著者
山本 成生
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究は、北フランスのカンブレー大聖堂の聖歌隊を素材として取り上げ、音楽史上「ルネサンス」期と称される15、16世紀の西欧世界における、音楽家の社会的身分のあり方とその組織構造の解明を目的とするものである。昨年度、私は特別研究員奨励費を使用して、上記の教会関連の史料が保存されているフランスのノール県立文書館ならびにカンブレー市立図書館で約一ヶ月間、調査を行った。本年度は、その際デジタル・カメラにて複製した史料の分析を行いつつ、そこで得られた成果を学術論文として発表することに専念した。その結果、計三本の研究成果を得た(以下の記述は裏面の「11.研究発表」に基づく)。最初の論文は、「少年聖歌隊教師」というカンブレー大聖堂の音楽生活において重要な役割を担っていた職務について論じたものであり、在職した人物の活動や就任過程を検討することで、同教会の雇用戦略は15世紀末にひとつの転換を迎えることを明らかにした。二つ目は、研究史上カンブレー大聖堂との密接な関係が指摘されるローマ教皇庁の聖歌隊との人的交流を扱ったものである。そこでは、先行研究によってやや誇張されていた両者の関係に修正を加えつつ、この二つの機関を往来していた音楽家に関して類型化が行われ、前述の研究課題に対する寄与がなされている。そして最後の論文は、こうした研究を行う上での基本的な史料であるものの、それ自体としては看過されてきた聖歌隊の会計記録を財政史的側面より再検討し、聖歌隊の財務構造の変容を追ったものである。前年度ならびに以上の成果から、私はカンブレー大聖堂の聖歌隊の組織構造と当時の音楽家一般の社会的身分に関して、従来の研究ににない新しい見解を提示しつつある。むろん、他の音楽機関の比較検討など、なお課題は多い。今回の特別研究員としての研究期間は本年度をもって終了するが、今後もこの課題に取り組んでゆくつもりである。
著者
清水 洋平 舟橋 智哉
出版者
大谷大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

今まで調査が手薄であったタイ国中部地域の王室寺院が所蔵する貝葉写本について、従前の科研プロジェクトから継続的に調査を行い、第一級王室寺院をはじめとする5ヶ寺の所蔵貝葉写本集成を軸とした約1, 700套(一套の中に複数の文献が所収されることが多い)を超える写本文献の情報を取りまとめ、所在目録を作成した。加えて、まだ貝葉や折本紙写本でしか存在しない東南アジア撰述の仏教説話文献に関わるテクストの多くを、デジタル画像資料として入手することに成功した。これにより、現在まで殆ど実態が不明であったタイ国中部地域の王室寺院が所蔵する収蔵文献について、その特徴を明らかにした。
著者
小野 新平
出版者
(財)電力中央研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

イオン液体の電気二重層を利用した新しい電界効果トランジスタを作製した。電気二重層の作り出す強電界を利用することで、様々な材料に高密度キャリア注入を行う事に成功した。有機半導体では、低電圧駆動が可能で高速応答を実現する有機電界効果トランジスタの作製に成功した。また遷移金属酸化物薄膜では、高密度キャリア注入を行う事で、金属-絶縁体転移の観測に成功した。
著者
酒井 寿郎 田中 十志也 浅場 浩
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体δ(PPARδ)はリガンド依存的に転写を制御する核内受容体の一つである.我々はPPARδが骨格筋の脂肪酸代謝を調節する因子の一つであることを報告した(PNAS,100,229-234,2003).選択的PPARδアゴニストGW501516(GW)の投与により,ミトコンドリアの増生,脂肪酸β酸化および代謝速度の亢進,骨格筋における顕著な脂肪滴蓄積の減少が認められ,高脂肪食(HFD)負荷によって惹起される肥満およびインスリン抵抗性を改善することを明らかにした.GWは骨格筋および肝臓において脂肪酸輸送,脂肪酸β酸化および呼吸鎖に関与する遺伝子群を誘導した.