著者
中田 雅也
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

生物には様々な色の変化を起こすものがある。それらの中で、以下の2つの課題について研究した。1.ヒカゲシビレタケ(Pslocybe argentipes)の変色:青色化合物の構造決定・生成機構解明ヒカゲシビレタケは、傷をつけ空気に触れさせると青色に変色する。このキノコは幻覚を引き起こすキノコであり、その原因物質であるシロシン、シロシビンが青色化合物の元であるが、青色化合物の構造については何もわかっていない。そこで、シロシンを化学合成し、FeCl3で酸化したところ、青色化合物が得られた。これをイオン交換後濃縮し、シリカゲルカラムにより分取したところ、別の青色化合物が得られた。これは、MS測定の結果、シロシン由来のポリマーの混合物であることがわかった。一方、天然のヒカゲシビレタケをアンモニア水で抽出したところ、青緑色溶液が得られた。これは濃縮すると緑色固体に変化した。また、濃縮しないでゲルろ過したところ、青色物質はゲルに残った。これらの結果から、シロシンからの酸化で得られた青色化合物と、天然から得られたそれとは現時点では異なる化合物であると判明した。2.カバ(Hippopotamus amphibius)の「赤い血の汗」の色素成分の構造研究動物には様々な色のついた汗をかく種がある。カバは赤い色の汗をかく。これは無色の汗が分泌されたあとに赤い血のような色に変色し、その後褐色物質に変化するものである。この赤色色素がカバを紫外線や菌の感染から守っていると言われているが、詳細はわかっていない。上野動物園の協力により、カバの顔と背中からガーゼで汗を採取した。無色の汗が数分で赤色に変色した。この極めて不安定な赤色物質をガーゼから熱湯で抽出した。この色素も1.と同様に濃縮によって重合してしまうため、抽出した水溶液は約4分の1までの濃縮にとどめた。これをゲルろ過し、褐色溶液、オレンジ色溶液、赤色溶液に分離した。赤色溶液は、イオン交換により精製した。NMRスペクトル(D2O)の結果、6〜7ppmに3Hのビークが観測されたが、不安定なため誘導体に変換した。すなわち、赤色水溶液にNa2S2O4リン酸バッファー溶液を加え還元した。無色になった溶液を塩酸で酸性にしたのち、酢酸エチルで抽出した。有機相にジアゾメタンを加えその後濃縮した。さらに、シリル化(TBSOTf,2,6-lutidine)したのち、シリカゲルTLCにより分取した。得られたサンプルについて、MS、NMR(benzene-d6)、13C NMRを測定した。その結果、この誘導体は分子量は602であり、OMe基3個、OTBS基2個、芳香族水素3個、メチレン水素1個(2H)、メチン水素1個、フェノール性水酸基1個が存在することがわかった。なお、13C NMRは、微量ゆえ正確には判断できなかった。
著者
大道 明 高橋 宏和 Daido Akira Takahashi Hirokazu
出版者
筑波大学附属駒場中・高等学校研究部
雑誌
研究報告
巻号頁・発行日
vol.27, pp.207-257, 1988-03

現在、万有引力に関する教材は理科Ⅰ物理分野や地学分野、選択物理分野で取り扱われている。理科Ⅰ物理分野では、万有引力は落下運動や放物運動を決める重力として、地学分野では地球の形状や公転、惑星の運動を決める要因として扱われている。選択物理分野では万有引力の法則が発見される経緯を説明したり、 ...
著者
高橋 晋也
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_41-1_46, 2005 (Released:2009-06-22)
参考文献数
17
被引用文献数
3 6

人間の心理および行動に及ぼす環境色彩の効果を検討した。赤、緑、青、黄の4種類の色照明下で、のべ160名の被験者にクレペリン型の連続加算課題を行わせ、課題成績の他、被験者自身への影響(身体的疲労感、精神的疲労感、眠気、集中力)、経過時間推定、色照明に対する印象(SD尺度評定)等を分析した。実験の結果、色照明はそれぞれ特徴的な印象(赤-“快活”、青-“鮮麗”、緑・黄-“平穏”)を喚起したが、課題成績に関しては、作業の生産性・安定性・正確性のいずれの指標においても色の効果はなかった。時間推定については、すべての条件で過小評価となったが、やはり色条件による差はなかった。被験者への影響に関しては、緑条件において他の条件よりも精神的疲労感が低くなる傾向が示された。また、色条件をつぶした上で、各色照明に対する「好きな」項目の評定値と課題成績との相関を見たところ、照明色を「好き」と評定した被験者ほど作業の生産性と正確性が高くなる傾向が示された。これらの実験結果に基づき、古くから関心が持たれてきた色彩の心理的効用について、その科学的検証における理論的な問題点と、安易な現場応用に対する批判などが議論された。
著者
古賀 大尚 能木 雅也 菅沼 克昭
出版者
一般社団法人エレクトロニクス実装学会
雑誌
エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集 第27回エレクトロニクス実装学術講演大会
巻号頁・発行日
pp.208-209, 2013 (Released:2018-07-27)

樹木からつくられる「紙」は、我々の日常に欠かせない伝統的な生活素材である。当研究室では、樹木を機械処理して得たセルロースナノファイバーを用いて、次世代の「透明な紙」を開発することに成功している。本発表では、この透明な紙の特徴とプリンテッドエレクトロニクス応用について述べる。
著者
山下 剛史
出版者
日本理科教育学会東海支部大会事務局
雑誌
日本理科教育学会東海支部大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
no.60, 2014

