著者
辻 斉
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

人物の集合写真に中から知人の姿を見つけられなくて困ったり、逆にテレビの画面の端にちらりと映った自分の姿にすぐに気がついた経験は誰にもある。自分に関する聴覚刺激の閾値は他より低いことはカクテルパーティ効果現象という名でよく知られているが、視覚刺激については明らかでなかった。日常場面では、自分を見つける手がかりとして、集合写真での自分のいる位置や自分の服装といった外的で一時的な特徴を利用している可能性もある。本研究では、自分の姿が本当に見つけやすいのかどうかを、数名の大学生の顔写真を同時にコンピュータのディスプレイに提示し、その中にあらかじめ指示された顔が有るか無いかを判断させるという視覚的探索(Visual Search)手続きを用いて検討した。同時提示する顔写真の数を1、2、4、6と変化させたがそのいずれにおいても、自分の顔は他者の顔よりも統計的に有意に速く見つけることができた。また、顔の探索に要する時間は同時に提示された探索対象でない人物の人数が増えるにつれて探索時間は加算的に増加し、線分の傾きのような単純な刺激を探索するときに一つだけ異質のものが浮き出してみえる現象(pop out)は、見出されなかった。自分の顔か他者の顔かという要因と刺激の数の要因との間で有意な交互作用はなかった。この実験の結果、服装や位置のような外的で一時的な要因を取り除いても、被験者自身の顔は他者の顔よりも認知しやすいことが明らかになった。この実験で視覚的なカクテルパーティ効果の存在が実証された。これは日本心理学会で発表され、高く評価された。視覚的カクテルパーティ効果の説明として顔刺激に対する親近性を考えることができる。今後は妨害刺激としての他者と被験者との親近性を変数としてさらに研究を続ける必要性がある。
著者
倉田 徹
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、「一国二制度」方式で統治されている香港が、中国の政治・社会の変容に対してどのような影響を与えているかを分析した。当初、香港のキリスト教団体を中心に、中国大陸および香港での調査を行い、香港の市民社会が中国の変容に対して果たしている役割について、具体的な事例研究を行うことができた。研究期間中の2014年には、中国政府が提案した民主化案に反対する学生・市民によって、香港で「雨傘運動」と呼ばれる大規模民主化運動が発生し、この運動をめぐる政治動向の分析に焦点を当て、関係者へのインタビューなどを行った。研究成果はすでに書籍や論文の形式で多数発表されている。
著者
松村 美代 戸部 隆雄 山田 晴彦 松村 美代
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

高濃度酸素負荷によりマウス網膜の視細胞が脱落し、網膜の菲薄化がみられる事がこれまでの実験により分かった。そこで我々はこの網膜視細胞の脱落がアポトーシスによるものである事を証明し、そしてどういう経路によりアポトーシスが引き起こされているのかを研究している。マウスを酸素濃度75%に調節したBOXにいれ、高濃度酸素に1週間から3週間暴露した。各時点において眼球を摘出し網膜のみを単離した。また眼球の凍結薄切切片を作成した。単離した網膜からDNAを抽出し免疫電気泳動を行うとDNAの断片化が明かとなった。また凍結薄切切片を用いてTUNEL染色を行うと高濃度酸素負荷により網膜外層にTUNEL陽性細胞が著明に増加しているのがみられた。これらのことから網膜視細胞が高濃度酸素によりアポトーシスに陥っている事が分かった。また種々のアポトーシス関連蛋白の発現をm-RNAを抽出してRT-PCRを施行し検討してみた。Caspase3のm-RNAは高濃度酸素負荷により増加し、Baxも増加を認めた。一方Bcl-2は高濃度酸素負荷1週で増加するが、2週で減少した。これら2つは拮抗する蛋白であるのでこれらが網膜視細胞のアポトーシスの制御に関わっていると考えられる。アポトーシス関連酵素のノックアウトマウスであるFas, FasLノックアウトマウスを用いて同様に高濃度酸素暴露し同様にTUNEL染色を施行した。Fas, Fas-Lのいずれのノックアウトマウスも暴露前はコントロールと同様でアポトーシスは抑制されなかったのでFas, Fas-Lはこのアポトーシスに直接関与していないことが考えられた。これらのことから視細胞のアポトーシスはcaspase dependentでBax, Bcl-2の経路が関与している事が考えられた。
著者
小川 知彦
