著者
小林 定義
出版者
島根大学
雑誌
島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 (ISSN:02872501)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-55, 1972-12-20

ウォルター・ペイター(Walter Horatio Pater, 1839-94)がそれによって文名を得た「ルネッサンス研究」(The Studies in the History of the Renaissance, 1873)が世に出てから百年、彼が世を去ってから八十年に近い歳月がたつが、この間、さまざまの毀誉褒貶とともに、さまざまのペイター像がわれわれの前に提出されてきている。初期の哲学、ないし人生観を中心に描かれた「唯美主義者」という像は現在もなお生きており、その批評態度から「印象批評家」というレッテルもあたえられている。一生文体の問題に腐心し、独特の文体をつくったことから、「スタイリスト」の評も得ている。道徳的なヴィクトリア朝の思想的風土の中では「快楽主義者」という悪評も得た。また、著作の多岐にわたる内容から、ある時は「文芸評論家」、あるときは「美術評論家」またあるときは「創作家」として論じられもした。13; このようにさまざまの角度からのペイター像が存在すること自体は、彼の多才性を物語っているようで、その限りでは問題はないかに見える。だが、「スタイリスト」としてのペイターが「印象批評家」と無関係に論じられたり、「創作家」のペイターが他のペイター像と無縁にとり扱われているという事実は否めない。その結果われわれが知っているのは、相互に関連のない「唯美主義者ペイター」であったり、「美術評論家ペイター」であったりする。言いかえれば、右にあげたようなさまざまの像の背後にあって、それらを統一するペイターその人の像が欠けているわけである。13; ある時は印象批評家、あるときはスタイリスト、またある時は唯美主義者と、いろいろな衣裳をつけてわれわれの前に登場してみせるペイターの奥にある「ペイター原像」といったもの−社交界から戻って、また大学の講義を終えて、書斉に独りとなったときのペイターの胸のうち−を明らかにすることが、ペイター研究に残された重要な問題の一つではないだろうか。13; 「ペイター原像」の探究の一つの試みが、本稿のねらいである。
著者
野尻 裕子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.169-178, 2004-03-15

わが国には明治期に多くの西洋文化が移入された。近代欧米公園もその一つで,明治36年に開園した日比谷公園は従来の日本型公園を欧米型公園へ転換した画期的な公園といわれている。またそこに設置された児童用遊び場は,東京における初めての近代的児童公園とされている。本稿では,昭和初期に記された日比谷公園児童公園指導員末田ますの資料(『児童公園』昭和17年)から,当時の児童公園の存在の意味と指導員の役割を,健康観という視点から検討した。その結果,戦局下において「国民の体力強化」というスローガンが国中に鳴り響いていた昭和初期には,子どもの遊び場である児童公園もその対象となっていたと考えられる。また母子厚生運動を経験する場としても児童公園は存在していた。単に「子どもが遊ぶ場所」にとどまらず,子どもの遊びに母親が参加する中で,厚生指導を行うことが有効な手段と考えられており,その際の指導員の役割は大きかったと思われる。
著者
Sutee SUDPRASERT Asanee KAWTRAKUL Christian BOITET Vincent BERMENT
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E92-D, no.10, pp.2122-2136, 2009-10-01

In this paper, we present a new dependency parsing method for languages which have very small annotated corpus and for which methods of segmentation and morphological analysis producing a unique (automatically disambiguated) result are very unreliable. Our method works on a morphosyntactic lattice factorizing all possible segmentation and part-of-speech tagging results. The quality of the input to syntactic analysis is hence much better than that of an unreliable unique sequence of lemmatized and tagged words. We propose an adaptation of Eisner's algorithm for finding the k-best dependency trees in a morphosyntactic lattice structure encoding multiple results of morphosyntactic analysis. Moreover, we present how to use Dependency Insertion Grammar in order to adjust the scores and filter out invalid trees, the use of language model to rescore the parse trees and the k-best extension of our parsing model. The highest parsing accuracy reported in this paper is 74.32% which represents a 6.31% improvement compared to the model taking the input from the unreliable morphosyntactic analysis tools.
著者
名古屋 靖一郎
出版者
日本応用数理学会
雑誌
日本応用数理学会年会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.220-220, 2002

