1 0 0 0 OA EPR効果

著者
高倉 喜信
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1058_1, 2016 (Released:2016-11-01)

腫瘍組織の毛細血管は,腫瘍の増殖に伴う血管新生により形成されるため分岐が多く血管壁も不完全であるために,透過性が亢進している.したがって,血中滞留性の高い高分子や微粒子はこれらの腫瘍組織において血管外へと漏出しやすい.さらに,腫瘍組織はリンパ系が未発達あるいは欠如しているため,漏出した物質がリンパ管を介して消失しにくく蓄積しやすい.この現象をEPR効果(enhanced permeability and retention effect)と呼び,抗がん剤のパッシブターゲティングの基本原理となっている.
著者
高田 洋吾 荒木 良介 野々垣 元博 海老田 一章 石井 利長 脇坂 知行
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.76, no.764, pp.650-659, 2010-04-25 (Released:2017-06-09)
参考文献数
20
被引用文献数
3 2

Polymer electrolyte fuel cell (PEFC) is expected to applications for various usages such as a power source for small robots and personal computers because PEFC has high energy density and can generate electric power under low temperature environment. As the application, swimming fish robots with PEFC are useful for various usages such as ecological investigation in water etc. In the case that rechargeable batteries are used for supplying electricity to robots, they are not able to continue swimming for a long time because of low energy density of the batteries. Therefore, a small and ultra-light passive-type polymer electrolyte fuel cell called "Power Tube" has been developed. On the basis of this fuel cell technology, the authors have created low energy consumption small fish robots powered by Power Tubes on a float or a buoy. The fish robot with a float swims for approximately 50 minutes by only Power Tubes with a voltage booster and the other fish robot with a submersible system can also swim for about 50 minutes by a hybrid system of a lithium polymer battery and Power Tubes.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.149-172, 2020-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
60
被引用文献数
7

本稿では,長野県上田の若手創業者の実践を通じて,地方都市における雇われない働き方・暮らし方の可能性について検討する.自営業の減少という一般的傾向は,規模の大きなコーホートの引退によるところが大きく,青壮年層には「新しい自営業」と呼ばれる人々が一定程度存在する.上田の若手創業者の活動は,学校縁や場所が育むつながり,自然発生的な創業者同士のつながりなど,多様な契機によるマルチスケールの関係性に支えられており,利潤動機のみには回収しえない多面性を持つ.そうした活動は大きな経済的価値をもたらすものではないが,地域社会をより包摂的にし,芸術や文化,社会関係資本を涵養している点で,その意義は大きい.本稿の後半では,ポランニーの統合の諸形態とJ. K. Gibson-Grahamの多様な経済の概念に基づき,上田の創業者の諸活動が市場での交換以外の多様な経済に彩られていることを示し,その理論的・実践的意味について考察する.
著者
長谷川 雄紀 岡本 隆嗣 安東 誠一 前城 朝英 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.623-629, 2019-08-16 (Released:2019-09-26)
参考文献数
20

脳腫瘍はさまざまな機能障害を引き起こし日常の活動や参加を制限する.脳血管疾患などと同様にリハビリテーション医療の役割の重要性は認識されているが,回復期リハビリテーションにおける入院管理の検討は不十分である.過去の報告や当院に入院した脳腫瘍患者に関するデータをもとに回復期リハビリテーション病棟における留意点や対応の検討を行った.良性の髄膜腫が多く,全体として入院リハビリテーション治療での有意な機能的改善を認めたが,合併症の治療や検査で急性期病院への転院を要することがあった.機能や生命の予後を考慮した入院リハビリテーション治療だけでなく,検査や合併症,後療法日数の管理などで急性期病院との連携や退院後支援を含めた包括的リハビリテーション医療体制の構築が望まれる.
著者
栗田 隆志
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.565-566, 2008-12-18 (Released:2010-09-09)
参考文献数
3
著者
市原 靖子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.760-769, 2018-11-15 (Released:2018-12-26)

悪性高熱症は主に全身麻酔中に突然高熱を発する,常染色体優性遺伝の筋肉疾患である.発症には遺伝素因,抑制因子の欠如,および誘発因子が関与する.本症の特異的な症状はないが,早期発見・早期治療がなされなければ死に至る.この疾患の素因を術前検査から診断することは難しい.日本麻酔科学会では会員が悪性高熱症に対する理解を深め,実践できるよう,悪性高熱症管理ガイドラインを2016年に制定した.本ガイドラインは患者救命を最優先にする必要な処置が記載されている.ただし,ガイドラインでは原則を記載したのみで,本疾患の病態を理解し,現場の状況によって適宜修正する必要はある.
著者
中村 建
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.111-123, 2023-01-31

