著者
赤井 裕輝
出版者
医学書院
雑誌
糖尿病診療マスター (ISSN:13478176)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.96-101, 2017-02-15

POINT・正常個体で生理的範囲を超えた血糖低下が低血糖,臨床症状を伴えば低血糖症という.・低血糖症の確定診断はWhippleの三徴による.・低血糖に伴う症状は血糖低下につれて副交感神経症状,交感神経症状,中枢神経症状と進む.

1 0 0 0 脊椎過敏症

著者
小野村 敏信
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.14, no.13, pp.2302-2303, 1977-12-10

脊椎過敏症とは 背痛あるいは棘突起部の自発痛や圧痛を主訴として受診する患者のなかで,これらの愁訴以外の理学的所見に乏しく,予後も良好であるものが比較的多いことはよく知られている.このような病態は,脊椎過敏症あるいは棘突起痛と呼ばれ,臨床上きわめて頻度の高いものである.一方,種々の脊椎疾患や内臓疾患の場合に,臨床症状の一つとして棘突起部の疼痛(圧痛,叩打痛,運動痛など)をきたすことは多く,これらの疾患と脊椎過敏症とを鑑別することは,腰背痛患者の診断に際して常に念頭におかなければならない. 統計的にみると,本症は20歳代の女子とくに事務労働者や主婦に圧倒的に多く,平背や円背などのなんらかの不良姿勢や背筋の萎縮をもつ場合の多いことが特徴的である.原因としては未だ明らかでない部分も多いが,自律神経失調,内分泌異常,関連痛,いわゆる付着部痛,ヒステリーなどがあげられている.好発年齢その他からみると心因性要因を含めた素因の存在も否定できないが,臨床的な特徴からは,棘突起に付着する筋・腱・靱帯などの張力が発痛と関係が深いと思われる.姿勢異常や背筋のfibrosisは腱・靱帯付着部に持続的なtensionを加え,局所の発痛素因を高めると考えられる.本症の予後は良好であり,数ヵ月ないし数年の間に自然寛解をみるのが普通である.
著者
加藤 研一 井戸 稚子 岩崎 義弘 松村 美代 後藤 保郎 新井 三樹
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.1859-1861, 1989-11-15

生後15日で当科初診となった片眼性第一次硝子体過形成遺残の症例に対し,視機能保持の目的で硝子体手術を行った。初診時,前眼部に異常を認めず,水晶体は透明でその後方の硝子体腔に白色組織塊がみられた。眼底後極部は透見不能で,超音波検査で高エコーレベルの組織塊が,水晶体後方より漏斗型を呈しつつ視神経乳頭へ連なる像を認めた。術前flash VEP検査において左右差をみなかった。生後22日目にpars planavitrectomyが施行された。術中,白色組織塊は水晶体,網膜と癒着していなかったが,視神経乳頭とは索状物でつながっていた。透見可能となった眼底に異常所見はみなかった。現在術後170日経過しているが,合併症はみていない。 今回,我々の経験した症例は,透明な水晶体を保存できたこと,生後早期に手術により視軸の透明性が得られたことより視性刺激遮断弱視の発生予防に関して有利であると考えられ,良い視機能が期待される。
著者
藤井 ひろみ
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.729, 2018-08-25

SOGI(性的指向・性自認)の多様性は,看護学生のなかにも見られます。筆者が2016〜2017年に実施した看護学生へのインタビュー調査では,同性愛指向や性別違和をもつ看護学生がいろいろな対処行動をとりながら,学んでいる事例が明らかになっています(表)1)。 たとえば,学校で実習服のデザインが男女で異なる場合,戸籍とは異なる性別の制服の着用が許可されるか,ということが学業継続の分岐点の1つになり得ます。その交渉のために学校長や教員へのカムアウトが必要になります。しかし性的な個人情報を,すべての学生が公にしたいわけではありません。また学生からカムアウトをされた看護教育者側は,SOGIに関して学生の「同意なき暴露」(アウティングと言います)をしてはなりません。学校として,実習指導者や患者が学生を受け入れてくれるだろうか,SOGIの多様な学生の状況をどの程度伝えるのか,対応を検討することになります。学生自身も「自分の性的指向の話はしたいと思ってるけど,あの人ちょっといや……みたいに思われる方(患者)もいるかもしれないので,どこまでオープンにしようか……」1)と考えている場合もあります。まずは当該学生と相談し,具体的に起こり得る状況を伝え,意思確認をおこなうことが重要です。
著者
吉澤 亮 大和田 滋 前波 輝彦
出版者
日本メディカルセンター
雑誌
臨牀透析 (ISSN:09105808)
巻号頁・発行日
vol.30, no.8, pp.1053-1058, 2014-07-10