と辺から成るネットワーク上に,発散・勾配・回転などの差分作用素を定義し,有限体積法から自然に決まる内積上での性質を述べる.そして,これらの抽象化された内積空間の概念を使った応用として,非圧縮流体計算における発散零の部分空間の話題を中心に,(1) 圧力ポアソン方程式に対する,行列表現を経由しない共役勾配法のプログラミング法 (2) 複数の構造メッシュ系を使ったあるメッシュリファインメント技法における,圧力ポアソン方程式に対する流速圧力同時計算型共役勾配法の適用(3) 発散零基底による非圧縮性流体計算法(4) 借金返済における最小二乗問題などの話題を紹介する.
著者
中山 哲男 中村 悦郎 小口 勝也
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1977, no.2, pp.250-257, 1977-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1

2種あるいは3種の遷移金属塩と臭素化合物とからなる多元系触媒を用いて,酢酸中で酸素加圧下1,2,4,5-テトラメチルベンゼン(TMB)を酸化し,活性な触媒種を検索するとともに酸化度およびピロメリト酸生成率におよぼす酸素圧,触媒濃度およびTMB濃度などの影響を調べた。さらに,それぞれの酸化段階における生成酸組成を詳細に分析し,TMBからピロメリト酸にいたる生成酸組成の分布および酸化反応経路を明らかにした。ピロメリト酸生成活性の高い触媒として,Co-Mn-Br,CoCe-BrおよびCo-Mn-Ce-Br系触媒を見いだした。臭化物存在下におけるCo-MnおよびCo-Ceの相乗効果は,Coに対して0.01molのMnあるいはCe,Mnに対して0.1molのCoの微量添加によっても出現することを明らかにした。Co-Ma-BrあるいはCo-Mn-Ce-Br系触媒を用いた酸素圧20kg/cm2におけるTMBの初期酸化反応速度はTMB濃度に0次であった。しかし,酸化度およびピロメリト酸生成率はTMB濃度が低いほど増大した。酸化度に対する各種生成酸の分布図はピロメリト酸の選択率が非常に高いことを示した。
著者
櫻田 大樹 田中 稜介 杉浦 陽介 相川 直幸
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SIP, 信号処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.394, pp.109-112, 2015-01-15

布製のおしぼりを扱う再利用工場では,検品作業においておしぼりのよごれ,やぶれや金属,髪の毛の混入の検査が行われている.中でも髪の毛の混入に関する検品作業は現状,人が目視で行っており髪の毛の有無の見落としが問題となっている.この問題の解決に向け,本報告では画像処理を用いておしぼり表面に付着した髪の毛をリアルタイムに自動判別するシステムを提案する.本システムは,ラインセンサカメラで撮影した髪の毛の画像をリアルタイムに判別するためにFPGAを用いて処理する.髪の毛の有無判別処理は,まずエッジを抽出後にラベリングと面積処理を行い,最後に閾値処理により実現している.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.270, pp.37-43, 2007-03

かつて借金まみれで事実上の倒産を経験した。だが不死鳥のように蘇り、無借金経営を達成。設備投資を徹底して圧縮し、不要なものはすべて捨てた。その第一歩は、ムダに慣れ切った社員の意識改革だった。オートバイなどのヘルメット製造・販売の大手、SHOEI(東京都台東区)。同社の前身、昭栄化工は92年、約130億円の負債を抱えて会社更生法の適用を申請し、事実上倒産した。
著者
山下 清海 小木 裕文 松村 公明 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-23, 2010

本研究の目的は,日本における老華僑にとっても,また新華僑にとっても代表的な僑郷である福建省の福清における現地調査に基づいて,僑郷としての福清の地域性,福清出身の新華僑の滞日生活の状況,そして新華僑の僑郷への影響について考察することである。1980 年代後半~ 1990 年代前半における福清出身の新華僑は,比較的容易に取得できた就学ビザによる集団かつ大量の出国が主体であった。来日後は,日本語学校に通いながらも,渡日費用,学費などの借金返済と生活費確保のために,しだいにアルバイト中心の生活に移行し,ビザの有効期限切れとともに不法残留,不法就労の状況に陥る例が多かった。帰国は,自ら入国管理局に出頭し,不法残留であることを告げ,帰国するのが一般的であった。1990 年代後半以降には,福建省出身者に対する日本側の審査が厳格化された結果,留学・就学ビザ取得が以前より難しくなり,福清からの新華僑の送出先としては,日本以外の欧米,オセアニアなどへも拡散している。在日の新華僑が僑郷に及ぼした影響としては,住宅の新改築,都市中心部への転居,農業労働力の流出に伴う農業の衰退と福清の外部からの労働人口の流入などが指摘できる。また,新華僑が日本で得た貯金は,彼らの子女がよりよい教育を受けるための資金や,さらには日本に限らず欧米など海外への留学資金に回される場合が多く,結果として,新華僑の再生産を促す結果となった。
著者
内村 裕光 岩瀬 晋 三山 亮子 恒成 茂行
出版者
日本法医学会
雑誌
日本法医学雑誌 (ISSN:00471887)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.205-212, 1996-06-10
被引用文献数
3
著者
吉田 博
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1309-1320, 1989-09-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
24

