著者
鳥居 隆三 野瀬 俊明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、移植免疫に関わる均質化した遺伝的背景、すなわち同一MHC遺伝子をもつカニクイザルとそれら個体のiPS細胞を樹立することによって霊長類を用いた実用的な移植検定系の確立を目指すことを目的とし、本年度は以下の4点の結果を得た。1)均質化MHCサルコロニーの作製:カニクイザル1,668頭についてMHC遺伝子の中で免疫拒絶に関わる主要5遺伝子の分析を試みた結果、14種のハプロタイプと30頭のホモ接合体見出し、その中のホモオス2頭から採取した精液を用いて顕微授精を試みMHCホモとヘテロ個体の作出に成功した。これによって移植免疫寛容型カニクイザルコロニーの基盤が整備出来た。2)MHCホモ個体からのiPS細胞の作製:MHCホモ個体の皮膚細胞から山中4因子をレトロウィルスベクター法によってiPS細胞の樹立に成功し、継代も順調に行う事が出来た。3)サルiPS細胞の幹細胞特性:in vitroおよびin vivoでの多能性を確認し、すでに樹立していたカニクイザルES細胞と同等の特性を持つことを確認した。さらにキメラ能確認のために蛍光タンパク遺伝子導入ips細胞を作製し、顕微授精胚(4~8細胞期胚)に注入、卵管内移植したが38日目胎子ではキメラ形成は認められなかった。ただここで用いたiPS細胞はヒト型の扁平型コロニーであったことから、キメラが見られるマウス型、即ち立体型のコローニーの作製を検討すべく培養法を改善しマウス型コロニー様とした後、GFP遺伝子導入と授精胚への注入・移植した37日目の胎子におけるキメラ能を見た結果、蛍光は観察できなかった。今後樹立の段階でマウス型コロニーを形成するiPS細胞を用いてキメラ能の確認を行いたいと考える。4)生体内移植によるiPS細胞の安全性と疾患による影響の評価:サルの健常個体に山中4因子を導入したiPS細胞をカプセル内に封入して背部皮下に移植した結果、遺伝子発現レベルの解析では、内因性KLF4、c-mycの発現亢進が認められた。この結果から将来のiPS細胞から分化誘導した細胞移植においては、とくに各種疾患をもつ患者への移植は安全性確保のための影響評価が重要であることが示唆された。なお、当初予定の5)サルiPS細胞からのin vitro配偶子形成については、キメラ能をもつマウス型コローニーのサルiPS細胞樹立後に検討する予定である。
著者
吉田 健一 橋本 光靖 伊藤 由佳理 渡辺 敬一 坂内 健一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.ヒルベルト・クンツ重複度の下限について研究代表者と渡辺敬一(分担者)は本研究に先立ち、ヒルベルト・クンツ重複度が1の局所環が正則局所環であることを証明した。この結果は正標数において、永田による古典的な結果を拡張したものになっている。本研究では正則でない局所環に対するヒルベルト・クンツ重複度の下限を求める問題について考察した。結果として、平方和で定義される超平面の場合に下限を取るという予想を得て、4次元以下の場合にそれを証明した。本結果における最小値は(代数幾何学的にも)大変興味深いものであるが、現在の所それをサポートする理論は得られていない。このような理論を見出すことは今後の研究課題である。また、我々の予想は完全交叉の場合にエネスク・島本により証明された。2.極小ヒルベルト・クンツ重複度の理論極小ヒルベルト・クンツ重複度はF正則局所環の不変量として導入した概念である。この量は0と1の間の実数値を取りうるが、アーベルバッハらの研究により、F正則であることと、極小ヒルベルト・クンツ重複度が正の値を取ることが同値であることが知られている。本研究においては、F正則環の代表的なクラスである、アフィントーリック特異点と商特異点の場合にその値を求めた。3.極小重複度を持っブックスバウムスタンレー・リースナー環の特徴付け研究代表者は佐賀大学の寺井直樹氏の協力に基づき、ブックスバウムスタンレー・リースナー環の極小自由分解、重複度、h列などに関する研究を行った。特に、そのようなクラスにおける重複度の下限を決定し、下限を取るスタンレー・リースナー環の特徴付けを行った。
著者
山口 しのぶ
出版者
