著者
田中 裕
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.117-122, 1989

1964年に発表されたベルの不等式の実験的検証は1970年代から複数の科学者グループによって遂行されたが, 1982年にフランスの物理学者アラン・アスペによって行なわれた光子対の偏極相関の範囲を測定する実験は, 実験の精度の高さと遅延選択の採用による非局所的相関の確認によって, 量子物理学の解釈をめぐる原理的諸問題の考察に新しい局面を拓いたといえる(1)。嘗ては思考実験にすぎなかったものが技術の進歩によって現実の実験となることによって, 1930年代にボーアとアインシュタインの間でなされた量子力学の完全性をめぐる哲学的論争が新しい姿で甦ることとなった。この論文は二部に分かれる。第一部ではEPRの議論に要約されるアインシュタインの量子力学批判を適切な形で再定式化することによって, ベルの定理との論理的な関係を明らかにすることを目的とする。ベルの不等式の実験的反証によって明らかとなった「分離不可能性」の事実を確認したあとで, 第二部ではEPR相関と相対性理論の基本思想との関係を主題とする。
著者
山岸 伶 高田 哲司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.1119-1128, 2019-04-15

知識照合型個人認証の脅威として推測攻撃が存在し,これはとりうる秘密情報から,攻撃者が利用者の秘密情報だと考える順序をつけ,その順に試行することでなりすましを試みる攻撃方法である.推測攻撃は,多くの利用者が設定している秘密情報を優先する傾向型推測攻撃と正規利用者の属性や好みに基づいて順序をつける個人情報型推測攻撃に分類される.推測攻撃は,秘密情報の偏りや利用者の個人情報に基づいた脆弱な秘密情報により可能となる.これらの脆弱な秘密情報は作成・記憶保持可能である点を重視する利用者の秘密情報設定戦略に起因する.本研究では,a)推測攻撃に対する安全性改善,b)秘密情報の記憶保持が可能,c)利用者が秘密情報を作成可能の3要件を満たす個人認証を目的とし,単語ぺアを秘密情報とする個人認証を提案する.単語ぺアを秘密情報とすることは選択する情報を2つに増やし,そのぺア間の関連も利用者が定義可能な点から,自由度が増加して推測攻撃に対する安全性が向上すると考えた.この提案に基づいてプロトタイプシステムを実装し,要件a)とb)の観点で評価実験を実施した.その結果,提案手法は70試行までは推測攻撃の成功例がなく,1,2週間隔での利用でも記憶保持が可能という結果を得た.
著者
福井 真理子 阪口 紗季 松下 光範
雑誌
研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:21888914)
巻号頁・発行日
vol.2016-EC-39, no.1, pp.1-8, 2016-03-09

本研究では,実物体に映像を足し合わせることによって,秘匿された情報を視覚化する手法を提案する.提案手法では,錯覚を応用したエンタテインメントであるスキャニメーションの技法をプロジェクションマッピングに応用する.それによって,実物体の外観に付与されたパタンに対し,プロジェクタからの投影映像のパタンを重畳することによって,情報を視覚化することを可能とする.これにより,それぞれ単体では意味をなさない物体の外観と投影映像が重なり合ったときにのみ,意味のある情報として視覚化できるといったインタラクションが実現できる.
著者
志澤 美保 義村 さや香 趙 朔 十一 元三 星野 明子 桂 敏樹
雑誌
京都府立医科大学看護学科紀要 = Bulletin of School of Nursing Kyoto Prefectural University of Medicine (ISSN:13485962)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.35-44, 2017-12-25

本研究は、4~6歳の幼児を持つ養育者を対象に、養育環境が子供の食行動に与える影響について検討することを目的とした。 対象は、A県2市において研究協力の同意が得られた保育所、幼稚園、療育機関に通う4~6歳の子供1,678人の養育者であった。協力機関を通じて養育者に無記名自記式質問紙を配布し、回答は協力機関に設置した回収箱および郵送で回収した。調査項目は、①子供の基本属性、②養育者による食行動評価、および③育児環境指標(Index of Child Care Environment;ICCE)であった。統計学的解析は、χ 2 検定、Fisher の正確率検定、因子分析、共分散分析を行った。 調査は845人から回答を得て(回収率50.4%)、有効回答数は766人(有効回答率45.6%)であった。養育者の捉える食行動の問題数は、1 人平均2.46±2.28 個、食行動の問題には性差が認められた。さらに、食行動の問題について、因子分析で抽出された3 因子「偏食と食事中の行動」、「食事環境への固執性」、「食べ方の特徴」を用いてICCE の各13項目について性別を共変量として共分散分析を行った。その結果、食行動の問題に影響するICCE 項目は因子によって異なっていた。その中で、3因子共通で関連していた項目は「家族で食事する機会」であった。また、第2因子「食事環境への固執性」と第3因子「食べ方の特徴」では交互作用が認められ、男児にのみ影響があり、食行動に問題が出やすいことが明らかとなった。その他に「一週間のうちに子供をたたく頻度」や「育児支援者の有無」などの養育環境についても食行動の問題への影響が認められた。したがって、幼児期の食行動について支援する時は、子供の食行動だけでなく家族での共食頻度、養育者の養育態度、支援状況や、精神的状態などにも配慮する必要性が示唆された。