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究は,成人性歯周炎の原因菌として目されるPorphyromonas gingibalis菌体表層の41K線毛ならびに菌体表層蛋白72K-CSPに対する特異抗体を用いて,成人性歯周炎患者の歯周ポケット中のP. gingivalisを特異的に検出することならびに同菌体のこれら表層蛋白の抗原エピトープを明らかにし,歯周病患者の歯肉溝液,唾液ならびに血清中の特異免疫反応を,試料採取したペ-パ-ポイント上でELISAにより発色し,迅速かつ容易に評価しようとした.その結果、概略次のような結果を得た.1)歯周病患者の血清を用いて,B細胞エピトープ領域をELISA法により検討した結果,41K線毛では6領域,′72K-CSPでは7領域がそれぞれ明らかとなった.2)防水加工したペ-パ-ポイントを作成し,所定数のP. gingivalis菌体を同ペ-パ-ポイント上に吸着し,作出したウサギ抗血清やマウスモノクローナル抗体を用いて,P. gingivalisの細菌数とELISAによる反応性において明確な用量-反応関係が得られた.3)歯周病患者の歯肉溝液,唾液ならびに血清中のP. gingivalis線毛蛋白抗原やそのエピトープに対応するペプチド抗原に対する特異抗体を調べ,その反応性と歯周病との関係を検討した.その結果,P. gingivalisの2つのタイプの線毛蛋白抗原やそのB細胞エピトープのペプチドと患者歯肉溝液および同血清と明確な反応がみられた.また,2つのタイプの線毛蛋白抗原に両方反応する血清やそれぞれの線毛抗原にしか反応しない血清が認められた.さらに,歯肉溝液との反応において調べた限りでは,特にIgGサブクラスにおいて病態の悪化にともないIgG4サブクラスの反応性が強まる傾向が見られた.
著者
今石 みぎわ
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本州の社寺に奉納されたイナウは、これまでに石川県で9点、青森県で27点、岩手県で1点が確認されている。2年目である本年は、イナウ奉納の背景を探るため、奉納を行った石川県の廻船問屋に関する歴史資料の分析を進めるとともに、類似資料の所在調査を行った。また、成果と課題の共有のため、5月には石川県で研究会を開催したほか、10月にはイナウ奉納の地元である輪島市で、1月には北海道で開催された一般向けの講座で報告するなど、成果の積極的公表にも努めた。歴史資料については戸澗幹夫氏・濱岡伸也氏(石川県立歴史博物館)、堀井美里氏(株式会社AMANE)などの協力を得て、イナウを奉納した角海家文書、七野家文書等の整理・分析を進めている。この結果、角海家が奉納年代に実際に樺太へ赴いていることなどが史料から裏付けられた。詳しい成果については来年度開催の研究会にて研究協力者と情報共有する予定である。また類似資料の所在調査に関しては、戸澗幹夫氏、堀井美里氏、北原次郎太氏(北海道大学アイヌ・先住民研究センター)とともに9月に新潟県で調査を行った。イナウは発見されなかったものの、蝦夷錦や船絵馬等、多数の北方関連資料について調査・検証を行い、イナウがもたらされた背景となる北方交流の在り方について知見を深めることができた。さらに輪島市では、かつてイナウを所有していたという方から新たに情報提供をいただき、来年度現地調査を行う予定である。
著者
神川 龍馬
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

光合成は、エネルギーと糖を太陽光と二酸化炭素から得られるという利点がある。にもかかわらず、光合成能を完全に喪失し、光合成性から従属栄養性へと進化した藻類が存在する。従属栄養性への進化を解明するため、本研究では非光合成性珪藻類Nitzschia sp. をモデルとして研究を行った。その結果、本藻は光合成能喪失後も葉緑体を維持しており、光合成以外の葉緑体代謝機能をほぼ喪失しておらず、アミノ酸や脂肪酸などの物質を細胞内で合成できることが分かった。すなわち、光合成能の喪失とは必ずしも葉緑体機能の縮退を意味しない。
著者
鶴島 博和 櫻木 晋一 亀谷 学 菊池 雄太 城戸 照子 西村 道也 新井 由紀夫 徳橋 曜 安木 新一郎 図師 宣忠 阿部 俊大 西岡 健司 名城 邦夫 山田 雅彦 向井 伸哉