中京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究においては、インド、マハーラーシュトラ州で現在行われているヒンドゥー教儀礼「マンガラーガウリー女神供養」(mangalagauripuja)を取り上げ、現地調査と文献研究よりその構造と特色を明らかにした。デカン高原の歴史においては、古くからさまざまな王朝が交替するにしたがってヒンドゥー教が広まっていった。特にマハーラーシュトラ州においては、13世紀以降バクティの運動が盛んとなり、バクティはマラータの民族運動と結びついていった。現代のマハーラーシュトラ州第二の都市であるプネー市は、マラータの伝統とともに、バラモンの伝統が根強く残る地域であり、前述のマンガラーガウリー供養も、新たに結婚したバラモンの女性により行われる儀礼である。マンガラーガウリー女神供養は、1)口すすぎおよびヴィシュヌ神への敬礼、2)諸神への敬礼、3)儀礼執行の宣言、4)準備的儀礼、5)中心的儀礼(マンガラーガウリー女神の供養)、6)バラモン僧のもてなし、7)結びの敬礼文、8)マンガラーガウリー女神供養にまつわる話の朗読、9)灯火をまわす行為、の9つのプロセスよりなる。1)、2)のプロセスにおいて、儀礼をおこなうメンバーの身体を浄化し、3)において儀礼執行の宣言がなされる。4)においては、儀礼に使用される道具や供物の浄化が行われる。5)においてはマンガラーガウリー女神と夫シヴァ神の供養が行われ、オーソドックスな「16のもてなしからなる供養」の他に、神像の沐浴等がなされる。一連の供養が終了した後、この供養に関わるマラーティー語での話を女性のみが聞き、讃歌を唱えて灯火を回す行為(arti)でこの供養は終了する。マンガラーガウリー女神供養は新たに結婚した女性が幸福な結婚生活を願って行うもので、行為の中心となるのはほとんど女性であり男性は副次的な役割を担っているのみである。またこの供養においては、中心的儀礼において、16のもてなし中の沐浴の他に「大いなる聖別の沐浴」「吉祥の沐浴」等繰り返して女神像に水が供えられる。以上のことからこの供養では、水が重要な役割を担っていると考えられる。
著者
磯田 則生 久保 博子
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高齢者に対する温熱環境基準や好ましい冷暖房設備のあり方について提案するために、高齢者住宅を対象に温熱環境に関するアンケート調査、実態測定を実施すると共に高齢者を被験者に人工気候室実験により温熱環境要素の人体影響を測定し、総合的に検討した。1.住宅温熱環境における青年・中年・高齢者の住まい方対応に関するアンケート調査では、住宅の熱特性や高齢者の体質・体格により冷暖房器具の使用や住まい方に違いがみられた。夏季には高齢者の方が他の年代に比べ着衣量が多く、冷房器具としてはクーラーより扇風機の使用率が増加し、睡眠時の使用は減少する。冬季には高齢者の着衣量が増え、高齢者・中年ではストーブが使用され、睡眠時には中年・高齢者で寝床内暖房器具の使用が増加し、特に高齢者で多く、トレイ回数も増加する。2.高齢者住宅の温熱環境の実態測定では、冬季の温熱環境が悪く、暖房設備を改善する必要がある。夏季の居間の平均室温は29℃程度で、寝室では27℃であり、通風や扇風機の利用が多い。冬季の居間室温は15℃〜18℃と推奨室温より3〜5℃低く、寝室では8℃程度とさらに低く、着衣や炬燵で寒さに対応し、夜間のトレイ時には皮膚温が低下する。3.高齢者・青年を被験者とした人工気候室実験では、高齢者の温熱環境に対する生理・心理反応の特徴を明らかにした。夏季実験では高齢者は青年に比べ躯幹部皮膚温が低下するが、末梢部の変化が少なく安定するのに時間を要し、気温や気流の影響を受ける。冬季実験では寒冷暴露時の高齢者の前額皮膚温が気温の影響により低下するが、下腿部では青年に比べ低下が少ないことから血管収縮機能の低下が示唆される。推奨室温としては夏季には26℃〜29℃で、室温30℃では気流が必要であり、冬季には21℃〜25℃の室温が推奨され、放射暖房方式が望ましい。
著者
片山 幹生
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

今年度はアダン・ド・ラ・アル作『葉蔭の劇』の写本に記載された二つの「タイトル」の解釈を通して、当時の作品受容のありかたを考察し、この研究成果を『フランス文学語学研究』(2002年、第21号)に発表した。『葉蔭の劇』は,1276年にアラスで上演されたと考えられている。通例,中世の作品の場合,作品の末尾に記された.explicitの記述,作品の冒頭の語句であるincipit,テクスト本文の前に付けられた見出しrubriqueのいずれかを,作品を同定するタイトルとして流用する場合が多い.『葉蔭の劇』Jeu de la Feuilleeというタイトルは,作品全編を記載している唯一の写本であるBnF fr. 25566写本のexplicitの記述、《Explicit li ieus de le fuellie》から取られたものだ.現在、この作品の呼称として,explicitの記述から取られたJeu de la Feuilleeが定着しているが,この写本には本文テクストの前に,Li jus Adan「アダンの劇」という見出しも記載されている.