著者
田村 純一
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を起こす蛍光発色基を装着したヘパラン硫酸オリゴ糖を酵素基質として化学合成することにより、迅速かつ簡便なヘパラナーゼ濃度の診断を可能にし、がんの早期発見法を開発する。本研究期間中に、基質となるヘパラン硫酸四糖骨格の高収率かつ立体選択的な合成経路を確立した。現在FRETを起こす蛍光発色基の糖鎖への装着を進めている。
著者
竹内 保
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

胸腺内T細胞分化に関与する胸腺上皮細胞表面蛋白質、HS9を過剰発現するトランスジェニックマウス3系統を作出した。HS9は生理的には胸腺外側皮質に発現する。これに対して、いずれの系統のトランスジェニックマウスでもHS9は胸腺上皮全般に発現していた。トランスジェニックマウスには外見上の奇形および病変は認められなかったが、胸腺細胞数は1.2-1.8倍に増加していた。主にCD4CD8陽性でTCR陽性の分画が増加していた。この結果はHS9がCD4-CD8-(DN)からCD4+CD8+(DP)への胸腺T細胞分化を促すという従来の知見を裏付けるものである。さらに、これらトランスジェニックマウスはsplenomegalyを呈しており末梢の免疫異常を伴うことが示唆される。ConAによるT細胞刺激による反応性が低下していることが明らかになった。また、本年度はノックアウトマウスの為にベクターを構成した。129マウス用にHS9をコードするgenomicDNAを単離してエクソン1-3の置換型タイプのベクターを開発した。
著者
桑野 栄治
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、対象時期を14世紀後半の高麗(918〜1392年)末期よりほぼ15世紀全般に相当する朝鮮王朝(李朝。1392〜1897年)初期までの約150年間とし、正朝(元旦)・冬至と聖節(明の皇帝の誕生日)に朝鮮の王都漢城(現ソウル)で実施された対明遥拝儀礼(望闕礼という)の制度的変遷とその実態を『高麗史』『朝鮮王朝実録』など官撰史料を中心に追究したものである。その成果の概要は以下の通りである。1 高麗国王が明の皇帝を遥拝する儀礼は、明の太祖洪武帝の即位から4年を経た恭愍王21年(1372)の冬至に王都開城で初めて実施された。これこそ朝鮮初期の歴代国王が実施した望闕礼の原型である。朝鮮国王はみずからが北京に赴いて明の皇帝に拝謁することに代え、朝鮮の王宮にて王世子・文武官僚とともに望闕礼を毎年実施した。この儀礼は朝鮮国王にとっては明中心の冊封体制下における外交儀礼であり、君臣間の儀礼的関係を官僚の前で示す装置としても機能した。2 ところが、クーデターによって王位を簒奪した世祖は、治世年間の後半期になると望闕礼を放棄した。その一方で世祖は中国の皇帝のみが行いうる祭天儀礼(圜丘壇祭祀という)を王都の南郊で実施しており、朝鮮初期の儒者官僚の対明観と皇帝観を覆す異例の行動であった。冊封体制に対する挑戦ともいえる。3 朝鮮国王が王宮で望闕礼を終了すると、ひきつづぎ朝賀礼と会礼宴が実施された。その会場には受職女真人をはじめ日本・琉球からも多様な使節が参席した。彼らはいわば「朝貢分子」であり、その代表格が朝鮮王朝の諸侯を自称する対馬宗氏である。朝鮮政府が北方の女真人を厚遇した背景には辺境の防備という現実的な軍事問題があり、南方の倭窟対策として倭人を撫接する外交政策と相通ずる。
著者
加藤 裕教 根岸 学
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

