス肝癌細胞脾注1週間後、IFN投与群ではコントロールと比較し著明に肝転移個数が減少した。また、IFN投与群の転移腫瘍内MVDはコントロールと比較し有意に減少した。非癌部肝組織における接着因子発現の程度による肝転移促進効果は認めなかった。今後、肝切除+虚血再灌流を施行し、肝移植後の脾注肝転移による肝転移増強の有無につき研究を継続する。
著者
樋口 正信
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1.野外調査以下の地域で野外調査を実施した。祖母山、屋久島、剣山(13年度);白山、中国哀牢山(14年度);北海道、八ヶ岳(15年度);北海道、台湾東部(16年度)。生育状況と生育環境を記録し、資料を収集した。資料は乾燥標本として、また一部は冷凍保存した。2.研究成果(1)高山性コケ植物相東ヒマラヤと雲南省のハイゴケ科の新しい分布情報を確認した。東アジアの生物相の中心をなす日華区系区の西端にあたるパキスタン産蘇類のチェックリストを作成し、植物地理学的解析を行った。東アジアの高山域に分布の中心をもつナンジャモンジャゴケを栃木県において、高山性の稀産種であるイシヅチゴケを北海道東部で確認した。台湾と日本の蘇類全種の記録を比較検討した結果、両地域の高山域には周北極要素のほか、中国西南部との共通要素が特徴的に見られることが明らかになった。(2)高山性コケ植物の種分化中国雲南省の高地で得られた資料がラッコゴケ属の新種であることを見出した。中国西南部が本属の種分化の中心であることを確認した。分子系統解析の結果、エゾノヒラツボゴケ属はサナダゴケ科に所属し、サナダゴケ科はサナダゴケ属と本属の2属からなること、中国と台湾の高地に分布する蘇類の単型属Giraldiellaは、ハイゴケ科に属し、キヌゴケ属のPylaisia falcataと近縁であること、ブータン、中国西南部、台湾の高地に知られ、最近日本から報告した単型属Neodolichomitraは、イワダレゴケ科に属することなどが支持された。ナンジャモンジャゴケを台湾から新たに発見し、日本、台湾、ボルネオの集団間には遺伝的差異が見られないことを確認した。さらに、他の薩類では喪失したと考えられる葉緑体ゲノムを本種から確認した。これはコケ植物の古いタイプが東アジアの高山帯に遺存していることを意味し、東アジアの高山帯フロラの特異性を示している。
著者
樋口 泉
出版者
山梨県立甲府工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

古来より竹は様々な形で構造材料として利用されてきた植物であり、丸竹をコンクリートの中に入れ竹筋コンクリートとして使われたこともあった。最近では比強度が大きく加工の容易さや高弾力性及び耐久性などに注目し集成材として床材や家具などに利用されてきている。しかしながらその利用量はわずかであり放置された竹林が目立っている。また、その機械的性質についても発表されているものは少ない。そため構造部材として使うための合理的な設計指針が明らかにされていない。そこで、本研究は、竹板材を被着体とした単純重ね合わせ接着継手に静的曲げモーメントを作用させ、継手に発生する応力と強度について有限要素法による計算及び実験の両面から調べ竹材有効活用の確立を目的とする。静的曲げモーメントを受ける被着体が竹板である単純重ね合わせ接着継手の応力に関して実験および有限要素法による計算で調べたところ以下の結果が得られた。(1)ひずみに関する実験結果と有限要素法による計算結果はかなりよく一致した。(2)継手に発生する応力を調べたところ接着剤層界面端部に応力の特異性が見られ、応力値が大きくなることが分かった。この位置での応力成分は繊維方向の引張応力と繊維方向に対して直角方向の引張応力が同程度の大きさで、かなり大きくなることが観察された。被着体の材料特性を考慮すると、この位置から繊維方向に対して直角方向への被着体の破壊も予測される。(3)被着体厚さ4mm、幅25mm、接着長さ25mmの単純重ね合わせ接着継手の曲げ強度実験より得られた継手の強度から、応力特異場の強さを求め、この結果を被着体厚さ4mm、幅25mm、接着長さ20mmおよび30mmの継手の強度に適用させて得た予測値と強度実験値を比較したところ、強度予測結果と実験結果はかなりよく一致した。静的曲げモーメントが作用する被着体が竹板である単純重ね合わせ接着継手の強度は、応力特異場の強さで予測できることを示した。
著者
内山 俊朗
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、メディアアート作品をリハビリテーションに活用し、本人が表現者として主体的に加わるリハビリテーション支援機器の開発を目標としている。研究の実施内容は以下のとおりである。1.コア技術として、あいのてが身体動作を誘発することに着目したあいのてシステムの開発を行った。2.コア技術を応用し、身体動作によるからだのリハビリと、社会的交流によるこころのリハビリを支援するメディアアート作品の制作と効果の検証を行った。3.雑誌論文、国際会議、イベント、マスメディアを通して発表を行い社会への浸透を行った。これらにより、本研究は今後もさらに高い感性価値を持ったリハビリテーション支援機器開発の手がかりとなることが期待される。
著者
小澤 宏亮
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