1 0 0 0 OA 繪本武者鞋

著者
北尾重政 [画]
出版者
耕書堂
巻号頁・発行日
vol.[上巻], 1787

北尾重政の武者絵本。天明7年(1787)春序、蔦屋重三郎刊、大本1冊。蔦重の新刊書の中でも、重政の武者絵が人気があったことは、飯盛の序に、「此武者鞋の二冊をもて草子の地場をふみかため」云々とあることによって窺える。内容は、「鞍馬天狗」、「巴」(巴御前)、「鵺」(源三位頼政)、「屋島」(那須余市)、「曾我兄弟」、「羅生門」(渡辺綱)、「敦盛」、「橋弁慶」、「怪童丸」(金太郎)、その他、謡曲、浄瑠璃などに取材したお馴染みの武者を収める。武者絵は、幅広いジャンルに力量を示した重政が分けても得意とした分野で、力強い線描と表情の明快さを特徴とし、賦彩は、板彩に他の手法も併用している。上方の下り絵本の停滞期に現出した、江戸の子供向け武者絵本の代表的な一作といえる。(鈴木淳)
著者
菅原 里枝 新井 猛浩 大村 一史 楠本 健二
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.222-231, 2010-12-30 (Released:2011-01-24)
参考文献数
30
被引用文献数
1

The purpose of the present investigation is to determine how one′s nutritional status affects an unsettled state of mind, especially the impulsivity trait, in university students. Three hundred twenty-four university students completed a self-rating questionnaire. They were assessed using a brief-type self-administered diet history questionnaire (BDHQ), the Barratt Impulsiveness Scale (11th version; BIS-11), and the Beck Depression Inventory-Second Edition (BDI-II). Based on BDHQ scores, the participants were classified into three groups according to their nutrient intake: low-energy density nutrient intake, moderate-energy density nutrient intake, and high-energy density nutrient intake. A one-way analysis of variance revealed significantly higher BIS-11 scores in the case of low-energy protein intake and low dietary intake of the soy and soy food groups. The vitamin and mineral deficiencies influenced the impulsivity trait, and the n-6 fatty acid deficiency possibly led to an increase in the impulsivity level. The results suggest that an unbalanced nutritional status is a risk factor for a higher impulsiveness in university students.
著者
金川 淳 藤根 道彦 木村 泰廣
出版者
大同特殊鋼株式会社
雑誌
電気製鋼 (ISSN:00118389)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.244-251, 1993

Superalloy (Inconel 718) and stainless steel (SUS 316) were melted by using 300kW Electron Beam (EB) melting furnace and the evaporation behavior of elements and the effect of purification were investigated.<br>1) The evaporation behavior could be explained well by a Langmuir evaporation equation under the consideration of the vapor pressure of element and the activity in metal.<br>2) The uniformalization of the chemical composition in the longitudinal direction can not be expected because the molten pool is not so deep, and so the accurate control of EB condition is important.<br>3) In the investigation on mechanical properties of Inconel 718, creep rupture properties of EB melted material were better than those of VAR remelted material, which is considered to be caused by the purification of EB melted ingot.
著者
磯部 由香 田中 里奈 平島 円 ISOBE Yuka TANAKA Rina HIRASHIMA Madoka
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = BULLETIN OF THE FACULTY OF EDUCATION MIE UNIVERSITY. Natural Science,Humanities,Social Science,Education,Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.143-148, 2017-03-31

学校現場で行われている食育に関する様々な取り組みの中で、毎日繰り返し行われる「給食の時間」での指導は、極めて重要な役割を担っている。そこで、学校現場での給食指導の実態の把握を目的に調査を行った。その結果、給食指導における一番の課題は偏食に関する指導であることが明らかになった。偏食の課題は多様なため、指導方法の一般化が困難であり、給食指導マニュアルへの記載もほとんどなかった。アンケート調査および文献から偏食指導の事例を収集したところ、その手法は様々であった。今後は、教員個人の経験や能力に左右されず、すべての教員が効果的な偏食指導を行うため、様々な事例の蓄積とデータの共有が重要になると考えられる。
出版者
巻号頁・発行日
vol.第19冊,
著者
中村 丁次
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.750-758, 2012 (Released:2013-11-01)
被引用文献数
1 1

