著者
山岨 達也
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.649-664, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
26
被引用文献数
3

乳幼児難聴では早期発見・早期支援が重要であり, 新生児聴覚スクリーニングを広く行うことに大きな意義があるが普及率は高くない。スクリーニング未施行例や進行性難聴例では介入が遅れる傾向にある。高度難聴のみでなく軽度から中等度難聴でも早期発見・早期介入が重要であり, 看過された場合はコミュニケーションに支障をきたし, 言語発達, 情緒, 社会性の発達などに影響が生じる。補聴効果に限界があると予想される高度難聴の場合はコミュニケーションモードの選択を視野に入れた対応が求められ, 療育上人工内耳が選択肢と考えられる場合には速やかに人工内耳医療を専門とする医療施設に紹介することが重要である。小児における人工内耳の術後成績には手術年齢, 難聴の原因, 重複障害の有無, コミュニケーションモードなど多くの因子が影響する。手術適応決定にはこれらの因子を含め考慮すべき多くの因子があり, 多職種によるチーム医療での対応が求められる。乳幼児難聴の臨床上の特徴は患児のみならず保護者も対象とし, その経過が長期にわたる事とダイナミックな発達的変化を含む事である。聴力検査一つをとっても高い専門性が求められ, 児の生活上の困難や保護者のニーズを把握するには聴覚医学だけでなく発達医学や心理学の知識も必要である。適切な時期の適切な判断が児の将来の発達に影響することを念頭に置いて治療にあたることが肝要である。
著者
小川 恭孝 大鐘 武雄 西村 寿彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.11, pp.11_32-11_38, 2009-12-01 (Released:2011-06-02)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

数十Gbit/s以上の超高速通信が必要になった場合,MIMO伝送が必須技術となることは容易に想像できる.しかし,実際に超高速伝送を実現できるかどうかは,アンテナ本数のみならず,周波数帯,伝搬環境,実装技術に大きく依存する.特に超高速伝送が使用されると考えられる見通しのある解放空間では,空間相関が高くなるため,MIMO伝送の効果が減少する.したがって,アンテナ配置や伝搬構造の能動的最適化など,改善手法について述べる.
著者
小笠原 好彦
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.9, no.13, pp.49-66, 2002

古墳時代には,各地の首長が首長権を執行する居館を構築した。この居館に建てられた建物と深い関連をもって描かれたとみなされるものに奈良県佐味田宝塚古墳から出土した家屋文鏡がある。この鏡には,高床住居,平地住居,竪穴住居,高床倉庫の4種の建物が描かれている。このうち高床建物には露台と衣蓋,樹木が描かれており,ほかの建物と同じく屋根上に2羽の鳥を表現する予定であったと想定され,中国の漢代の武氏祠などに描かれた昇仙図の楼閣建物の系譜を引く可能性が高く,首長がほかの3つの建物とともに,他界後に神仙界でかかわる建物として描かれたものと推測される。<BR>一方,首長居館に設けられた囲繞施設に関連するとみなされる形象埴輪に,囲形埴輪がある。この埴輪の用途には壁代,稲城など諸説がだされており,居館の塀と門を表現したものとみなす考えを提起してきたが,なお明らかでなかった。しかし,近年,兵庫県行者塚古墳,三重県宝塚1号墳,大阪府心合寺山古墳などから古墳に配置された状態で見つかっており,中に木槽樋型土製品,井筒型土製品と家形埴輪が置かれていたことが判明した。このうち木槽樋型土製品は奈良県南郷大東遺跡,纏向遺跡,滋賀県服部遺跡などから検出されている木槽樋遺構を模したものとみなされるので,浄水施設を覆った上屋である家形埴輪を囲んだものと推測して間違いないであろう。そして,宝塚1号墳から井筒型土製品を囲んだものも出土していることからみて,これらは漢代の昇仙図に「其の江海を飲む」と書かれているものがあるように,首長が神仙界を訪れた際,飲料水の浄水を欠かすことがないように古墳に置かれたものと推測される。<BR>一方,三重県石山古墳では,東方外区から倉の家形埴輪群とともに4個以上の囲形埴輪が出土しており,これらは昇仙図に「太倉を食する」「大倉を食する」と記されたことと関連をもつ可能性が高く,神仙界で首長が食糧が尽きることのないように置いた倉庫群を警固したものかと思われる。このように,古墳には首長居館と深い関連をもち,しかも黄泉国世界との関連で,副葬品や墳丘に配置されたものが少なくないように推測される。
著者
田中 克枝 神薗 洋子 氏田 直子 成田 智
出版者
弘前医療福祉大学紀要編集委員会
雑誌
弘前医療福祉大学紀要 (ISSN:21850550)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.41-48, 2013-03-29