本研究は、複数の実験結果を根拠とした結論を導き出すために、可能性のある仮説を複数立てられるようにすることをねらいとし、情報をたくさん書き出す「ジョイントツール」と持ち寄った情報から様々な可能性を考える「ミーティングツール」を用いる。生徒は、二つの「ツール」を利用し、活発な討論を行い、情報を整理し、だ液が良く働くための条件について考える場面で、温度、濃度等のキーワードから、仮説を複数立てることができた。
著者
山田 貴之 寺田 光宏 長谷川 敦司 稲田 結美 小林 辰至
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.219-229, 2014-07-08 (Released:2014-08-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本研究の目的は, 児童自らに変数の同定と仮説設定を行わせる指導が, 燃焼の仕組みに関する科学的知識の理解と, 燃焼現象を科学的に説明する能力の育成に与える効果について明らかにすることである。この目的を達成するために, 第6学年「ものの燃え方と空気」において, “The Four Question Strategy”に基づく「仮説設定シート」(4QS)を用いた実験群37人と, 用いなかった統制群37人を対象とした授業実践及び学習前後の質問紙調査の分析を行った。その結果, 実験群の方が, 燃焼の仕組みに関する科学的知識を高い水準で理解し維持できることが明らかとなった。また, 燃焼現象を科学的に説明する能力の育成にも有効であることが示唆された。
著者
田中 浩也 小檜山 賢二 井尻 敬
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、微小オブジェクト(5ミリ~数センチ)を対象に、その計測からテクスチャ付き3Dモデル生成までの工程を自動化することを目的とする。特に、微小オブジェクトの表面の模様(テクスチャ)の計測は,通常の写真撮影ではピンボケが発生してしまうため,深度合成技術を採用する。また,複雑な構造を持つ微小オブジェクトの精密な形状取得のため,本研究では形状モデリングにX線CT計測を応用する。初年度では、CT画像によるモデル(モデルA)とSfM法によるモデル(モデルB)の組み合わせによる高解像度のカラーテクスチャ付き高精度モデルの生成自動化に目途をつけた。具体的には以下のサブ課題を実施した。●A1)研究環境の整備 :大型CT装置の整備、および、自動写真撮影装置の設計と構築を行った。●A2)CT画像分割ソフトウエアの実装 :CT画像から昆虫領域を分割する機能を,分担研究者が開発中の画像処理ソフトウエアRoiPainter3D上へ追加した。また,このソフトウエアを拡張することで4DCT画像の解析も試み,研究成果を発表した。●A3)深度合成映像の取得: オブジェクトを中心にカメラを平行移動・回転させながら自動撮影(XY平面:10度間隔、Z軸:3方向、各角度において合焦点位置を変化させた50カットの合計5400カットを撮影)した後、この写真群から108の深度合成映像を自動生成する環境を構築した。●A4)CTモデル/SfM法モデルの自動位置合わせ: CTから生成したモデルAと写真から生成したモデルBを位置あわせ(コンピュータによる自動位置合わせソフトを開発)し,モデルBにモデルAのテクスチャを転写する手法を実現した。●A5)モデルの構築:上記技術を利用し,実際に昆虫サンプルの計測を行うことで40例程度の三次元モデルの構築を行った。
著者
前田 珠里 吉村 基 福本 有花 中城 満
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.39-42, 2015

本研究では、理科授業における測定誤差の扱い方に焦点を当て、測定誤差を解消するための具体的な手法について明らかにすることを目的とした。そこで、測定誤差を克服するための仮説として、「実験精度の向上」と「子どもの納得」という二つの視点に着目し、実際の授業記録から実験方法や指導方法の妥当性を分析・検討した。その結果、「あえて実験の精度を落とすこと」や「実験結果を一覧にし、客観的に考察させること」、「測定誤差の範囲をあらかじめ設定すること」などが測定誤差を克服するために効果的な手立てであるということが明らかになった。
著者
栗原 淳一 益田 裕充 濤崎 智佳 小林 辰至
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-34, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

本研究は, 中学校第3学年の「月の満ち欠け」と「金星の満ち欠け」の学習において, 地球と天体の位置関係を作図によって位相角でとらえさせる指導が, 満ち欠けの空間認識的な理解と満ち欠けを科学的に説明する能力の育成に与える効果について明らかにすることを目的とした。そこで, 実験群では地球と天体の位置関係を作図によって位相角でとらえた後に, 満ち欠けの現象を説明する仮説を立てさせて, モデル実験で検証させた。一方, 統制群では作図を行わせないで, 同様の学習に取り組ませた。そして, それぞれの群の満ち欠けの空間認識的な理解度と科学的に説明する能力を質問紙調査によって比較検討した。その結果, 統制群に比べ, 実験群の方が満ち欠けの空間認識的な理解度が有意に高かった。また, 満ち欠けを科学的に説明できる生徒も有意に多かった。このことから, 作図によって地球と天体の位置関係を位相角でとらえさせる指導は, 満ち欠けの現象を空間認識的に理解させたり科学的に説明したりする能力の育成に有効であることが示唆された。
著者
豊田 健太郎 池崎 秀和 平林 和之 三村 昭彦 那須 賢二 戸塚 昭
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.49-58, 2016 (Released:2018-05-28)
参考文献数
13
被引用文献数
4

清酒の味を味覚センサー(味認識装置)で評価した結果,以下の知見を得た。1.BT0センサーは疎水性部分を持つペプチドに応答し,清酒の後味(膨らみ感,味の幅)の評価に活用できる可能性が示された。純米酒では,BT0センサーの出力が高く出る傾向が認められ,清酒の後味(膨らみ感)に着目した官能検査との間で相関が認められた。2.CT0センサーは有機酸塩に応答し,清酒の「濃醇感」の評価に活用できる可能性が示された。3.BT0とCT0の2本のセンサーを用いて,清酒の「後味」及び「濃醇感」という2つの項目によって清酒の味を識別することができた。4.清酒の味わいの違いを表示する方法を提示した。