がん細胞の浸潤・転移に深く関連のある細胞接着や運動に関して、Rhoファミリーの低分子量G蛋白質の関与がこれまでにも数多く報告されている。最近Dock180に代表される、新しいタイプのRhoファミリーG蛋白質活性化因子(Dockファミリー)の存在が明らかになった。本研究では、我々が新しく見出したRhoG-ELMOを介したDockファミリーの活性制御メカニズムが、乳癌細胞の浸潤に促進的に関与していることを明らかにした。我々は始めにRhoGの上流について検討を行い、RhoGを活性化するGEFとしてEphexinファミリーに属するEphexin4を見いだした。Ephexin4は乳癌細胞において発現が見られ、乳癌細胞の浸潤性と深く関係があるとされるEphA2と細胞内で結合していることを見いだした。さらにショートヘアピンRNAにより内在性のEphexin4をノックダウンさせると乳癌細胞の運動性が抑制され、ノックダウン細胞にEphexin4もしくは常時活性型RhoGを発現させることでそれは細胞運動の抑制が解除された。Ephexin4によるRhoG活性化の下流では、ELMO2-Dock4複合体が関与していることも明らかとなった。以上の結果から、Ephexin4によるRhoGを介したDock4の活性化という新しいシグナル伝達経路を見いだし、この経路が乳癌細胞の浸潤性の増強に深く関わっていることが考えられた。
著者
山本 安夫 櫻木 弘之
出版者
都留文科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

研究代表者(山本)と海外協力研究者Th.A.Rijkenによって中間子論的SU3不変模型Extended Soft Core model (ESC)が開発された。この模型においては、従来のeffective scalar mesonsに代わってtwo meson exchange (pair term)の寄与が直接取り入れられ、極めて良い精度でNN散乱位相差のデータを再現すると同時に、ハイパー核のデータとの全体的に整合する。本研究において、ESC模型より導かれるG行列相互用G_<XX>(r;ρ,E)を用いたfolding modelによる核-核散乱の解析が大きく進展した。特にESC模型で核物質の飽和性を保証するために取り込まれている3体斥力の効果が系統的に現れることが示された。ESC模型のSU3不変性を踏まえ、G行列folding modelはハイペロン-核間相互作用の解析に適用された。旧来のESC模型には実験が示唆する強いΣ-核間斥力が出せない問題があったが、今年度に完成したESC08においては、クォーク・クラスター模型で与えられるPauli forbidden statesの影響を現象論的に取り入れることでその問題が解決された。N-核の場合と同様の枠組で得られるΣ-核相互作用を用いてΣ-核散乱の微分断面積を計算し、得られる角度分布のパターンがΣN相互作用の特徴を反映することを示した。また準自由(π^-,K^+)反応の強度関数を計算し、ESC08より導かれる斥力的Σ-核相互作用の結果が、引力的相互作用による結果よりも実験データの現象論的解析の結果とよく整合することを示した。以上の成果はHyp-X国際会議(2009年9月、東海村)において発表された。
著者
佐藤 公則 渡邊 睦 鹿嶋 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究はドアノブを握るという自然な動作の中で取得しやすい掌紋を個人認証に用いることを提案した.認証手法としては回転や移動,拡縮,明度変化にロバストであるSIFT特徴を用いている.ドアノブを握る動作の中で取得される1枚の画像のみでは握りの強弱により歪みが発生する.そこで,ドアノブを握る動作の動画を用い,複数の掌紋画像を時系列に時間幅を持たせて比較することを提案し,掌紋の歪みを考慮した認証を行うシステムを構築した.その結果,等価エラー率EERは3.16%となった.また他人受入率が初めて0%となる箇所を見た場合,本人認証率は93.7%となった.