つまりこの写本の写字生は,explicitと見出しに二つの異なる「タイトル」を記述していることになる。この二つの「タイトル」の記述に対し、作者が関与している可能性は低いが,少なくともこの二つの表題は,作品を書写した写字生および同時代の人間の作品受容のあり方を示す手がかりであることは確かである.この二つの「タイトル」には、いくつかの解釈が可能である.まず作品の見出しにある《Li jus Adan》という名称は,劇の作者であるアダン・ド・ラ・アルを示すのと同時に,劇の中の登場人物であるアダンの姿を想起させる.一方explicitにある《li jeu de le fuellie》という名称は、劇の中で、舞台装置として置かれた妖精を迎える緑の東屋をまず指すと同時に,後半の舞台となった居酒屋,アラスのノートルダム教会の聖遺物厘の収容場所,アダンとその妻マロワの若き日の恋愛の思い出など,作品中に現われる様々な要素を示唆する.また《fuellie》は,《folie》の異形と読み替えられることで,作品中に遍在する狂気のモチーフを浮かび上がらせる.この様々な解釈を呼び起こす二つの「タイトル」には,複雑な構造を持ち多義的な『葉蔭の劇』の書写を託された当時の写字生の作品受容のあり方が象徴的に示されているのだ。
著者
都築 伸二 山田 芳郎
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

従来の電力線通信(PLC)は100ボルトの電力線間に通信用信号を重畳する方式である。一方本研究では100ボルトの線とグランド間にも同時に注入(ファントムモード注入と呼ぶ)する新しい通信方式を検討した。ファントムモードで注入した高周波信号は、空間に微弱ながら信号を放射する。従って、複数の電力線が配線されている閉空間では微弱電磁界で満たされ、無線通信が可能となる。こうした形態で行うPLCを"有線・無線融合型PLC"と呼ぶ。本研究では、室内の移動体の位置を高精度に特定できる、つまり通信と測位を同時に実現できるような有線・無線融合型PLC方式を検討した。主な成果は以下の2点である。(1)微弱無線通信技術:本研究では、ファントムモード信号の注入・抽出器、及び効率良くアンテナとして励振するために必要なアンテナカプラを開発した。また電力線の配線形態によってアンテナ効率が著しく変動する問題に対しては、PLCモデムに使用されるACコードをシールド付きのものにすることによって解決した。これらの成果は特許としても出願した。(2)高精度位置特定技術:ホームロボットのナビゲーションを行うことを想定し、可聴音DS-CDMによる屋内高精度位置推定法およびその精度を検討した。(1)の微弱無線により、マイクとスピーカを同期させ、室内のように障害物の多い環境下でも数cmの精度で測位できる技術を開発した。ただし、(a)障害物に隠れていても回折波で測定できるものの精度が劣化すること、及び(b)移動体の測定においてはドップラー効果の影響が懸念された。(a)については測定精度の検定方法を提案した。(b)に対しては、チップ長1023チップのM系列を用いる場合、許容される移動体速度は1m/sec以下であることを明らかにした。本研究で得られた成果は国際会議で3件発表し、招待論文や解説記事としても出版した。
著者
梶原 忠彦 川合 哲夫 赤壁 善彦 松井 健二 藤村 太一郎
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

最近"磯の香り"(マリンノート)はアメニティー機能を有する海洋系複合香として注目されている。例えば、そのタラソテラピー(海洋療法)における機能性芳香剤としての利用、あるいは水産食品への香味香付与によってみずみずしさを増強し、商品価値を高めるなど種々の用途開発がなされようとしている。ここでは高品質のマリンノートを安定供給できる最新の遺伝子組み換え技術と伝統的養殖技術を両輪とし化学合成を組み込んだ、未利用植物材料(沿岸汚染藻類、野菜クズなど)を利用する生産システムの技術開発を目指した研究に於て、次のような研究成果を得た。(1)紅藻ノリより、不飽和脂肪酸に酸素を添加しオキシリピン類(ヒドロペルオキシド)を生成する機能を有する新規のヘムタンパク質をはじめて単離することができ、このものはグリンノート生産に極めて有用であることが分かった。(2)ヤハズ属褐藻の特徴的な香気を有するディクチオプロレン、ディクチオプロレノール及びそのネオ一体の両エナンチオマーを酵素機能と合成技術を併用して、光学的に純粋に得ることに成功し、絶対立体位置と香気特性との関連を明らかにした。また、ネオ-ディクチオプロレノールから生物類似反応により、オーシャンスメルを有する光学活性ディクチオプテレンBに変換することに成功した。(3)緑藻アオサ類には、(2R)-ヒドロペルオキシ-脂肪酸を光学特異的に生成する機能を有することを実証した。また、このものはマイルドな条件下で海藻を想起する香気を有する長鎖アルデヒドに変換できることが分かった。(4)アオサ類に含まれる不飽和アルデヒド類を立体選択的に合成し、熟練したフレーバーリストにより香気評価を行った結果、これらは海洋系香料としての用途が広いことが分かった。
