著者
中下 留美子
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年,野生動物と人との軋轢が顕在化し,農林水産被害や人身被害等が頻発し,多数の個体が捕獲されている.しかし,駆除個体の詳細な加害実態は把握されておらず,根本的な被害対策は遅れている.そこで,本研究では捕獲個体の加害実態履歴を明らかにするために,野生動物の一生の食性履歴を明らかにする手法を開発した.ツキノワグマについて,代謝速度の早い組織(血液,肝臓,体毛など)と遅い組織(骨,歯)を組み合わせることで,個体毎に亜成獣~捕獲前までの食性が推定可能となった.本研究は,入手可能な様々な組織を組み合わせて個体レベルの詳細な食性履歴と加害実態を明らかにし,科学的根拠に基づく保護管理策に貢献する.
著者
遠藤 辰典 坪井 潤一 岩田 智也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.4-12, 2006-06-25 (Released:2018-02-09)
参考文献数
28
被引用文献数
12

砂防ダムなど河川工作物による段差は、河川に生息する生物にとって往来を妨げる障壁となる。特に魚類は、川に沿った線的な移動を余儀なくされることから、隔離の影響が著しく大きくなる。そのため、河川工作物によって分断化された場合、工作物上流に隔離された集団が絶滅している可能性がある。そこで、本研究では河川工作物がイワナSalvelinus leucomaenisとアマゴOncorhynchus masou inhikawaeの生息分布に与える影響を調査した。2004年6月から9月に、放流魚と交雑の無い在来個体群の生息が期待される富士川水系の小河川において野外調査を行った。流程に沿った潜水目視により2種の分布域を調べ、GPSによって分布最上流地点および河川工作物の正確な位置を把握した。在来個体群が生息していた29河川に設置されている工作物は計356基(1河川あたり12.3基)であり、全てにおいて魚道は併設されていなかった。調査の結果、1970年代に河川最上流部までイワナ、あるいはアマゴが生息していたが、本調査を行うまでに工作物の上流域で絶滅したと推定される河川が、両種ともに確認された。また、2種の共存河川も5河川から1河川に減少していた。ロジスティック回帰分析を用いて、最上流にある河川工作物(UAB)より上流の2種の生息に影響を及ぼす要因を検討した結果、種、河川にある工作物数、UABより上流の集水面積が有効な説明変数として選択された。すなわちUAB上流の個体群の存在確率は、アマゴの方が低く、またUAB上流の集水面積(生息水域)が小さいほど、工作物数が多いほど低かった。このモデルから、個体群維持(50%個体群存在確率)に必要な集水面積は、イワナでは1.01km^2、アマゴでは2.19km^2と推定され、これより上流に工作物が設置された河川ほど、工作物上流に隔離された集団が絶滅する可能性が高くなることが示された。
著者
大庭 成一
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子 (ISSN:04541138)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.90-93, 1957-01-20 (Released:2011-10-11)
著者
浅野 志帆 安藤 昌也 赤澤 智津子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.63, 2016

デザイン領域が経験や価値までに広がった今日において、ユーザーエクスペリエンスデザインに対する理解は、デザイナーは勿論のこと、企画職やマーケティング職に従事するデザイナー以外の人々にとっても必要なスキルといえる。本研究の目的はKA法を題材に、入門者がエキスパートからの指導を受けることがなくても手法を理解・実践する方法を検討し、明確化することである。KA法が用いられるワークショップの見学を通し、得た気づきより、KA法自体に関する理解→KAカードの構造理解→KA法の実践→実践結果のフィードバックという4ステップをで最低限の理解・実践ができるパターンとした。今後は体系化したパターンが有効であるかを検討、考察し、必要に応じてパターンの再検討を行う。
著者
神田 真聡 近藤 真 山本 聡 向井 正也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.6, pp.1461-1463, 2013-06-10 (Released:2014-06-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

抗リン脂質抗体関連血小板減少症は免疫性血小板減少症の約4割を占める血栓素因であるが,両者は区別されないことが多い.近年登場したトロンボポエチン受容体作動薬は血栓塞栓症を起こし,血栓素因のある場合は慎重投与とされる.我々は抗リン脂質抗体関連血小板減少症に対し,エルトロンボパグを投与し,深部静脈血栓症と肺塞栓症を発症した1例を経験した.エルトロンボパグ投与時には抗リン脂質抗体の検索を検討すべきである.
著者
吉崎 尚良 青木 一洋 望月 直樹 松田 道行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.135-141, 2005 (Released:2005-10-01)
参考文献数
22

