著者
春田 晴郎
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

漢字文化圏、楔形文字文化圏、アラム文字文化圏およびその他の文化圏のどのような言語において訓読語詞を用いる訓読み表記が行なわれていたか明らかにし、またこのような様々な訓読み表記をどのような点から分類できるかその基準を示した。表音文字で書かれたアラム語詞を訓読みする中期イラン諸語の例を見ればわかるように、訓読みは決して日本語表記に特有ではなく、文字表記の全歴史を通じてみればかなり広く存在した現象であることが確認できる。
著者
渡辺 理絵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.248-269, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

本稿は,近世の農村社会における天然痘の伝播過程について,村落間・村落内・世帯内の三つの空間スケールを設定し,伝播が起きる人々の社会的なつながりや行動様式,習俗などを加味して考察した.1795~1796年,出羽国中津川郷で起きた天然痘流行は罹患者の大半が10歳以下の子どもであった.子どものモビリティの低さから,周囲の村へ急速に天然痘が伝播することはなく,最近隣村への伝播に1ヵ月を要するほど,村落間における伝播速度は緩慢であった.また積雪などの気象条件や農閑期の副業労働は,子どものモビリティに影響を及ぼす伝播の障壁効果となり,農閑期,降雪期の村落間の伝播は一層緩慢であった.村落内の伝播は,子どもの異年齢集団による行動様式を反映し,集団感染に近い特徴を有している.同世帯における兄弟間の発症率も高い.患児を隔離するような天然痘対策を採らなかった当該地域において,収束までに流行開始前における未罹患者の8割以上が罹患し,次の流行を迎えることとなった.
著者
石野 未架
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.69-88, 2020-11-30 (Released:2022-06-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1

教室における教師の権力性を告発する研究の多くがIRE連鎖(Initiation(教師の開始)-Reply(生徒の応答)-Evaluation(教師の評価))(Mehan, 1979)を議論の土台としてきた。とりわけ教師と生徒の間に存在する知識の非対称性に焦点をあて,教師がもつE部分の権限を権力ととらえてきた。 しかし,知識の非対称性にばかり注意がむけられ,教室における発言機会の非対称性については注意が向けられてこなかった。IRE連鎖において教師がもつ発言機会の分配という権限は,この非対称性に大きく関わる権限である。本稿では,教師が発言機会を分配する行為を分析することで,教室における教師の権力性を問い直すことを目的とする。 分析では,教師の権力を「正当的権威」ととらえ,教師が発言機会を分配する際にどのようにその権限の行使を正当化するのかに焦点をあてた。分析の結果,教師は発言機会の分配においてその分配が生徒との道徳的秩序に基づいて行われるものであることを演出することがわかった。教師が道徳的秩序を乱した事例では,本来の学習活動を遅らせても,教師の正当的権威の回復のための相互行為連鎖を展開する様子が観察された。 分析結果が示唆することは,教室における教師の権力の脆弱性である。本稿で分析した教師の権力は,先行研究がとらえてきたようなIRE連鎖に常備されたものではなく,正当的権威であることに志向する教師の不断の実践によって維持されていたからである。
著者
倉山 満
出版者
日本法政学会
雑誌
法政論叢 (ISSN:03865266)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.122, 2013 (Released:2017-11-01)
著者
松井 誠
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3_4, pp.212-221, 2004-07-10 (Released:2017-12-29)
参考文献数
25

1981年にG.ビニッヒとH.ローラーによって発明された走査トンネル顕微鏡(STM)は,原子1個1個を解像できるのみならず,物質表面の電子状態を原子スケール分解能で測定でき,また原子1個1個を操作できる。STMはナノ構造の科学技術の進展に大いに貢献し,発明者は1986年度のノーベル物理学賞を受賞した。他方,STMの発明の10年も前に,R.ヤングらは,真空トンネル電流ではなく電界放射電流を検出する方式であるという以外はすべて,STMの特徴を備えた走査型表面起伏測定機「トポグラフィナ」を開発し,さらに,STMの唯一の特徴である真空トンネル現象をも世界で最初に観測していた。しかし,『真空トンネル電流検出方式のトポグラフィナ』へと発想を転換できず,一歩手前で原子スケール分解能顕微鏡の発明を逃した。本論文では,ビニッヒとローラー及び先駆者ヤングによる論文と講演を拠り所として,STMという新概念に至る過程と装置開発の過程,並びに先駆者の失敗事例を検討し,先端科学技術研究における成功要因を抽出する。抽出された成功要因は,『囚われのない自由な発想』,『新概念探索型研究』,『研究目標が明確であること』,『未知への挑戦』,『食いついていくチャレンジ精神』,『夢想し,探求し,過ちを犯し,過ちを正すために必要な自由度を研究者が享受できる研究環境』,『良き研究マネージャ』,『勤勉で熟達した技術的支援』である。
著者
尾川 達也 合田 秀人 石垣 智也 齋藤 崇志 脇田 正徳 杉田 翔 牧迫 飛雄馬 池添 冬芽
出版者
一般社団法人 日本地域理学療法学会
雑誌
地域理学療法学 (ISSN:27580318)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.39-51, 2023 (Released:2023-03-31)
参考文献数
37