不眠を訴える血液透析患者に対するメラトニン受容体アゴニストラメルテオンの有用性について検討した。通院中の血液透析(HD)患者152例を対象とした。アテネ不眠尺度の合計点が6点以上で不眠症の可能性の高い患者は75例であった。また、ラメルテオン以外の睡眠導入薬をすでに服用している患者は36.2%(55例)であった。睡眠導入薬をすでに服用している患者または不眠症の可能性が高い54例を対象として、ラメルテオンを開始し、10例が脱落した。アテネ不眠尺度は、投与後有意な改善を認めた。他の睡眠導入薬が併用されていた36例中27例が減量もしくは中止が可能となった。午前、午後、夜間透析ともにアテネ不眠尺度は有意に改善した。
著者
安藤 徳彦 上田 敏 石崎 朝世 小野 浩 大井 通正 緒方 甫 後藤 浩 佐藤 久夫 調 一興 菅井 真 鈴木 清覚 蜂須賀 研二 山口 明
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.979-983, 1991-10-10

はじめに 障害者が健常者と同様に働く権利を持っていることは現在は当然のこととされている.国連の「障害者の権利に関する宣言」(1975年12月9日)第7条には「障害者は,その能力に従い,保障を受け,雇用され,また有益で生産的かつ十分な報酬を受け取る職業に従事し,労働組合に参加する権利を有する」と述べられている.また国際障害者年(1981年),国連障害者の10年(1983~1992年)などの「完全参加と平等」の目標を実現するための行動綱領などにも常に働く権利が一つ重要なポイントとして掲げられている. また現実にも,障害者,特に重度の障害者の働く場はかなり拡大してきている.障害者の働く場は大きく分けて①一般雇用,②福祉工場,授産施設など,身体障害者福祉法,精神薄弱者福祉法,精神保健法などの法的裏づけのある施設での就労(福祉工場では雇用),③法的裏づけを欠くが,地域の必要から生まれた小規模作業所での就労,の3種となる.このうち小規模作業所は,共同作業所全国連絡会(以下,共作連)の調査によれば,全国に約3,000か所,対象障害者約3万人以上に及んでおり,この数は現在の授産施設数およびそこに働く障害者数のいずれをも上回っている.小規模作業所で働いている障害者は,一般雇用はもとより,授産施設に働く障害者よりも障害が重度であったり,重複障害を持っている場合が多い.その多くは養護学校高等部を卒業しても,その後に進路が開けなかった人々であり,彼らの就労の場として小規模作業所が開設されたわけであるが,それは親たちや養護学校の教師たちの運動で自主的につくられてきた施設が多い.また最近まで就労の道が開かれていなかった精神障害者に対し,以前から広く門戸を開いてきたのも小規模作業所であり,その社会的役割は非常に大きい. しかし,障害者が働くことに関しては,医学的側面から見て種々の未解決の問題が存在している.現在もっとも重要視されていることの一つは,重度の身体障害者,特に脳性麻痺者における障害の二次的増悪である.すなわち,以前から存在する運動障害が,ある時期を境として一層悪化し始める場合もあれば,感覚障害(しびれ,痛みなど)が新たに加わる場合も多い.そして,その結果,労働能力が一層低下するだけでなく,日常生活の自立度まで低下し,日常生活に著しい介助を必要とする状態に陥る者も少なくない. すでに成人脳性麻痺者,特にアテトーゼ型には二次的な頸椎症が起こり,頸髄そのものの圧迫または頸髄神経根の圧迫により種々の症状を生ずることが知られている.しかし,二次的な障害増悪がすべてこの頸椎症で説明できるものではないようであり,さらに詳細な研究が必要である. また逆に,働くことがこのような二次障害の発生を助長しているのかどうかという問題も検討する必要がある.廃用症候群の重要性が再認識されつつある現在,たとえ重度障害者であっても働くことには心身にプラスの意味があるに違いない.しかし一方,働きすぎ(過用,過労)がいけないことも当然である.問題は重度障害者における労働が心身の健康を増進するものであって,わずかなりともそれにマイナスとなるものでないように,作業の種類,作業姿勢,労働時間,労働密度,休憩時間,休憩の在り方などを定めることであり,それには労働医学的な研究が十分なされなければならない. 以上のような問題意識をもって,1990年,共作連の調査研究事業の一部として障害者労働医療研究会が結成された.同研究会には脳性麻痺部会と精神障害部会を置き,前者においては主として上述の二次障害問題を,後者においては精神障害者にとっての共同作業所の機能・役割,また障害に視点を当てた処遇上の医療的な配慮などについての研究を進めている. そして,障害者労働医療研究会の最初の仕事として,以上のような問題意識に基づいて脳性麻痺者の二次障害の実態調査を行った.その詳細は報告書としてまとめられているが,ここではその概要を紹介する.なお,この研究では小規模作業所と授産施設との間の差を見る目的もあって,前者の全国的連合体である共作連と授産施設の全国連合体である社団法人全国コロニー協会(以下,ゼンコロ)との協力を得て行った.
著者
赤松 泰次 北原 桂 白川 晴章 市川 真也 長屋 匡信 須藤 貴森 武田 龍太郎 竹中 一弘 太田 浩良 宮林 秀晴 田中 榮司
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.805-812, 2009-04-25