一方,普通食負荷したマウスのWATの遺伝子発現には影響を及ぼさないが,GWはHFDによって惹起されるTNFαおよびPAI-1の遺伝子発現増加を抑制した.さらに,HFD負荷したマウスの肝,骨格筋およびWATではインスリンによるPI-3キナーゼの活性化が顕著に低下していたが,GW投与群では有意な改善が認められた.以上のことより,GWは長期投与において持続的な抗肥満および抗糖尿病活性を有することが示唆された. PPARδアゴニストのインスリン感受性改善効果の一部は,肝や骨格筋での脂質蓄積抑制や脂肪細胞の肥大化を抑制し,PI-3キナーゼ介在性の糖取り込みやアディポサイトカイン産生を改善することによって発揮されていると考えられた.Oikeらとの共同研究で血管新生液性因子angiopoietin-related growth factorが抗肥満効果としてPPARδを介することを示した。また、私たちは転写因子Kruppel-like factor KLF15が絶食時に誘導されATPを合成するアセチル-CoA合成酵素プロモーター活性を調節することを明らかにした。KLF15は脂肪細胞の分化に関与する転写因子としても知られている。
著者
須藤 祐司
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、全年度の知見を基に、Cu-Al-Mn系超弾性合金の高強度化およびその応用を目指し、本合金の低温時効硬化現象を詳細に調査し以下の知見を得た。[1.超弾性特性] Cu-Al-Mn-Ni合金において、集合組織および粒径ならびにベイナイト変態を適切に制御することにより、1000MPaの超弾性プラトー応力かつ4%程度の超弾性歪みを示す高強度超弾性合金のが得られる事が分かった。時効処理によりベイナイト変態した超弾性合金のマルテンサイト変態誘起応力の温度依存性dσ/dTは、焼入れまま材のそれよりも小さく、その値はクラジウス-クラペイロンの関係より予測される値と一致する。本合金のdσ/dTはTi-Niのそれに比べ、約1/3程度であり、温度が変化する環境にておいてもほぼ一定の超弾性回復応力が得られる。[2.疲労特性] 時効処理により高強度化したCu-Al-Mn系超弾性合金の疲労特性を引張サイクル試験により評価した所、従来合金に比し、疲労強度が極めて高く優れた疲労特性を示すことが分かった。これは、ベイナイト変態による析出硬化により母相が強化され転位が動きにくくなったためと考えられる。集合組織、粒径、析出硬化を適切に制御することによりTi-Niに匹敵する疲労特性を示す。[3.応用] 上記の知見を基に、加工熱処理による組織制御を駆使し、剛性傾斜型のガイドワイヤー(GW)の試作を試みた。本剛性傾斜型GWは、従来Ti-Ni超弾性GWに比し、優れた突き出し性、トルク伝達性を示し、操作性に優れる。また、高強度・高超弾性歪みを有する合金を用いた制震部材の開発を検討し特許出願を行った。
著者
寺田 松昭
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、2アドレス方式により移動端末の制御を抜本的に変えた新しいモバイルネットワークを目標に、2アドレス方式による移動端末制御方式の確立、2つのアドレスを用いて移動端末に通信チャネルを設定するための技術、新モバイルネットワークとインターネットとの相互接続技術の開発を進め、以下の成果を得た。1.端末識別のための「ユニークID」とパケットを目的の端末に届けるアドレス「経路制御アドレス」を分けた"アドレス方式"を開発した。モバイルエッジルータ(MER)は新しい移動端末が現れていないかどうかを絶えず監視し、新しい移動端末を発見すると、そのユニークIDを取得し、経路制御アドレスと対にして、位置管理ノード(LMN)に登録するようにした。この方式によって、移動端末の位置とそこへの経路制御を可能にした。アドレスを階層的に付与することによって、高速なルーティングを可能にする方式を開発した。モバイルコアルータ(MCR)用ソフトウェアを試作し、動作を確認した。2.端末位置の発見方法を考案し、実装した。端末の移動に伴うパケット転送ルートの迅速な設定/切替え制御を実現した。モバイルエッジルータ(MER)用ソフトウェアを試作し、動作を確認した。3.複数の新モバイルネットワークをインターネヅトにより接続した実験システムを構築した。モバイル端末を無線LANリンクで接続した状態でアクセスポイントからアクセスポイントへと移動しても通信が滞りなく行えるかを検証した。実験システムを用いて、主に新モバイルネットワーク間での端末移動制御を検証した。4.インターネットと新モバイルネットワークとの通信を可能にするためにプロトコルの変換を行うゲートウェイを開発した。
