著者
小塚 晃透 安井 久一
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

空気中において、超音波の定在波を用いた非接触物体捕捉に関する研究を行った。28kHz の空中超音波音源を試作し、凹面型反射板との間で定在波音場を生成した。実験で物体に作用する力を測定すると共に、数値計算で音圧の分布及び音場中の物体に作用する力を求めたところ、定性的な一致が確認された。良好な条件下では、直径2mm の鉄球を音圧の節に捕捉(浮遊)できることを示した。
著者
滝沢 茂 大槻 憲四郎 宮崎 修一 田中 秀実 西川 修 松井 智彰 八田 珠朗 興野 純 小澤 佳奈
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地震断層を引き起こした地殻の歪みエネルギーは主に粉砕粒子の非晶質化に費やされると予測して、粉砕粒子内の非晶質化を示し溶解熱測定を行った。この溶解熱測定はフッカ水素酸液用の試料カプセの開発に成功した。このカプセルは国内外を通じて例がない。特殊なカプセルで溶解熱を測定した結果、石英結晶をアモルファス化するのに要した熱量は約2000J/gであり、これをエネルギー量に換算すると1011ergオーダーとなる。この新知見に基づくと地震断層時の破壊エネルギーは表面エネルギー、すべり摩擦熱エネルギーおよび波動エネルギーとして分配され、主に消費されるエネルギーはすべり摩擦熱エネルギーと波動エネルギーと考えらているが、本研究課題の結論は最も消費エネルギーの大きいのは、結晶内消費エネルギーで、この事は新知見で物質地震学の新展開となる。
著者
吉田 潤 (三寺 潤)
出版者
福井大学
巻号頁・発行日
2006

具体的な研究の実施内容としては、以下の4点について調査・研究を終えている。(1)鉄道の利用者と非利用者に対しQOLと地方鉄道の再生に関する意識調査を実施(2)QOLを構成する要素の重視度の解析と利用者、非利用者、それぞれの視点からの考察(3)地方鉄道の再生によるQOL向上の可能性に関する検討(4)全国の地方鉄道を対象に、地域特性別にみた地方鉄道の価値に関する検討(1)〜(3)については、昨年度にひきつづき論文の内容について検討を重ね、口頭による発表を終えた後、レフリー付英文論文(学会誌等への発表の第2、3番目の論文)として投稿し採択された。さらに、(4)については、これまですすめてきた研究成果をまとめ、投稿し採択された。また、欧米諸国における「地方鉄道の駅周辺地区におけるまちづくり(都市再生)」に関する詳細な事例調査を行い、駅周辺地区の再生に至った背景、市民と行政、事業者間のパートナーシップのあり方や具体的な再生手法等を日本における取り組みに活用できるように整理・分析するための準備もおこなっている。
著者
木村 純子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

【平成16年度の成果】研究の経過過程で明らかにしたのは次の点である。日本で活発に行われている西洋文化としてのクリスマス消費を取り上げ、調査を行った。具体的には、消費文化の受容に関する(1)既存の分析枠組みを批判的に検討し、(2)新たな枠組みを提示し、(3)本研究が提示する枠組みを経験的に検証した。そこで明らかにしたのは、既存理論の限界である。これまでの議論は、西洋文化に日本文化を従属させる(グローバル論者)、あるいは日本文化に西洋文化を従属させる(伝統論者)といった「西洋中心の文化帝国主義モデル」であり、いずれも、文化を本質的なものとしてとらえ、日本の文化状況を均質化に行き着くものとして理解していた。ところが、調査を進めると、実際は、文化は西洋か日本かのいずれかに均質化していくわけではないことが明らかになった。われわれは、消費文化の変容とは、異文化を主体的に受け止め利用していく過程(=文化の再生産)ととらえるべきであることを主張した。【平成17年度の成果】平成17年度は第二次世界大戦後から現在に至るまでに(WHEN)、観光地という場において(WHERE)、それぞれどのような欲望を持って、どのように観光文化を構築し維持しているのかを(WHAT & HOW)、ローカルの人々・観光客・マーケターという異なる主体が(WHO)、主体間の相互作用に注目しながら明らかにする、という全体構想を持って行った。このような研究の全体構想の中で、以下の成果を出した。第一に、既存の文化認識論とは異なる新しい文化認識論を用いることの意義を明らかにした。第二に、第一で提示した枠組みを用いて経験的分析を行った。異文化に接するローカルな文化は、異文化をしたたかに利用しながら、文化の真正性とローカル・アイデンティティを構築していることを明らかにした。