著者
林 巌 岩附 信行
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

我々の住む社会において,機械の振動,騒音,不快さといったNVHの分野における問題を解決し,人間にとって快適な居住空間を作り出すことが重要な課題となっている.しかし,機械から発生する騒音を最小にし,かつ心地よくリズミカルな音で機械の稼働状況を知らせる静音最適構造設計手法といったものがまだ十分に明らかにされていない.そこで本研究では,すずむし,こおろぎ,あるいはかんたんなどの鳴き声の美しい昆虫の翅の構造と発音メカニズムを工学的に解明するため,昆虫の翅の構造の精密測定と振動モード解析を行い,そしてその結果を工学的に静音最適設計へ応用するため,平板を対象として厚さを局部的に変更し,またいくつかの編み目パターンを掘り,発生する振動モードおよび音のコントロールについて検討した.本研究で,得られた結果は以下の通りである.(1)昆虫の翅の構造の精密測定こおろぎの翅をプラスチックでモ-ルドし,微少量ずつ削り出し断面を写真撮影する方法により,翅脈のため凹凸が激しい翅の形状を精密に測定でき,翅脈は波板状の構造であることが分かった.(2)昆虫の翅の振動モード解析(1)で測定したデータから,こおろぎの翅の有限要素モデルを作成し,翅脈の端にある翅と胴体の付け根,およびこすり器にたいして種々の境界条件を与え振動モード解析を行った結果,こおろぎの鳴き音の主成分の周波数に一致する固有振動数は見られなかったが,音に寄与している振動モードを確認することができた.(2)編み目模様をもつ平板の振動モード特性局部的な厚さの変化を含む編み目パターンをもつ平板の実験モード解析を行った結果,編み目による固有振動数および振動モードの特性を明らかにすることができ,編み目の変更による音響放射パワー最小化のための検討を行った.
著者
永持 仁 石井 利昌 軽野 義行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

・最大隣接順序によるグラフ疎化法を利用して,O(n^2(1+min{κ^2,κ√n}/δ))時間,O(n+m)領域の計算量で,点連結度κに対する2倍近似の点カットを計算するアルゴリズムを得た(δはグラフの最小次数).提案するアルゴリズムはδがκと比べて大きい場合には従来よりも高い性能を発揮する.・グラフにソース,シンクと呼ぶ2点s,tが与えられたとき,ソースシンク間の最小(s,t)-カットを求める問題に対しては,有向グラフに対し,無向グラフへの「近さ」を表す指標μを導入し,有向グラフDの最小(s,t)-カットをO(min{m+ν(ν+μ)^<1/2>n,(ν+μ)^<1/6>nm^<2/3>}})時間で計算するアルゴリズムを設計した(νは最小(s,t)-カットの値).この計算量は小さなμを持ちかつ密であるような有向グラフに対しては従来法よりも優れた性能を発揮する.・与えられた単純連結グラフG=(V,E)および2点対の集合Rに対して,何本かの新しい枝をグラフGに付与してRの各2点対間の局所点連結度を2以上にする問題を考える.このとき加える枝の本数を最小にすることが目的である.問題に対する下界の導き方を精密化することで最適な付加枝集合の大きさの高々4/3倍の解を求める線形時間アルゴリズムを設計した.・ネットワーク連結度問題に対する最近の進展についてサーベイを行った.多くのネットワークの連結度問題は最大流最小カットの定理に基づく考察から最大流アルゴリズムを利用したアルゴリズムにより解くことができるが,最近,最大隣接順序と呼ばれる節点の順序付けを利用することで無向ネットワークにおいてはさらに効率の高いアルゴリズムが設計できることが示されている.特に,n,mをネットワークの節点数,枝数としたとき,極値節点集合問題,カクタス表現問題,枝連結度増大問題,供給点配置問題と呼ばれる問題に対してはO(mn+n^2log n)時間のアルゴリズムが設計できることを示す.この計算時間はネットワークの最小カットの値を決定する現在最良の計算量に等しい.これらの多くのアルゴリズムに対して研究代表者により現在最良の計算時間が達成されている.
