著者
芝田 学
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.376-379, 2014-08-20 (Released:2017-06-16)

水のイオン積を実験的に決定する方法は,主に3つある。それは,1)電位差を測定する方法,2)電気伝導率を測定する方法,3)熱量を測定する方法である。電位差測定により決定された値が最も広く用いられている。定数の値は馴染み深いが,その値がどのように決定されたのかはあまり知られていない。本稿では,それぞれの決定方法とデータの取扱いに関する注意点を解説する。
著者
岡島 幸代 山田 武敏
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.700-703, 1989-06-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
6

重度発達障害児の夜泣き, 興奮, 暴力などの対応には療育面での工夫が必要なことはもちろんであるが, 特に夜間は人手の問題もあつておもうにまかせない. 抗痙攣剤を必要とする児が大部分であり, トランキライザーの併用は, 副作用をさらに増やすおそれもある. そこで漢方エキス剤を用い, 一応満足すべき状態を得ている. 今回夜泣きには甘麦大棗湯・抑肝散を, 興奮・暴力のある女児に加味逍遥散を用いた. 障害児の随証療法は正しく行うことが困難なので, 方剤の構成生薬の薬理作用と, 先人の経験の踏襲で方剤を選択したが, 投与に難渋することなく, 副作用もみられず, 一応の成果がえられた. 漢方の特性を生かせる分野として今後も広く活用されるべきものとおもわれるので報告した.
著者
田邊素子 庭野賀津子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】近年増加している虐待の背景には育児ストレスが要因とされている。育児ストレスについて母親の報告は多いが父親では少なく,実際の虐待者が両親であることを考慮すると,男女双方の育児ストレスを検討することは重要である。これまで我々は乳児の2種類の表情認知時の若年成人の脳活動を計測し,泣き場面の方が前頭前皮質の賦活が高いことを明らかにした。また実際の育児では乳児の表情観察に加え,あやす声掛けが必要である。乳児への発話は対乳児発話(IDS:infant-directed speech)と呼ばれ,対成人に比べ,ピッチが高い,誇張されたイントネーション,遅い発話速度,などの特徴がある。IDSは母親だけではなく父親でも観察されているが,育児経験のない若年者での検討は少ない。以上から,乳児の表情視聴時およびIDS時の脳活動の性差を検証し,表情認知とIDSの脳活動にどのような傾向があるかを明らかにすることとした。【方法】被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施し,背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するため録画した動画を用い,刺激呈示は26インチの液晶モニターを使用した。実験は安静・刺激を各20秒,3回繰り返すブロックデザインとし,刺激条件は乳児が泣いている場面(cry),機嫌の良い状態(non-cry)とした。乳児表情視聴時では,刺激は「乳児が何を伝えようとしているかを考える」,安静は画面上の固視点を「何も考えずに注視する」と教示した。IDS時では,刺激は画面に映る「乳児に対してあやすように発話する」,安静は画面に表示される「あいうえお」の発語と教示した。脳活動はNIRS装置(日立メディコ社製,ETG-4000)にて計測し,国際10-20法のFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,刺激条件ごとに加算平均した。安静,刺激とも開始5秒後からの15秒間を解析対象としOxyHbの平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,視聴時,IDS時ともに,各チャンネルのOxyHb値について,性別・刺激条件について2要因分散分析を実施した。有意水準は5%未満とし,統計ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【結果】表情視聴時は,性別の主効果が眼窩皮質(OFC)に相当するCh39,50であり女子学生の方が男子に比べ,cry,non-cry条件ともに有意にOxyHbが高かった。前頭極(FP)に相当するCh38では刺激の主効果があり,cry条件が男女とも有意に高かった。Ch37(FP)は女子のみcry条件が有意に高かった。IDS時は,性別の主効果は全ての部位で有意ではなかった。刺激の主効果は背外側前頭前野(DLPFC)とFPに相当する9個の部位(Ch.24,25,26,27,28,35,38,39,49)で,non-cry条件が有意に高かった。【考察】OFCは報酬に関連する部位といわれ,母親の愛着とも関連するといわれている。視聴時,刺激条件に関わらず女子の脳活動が高かったのは乳児の表情を認知する過程で報酬に関連する賦活があった可能性が考えられる。IDS時には,性差はなかった。今回の対象は男女とも育児経験がないため,影響しているかもしれない。今後,育児経験のある成人でIDS時の脳活動を比較する必要がある。またIDSではcryに比べnon-cry条件でDLPFC・FP領域で脳活動が高かった。DLPFCは発動性や注意,FPは共感に活動する部位であり,乳児が泣いている場面より,機嫌が良い場面の方が発動性・注意,共感の作業を脳内で行い,声掛けをしようとした可能性が考えられる。視聴時とIDS時の比較では,IDS時が脳活動の部位が多く,乳児への発話時は,他者への共感に関連するFP,注意を担うDLPCFがより活動したと推測する。【理学療法学研究としての意義】乳児の表情の視聴時・IDS時の脳活動を検討することは,育児負担が高い障害児を持つ両親の育児ストレス対策および親性の涵養のための有益な資料となる。謝辞:本研究は,JSPS科研費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。

