著者
齋藤 暁
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

平成30年度は、昨年度の研究が日本憲法学史に傾斜した反省をうけ、戦後ドイツ憲法学史の検討を主に試みた。具体的には、ドイツ連邦憲法裁判所ならびにその国法学への(相互)影響を、連邦憲法裁判所の創設期から1970年代に至るまで順次考察した。それを通じて、最初期のドイツ憲法学を考察する1つの視座として、戦後初期の帰国亡命者やアメリカ留学経験者が西ドイツの国法学に重要な役割を果たしていた可能性があることを提示するに至った。本来であれば、以上の仮説の検証を行う必要があるが、齋藤は末延財団から在外研究支援奨学金を受給するために、7月31日付で特別研究員を中途辞退することとなった。本研究は日独の比較憲法学史研究であり、両国の戦後憲法学を「国家論の衰退傾向」を補助線として剔抉することを目的とするものであるが、本研究の完成は将来的な課題として残された。なお、辞退までの期間で、立教大学図書館所蔵の宮沢俊義文庫で『憲法講義案』を中心に宮沢の国家論と憲法学に関する史料を蒐集し、また同時に、昨年度の研究を纏めた雑誌論文(拙稿「初期樋口陽一の憲法学と〈戦後憲法学〉の知的状況(1・2・3)--日本戦後憲法学史研究・序説」法学論叢)の公表準備を行った。
著者
出口 正之 Masayuki Deguchi
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.299-335, 2014-03-25

日本の非営利組織(NPO)の法制的な整備は1898 年の民法の施行に始まる。100 年後の1998 年に特定非営利活動促進法が施行された後,「NPO」という用語が広がったため,日本における非営利組織は比較的新しいものという主張が広まり,日本の伝統的組織との連続性が必ずしもしっかりと認識されてこなかった。それに対して,今田忠は江戸時代設立した講で現存する講があることから,講は日本のNPO の1 つのルーツであると主張した。 本稿では明治民法成立前の時点での「講」の特性と,現代の非営利組織の特性とを比較した。感恩講と一新講という明治民法施行前から存在していた2 つ講を事例に取り上げ,目的,運営,ガバナンスなどを検討した。感恩講は,財産を維持し,理事会に相当する意思決定機関を有して,現代の財団の特性と共通する。また,一新講は社員に相当する講員を有し,社員総会による意思決定を行っていた。両講ともに,明治民法施行前時点ですでに現代的な意味での非営利組織としての特性を有していたことが明らかになり,今田説を強く支持することとなった。
著者
吉江 貴文
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-43, 2003-06-30 (Released:2018-03-22)

本稿は、20世紀前半のボリビアで起こったカシーケ法廷代理人運動を事例として、文書という人工物が先住民社会の在来的土地制度に介入することでどのような波及効果がもたらされるのかを検討し、世界システムの拡張によって生じる中核と周辺の関係を人間と土地と文書の相互作用として捉えなおすものである。近代以降に起こった世界システムの拡張プロセスにおいて、土地にまつわる複数の文書記録が一定の社会内に循環することを制度的に確立させる過程の成立とそれに伴う文書使用の増大・普及は、周辺社会の在来的制度を中核へ接合する媒介として重要な役割を果たしてきた。元来土地所有の正当性を身体的経験に培われた知識や記憶への高い信頼に求めてきたアイマラ系先住民社会も、19世紀末以降に実施された農地改革と近代司法領域への包摂を契機として文書循環のプロセスに巻き込まれていく。それに対し、植民地時代の文書記録に出自を辿るカシーケ法廷代理人運動は、先住民社会の在来的土他制度を基礎付ける規範が、文書使用の増大・普及という支配的潮流に一方向的に飲み込まれることなく、近代司法領域において生き延びる可能性を一貫して模索しつづけた運動であった。本稿では、そうしたカシーケ法廷代理人運動の展開を検討することにより、地域に固有の文脈のなかで文書循環が成立していくプロセスの多様なあり方を明らかにした。
著者
坂井 愛理
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.111-124, 2019 (Released:2020-03-09)

ケアの目的が患者の生を支えることであるならば、老いや麻痺を抱える身体とともにある苦悩や嘆かわしさは、ケアがかかわる重要な領域の一つである。その一方で、こうした身体のままならなさは、専門家の提供する技術を通しては完全に取り除くことができないものとしてある。では、患者は、病める身体のままならなさを、自らをケアする専門家に対してどのように訴えるのだろうか。本稿は、患者が訴えのために用いることが可能な方法を、訪問マッサージの相互行為を例に考察することを目的とする。施術中に患者が身体にかかわる問題を訴えたとき、施術者は、部位の特定、問題の是認と対処を行うことによって、患者の訴えを、施術の対象としてサービスの手順の中に組み込むことができる(問題の施術化)。患者による苦悩や嘆かわしさの訴えは、こうした施術者が進行する問題の施術化から、相互行為の展開を差別化することによって行われる。患者の抱える身体のままならなさが、サービスの対象となり得ないものとして訴えを分節化することによって記述されるのならば、マッサージによって解決可能な問題と、患者の抱える苦悩や嘆かわしさといった問題とは、訪問マッサージの場面において非対称的に存在していることになる。ただしこの非対称性は患者の語りや経験を抑圧するものではない。マッサージサービスの手順的進行性は、患者がままならなさの訴えを組織する際にリソースとして利用可能なものである。
著者
津田 翔太郎
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.70-82, 2019 (Released:2020-03-09)