著者
永持 仁 石井 利昌
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
特定領域研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究ではグラフ構造の解明,高速グラフアルゴリズムの開発を行った.グラフの連結性に関する問題について以下の結果を得た.重み付き無向グラフのすべての最小カットを,カクタスと呼ばれるグラフ構造に表現するアルゴリズムの計算量を軽減した.ここで使われている手法は最大隣接順序というグラフの探索法であり,すべての最小カットを計算するために最大流アルゴリズムを必要としない点が特徴である.グラフをk-分割する枝集合はk-カットと呼ばれる.最小k-カットを求める問題に対し,グラフの2-カットを大きさの小さい順に部分的に列挙するという新しいアプローチにより,k=3,4,5,6に対して従来の計算量を改善した.k-辺連結でないグラフにおいて,カット値がk未満のカットから適当なものをいくつか互いに交叉しないように選んでやると,グラフの連結度増大問題を解くために必要な情報が取り出せるという性質を示した.あらかじめこのようなカットの集合を求めておけば,連結度増大問題における解の形を細かく制御できることを示した.近似解を求めるアルゴリズムについて以下の結果を得た.グラフの点連結度増大問題は,これまで,目標の点連結度kに対し,入力のグラフの点連結度が(k-1)である場合にしか解法が知られていなかったが,新たに,入力グラフの連結度が任意である場合のアルゴリズムを与えた.このアルゴリズムは最適解に比べ,高々2(k-α)k本しか余分に付加辺を使わない解を計算する(ここでα=(入力グラフの点連結度)).さらに連結度増大問題では点連結度と辺連結度を同時に扱うものも研究し,目標値のみに依存する絶対誤差の近似アルゴリズムを得た.この他,相対誤差のアルゴリズムとして,重み付き3点連結化問題に対する(7/2)-近似アルゴリズム,最小重み辺支配集合問題に対する2-近似アルゴリズム,次数dのハイパーグラフ上のネットワーク設計問題に対するdH(r)-近似アルゴリズムを設計した(rは連結度の最大要求量,H<>は調和関数).