著者
志摩 園子
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

冷戦終結後のヨーロッパの東方拡大により他の東・中央ヨーロッパ、バルト諸国と並んで、ラトヴィヤは2004年5月1日にヨーロッパ連合に正式加盟を果たした。これは、1991年に、ソ連から独立を回復してからのラトヴィヤの外交政策の最優先事項であった。このラトヴィヤの独立回復とその後の国家形成は、戦間期に独立をしていたラトヴィヤ共和国をその存在基盤としている。したがって、とりわけ、独立回復後の歴史の見直しにおいて、この「国民国家」ラトヴィヤが、いかに苦難の中から独立を勝ち取ったかという「国民の歴史」が重視され叙述されているのが現状である。このような描き方は、他のバルト諸国の歴史叙述も含めて、一般的なバルト諸国の国家形成史として、冷戦期は欧米の亡命者によって示され、冷戦終結後は、地域内で現われてきている。さらに、こういった歴史叙述の傾向は、戦間期の独立時代にみられたような国民国家としての「国民の歴史」の叙述を想起させるものであり、その歴史観の復活のようにもみえてくる。20世紀末のこの現象は、ラトヴィヤにとって、まさにソ連からの分離・独立回復としての思想的な裏づけをするための政治的な欲求の発露に他ならなかったのである。ところが、実際のラトヴィヤの独立経緯を歴史的な史実に基づいて考察するならば、果たして、国家形成を目指して独立したのかという疑問がわく。また、欧米の研究者が大国のパワーポリティックスの視点に立って国際政治的な観点から叙述する時、ラトヴィヤをはじめとするバルト諸国の独立は偶然の産物であるという主張にも疑問が生じる。これらの疑問に対して、著者は国際関係史の視点から次のように考える。ラトヴィヤ人の民族意識そのものは確かに19世紀後半から育ってきていたものの、実際の国際関係の複雑な動きとラトヴィヤ人の利益を反映するような主体的な動きとの複雑な絡み合いが、歴史的経過の中で係わり合いながら展開した結果、ラトヴィヤの独立に至ったと考えるのである。換言するならば、ラトヴィヤ人としての共通のアイデンティティや地域的な一体性への要求は展開されながらも、国民国家成立に向けての準備ができていないままに、複雑な国際環境の波間に投げ出されたラトヴィヤ人が、歴史の流れの中でラトヴィヤ人の利益を主体的に反映できるのは国民国家であるという理解に至るという経過こそが、独立国家成立への重要な背景となるのである。従って、国家基盤の脆弱性が、地域協力への関心へとつながっている。
著者
西方 篤
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

耐候性鋼製のくし型プローブ電極を試作し、新潟市の苗引橋と福山市の両国橋(いずれも耐候性鋼橋梁)において、耐候性鋼の腐食モニタリングを2年間実施した。低周波数のインピーダンスの逆数1/Z_<10mH>の平均値は、腐食減量から得られた平均腐食速度Icorrと極めて高い相関を示し、相関式(Icorr/μAcm^<-2>)=17. 7×(Z10mHz/Ωcm^2)^<-0. 16>を得た。この相関式によりモニタリングデータから直接平均腐食速度を推定することが可能となった。
著者
芳賀 洋一 松永 忠雄 牧志 渉
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1本の光ファイバーを電磁的に2次元スキャンさせ画像を構成する原理を用い、細径かつ解像度の高い医療用内視鏡の実現を目指した。血管内、乳管内、歯周ポケットなどへ挿入し光学的観察を行うことを想定している。外径2mmのポリイミドチューブを基板とし、円筒面上へのフォトリソグラフィーと銅の電解めっきにより2次元駆動のための多層コイルを作製した。円筒状基板へのフォトリソグラフィーは、露光光としてレーザ光をスポットで照射し、基板をステージ制御で動かすレーザ描画で行う。スプレーコーターでレジストを均一な膜厚で塗布し、レーザ描画露光装置を用いてコイル形状をパターニングする。その後レジストを型として電解めっきを行いコイルの作成を行った。光ファイバーを電磁的に駆動し振動させるため、永久磁石を取り付けたコリメートレンズ付き光ファイバーをコイル内に内蔵する。永久磁石は、外径500μm、内径140μm、長さ2mmのFe-Cr-Co系永久磁石を使用した。また、コリメートレンズは外径125μmで長さ790μm、焦点距離750μmのファイバー融着型グリンレンズを使用した。コイルに交流電流を流すと永久磁石の磁気モーメントが磁界と揃うように曲がり光ファイバーを振動させる。X,Yそれぞれの1次元の駆動および、X方向とY方向の位相を90度ずらした状態で正弦波振動させ円を描き、2次元駆動を確認した。