要旨 当科で診断した胃MALTリンパ腫98例の内視鏡所見を検討した.胃MALTリンパ腫の内視鏡所見は,早期胃癌(IIc)類似型,胃炎類似型,隆起型の3群に大別できた.早期胃癌類似型と早期胃癌の鑑別のポイントは① 正常粘膜との境界が不明瞭,② 蚕食像がないか,あってもごく一部,③ 陥凹内に粘膜模様が観察される,④ 病変が多発することが多い,の4点であった.胃炎類似型はさらに,びらん・潰瘍型,色調変化型,顆粒・結節型に細分類され,びらん性胃炎,急性胃粘膜病変,消化性潰瘍,萎縮性胃炎,鳥肌状胃炎などとの鑑別が必要である.一方,隆起型は,表面にびらんや潰瘍を伴い,形状も不整であることから間葉系腫瘍との鑑別は容易であるが,IIa型早期胃癌や形質細胞腫との鑑別が問題となる.早期胃癌類似型は胃炎類似型に比べて,壁深達度がSM以深の症例が多く(p<0.01),Helicobacter pylori感染を認めない症例の割合が高かった(p<0.01).
著者
奈良林 祥
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.692-697, 1998-08-25

急激に増えたセックスレスの相談 「あれっ?」カウンセリングの途中で異変の芽のようなものを感じ,クライアント(相談依頼人)には気づかれないように心の内でドキリとさせられていたのは,もう12,3年も前のこと。わざわざ長野県から,“一昨年結婚致しました長男の嫁から,結婚して1年半になるのに,まだ一度も交わりがありません,と聞かされ,びっくり致しまして”とやって来た人品卑しからざる,その長男なる人物の母親を前にしてのことであった。そして,私を,「あれっ?」と思わせたのは,前日にも似たようなケースを扱ったばかりであり,そう言えば,当時は「性交回避」または「性愛嫌悪症」と言う病名で扱っていたこの種のクライアントが,このところ妙に増えて来ていることにフト思い当たったからである。今にして思えば,後に「Sexless(セックスレス)」と言う言葉がある種流行語のように通用してしまう事態を招くことになる「Sexless husband(セックスレスハズバンド)」と呼ばれる,性を病む亭主の急激な増加と言う現象の前触れに私はその時点で既に出会わされていた,と言うことであったのだ。 厳密に申せば,私が「性交回避」とカルテの病名欄に書き込むケースはかなり以前からなかった訳ではない。でも,あったと言ってもせいぜい年間2〜3例のものであって,世の中には変わった人間もいるものだ,で通り過ぎていたのであるが,それが,毎週のようにケースとして現れると言うことになると,これはおかしい,と言うことにもなる。当然のことであろう。私事めいて恐縮であるが,私のクリニックでは1日5人しか面接は受けないのであるが,一時期,その5人全部がセックスレスの相談と言うことがしばしばあったものである。やはり,異常事態である。
著者
葉山 惟大
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.132-137, 2018-04-10

summary化膿性汗腺炎は慢性・炎症性・再発性・消耗性の皮膚毛包性疾患であり,患者のquality of life(QoL)を著しく障害する.本邦では男性優位,家族歴が少ない,重症患者が多いなど海外とは異なる背景がある.病態生理は毛包を中心とした自然免疫の活性化であり感染症ではない.近年γ-secretaseの変異が自然免疫の活性化の原因であることがわかり,家族性化膿性汗腺炎患者を中心に変異が報告されている.治療は海外のガイドラインを参考に行うが,適応外の治療も多い.まず患部の外科的切除を最初に検討する.切除にて改善しない,または手術ができない場合はクリンダマイシン外用またはテトラサイクリン系抗菌薬内服,続いてリファンピシン+クリンダマイシン内服が推奨されている.上記の方法で効果がない場合はアダリムマブの投与が推奨されている.エビデンスレベルが高く,患者のQoL維持にも有用であるが,本邦では適応外であり,今後の適応拡大が望まれる.
著者
足利 幸乃
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.1054-1059, 2003-11-01