有島武郎の戯曲「死と其前後」は従来、作者自身及び病死した作者の妻に関する伝記的事実に大きく傾斜した研究が多くを占めている。また、この作品の解釈も前述の事実を踏まえた上で死に対する夫婦の愛の勝利といった見方が主流であり、テクストに即した研究が不足していると言わざるを得ない。そこで本稿では、特に同時代においてなされた夫婦の「愛の勝利」という解釈が、近代日本におけるメーテルリンク受容と関わりのあったものであることを示すとともに、テクストに即して「愛の勝利」の内実を明らかにする。後年、「メーテルリンクの季節」と呼ばれた当時、三角関係を題材とした『アグラヴェーヌとセリセット』がしばしば話題され、有島も小説に引用し、「死と其前後」への評価でも引き合いに出されるほどであった。しかし当時の受容は、難解な戯曲の内実を深く理解していたものというよりも、戯曲というジャンルが運命や人の内面を直感的に表現できるという一種の神秘主義的なものであり、そのような文脈の中で「死と其前後」も受容されたのであった。次に、夫婦の愛について戯曲のテクストに即して分析を試みる。この戯曲は「愛の勝利」として評価されてきた一方、その愛について否定的な評価も根強い。筆者はこれを愛を相対化する回路として評価しつつ、有島の「恋愛の多角性」の主張との関連から考察を試みる。有島は晩年、同時に複数の人物に恋愛するという「恋愛の多角性」を唱えていた。劇中、何人もの女性に誘惑を感じてきたことを告白する夫は、そのような有島の後年の主張を予期させるものである。また、夫からの愛を疑う瀕死の妻へのそのような夫の告白は、妻との愛を確認しつつもその愛の不可能性を露呈するものである。以上の内容から、「死と其前後」における愛の勝利と不可能性は、有島が自己と他者の同化を唱えた一方で認識を自己批判するような晩年への変遷を予見させるものであると言える。
著者
岡本 智周
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.3-19,190, 2004-05-31 (Released:2016-05-25)
参考文献数
25

This paper presents the current identity status of U.S. citizens of Japanese ancestry living on the West Coast and in Hawaii, and focuses on the way in which members of the younger generation connect "being a minority" with "being an American." In doing so, this paper examines the relationship between the empowerment of ethnic minorities and the conservative tendencies of American society. Neoconservatives claim that racial discrimination and racial equality should be considered only on the level of the individual, not on the level of ethnic groups. In the "color blind" United States of the twenty-first century, this logic can be adopted even by minority groups that have obtained some social power. This paper reviews previous studies about Japanese Americans' identities, and shows the result of the author's own research on the contemporary conditions of U.S. citizens of Japanese ancestry. Japanese Americans on the West Coast and Hawaii share the following two characteristics. First, among people of Japanese ancestry, those of the younger generation assert the priority of their American identity. They evoke their Japanese ethnicity secondarily in order to claim their uniqueness and to promote the diversity of the American nation. Second, the separateness of the Japanese ethnic group is disappearing. As seen in the examples of Japanese American Citizens League and Japanese American National Museum, the goals and the membership of the organizations are no longer exclusively and specifically Japanese. This paper therefore concludes that the democratization of national unification in the U.S. has proceeded in conjunction with not only the risk of populism in connection with overwhelming individualization, but also with the possibility of hybrid identities.
著者
古賀 款久
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2-3, pp.115-164, 2019-12-20

本稿では、わが国の大企業約1680社における28年間 (1990-2017年度) のパネルデータを用いて、研究開発優遇税制の実効税率を推計した。実証分析の結果、次の三点が明らかになった。第一に、実効税率は、増加ベースの下では非常に低い水準に留まっていたが、支出ベースに転換した2003年度以降は法定税率に近い水準にまで上昇した。第二に、観測期間を通じて、非製造業の実効税率が製造業のそれよりも高かった。しかし、支出ベースへの移行は、製造業、とりわけ化学、医薬品などの研究開発集約的産業の実効税率を大きく上昇させた。第三に、反事実的な考察を通じて、法定税率の切り上げや控除限度額の拡大は実効税率を上昇させることが、反対に、法定税率の切り下げや控除限度額の縮小、繰越税額控除制度の廃止は実効税率を低下させることがわかった。ただし、実効税率の変化の大きさは施策によって異なり、法定税率の変更は、控除限度額や繰越税額控除制度の変更に比べると、実効税率の水準に大きな影響をもたらすことがわかった。
著者
岡 耕平
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.654-659, 2022-11-15 (Released:2022-12-23)
参考文献数
14

従来の医療安全では,事故の原因を特定し対策することで再発を防止するアプローチが主流であった.しかし防止策の効果もある程度で上限が見え,防止策として増やした手続きが新たな事故の要因になることが問題となってきた.そこで近年は,むしろ日常業務でなぜ事故が起こらないのか調べることで安全維持能力を高めようとするアプローチが重視されるようになってきた.しかしながら,日常業務がなぜうまくいっているのか評価することの意義や具体的アプローチについては明確な指針がない.本論文ではこれまでの安全研究のアプローチや事故の捉え方の変遷を踏まえながら,近年の医療安全研究のトレンドや今後のアプローチについて整理する.