著者
家村 浩和 小川 一志 五十嵐 晃 高橋 良和 松久 貴 佐藤 忠信
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、隣接する橋桁構造系や隣接建物系を取り上げ、それらの連結装置による連結により、同時振動制御を行うことを目的として、理論的実験的側面から種々の検討を行った。得られた主な結果は、次のとおりである。1) 大地震に対する制震システムにおいては、入力レベルに関わらず装置の性能制約範囲を超えない制御を実現する必要がある。特にアクティブマスダンパー装置における補助質量の変位制約問題を解決するために提案されている非線型可変ゲイン制御の実用性を検証するため、AMD装置を実物大構造フレームに実装した実験を行った。可変ゲイン制御アルゴリズムにより十分な制震効果を確保しつつ、装置の能力を有効に用いた制御が実現されることを示した。2) 阪神高速3号神戸線の震災復旧において、上部をラーメン構造とし橋脚の下端部に免震支承を設置するタイプの道路橋が建設されている。このタイプの免震橋では地震時において、免震支承には水平変形だけでなく、従来考慮されていなかった曲げ(回転変形)や軸力の変動が生じる。そのためそれらの効果の影響を実験的に評価する必要がある。そこで本研究では、多軸載荷が可能となる実験システムを用いて免震支承(LRB)の載荷実験を行い、水平変形・回転変形・変動軸力同時載荷条件下での復元力特性を検討した。その結果、変動軸力の効果は、回転変形の効果に比べ復元力特性への影響が大きいこと等を示した。3) 隣接する橋桁構造系や隣接建物系を制震する手法として、両者をジョイントダンパーで連結し、一体的に制御する方法が提案されている。本研究では5層と3層の隣接構造物の応答低減効果を得る手法として、LQ理論及びH^∞理論により制御器を設計し、シミュレーションを行った。特に制御における時間遅れの問題を取り上げ、数値モデルに対する検討を行った。その結果、H^∞制御においてはLQ制御に比べてはるかにロバスト安定性が得られ、ジョイントダンパーへの適用において優れていることが示された。
著者
太田 孝子 福田 須美子 福田 須美子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

植民地下朝鮮にあった高等女学校を卒業後、内地に留学した経験を持つ7名の朝鮮人女性にインタビュー調査を実施し、留学の経緯及び内地での留学生活に関する具体的証言を得た他、11校分の高等女学校史の翻訳、主要人物の伝記等の翻訳により、高等女学校毎の内地留学の実態を把握した。また、「鴻嬉寮」(主に李王妃が創設した淑明高等女学校と進明高等女学校からの内地留学生のために、李王家が東京市渋谷区若木町に開設した寮)に関する文献や入寮者2名に対するインタビュー調査により、鴻嬉寮の概要を究明した。
著者
茂木 瑞穂 高木 裕三 泉福 英信 米澤 英雄
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ミュータンス菌は、う蝕(虫歯)の主な原因菌であり、歯の表面にバイオフィルム(細菌の集合体、歯垢)を形成する。このミュータンス菌の数ある遺伝子の中でも、SMU832,833遺伝子については、子が母親などの養育者からミュータンス菌を獲得する際に関与している可能性が示唆された。また、バイオフィルム形成にも関係していることが示唆された。
著者
甲斐 敬美
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

一酸化炭素と水素からガソリンを製造するような反応は体積が減少する反応であり、このような反応を流動触媒層反応器で行うと、体積減少により非流動化が起きて安定な操作が不可能となる。本研究ではモデル反応として二酸化炭素の水素化反応を行い、安定な操作が行える方法について反応器モデルと実験によって検討した結果、一方の原料である二酸化炭素を2段に分割して供給することによって、非流動化を避けることができることを明らかにした上で、二段目の供給位置やガスの分割比について、最適な操作条件を明らかにした。
著者
奥乃 博 中臺 一博 駒谷 和範
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

ヒューマノイドと人間との柔軟なコミュニケーションのために,混合音を聞き分け理解する機能を設計することを目的としている.平成15年度は,前年度開発をした方向情報や話者情報などの複数のレベルで視覚と聴覚を統合したアクティブ方向通過型フィルタ(ADPF)の高性能化,及び,ADPFを使用した音源分離システムと音声認識システムのインタフェース化を行い,簡単な3話者同時発話認識を,複数のロボット上に実現した.また,日本ロボット学会に「ロボット聴覚」研究専門委員会を設立した.(1)アクティブ方向通過型フィルタ(ADPF)の散乱理論による高性能化:画像と音から得られる話者の方向情報を基に,特定の方向からの音を分離するADPFでは,2本のマイクロフォンで得られる入力音から求めた両耳間位相差と両耳間強度差を用いて方向情報を得ていた.聴覚エピポーラ幾何に加えて散乱理論により頭部音響伝達関数の近似精度を向上させた結果,30度以上の周辺領域で音源定位と音源分離性能を大幅に向上させることができた.さらに,2種類のヒューマノイドロボット,SIG2とReplieに実装し,本手法の一般性を確認した.(2)3話者同時発話認識(聖徳太子ロボットの予備実験):昨年5月に放映された「鉄腕アトムを作る」(NHK)では方向と話者に依存した音響モデルを使用し3話者同時発話認識を行っていた.ADFPで得られる分離音は,周波数成分での特徴量が欠け,時間成分でのデータも喪失しているので,単一の音響モデルで済ませるために,ミッシングフィーチャ理論に基づいた音声認識システムを開発し,演繹ミッシングマスクにより,分離音の認識精度が大幅に向上することを確認した.(3)音一般の認識と対話システムへの展開:音声を用いた柔軟な対話システム構築のために,音声認識誤りに確信度を導入し,不要な問い合わせを解消する方法を開発した.また,非音声認識のために,楽器音認識と擬音語認識にも取り組み,単音について認識技法を確立した.