食べ物と健康や疾病との関係は、世界中で多種多様の方法で論じられながら、栄養学のみが生命科学の一分野として存続できた。その理由は、栄養素という生命の素を発見し、栄養素の生成に関連する成分を食物から分析したからである。栄養学は、食料不足や偏食により発生した多くの栄養失調症の予防、治療に貢献した。わが国は、第二次世界大戦前後、栄養失調症に悩まされたが、集団給食を介した食料の適正な分配と栄養教育により、短期間に問題を解決した。しかし、1980年以降は過剰栄養による肥満、生活習慣病が問題となる一方で、若年女子を中心としたダイエットによる極端なやせや貧血、さらに傷病者や高齢者の低栄養障害が問題となってきた。このような傾向は、世界中でみられ、Double Burden Malnutrition(DBM)と呼ばれている。DBMとは、同じ国に、同じ地域に、同じ家族に、さらに同じ人物に過剰栄養と低栄養が共存している状態をいう。食生活の欧米化や、家庭や地域で習慣的に伝承されてきた伝統的な食習慣が崩壊し、栄養問題は複雑化、個別化してきている。このような問題を解決するために、人間栄養学を基本とした新たな栄養管理の方法が開発され、栄養・食事の改善を目的にした大規模な介入研究が行われ、その有効性と限界性が議論されている。また近年、同じ栄養量でありながら食品の種類、組み合わせ、調理法、食べる時間や速さ、食物の物性、さらに食べる順位などの食べ方が生体へ及ぼす影響の研究も始まった。栄養や食事が疾病を予防する目的を果たすには「何を、どのくらい食べるか」だけではなく、「どのように食べるか」を議論していく必要がある。
著者
藤本 雅清 鷹尾 誠一 有木 康雄 松本 宏
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.68, pp.49-54, 2001-07-13
参考文献数
16

本研究では,社内で製作された商品の紹介映像を個々の商品区間へ分割(トピックセグメンテーション)し,商品名をインデックスとして付与するシステムの検討を行った.本研究におけるシステムでは,商品紹介映像の音声から音楽などの雑音を除去した後にキーワードスポッティングを行い,抽出された商品名を用いてトピックセグメンテーションを行っている.また,キーワードスポッティングにより商品名を抽出するためには,商品名辞書が必要となるが,本研究では,商品名辞書が事前に存在していない場合に,映像中のテロップ文字を利用して,オンラインで自動生成する手法についても検討を行った.実験の結果,商品名辞書が事前に存在している場合で約82%,商品名辞書を自動生成した場合で約60%の精度で区間分割を行うことができた.In this paper, we propose a method to segment goods catalog video into individual sections and index them. Our proposing method uses the keyword spotting which extract the keywords from noise reduced speech signal within the goods catalog video. In order to extract the keywords by using keyword spotting, the goods name dictionary is required. In this paper, we study a method to generate the goods name dictionary automatically, by using the video captions within the goods catalog video. As the experimental result, the proposed method could segment the individual goods sections with approximately 82% accuracy when the goods name dictionary is available, and with approximately 60% accuracy when goods name dictionary is generated automatically.
著者
兼光 弘章 御領 政信 岡田 幸助
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.547-550, 1995
被引用文献数
2

馬2頭 (4歳雌および6歳雄) が1カ月以内の間隔で再度大量の鼻出血を起こし, 死亡あるいは安楽死処分された. 第1症例には鼻腔に壊死性肉芽腫が多発し, 鼻背動脈の破綻による鼻出血と推測された. 第2症例は喉嚢真菌症で, 喉嚢に隣接する内頸動脈の破綻があり, 病巣の大部分は肉芽組織により置換されていた. 両例とも光顕および走査電顕的検索によってAspergillus sp. が病巣から検出・同定された.
著者
橋場 論 小貫 有紀子 HASHIBA Ron ONUKI Yukiko
出版者
名古屋大学高等研究教育センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.279-298, 2014-03

本稿の目的は、学修支援活動に携わる学生スタッフの変容プロセスを仮説的に解明することである。この目的を達成するため、4 人の学生スタッフに対するインタビュー調査を行った。学生の変容プロセスについて解明された諸点のうち、特に重要な点は以下のとおりである。1) 学修支援活動への参画経験は、学修への関わり方を含めた学生の学生生活の様々な側面に影響を与えていた。これらの影響は、大学のカリキュラムの特性を踏まえ、主体的な学修しようとする姿勢を涵養していたという点において、特筆すべき成果といえる。2) 学生スタッフは、大学のカリキュラム、組織や運営などの仕組み、職員に対する理解など、多様な側面から大学に対する理解を深めることによって、学生という立場から大学に対してコミットメントを図ろうとしていた。言い換えれば、彼らは学生として期待される役割、すなわち大学コミュニティの一員としての役割を認識し、その役割を遂行しようとしていた。今後の課題としては、調査対象者や支援領域を拡大し、本稿において仮説的に導出した変容プロセスの検証を行う必要がある。This study investigates the learning and development process of student staff members who help other students by performing academic advising activities. The study conducted semi-structured interviews with four student staff members, and analyzed the interview data using the Modified Grounded Theory Approach. The major findings regarding the student learning and development process are as follows: 1) The experience as participants in academic advising activities had a positive influence on several aspects of student staff members’ campus life, including their learning style. This outcome implies that the experience promotes self-directed learning based on the characteristics of their universities’ curriculum. This finding is a remarkable outcome of student participation in academic advising. 2) Student staff members enhanced their commitment to their universities through deepening their understanding of the universities’ curriculum, organization, administration, and professional staffs, i.e., they recognized that their expected role as a student represents membership in the university community, and they began attempting to perform that role.