前稿(本誌前号)では,がん化学療法におけるセルフケア支援の考え方と看護師の役割,そして,医療者が陥りやすいパターナリズムが患者支援という看護を阻むことに言及した.本稿では,がん化学療法を受ける患者の抗がん剤による副作用症状に対するセルフケア支援に焦点をあて,前稿で提示したセルフケア支援のプロセス1)(図)の枠組みを使って,筆者の考えるセルフケア支援のポイント(表1)を説明していきたい.なお,セルフケア支援のポイントを具体的に解説するにあたって,前号「便秘のセルフケア支援2)」でとりあげた事例(表2)をつかっていくこととする. ケアの優先順位を決める ポイント1:看護アセスメントと患者の気がかりをすりあわせ,セルフケアの優先順位を決める がん化学療法では,投与される抗がん剤のレジメンによって,出現頻度の高い副作用,その症状の程度,出現時期と回復パターンをある程度予測できる.多くの現場では,がん化学療法によって出現する一般的な副作用,たとえば,悪心・嘔吐,易感染,口内炎,食欲不振などをカバーする内容の患者教育用パンフレットを使って,患者への指導が行なわれている.患者教育のなかに,セルフケアに関する内容がもりこまれており,副作用の知識とともに患者に必要とされるセルフケアが説明される. このように一般化された看護を行なうことは,ある水準の看護を維持するために不可欠である.しかし,一般化された看護に終始すれば,患者のなかには「だからどうなの…」「じゃあ,私はどうなの」と思ってしまう者もいるだろう.患者が気にかけていることは,自分のことである.患者が自分に対して看護が行なわれていると感じるためには,一般的な看護のうえに,患者個別の看護を付加しなければならない.このオプションは,個別的な看護アセスメントから見出すことができる.個別的なアセスメントを行なうことで,一般的とされる患者の問題が,ほんとうにこの患者の問題であるのか,この患者にとっての優先順位の高い問題は何かといったことが明らかにされる.
著者
安酸 史子
出版者
日本腎不全看護学会
雑誌
日本腎不全看護学会誌 (ISSN:13447327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.31-38, 2010-04-15

Ⅰ.患者のパワーの源 慢性疾患患者は完全な治癒が望めないことから生涯にわたるセルフケアが必要とされ,そのために希望がないという気持ち(hopelessness)や,自分ではどうにもならない無力感(powerlessness)をいだきやすいといわれている.Millerは慢性疾患患者のパワーの源泉を7つあげ,慢性疾患によってそれらのパワーの源泉が弱ってしまいやすいこと,そしてそのときに感じる powerlessness の状況に対処し続けることが,慢性疾患患者の主要な仕事であると述べた.7つのパワーの源泉とは,①身体の強さ,②精神的スタミナ-ソーシャルサポート,③肯定的自己概念,④エネルギー,⑤知識と洞察力,⑥モチベーション,⑦信条体系である(図1).
著者
加藤 貴志 末綱 隆史 椎野 恵美 久保田 直文
出版者
三輪書店
雑誌
作業療法ジャーナル (ISSN:09151354)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.100-105, 2015-02-15

Key Questions Q1:脳損傷者の運転技能予測に有効な検査は? Q2:検査による予後予測の課題は? Q3:今後の展望は? はじめに 2013年(平成25年)の道路交通法改正により,医師から運転中断を勧められた者がそのことを無申告で免許更新を行った場合の罰則が規定され,疾病を有する方の運転に関して医療機関の役割は重要になってきている.その一方で,医療機関にて危険運転を行うと予測される者をどのように評価するかは確立されておらず,各医療機関で統一した対応はなされていない.井野辺病院(以下,当院)が運転支援を開始した当初は,脳損傷者の運転技能予測を調査した国内研究は少なく,海外の研究を参考とせざるを得ない状況であった.しかし近年,国内でも脳損傷者の実車運転に関する報告が増加し,神経心理学的検査(以下,検査)の研究も増加している. 本稿では脳損傷者の運転技能予測に関する検査についての国内研究をまとめ,予測の課題と今後の展望を述べる.
著者
渡辺 恭良 倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.5-9, 2018-01-01