先天性聾児や難聴児に2000年以降、人工内耳装用が目覚ましい。本研究の目的は人工内耳を装用している子どもの養育者の思い、特に子どもの聴覚障害の告知後の受け止め、治療・訓練、日常的な育児に関しての思いとその時のサポート状況を明らかにすることである。研究方法は研究趣旨の了承の得られた5 名に半構成的インタビューの面接を行った。結果として、【障害が診断された時の不安、ショック】、【初期対応の仕方に対する不満と納得】【初期の母親の心理的支援の不足】【交流の場がない】【心の支えになった教育相談】子どもの発達時期における【幼児期の関わりの難しさ】【小学校選択の葛藤】【自立への援助の葛藤】などが挙げられた。よりよい支援を考えるにあたり、初期対応は母親の思いをくみ取る丁寧な対応、障害が分かってから教育相談までをつなぐ「橋渡し」、障害への価値観差のより個別的なサポートが必要であると示唆された。
著者
川崎 美香 森 壽子 森 尚彫 黒田 生子 藤本 政明
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-57, 2009 (Released:2009-05-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1

発見年齢が異なり, CI装用年齢にも差がある進行性難聴児2例を対象に, CI装用後の言語や認知諸能力の獲得過程を追跡・調査し, 進行性難聴児固有の問題, CI装用効果, 言語指導上の留意点や言語聴覚士の役割を考察し以下の知見を得た。1. 2例の経過から, 進行性難聴児に対するCI装用は有効であった。3歳6ヵ月でのCI装用効果は高かったが, 6歳11ヵ月でのCI装用でも効果があった。2. 進行性難聴児の発見直後から指導を行う言語聴覚士は, できるだけ早期に個々のこどもの言語学習上の問題をみつけ, 言語学習条件を整備し, 適切な言語指導を行うことが必要と考えられた。そのために使用する森式チェックリストは臨床的に有用であった。3. 就学前・就学後に体系的言語訓練プログラムに従った言語指導を一定期間実施することで, 9歳時までに言語・認知諸能力を年齢相応に獲得させることができた。
著者
中山 博之 加藤 敏江 浅見 勝巳 服部 琢 柴田 康子 荒尾 はるみ 別府 玲子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.381-387, 2006-08-31 (Released:2010-08-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 3

言語習得前高度難聴で長期間 (3年以上) 人工内耳装用児25名 (6~11歳) と言語習得前あるいは習得中の中等度から重度難聴の補聴器装用児61名 (6~17歳) を対象とし, 自作の各種語音聴取検査と保護者に対して家庭での聞こえに関する質問紙での評価を行い, 語音聴取能を比較検討することにより, 人工内耳適応聴力閾値を推定した。その結果, 難聴のみの単一障害である人工内耳装用児の語音聴取成績は, 0.5・1・2・4kHzの4周波数平均聴力レベルが70dB台の補聴器装用児に相当しており, 4周波数平均聴力レベルが90dB以上の高度難聴児は人工内耳の適応であると考える。また, 4周波数平均聴力レベルが70dB台と90dB台の補聴器装用児の4周波数平均装用閾値は各々41dB, 53dBであったことから, 補聴器調整後も4周波数平均装用閾値が50dB以上の場合は, 人工内耳の適応を考慮するべきであろう。
著者
土井 浩一郎 塚本 博則 里村 幹夫 中川 一郎 中村 佳重郎 東 敏博
出版者
日本測地学会
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.59-70, 1988