細胞内シグナルは,複数の分子の相互作用と酵素反応の連携によって伝播する.細胞外からシグナルが入力されると,多数の分子が相互作用するが,その相互作用は,時間的,空間的に様々に変化する.そしてそれら多様な相互作用は,細胞の分化,細胞骨格の再構成,遺伝子発現,という生命現象として最終的に出力される.こうした細胞内シグナル伝達に関わる分子の同定や機能解析は従来,遺伝学的,生化学的,分子生物学的手法によって行われてきた.これら既存の手法は目的の分子のシグナルカスケードにおける位置や,試験管内での酵素活性を知るには有効であるが,“細胞内のどの部位で,いつ”という時空間的な情報を知ることはできなかった.この問題を解決するために,近年,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した生体内の反応を可視化するFRETプローブ群が開発されている.とくに,緑色蛍光タンパク質(GFP)をこのプローブ群の作製に用いると容易に細胞内に導入できるため,その利用に拍車がかかっている.さらに,これらのFRETを利用すれば,特定のタンパク質の活性を非侵襲的に画像化することが可能となることから,1細胞単位での分子機能の解析のみならず,さまざまな病気の診断や治療評価まで役立てようとする試みが始まっている.本文ではこのGFPを利用したFRETプローブの一例として低分子量Gタンパク質であるRhoの分子センサーを用いて,その利用の実際とそれによりわかってきたRhoファミリーGタンパク質の活性変化について解説する.
著者
廣田 吉崇
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.13-72, 2010-03-31

本稿において、茶の湯の家元である千家の血脈をめぐる論争を材料として、家元システムの現代的展開について考察する。
著者
田中 正次郎 菊地 隆志
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.197-202, 1967-04-01 (Released:2009-11-11)
被引用文献数
1 1

The utilization of CMC (carboxymethyl-cellulose) as a surface sizing agent has been studied. Through several experimental applications on a small size test paper machine, suitable conditions of CMC for the purpose of surface sizing were defined as follows : D.S. 0.50.8 Viscosity 50100 c.p. (3% soln., 25°C) Impurity Less than 25%The paper surface-sized by CMC showed such characteristics as high oil and air resistance and high wet tensile strength. These characteristics might enable us to use CMC for under coating besides general surface sizing. The practicality of CMC surface sizing was also approved qualitatively and economically by a test run on a commercial paper machine.
著者
渡辺 朝一
出版者
日本鳥類標識協会
雑誌
日本鳥類標識協会誌 (ISSN:09144307)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.59-65, 1998 (Released:2015-08-20)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

ムナグロの冬羽タイプにおいて,成鳥冬羽,幼羽,第一回冬羽の3タイプを背面の羽毛に着目して区別できることを示した.幼羽では,前頸と胸に縦斑が著しく,背面の羽毛は大部分が黒色で,羽縁に半円状の淡色斑がある.成鳥冬羽では,前頸と胸の縦斑は見られず,背面の羽毛は黒色と黄金色が段階的に模様を形成している.第一回冬羽では,やはり前頸と胸の縦斑は見られず,背面の羽毛は大部分が黒色で羽縁が淡色である. ムナグロは,冬羽タイプにおいても,換羽直後は黄金色が著しいが,次第に退色して褐色味を欠くようになることがある.
著者
大井 崇生 笹川 正樹 谷口 光隆 三宅 博
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.378-385, 2013
被引用文献数
3

ローズグラスは体内に取り込んだ塩類を排出する塩腺を有し,耐塩性が高いことが知られるイネ科牧草である.本研究では,津波被災農地の土壌を用いてローズグラスの耐塩性および塩排出能力を検討した.福島県いわき市において,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災のなかった地点,あった地点の農地より土壌を採取して実験に用いた.採取地のうち四倉町の津波あり地点では,土壌EC値および土壌中交換性Na<sup>+</sup>量がともに高い値を示した.この土壌を用いてローズグラスおよびイネを人工気象室内で21日間生育させた.両作物ともに津波あり地点の土壌において生育阻害が現れたが,ローズグラスでは地上部乾物重の減少率はイネよりも小さく,また可視障害も少なく,さらに長期間の生育が可能と考えられた.葉身内のイオン含有量を測定すると,ローズグラスでは津波の有無に関わらず高いNa<sup>+</sup>含有量を示した.加えて津波あり地点の土壌において,ローズグラスでは葉身や葉鞘の表面に水滴または結晶状の排出物が観察された.1週間あたりの葉身からのイオン排出量を測定すると,葉身の含有量の4倍のNa<sup>+</sup>が排出されることが確認された.また,生育後の土壌中交換性Na<sup>+</sup>の減少量はイネよりもローズグラスの方が大きい傾向があった.以上より,ローズグラスは津波被災農地における転作利用や除塩に役立つ可能性が示唆された.
著者
出水 力 デミズ ツトム Tsutomu DEMIZU
雑誌
大阪産業大学経営論集
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.143-167, 2007-02-28

The production activity of Honda in China started from the motorcycle. It became joint venture through the technical tie-up with China's state owned enterprises. Honda supported the part supplier's promotion. On that process the copied parts spread on market using the Honda's design drawing. This caused the problem that the copy motorcycle circulated in China. The copy motorcycle explosively extended sales on market because price of the copy motorcycle was less than the half price of Japanese motorcycle made by joint venture. To cope with this problem Honda decided to start new joint venture with major copy motorcycle manufacturer in China.