著者
木越 治
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、八文字屋本の時代物浮世草子の注釈的研究を通して、各作品の「他界」を記述しようとするものである。研究期間中に注釈的な検討を終えた作品は、『風流宇治頼政』(享保5年刊)『都鳥妻恋笛』(享保19年刊、以上二作は江島其磧の作品)『勧進能舞台桜』(延亭3年刊)『龍都俵系図』(元文5年刊)『花襷厳柳嶋』(元文4年刊、以上三作品は多田南嶺の作品と考証されている)の計5作品である。ここでは「世界」の概念規定や各作品のおける具体的な「世界」のありようについて述べる余裕はないが、作品によってその様相はさまざまであり、簡単に概括することはできないようである。たとえば、『都鳥妻恋笛』の場合、従来から近松門左衛門作の浄瑠璃『双生隅田川』(享保5年初演)に基づくとされてきたわけだが、くわしく検討してみると、両者の関係は実はそれほど深いものではなく、それよりも、謡曲「隅田川」やその系譜につらなる古浄瑠璃・説経等がはるかに密接な関係を持っていることがわかってきたのである。さらに、それに加えて、元禄歌舞伎における「隅田川」ものがいくつか関与したとみられる部分もあるし、さらに、『伽婢子』『金玉ねぢぶくさ』等の怪異小説が利用された箇所もみられるのである。この一例だけからも、時代物浮世草子作品の「世界」を記述するためには、当該作品の注釈的な研究を踏まえつつ、それぞれの「世界」の系譜を考えていく必要があることを改めて痛感したのである。以上のことをふまえ、本報告には、『勧進能舞台桜』の全注釈を収めることとし、さらに、『都鳥妻恋笛』の新出異版を発見しそれによって得られた知見に基づく発表を行なったので、それもあわせて収めることにしたのである。
著者
柏木 加代子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成15年度はフロベールの20世紀初頭芸術への影響を日本文化も含めた国際的な視野で考察した。明治維新(1867年)にフランスに紹介された歌舞伎<芝居>特有の「花道」や「回り舞台」などは、当時のフランス文壇がレアリスムに傾倒していたことからレアリスム表現として評価されたという。殺戮や暴力シーンが舞台裏で行われてきたフランス古典劇に慣れ親しんだフランス人には歌舞伎の技法が新鮮に映ったのだろう。フロベール存命中の1870年出版のLe Japan illustree(en 2 vols)が日本に関しての最初のテクストである。フロベールのレアリスム考察に東洋思想が影響していたのかどうかは議論しなければならないが、少なくとも初稿『聖アントワーヌの誘惑』にもあるように、<舞台裏と舞台>といった戯曲の基本理念において、フロベールは真のレアリスムのあり方を試行錯誤していたことは明白で、当時の日本趣味の影響をそこに見いだすことも可能である。1878年の万国博事務官長前田正名の原作で「忠臣蔵」を手本とした劇『ヤマト』(1879年2脚日初演)。がゲイテ劇場で上演されているが、パリの劇場にしばしば通っていたフロベールがこうした時代の潮流とは無関係であったとは考えにくい。フロベールの沈黙指向はまさに歌舞伎の<見得>に呼応する舞台技法であって、役者が含蓄の深い目立った表情・動作をしてみせ、観客が拍手を惜しまない沈黙の一瞬である。フロベールにとっての「演劇創作時代」である1870年代に日本趣味がパリの演劇界を賑わしていたことは注目に値する。
著者
杉本 和寛
出版者