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1. 2018年5月20日日本西洋史学会(広島大学)でDr David Roffeを招聘してDomesday Moneyersと題する研究報告、5月24日熊本大学においてThe Domesday Text Projectという講義を行った。2. 9月2日から8日までは、熊本大学と同志社大学においてThe International and symposium workshop on Money and its Circulation in the Pre-Modern Western Eurasian World in 2018を開催した。報告者は地中海世界のイスラーム貨幣に関してはスペインの大学からProf. F. M.atima Escudero, Prof. Alberto Canto, Carolina Domenech Belda 、Prof. W. Schultz、と科研メンバーの亀谷学が、世界のキリスト教世界に関してはイギリスからDr William Day , Dr Adrian Popescuが、スペインからはProf. D.Carvajal de laと Vega Dr Albert Estrada-Riusが、そして科研メンバーの阿部俊大が行った。議論は、多岐にわたり、とくに少額銀貨の流通に関して有意義な知見をえた。スペイン貨幣史研究の指導的研究者である Prof. Alberto Cantoからはこれまで経験したシンポジウムの中で最良のものの一つであるという評価を得ている。これらの報告内容に関しては報告書(2029 for 2018)に収録する予定。3.熊本地震で出土した益城町出土の古銭を地元の協力を得て分析し報告書を出版した。研究を地域に貢献することができた。4.2019年1月23日から2月10日まで鶴島がイタリアでProf. Andrea Saccocci, Prof. Monica Baldassariと研究打ち合わせを行い本年度のシンポジムに関する意見交換を行った。オックスフォード大学でZomiaに関する研究会に招待されて貨幣史から見たイングランドの無統治地域についての報告を行った。3月28日は今年度まとめの研究集会を行い、29日にドイツとバルト海の交易と貨幣についてProf. Michael Northと研究打ち合わせを行った。
著者
荏原 小百合
出版者
北海道科学大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

サハとアイヌの口琴音文化交流を通じた自然と音楽行為の関係性について人類学的に明らかにするため、本年度はサハ共和国に渡航し調査を実施した。本年度は、自然と音楽行為の関係性を掘り下げるため、ホムス演奏を習得した経緯や、サハとアイヌの初期の交流についてサハのホムス(鉄製口琴)関係者に聴き取り調査を実施した。具体的な調査内容を以下に列記する。1.1991年からのサハとアイヌの口琴奏者間の演奏交流に関して、世界民族口琴博物館創設者・国際口琴センター代表にインタビューを実施した。2.世代の異なる3名の口琴奏者に、ホムス演奏を身に着けた経緯、これまで演奏してきたホムス(製作者である鍛冶師との関係)、ホムス教育についてインタビューを実施した。3.ホムス愛好家に対して演奏技法の習得過程及び演奏活動についてインタビューを実施した。4.世界民族口琴博物館で資料調査を実施した。この調査から、著名なホムス演奏家たちがホムス演奏を習得した経緯や、世代をまたいだ指導の実践、鍛冶師との関わりなどが見えてきた。また、ヤクート・サハ共和国(1991年当時)で、初めてアイヌ民族のムックリ(竹製口琴)演奏を聴いたホムス演奏家や聴衆が、昨日のことのようにその新鮮な印象を記憶していることが浮かび上がり、互いの口琴演奏に接し、音色・楽器の素材の違い・口琴とヒトの関わり・自然を音写する互いの奏法などに深い関心を抱き、互いの地域を訪問し合う相互交流が開始された経緯がわかってきた。本成果の一部を「サハとアイヌの音楽交流」(永山ゆかり・吉田睦編『アジアとしてのシベリア-ロシアの中のシベリア先住民世界』pp.214-233,勉誠出版,2018年)に反映した。
著者
中野 賢
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

分子通信とは、化学信号や化学反応を利用したバイオナノマシンのための通信方式であり、近年、情報通信分野において、新しい通信技術として注目を集めている。本研究では、様々な分子通信方式の設計や性能評価、および、応用設計や概念実証を行い、分子通信を通信の技術として確立することを目標としている。また、IEEEのワーキンググループと協力をして、分子通信方式の国際標準を策定することも目指している。この目標にむけて、初年度となる平成29年度には、以下の研究を実施した。・分子通信の医療応用の検討:細胞等で実装するバイオナノマシンが分子通信を介して協調的に動作し、標的となる腫瘍細胞の検出や治療を行う協調型ドラッグデリバリ方式について検討した。このような協調型ドラッグデリバリ方式の数理モデルを構築し、数値シミュレーションによって、提案方式の性能を調査した。また、概念実証のための実験系の設計、顕微鏡観察のための実験環境の構築、生細胞を利用した予備的な実験を行った。・分子通信方式の設計と評価:分子信号の時間変化(波形)を利用して情報を伝播する、新しい分子通信方式を提案した。従来の通信方式のように搬送波の振幅や周波数を利用して情報を伝播するが、化学反応の結果に生じる複雑な形状の信号波形を利用することで、一つの波形に複数の振幅や周波数を載せて情報を伝播できる通信方式を考えた。また、分子信号が伝播する方向を制御するためのチャネルスイッチの設計や計算機シミュレーションによる性能評価も行った。