著者
好井 裕明
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

「ヒロシマ」をめぐる一般映画、アニメーション、ドキュメンタリー作品などを、可能なかぎり入手し、その映像のなかで被爆やその後の情景など「ヒロシマ」に関連することがどのように描かれているのかを解読した。その結果、「ヒロシマ」の具体性の稀少と一般的な核イメージの過剰を確認した。つまり、被爆した瞬間、直後の惨状など歴史的な時間に依拠された「ヒロシマ」を表現する映画が稀少である一方で、より一般的に原水爆の恐怖、悲劇を利用する作品が過剰であったのである。そのうえで、いわば「ヒロシマ」表現の原点である映画における表現のありようを詳細に解読した。具体的にとりあげたのは『原爆の子』(新藤兼人監督、1952年)、『ひろしま』(関川秀雄監督、1953年)、『はだしのゲン』(真崎守監督、1983年、アニメーション)である。3作品はそれぞれ独自の「ヒロシマ」表現を持っている,ことを例証した。他方、こうした作品は製作後半世紀がすぎたものであり、古い映像と言える。原点としての「ヒロシマ」映画が、現代の若者にとってどのような意味があるのかを例証するために、これらの映画を見せ、感想レポートを作成させた。レポート内容を整理し解読を試みた結果、原点としての映画は、現代においても、十分に「ヒロシマ」を理解するうえで意義あることが確認された。過去の作品として整理するのではなく、こうした映画を今後どのように活用するのかを考えることは「ヒロシマ」理解において極めて重要な作業であることも確認した。他に、今後の課題として、強大な破壊力の象徴としての核イメージの解読、「ヒロシマ」をめぐるTVドキュメンタリーの詳細な解読などをあげることができた。
著者
服部 勝憲 齋藤 昇 秋田 美代
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

学部学生の算数科カリキュラムのとらえ方は,「各学校の算数科教育計画・指導計画」が31.8%,「算数教育の計画,授業,評価の総体」が30.8%,「学習指導要領に示された算数科の内容」が15.6%,「算数科の授業内容の全体」が14.2%である。以下「算数教育により子ども達が身につけたもののすべて」3.3%,「算数科の教科書に示された内容」1.9%と続く。また開発したカリキュラム編成の重点に関する尺度,評価実施の場面と時間に関する尺度,編成段階の評価と改善に関する尺度の評価尺度得点において,学部学生の得点が現職教員より高い結果が出ているが,単純に学部学生の方の認識が高いとは考えられない。今後これらの調査項目に対する理解の広さ・深さ,さらに学校現場におけるそれらの実施の困難さ等についての検討が必要である。さらに授業観を評価する10個の調査項目を用いて,授業観についての3つのタイプ,(1)教師主導・説明練習評価尺度得点が高いType-A,(2)2つの評価尺度得点がともに平均的な位置にあるType-B,(3)生徒主体・活動支援評価尺度得点が高いType-Cを抽出した。これらの観点から考察すると,小学校教員の場合は39.4%が,中学校教員の場合は,36.9%がType-A, B, Cとして抽出された。それに対して学部学生の場合は28.4%(全211名中)とかなり少なく,タイプとして見られるような明瞭な授業観を持つに至っていないといえる。また学部学生の場合,現職教員の場合に比べて,拡散的である。特に評価の場面や時間,及び評価の改善に関する評価尺度では現職教員の場合に比べて,かなり高い得点を示している。このことから評価とそれによる改善に関しての可能性についての期待を示している。このことからも,教員養成系学部において,望ましいカリキュラム観や授業観を育てていくための考え方やその展開のための教員養成カリキュラム(教育計画・シラバス)の開発とともに,一貫性のある教科カリキュラムに関する教育のあり方が重要なものになる。
著者
代田 健二
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,弾性波動場における係数同定逆問題の実用問題例である周波数データを用いた鉄とコンクリートによる合成梁の欠陥同定問題に対して,反復型数値解法を開発した.変分法的定式化によりチコノフ型正則化項を持つ汎関数による制約条件付き最小化問題を導出し,その問題へ射影勾配法を基礎とした反復アルゴリズムを適用した.数値シミュレーションによる周波数データおよび実測データを用いた数値実験を実施し,一定精度で同定できることを明らかにした.