東京芸術大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1,昨年度(平成10年度)に引き続き、赤穂浪士事件に関する資料の閲覧と調査、および収集をおこなった。東京での国会図書館・東京大学総合図書館等の調査をはじめ、京都・大阪・名古屋等への出張調査がこれに該当する。当科学研究費補助金によって、多数の複写物および、写本『赤穂鐘秀記』などを資料として購入することができた。2.資料のデータベース化について、浮世草子に関しては、赤穂浪士物の第一作である『傾城武道桜』(宝永2刊)本文のデータを完了し、『傾城播磨石』(宝永4刊)・『傾城伝授紙子』(宝永7刊)・『忠義武道播磨石』(宝永8刊)等についてもデータ化の作業を遂行中である。実録に関しては、最初期のものと思われる『介石期』のデータベース化を終え、本文の異同について調査中である。また、上記『赤穂鐘秀記』や私費にて購入した『赤穂精義内侍所』・『新撰大石記』についても随時データ化を行っている。特に享保初年頃までに成立したと思われる『新撰大石記』については、『介石記』を頻繁に引用しており、当事における『介石記』に記事に対する信頼性を窺わせるものであり、より精査をおこなうことを予定している。3.平成11年度の東京芸術大学における総合講義におけて(平成11年12月17日)において、事件の虚構化のプロセスと文芸化という観点から論じた。一般的に事件が様々な情報によって肥大化していくパターンによって説明できる部分と、赤穂事件特有の虚構化の様子について解説をしたものである。
著者
児玉 竜一
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、現存する近世期の歌舞伎台帳の性格を大きく二分する、貸本屋系統の台帳と、劇壇内部の上演の台帳との比較をおこなうための基礎的な研究をめざした。前者の代表としては、名古屋の大手貸本屋・大野屋惣八(大惣)に代表される貸本屋の歌舞伎台帳が挙げられ、従来の歌舞伎台帳研究を代表する『歌舞伎台帳集成』にも多く翻刻の底本として取り上げられてきた。しかし、そこでは台帳の性格については、おおむねが「貸本用の筆写」とされることが多く、詳細に言及されることはなかった。本研究では、台帳の筆跡を通して旧蔵者に注目することで、劇壇内部に所蔵された上演用の歌舞伎台帳が、貸本屋へと流れていった可能性を、複数の事例から示すことを得た。さらに歌舞伎台帳の性格を論じる基礎データとして、従来の歌舞伎台帳翻刻叢書の総覧を作成した。なかでも「七五三」と署名のある台帳群については、京都大学所蔵本の詳細な書誌事項と筆跡の追求から、旧蔵者の特定への可能性を示唆しうるが、完全に特定するためには基礎データの収集に留まった。さらに「七五三」署名台帳の旧蔵者を特定する資料をも見いだしており、これらを総合することにより、現存する歌舞伎台帳の性格について、大きな認識の変化をもたらすことができる見通しである。本研究の成果としては、上記の過程で、上演年代に関する記載のない台帳について、同系統と思われる台帳群との比較を通して、その成立年代をおおまかながら類推することができたことを副次的成果と考える。この過程で、歌舞伎・人形浄瑠璃の代表的作品である「仮名手本忠臣蔵」の現存最古と目される台帳を発掘することを得た。
著者
中本 大 赤間 亮 赤間 亮 冨田 美香
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、立命館大学アート・リサーチセンターに寄贈された近世絵入版本を中心とする作品の基礎的研究を行い、展覧会の開催、ならびにその目録化を推進した。研究協力者を含めた研究会活動により、カタロギングのための情報収集と情報の共有化に研究の重点がおかれ、その成果として詳細な書誌目録としての報告書を世に送り出すこととなった。とくに絵入本の内、希少価値が高いもの、歴史上意義の高いものについて、目録とは別に、詳細な解説を付し、挿絵入りの解説が実現できている。本コレクションは、江戸絵入本のジャンルを広くカバーしており、価値が高いものであるが、残念なことに、林美一氏の自宅に保管されていた段階で虫損被害が進み、保存状態としては、劣悪なものである。本研究では、こうした状態の悪い古典籍の修復をも兼ねてしかも、修復を終えたものをデジタル画像で発信するという、公開型の研究を実施した。