著者
岡本 和夫 CASALE Guy
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

微分方程式のガロア理論と付随する葉層構造のガロア理論の関係は、微分体の拡大の観点から梅村浩教授により研究されているが、これを微分方程式の観点から研究し両者の関係を明らかにすることが目的の一つである。一方、パンルヴェ方程式のガロア理論の観点からの研究は日本で盛んに研究されているが、ここでも微分グルポイドの視点は有効であると期待される。例えば、パンルヴェ方程式の既約性について新しい証明を得ることを目標の一つとしている。前者が微分ガロア・グルポイドの可積分性に関する研究であり、後者がそのパンルヴェ方程式への応用である。これら2つの研究は今のところ独立に並行して遂行する。第一の研究課題が進展すれば、その第二の課題への適用が可能となり、ともに発展が期待できる。具体的にまず考察すべきは以下の視点である。すなわち、非線型微分方程式のガロア理論においては、微分体の拡大と微分方程式の特殊解との関係を確立することが肝要であり、そのときの鍵となるのが付随する葉層構造のガロア理論である。分担者の今回の滞在予定期間は当初一年であったが、2ヶ月ほど延長し上記研究目的に挙げた研究を遂行した。目標の一つは、微分方程式のすべての解を含む微分体を構成するであるが、これはすぐ上に述べた付随する葉層構造の完全第一積分を含む微分体を通して行われるものである。パンルヴェ方程式の既約性について、ガロア・グルポイドを用いるやり方はもとのパンルヴェ自身が考察したアイデアに近いものであるので、何とか完成したい。とりわけ、パンルヴェ方程式に関するデュラックの予想についての研究はじゅうようであるからこれを遂行した。日本各地の研究者との交流は重要であるから、引き続き積極的に行った。また、得られた成果は部分的なものであったとしても研究会などで発表し、これはさらなる発展に資するものと期待している。そのためには他機関の研究者との交流に取り組み、研究打ち合わせを行った。海外の研究集会にも参加し、研究成果を公表した。また、研究代表者がパンルヴェ方程式に関する若手研究者を中心とする研究グループの構築を図っているのでこれに協力したが、今後とも協力するつもりである。
著者
矢ヶ崎 一幸 BLAZQUEZ SANZ David BLAZQUEZ SANZ David
出版者
新潟大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度に引き続き,幾何学的および代数学的アプローチを用いて,微分ガロア理論の力学系に対する応用について理論的研究を行った.まず,可逆的な常微分方程式系において,ホモクリニック軌道のサドル・ノードおよびピッチフォーク分岐がある非退化条件の下で起こるとき,ホモクリニック軌道の変分方程式が微分ガロア理論の意味で可積分となることを証明した.次に,前年度に得られたストゥルム・リウビル問題に対する結果を一般化し,アレン・カーン方程式と呼ばれる偏微分方程式の進行フロント解の線形安定性を解析し,これまでに知られていなかった固有値が求められた.また,これら2つの理論結果に対して具体的な適用例を示し,さらに数値計算結果と比較し検討するなどして,それらの有効性を明らかにし,微分ガロア理論を用いた,常微分方程式のホモ/ヘテロクリニック軌道に対する新しい分岐解析手法を確立した.偏微分方程式のソリトン,パルスおよびフロント解が,常微分方程式のホモ/ヘテロクリニック軌道で表わされる多くの場合があり,得られた結果はこれらの解の分岐や線形安定性に直接応用することが可能で,非線形偏微分方程式の分野においても非常に重要である.さらに,不変多様体を有するハミルトン系に対して,微分ガロア理論により可積分性を解析するMorales-Ramis理論の拡張とそのカオス現象との関連性について論じた.本研究により,力学系にとどまらずより広い数学および応用科学の分野における微分ガロア理論の有用性がさらに高められた.