著者
山本 里見 僧理 栄司
出版者
秋田工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

セルローズファイバーの壁への適正挿入法の検討(通気層確保の必要性)について検討した.同一寸法の実験棟2棟(床面積2坪)をセルローズファイバーで断熱施工し,一方に壁内通気層を設け,他方に通気層を設けない構造とした.室内は7時から22時まで室温22℃,相対湿度80%とした.その結果次の点が明らかになった.1)壁面内の断熱材の温度特性は,両棟でほとんど違いが見られず,断熱特性については通気層の影響は少ないことがわかった.2)通気層の影響は湿度特性に表れ,通気層がないと壁体内の絶対湿度は,屋外側と室内側で絶対湿度に大きな差が生じ,屋外側では結露に結びつく可能性のある状態になりうることがわかった.それに対して通気層を設けると,壁体内の湿度は適正に外部に放出され,断熱材の室内側も屋外側もほぼ同じ状態となることが分かった.3)断熱材の水分含水率を測定すると通気層がないほうが約2割ほど高くなった.4)通気層は小屋裏の温湿度特性の改善にも効果的であることがわかった.また,セルローズファイバーの透湿特性を調査するための室内実験を実施した.断熱材によって仕切られた実験箱の一方に乾燥空気を,他方に水蒸気圧一定の湿潤空気を流すことによって,境界壁に置かれた断熱材料の透湿係数を測定した.断熱材料には,グラスウ-ル(GW)とセルローズファイバー(CF)を用いて比較した.検討の結果,CFの透過水蒸気量は水蒸気圧差に比例し,得られた透湿係数は1.7〜1.9となり木繊維板などの値に近い.一方,GWではCFと異なる挙動が見られた.壁内での断熱材両側の水蒸気圧差を推定し,そこでの透過水蒸気量を比較するとCFがGWより大きいのと判断できた.また,CWは実験前後で材料自体に重量変化はなかったのに対し,CFは3%〜6%の重量増加が見られ,CFの吸湿性の確認ができた.
著者
宮城 光信 松浦 祐司 石 芸尉 佐藤 俊一 岩井 克全
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

高強度・超短パルスのレーザ光の照射に生体組織のアブレーションは,生体に対して,安全・無痛など,従来に無い効果が期待される.そこで本研究では,誘電体内装金属中空ファイバを用いることにより,近赤外波長帯でのフェムト秒レーザ,及び高出力Nd : YAGレーザ用のフレキシブル伝送システムを構築することを目的として次の研究を行った.1.超鏡面・高強度を有する銀中空ファイバの製作法:従来の銀鏡反応の見直しを行った結果,塩化スズ水溶液を用いて前処理を行うことにより,銀薄膜の表面粗さが低減されることが明らかになった.また,ポリマー保護層を付加した高強度ファイバについても検討を行った.2.誘電体ポリマー膜の成膜機構の研究と一様成膜の実現さまざまな成膜条件を実験的に検討することにより,その成膜機構を明らかにし,より高い一様性を持つ,ポリマー薄膜の生成を実現した.3.銀中空ファイバ内面の超平滑化の検討銀鏡反応の際に,塩化スズ水溶液や,ポリシラザン溶液などを用いた各種の前処理を行い,母材ガラスチューブ内面の活性化を図ることにより,生成した銀薄膜の表面粗さが従来の1/3以下となる,5nm以下を実現した.4.GWクラスNd : YAGレーザ用中空ファイバの製作と評価内面を平滑化した中空ファイバを用いて,尖頭出力がMWからGWクラスのNd : YAGレーザパルス伝送を試みた.5.ポリマー内装中空ファイバの超低損失化の検討ポリマー内装中空ファイバのポリマー薄膜形成時に,有機溶剤雰囲気中での成膜を行うことにより,ポリマー薄膜の均一化,および表面の超平滑化をはかった.6.QスイッチNd : YAGレーザ用中空ファイバの評価とパワー耐久性の改善低損失化した中空ファイバを用いて,尖頭出力がMWからGWクラスのNd : YAGレーザパルス伝送を試みた.