1990年に木谷照夫,倉恒弘彦らにより日本第一号の患者が発見された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群は,慢性で日常生活に支障をきたす激しい疲労・倦怠感を伴う疾患であり,1988年に米国疾患管理予防センターが原因病原体を見出すための調査基準を作成し,世界的にその診断基準が広まったものである。かなりのオーバーラップがみられる疾患に線維筋痛症があり,また,機能性ディスペプシアなども含めて,機能性身体症候群という大きな疾患概念も存在する。客観的診断のためのバイオマーカー探索も鋭意行われ,わが国におけるPET研究によって,脳内のセロトニン神経系の異常やさまざまな症状と神経炎症の強い関わりなどが明らかになってきた。一方,このような最新の知見を踏まえた治療法の開発研究も鋭意行われている。
著者
小坂 義種
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.35, no.11, pp.1213-1214, 1991-11-15

今からちょうど4年前の7月,われわれにとっては悪夢ともいうべき事態が発生した.20日間に2人の医師があいついでB型劇症肝炎で死亡し,1人の看護婦がB型重症急性肝炎に罹患したというものである. 当時は連日,新聞や週刊誌などに取り上げられ,病院関係者,なかでも病院長や小児科の教授,ウイルス肝炎対策委員長であった筆者などは苦渋に満ちた日々を送っていたものであった.7月16日には緊急にウイルス肝炎対策委員会を開き,職員全員にHBVに対する注意を喚起し,それに相前後して小児科医師,看護婦の肝機能,HBs抗原,IgM-HBc抗体を測定し,新規肝炎発生者のないことを確認するとともに,3人の血清を自治医大予防生態の真弓忠教授に送り,デルタウイルス関与の有無などの検索を依頼した.このことがきっかけとなり後日,真弓教授らにより劇症肝炎ウイルスともいうべきHBVの変異ウイルスが発見された.
著者
楠 隆
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.82, no.8, pp.606-610, 2018-08-15

はじめに アレルギー疾患の小児は,病気を抱えながらも,普段の日常生活を病院ではなく,家庭,学校,幼稚園,保育所など病院の外で過ごす.そこには,診察室の短時間の診療では見えてこないさまざまな悩みや問題点がある.これからの小児医療スタッフ,とりわけ小児アレルギーに関わる者には,病院でアレルギー児が受診するのを待っているだけではなく,病院を飛び出して日常生活の中にいる小児を捉え,問題点を抽出し,そこへ介入していく姿勢が必要である.そのためには,医師の診察のみでは不十分である.看護師,薬剤師,管理栄養士,さらには保健師,学校・園・保育所関係者,行政関係者などを幅広く巻き込んだ多職種連携が必要である. 幸い,わが国には,小児アレルギー疾患の専門知識と患者指導のスキルを習得する専門資格である小児アレルギーエデュケーター(pediatric allergy educator:PAE)制度があり,本資格を獲得した医療スタッフが全国で活躍している.本稿では,PAEの活動を軸にして,多職種による小児のアレルギーケアの実態と課題を考察する.
著者
大野 昌彦
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.132-133, 1967-03-01

日本とのつながり 「非常にかわった女の新聞記者がいるから是非紹介しよう。だが,かなり猛烈な顔をしているから,女の新聞記者だからときいて好奇心を出すのだったら当てがちがうぜ,と冗談をいいながら誰かが紹介してくれた人が,スメドレー女史であった」と尾崎秀美は書いている。尾崎が上海のパレスホテルのロビーで待っていると,赤い色の散歩服を着てとびこんで来て,腰をおろすが早いか,初対面の挨拶そっちのけで話し出した。ときどきシガレット・ケースを開いてはタバコをすすめながら,みずからも喫った。中国農業問題について日本人の研究にどんなものがあるかと問い,尾崎の話があいまいであったり,自信なげであったりすると,すかさず切りこんで,尾崎を面くらわせた。「わたしはそのときつくづく女史の顔を見た。顔はなるほど綺麗とはずいぶん縁の遠いものであった。しかしわたしはその後いく度か会ううちに,女史の顔を美しいと思うことすらあった。とても無邪気な笑い顔だった」と尾崎はいっている。 1931年当時,スメドレーはドイツのフランクフルター・ツァイツンク特派員として,尾崎は朝日の記者としてそれぞれ中国に渡ってきていた。スメドレーは,すでに11ヵ国語に訳されている自伝小説“Daughterof Earth”をもつ国際的記者であり尾崎は中国問題に日本人としては独自の見解を示す新進の記者であった。
著者
吉澤 利弘
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.407-420, 2016-04-01