同じコソクリート台の上に設置された2台のLaCosteamp;&Romberg重力計D-58とG-680を用いて,1984年9月から1985年7月にかけての約11ヵ月間にわたり,重力の潮汐変化の連続観測が静岡において行なわれた. 同一地点に設置されている重力計に与える気温,気圧および海洋潮汐などの擾乱源による:影響はほぼ共通していると考えられるために,2台の重力計によるデータからは,調和解析により,類似の結果が得られるであろうと予想される.しかし,実際には,2台の重力計による約11ヵ月間のデータを用いて求められたδ一ファクターは,LaCoste&Romberg重力計G-680から得られたもののほうがやや大きい値を示し,時間変化の様子もあまり似ていなかった.その原因については,現在のところ,まだ解明されていない. LaCoste&Romberg重力計D-58より得られた同時観、測の約11ヵ月間のデータとその期間を含む約2年間のデータからそれぞれ得られたδ一ファクターを比べてみると,0.1%程度でよく一致しており,ほぼ1年間のデータを用いて解析がなされた場合は,きわめて安定した結果が得られることが確かめられた. 地震予知に対する応用においては,より短い解析期間を用いて,より高い精度の解析結果が得られることが要求される.そこで,解析に用いられるデータ期間の長さと2台の重力計で得られたδ一ファクターの差の関係を調べてみた.その結果,解析期間の長さを30日以上とした場合,比較的安定した結果が得られるものの,その変動はかなり大きいことがわかった.
著者
足達 裕 松崎 昭夫 城戸 正喜 入江 豊 松永 和剛 広田 修
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.344-349, 1994-03-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
11

We report three cases of femoral nerve paresis. Case 1 was a 25-year-old male, who was admitted to hospital complainning of left thigh pain. On examination he had tenderness in his left inguinal area. Neurological examination revealed a weakess of the quadriceps on the left, and diminished sensation on the anteromedial aspect of his left lower extremity. The mechanism of injury was not clear in this case. Case 2, a 56-year-old male had progressive muscle weakness and numbness in the right lower extremity. He had received cobalt radiation therapy 16 years previously. Clinical examination revealed a firm hypertrophic scar with tenderness in the right inguinal area, and neurological examination showed quadriceps weakness and sensory disturbance of the anteromedial surface of the right thigh nd leg. Case 3, an 18-year-old male complained of gait disturbance and sever pain around theleft inguinal area and numbness over the left thigh. “The patient was a hemophiliac who had been unde the care of a pediatrician”.Neurolysis was performed in two cases, and the other patient was treated with bed rest and replacement therapy. In all cases, symptoms improved after treatment.
著者
丸山 成和 丸山 典彦 伊藤 宏 田中 良和 植松 典昭
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.330-333, 1983-06-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1

牛以外の動物, とくに人と豚のアカバネウィルスに対する抗体の保有状況を知る目的で, 両者の血清について, 赤血球凝集抑制 (HI) 反応, 中和 (NT) 試験による調査を実施した. なおHI価10以上, NT価4以上を反応陽性とした.調査期間は人では1977年6月~1979年4月, 豚では1978年9月~1979年2月であった. 調査地域は人では県内8市5町, 豚では9市4町であった. その結果以下の成績を得た.1) 人血清1, 348例のうち1.3%(17/1, 348) がHI陽性であった. これらの陽性例は県東部の隣接田園地区に集中してみられた. 陽性例のHI価は10~40, NT価は4~32であった. なお豚のHI陽性率の高い地域の養豚従事者19人では1例が陽性 (陽性率5.3%) で, そのHI価およびNT価はそれぞれ10および8であった.2) 豚血清1, 134例 (4~5ヵ月齢の肥育豚654頭, 繁殖豚480頭) についてHI価を測定したところ, 1.4%(16/1, 134) の陽性率であった. このうち肥育豚は0.8%(5/654), 繁殖豚は2.3%(11/480) の陽性率であった.陽性例のHI価は10~20, NT価は4~64であった.豚および人は, Vectorの動物嗜好性によることも考えられるが, 牛にくらべて本ウイルスの感染をうけにくいものと推測される.
著者
小守林 靖一 久保 慶高 幸治 孝裕 西川 泰正 小川 彰 小笠原 邦昭
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-294, 2013-07-25 (Released:2013-07-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