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著者
吉田 豊
出版者
一般社団法人 日本オリエント学会
雑誌
オリエント (ISSN:00305219)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.199-200, 1993
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.245-247, 2016 (Released:2018-06-27)

本シンポジウムでの『過剰診断』の定義は「生命予後に関わらない癌を検出して治療すること」であるが,病理診断領域での『過剰診断overdignosis』とは「良性病変を悪性と診断すること」であり,誤診を意味する。用法の違いにより混乱を生ずるのではと危惧する。『過剰診断』に相当する乳癌は? ですぐに思い浮かぶのは平坦型・低乳頭型の低核異型で,ER(+)PgR(+)HER2(0)のDCIS である。間質に浸潤しても管状癌様の低悪性度の浸潤癌となり,なかなか生命予後に影響を及ぼさないものと推察される。ここで考慮が必要なのは,宿主の年齢・状態,針生検での診断である。高核異型トリプルネガティブ面疱型DCIS でも条件によっては『過剰診断』乳癌となり得る。針生検標本の組織像が病変全体像(間質浸潤の有無,病変の広がり,組織像の多様性)をどれくらい反映しているかが問題である。『過剰診断』防止法は,1)検診を行わないグループの設定,2)検出基準の引き上げ,3)生検適応基準の引き上げ,4)癌の診断基準の引き上げ,5)癌の治療適応基準の引き上げ,であろう。4)が病理学的因子であるが,前立腺癌のように浸潤癌のみを癌と診断することの是非についても考察したい。
著者
山口 倫
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

乳癌は、組織学的見地の他、現在サブタイプという概念が浸透している。我々は、乳癌が早期から浸潤癌までどのように進展、発育するかをサブタイプ (基本的にルミナル、Her2陽性、トリプルネガティブ群に大別) の概念から、特に免疫応答の観点も加え、検診における過剰診断や過剰治療にも言及できるよう検討を行った。早期乳癌において、Her2陽性上皮内癌はコメド壊死を有する高異型度癌が多く、腫瘍リンパ球浸潤免疫応答によって浸潤する経路があり、他サブタイプとは異なることが明らかになった。また、浸潤性Her2陽性乳癌ではER陽性と陰性群で病理・形態学的・免疫応答の点において大きく二分されることが明らかとなった。
著者
山口 倫 森田 道 山口 美樹 大塚 弘子 赤司 桃子 田中 眞紀 矢野 博久
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.143-147, 2017 (Released:2018-06-27)
参考文献数
16

以前,乳癌検診は早期発見,早期治療を掲げていたため,病理医も早期癌あるいは将来癌になるであろう病変を見出すことに重きを置いていた。しかし昨今,過剰診断の問題が取り沙汰され,特に検診では予後改善が目的で,“命に関わらない”病変を如何に見出さないかという考えにシフトしているようだ。一方で,その対象が境界病変,低異型度(LG)―DCIS,LG 浸潤癌なのか,それら全部なのかは不確かである。 DCIS はluminal だけでなく,HER2陽性も存在するheterogenous なグループで,前者はLG,後者は高異型度の浸潤癌となる。従来の乳癌モダリティでは,triple negative DCIS はきわめて検出されづらく,残念ながら致死的癌の“芽”の早期発見は大部分ができていない。一方で,大半が予後良好と思われるLG-DCIS も一定の割合で浸潤し,低頻度ではあるが数年後死に至る例もある。 これらのことから私見であるが, ( i )今後の検診について, 1.多形線状石灰化≒コメド壊死≒HER2陽性癌の早期検出にフォーカスし,抗HER2療法の抑制に繋げる。 2.早期乳癌,境界病変の病理診断者間一致率は低いため,マンモグラフィ精査基準を上げ,LG-DCIS/LN/境界病変(luminal)の検出・採取率を減らす。結果的に取扱いに悩む機会が減る。 3.致死的TN の早期検出に関しては新しいモダリティを見出す。 (ii)病理診断(癌診断基準)について, LG 乳癌は低頻度だが死に至り,LN 転移など悪性のポテンシャルも有する。したがって,しばらくの間現状のクライテリアとし,“低リスク”病変の病態を明らかにする。 今後は,“命に関わらない”病変の臨床病理学的定義とその所見を明確にしていく必要がある。