著者
森田 次朗
出版者
京都大学
雑誌
京都社会学年報 : KJS
巻号頁・発行日
vol.13, pp.127-136, 2005-12-25
著者
菅原 祥
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.91-118, 2022-03-31

戦時中を囚人としてアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所で過ごしたゾフィア・ポスミシュの実体験を元に強制収容所における女性看守と女性囚人の関係性を描いたポーランド映画『パサジェルカ』(1963 年)は,制作途中に監督であるアンジェイ・ムンクが急死し未完成の映画として公開されたという経緯もあり,強制収容所を描いたフィクション映画の中でもとりわけ謎めいた作品として知られている。本稿はこの映画『パサジェルカ』をポスミシュによる小説版『パサジェルカ』とともに考察の対象とすることで,収容所におけるトラウマ的経験がいかに事後的に想起され,再解釈されうるかということの可能性を検討する。本稿が明らかにするのは,この『パサジェルカ』という作品が,ドイツ人看守のリーザとポーランド人の囚人マルタという二人の人間をめぐる物語の多様な解釈を生み出すことによって,取り返しのつかないトラウマ的な過去に対するある種の現在からの「介入」を可能にするような作品であるということである。ポスミシュの小説版『パサジェルカ』とムンクの映画版『パサジェルカ』は,それぞれ異なった形によってそうした介入の可能性を示唆している。さらに,ムンクの『パサジェルカ』におけるユダヤ人の子供のエピソードが示唆しているのは,子供に象徴されるような「絶対的に無垢な犠牲者」の死や痛みを媒介とした,ある種の共感の共同体の可能性である。そこにおいては,マルタとリーザという本来であれば「被害者(=ポーランド人)」と「加害者(=ドイツ人)」に明確に分けられる両者の間にもしかしたら存在し得たかもしれない,この「哀しみの共同体」のかすかな可能性が示唆され,それによってすでに固定され,変えられないはずの過去のトラウマ的経験は,存在し得たかもしれない別の可能性へとダイナミックに開かれていくのである。
著者
森 修一 加藤 三郎 横山 秀夫 田中 梅吉 兼田 繁
出版者
日本ハンセン病学会
雑誌
日本ハンセン病学会雑誌 (ISSN:13423681)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.217-237, 2003 (Released:2007-11-30)
参考文献数
76
被引用文献数
1

本研究は戦前、日本に唯一存在したハンセン病患者の自由療養地である群馬県吾妻郡草津町湯の沢部落の社会科学的分析の中から、何がハンセン病患者の隔離の二つの側面である「迫害されている患者の社会の圧力からの保護」と「感染源である患者からの社会の防衛」のダイナミズムを後者への優位に導いていったのかを明らかにすることを目的とするものである。その過程は湯の沢部落の実態の解明(「草津湯の沢ハンセン病自由療養地の研究1、II」)、自由療養地議論の展開と消滅の過程の検証と湯の沢部落の関わり(「草津湯の沢ハンセン病自由療養地の研究III」)、湯の沢部落消滅後にその精神が日本の隔離政策に与えた影響(「草津湯の沢ハンセン病自由療養地の研究IV」)などの研究の総体である。本稿では自由療養地構想から絶対隔離政策への変遷過程を国会での議論、内務省の政策およびその意思決定過程、自由療養地議論の中の湯の沢の役割、などから描いた。加えて、自由療養地を望む患者たちの意見とその背景を示すと共に世界の隔離政策と日本の隔離政策をその歴史的過程を含みながら対比、考察した。
著者
岡本 智周
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.144-158, 2003-09-30 (Released:2010-01-29)
参考文献数
35

本稿は, 第2次世界大戦後のアメリカ社会において人種・民族間の階層性が変化し, 国民概念が変動してきたことを, 大戦中の日系人強制収容に関する補償法の変遷を通じて論じる.具体的には, 1948年の日系人退去補償請求法と1988年の市民自由法の相違点に, 国民統合のために掲げられる理念の変化を跡付ける.また補償法その他の法令資料を精査している点で, 本稿は日系人研究に寄与するものである。分析の枠組みとしてはアントニー・スミスの国民論を参照し, それが想定するエスニー間の関係が大戦後のアメリカ社会でどの程度維持されているのかを検討する.1948年法から1988年法への変遷からは, まず1948年法が, エスニー間の相容れなさと周辺的エスニーの劣位という点において, スミスが想定する国民の階層的構成原理を体現していることを把握することができる.しかし1960~70年代の社会変革を経験した後の1988年法では, 周辺的エスニーの記憶や経験を国民全体のそれへと組み入れるための制度が準備され, さらに周辺的エスニーと国民社会の中心との間の階層的関係の解消も試みられている.この変化は国民概念の根拠が普遍性を高めるプロセスであり, さらに1990年代には補償対象がナショナリティの範囲を越えて設定される点に, 概念の変動の副次的効果を指摘できる.アメリカの国民概念が原初主義的傾向を希薄にしていったとするのが, 本稿の結論である.
著者
佐々木 憲介
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.15-27, 2010-12-09

