著者
野並 葉子 米田 昭子 田中 和子 山川 真理子 Yoko NONAMI Akiko YONEDA Kazuko TANAKA Mariko YAMAKAWA 兵庫県立大学看護学部成人看護学 平塚共済病院 / Department of Adult Health Nursing College of Nursing Art and Science University of Hyogo Hiratsuka Kyousai Hospital /
雑誌
兵庫県立大学看護学部紀要 = University of Hyogo College of Nursing art and Science bulletin (ISSN:13498991)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.53-64, 2005-03-15

我々は、生活習慣病としての糖尿病患者の病気の体験を明らかにするためには、その人の生活に焦点をあてること、つまりその人の糖尿病に関連した過去から現在までのフィールドを、その人の意味づけの中で、その人自身の語り(ナラティブ)から見ていくことが重要であると考えた。そこで、本研究は、個人に焦点をあて、生活、つまり身の回りの具体的な関係を対象とし、個人が自らの言葉で語ること(ナラティブ)を大事にするライフヒストリー法を用いて、2型糖尿病成人男性患者がどのように病気を体験しているのかを明らかにすることを目的とした。研究方法は、ライフヒストリー法を用いた。データ分析は、インタビューによって得られた対象者の語り(ナラティブ)を聞き手である研究者がライフヒストリーヘと構成し、語り手によって自覚化された病気の体験を明らかにしていった。対象者は、研究参加への同意が得られた4人の糖尿病成人男性患者であった。 2型糖尿病成人男性患者は、ライフヒストリー法を用いたナラティブアプローチによって、病気の体験を自覚化していった。ナラティブアプローチによって自覚化された病気の体験は、「解放された身体」「免罪された身体」「大事にしたい身体」「治る(症状が消えた)身体」であった。「解放された身体」を自覚化していったAさんは、自分の能力を糖尿病(親の持っている病気)を含めた身体の能力として解釈していた。そのAさんはライフヒストリーの語りの中で、<鉛がはがれたように軽くなったからだ>の体験を語り、自分の身体へ関心を向け、身体へ気遣いを向けられるようになっていった。「免罪された身体」を自覚化していったBさんは、病気になったら会社も人生も終わりになり、何もすることがなくなると解釈していた。そのBさんはライフヒストリーの語りの中で、生活を自覚してこなかった<悪かった私>の体験を語り、自分を許し、地元の名士の言葉で自分が許されたことで自分の身体を気遣う気持ちを表していった。一方、「大事にしたい身作土を自覚化していったCさんは、<自分がつくってきたからだ>が、糖尿病によって<骨が減って魅力がなくなったからだ>となり自分が恥ずかしいと解釈していた。ライフヒストリーの語りの中で、<魅力がなくなったからだ(骨)>の体験を語り、今からは大事にしたいという自分を芽生えさせていった。さらに、「活る(症状が消える)身体」を自覚化していったDさんは、<待つことが普通の生活パターン>という生活への対処を身につけており、糖尿病の療養法を簡単に活してくれるものと解釈していた。Dさんはライフヒストリーの語りの中で、<病院に来たら活る(症状が消える)>体験を語り、自分の病気、身体へ関心を向け始めていった。これらのことから、人が生活習慣病としての糖尿病の療養に取り組んでいくためには、「習慣としての身体」を意識にあげていく必要があることが示唆された。
著者
柴田 勝二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.38-50, 1996-09-10

三島由紀夫の『鏡子の家』は時代の相貌を描くという意図のもとに書かれた作品だが、そこにあらわれているものはむしろ三島自身の内に生じるに至った「壁」である。夭折への志向を断念し、現実生活を受容しようとすることがこの作品の動機を成すとともに、作者における表現への衝動を希薄にしていた。この作品で追いやられた存在として登場する父親は戦後社会において追放されていた天皇の寓意であり、この「天皇」の導入が三島の世界に新しい基調をつくっていく。『鏡子の家』はその端緒となる作品であった。
著者
KURAMOCHI Masaya UEDA Hiroaki
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2023-002, (Released:2022-10-07)
被引用文献数
1