「治せる認知症」の原因としてビタミン欠乏は頻度は稀ながら重要な課題である。とりわけ高齢者の認知症診療ではビタミンB12欠乏が原因と考えられる症例に遭遇する頻度が高い。一方,葉酸はビタミンB12と代謝経路上密接な関係を有し,その欠乏とビタミンB12欠乏の間には共通点も多い。したがって本論では,ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏に焦点を絞り,これらの欠乏による認知症を診療するうえで必要な情報を概説する。
著者
山下 智幸 山下 有加
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.391-412, 2016-04-01

日本産婦人科医会妊産婦死亡症例検討評価委員会の調査1)では,国内の妊産婦死亡は2010〜2014年の5年間で237例発生しており,平均すると47.4例/年の頻度である。年間出生数が100万人強であることを考慮すると,おおよそ21000分娩に1例程度の妊産婦死亡と概算できる。 一方,米国では,妊婦の心停止は12000分娩に1例2)と考えられている。米国疾病対策センター(CDC*1)の調査3)では,はっきりとした原因はわかっていないものの,妊娠関連死亡数は増加傾向であることが指摘されており,2011年の妊娠関連死亡は17.8例/10万生存分娩である。ヨーロッパの妊産婦死亡は,国ごとに異なるものの16例/10万生存分娩と推定されている4)。カナダでは,2009年10月〜2010年11月において,6.1例/10万分娩で減少傾向である5)。日本では6例/10万生存分娩で,先進国全体の16例/10万生存分娩よりも下回っている4)。 妊産褥婦心停止の頻度は決して高くない。しかし,これらの調査は生命予後のみに焦点が当てられた調査であり,妊産褥婦の心停止ニアミス症例*2がどの程度なのか,あるいは機能予後がどうなっているかについては現時点ではわかっていない。オランダの調査6)ではニアミス症例が約141分娩に1例存在していることを指摘しており,妊産褥婦の心停止に対する備えの重要性を物語っている。 救急・集中治療に従事する医療スタッフは,緊急度・重症度の高い事象に十分備える必要があるが,妊産褥婦の蘇生に関する特別な知識や技術を身につけることに加え,診療体制を整備しておくことが欠かせない。「知ってはいるが,実際にできない」では元も子もないのである。本稿では,最新の蘇生ガイドラインの内容も含めながら,妊産褥婦の蘇生について解説する。Summary●妊婦の蘇生では,一般成人の蘇生と同様に質の高いCPRが重要である。●子宮左方圧排を用手的に行い,大動脈・下大静脈圧迫(ACC)を解除する。●妊婦心停止では,その場で帝王切開を行い,児を娩出させる必要がある。●施設内での備えが重要で,シミュレーションなどを行っておくことが望ましい。
著者
間宮 良美 大井 鉄太郎
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.828-829, 1984-09-20

緒言 陰茎絞扼症は特異な症例以外は報告されず,報告例が比較的少ない。われわれはナット(止めねじ)により陰茎絞扼症を発症させ,除去に6時間を要した53歳工員が,3年後,ナットやボルトをまわす工具の鉄製レンチで再び陰茎絞扼症を惹起した1例を経験したので報告する。
著者
長谷川 泉
出版者
医学書院
雑誌
保健婦雑誌 (ISSN:00471844)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, 1958-01-10

人間は理性を持つた存在であるから,理智が生活を規制する.しかしとぎすまされた理性のみで振舞う冷徹さは,人間の持つ反面である感情と齟齬し相いれない場合も出てくる.そのような場合に,どちらを優位にたてた行動をするかという判定は,極めて難しい問題である.性格や環境によつて,その場合の行動が異ることがあり得る.見方は人によつて違う. 有島武郎の「実験室」(大正6.9「中央公論」)にはこの問題に示唆するテーマが扱われている.主人公は片目の若い医師である.科学者であるから,当然のことながら,理性的に行動しようとする.この作品では,その行動は最後に復讐されている.だが,考えさせられる多くの問題を含んでいよう.