1870年代から20世紀初頭にかけて, イギリスにおいても歴史学派と称される一群の経済学者が現われ経済学上の有力な潮流となった。歴史学派は古典派の理論的・演繹的方法に対して歴史的方法を対置し, 古典派の方法論をさまざまな角度から批判した。しかし, 古典派を代表する経済学者の一人であったJ.S.ミルは, その『論理学体系』においてすでに歴史的方法について語っており, それ以外にも歴史学派のものとされる主張を展開していた。はたして, ミルの経済学方法論はイギリス歴史学派とどのような関係にあったのか。クリフ・レズリーは, ミルとリカードウとの違いを強調したが, 歴史学派の多くはむしろ両者の共通性に注目した。ミルは, 経済学の原理に関してはリカードウ派の立場を堅持しており, 新しく示された観点は観点の提示に留まっていて歴史研究の先駆的な業績があったわけではなかった。そのような意味で, 歴史学派にとってのミルは旧学派の一員であった。しかし, 実践的な意味では, ミルの学説は社会改良主義への突破口の一つになった。何人かの歴史学派がミルを評価したのはむしろこの点であった。
著者
中塚 幹也 江見 弥生
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.278-284, 2004-07
参考文献数
16
被引用文献数
3

性同一性障害(GID)329症例に対し,思春期の問題点を明らかにすることを目的として自記式質問紙調査,臨床解析を行い,female to male(FTM)症例とmale to female(MTF)症例とに分けて検討した。小学校入学以前に性別違和感を自覚し始めることが多いFTM症例に比較し,MTF症例では発症が遅い症例が多かったが,ほとんどが思春期以前に性別違和感を自覚していた。思春期に多い問題行動では,不登校が全体の29.2%,自殺念慮が74.8%,自殺未遂・自傷行為も31.0%と高率であった。また,二次的に生じたと考えられる強迫神経症やうつ状態などの精神科的合併症も17.9%にみられ,特にMTF症例で高率であった。このような思春期の問題を解決するためには,学校保健の役割は重要であり,性別違和感のある児童が早期に相談しやすい態勢を整えることで医療施設へ紹介可能となる。また,的確な診断が行われた症例には,二次性徴を抑制するなどの医学的介入で,種々の問題を回避できる可能性がある。
著者
片山 善博
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.31-44, 2020-03-31

本稿は,社会福祉の価値を,人格と承認という観点から考察することで,その基礎づけを試みた.まず,岡村重夫が「人間の尊厳の哲学的基礎」とした「主体的人間性」を取り上げ,その意義と限界について考察した.主体的人間性は,社会福祉の主体的側面(個人)と客観的側面(社会)を結びつけるという積極的意義を持つが,その他者性の側面が十分考慮されてはいないという限界を持っている.そこで,個人と社会を結びつける概念としてドイツ観念論で論じられた「人格」概念を吟味することで,改めて社会福祉の人間理解を問い直す.カントの人格論は,社会福祉の人間理解に(例えば尊厳の根拠をめぐる議論等において)大きな影響を与える一方,人格概念を個人の理性的素質に狭めた点に課題がある.これに対して,ヘーゲルの人格論は,人格概念の二重性(他者に対する側面と自己に対する側面)に着目することで,「承認関係」を前提とした個人と社会の媒介構造を基礎づける人格論の構築を可能とした.これは,社会福祉の人間学を構想する上で重要な意味があると考える.
著者
尾関 美喜 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.32-44, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
38
被引用文献数
2 1

本研究では,社会的アイデンティティ形成の相互作用モデルに基づいて,集団アイデンティティを個人レベルと集団レベルに分けてとらえるとともに,集団アイデンティティを成員性と誇りの二側面でとらえた。そして,成員性,誇り,成員性の集団内平均が集団内における迷惑行為の迷惑度認知に及ぼす影響を検討した。HLMによる分析の結果は以下に示すとおりであった。1)規範などによって抑制可能である集団活動に影響を及ぼす迷惑行為については,成員性の強い成員ほど迷惑度を高く認知した。2)集団内の人間関係に影響を及ぼす迷惑行為については,成員性の集団内平均が高い集団では,誇りの個人差に起因する迷惑度認知の差はみられなかった。3)成員性の集団内平均が低い集団では,誇りの高い成員ほど迷惑度を高く認知していた。
著者
菊地 研
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.517-522, 2015-07-15 (Released:2015-09-18)
参考文献数
12
被引用文献数
1

「医療安全」では医療従事者は緊急事態に備えてBLS/ACLS(一次および二次救命処置)を修得しておくべきで,チームで行うシミュレーションでのBLS/ACLSトレーニングが有用である.蘇生では専門知識や専門技能の熟達に加えて,有効なコミュニケーションとチームワークが重要で,有効なコミュニケーションはエラーを最小限にし,良好なチームワークは蘇生の質を確保してくれる.そのようなチームで行う蘇生は救命の可能性を高めてくれる.この有効なコミュニケーションと良好なチームワークは,まさに「医療安全」での最重要事項である.このため,BLS/ACLSトレーニングは「緊急事態への備え」であると同時に,「医療安全」の推進に重要である.
著者
近藤 益代 こんどう ますよ Masuyo KONDO
雑誌
最新社会福祉学研究 = Progress in social welfare research
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-10, 2017-03-31