著者
湯上 登 東口 武史 伊藤 弘昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

超高強度超短パルスレーザー(ITW,100fs)を窒素ガス(50Pa)に集光し、そこから発生する電磁波の観測を行った.観測された電磁波のパルス幅は、実験条件には依存せず、200ps程度であった.電磁波の周波数は、周波数によって異なる感度を有する4種類のディテクターを用いて行った.電磁波は、レーザー進行方向に対して、30度程度の方向に強く放射され、コーン状の分布を有していることが確認された.また、電磁波の偏向方向は半径方向を向いていることが、すべての周波数領域において確認された.周波数の上昇とともに、放射角度が浅くなる傾向にあった.周波数は最大300GHzが観測されている.この実験結果を説明するために、プラズマ導波路を考えた.つまり、高強度レーザーが集光するとそのポンデラモーティブカによって、電子は排除されイオンだけが残った円筒状のプラズマ柱が形成される.イオンの電場を感じて電子は振動運動をすることになり、それが電磁波の放射を生み出す結果となる.電子の振動は径方向であるので、電磁波のモードはTMO1モードとなり、これは電磁波の偏向が半径方向である事実に適合する.また、数値計算を行ったところ、電磁波の周波数広がりが実験結果とよく一致した.また,高周波数の成分が浅い角度で放射される実験結果と一致する結果を得ている.以上より、レーザープラズマからの電磁波放射に関しての知見が得られ、今後高周波化、テラヘルツ化の実験の指針を得ることができた.
著者
藤原 毅夫 星 健夫 山元 進
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

遷移金属酸化物などいわゆる強相関電子系では、密度汎関数を超えた電子間相互作用の取り扱いが必要である。本研究では(1)LDA+U法による取り扱い、(2)GW近似による取り扱い、を行った。また(3)動的平均場近似による予備的な計算、を試みた。さらに、大きな系において密度汎関数理論の枠内で第一原理分子動力学を実行するために、オーダーN法のアルゴリズムを開発した。(1)LDA+U法で取り扱った系は(1-a)Nd{1-x}Sr{x}MnO{3}(x〜1/2)の磁気秩序と軌道整列、(1-b)La{7/8}Sr{1/8}MnO{3}(強磁性絶縁体)の軌道秩序とホールストライプ構造、(1-c)NdNiO{3}、YNiO{3}の磁気秩序と電荷秩序、(1-d)La{2-x}Sr{x}NiO{4}の磁気秩序と電荷秩序、である。(2)GW近似についてはプログラムを整備し、新たにいくつかの計算上の技術を開発しまた並列計算を可能にした。これにより、Si, CaO, MgO, Fe, Ni, Cu, TiO, VO, MnO, Nioなどのバンドギャップその他を検討した。反強磁性絶縁体となるMnO, NiOを除くと、いずれもバンドギャップ、バンド幅など多くの改善が得られ、実験と良い一致を示す。一方,Ni, Feなどのバンドの交換分裂はLDAの結果からほとんど変化しない。これは、交換分裂には梯子ダイアグラムの寄与が必要だが、他は電子正孔の対生成消滅ダイアグラムからの寄与で大きな改善が得られるためである。一方、MnO, NiOについては無摂動状態の波動関数をよりよいものにする必要が示された。現在検討中である。(3)オーダーN法については、絶縁体のワニエ関数を反復的に構成し、これをもとにMauri, Galli等と同じアルゴリズムで分子動力学を実行した。ワニエ関数から、変分および摂動により波動関数を構成するため計算負荷が少なく、現在100万原子の系で計算が可能になっている。Si(100)面の亀裂伝播を実行し、亀裂により発生した面に非対称ダイマーが構成されるプロセスを見出した。
著者
米田 令仁
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