天然歯とは異なり歯根膜,神経を欠くため緩圧作用がほとんどないインプラント治療は,わずかな咬合の不調和がトラブルの原因になると言われているが,適切な咬合を付与するためのガイドラインは未だに確立されていない.経過良好なインプラントの咬合状態を明らかにすることを目的に,1歯中間欠損部単独植立インプラントの各かみしめ強さでの咬合荷重量とその変化を検討した.さらに,三次元有限要素解析モデルにおけるインプラントと骨の接触状況の変化を,実物のインプラントと3種類の三次元有限要素解析モデルの被圧変位量と応力分布を比較検討した.これらのデータから開発した手法を応用して得られたインプラントの咬合間隙量についても検討を加えた.新たに開発した手法によりインプラントに付与された咬合間隙量を推定できる可能性が示唆された.インプラントと天然歯の間には様々な咬合状態があったが,経過良好なインプラントの咬合間隙量にはある程度の幅があることが明らかになった.これらのインプラントが十分に機能しているかどうかについてはさらなる長期の研究が必要であろう.
著者
山田 邦夫
出版者
中部大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

昨年度から引き続きイチゴにおける花芽分化時に特異的に発現する遺伝子のクローニングを進め、シロイヌナズナを始めとする各植物のFT塩基配列と類似性の高い塩基配列が得られ,これをFaFTと名付けた.またバラのTFL1塩基配列と類似性の高い塩基配列が得られ,これをFaTEL1と名付けた.イチゴを短日夜冷処理区(花芽誘導区)とコントロール区(花芽非誘導区)で栽培し花芽分化の様子を顕微鏡下で確認したところ,短日夜冷処理区では処理後35日に花芽の分化が見られ、コントロール区では35日後では花芽分化は確認されなかった.葉において,短日夜冷処理区では全てのステージでFaFTの発現が確認出来なかったのに対し,コントロール区では全てのステージでFaFTの発現が確認された.また,明条件になって1時間から8時間目まで1時間毎に発現を解析したところ,コントロール区ではどの時間も発現が確認された.さらに短日夜冷処理区では2および8時間目においてFaFTの発現は確認されなかった.FaTFL1は葉・葉柄・クラウンにおいて特に目立った変化は見られなかった.一方クラウンにおけるFaFTは、花芽分化が確認できた短日夜冷処理区の35日目で明らかな発現上昇が見られた。これは、短日夜冷条件下では、クラウンにおいてFaFTの発現が上昇し、花芽分化を引き起こしていることを示唆する結果であった。つまりこのFaFTは花芽分化の指標となりうることが明らかとなったが、発現部位がクラウンであったため、今後は葉において指標となる遺伝子候補を探索する必要がある。
著者
塩谷 雅人 河本 望 藤原 正智 JOACHIM Urban
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

成層圏における熱バランスやオゾン化学に対して決定的な影響を与える水蒸気の変動について調べた. 特に熱帯域に注目して, いくつかの衛星観測データと定点観測ながら精度の高い水蒸気ゾンデデータとの比較・検討をおこない, 衛星観測のデータ質についての知見を得た. さらに, 熱帯下部成層圏における水蒸気混合0比の過去約15年にわたる年々変動について見たところ, さまざまな変動要因は存在するものの, 全体としては増加傾向を示すことがわかった.
著者
蔡 国喜
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

疫学調査により、中国雲南省国境地域における女性セックスワーカーの経済-社会人口学属性、エイズ・性感染症に関する知識、態度、sex behaviorの現状、及びHIV/AIDS,gonorrhea, syphilis, Chlamydiaの有病率及びリスクファクター等を明らかにした。この結果は日本のエイズ・性病感染症の予防策、研究方法に以下の提示ができる:1、感染症予防のためにhard-to-reach-populationに対する有効なapproach方法Respondent Driven Sampling(RDS)方法の実用方法と有効性を提示;2、東南アジア国境地域のhigh-risk-population及び流動人口に対する感染症予防の健康教育や介入が不足しているため、このpopulationがリスク行為を行いやすく、エイズ・性病などの感染症を感染される・させるリスクが高い、これはこれから経済活力で注目される東南アジア・メコン流域において、国際保健(国の壁を越えて感染症連携)の重要性を提示する。
著者
南沢 享
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

