著者
藤沢 伸介
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.A69-A76, 2001-03-15

大学生の学力低下が話題になっているが, きちんとしたデータの裏付けなしに語られることが多い。筆者は, たまたま15年間継続して大学生に計算問題を課してきていたので, 学力変化のひとつの資料としてその正答状況を提示するのが, 本稿の目的である。行ったのは四則演算を1度ずつ含む学力偏差値の計算問題である。結果は, 1979年度生まれ以降の学生が, 有意に正答率が落ちていた。学力低下の原因としては, 制度, 教育者の行動変化, 学習者の行動変化, 時代の変化など様々な要因が考えられるが, 本調査で見られた急激な変化は, 制度的要因が最も大きいことを示唆しているようにみえる。
著者
中村 英人 石野 洋子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.79-94, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
19

わが国のオープンデータへの取組みは,2012年のIT総合戦略本部による「電子行政オープンデータ戦略」の決定などを通じて政府主導で始まり,地方自治体にも広まりつつある。当該自治体の規模の大きさがオープンデータ化の進展に影響していることは公表されているデータから容易に推定されるが,規模に内在する要因を定量的に解明した先行研究は,これまでにない。この解明が本研究の第一の目的である。次に,従来から存在するホームページと新たなオープンデータの間の,データ重複の問題を考える。それらのサイトに類似した紛らわしいデータが存在すると,様々な問題を生じさせる可能性がある。そこで,地方自治体のデータ公開の実態を調査し,そこに潜む課題を明確にすることが第二の目的である。その際,人口統計データに焦点を当てた。我々は,先進自治体へのインタビュー調査,オープンデータ実態調査(総務省)の人口規模による差異解析,そして,人口統計データの公開状況調査という3段階の調査を経て,以下のことを発見した:(1)地方自治体のオープンデータ化の推進には,自治体の規模に加え,担当部署とプロセスが大きく関係していること,(2)ほとんどの自治体が既存のホームページをそのまま維持した状態で,新たにオープンデータのサイトを追加する形を取っていること,(3)両方のサイトでデータが内容的に重複しているにもかかわらず,それらのデータの同一・差異について明記していないところが多いこと。
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
JAEA大洗プルトニウム 汚染事故ワーキンググループ 岩井 敏 佐々木 道也 桧垣 正吾 山西 弘城 甲斐 倫明
出版者
日本保健物理学会
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.271-281, 2018 (Released:2019-03-03)
参考文献数
15
被引用文献数
1

On June 6, 2017, in the hood of the analyzing room at Plutonium Fuel Facility of Oarai Research and Development Center in Japan Atomic Energy Agency, five workers were checking the storage container of fast reactor nuclear fuel material. Around 11:15 a.m., vinyl bags in the container of the fuel material including plutonium and enriched uranium burst during the inspection work. All the workers heard the bang; which caused misty dust leakage from the container. This event caused significant skin α-contamination for four workers and nasal cavity α-contamination for three workers. Decontamination was conducted for workers in the shower room. Then, the five workers were transferred to the Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratory to evaluate inhalation intake of plutonium etc. in lungs. The maximum values of 2.2 × 104 Bq for 239Pu and 2.2 × 102 Bq for 241Am were estimated by the lung monitor. From these results, injection of chelate agent was conducted for prompt excretion of plutonium etc. Next morning, the five workers were transferred to the National Institute of Radiological Sciences for treatments including decontamination of their skin and measurement by lung monitor. Then no obvious energy peak was confirmed for plutonium. The Japan Health Physics Society launched the ad-hoc working group for plutonium intake accident around the middle of June to survey issues and to extract lessons on radiological protection. We will report the activity of the working group.
著者
永井 聡 石羽 圭 広瀬 勲
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1384, 2008