熱帯荒廃地の修復をおこなう際、植栽される苗は高温、強光、乾燥に曝されるため、生育が困難である。平成17年度の研究では植栽苗が受けるストレスを軽減させるための遮光物を設計し、マレーシア、クアラルンプール郊外の荒廃裸地において、植生被覆のない裸地とイネ科草原に設置した。遮光物導入によって、植栽苗が受ける各種ストレスを軽減させることができるか、遮光物内外の微気象を測定するとともに苗を植栽し、苗の生理生態特性を比較することで遮光物の導入効果を評価した。微気象観測の結果、遮光物の外に比べ遮光物内では、光強度、温度、水蒸気圧飽差とも低い値を示した。遮光物内に直達光が当たる時間帯では光強度の値が外部とほぼ同じ値を示したが、温度、水蒸気圧飽差の値は外部ほど急激に上昇しなかった。遮光物内の温度、水蒸気圧飽差の値は苗の生育に最適な値ではなかったが、外部の生育に厳しい気象条件より緩和されていた。平均苗高約54cmのDyera costulata(Miq.)Hook.f.(キョウチクトウ科)を遮光物内と外に植栽し、今回設計した遮光物の導入効果をD.costulataの葉の光合成反応から評価した。植栽前と植栽2週間後に、葉の光飽和光合成速度(Pn_<max>)と光阻害の指標となる夜明け前のFv/Fm値を測定した。Pn<max>は午前と午後に測定した。植栽後のPn_<max>は、植栽前に比べ全調査区で低下傾向にあった。植栽2週間後では、午前中のPn<max>が処理区間で明瞭な差がなかったが、午後に遮光物のない調査区で大きく低下した。光合成速度の低下は、高い葉-大気水蒸気圧差(VPD<leaf>)による気孔開度の低下が原因であると考えられた。Fv/Fmの値は、遮光物下では0.7前後と高い値を示したが、全天の調査区では0.5以下の値を示し、乾燥や強光によって葉の光合成系IIが慢性的な光阻害を受けていることが明らかになった。以上の結果から、遮光物を熱帯の裸地に導入することにより、全天条件下に植栽した場合に苗が受ける光合成低下と慢性的な光阻害を緩和する効果があることが明らかになった。
著者
今井 敬子 岩田 礼
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、将来的な中国語デイスコース論の構築のために、基礎的な作業と理論的な検討を進めることを目的にスタートした。デイスコース("談話"とも称される)という観点からの言語研究は、文レベルの文法研究(統語論)の形式主義、抽象主義による限界を見極めた上で近年盛んになった研究分野であり、言語主体のありかた(思考、主観)、言語環境(文脈)、言語使用の背景(文化・社会)などへも目を向けて言語を捉えようとする立場である。中国語でも近年、デイスコース研究への関心が増しているが、本格的な研究はこれからといった段階である。当該期間中に行われた本研究の実際とその成果は以下のようにまとめることができる。本研究ではデイスコースを、表現内容の上でまとまりをもつ複数の文の集合体と捉え、その使用実態と機能を観察した。実際の発話からデータ(音声データおよびそれを文字化したデータ)を収集し分析するという実証的な方法をとった。まず、デイスコースというまとまりを成立させる代表的な手段として、連接語について観察した結果、ごく限られた連接語(因果、逆接など)の目立った多用があり、さらに因果関係を表す連接語の調査を進め、作用域の広さ、多重的な因果関係、表現類型の選択使用と話題の展開のしかたとの関わりを分析、さらには、本来の意味(因果関係の表示)を失い、発話を単に繋いだり終結させたりする機能が見られた。このように実際のデータの中での連接語は、談話の継続、展開、終結などに密接に関与していることから、デイスコース標識として再認識されるべきであろう。本研究ではまた、シナリオのせりふにおける人称代名詞の使用実態を調査し、登場人物間のコミュニケーションのありかたと人称代名詞の選択使用の相互関係を明らかにした。また、声調という音声的特性について、そのピッチの変動を、個別言語、発話主体という両者の面から観察・分析した。なお、残された課題も多い。特に、デイスコースと「視点」の関係性、主題展開の方式につての研究が成果を出せぬまま現在に至ったことが残念である。今後は、これらのテーマについて研究を継続していく計画である。