1 0 0 0 仮面症候群

著者
岩田 大樹 北市 伸義 石田 晋 大野 重昭
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.1650-1655, 2010-10-15

はじめに 仮面症候群(masquerade syndrome)とは,原疾患の症状・所見が他の疾患に類似している場合に用いられる一般的な名称で,原疾患が仮面の下に隠されているという意味である。非炎症性疾患が続発性に炎症症状を引き起こし,あたかも原発性眼炎症性疾患であるかのような所見を示す場合や,非炎症性疾患の臨床像が炎症性疾患に類似している場合に用いられる。本稿では外眼部の仮面症候群には触れず,眼内の仮面症候群について記載する。 ぶどう膜炎様症状は軽度の虹彩毛様体炎から汎ぶどう膜炎までさまざまである。原疾患の頻度としては悪性腫瘍が多い。悪性腫瘍(癌)は死亡原因として最も多く,診断の遅れは重篤な結果となることがある。 今日,癌研究は大きな進歩を遂げているが,その最大の契機となったのはわが国の山際勝三郎・東京帝国大学教授と当時研究生であった市川厚一(のち北海道帝国大学教授)による人工タール癌の作製である。両氏は1914(大正3)年にウサギ(家兎)の耳にコールタールを塗布して皮膚癌を発生させることに成功した(図1)。これは世界初の人工癌であり(「山際・市川のタール癌モデル」),煙突の石炭灰掃除夫に皮膚癌や陰囊癌が多発する臨床的事実を裏付けるものでもあった。発癌契機として化学物質説を主張する両氏と,寄生虫説を主張するデンマークのFibiger教授との間の論争は,Fibigerが1926年にノーベル賞を受賞するという決着になった。しかし,現在ではFibigerのモデルは癌ではなかったことが明らかになっており,山際・市川のタール癌モデルが初の人工癌として世界中の教科書に必ず記載されている。 仮面症候群の原因疾患の頻度は成人では悪性リンパ腫と転移性腫瘍が多く,小児では網膜芽細胞腫と白血病が多い。眼症状が初発症状となることも多いが,悪性腫瘍は診断が遅れることで生命予後に重大な影響を及ぼす。鑑別診断は非常に重要である。
著者
池田 葉月 窪田 好男
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大学学術報告. 公共政策 (ISSN:18841740)
巻号頁・発行日
no.11, pp.77-97, 2019-12-25

行政では、何かの結果を報告したり説明したりする場合、文章中心の報告書を作成するのが一般的であり、それは地方自治体の公共政策の評価の制度である自治体評価においても同様である。しかし海外の先行研究では、文章中心の報告書以外にも様々な方法が紹介されており、それらの中には表やグラフ、イラストなどの視覚的な要素のように比較的容易に取り入れることができるものもある。公共政策の評価においては、評価の結果が利用されることが重要であり、そのためには、想定される利用者の目に止まり、よりよく理解されることが重要である。そのためには報告書に視覚的な工夫を凝らしたり、動画を用いたりすることが有効であるが、現状では一般的ではなく例も少ない。そのため、筆者ら(窪田・池田)が行った2 つの評価において試みた先行的な取組みを、評価結果の効果的な報告方法を実践した事例を紹介したい。
著者
大坪 寛子 浅井 治 長田 広司 星 順隆
雑誌
自己血輸血 (ISSN:09150188)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.6-12, 2003-08-20
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
Seiji SHIMOMURA
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1956, no.29, pp.12-40, 1956-03-31 (Released:2010-11-26)
参考文献数
3
著者
水野 知美 中澤 操 佐藤 輝幸 高橋 辰 山田 武千代
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.52-58, 2019-02-28 (Released:2019-03-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