要旨:44歳,男性.頭全体の痛みを自覚し独歩受診.精査上くも膜下出血や脳梗塞は認めなかったが,左椎骨動脈解離を認め,2カ月おきに画像追跡を行い,半年後に左椎骨動脈の閉塞を確認した.なお,反対側の右椎骨動脈には異常所見は認めなかった.その後も画像追跡を行ったが,両側椎骨動脈には変化がなかった.最終画像追跡から2カ月後,左椎骨動脈閉塞から25カ月後に突然くも膜下出血を来した.右椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部より近位側に紡錘状動脈瘤を認め,出血源と診断した.血行再建を伴った根治手術を企図したが,肺炎を合併したため待機手術の方針となった.2週間後に再出血を来し,死亡した.これまでの報告では,一側の椎骨動脈解離の自然閉塞または治療による閉塞後に対側の椎骨動脈解離によるくも膜下出血を来す期間は,14日以内であったが,本症例のように2年以上の長期経過後でも反対側椎骨動脈に解離が出現し,出血することがありうる.
著者
原田 二郎 田中 孝幸
出版者
農林省北陸農業試験場
巻号頁・発行日
no.25, pp.65-78, 1983 (Released:2011-03-05)
著者
箕浦 逸史 武藤 悦子
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.010-013, 2012 (Released:2012-01-31)
参考文献数
9

To understand the mechanism underlying the one-dimensional (1D) Brownian motion of proteins, we analyzed the behaviors of counterions along microtubules using the electroorientation method and compared these with the 1D Brownian motion of charged nanoparticles. Both results demonstrated that during 1D Brownian motion, each positively charged nanoparticle behaves as a polycation constrained within the electrostatic field around the microtubules. Owing to the polyelectrolytic nature of microtubules, nanoparticles can move along microtubules with a diffusion constant independent of the charge density of the microtubules. The study highlights the possibility that 1D Brownian motion of proteins is based on a similar, nonspecific charge-dependent mechanism.
著者
植田 真司 長谷川 英尚 久松 俊一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.75-85, 2016
被引用文献数
4

<p> 青森県六ヶ所村に点在する淡水湖の田面木沼および市柳沼,汽水湖の鷹架沼および尾駮沼における水質の現状と変遷を明らかにすることを目的に,2004年4月~2015年3月の期間,月一回の水質調査を行った。田面木沼,市柳沼および鷹架沼において全窒素(TN),全リン(TP)および化学的酸素要求量(COD)濃度は高く,富栄養化レベルであった。田面木沼および市柳沼においては,毎年8~10月の期間,アオコの発生が観察され,水質汚濁が顕在化していた。しかしながら,11年間を通してみると汚濁の進行は止まっており,ほぼ横ばいに推移していた。また,鷹架沼は,湖盆の真中を縦断する防潮堤を挟んで水質が異なり,防潮堤の西(奥)側の水質が,東(海)側よりも富栄養化が進んでいた。一方,尾駮沼は年間を通してTN,TPおよびCOD濃度は低く,水質は良好であり,中栄養化レベルであった。尾駮沼が水質を良好に保っている要因は海水交換が大きいことが考えられる。いずれの湖沼の水質も長期間の観測を通してほぼ横ばいに推移していたが,40年前の水質と比較して概ね改善方向にあることが認められた。</p>