著者
小川 陽一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

日本国内に現存する日用類書の調査を行ない、当該研究に役立ちそうな日用類書を中心に、写真版等による収集を行った。それらの収集資料によって、日用類書そのものの内容・性格の調査・分析を行った。その結果、これらの明代日用類書が、明代社会における広範な皆層の人びとの日常生活の具体的な面を、即物的に反映しているものであるが知られた。これらをふまえて、明清小説-『金瓶梅』『酲世姻縁伝』『紅桜夢』などに描かれた日常生活の場面の現解や解釈を深めることができた。その結果、これらの小説が深く広く明清の人々の日常生活に立脚して成立していることが窺われるに至った。このようにとらえると、明清小説が日常生活を反映した今日的小説のイメ-ジを与えるが、実際には、因果応報や輪廻転生の物語構造や占メの充満が見られて、かなり特異である。小説のこのような状況もまた日用類書に具体的かつ濃厚に見られるもので、その点でも両者は共通した性格を示す。このことによって、明代・清初の人々の生活内容、現実の質が推測され、今日とはかなり異質であったことが知られる。明清小説はそのような社会に密着したという意味では「日常的」「現実的」なのだが、今日的小説とはかなり異質であると把握すべきであろう-という見通しをもつに至った。
著者
吉川 かおり 天野 マキ 天野 マキ 大迫 正史 坂口 正治 越田 明子 旭 洋一郎 吉川 かおり 藤島 岳
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては、某県内にある某知的障害者更生施設における利用者6名とその保護者、施設職員との共同で、重度知的障害者への非言語的コミュニケーション方法の開発を行った。まず、利用者の全体像をとらえるために、支援職員から見た本人像・家族から見た本人像を調査し、相違点を検証した。また、支援職員がとらえた利用者像を明確化するための研修を実施すると共に、イルカ療法導入・スヌーズレンによる支援・乗馬療法導入に向けての準備を行った。具体的には、イルカとのふれあい体験の実施、水泳・水中活動を通してのプログラムの模索、遊具を用いての発達支援プログラムの開発である。国内外の施設・プログラムの視察を含めながら、対象施設・対象となる利用者にとって最適な方法と用具を模索し、プログラムの開発を試みた。イルカ療法導入の前段階として行った水泳・水中活動は、利用者用の支援プログラムを考案するところまで至ることができた。しかし、イルカ療法を導入するには地理的・気候的・費用的条件の面で困難があり、より手軽に用いる事のできる支援方法を探す必要が示された。スヌーズレンによる支援は、用意できた部屋がリラックスルームのみであったため、そこでの活動を通してコミュニケーションを深めるというところには至らなかった。そのため、他の遊具を用いる発達支援プログラムを考案し、利用者が日常的に楽しみを得ることのできる環境を創出することとした。特に、音の出るおもちゃには関心度が高く、少ない働きかけで多くの刺激が返ってくる遊具を導入する事の有効性が示された。乗馬療法については、その生理学的意義の考察を行い、実際の導入は今後の課題となった。これらのプログラムを導入する事によって、支援職員・保護者の相互理解が深まり、言葉のない利用者が表出する非言語的コミュニケーションの理解の方法および利用者支援の具体的方法が明確化された。
著者
小川 陽一 山口 謡司 勝山 稔