要旨: 秋田県で新生児聴覚スクリーニング (Newborn hearing screening: 以下 NHS と略) が開始されてから17年が経過し, 2012年からは受検率が94%を超えている。 NHS システムを構築する中で, NHS 後も聴こえに関心を持ち続けるための啓発や, 関係機関との連携ができ, NHS 後に難聴児が発見された場合の対応も確立されたと考えられる。 今回の調査で, 聴力型により NHS では発見できない難聴児がいること。 遅発性や進行性の難聴児がかなりの数存在することが示唆され, NHS パス後も引き続き聴覚に気を配り, 関係機関との連携を強化していく必要性が示唆された。 今回画像診断が不完全な症例が含まれたことや, 今後遺伝子診断をする例の増加が予測されること, 先天性サイトメガロウィルス感染症のフォローアップ例が増えている事などから, 今後は遅発性及び進行性難聴の原因について明確にしていく必要性があると考えた。
著者
鈴木 誠
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.13-18, 1992-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
3

長崎出島オランダ商館の庭園は実態記録の残るわが国初の西洋式庭園と考えられる。長崎出島オランダ商館の庭園は実態記録の残るわが国初の西洋式庭園と考えられる。この庭園の時代毎の形態について, 出島の図絵類70余点を基に調査研究した。その結果, 庭園の成立から終焉までは6つの時代に分けられた。その時代と特徴はそれぞれ,(1) 出島庭園成立初期 (17世紀中頃),(2) 西洋式整形庭園前期 (17世紀末~18世紀中頃),(3) 西洋式整形庭園後期 (18世紀中頃~19世紀初頭),(4) 整形式から自然風景式への移行期 (1829~1847年頃),(5) 自然風景式庭園期 (19世紀中頃),(6) 出島庭園終焉期 (1854~1858年) と呼ぶことができた。なおこの変遷は, 西洋造園史の潮流である, 整形式から自然風景式への流れとも時代的に少し遅れて対応していた。
著者
大場 和彦 蒲原 新一 繁宮 悠介 市瀬 実里 中道 隆広
出版者
長崎総合科学大学附属図書館運営委員会
雑誌
長崎総合科学大学紀要 = Bulletin of the Nagasaki Institute of Applied Science (ISSN:24239976)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.100-109, 2018-01-29

Methodologies of science education have changed with the changing times. Although information-oriented society tends to make students away from science, the scientific knowledge and thinking method equipped in secondary education are useful in following daily life and career. We examined whether the curriculum of the Life Environment Engineering Course in Nagasaki Institute of Applied Science can cover many contents of science in secondary education and whether the curriculum is beneficial for teacher training. Our curriculum consists of five disciplines: agricultural meteorology, environmental analytical chemistry, energy conservation technology, biotechnology, and ecology. Their integrated education enables students to learn many contents of high-school science and also interaction among four subjects: physics, chemistry, biology, and geology. Science teachers trained in this curriculum however would have difficulty when teaching existing disciplinary science, but they would exert their conception of nature in the secondary educational subject “the period of integrated study” where interdisciplinary and inquiry learning are encouraged.
著者
宮崎 育子 菊岡 亮 磯岡 奈未 中山 恵利香 進 浩太郎 山本 大地 Kyle E. QUIN 船越 英丸 禅正 和真 浅沼 幹人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-150, 2018 (Released:2018-08-10)

エポキシ樹脂Bisphenol A diglycidyl ether(BADGE)は缶詰,飲料缶の内面コーティング剤として用いられているが,微量の食品中への移行ならびにエストロゲン活性が報告されている.今回,母体へのBADGE曝露による新生仔脳への影響の有無を明らかにするために,欧州食品安全機構が発がん性がなく安全としたBADGE一日許容摂取量(TDI 0.15 mg/kg/日)およびその10倍量を,マウスの妊娠全期から授乳期にわたり固形食餌に混ぜて投与し,新生仔マウス(1日齢)の大脳皮質層構造および神経分化への影響について検討した.妊娠・授乳期の母体へのTDIの10倍用量のBADGE曝露により,1日齢新生仔マウス脳の頭頂皮質において第2/3層の著明な細胞数低下がみられ,また,錐体細胞のマーカーであるCtip2陽性シグナルが対照群と比べより第5層に限局していた.さらに,ラット初代培養大脳皮質神経細胞へのBADGE(1-100 pM)の2日間曝露により,濃度依存的な神経突起の著明な伸長が認められた.以上の結果より,妊娠・授乳期における高濃度のBADGEへの曝露は,早期の神経分化をもたらす可能性が示唆された.