心臓機能は、心筋細胞を含む10種類の心臓構成細胞が高度の協調性を保つことによって維持されている。心臓機能異常を 理解するためには複合的な階層構造体として心臓構成細胞の協調性の破綻を捉えることが重要である。本研究では、複合 的機能と階層構造を有する心臓組織の三次元再構築系を創成し、機械的刺激が心臓構成細胞の機能に及ぼす影響を明らか にすることを目指す。その最初の段階として、単純化された三次元構造でありながら、階層性と腔構造を有する心チュー ブを構築する。こうした三次元再構築系モデルは、心臓発生・再生の機序解明や心機能回復を目指す革新的方法(治療) の開発を行う上で、定量的測定とシミュレーション研究をつなぐ研究基盤を築くために極めて重要である。 【ラット培養細胞系での心チューブの確立】 既に公表されている遺伝子情報を活用すること、細胞自体への遺伝子操作を加えること、などを考慮し、ラット新生仔心 臓及び大動脈から単離した心筋細胞と血管平滑筋細胞を用いた。そこで最初に既に作成に成功している血管において、ラット胎仔大動脈血管平滑筋細胞が使用できるかどうかの検討を行った。まず、ラット胎仔から採取した大動脈血管平滑筋細胞を順次積層化し、7層まで細胞生存性を保ったまま、重層化することが出来た。この再構築系を用いて、血管弾性線維形成に影響を与える要素の検討を行い、重層化した平滑筋細胞では細胞分化がより亢進しており、血管弾性線維の形成が有意に促進していることが判明した。そこで次にポリグリコール酸生体吸収高分子シートにラット胎仔大動脈血管平滑筋細胞を播種し、約4週間培養し、シート外側部分への平滑筋細胞の生着が認められた。その部位はエラスチン染色で染まる部分が存在し、弾性線維形成が行われていることが示唆された。以上の結果から、再構築系にラット胎仔細胞を利用することが可能であることが示された。
著者
中西 三和 安達 洋 北嶋 圭二 田才 晃 楠 浩一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

地震時における既存RC造建物の柱と超高層鉄筋コンクリート造柱の軸力支持性能や柱梁接合部の性能を調べるために,多数回繰返し加力実験を行った。加力は,静的載荷と動的載荷を一対として実施し,静的載荷に比べ動的載荷した実験において柱の軸力支持能力の喪失や接合部性能の低下が早まることを明らかにした。
著者
宮田 敬士
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

生理活性因子アンジオポエチン様タンパク(AGF)の機能解析を行うために、AGF強制発現マウスを用いて検討した。AGFは、血管新生作用とは独立して、褐色脂肪組織、骨格筋組織に作用し、エネルギー代謝亢進を認めた。さらにトレッドミルによる運動負荷や寒冷刺激による体温変化を検討したところ、AGFは、走行時間、距離の延長や体温の抑制を認めた。以上より、AGFはエネルギー代謝亢進、運動耐容能の向上、低体温の抑制と有益な効果をもたらす分子であることが示唆された。
著者
山本 聡美
出版者
金城学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

中世日本で外来の十王図像が移入され和洋化するプロセスについて、作品調査と文献の分析を通じて考察した。本研究期間内に計9件の作品調査を実施した他、写真などを用いた画像資料の収集を行った。特に日本製十王図の多くに描きこまれる本地仏の組み合わせに着目し、調査結果を分析した。その結果、制作年代の遡る作例ほど組み合わせに多様性があり、また本地仏として大日如来を描く事例が多いという傾向が浮かび上がってきた。また、現存作例の和洋化が著しく進む13世紀後半~14世紀にかけての、仏書や日記・記録類に着目、仏事で十王図が懸用された事例を分析した。その結果、宮中や幕府関係の逆修・追善供養での懸用と軌を一にしながら、十王図と本地仏の組み合わせが決定され、日本的十王図への変容が促されたことが明らかとなった。以上の成果の一部は、『国宝六道絵』(共著、中央公論美術出版、2007年)などの出版物として公刊している。
著者
藤井 美男 川原 温 奥西 孝至 金尾 健美 花田 洋一郎 青谷 秀紀 中堀 博司 斎藤 絅子 畑奈 保美 加来 奈奈
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