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国では宋時代以後、とくに明・清時代には、民間で商業出版が流行した。私の調査では、その民間の商業出版で、著者への原稿料はどうであったか、版権はどうであったか、本の価格はどうであったか、書店はどのようにして本を仕入れたか、書店はどのようにして本を売ったか、書店はどのようにして経営されたか、書店の景観(店の様子)はどうであったか、などについて調査した。これらに関するデータは非常に少なくて、調査は困難だった。しかし小説や戯曲のなかには、データを少しは発見することができた。李緑園の小説『岐路燈』には開封の大書店のオープニングに至るまでの準備とオープニング・セレモニーの様子が詳しく叙述されていた。孔尚任の戯曲『桃花扇』には南京の大書店・蔡益所の店内が書かれていた。徐揚のパノラマ『姑蘇繁華図』には蘇州の大書店の外観が描かれていた。李漁の戯曲『意中縁』には、杭州で本と骨董品を取り扱う店の仕入れと販売のことが叙述され、絵も付け加えられていた。李日華の日記『味水軒日記』には、書と画の贋物の多いことが詳しく述べられていた。これらのデータに依って、明代と清代の大都会において、書店では本だけではなく、書や画も売っていたこと、本屋の開設には莫大な資金が必要だったこと、書や画には贋物が多かったこと、本の著作権の意識は希薄だったらしいこと、などを発見した。
著者
大塚 浩司 後藤 幸正
出版者
東北学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

X線造影撮影法を用いて、コンクリートのフラクチャープロセスゾーンを検出し、その性状を明らかにすることを目的とする研究を行った結果、研究の期間(平成4年度〜平成5年度まで)に得られた成果の概要は次の通りである。(1)本研究によって得られた、X線造影撮影法はコンクリート中に発生する微細なひび割れ群からなるフラクチャープロセスゾーンを非破壊的に検出するのに有効な手法であることが明らかとなった。(2)CT試験(コンパクトテンション試験)供試体を用い、供試体の寸法を同一とし、コンクリートの粗骨材の最大寸法を4種類に変えた場合のフラクチャープロセスゾーンの検出結果を比較したところ、微細ひび割れ群からなるそのフラクチャープロセスゾーンの性状は粗骨材の最大寸法に極めて大きく関係しており、特にその幅(破壊進行領域と直角方向)は粗骨材の最大寸法が増大するほど大きくなる傾向があることが明らかとなった。その最大幅は、粗骨材最大寸法が5mmの場合はその2.5倍程度であり、微細ひび割れの周辺の雲状の部分も含めると4.3倍程度であった。(3)荷重-開口変位曲線下の面積から求められる、破壊に使用されたエネルギーを破壊領域の面積で除した、破壊エネルギーGFは粗骨材の最大寸法が増大するにつれて大きくなる傾向がみられた。一方、破壊に使用されたエネルギーを破壊領域の体積で除した、破壊エネルギーGWは粗骨材の最大寸法に関わらずほぼ同様な値となる傾向が見られた。(4)粗骨材として河川砂利を用いたコンクリートの場合のフラクチャープロセスゾーンの幅は砕石を用いた場合のそれよりもやや広くなる傾向が見られた。
著者
三宅 隆 ARYASETIAWAN Ferdi
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

標準的な第一原理計算手法である局所密度近似(LDA)の困難の一つとして電子相関の強い系の電子状態が挙げられる。強相関電子系に対する現状の計算手法の限界を明らかにして新しい手法を開発することを目的として以下の研究を行った。1.dバンドのエネルギー準位現在LDAを超える手法としてGW近似が定着している。電子相関の強くない半導体、絶縁体のギャップ値に対して大きな成果を挙げてきたが、局在性の強い電子に対する妥当性は確立されていない。そこで、代表的なII-VI族半導体であるZnSのセミコア軌道(d軌道)のエネルギー準位を調べた。LDAではd軌道はフェルミ準位から6eV下に位置し、実験値の9eVに比べて大きく過小評価される。ここにGW近似による多体補正を加えると約1eV準位が深くなるが、まだ実験値との差は大きい。そこで、LDA+U法によりセミコア準位を実験値の近傍に下げた状態からGW近似を行った。この(LDA+U)+GW法では、d準位はLDA+U法に比べて押し上げられ、通常のLDA+GW法の位置と近い結果が得られた。このことは、GW法が出発点となる平均場解に強く依存しないものの、d軌道のエネルギー準位の定量的記述には不十分であるということを示唆する。2.格子模型との融合LDA, GW法を超えて強相関電子系を取り扱う計算手法の試みとして、第一原理計算を格子模型へマップし、短距離相関効果を格子模型に対する多体問題の手法により取り扱うことが盛んに行われている。これらの方法において問題となるのは、格子模型の同一サイトにおける電子間反発エネルギー("ハバードU")の見積もりである。そこで、RPAにより求めた遮蔽されたクーロン相互作用のd軌道に対する行列要素を一連の遷移金属に対して計算した。