第一原理に立脚した固体電子論に基づく計算は,半導体中の不純物を含むような系についても,その構造配置や電子状態を経験的パラメーターなしで,しかも高い精度で予測することを可能にした。このような電子状態の計算を基礎にし,データベースとエキスパート・システムを絶み合わせることにょり, 21世紀のエンジニアリングとしての「物質設計システム (MDS, Materials Design System)」を提案する.最近の半導体物理学における電子状態の計算の動向を踏まえ,物質設計の新しい概念と方法を解説する.
出版者
日経BP社
雑誌
日経インタ-ネットテクノロジ- (ISSN:13431676)
巻号頁・発行日
no.30, pp.76-81, 2000-01

高速なネットワークに支えられ,インターネット上ではさまざまなEサービスが実現される。代表例がアプリケーション・ホスティングや,ECサイトのようなコンテンツ提供サービス。企業内からはサーバー・リソースが姿を消し,業務システムの運用が楽になる。企業がEサービスを実現するためのシステムも同様だ。一般消費者にとっては,生活面で役立つEサービスが充実する。
著者
西野 春雄
出版者
法政大学
雑誌
能楽研究 (ISSN:03899616)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.123-152, 1981-03-31
著者
井上 櫻子
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶応義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学 (ISSN:09117199)
巻号頁・発行日
no.49, pp.9-28, 2009

Mélanges dédiés à la mémoire du professeur OGATA Akio = 小潟昭夫教授追悼論文集I. ドリールの著作活動と『想像力』II. ルソー主義者ドリール?III. 『想像力』に歌われるメランコリーの主題とサン=ランベールの『四季』IV. 百科全書的知の探求をめざして
著者
嶋津 武仁
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.93, pp.9-15, 1993-10-23

アジアではじめて開かれたICMC93は、先日、9月15日、無事に終了した。科学と音楽の接点として、今日その権威と内容の豊かさにおいて、比べられるものがない国際会議であるといっていいだろう。その音楽における成果はもとより、その開催に向けて採られてきた様々なプロセスもまた、意味ある遺産になりうるものと思う。ここではそうした、プロセスをたどりながら、その成果と問題点、そして課題を考え、この会議のテーマとなった「新しき地平線」が真に実現せられるべきための、今後のこの会議のありかたにも言及してみたい。さらに現代の音楽における、この国際会議の意義についても、考えを述べ、より広範な音楽芸術のなかにおける位置づけについても考えてみたい。On September 15. the ICMC93 held in Asia as the first time was closed without serious trouble. It might be said that ICMC is the most important international conference on the point of its authority and the richness of its contents in the world today. I think not only the results on music but the process might be also the significant fortune in a short future in Japan. Here I'd like to report on the process at first and then on its results and problems and also on this conference as it ought to be in the close future. And, still more, I'll mention the significance of this conference in the contemporary music and I'd like to try to place the computer music as one of musical arts.
著者
小菅 健一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.89-101, 1996-12-10

川端康成には本人が処女作と規定している作品が、「十六歳の日記」・「ちよ」・「招魂祭一景」の三つある。それぞれの特徴や作品相互の関係、さらには、<処女作群>としての存在意義を考察していきたいのだが、本稿では、純粋な創作活動の上で最も早い時期に書かれていて、表出(表現)行為における川端康成の問題意識が顕著に表われた、「十六歳の日記」を取り上げて、"日記"や"小説"という表現形態や作品構成の問題、その延長線上にある、《作品》概念の問題などを論じていくことによって、人間が自己の体験した様々な出来事を書いていくという行為自体を考察したものである。特に、焦点を絞って分析したことは、印象深い体験を作品化したにもかかわらず、まったく記憶に残らないということが、どういうことを意味しているのかを、表現主体である<私>という存在の内部世界において繰り広げられる、対象物の受容と定着、描出に関する基本的なメカニズムの問題である。