【はじめに】 線維筋痛症(Fibromyalgia Syndrome 以下FMS)は全身に激しい痛みが生じる原因不明の疾患である。日本では約200万人は潜在するといわれるが、的確な診断や治療法がまだ確立しておらず疾患に対する理解も得られていない疾患である。今回股関節痛・腰痛を主訴とし、数年経過しFMSと診断され、疼痛に対し理学療法が効果を示した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介】 51歳 女性、 病歴 2004年より、腰痛出現・体動困難にて他院で 椎間板ヘルニアと診断される。その後約2年間、腰痛に対し他院数箇所にて加療。2005年末、股関節痛出現、2006年他院にて股関節唇損傷の診断で関節鏡施行、この頃から全身に疼痛感じるようになる。2007年6月 当院受診、疼痛は股関節痛・頭痛・左肩・左肋骨・仙腸関節痛を強く訴え、疼痛の表現としては切られるような痛み、火傷のような痛み(アロディニア)と表現する。8月にFMSと診断される。11月現在も当院にて治療継続中。<BR>【理学療法評価】 初診時疼痛の訴えは強く、アロディニアによる機能障害を有していた。疼痛評価としてVASにて定量化を試みるが、日変化、多部位の訴えのため当初は9/10程度の強い疼痛部位ばかりであった。理学療法開始から5ヶ月で部位によっては半分の5/10程度まで疼痛感の改善がみられた。関節可動域の著明な制限は無く、筋力も選択的な筋力低下はなし。レントゲン上疼痛関節の構築的な異常所見なし。血液検査上も炎症所見、膠原病所見はなかった。 <BR>【治療経過】 当初は内服と温熱療法が主体の治療をおこなった。温熱終了時は効果みられたが、徐々に疼痛減少が認められなくなった。FMSと診断されてからFMS研究会の治療指針を参考に内服から下行性疼痛抑制系賦活型疼痛治療薬のノイロトロピン静注を開始した。その後温熱療法のみでなく静注後にボールExやバランスクッションなど外乱に対する自動運動、筋収縮、反応促通の運動療法を開始し疼痛感の軽減効果を認めた。<BR>【考察】 理学療法の介入は、当初疼痛対策に温熱療法を施行したが、即効性を示すものの、FMSのような症例には疼痛の訴えの減少は持続せず、疼痛確認すると逆に疼痛に執着する傾向になってしまった。ノイロトロピン開始により若干疼痛感が軽減してから、理学療法の戦略を運動療法の併用に転換すると、動作・反応の中で患者本人に疼痛を確認させると安静時に比較しアロディニア症状が改善し運動療法効果を確認できた。FMSはまだ治療のガイドラインが確立しておらず、従来は多岐に渡る疼痛訴えの患者に対しメンタルな問題などとして理学療法が関わることから逃避してきた感があるが、的確に診断し理学療法士が関わることで、疼痛に対する効果が検証されてくれば、治療のガイドラインとして理学療法も介入できると考えられる。<BR>
著者
諸藤 美樹 梶山 渉 中島 孝哉 野口 晶教 林 純 柏木 征三郎 隅田 郁男 花田 基典
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.1013-1018, 1990-08-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
21

九州地方は, HTLV-IのEndemicareaとされているが, その中でも佐賀県は, 比較的陽性率の低い地域と報告されていた.今回, 佐賀県北部の唐津, 東松浦地区における抗ATLA抗体陽性率を検討するため, 1985年9月から10月にかけ唐津赤十字病院を受診した患者757例を対象とし, 抗ATLA抗体をEIA法により測定した.1. 全患者の抗ATLA抗体陽性率は, 13.7%(757例中104例) で陽性率は加齢と共に上昇し, 60~69歳で最高の21.1%に達した.2. 性別の陽性率は, 男性9.6%, 女性17.8%と有意に女性が高率であった (p<0.001).3. 悪性腫瘍患者を除く患者の居住地別陽性率は, 玄海灘に面する鎮西町, 肥前町, 浜玉町が高く, 沿岸部と山間部の比較では, 有意に沿岸部が高かった (p<0.001).4. 疾患別では, 新生物が26.1%と最も高率で, ATLが100%, ATL以外の悪性腫瘍でも, 25.9%と高く, HTLV-I感染がATLのみならず, 他臓器癌とも関わっていることが示唆された.
著者
永弘 進一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.763-767, 2009-10-05
参考文献数
14

流体表面と固体の衝突の問題は,古くから研究されている.「石の水切り」はその身近な例である.しかし,衝突時の流体の過渡的なダイナミクスや,表面の大変形を扱うことは難しく,水面へ投げ入れた小石が小さな波紋を作り反発する条件について,単純な現象論も見いだされていない.この水切りについて,最近の実験から,平らな石の面と水面のなす角度が約20°の時,もっとも反発が起こりやすくなる事実が見いだされた.本稿では,数値シミュレーションによる,石の反発条件の解析を行った結果を紹介する.また,最適角度の存在が,単純なモデルによって説明できることを示す.
著者
廣岡 守穂
雑誌
中央大学政策文化総合研究所年報 (ISSN:13442902)
巻号頁・発行日
no.21, pp.133-148, 2018-08-23

The world of Edo Chinese poetry did not expect poets will change himself or poets will challenge to change the society. The new-style poetry movement which began in 1880's was a movement aiming at a change of form and substance of poetry. But their original purpose was not achieved. In 1880's The Freedom and People's Rights Movement was going on simultaneousuly. The Freedom and People's Rights Movement was not only a political movement but also a cultural movement. They introduced public speeches, newspapers, songs of political argument, political novels and political epic poetry. Under the indirect influence of the movement naniwa-busi reciting appeared in 1900's and it became the most popular art of entertainment in the pre-World War Ⅱ period.
著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1481-1484, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
8
被引用文献数
2