「近代国家の形成」という西欧学界の現代的課題へ貢献することを目途として、中世後期のブルゴーニュ国家を素材に、社会・経済・文化諸領域の統合的な究明を図ることを本研究の目標とした。その結果を要約するならば、 (1)都市民の宗教・文化的存在形態が国家制度と宮廷文化へ及ぼす影響、(2)ブルゴーニュ国家の地域的統合、ネーデルラントの統一、および都市=農村関係の再構築の解明である。また経済史的側面からは、(3)国家財政における塩鉱山経営の位置づけ、および都市財政と国家財政との物的・人的結合の確認、(4)都市の政治機構と国家行政との関連の解明、という結論が得られた。
著者
保木 邦仁
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

研究代表者がこれまでに研究してきた分子ダイナミクス制御・レーザー制御理論に基づいた, ナノマシンの理論設計・実験結果の解析・機能分子の運動の観測手段の提案を目指して研究を進めた. 特に, 分子モーターの人工合成に必要と思われる基礎理論の構築を目指した研究を行った. また, 第一原理分子動力学法によりモーター分子の運動を評価して回転運動の伝達や散逸の機構を明らかにした.
著者
降旗 芳彦 西角井 正大 田中 英機 降旗 芳彦
出版者
実践女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

研究課題名の「木造芝居小屋の歌舞伎の科白・衣裳等に及ぼした影響の研究」は平たく言えば、「江戸時代様式の芝居小屋の舞台・客席における視聴覚レベルの研究」ということである。建築物としては一本目通りの横梁木の長さに制約され、屋根に覆われた内装も木製である。全蓋屋根は外光を遮り終日小屋内を日影の状態に置き、木製内装は音響的効果を期し難い。場内の明かりは明かり窓から入れた。客席の左右高みに並んで設けたのは採光的に合理的だっただけでなく換気にも有効だったが、場内明かりは季節・時刻・天候による光状況に左右された。季節は日本の緯度に最も影響され、地勢状況から季節による気温湿度も変動も大きかった。今日までの歌舞伎学の史的研究では上記のような視点が議論されることが殆どと云ってよいほどなかった。即ち舞台や客席の明かり状況やその変化はどのようであったか、蝋燭照明はどの程度の効用だあったのか、台詞は場内にどのていど聞こえたか等である。遠山静雄著「舞台照明学」を別としてこれと云った古い文献にも研究書も乏しく、進歩したIT技術を援用して調査し研究した。次の5テーマに絞り成果を得た。1 照度と場内:概ね100〜10ルクス。舞台より客席の方が明るい。役者から客が良く見える。2 照度と衣裳:生地9種、各12色で実験。差はあるが、100ルックス以下では黒ずみ、原色が見えない。3 音響と台詞:場内空間が今日の小劇場程度で聴覚上問題はない。プロ70db程度。狂言出自を思わせる術。4 演技:旧来未解決の荒事「見得」に絞り、モーションキャプチャーにより「不動明王の種字」説を提言。5 回舞台:上三河農村舞台(兵庫)調査により面自く見せるための機構と力学を解明。欧州と中国の古劇場を調査し場内照明や舞台機構あるいは演出等比較して旧来説を脱した。
著者
酒井 治郎 林 兵磨
出版者
羽衣国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、近年、わが国で問題となっているNPO(非営利組織)と、それに伴う会計問題を対象に検討を行ってきた。これまでNPOに係る事件の背景には、NPO会計の不備がその原因の一つとなっていると考えられる。そこで、本研究はNPOの会計問題を解決し、これからのNPOの発展にも寄与することを意図している。まず、統一化の可能性を、アメリカの会計学者であるWiliiam.J.Vatterが提唱した理論から模索した。彼の理論には、企業のことを「私的な人格を否定した資金そのもの」とあるという認識であったが、この彼の見解を基盤にして、それを一部修正することによって、今日のNPO会計の問題解決および営利企業会計とNPO会計との統一化の可能性も見だせることを提案したのである。ところで、最近わが国では、既存のNPO法人(とりわけ公益法人)の非効率な経営実態など、様々な問題点が指摘されているところである。こうした問題点を改善するために、公益法人会計の中にも営利企業会計の考え方を導入しようとして、公益法人の会計基準も改訂作業が進められているところである。本来、企業会計は、資本主義社会における営利企業の発展に伴って確立されてきたものであり、また「一期間における費用と収益との適切な対応」させることを根幹においている。