著者
遠藤 徹
出版者
山口大学
雑誌
山口大学哲学研究 (ISSN:0919357X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-52, 1994

「真の幸福を得ようとするならば、Xせよ。」(α) カントはαは道徳的命法ではあり得ないと主張したと思われるが、拙稿「仮言命法は法則であり得ないか」(以下「仮言命法論文」と略記)が取り上げようとした問題は、第一次的には、αは果たして本当に道徳的命法たり得ないか、であった。 カントが「実然的」(assertorisch)仮言命法と呼んだものがαだと思われるが、彼は仮言命法は法則たり得ず、又道徳法則たり得ない、ただ定言命法則だけがそうであり得る、と主張した。上記拙稿は仮言命法は法則たり得るはずであること、又αも、それに対して義務から従うことは可能である限りで、従ってその限りでカント自身のものさしに照らして、道徳的命法であり得るはずであることを示すことに努めた。そればかりでなく、そもそも具体的な道徳的命法はカント自身においても仮言形式とならざるを得ないのではないかと述べて、道徳的命法が定言命法だとの彼の主張に根本的疑問を向けると共に、もしこうして定言命法のみが道徳的命法であるとのカントの主張が崩れるとしたしたら、彼の倫理学の体系はどのような修正を迫られるはずであるかを大づかみに予測した。―以上が上記論文のあらましである。 この我々の疑問を深化することは二つの方向を取り得るであろう。一つは、仮言命法が道徳法則であり得る可能性を一層具体的に追究することであり、もう一つは、定言命法が道徳法則であり得る可能性を吟味することである。本稿はこの二つの道のいずれにおいても一歩推し進めることに努めたい。前者の道では、上記論文への疑問・再考点にも考慮を払いながら、道徳的命法としてのαの可能性を追究する。後者の道では、約束に関する義務の根拠の検討を通して、定言命法の基本定式が果たして真に道徳法則であり得るか、根本的疑問を提示することに努めるつもりである。
著者
大西 武雄 小松 賢志 丹羽 太貫 内海 博司 渡邉 正己 法村 俊之
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)センサー・緩照射は、NOを介したバイスタンダー効果により蓄積誘導された正常型p53の衰退を促進し、このp53の衰退促進はHdm2による分解促進であることが示唆された。(福井医大・松本)・低線量放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断の認識は、NBS1がはじめに損傷部位のヒストンを認識してヌクレアーゼを損傷部位にリクルートして、次にヌクレアーゼが損傷DNAに結合する二段階機構が明らかになった。(広大・小松)(2)情報伝達・あらかじめの低線量放射線の線量と、次の致死線量の被曝までのインターバルがマウス個体における適応応答に重要であることを明らかにした。(奈良医大・大西)・極低線量の放射線は細胞核由来の情報伝達経路は活性化せず細胞膜由来のERK1/2を経由する細胞内シグナル伝達系を活性化し、ヒストンH3のリン酸化を起こすことがわかった。(長崎大・渡辺)(3)適応を含む機能発現・放射線高感受性のマウス胸腺リンパ腫由来3SB細胞は、低線量照射後短時間の内にアポトーシスで死滅するが、線量率効果が見られなかった。(広大・鈴木)・低線量率照射での生存率上昇は、KU70欠損では観察されず、RAD54及びATM欠損細胞では観察され、低線量率照射回復は相同組換えではなく非相同組換えが主要な経路であることを明らかにした。(京大・内海)・p53依存性アポトーシスを介した組織修復機構がDNA修復機構と協調して働けば、低線量(率)放射線による少々の遺伝子損傷は効率的に排除され、その蓄積は起こらないことを明らかにした。(産業医大・法村)・低線量放射線により誘発される突然変異の質は、生殖腺細胞では欠失型変異の誘発が少なく、体細胞組織とは異なるDNA修復機構をもっていることが示唆された。(東北大・小野)・低線量放射線照射した精子のDNA損傷は遅延的に体細胞突然変異を誘発した。(京大・丹羽)
著者
長谷川 修治 中條 清美
出版者
外国語教育メディア学会
雑誌
Language Education & Technology (ISSN:04587332)
巻号頁・発行日
no.41, pp.141-155, 2004-06
被引用文献数
9