本論は、自己の社会適合性を強調した多元的アイデンティティ論と、不適合性に焦点を当てた統合的アイデンティティ論の分断を乗り越え、今日的なアイデンティティを包括的に捉えうる理論の構築を目指す。アイデンティティ概念は当初、統合的な近代的自己が理想とされ論じられていたものの、社会状況の変化に応じて構成性や多元性が強調されるようになっていった。その一方で近年は、流動化が進展した社会から廃棄される不安や恐れの増大や、心・脳・生物学的身体などを参照する自己観など、統合的アイデンティティを志向する心性の台頭も指摘されている。 このような、多元的でありながら統合的でもあるアイデンティティを説明しうる視座として「自己物語論」、「身体論」、「多元的循環自己概念」が挙げられ、これらを参照すると今日的なアイデンティティは、身体を源泉とした「すでに自己構成した語り手」によって存立し、社会構造の流動化への適応度合いに応じて統合的/多元的性質を獲得すると考えられる。 この文脈における統合への志向性は、単に流動化に不適合な心性というだけではなく、他者関係の中でふいに立ち現れる、主体性に基づいた〈統合的アイデンティティ〉の萌芽として捉えることができる。しかしこの〈統合的アイデンティティ〉は、理想化された行為者が前提とされているために、現実社会においていかにそのようなアイデンティティが実現可能かについて模索していく必要がある。
著者
高橋 靖幸
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.175-194, 2018-05-31 (Released:2020-03-13)
参考文献数
22

本稿は,昭和戦前期における社会問題としての児童虐待の構築過程で,貰い子殺しと児童労働がどのように問題化され,児童虐待防止法の制定へ結実したかを明らかにする。そのうえで虐待を防止する法律の制定が,日本の近代的な子ども期の語りのあり方にどのような変容をもたらしたかを社会構築主義の視点から考察を行う。 本稿はまず児童保護事業に関する内務省の審議から,児童虐待防止の議論の経過を整理し分析を行った。結果,それらの議論が児童への虐待を重大な問題とする訴えを展開しつつ,一方で虐待問題の範囲を必ずしも確定しないまま進行し,複数の子どもの問題を包含するように発展したことが明らかとなった。 また,児童虐待防止の法制化の議論を考察するにあたり,貰い子殺し事件を契機とする一連の新聞報道を分析した。結果,昭和戦前期における社会問題としての児童虐待の構築が,貰い子殺し事件をはじまりに,内務省社会局の公式統計が示す「実態」を資源としながら,児童労働を社会問題としていったことが明らかとなった。 本稿の分析の結果,児童虐待防止法の成立が,保護と教育の対象としての「子ども期の享受」の議論をうみだし,労働の世界にとどまる,近代的な子ども期を享受しない子どもを問題とする語り方を生成したこと,そしてこの語りが児童労働を児童虐待防止法の成立以前とは違った新たな問題として社会のなかに定着させたことが明らかとなった。
著者
粕谷 圭佑
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.239-258, 2018-05-31 (Released:2020-03-13)
参考文献数
20

本稿の目的は,学校の「お説教」場面において,子どもたちがいかにして場面に即した形で「児童としての適切なふるまい」を組織しているのかを明らかにし,そこから「児童になる」こと,すなわち「学校的社会化」のあり様を検討することである。上記の目的のために,本稿では,小学校6年生の教室で生起した「お説教」場面における教師―児童間の相互行為を分析する。その際,サックスの社会化論を参照し,子どもの相互行為能力としての「観察可能性の提示」と「カテゴリーの理解」に着目した。 分析の結果,「お説教」場面では,児童らは,教師によって方向付けられ,教師によって想定された反応を提示することによって,自らを「お説教を従順にうける児童」として観察可能にし,「非お説教」場面や「お説教」が収束に向かう場面では,教師の想定外の反応を提示することで,「教師と親密に話す児童」として,自らを観察可能にしていた。これは,児童らが学級というローカルに組織されたカテゴリーに結びついた活動と期待の複層性を把持しているということである。こうした分析結果を踏まえ,本稿では,子どもが学校の中で「児童」となる「学校的社会化」は,個別具体的なクラス(=教師と児童集団)の日々の営みの中に埋め込まれており,日常の実践的関心においては,「観察可能性」の調整が適切なものとして前景化していることを指摘した。
著者
雪村 まゆみ
出版者
日仏社会学会
雑誌
日仏社会学会年報 (ISSN:13437313)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.75-91, 2017-11-30 (Released:2020-03-13)