著者
亀田 幸枝 島田 啓子 田淵 紀子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、妊娠・出産・育児に向けた妊婦の主体的行動を支援するために妊婦のエンパワメントを把握し、出産前教育の評価指標となる尺度を開発することである。臨床での尺度の有用性を確認し、修正した尺度の信頼性・妥当性を検討した。調査の結果、エンパワメント尺度を用いてクラスに参加した妊婦のエンパワメントの変化が把握できること、また、エンパワメントの高さは妊婦の主体的行動に影響することが示された。よって、エンパワメントに介入する意義、出産前教育の評価指標としての有用性が示された。また、尺度の修正版を作成し、妥当性と信頼性を確認した。今後、更に尺度を洗練させ、効果的な出産前教育を検討することが課題である。
著者
亀田 純
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

浅部化石付加体である三浦-房総付加体に発達する沈み込み帯前縁断層(白子断層、浅間断層)を対象として粘土鉱物分析を行った。その結果、いずれの断層においても断層内部(断層ガウジ)における局所的なスメクタイト-イライト相転移反応の進行が見られた。この反応はおそらく断層運動時の摩擦発熱によるものと考えられ、地震性の高速すべりが付加体先端部まで到達していたことの物的証拠と考えられる。
著者
村主 崇行
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

私の研究計画の主眼は、ソフト的には「物理的自由度、ないし計算資源」の適切な分配の実現、ハード的には価格性能比が良い汎用GPU型並列計算機の利用によりシミュレーション宇宙物理学で独創的な研究を実現することであった。DC2採択までに行った準備的研究の結果、当初の研究計画にあった無衝突粒子加速現象に加えて、当初の計画では、GPU化が困難と考えていた流体計算についても、GPU化できるという目途が立った。そこで、2009年4月から8月にかけては、無衝突加速現象の数値実験を行い、統計データをためる一方で、原始惑星系円盤における氷粒子の表面帯電と電荷分離の素過程の研究を行った。2009年10月にはこれに関する論文[1]を提出し、受理された。つぎに、2009年9月には、並列GPU計算機向けの3次元流体シミュレータを作成し、2009年11月より東京工業大学のTSUBAMEグリッドクラスタ、つづいて長崎大学のDEGIMA GPUクラスターコンピュータにて、本格的な規模のGPUを利用した研究を開始した。宇宙物理学の未解決問題として、星間物質の熱的不安定性によって引き起こされる3次元乱流の研究を選んだ。その結果、前人未到の高解像度の計算を実現し、幅広い応用〓をもつもののGPU化は困難とされていた流体計算がGPU計算に適していることを実証した。この結果を論文にまとめ、投稿している。私は自分自身の研究を進めつつ、共同研究、講習会を主催・参加してGPUのメリットを分かちあってきた。すると、GPUやより将来の計算機を使う上での障害も見えて来、研究計画にあった「アルゴリズムの記述を元に、設計の異なる計算機に対してコードを自動生成・変換する」手法の重要性がますます明確となってきた。そこで、長期的視点に立ったコード生成手法の研究開発を主眼とし、京都大学の次世代研究者育成センターの職員に応募したところ採用され、2010年4月より特定助教として、宇宙物理学および情報学、さらには学問一般を見据えた研究に邁進している。
著者
二村 雄次 佐野 力 安部 哲也 梛野 正人 横山 幸浩 國料 俊男 千賀 威 西尾 秀樹