さらに、本コレクションの整理分類をするなかで、林美一氏が京都在住時代に映画会社大映京都に働き、また江戸研究家として独立し、時代考証により映画制作に関った経緯があるために、大量の映画スチル写真を持っていることがわかり、その目録化も鋭意進めることとなった。残念ながら、研究期間内では、完全な目録としては上梓できなかったが、日本映画のスチル写真データベースとして研究利用が可能となった。また、本報告書は、現代の情報発信技術に照らし合わせて、印刷物としてのみ提供するに不足を感じるものであり、別途WEBサイトにより、冊子では提示できなかった解説情報も含めて公開することになる。URL : http://www.arc.ritsumei.ac.jp/db1/arcsyoseki/search.htm
著者
原 實 今西 順吉 落合 俊典 木村 清孝 津田 眞一 デュルト ユベール 杉山 二郎 平川 彰
出版者
国際仏教学大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度以来同16年迄の4年間、幸い科学研究費補助金の支給を受け、研究協力者の助言を得ながら研究を続行し得た成果を以下に報告する。近時ジェンダー研究が盛んで本邦に於いても社会学者を中心に所謂「女性差別」「男女平等」を学問的に研究しようとする気運が昂まった。筆者はこの問題を自らが専攻する古代インドの文献に徴して学問的に研究しようと試み、方法論を筆者の専攻する文献学に取り、斯学の世界的リーダーとして令名の高かったロンドン大学のJ.Lisley博士の精神的支持を得てその研究に従事した。不幸にして同博士は昨年急逝したが、同種の研究に従事する「ギリシャの女たち」の著者桜井万里子氏(東大教授)やタイ国の法制史を研究し比丘尼の生活規範を纏め上げた石井米雄氏(文化功労者、京大名誉教授)の助言を得ながら同学のインド古典研究者、仏教学者を研究協力者として研究を進めた。ここに提示するものは過去四年間に亘って研究代表者が発表したもの中心に同類の「女性」に関する過去の研究を一括したものである。その結果分量が大部となり、従って研究協力者の論文は今回見合わせざるを得ず、それらは別の機会に発表する事とした。古代インドの「貞女」「烈女」「淫女」の諸相、「妻」「娘」の地位を中心に「男尊女卑」の系譜を辿ると共に、「貞節」「不倫」の諸問題を系統的に文献に徴して整理したものである。
著者
佐々木 隆爾 鍋本 由得
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

(1)「大津絵節」は流行歌としての側面と,語り歌としての側面をあわせ持っている。この両側面を持ち,かつ大衆に新たな感興を呼び起こした歌は,清楽曲を全部または一部借用した歌であり,1830年代に流行し始めた。その端緒は「看々節」およびその原曲「九連環」である。「看々節」は江戸で禁止されるが,「九連環」は江戸・大坂・長崎等で愛好され続けた。清楽曲は,漢詩に節をつけた歌であることから,情報と感情の双方を伝達する手段として利用された。また「看々踊り」等が流行し,流行に拍車をかけた。このことは,19世紀前半から清楽譜が多様に出版された事実と,「甲子夜話」等の信頼性の高い記録から確認できる。(2)幕末の「大津絵節」の流行は,1853年7月に中村座で市川小団次が踊った狂言「連方便茲大津絵(つれかたよりここにおおつえ)」に端を発する。それにあやかって歌川国芳の風刺画が書かれ,それが大流行すると,その絵解き歌として「アメリカ大津絵節」も同時に流行し,それまで愛好されて来た「ヤンレ口説き節」を凌駕するようになった。このことは,安政(1855年)大地震を描いた「鯰絵」に多くの「大津絵節」が登場することで確認できる。(3)「アメリカ大津絵節」が自由民権期を含む1880年代にも強く愛好されたことは,梅田磯士『音楽早学び』(1888年)で確認され,これが民権運動期に運動鼓舞的な演歌として多大な役割を果たしたことは,福田英子『妾の半生涯』の記述から明らかである。福田の記述は,この歌におけるメロディーと歌詞の相互関係も示唆しており,歌詞にあわせて曲のどの部分が省略または反復されるかを推定する手がかりを与えている。(4)演歌としての「アメリカ大津絵節」の時代は長くは続かなかった模様で,この中のリズムが軽快な部分や沈鬱なメロディーの部分は,折から大流行を始めた浪花節の中に,それぞれ「早がけ」および「沈思」の表現法として吸収され,浪花節の表現力と伝播力を高めたものと推定される。