Durant la période de forte croissance économique, divers phénomènes sociaux se sont trouvés manifestés, parmi lesquels la structure industrielle, les flux de population en direction des villes, et les changements vestimentaires. L’objectif de cet article est d’étudier les changements sociaux à la lumière d’une étude comparée des modifications dans l’habillement des femmes et « rumeurs » qui s’y sont associées en France et au Japon. En France, de la seconde moitié des années 1960 aux années 1970, Jean Baudrillard et Edgar Morin ont observé les changements esthétiques de l’habillement du point de vue de la société de consommation ou de la modernisation, concernant principalement les femmes. Parallèlement, au Japon, la manière occidentale de se vêtir s’est très largement répandue, et cette tendance a amené les Japonais à porter des vêtements à l’européenne ainsi que de nombreux accessoires. La société de consommation produit un flot constant de nouveaux styles. Ainsi, les boucles d’oreilles se sont fortement diffusées auprès des jeunes à partir des années 1970, et ce malgré la perception négative qui existait alors dans la société japonaise de tout acte blessant le corps, tel que le fait d’égratigner le corps ou d’y laisser des traces (tatouage, piercing). Cela rejoint le conflit entre les progressistes et les idées traditionnelles qui avait cours au sujet de l’habillement. Il a été suggéré que la diffusion des boucles d’oreilles n’était pas seulement un phénomène de mode, mais symbolisait également la disparition de la tendance à considérer les modifications corporelles comme étant taboues.
著者
野口,範子
出版者
日本運動生理学会事務局
雑誌
日本運動生理学雑誌
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, 2003-03-31

There are increasing reports that the inflammatory responses induced by exercise result in generation of free radicals, reactive oxygen species (ROS), and reactive nitrogen species (RNS). These reactive molecules are known to increase oxidation products and decrease antioxidants resulting in cell damage. The roles of antioxidants in protection of our bodies from ROS-induced oxidative damage have been investigated extensively. The involvement of ROS in gene regulation has been received much attention. It has been reported that exercise induces expression of antioxidant enzymes such as Mn-superoxide dismutase (Mn-SOD) and γ-glutamylcysteine sybthetase (GCS). The regulation of these enzymes is through NF-kB pathway activated by ROSs which were produced in cell due to exercise. In conclusion, acute severe exercise may cause damage but appropriate exercise makes our body resistant against oxidative stress.
著者
倉岡恭子
雑誌
農経論叢
巻号頁・発行日
vol.64, pp.105-111, 2009
被引用文献数
1
著者
永丘 智郎
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学年報 (ISSN:00035130)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.79-83, 1953-04-30 (Released:2009-10-14)
参考文献数
18
著者
川ばた 和一十 萩尾 哲也 松岡 昌三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.151-160, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
25
被引用文献数
5 8

急性肺障害がもたらされる原因の一つとして,肺の炎症局所ではプロテアーゼに対する高分子内因性阻害物質の活性が種々の要因により減弱するため,好中球エラスターゼが肺組織を破壊する可能性が考えられている.急性呼吸促迫症候群を含む急性肺障害患者では,肺胞洗浄液中や血液中の好中球エラスターゼが増加することが知られている.また,急性肺障害惹起後の動物では好中球の活性化に伴い,血漿中や肺胞洗浄液中で好中球エラスターゼ活性が顕著に上昇している.シベレスタットナトリウム(商品名:注射用エラスポール100,以下シベレスタット)は好中球エラスターゼに特異的な合成低分子阻害薬である.シベレスタットはこれらの動物モデルにおいて,上昇した好中球エラスターゼ活性を阻害すると同時に,肺の炎症性·浮腫性変化や呼吸不全死を抑制した.さらに,臨床試験ではシベレスタットが全身性炎症反応症候群に伴う急性肺障害を改善することが明らかにされている.シベレスタットは,体内に存在する高分子内因性阻害物質と異なり,肺炎症局所で活性が減弱せず,好中球エラスターゼがもたらす急性肺障害の特徴的な病態を効果的に改善するものと考えられる.今後,臨床現場において,本剤の急性肺障害に対する有用性がさらに明らかにされることが期待される.
著者
永井 毅 溝邊 和成
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.90-101, 2019 (Released:2019-12-13)
参考文献数
48

本研究は,保育者養成課程において,以下を特徴とする授業を実施し,「虫」に対する苦手意識および保育実習に対する効果を分析することを目的とした。⑴講義・演習連続型,⑵実習前体験,⑶「虫」への自分らしいかかわり方の保障受講女子学生85名を対象に事前・事後アンケートを実施した。分析の結果,学生の多くは,知識を得ながら体験する授業に対して興味・関心を示し,仲間と楽しさを共有しつつ取り組んでいたことがわかった。それにより「虫」に対する苦手意識も薄らぎ,実践への自信や実習での活用も見られ,実習での学生が子どもとの自然遊びを豊かにすることにも寄与したと考えられる。