この考え方を公益法人会計にも適用することは、公益法人の管理者に対し、経営資源の有効的活用、効率的経営の実施を意識づけるのに役立つと期待されているのである。つまり、企業会計は営利企業のみならず、公益法人等NPOにとってもまた有用であるとする見解が台頭してきたのである。ただし、単純に既存の公益法人会計に企業会計方式を導入することはできない。株主が存在しない公益法人の「資本」概念をいかに確立するかという点があげられる。ちなみに、日本の公益法人会計改革において、前例として参考にしたアメリカ会計では、この課題に直面して、結局のところ株主の存在という点だけを必要以上に重視してしまい、NPO会計改革が不十分なものに終わってしまった。そこで、われわれの研究では、アメリカの失敗のケースも踏まえ、株主という存在も、組織体への資源提供者の一つの種類にすぎないと捉えることによって、公益法人にも営利企業における資本に相当するものの存在を認め得ることと提案したのである。こうしたわれわれの提案は、公益法人会計と営利企業会計との統一化を前進に寄与するものと考えている。さらに、わが国のNPO会計における具体的問題点の一つとして、学校法人会計もとりあげた。この中でとりわけ、学校法人会計の計算体系が、企業会計のそれとは大きく異なり、この学校法人会計の計算システムでは、固定資産の不必要な取得を誘発する等の問題点を指摘し、こうした点からも前述の公益法人会計のみならず、全てのNPO会計において、企業会計と統一した枠組みの中で捉えることの必要性を指摘したのである。
著者
尾崎 充紀
出版者
独立行政法人全国高等専門学校機構奈良工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的本研究は、創造的失敗(creative failure)を恐れず繰り返すことができ、セレンディピティ(serendipity、偶然察知能力)を養える要素も含み、また非効率だとしても数多くの「うまくいかないこと」を経験し、それを「失敗」としてではなく「たった一つの結果」として受け入れさせ、それに観察や創意工夫を重ねることが「単なる失敗」を「大成功!」へと導く方法であることを知り学ばせるため、「うまくいかないことは失敗じゃない!」をキーワードに、子供たちが楽しみながら興味を持って取り組めるものづくり教材の開発を目的とした。○研究方法分析:小学生(高学年)対象のからくりを用いた教材とし、開発に必要な資料の収集・実地調査・分析を行う。設計:からくり候補ならびに新学習指導要綱を踏まえた教材の構成を決定、作製キットの設計・試作を行う。開発:作製キットならびに動作解説用映像やワークシートなどを含めたものづくり教材の開発を行う。○研究成果●数多くあるからくりの中から新学習指導要綱(小学理科「物質エネルギー」5.6年)のテーマである「振り子」「てこ」「おもり(物質)の移動と状態変化」の原理が応用された「連理返り人形」を教材とし、キットを設計。●本来はおもりとして水銀を用いるが安全性を考慮し、代替に粘性流体や球体などで検討・試作・検証。●おもりの異なる「連理返り作製キット(1セット@\500-程度×5種類)」が完成。●作製キットは連理返りの原理が見られるように、一部をクリアタイプとし観察・考察を可能にした。●作製キットの「見える化」により、いくつかのうまくいかない動作とその原因を容易に確認が可能。●うまくいかないことを観察し、創意工夫を重ね、その検証を繰返すことで因果関係の実証が可能と確認。●作製キットの設計・試作・検証を繰返し行ったことで「うまくいかないは失敗じゃない!」を実感・再認識。●作製キットの動作映像やワークシート、チェックシート、各種資料などを含めたものづくり教材の開発。●これらの内容をまとめ、「平成23年度神戸大学実験実習技術研究会」において発表・報告を行った。
著者
渡邉 秀美代 斎藤 琢 池田 敏之 小笠原 徹 内田 俊也 池田 敏之 小笠原 徹 内田 俊也 鈴木 信周 本田 善一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

腎臓の近位尿細管、ヘンレ上行脚、遠位尿細管に組織特異的に目的遺伝子を発現する方法と、発現させるためのコンストラクトを開発した。まずGFPを組織特異的に発現させてその発現特異性を確認したが、次にカルシウム感知受容体の活性型変異をもつコンストラクトを作成し、この表現型をみることで腎臓におけるカルシウム感知受容体の各部位における機能を比較検討する(この課程は現在途上である)。