著者
鈴木 正敏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

高線量放射線被ばくでは、被ばく後の時間が経過した後に遅れて放射線影響が出現する遺伝的不安定性が知られている。福島原発事故による低線量・低線量率放射線被ばくによって、遺伝的不安定性が誘発される可能性を細胞生物学的に検討するシステムを構築した。放射性セシウムが最も多く蓄積する骨格筋から半永久的に細胞増殖を継続できる試料を作製した。作製した細胞を長期培養した期間の解析結果より、旧警戒区域で被ばくした筋肉由来細胞では遺伝的不安定性が誘発される可能性が極めて低いと予想された。生物影響の出現は臓器によって異なるため、本課題で確立したシステムを筋肉以外の臓器に適応して更に知見を蓄積することが必要である。
著者
和仁 健太郎
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、19世紀~20世紀前半の時期における交戦団体承認制度を再検討した。研究の結果、交戦団体承認とは、反乱者と合法政府または第三国との間で行われる、戦争法または中立法の適用を中心的な内容とする合意であることが明らかになった。交戦団体承認制度は、いくつかのあり得る内戦の規律方法の中で、相対的に現実的かつ実効的な方法であり、今日でもなお重要な意義を有すると言える。
著者
前田 晴良 田中 源吾
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は,研究代表者(前田晴良)および研究分担者(田中源吾)による2名の陣容で行う3年計画のうちの初年度分として実施した.代表者はおもに大型化石のタフォノミーや堆積相の分析,および全体のまとめを担当し,研究分担者は,おもに共産する微化石の分析,および代表者と協力して機器分析を担当した.H30年度は,まず愛知県・師崎層群の野外調査を行い,発光器を備えた深海魚化石の保存・産状をマクロスケールで精査して地質学的な情報を収集した.同時に,東海化石研究会が保管・収蔵している師崎層群産の魚類化石についてタフォノミーの視点から詳細に観察した.また,南部北上および四国に分布する中・古生界について予察的な調査を行い,発光器を含む化石が保存されている可能性を探った.その結果,師崎層群産の発光器を備えた深海魚化石は,これまで漠然と「ハダカイワシ類」と呼ばれていたが,発光器が体側下部に一列に並ぶ配列様式から見て,分類学的には「ハダカイワシ目」の中でも「ソトオリイワシ科」に絞り込めることがわかった.また,化石中に反射板・色素などの発光器の組織・微細構造が電子顕微鏡スケールで保存されていることを確認した.ソトオリイワシ類の死後,反射板はすぐバラバラになってしまうため,化石における反射板の保存はこれまで世界に例がない.さらに,筋肉・鱗を伴う皮膚などの軟体部や,眼や耳石を含む頭部の微細構造も保存されていることがわかった.他方,腹腔内は,火山ガラス(=沸石に変質)によって充填されていて,内臓等の痕跡は認められなかった.火山ガラスは腐敗による腹部断裂を通して埋没後に体内に侵入したものである.よって,消化管・うきぶくろ(鰾)などの内臓は,発光器よりさらに早い段階で,腐敗により消失していた可能性が高い.これらの新知見をもとに,次年度以降の研究を進めてゆく予定である.