本稿は,主に障害者総合支援法(2013)における障害福祉サービスに関する意思決定支援に焦点をあてたものである.文献研究により,意思決定支援の①意義,②目的,③主部,④方法,⑤課題を明らかにし,わが国の意思決定支援の見解に関する理論考察に取り組んだ.その結果,意義・目的・主部・方法・課題は,権利条約の意図である「障害者観の転換」や「自律」,「参加」と連関していた.結論として,意思決定支援とは,ソーシャルワークの要となる価値・知識・技術を総称する支援であるが,権利条約との連関をふまえると,意思決定支援とは,障害当事者自身,そして支援者を含む社会に障害者観の転換を強く求めるものであること,また,支援過程において個人の尊重の徹底と,障害当事者と支援者の力の釣り合いを模索しながらの「支援と自律の両立」へと支援者を導く概念であると理解された.The objective of this study was to clarify (1) the significance, (2) the purpose, (3) the principalpoints, (4) the methods, and (5) the problems of Supported Decision Making (SDM) for personswith disabilities, and to consider the theories of SDM in Japan.Results show that the significance, the purpose, the principal points, the methods, and the problemsrelate to the conversion of the views toward persons with disabilities , participation , and individualautonomy which are part of the Convention on the Rights of Persons with Disabilities. These findingsshow that SDM requires the conversion of the views toward persons with disabilities to peoplethat include disabled people themselves and workers, and lets workers be successful in both supportand individual autonomy.
著者
越野 剛
出版者
日本ロシア文学会
雑誌
ロシア語ロシア文学研究 (ISSN:03873277)
巻号頁・発行日
no.31, pp.15-29, 1999-10

19世紀前半のロマン主義時代はオカルト思想の流行と結びつけて語られることが多いが, ロシア社会にとって, それは戦争や災害が相次いだ時代だった。ナポレオンのモスクワ遠征(1812)とデカプリストの反乱(1825)をはさんで, ペテルブルクの大洪水(1824)やコレラの大流行(1830-31)があった。1830年代にはビエラ彗星(1832)とハレー彗星(1835)が接近し, これが地球に衝突するのではないかという噂が社交界に広まった。ノストラダムスやスウェーデンボリなどの終末論の流行は, こうしたことと無関係ではないだろう。 時の皇帝アレクサンドル1世は, 啓蒙主義的な教育を受けて育ったが, 晩年は神秘主義に傾いていた。メスメリズムなどに造詣の深いクリュデネル男爵夫人との交流は神聖同盟結成などの政策にまで影響を与えたといわれる。宮廷でもオカルトが大流行し, タタリノヴァ夫人や去勢派教徒のコンドラチイ・セリヴァノフの集会に貴族や高官が押し寄せた。そこでは教祖のカリスマや聖書の唱和, 踊りなどにより信者たちがpaрадениеとよばれる熱狂に達し, 神の啓示を受けていた。皇帝の親友で教育大臣(のちに宗教大臣を兼務)でもあったA.H.ゴリーツィン公爵も神秘主義に寛容だった。単純さを好む粗暴な武人アラクチェーエフはオカルティストたちを宮廷から追い出そうとしたが, オカルト熱は社会に深く根を張っていた。聖書の普及を目的とする聖書協会や, 啓蒙主義的な出自を持つフリーメーソンが, オカルト流行の温床に変わっていた。骨相学, メスメリズム, 幽霊, サン・マルタン主義, 予言, 民間信仰などが渾然となって話題に上り, ドイツの自然哲学がそれらを体系的に説明していた。 本論文は, メスメリズムとロシア文学の関わりを考察することによって, ロマン主義時代のロシア社会の一面を明らかにしようとするものである。

5 0 0 0 音楽年鑑

出版者
音楽之友社
巻号頁・発行日
vol.昭和45年版, 1970
著者
石盛 真徳 岡本 卓也 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.22-29, 2013 (Released:2013-09-03)
参考文献数
27
被引用文献数
1 9

本研究では27項目で構成されるコミュニティ意識尺度の原版の利便性を高めることを目的として短縮版の開発を行なった。その目的を達成するために392名の調査回答者(平均年齢40. 9歳,男性50. 3%・女性49. 7%)のデータを収集した。短縮版12項目は,原版のコミュニティ意識尺度と同じく連帯・積極性,自己決定,愛着,および他者依頼の4つの下位尺度から構成されている。各下位尺度はいずれも3項目から構成されているが,それらの項目については原版を用いた先行研究において一貫して同一の下位尺度に負荷している項目から選定を行なった。短縮版の探索的因子分析を実施した結果,短縮版が原版と同じ4因子構造を保持していることが示された。次に検証的因子分析を実施した結果,短縮版の4因子構造モデルが十分な適合度を持つことが示された。したがって短縮版は原版の半分以下の項目数でコミュニティ意識という構成概念を測定し得ることが示されたといえる。今後は,利便性の向上した短縮版を積極的に活用し,現実のコミュニティにおける課題の解決に向けた実証的研究を進めていくことが必要である。