著者
水谷 智 平野 千果子 有満 保江 三ツ井 崇 永渕 康之 松久 玲子 板垣 竜太
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本共同研究では、日本(朝鮮、台湾、沖縄等)とヨーロッパ(イギリス、フランス、オランダ、スペイン、ドイツ等)の植民地史を、「医療」「官僚制」「人種主義」といった<近代性>の問題系に属する主題を軸に再検討した。植民地主義をグローバルな文脈で共同研究するにあたっての<比較>の必要性と危険性の両方に十分に注意を払いながら、様々な支配経験に関する実証研究を突き合わせ、相互参照を可能にする枠組および概念の創出を目指した。その結果、近年の植民地研究の鍵となっている「植民地近代性」(colonial modernity)の概念の可能性と限界が明らかになった。また共同討議の過程で、議論の対象とした植民地帝国のそれぞれが、他国との<比較>によって自国の支配を正当化し統治政策を策定していた歴史像が浮かび上がってきた。<比較>それ自体を歴史研究の対象として主題化し、植民地主義の一部としてそれを根底的に検証し直す必要性が理解されるに至ったのことも、本研究の重要な成果の一つである。
著者
小塚 匡文
出版者
岡山商科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、(1)マクロの消費行動に関する研究、(2)量的緩和政策と時間軸政策についての検証、(3)為替レートを考慮した政策反応関数の推定、を進めた。(1)は、総需要の推計に関連するものである。ここには日米比較のためのアメリカのデータによる推計も含まれる。(2)は先行研究のサーベイと実証分析である。実証研究では、量的緩和政策は長期の経済成長に対して、効果が十分になかったことが示された。(3)は、為替レート予測やインフレ率予測などを考慮した政策反応関数を推定である(共同研究・共著者が第1執筆者)。分析の結果、円安期待とインフレ抑制の関係が示された。
著者
小塚 裕介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は酸化物薄膜のバルクにはない構造制御性を利用し、酸化物ヘテロ構造中に非自明な電子的・磁気的構造を実現し磁気輸送特性を用いてその起源を解明することである。本年度は、チタン酸ストロンチウム単結晶基板上にパルスレーザー堆積法を用いて二次元界面を作製し、界面での伝導特性を評価した。特に高磁場での磁気抵抗に注目し界面での電子の量子伝導性に注目した。まず、ドープされていないチタン酸ストロンチウム上に電子ドープチタン酸ストロンチウム薄膜を堆積し、最後にキャップ層としてドープされていないチタン酸ストロンチウムを堆積させた。この構造に対し電気抵抗の温度依存性を測定すると、非常に良い金属伝導を示し、さらに0.3K付近において超伝導を観測した。超伝導臨界磁場測定を行うことにより、ドープ層の厚さを変化させると、超伝導が二次元から三次元に転移していることがわかった。次に、高磁場を印加し磁気抵抗を測定すると、量子伝導を示唆するシュブニコフ・ドハース振動を観測された。さらに、試料を磁場に対して回転させてシュブニコフ・ドハース振動を測定すると、その周期は磁場の試料に垂直成分のみに依存しフェルミ面が二次元的であることを示している。このように超伝導を示す物質でその常伝導状態が高移動度二次元フェルミ面から成っている物質の観測は初めてである。以上の結果は、酸化物の多彩な物性を組み合わせてヘテロ構造を作製することによって可能となった。今回の成果は酸化物におけるメゾスコピック系という新しい分野の先駆的研究である。