Junior and senior high school (JSH) English textbooks in Japan are written in accordance with the Course of Study guidelines provided by the Ministry of Education, Science. and Culture: these guidelines are revised about every ten years. In this study we examined the vocabulary of three sets of serial JSH textbooks, each of which was written in the 1980s, and then re-written in the 90s and again in the 2000s based on the revised Course of Study guidelines for each decade. The purpose of this study was to in vestigate both the alteration in vocabulary size and the efficacy of the three serial JSH textbook vocabularies. The study found that the number of types within JSH textbook vocabulary in the 2000s was larger than that of the 1980s and 90s. On the other hand, the amount of tokens in the 2000 set was the lowest of the three serials. This means that the number of repetitions of exposure to words used in the 2000s version textbook was the lowest of the three. The study also found that the efficacy of the JSH textbook vocabulary gradually improved each time A Gourse of Study was revised, although the overall JSH text coverage over the vocabulary of practical activities remained insufficient.
著者
能登谷 晶子 鈴木 重忠 岡部 陽三 古川 仭
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.7, pp.1207-1210, 1994 (Released:2008-03-19)
参考文献数
5
被引用文献数
1

A 6-years 9-month-old child with congenital severely hearing impaired received a Nucleus 22 channel implant. Twenty-two CG electrodes are now in use. In the 5 months since the cochlear implant, the patient has made good progress. Her vowel discrimination score has reached 100%. However, her consonant discrimination has remained at the chance level. On the other hand, auditory reception of environmental sounds has shown relative improvement. Problems encountered in pediatric use of the cochlear implant are also discussed herein.

1 0 0 0 OA 故実叢書

著者
今泉定介 編
出版者
吉川弘文館
巻号頁・発行日
vol.御代始抄(一条兼良) 有職袖中抄, 1906
著者
畔上 由佳 吉田 徹也 粕尾 しず子 内山 友里恵 薩摩林 一代 白石 崇
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.5, pp.103-108, 2009

風疹は、感染から14〜21日(平均16〜18日)の潜伏期間の後、突然の全身性の斑状丘疹状の発疹、発熱、耳介後部・後頭下部・頸部のリンパ節腫脹を特徴とするウイルス感染症であり、通常は数日で治癒する予後良好な疾患である。しかし、妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎盤を介して胎児に感染し、先天性心疾患、白内障、難聴を特徴とする先天性風疹症候群を発生することがある。麻疹は、発熱、上気道のカタル症状、全身の発疹を主な特徴とする急性ウイルス感染症である。麻疹ウイルスの感染力は非常に強力で、いったん発症すると特異的な治療法はないのが現状である。2007年には、首都圏の大学生を中心としたいわゆる成人麻疹の流行が認められ、長野県内においても麻疹患者の発生により、休校・休園の措置を行った学校等も4施設存在した。
著者
佐藤 滋
出版者
自治医科大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2001

ホメオボックス遺伝子Sixと転写共役因子をコードするEyaとDach遺伝子はネットワークを構成して協調的にはたらき、脊椎動物の多彩な器官形成を制御する「ツール」として利用されている。脊椎動物に近縁な無脊椎動物からホモログを同定し、構造と発現及び機能を脊椎動物と比較することで、各遺伝子ファミリーに生じた変化を明確にし、脊椎動物進化との関わりを推察することを目的とする。まず、原索動物マボヤから3種類のSix(HrSix1/2、3/6、4/5)、1種類のEyaとDachのcDNAを単離した。分子系統解析の結果、原索-脊椎動物の分岐後、SixとDachでは遺伝子数が2倍化、Eyaでは4倍化したという可能性が示唆された。また胚発生における発現パターンを調べた。Six3/6サブファミリー遺伝子は、脊椎動物では前脳、眼、鼻-脳下垂体の原基で発現し、過剰発現により前脳と眼の肥大化、異所的な網膜形成を誘導する。一方、ショウジョウバエSix3/6は胚前端部の上皮、上唇、複眼の成虫原基で発現し、異所発現により複眼形成を誘導する。マボヤHrSix3/6の発現は脳胞や眼点(ocellus)では検出されず、尾芽胚期で脳胞の前端部をおおう少数の上皮細胞に限局されていた。その位置は幼生で入水孔(いわゆる口に相当)が開口する部位であり、脊椎動物の鼻-脳下垂体原基、ショウジョウバエ胚前端部の上皮と上唇との進化的な関連が予想される。ところがHrSix3/6はゼノパス胚で過剰発現させると脊椎動物のSix3やSix6と同様に眼の肥大化を特異的に誘導し、類似の標的遺伝子を制御する能力を保持することが示された。以上から、マボヤ幼生の眼点はSix3/6に依存しない光受容器であることが明らかとなり、マボヤ幼生の眼点と脊椎動物の眼の形成を支配する遺伝子プログラム、両器官の発生学的な相同性に疑問を投げかける結果となった。
著者
"塚原 貴子 新山 悦子 笹野 友寿"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.95-101, 2005
被引用文献数
1