著者
中田 篤
出版者
北海道立北方民族博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、モンゴル北部に暮らすトナカイ牧畜民ツァータンを対象とし、現代的適応戦略と物質文化の変容を明らかにすることを目的として実施された。具体的には、トナカイを中心とした牧畜生活を送る世帯[タイガ牧畜世帯]と、トナカイ以外の家畜を主とした牧畜に転換した世帯[草原牧畜世帯]を対象に、(1)トナカイ牧畜と密接な関係を持つ物質文化の変容、(2)新たに生み出された「商品」としての物質文化の状況、(3)近年の社会経済的環境変化とそれに対する適応戦略、に関する情報収集と比較をおこなった。その結果、(1)については、特に草原牧畜世帯で物質文化変容の程度が著しいことが確認された。タイガ牧畜世帯では、一部道具類の材質が木材や樹皮からアルミに変化する状況がみられたものの、トナカイ牧畜に関わる物質文化は比較的多くの要素が保持されていた。一方、草原牧畜世帯では、ウシやヒツジなどを主要な家畜とし、冬季のみ少数のトナカイを輸送・移動用に飼育していた。こうした世帯では、モンゴル式の「ゲル」に住み、物質文化のほとんどが近隣のモンゴル系牧畜民と同質化していた。(2)については、タイガ牧畜世帯において、数年前からトナカイ角を素材とした彫刻が制作されていた。彫刻の多くは動物をモチーフとし、価格は大きさに応じて3~20USドル程度と幅がある。おもに外国人観光客に販売して現金収入を得ており、販売量は増加傾向にあるとのことであった。(3)については、付近のタイガ地域で2004年頃と2009年10月に相次いで金鉱が発見され、以来毎日100人以上が採掘に携わる状況になっている。こうした中、付近の住居はモンゴル全土から集まる採掘者の中継地点となり、特に冬季にはトナカイが移動手段として稼動するようになった。トナカイ1頭につき1日100USドル程度の使用料が得られるとのことで、ツァータンにとって新たな現金収入手段となっていることが示された。
著者
今井 範子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

日本の都市住宅における今後の畳空間の平面計画とインテリア計画に資するため、大都市圏域である首都圏、関西圏、名古屋圏、福岡圏と、地方都市の熊本圏に立地する住宅の居住者を対象とし、畳空間の現況と住意識に関する調査を実施した。平面における畳室の現況については、例えば、首都圏では畳数は少なく、関西圏では相対的に多いというように顕著な地域差が認められた。畳室の使われ方については、熊本圏では畳室の接客機能が他地域よりも認められるというように地域による違いを明らかにした。畳空間に対する居住者の意識についても、地域と年齢階層などによる差異が明らかになった。畳の必要性や愛着意識などに対し、首都圏ではその薄らぎが他地域よりも認められた。しかし、全地域をとおして畳に対する根強い愛着意識の存在を明らかにした。「畳空間の新しいデザインのあり方」を文献調査から検討し、次世代に継承しうる新しい畳空間のデザインの必要とそのあり方を提示した。さらに、新しい畳空間デザインの居住者の嗜好性を検討した結果、地域差なく、新しいデザインの受け入れが認められた。今後の日本の都市住宅における畳空間の発展方向として、生活機能面からは、接客機能やくつろぎ機能を有する空間としての方向を提示し、そのデザインについては、伝統性を踏まえながら現代性をとりいれた新しいデザインの必要とそのあり方を提示した。
著者
高根沢 均
出版者