近年, IoT (Internet of Things), 人工知能 (AI) などを中心とする第4次産業革命ともいわれる時代に突入し, 通信機器や通信技術の進歩も目覚ましい. 医療分野でもさまざまな IT (Information Technology) が導入されているが, そのひとつとして遠隔医療が注目されている. 遠隔医療によって, 患者のアクセスビリティの向上, 地域による医療資源差の解消, 勤労世代の労働時間確保などの諸問題を解決できる可能性がある手段の1つとして期待されている. 2018年4月には, 診療報酬改訂によってオンライン診療料・オンライン医学管理料・オンライン在宅管理料が新設され, 同時に遠隔モニタリング加算も認められた. 現時点ではオンライン診療料が算定できる対象疾患が限られている点や, オンライン診療を行うために必要な情報通信システムを提供する民間企業への使用料などを考慮すると, 医療機関側にとってはむしろ費用面で負担となることも少なくない. 一方で, 患者志向医療であることから, すでに実地臨床ではアレルギー性鼻炎, めまい症, 睡眠時無呼吸症候群などの患者を対象に導入されつつある. 当科では, 人工内耳装用者を対象に遠隔マッピング, 遠隔言語訓練を開始している. 患者は地元の中核病院またはクリニックを受診し, 大学病院とオンラインで結びマップ調整を行っている. 言語訓練では自宅と結び, インターネットを介して訓練を行っている. 広大な北海道では専門医療機関へのアクセスがしばしば問題となり, この遠隔医療によって患者の高い満足度が得られている. 新たな医療インフラとなることが予想される遠隔医療は, 現時点では法整備や診療報酬などの課題が残されているものの, 耳鼻咽喉科領域も含めて, 患者志向医療として今後ますます発展していくものと思われる.
著者
黒田 利朗
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.136-148, 2012 (Released:2017-10-24)

黒田利朗氏は,1981年にパリに翻訳やビジネス関連調査を行うシンクタンク会社KSMを設立され,この分野では長く活躍されておられますが,2004年から日本食レストラン(現在3軒),2007年から日本食材・調味料,酒類の輸入販売を行うワークショップ・イセを始められました。ワークショップ・イセでは「ホンモノの食材を通じて日本の風味を伝える」をコンセプトに,欧州への日本の生活文化の発信に取り組んでおられます。氏のフランスでの長い経験と交友関係を生かした,ジャーナリスト,ソムリエ,飲食業関係者を対象とした日本酒試飲会の取り組み,また,ビジネス経験に基づくアルコール関連事情の分析等から,今回大変新鮮かつ価値のある報告をいただいております。
著者
麻柄 啓一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.180-191, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

本研究では, 小学校5, 6年生が問題に数値が記載されていなくても公式を用いることができるか否かを調査した。具体的には底辺の長さが等しく高さが異なる2つの平行四辺形(あるいは2つの三角形)を提示して面積の大小判断とその理由の記述を求めた。正答者は平行四辺形の場合が49名中18名, 三角形の場合135名中80名に留まった。また底辺の長さが等しく高さが2倍である三角形の面積を「2倍」と答えることができたのは135名中62名に留まった(彼らは具体的な数値が与えられれば面積を算出することは可能であった)。公式の変数間の関係のみに着目して答の大小を導き出す操作を「関係操作」と名づけた上で, 関係操作ができない原因を分析した。その結果, (1)図形の大きさの違いを絶対把握ではなく相対把握しようとすること, (2)面積差は保存されないが面積比は保存される(差の非保存・関係保存)ことの理解が必要であることが示唆された。
著者
遠城 明雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000098, 2018 (Released:2018-06-27)

祭礼は、一般的に日常性とは異なる時空間を創出し、独自の身体技法の実践による共同性の感覚や地域の記憶・歴史の意識の再生産、さらに見る/見られるという関係性の構築などを通じて、ある地域集団とその外部をつなぐと同時にその差異を際立たせることによって、個人あるいは集合体を活性化させる役割を果たす一種の文化装置という側面を有する。1960年代以降、祭礼を支える社会的紐帯が弱体化する一方で、祭礼は都市と農村を問わず、地域の観光資源となり、さらには「文化遺産」へと「格上げ」されていくことで、祭礼を支え、またそれを媒介として培われるローカルな社会関係や地域意識に変化が生じてきた。本報告では、博多祇園山笠(福岡市)を事例に、そうした変化の一端を考えてみたい。
著者
五島 史行 守本 倫子 泰地 秀信
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.91-96, 2013 (Released:2013-04-11)
参考文献数
17

小児心因性起立, 歩行障害の症例を呈示し, 文献的考察を行った. 症例1は10歳男児で心因性発熱, 心因性視力障害を合併した症例で, 発症後約4カ月経過して症状は改善した. 症例2は10歳男児で, 頭痛, 微熱, 倦怠感, 心因性視覚障害を合併したものであり, 約5カ月経過して症状が改善した. 小児の心因性起立, 歩行障害の頻度は高いものではないが, 診察に際しては臨床的特徴を熟知しておく必要がある. 治療にはある程度の期間が必要である. 器質的疾患を除外し, 診断を確定した後は呈示した症例のように治療を急がず, 時間をかけた対応が必要である.