"看護学生106名と栄養科学生54名を対象に,アダルト・チルドレンの特性(以下AC特性と略記)が看護学生と他学部学生で差があるのか,また,AC特性と対人関係のストレスの自覚との関係を明らかにすることであった.看護学生のAC得点の平均値は10.63(SD=4.85),栄養科学生の平均値は9.30(SD=4.73)で有意差(p>0.05)は認められなかった.対人関係でのストレスの自覚の程度の合計平均値は,看護学生6.57(SD=2.31),栄養科学生の平均値は5.78(SD=1.69)で有意(p<0.05)に看護学生が高かった.AC得点と対人関係のストレスの自覚の程度をピアソンの積率相関係数にて検討した結果,0.587(p<0.01)で比較的強い相関が認められた.看護学生のみに,「親との対人関係」や「先輩・教員との対人関係」でのストレスの自覚とAC得点に相関が認められた.看護学生にAC特性が高いとは言えないが,AC得点の高さとストレスの自覚の強さが関連していた.看護学生は,臨地実習などで対人関係を使った学習が要求され,ACの心理的特性が対人関係を経験することで顕在化している可能性が示唆された."

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1919年06月04日, 1919-06-04
著者
生原 喜久雄 相場 芳憲
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.8-14, 1982-01-25
被引用文献数
8

群馬県勢多郡東村にある東京農工大学演習林でスギ・ヒノキ壮齢林の小流域における養分循環と養分収支について調査した。林内雨量および樹幹流量はそれぞれ林外雨量の84%, 4%であった。蒸発散量は林外雨量の63%であった。林床へ供給される1年間の養分量はスギ林でN : 76kg/ha, K : 30kg/ha, Ca : 151kg/ha, Mg : 11kg/ha, 尾根部を占めているヒノキ林でN : 62kg/ha, K : 17kg/ha, Ca : 75kg/ha, Mg : 9kg/haであった。スギおよびヒノキ林ともに林床へ供給される養分量のうち樹幹流の占める割合は10%以下で, 林内雨の占める割合はN, Ca : 20〜30%, K : 60〜70%, Mg : 40%であった。これらのスギ林とヒノキ林からなる壮齢林分の1年間の養分収支(林外雨-渓流への流出量)はN : +4.2kg/ha, K : +3.4kg/ha, Ca : -4.6kg/ha, Mg : -1.4kg/haであった。1年間の養分還元量(林内雨+樹幹流+落葉・落枝類-林外雨)はN : 63kg/ha, K : 18kg/ha, Ca : 107kg/ha, Mg : 8kg/haであった。
著者
松浦 敏雄 中西 通雄 西田 知博
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,中学校の「技術」分野で必履修の『プログラムによる計測・制御』を学ぶための学習支援ソフトウェアおよびその教材を開発した.我々が既に開発していた初学者向けプログラミング学習環境PENを拡張し、PEN上でハードウェア制御プログラムを開発できるようにした。また、ここで開発したプログラムを、PEN上で動作させることで、パソコンから直接、入出力制御用ハードウェア(Arduino)を制御できるようにした。また、この学習環境を用いたコースウェアを開発した。実験授業の結果、多くの学生の興味をひくことができ、理解度も高かったことを確認した。
著者
藤原 滋樹 笹倉 靖徳
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ホヤ胚におけるHox1遺伝子の発現をレチノイン酸が活性化することを証明した。また,ホヤ幼生の器官形成にレチノイン酸とHox1が必要であることを証明した。オタマボヤはホヤと近縁なのにレチノイン酸合成酵素や受容体を持たない。本研究では,オタマボヤとホヤの両者がレチノイン酸に依存せずHox1の転写を活性化する仕組みをもつことを発見した。オタマボヤがレチノイン酸を失って絶滅しなかったのは,共通祖先がレチノイン酸依存的/非依存的な転写活性化機構の両方を備えていたからと思われる。