著者
遠藤 正之
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1 制吐薬オンダンセトロンとメトクトプラミドのモルモット乳頭筋活動電位に及ぼす影響近年心筋活動電位第三相を形成する遅延整流カリウム電流の抑制がリエントリー型の不整脈に対して抗不整脈作用を発揮するのであるが、逆にその作用により致死的不整脈が誘発されることが明らかとなり注目されている。5-HT3受容体遮断薬であるオンダンセトロンとドパミン受容体遮断薬であるメトクトプラミドはいずれも術後の制吐剤として使用されるが、オンダンセトロンはイヌの心室筋細胞で遅延整流カリウム電流を抑制することが示されている。そこでモルモット乳頭筋の活動電位に対する両薬物の作用を検討した。その結果オンダンセトロン3uMおよび10uMは刺激頻度0.2,0.5,1.0,2.0Hzのいずれにおいても90%再分極における活動電位持続時間APD90を、濃度依存性に延長した。一方メトクトプラミド3uM、10uMは同様の刺激頻度において、APD50,APD90に対し明らかな延長作用は示さなかった。2 炭酸水素ナトリウムのモルモット乳頭筋活動電位に及ぼす影響心肺蘇生時にはしばしば大量の炭酸水素ナトリウムが、代謝性アシドーシスの補正のために投与されるが、本科学研究費に基づく研究で、炭酸水素ナトリウムがモルモット乳頭筋のAPDの延長と静止膜電位の過分極を生じることが明らかになった。種々の薬物を用いた検討から、APDの延長にはナトリウムイオンの増加が、過分極には炭酸水素イオンの増加が関与していることが明らかになってきている。3 冠動脈血流量に対する二酸化炭素分圧の影響冠動脈攣縮等による心筋虚血も麻酔中の致死的不整脈を誘発しうる。本研究ではモルモットLangendorff心を用いて、定圧潅流を行い冠潅流量を測定した。潅流液中の二酸化炭素分圧を40mmHgから80mmHgに上昇させると、血管内皮依存性に一酸化窒素の作用を介して潅流量が増加した。一方二酸化炭素分圧を20mmHgに低下させると、潅流量は約10%減少したが、一酸化窒素合成酵素阻害薬を前処置しておくと、その減少は増強された。
著者
平良 勉 金城 文雄 真栄城 勉 金城 昇
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

明治10年代より急激に学校設置されていくが、それは民衆の教化・統合と日本資主義経済の発展に伴う学力及び軍事力の養成ということが内外情勢のうちに支配層をして緊急の課題として強く意識されていた。明治12年清国政府が廃藩置県につき日本政府に抗議するという事態は、そのことを一層推進していく必要にかりたてた。御真影や教育勅語下賜記念運動会,日清・日露の戦勝奉祝運動会は、天皇制教化の一翼を担わされていたと考えられる。だが、そのことがその地域独自の生活や文化と何んの矛盾もなく浸透していったとは考えにくい。少なくとも就学率の状況はその現われとみることができる。さらにまた,沖縄に存在してきた独自の運動文化の盛衰は朝鮮や台湾などの調査研究とともに改めて検討されなければならない。大正期から満州事変頃まで“スポ-ツの黄金時代"ともいえる様相を呈する。野球や庭球など近代スポ-ツの種目の大会も開催され、新聞社や青年会主催の競技会なども盛んになってくる。青年会やスポ-ツ組織の設立もこの時期には際立った特徴となっている。それは、同時に大正5年内務・文部省訓令にみられるように、青年会をはじめとして社会教育団体の統合支配の再編過程でもあったと考えられる。しかしまた,民衆における一定の学力・教養の高まりは、内に自覚的主体の形成の可能性も孕む。自由民権運動や大正デモクラシ-,労働運動の高揚は,結社・表現の自由に基礎づけられ,スポ-ツ・芸術の本質が逆にその基礎に働きかえしていく過程の吹き返しの可能性を一定の規制を伴いながらももつ。野球部廃止をめぐる男子師範生のスト(大8)や宮古の運動会官僚統制に対する論争(昭3)などはこの時期の一端を示している。しかしこの時期以降、日中戦争,国家総動員法,翼賛県支部結成へと展開していくなかで,スポ-ツは自由主義,合理主義の温床であるとして一転して変質・排除され,あるいは実用的に国防競技化する。