The turnabout of air temperature anomalies over East Asia between the first and second halves of winter 2020/21 was examined from a teleconnection perspective with regionally different convective heating anomalies over the Indo-western Pacific sector. In the first half of winter 2020/21, the air temperature over East Asia was lower than normal, accompanied by a pair of anticyclonic and cyclonic anomalies in the upper troposphere southeast of the Tibetan Plateau and north of Japan, respectively. This dipole pattern is newly referred to as Southeast Asia–Japan (SAJ) pattern in this study, indicating the propagation of Rossby waves caused by enhanced tropical convection over the eastern Indian Ocean toward the South China Sea. In the second half of winter 2020/21, the enhanced convection shifted eastward to the Philippine Sea. The subsequent anticyclonic anomaly changed its position to the south of Japan, which was similar to the western Pacific (WP)-like teleconnection pattern, causing warmer conditions over East Asia. The composite analysis indicated that the anomalous anticyclone over the southeastern Tibetan Plateau corresponding to the SAJ pattern emerged simultaneously with intensification of convection over the South China Sea. Half of the cases of the WP-like pattern have been accompanied by enhanced convection over the Philippine Sea. The different circulation patterns were reproduced by prescribing the heat source over the South China Sea and Philippine Sea to the linear baroclinic model. Moreover, the vorticity budget analysis suggested that the presence of upper-tropospheric convergence of winds to the southeast of the Tibetan Plateau seen in the climatology is conceivable for the in situ localized anomalous circulation constituting the SAJ pattern due to vortex stretching effects.
著者
森 正樹 林 恵津子 Masaki Mori Etuko Hayashi
出版者
埼玉県立大学
雑誌
埼玉県立大学紀要 = The bulletin of Saitama Prefectural University (ISSN:13458582)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.27-34, 2012

障害児保育巡回相談を行う専門職が、幼稚園・保育所との協働関係を構築する際の諸課題について面接法により調査した。その結果、これらの現場で、必ずしも専門職の役割が十分に理解されず、巡回相談の有効活用が進まない状況が示された。また、保育者に現場の実践に根ざした具体的なアドバイスを行うことの難しさも報告された。さらに、専門職と保育者の間に依存的関係が固定化するリスクや、対等な関係構築の困難さも指摘された。 これらを踏まえ、専門職に求められるコンサルテーションの技術に関し、以下の諸点の提言を行った。1.関係性の中に自らの専門性を位置付ける柔軟性、2.保育者の実践に学ぶ姿勢、3.発達障害児等のニーズを包摂する保育実践の再構成への支援、4.保育者の協働性開発への支援、5.保育者による実践の言語化と課題解決プロセスの促進・共有、6.状況把握の俯瞰的視点、7.健全な批判を可能とするパートナーシップの構築、8.保育者が自らの専門性と創造性を開発するための支援。
著者
千田 哲資 陳 新民
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.68-76, 1975-12-15 (Released:2010-06-28)
参考文献数
32

インド・太平洋海区からは5種のヒメダイ属が知られており, そのうち側線鱗数が50前後のものはPristipomoides typus Bleeker1種のみとされていた.しかるに, 南支那海およびアンダマン海のヒメダイ属魚類のうち側線鱗数48~52の魚には別種と見做すべき2型があり, そのひとつはP.typusであり, 他はBleeker (1876~1877) 以来その異名同種とされてきたDay (1870) のMesoprion multidensに該当することが判った.後者を前者より区別する主要点は, 吻および頬部に黄色線がある, 頭頂部の虫食い状斑紋が横に走る (前者では縦), 眼下骨幅が大きい, 上下両顎の犬歯が大きい, 尾鰭上葉の延長がより若いうちにみられなくなる, 第一血管棘の横幅は基部より約3/5の点で急に狭くなる (前者では基部から尖端に向かって一様に横幅を減ずる), 第一尾椎骨の血道弓門は卵形である (前者では細長い三角形), などである.目本人研究者 (赤崎, 1965;篠原, 1966;久新・他, 1973) によりナガサキフエダイの和名で記載されている魚はP.multidensであり, 新たにP.typusの和名としてバラヒメダイを提唱する.目本では屡々ナガサキフエダイの学名としてP.arglyrogrammicus (Valenciennes) が採用されているが, 後者の模式標本の側線鱗数は, 58 (Sauvage, 1891) もしくは61 (パリ国立科学博物館Dr.Rouxによる) であり, 両者が同種である可能性はない.Schlegel (1842) が目本より報告したDiacope sparusが表記両種のいずれを指すかは明らかでない.
著者
上田 正人 目崎 拓真
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

サンゴ礁は破滅的な状況にあり,多岐にわたる専門家がその保全に取り組んでいるが,有効な打開策は確立されていない。従来の延長線上にない革新的な切り口が必要である。研究が飛躍的に進んでいる領域の知見を転用・活用することが有効である。医療分野では組織から単離した細胞の利用がパラダイムシフトをもたらせた。サンゴでは水温上昇など環境が悪化すると,そのストレスにより軟組織のポリプがベイルアウト(剥離・脱離) する。ネガティブな現象であるため,それをサンゴ礁再生に利用する発想はなかった。本研究では,そのベイルアウトを人工的に誘発し,サンゴ片から採取したポリプを起点にサンゴを増殖する手法を確立する。