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

大腸癌皮下発癌モデルに対してNek2 siRNAとS1併用投与群はNek2 siRNA単独投与群より有効であった。Nek2 siRNAとCDDP併用投与群においても有効であり、相加効果であった。ラットでのNek2 siRNAの血中移行は局所投与後15minで最高となり60minでほぼ消失していた。またNek2 siRNAの毒性試験より無毒性量(NOAEL : No Obeserved Adverse Effect Levels)は3.7(mg/kg)で、Nek2 siRNAの最大推奨初期投与量(MRSD : Maximum Recommended Starting Dose)は0.0285(mg/kg)であった。
著者
石口 彰
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、視覚系の様々なレベル(初期過程から高次過程まで)における視覚検出課題や視覚識別課題において、最適な決定を下す理想観察者と実際の観察者の知覚能力を比較し、効率という観点から視覚系の決定過程の特性を検討するものである。本研究の成果は次の通りである。(1)ランダムドットステレオグラム(RDS)を用いた、矢状平面に関する対称構造(3次元空間内での観察者中心座標系における対称構造)の検出効率を測定。組み込まれるガウスノイズは、両眼視差に関するノイズである。日本心理学会59会大会(平成7年10月)発表(2)ランダムドットステレオグラム(RDS)を用いた、奥行き方向に重なり合う2枚の平面の識別に関する効率の測定。この結果と、隣り合う2枚の平面の識別実験の結果とを比較した。組み込まれるガウスノイズは、両眼視差に関するノイズである。日本心理学会60回大会(平成8年9月)発表(3)ランダムドットシネマトグラム(RDC)を用いた、運動位相の識別に関する効率の測定。組み込まれるガウスノイズは、運動光点の位相に関するノイズである。日本心理学会60回大会(平成8年9月)(4)RDCを用いた、交差する運動刺激の位相差検出に関する効率の測定。組み込まれるガウスノイズは、運動光点の位相に関するノイズである。日本心理学会61回大会(平成9年9月)発表予定(5)運動光点から剛体構造の復元に関し、2種の剛体、および剛体ト非剛体の識別に関する効率の測定。組み込まれるガウスノイズは、運動光点の位置に関するノイズである。
著者
藤井 省三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1949年の人民共和国建国以来、1988年の台湾全面自由化までの四〇年間、香港は台湾海峡を挟む中国・台湾の間にあって国家機構の過酷な統制を免れ得た「公共空間」であり、そこでは経済発展に伴い独自の文化が成熟した。80年代に至り中国返還が問題化するにともない、市民層は香港人アイデンテイテイの確立を強く求め、その際に大きな役割を演じたのが相互に密接な関係を有する文学と映画であった。本研究は香港アイデンテイテイの形成とこれに対して文学・映画が果たした作用を歴史的に解明し、「香港文学」という概念が登場してくる過程を明かにすることにある。主に1950年代以後の香港の文化および社会を対象として、以下の課題について調査・研究を行った。(1)香港文学の成熟と香港アイデンティティの形成:主要な三作家を取り上げ、也斯に関しては論文「香港詩人のFoodscapeというファンタジイ」、李碧華に関しては共著『文学香港与李碧華』等、施叔青に関しては拙訳『ヴィクトリア倶楽部』(国書刊行会)所収の「解説」で考察した。(2)香港映画の成熟と香港アイデンティティの形成:50年代の宝田明・尤敏コンビの『香港三部作』を中心とした日本映画界との影響関係を考察した成果は、宝田明(語り手)・藤井省三(聞き手)、「インタビュー宝田明、『香港三部作』を語る」また香港映画が香港および口頭発表「張愛玲〜上海文壇から香港映画界へ」で報告した。また中国の20世紀史を香港映画がいかに描いているかという問題は、拙著『中国映画 百年を描く、百年を読む』(岩波書店)香港の章収録の7本論文で考察した。(3)(1)(2)に関する国際シンポジウム等の開催およびその他のシンポジウムへの参加:香港大学中文系開催シンポでは「東亜的村上春樹現象」(中国語)を、国際交流基金開催のシンポでは「香港映画の黄金時代I」の報告を行い、前者の内容は論文「村上春樹と東アジア」に記した。