神戸夙川学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本年度に調査を行ったサンタンジェロ聖堂(ペルージャ、5世紀末)とサンタ・マリア・マッジョーレ洗礼堂(ノチェーラ、6世紀中頃)、およびサント・ステファノ・ロトンド聖堂(ローマ、5世紀末)は、周歩廊を備えた円形平面の集中式建築である。サント・ステファノ・ロトンド聖堂ではイオニア式とコリント式の柱頭が使用されているが、外壁の開口部と対応する場所にはコリント式を使用している。また外壁にはアーチが、一方で中央空間にはアーキトレーヴが使用されるなど、様式と部材の配置には明確な計画が見られる。他の2例では、多色大理石と数種類の柱頭を再利用して色と様式を規則的に組み合わせ、色彩感と躍動感のある内部空間となっている。これらの事例では、再利用材の組み合わせによってアプシスと入口を結ぶ軸線及び直交する軸線の視覚的な強調が確認された。また、再利用材の組み合わせと配置の法則は、色彩と材料の価値、様式といった複数の要素で構成されており、本来均質である円形の堂内に空間の階層性を導入する手法として利用されていると思われる。同様の円形平面をもつサンタ・コスタンツァ霊廟(ローマ、4世紀前半)では、周歩廊ヴォールトのモザイク装飾においてブロックごとに異なる図像が描かれており、前述の3事例と同様に空間の機能または階層性との関連が考えられる。集中形式の教会堂における軸性の強調と空間の階層性は、古代建築の円形平面をキリスト教建築に導入する際に必要とされた要素であり、キリスト教建築の形成の重要な側面と考えられる。中央空間を外壁に開かれたアプシスや入口とつなぐ空間である周歩廊の機能を検討するにあたって、これらの要素との関係性を手がかりに検討を進める予定である。
著者
大野 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

初年度の現地調査の結果、アントニオ・カンピ作品のうちミラノのサンタンジェロ聖堂ガッララーティ礼拝堂とミラノ近郊の巡礼地インヴェリゴの聖堂の作品に研究を絞ることとなった。前者はミラノ北辺の聖カテリーナ巡礼地への注文者の崇敬に結びつていると判明し、後者とともにカトリック改革期における巡礼地と美術の関係、民衆的信仰心により生まれたイメージの排除と残存の問題という更なる研究テーマへ繋がった。画家の制作背景に関する研究の一環として外国支配下にあった16世紀のミラノにおける外来の芸術家と地元画家の軋轢を明らかにした。
著者
安川 由貴子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、個として確立していくことが重視される現代社会の中で、G.ベイトソンのコミュニケーション論を基軸にして、共同性と個人の問題について生涯学習の観点から考察を行った。それは、自己実現、自己決定といった個への重視が、逆説的にどのように個を疎外していくのかを、もう一方の共同性という概念で対比しつつ、実証的に把握する試みである。ベイトソンは、個という存在をすでに共同性や環境のシステムの中に含みこまれている存在として捉えていくことにより、個人を軸とした近代西欧思想に特有の観念を乗り越えようとしていた。その萌芽は、現在の日本社会の過疎地域における生涯学習的な実践や、アルコール依存症のセルフヘルプ・グループの実践においても見ることができた。
著者
小林 悟
出版者
岩手大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の協力の下、中性子照射済み原子炉圧力容器鋼材の磁気計測を実施し、中性子照射脆化と磁気的物理量の相関データベースの構築を進めた。磁気マイナーループ法に基づく実験データ解析結果から、磁気的物理量において、降伏応力変化と同様な照射条件依存性が観測された一方、二つの異なる磁気特性変化メカニズム(銅リッチ析出物形成、応力緩和)を考慮したモデル解析から、磁気特性の脆化寄与成分と降伏応力変化量の間に正の比例関係が見つかった。以上の結果は、磁気的物理量の計測により、銅リッチ析出物形成による照射硬化の評価が可能であることを示している。
著者
木部 暢子 岸江 信介 松永 修一 福島 真司 中井 精一