著者
佐野 肇 荻原 敦子 鈴木 恵子
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

補聴器を安定装用している難聴者25人40耳の補聴器増幅特性の研究において、下記の結果を得た。1)適合十分耳は34耳(85%)であった。2)適合十分耳の65dBの語音入力時の実耳挿入利得は1000、2000HzではDSLv5のターゲットにほぼ一致していた。それ以外の周波数ではそれより小さかった。3)適合不十分耳では2000Hz、4000zhzにおける実耳挿入利得が適合十分耳と比較して有意に小さかった。4)65dBと80dBの語音入力での利得の変化からとらえたコンプレッションの程度はDSL法に近似していた。NAL-NL2と比べてよりリニアに近い結果であった。以上の結果は第34回国際聴覚学会(ケープタウン)、第185回日本耳鼻咽喉科学会神奈川地方部会(横浜)にて発表した。NAL-NL2とDSLv5の比較検討についてはほぼ予定通り研究を実施している。これまでに10例が研究に参加し、4例が終了、6例が進行中である。これまでのところ脱落例はなく、研究計画を変更する必要はないと思われる。
著者
紅林 佑希
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では研究代表者らが独自に開発した蛍光プローブを用いることで、薬剤耐性インフルエンザウイルスを迅速かつ簡便に検出する方法の開発を目指した。研究代表者らはこれまでにシアリダーゼの蛍光イメージングプローブBTP3-Neu5Acを開発し、インフルエンザウイルスのシアリダーゼ活性を蛍光イメージングすることでウイルスの簡易蛍光検出する技術や、抗インフルエンザ薬であるシアリダーゼ阻害剤に対し薬剤耐性を示すウイルスを選択的に蛍光イメージングする技術を開発してきた。本研究では薬剤耐性インフルエンザウイルスの臨床診断や衛生検査で利用可能な迅速かつ高感度な検出法の確立を目指し、蛍光プローブや蛍光イメージング技術の改良を行った。蛍光プローブによるウイルス検出の反応条件の最適化を行い、スピンカラムを利用したウイルス簡易濃縮法を開発したことで、ウイルス検出反応の感度向上を達成した。検出感度は市販のインフルエンザ検出キットと同等の感度を達成した。開発した高感度検出条件によって臨床ウイルス株を用いて薬剤耐性ウイルスの検出・判定が可能であることを確認した。改良型蛍光プローブの開発を行い、蛍光イメージングの精度と感度を向上させた改良型プローブの作製に成功した。BTP3-Neu5Acは蛍光イメージングの際に、蛍光体が反応後にやや拡散していくことが分かっていたが、改良型プローブでは蛍光顕微鏡による観察においてもほぼ拡散が起こらなくなるレベルで蛍光体の拡散を抑えることに成功し、極めて高精度な蛍光イメージングが可能となった。蛍光体の構造を改良したことで蛍光体の蛍光強度の増大を達成することができ、蛍光プローブの高感度化に成功した。本検出技術は高感度かつ簡便に薬剤耐性インフルエンザウイルスを検出できることから、今後の衛生検査や臨床診断、基礎研究を含む幅広い分野で利用される技術となることが期待される。
著者
宮 信明 飯島 満
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

現在、正本芝居噺のほぼ唯一の継承者である林家正雀師による正本芝居噺映像記録会を、東京文化財研究所において開催した。正本芝居噺を継承・研究する上での需要な基礎資料を作成しえたことは、本研究の大きな成果である。記録会が一般に公開されたことは、芸能を記録するという側面からも、成果を広く発信するという観点からも、非常に意義深い試みであったといえよう。また、速記や点取り(覚書)、草双紙、キッカケ帖などの文字テクストを比較考察することで、正本芝居噺の特徴(話法や演出、様式など)を正確に把握した。さらに、三遊亭円朝以降の正本芝居噺の系譜についてオーラル・ヒストリーを収集し、文字資料の空白を埋めた。
著者
水野 章二
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