【目的】地域理学療法の標準化されたアウトカム評価指標(Standardized Outcome Measures: SOM)の作成・普及に向け,アウトカム評価指標の使用状況と必要条件,および障壁を調査することを目的とした.【方法】日本地域理学療法学会会員の中で要介護認定者への通所,訪問,施設サービスに従事する者を対象にwebアンケートを実施した.【結果】回答数は188名.アウトカム評価指標の使用に対して83.5%は重要と認識している一方,日常的に使用している者は44.7%であった.必要条件としては,尺度特性で信頼性や変化の検出可能性,測定方法で評価に必要な準備物や金銭的負担,実施時間が各々上位2つであった.また,障壁としては,教育不足や仲間と話す機会の不足が上位2つであった.【結論】アウトカム評価指標への重要性に対する認識と実際の使用状況との間に乖離を認めた.アウトカム評価指標の日常的な使用に至るには,実用性を考慮したSOMの作成と地域理学療法に特徴的な障壁に対処していく必要があると考える.
著者
櫻田 涼子
出版者
日本華僑華人学会
雑誌
華僑華人研究 (ISSN:18805582)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.99-112, 2021 (Released:2023-09-27)
参考文献数
29

In the literature on overseas Chinese, the socio-cultural characteristics of overseas Chinese people have been discussed from various perspectives. However, their food culture has not been discussed in general terms as “overseas Chinese food,” although the diversity and history of the food have been explored individually. This paper examines the food culture of the Chinese people in the Malay Peninsula (Singapore and Malaysia) and highlights that it is characterized by high-calorie “convenience eating” [Mintz 1985], as well as community dining and culinary practices in a multicultural urban context that allow people to eat what they want individually. Notably, customers of hawker centres (popular food courts in the Malay Peninsula) order and eat the food they want whenever they want. This is not a dining style that involves sharing food from the same plate; rather, by being at the same place at the same time while eating what they want individually, people are able to loosely connect and check on each other. This type of dining, in which people eat what they want whenever they want, is very common in the Malay Peninsula where people from diverse socio-cultural backgrounds live together. Dining in public spaces with a wide variety of choices is particularly significant and actually constitutes an urban way of eating and drinking, which is considered as a major overseas Chinese food culture characteristic.
著者
岸本 徹
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.13-20, 2013-01-15 (Released:2017-10-11)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

ビールの製造工程,および製造後の酸化によってビール中に生成するオフフレーバーについて解説した.ビールのオフフレーバーには原料,水に由来するもの,仕込工程,発酵工程中に生成してくるもの,缶やビンに詰めた後の保存後に生成してくる酸化劣化臭がある.それらの中にはSH基をもつ低閾値化合物のように,ビール中にng/L程度しか含まれない微量成分もあるが,近年では分析機器が発達し,定量することも可能となった.ビールのオフレーバーとして過去から近年,着目されている化合物について述べた.
著者
中村 智栄 新井 学 原田 康也
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.1-33, 2019 (Released:2019-10-02)
参考文献数
59

本稿は,母語話者と学習者の文理解における質的差異を明らかにするため,英語母語話者と日本人英語学習者の英文理解における動詞の下位範疇化情報が与える影響について統語的プライミングを用いた検証を行った。実験の結果から,日本人英語学習者は動詞に対して正しい下位範疇化知識を持っており,自動詞と他動詞両方に見られる処理負荷は異なる漸次的処理から引き起こされている。そして,エラーに基づく学習効果は動詞を見た時点での予測の誤り(エラー)が補正されることによって起きていることが示された。これらの結果は,学習者が正しい下位範疇化情報を持っているにもかかわらずその情報をオンラインの統語構造分析で使えないという矛盾を説明し,学習者に特徴的な文処理方略を理解する上で重要な結果となった。さらに本研究は,文構造の予測が過去の言語使用の経験から蓄積された情報に基づいて計算されるとする文理解モデルを支持し,第二言語習得研究のみならず人間の文理解モデルを明らかにする上でも重要な証左となった。
著者
西川 元也 吉岡 志剛 長岡 誠 草森 浩輔
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.40-50, 2021-01-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
35

核酸医薬品の実用化が急速に進み、ギャップマー型アンチセンス核酸(ASO)、スプライシング制御型ASO、ナノ粒子化あるいはN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)結合siRNA、CpGオリゴが近年上市された。これらの核酸医薬品は、水溶性高分子という共通点のほかは、標的細胞や標的分子、投与経路、体内動態などの点で異なる。標的部位に到達した核酸医薬品のみが薬効を発揮するため、核酸医薬品の体内動態制御は最重要課題の1つである。タンパク結合は、核酸医薬品の体内動態や毒性発現に重要であるが、必ずしも最適化されていない。標的指向化にはリガンド修飾が有用であり、GalNAc修飾が肝細胞へのsiRNAの送達に実用化されている。本稿では、核酸医薬品開発の現状と核酸医薬品の適応拡大に向けたDDSの可能性について論じる。
著者
紙屋 牧子
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.110, pp.59-82, 2023-08-25 (Released:2023-09-25)
参考文献数
65

本論は1915年の映画『五郎正宗孝子伝』をめぐるテクストとコンテクストを起点として、明治末期から大正期初期の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの表象について考察するものである。まず1節では、現存フィルムと関連資料を手がかりにして『五郎正宗孝子伝』の封切当時と再上映時の上映空間の実態を歴史化することを試みた。そのうえで2節・3節では、『五郎正宗孝子伝』における「継子いじめ」の場面を考察し、それが日清・日露戦争前後の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの表象の流行を反映したものであることを間テクスト的に明らかにした。また、サディズム/マゾヒズムの表象にある植民地主義的な発想やミソジニーを指摘し、そのうえで『五郎正宗孝子伝』における五郎正宗の姿を国民国家形成期の帝国日本のイメージとして読み解いた。更に、サディズム/マゾヒズムの表象において行使される暴力の矛先となる女性が、その暴力を観賞する側になった場合の問題を、近年のジェンダー・ポリティクスの観点から検討し直し、女性観客にとってそれらの暴力的な表象が(男性観客同様に)娯楽としても享受し得ることを指摘した。結論ではサディズム/マゾヒズムの表象を「メロドラマ」の概念を導入して再検討することを今後の課題として提起した。