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、音声を聞くことのできる言語地図『西日本声の言語地図』を作成した。これは164枚の地図よりなり、1枚のDVDに164個のPDFファイルとして収録されている。内容は「枝」「鉛筆」などの単語項目151項目、「おはようございます」などの挨拶ことば13項目の計164項目、地点は富山県から鹿児島県種子島に至る65地点。44KHzサンプリング周波数で音声処理を行なったので、音声データベースとしての価値も高い。『西日本声の言語地図』は『南九州声の言語地図』(試作版)に続いて、岸江のHP(http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/kokugo/_private/kishie.htm)で公開し、中井のHPと声の言語地図のネットワークを結ぶ。地図作成の過程の中で、以下のことが明らかとなった。1.変化の途中の形が各地の方言音声に現れている。「声の言語地図」では、地理的分布と音声を同時に確認することにより、変化のプロセスを地理的関係で捉えることができる。2.二通りの聞き取り:「地点ごと(横)の聞き取り」と「項目ごと(縦)の聞き取り」の間に微妙な差がある。従来の研究ではこの違いが見過ごされていた。3.方言音声を公開することの重要性について主張し、その方法を提示した。これらについては、Twelfth International Conference on Methods in Dialectology(2005.8.2、カナダ モンクトン)、日本方言研究会第81回研究発表会(2005.11.10、東北大学)、変異理論研究会(2005.11.11、東北大学)等で発表した。
著者
山口 潔子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度は、昨年度まで行っていた長期フィールドワークの成果を発表論文にまとめ、三つの国際シンポジウムで発表した。4月には、米・コーネル大学の東南アジアプログラムの院生シンポジウムで「アメリカ期における新しい都市空間の変成」"New Space in the American-period Philippines"を口頭発表した。発表後は、現在、フィリピンの歴史的資料が本国以上に存在するコーネル大学の図書館で資料収集をした。6月には、松江市で開催された建築系のシンポジウム、5th International Symposium on Architectural Interchanges in Asia (中国・韓国・日本建築学会共催)にて、都市計画の視点から調査結果をまとめ"Poblaciones in Cebu : Historical Town Planning as a Urban Heritage"を口頭発表した。9月には、パリで開催されたユーロ東南アジア学会の大会4^<th> EUROSEAS Conferenceの、建築・都市計画部門のパネルにおいて、セブというフィリピン第2の都市のもつ社会的・経済的な役割の変容を、都市拡大の歴史とともに"Cebu : Independently Global Island in the Philippines"として口頭発表した。まだまだ小規模な日本の東南アジア研究界や、独自なアメリカ式展開を見せるアジアの東南アジア研究界、その発端からポリティカルな要素をもつアメリカの東南アジア研究界とは大いに異なる、ヨーロッパの東南アジア研究界に触れられたことは素晴らしい経験であった。ユーロの東南アジア研究者たちから得た示唆と、日本にはほとんどいない同分野(東南アジア建築史)の専門家たちとの議論から得られた新たな視野をもって、年度末には研究論文を研究科に提出した。
著者
山本 幸男 亀井 康富
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

脂質代謝の性差は、核内受容体ERα(Estrogen Receptor α)が、脂質代謝のマスターレギュレーターである核内受容体LXR(Liver X Receptor)およびCAR(Constitutive Androstane/Active Receptor)に直接もしくは間接的に働き、遺伝子発現を制御することが一因であることを見いだした。