里山を表示する制度的な用語は存在しなかったが、「後山」は中世初期から広くみられ、「向山」も史料・地名に多く確認できる、中世里山の一般的な表現であった。里山は交通・流通などの条件によっては、鎌倉期から開発が進んで酷使され、植生が貧弱な「野山」「無毛山」化する。里山は資源獲得だけでなく、牛馬放牧の場でもあったが、地形条件によっては屋敷林や平地林の形態をとり、水防・防風・防火などの多様な機能を果たした。
著者
岩永 竜一郎 村田 潤
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder ; PDD)児には感覚過敏が見られることが多い。とりわけ聴覚過敏は高頻度に見られ、それによって情動や行動の問題が生じやすい。そのため、それへの対応が急務であった。本研究の目的は、PDD児の聴覚過敏に対するノイズキャンセリング(NC)ヘッドフォンの行動の問題への使用効果について検証することであった。NCヘッドフォンは電気的に外来ノイズを打ち消す装置がついたヘッドフォンである。対象は研究への参加に同意が得られた4歳~16歳のPDD児17名(男児13名、女児4名)であった。まず、各対象の聴覚刺激に伴う問題行動に基づきゴール達成スケーリング(Goal Attainment Scaling ; GAS)スコアを設定した。そして、NCヘッドフォンを使用しないコントロール期間とNCヘッドフォン使用期間をそれぞれ2週間ずつ設けた。NCヘッドフォン使用期間は対象児が日常場面でいつでもNCヘッドフォンを装着することを許容した。それぞれの期間中に保護者にGASスコアをつけてもらった。そして、両期間でGASスコアについて比較した。その結果、聴覚刺激によって不快反応を起こすことが多かったPDD児は、NCヘッドフォン使用によってGASスコアが改善した(z=-2. 533, p=0. 011)。よって、NCヘッドフォンの使用は聴覚過敏のあるPDD児の刺激に伴う行動の改善に役立つことが明らかになった。聴覚過敏のあるPDD児のあるPDD児に対するノイズキャンセリングヘッドフォンの効果を示した研究はこれまでになかったが、本研究でその効果が実証されたため、これを多くの聴覚過敏があるPDD児に適用できると考える。
著者
阿形 清和 野地 澄晴 梅園 良彦 横山 仁 遠藤 哲也 柴田 典人
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究『再生原理』では、日本の看板研究の一つであった<再生研究>の成果をもとに、3次元構造をもった指や器官の再生を目指す-新しい再生医療をめざす研究領域を作るために本領域を立ち上げた。そして、再生原理を明らかにすることで、再生できない動物に3次元構造をもった指や器官の再生を引き起こすことを目指した研究を展開した。その結果、プラナリアやイモリで再生原理を明らかにしたことで、尾部からは頭部を再生できないプラナリアを遺伝子操作によって再生できるように成功し(Umesono et al., Nature, 2013)、また関節を再生できないと考えられていたカエルに関節を再生させることに成功した(Tsutsumi et al., Regeneration, 2015, 2016)。これらの画期的な研究成果をより広く世界中の研究者、一般の方々、再生医療関係者に広めていくのに、それらの成果を海外ジャーナルに出版するとともに、国内新聞やEurekAlertなどの国際科学Webサイトを使って広報した。英語での論文出版と、海外向けの広報活動などについてはElizabeth Nakajimaさんを雇用できたことでスムーズに展開することができた。この1年でカエルの関節再生を含め重要な論文を8報、英文誌に出版することができた。また、高校生向けとしては、京都市立西京高校、愛知県立一宮高校、明和高校、宝塚北高校、広島ノートルダム清心女子高校などに出張講義あるいは大学での実習を行った。一般向けとしては、東京で公開講演会を行うとともに、ABC放送、BSフジの『ガリレオX』などで本研究の成果は紹介された。このように、5年間にわたる本研究成果を、国内外に積極的に広報することに成功した。そして、最後に5年間にそれらの成果を冊子体としてまとめて報告書とした。