著者
樋田 大二郎 岩木 秀夫 耳塚 寛明 苅谷 剛彦 金子 真理子 大多和 直樹
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

われわれが1979年以来行ってきたデータの再分析、および日本、シンガポールの再調査を行っている。シンガポールは、非常に学歴が重視される国であり、研究者の間ではメリトクラシー(能力と努力の結果が支配する)の国であると考えられている。こうした背景には、シンガポールの国際社会やアジアにおける軍事的、経済的位置づけやさらには多民族の融合というこの国独自の事情がある。しかし、それだけでなく、人々を学習に駆り立て、学習の結果を人材の社会的配分の基準にすることを正当化するような考え方や仕組みが存在する。一昨年度以来のわれわれの調査では、シンガポールは、教育政策においてアファーマティブ・アクション(マイノリティへの優遇:大学入学枠の確保、点数の加算など)や救済重視的な社会的敗者対策はとらずに、競争参加への機会均等をすべての国民に対して保証する/競争の結果に基づいて地位配分を行う/競争の結果に基づいて地位配分が行われるプロセスと基準を明確化し納得させる/競争の内容(学習の内容と方法)を明示化し納得させる/競争の内容(学習の内容と方法)を「学問中心」ではなく、生徒の興味、企業からの要請や国際社会からの要請に応じたものにしている/競争の内容(学習の内容と方法)が卒業後の生活と結びついていることを生徒に認知させ、納得させる/競争の結果に基づいて手厚いエリート教育と手厚い大衆教育を行う/敗者復活の機会を用意する、などの教育政策を採っている。しかし、こうしたシステムのあり方に加えて、授業面で、私たちの知見では、シンガポールは、授業内容が卒業後の進路とレリバンスが高く、それを可能にするために、コース設置、教員採用、カリキュラム、教科書などが、現場裁量に任せられる部分が大きく、ガンバが進路先とコミニュケーションを親密にとっている。
著者
古川 宇一 長 和彦 寺尾 孝士 木村 健一郎 大場 公孝
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、自閉症児・知的障害児の生涯ケア体制の整った地域社会の創出をめざして、北海道にTEACCHプログラムを導入する10ヶ年計画の第2次3ヵ年計画のまとめをなすもので、函館・旭川両地区をモデル地区として、幼児期から成人期にいたる各ライフステージにおいてTEACCHプログラムのアイデアの有効性を検証し、関係者・機関への展開を図った。画期的であったことは、函館地区おしまコロニーが独自に、2001年4月、全国に先駆けて自閉症センター「あおいそら」を立ち上げ、活発な相談指導、コーディネート活動を展開し、地域センターとしての活動を展開した。幼児施設、養護学校、特殊学級、施設においてTEACCHプログラムのアイデアを導入するところが増え、幼児期から成人期にいたるTEACCHプログラムを基本においた一貫性のある療育システムが構築されつつあり、全道のセンター的役割を果たそうとしている。旭川地区では、幼児施設でTEACCHのアイデアを引き継ぎ、小学校特殊学級で導入する教室が増え、1成人施設が導入4年目で成果を上げている。両地域とも研究活動は親を含み継続している。本年度の研究16論文は、情緒障害教育研究紀要第21号に、1年次13論文は19号に、2年次12論文は20号に掲載されている。札幌・道央地区、帯広・道東地区では、おのおの1療育施設でTEACCHの手法を用いており、福祉施設においても積極的に導入し研修がすすめられている。札幌、旭川では、家庭教育にTEACCHのアイデアを用いた積極的な取り組みがなされている。おしまの自閉症センターと連携しながら、全道的な展開への準備が整いつつあり、次の第3次3ヵ年計画において道内4圏域でのTEACCHセンター機能の展開が課題である。
著者
今口 忠政 李 新建 李 新建 申 美花
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、事業構造の再構築を「組織能力の再構築」として捉え、そのために必要な組織能力を明確化すると同時に、復活に貢献するコアとなる能力要因を明らかにすることが目的である。そこで、組織能力に関する文献研究、停滞傾向にある企業を組織能力の再構築によって復活する過程のケース研究を行い、日本の上場企業を対象として組織能力に関するアンケート調査を実施した。また、日中韓企業の組織能力比較を試みるために、IT企業群、中国企業、韓国企業を訪問してインタビュー調査を行い、日中韓企業の組織能力特性を定性的、定量的に比較した。
著者
林 文代 斉藤 兆史 斎藤 兆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、新しい文学研究のあり方を、英米文学とテクノロジーやメディアの表象に関する観点から探るものである。狭義な意味での文学研究の枠を越え、社会科学的、自然科学的要素などの視野も含め、テクノロジー(たとえば映画)やネットなどのメディアと文学の多様な関係について論証を試みた。このような研究は、まだ日本では新しい分野であり、さらに今後研究が必要であるが、研究成果欄に記載したように多くの成果をえることができた。
著者
高橋 博彰 立川 任典 湯沢 哲朗 伊藤 紘一 酒井 誠
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

フラビンモノヌクレオチド(FMN)の光化学:FMNのT_1状態、ラジカルアニオンおよびセミキノンラジカルの時間分解吸収と時間分解共鳴ラマンスペクトルを測定し、酸性溶液中でのセミキノンラジカルの生成がT_1状態から1電子還元によりラジカルアニオンを経由して起こることを明らかにした。ソラーレンおよびその誘導体の光化学:ソラーレン(PS)、5-メトキシソラーレン(5-MOP)、8-メトキシソラーレン(8-MOP)についてT_1状態およびラジカルアニオンの共鳴ラマンスペクトルおよび過渡吸収を測定した。8-MOPのT_1生成の収率がPSや5-MOPとて比べて異常に低いことを見つけた。このことは、8-MOPの光アレルギー性・光毒性がPSや5-MOPより小さいことと関係している可能性が高い。ビリルビンの光化学:308mnnの紫外光照射により、450nmと415nmに過渡吸収を観測した。450nmの過渡分子種は260nsの寿命をもち、酸素の影響を受けるから、T-1状態である。415mnの過渡分子種は17μsの寿命をもつことが分かったが、その正体については現在研究を続けている。この過渡種は480nm付近にも吸収をもつことが分かった。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の光化学:光酸化反応は,(i)電子移動によるカチオンラジカルNADH^<+・>の生成,(ii)プロトン移動によるラジカルNAD^・の生成(iii),電子移動によるNAD^+の生成,の3段階の反応であることが明らかとなった.酵素反応においても酸化がこの3段階を経て起こっている可能性を示唆した.5-ジベンゾスベレンおよびその誘導体の光化学:S-1状態において振動冷却が約13psの時間で起こることが分った.S_1状態でのコンフォーメーション変化については明確な情報は得られなかったが,ピコ秒時間領域におけるラマンおよび吸収スペクトルの変化はS_1状態においてもOH基に関してpseudo-equatorialおよびpseudo-axialの2種の異性体が共存することを示唆している.オルトニトロベンジル化合物の光化学:この反応は,S_1状態においてオルトニトロ基がメチレン基のプロトンを引き抜いてアシ・ニトロ酸を生成することでスタートする.極性溶媒中ではアシ・ニトロ酸はアシ・ニトロアニオンとプロトンに解離し,このプロ卜ンが2-ピリジル基,4-ピリジル基,4-ニトロ基と結合して,それぞれ,オルト,パラN-Hキノイドおよびパラ・アシニトロ酸を生成することを明らかにした.