著者
喜田 宏 岡崎 克則 迫田 義博 河岡 義裕 高田 礼人 伊藤 壽啓
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

新型ウイルスの亜型予測に資するため、鳥類および動物インフルエンザウイルスの疫学調査を実施した。ロシア、モンゴル、中国および北海道で、渡りカモの糞便3,987検体を採取し、亜型の異なるインフルエンザAウイルス212株を分離した。宮城県のブタからH1N2ウイルスを分離した。北海道大学を含む動物インフルエンザセンター5機関で25株のH9ウイルス株を交換し、解析を共同で開始した。渡りカモのウイルス遺伝子を比較解析したところ、日本で分離されたH9インフルエンザウイルスと1996年に韓国でニワトリに被害をもたらしたウイルスが近縁であった。1995~1999年に中国のニワトリから分離されたH9N2ウイルスの遺伝子解析の結果、渡りカモのウイルスと異なる亜群に分類され、ノイラミニダーゼに欠損が認められた。内部蛋白遺伝子は1997年の香港の強毒H5N1ウイルスに内部蛋白遺伝子を供給したH9N2ウイルスの系統とは異なった。香港のブタ、カスピ海のアザラシの抗体調査を行い、インフルエンザウイルスが感染した成績を得た。インフルエンザウイルスの異種動物間伝播機構を明らかにするため、ニワトリ雛の気嚢継代によって得たニワトリ馴化株の遺伝子再集合体を作出し、ニワトリ肺における増殖性を調べた。HA遺伝子を入れ替えた遺伝子再集合体の増殖性に変化はなく、他の因子が関与することが示唆された。新型ウイルスの出現に備え世界の動物インフルエンザの疫学調査とワクチン候補株を系統保存・管理するプロジェクトをWHOに提案し、各国とのネットワーク形成に支援が得られることになった。
著者
迫田 義博 青木 博史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

豚コレラウイルスの病原性発揮に関与すると考えられている自然免疫回避機構を分子レベルで解明することを目的とし、ウイルス非構造蛋白N^<pro>の点変異体や欠損体を作製し、1型IFNの産生抑制に必須なアミノ酸領域を決定した。このアミノ酸の変異は、(1)C112R、(2)D136N、(3)H5Y、L8F、P17Sのいずれかであることがわかった。また、この自然免疫の調節に関与するN^<pro>上のアミノ酸の変異は、豚における病原性発揮の要因の1つであることを明らかにした。
著者
中嶋 光敏 HENELYTA Santos Ribeiro RIBEIRO Henelyta Santos
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

リコピンなどの健康機能性を有するカロテノイド粒子分散系は、機能性エマルションとして高い生体利用性を有しているが、従来の機械的攪拌乳化では均一サイズの機能性エマルションを作製することは不可能であり、安定性の面から難点があった。そこで安定性にすぐれた均一サイズのエマルション製造が可能なマイクロチャネル乳化技術を用いて、新規な均一サイズの機能性エマルションの作製とその基礎および利用特性の解明を試みた。具体的には、親油性生理活性物質として、カロテノイドやγ-オリザノール、また多価不飽和脂肪酸を用いて、溶媒置換と乳化拡散手法を用いた親油性生理活性物質を含有する機能性マイクロ・ナノ粒子の調製とマイクロチャネル乳化プロセスを用いた親油性生理活性物質を含有する機能性水中油滴エマルションの生産をおこなった。親油性生理活性物質のデリバリィシステムとしての新規調製法として、マイクロスケール及びナノスケールでの分散系をきわめてサイズを揃えて調製することに成功した。高分子またタンパク質ベースのデリバリィシステムは親油性生理活性物質を含有するマイクロ・ナノ分散系の安定性に寄与した。マイクロチャネル乳化は、均一サイズのエマルション作製に有効であり、この方法は強い機械的せん断力をかけずに液滴化が可能であるため、せん断力でこわれやすい成分の利用には効果的であった。得られた分散は5%以下であり、高い単分散性を示した。マイクロチャネルは、単分散液滴の製造に有効であるだけでなく、生体に吸収されやすい親油性生理活性物質を含有するエマルション製造にも有効であった。乳化拡散や溶媒置換法は、省エネルギープロセスであること、機能性成分の含有率が高いこと、また再現性が高いなどの特徴を示した。
著者
佐藤 徳雄 渋谷 暁一 三枝 正彦 阿部 篤郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.408-413, 1993-09-05
被引用文献数
5

速効性の硫安を基肥および追肥に用いる慣行栽培を対照区として, 肥効調節型被覆尿素を用いた水稲 (品種チヨホナミ) の全量基肥不耕起栽培 (LP区) を試み, 次の結果を得た. 1) LP区の水稲は生育のごく初期に対照区よりやや劣るものの, 6月初旬以降は草丈, 葉色, 茎数および乾物重のいずれにおいても対照区より優った. 2) 対照区では, 湛水直後に急激な土壌無機態窒素の消失が起こり, 稲体は窒素欠乏状態 (クロロシス) を追肥時期まで示した. これに対してLP区の水稲は, 栽培期間中正常な生育を示した. 3) LP区の玄米収量は, 登熟期が高温・多照で経過した1990年が57.1kg/a, 低温・寡照で経過した1991年が51.2kg/aで, 対照区よりもそれぞれ55%および33%優った. 対照区の低収量の原因は, 施肥窒素が湛水とともに消失し, 主としてm^2当たり穂数が少なくなり, 籾数の確保が不充分であったためと考えられる. 4) LP区の窒素吸収量は, 対照区に比べて分げつ盛期以降は著しく優り, 成熟期には対照区の1.57倍に達した. 施肥窒素の利用率は, 全量基肥区のLPが63.2%, 対照区の基肥硫安が8.5%, 幼穂形成期の追肥硫安が52.8%, 穂揃期の追肥硫安が41.5%であった. 5) 以上の結果から, 水稲の不耕起直播栽培に対する肥効調節型被覆尿素の全量基肥施用効果が大きいことが明らかになった.
著者
奥西 元一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.288-298, 2008-07-05

房総半島北部の下総地方で,近世から昭和戦前期までみられた湿田農法について検討した.江戸期の下総地方の湿田では,唐籾とよばれたインド型赤米が広範に摘田(つみた)という湛水直播法により栽培された.栽培された水田は,たいとう土とよばれた黒泥・泥炭土壌の強湿田であった.この強湿田で日本型水稲を移植栽培すると,夏・秋落ちして生育が著しく抑制された.湛水直播栽培は,わずかに広がる土壌表層の酸化的条件を利用した栽培法であり,これに唐籾の草型特性が結びついた.これより湿田の程度がやや軽い下総地方の夏・秋落ち田では,昭和戦前期まで小苗・密植栽培が行われた.小苗・密植栽培は排水不良・生育制御が困難な湿田で穂数を確保するための栽培法であった.土地改良の遅れた下総地方では戦前まで湿田農法が残った.
著者
尹 紹亭
出版者
龍谷大学
雑誌
龍谷大学国際社会文化研究所紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.86-92, 2004-03-25

本文は中国長江下流域考古学調査研究成果の一部である。ここでは,20世紀70年代以来中日両国の学者によって行われてきた,アジア稲作起源問題をめぐる代表的な研究について論評し,異なる起源説の持つ学術貢献および欠点を紹介した。この課題には今後の発見とさらなる探索が必要であり,まだ結論を出しがたい現段階においては,多学科的開拓と整合,理論と方法の創新がより重要な学術価値と意義を持つと指摘したい。とりわけアジア稲作の起源問題を一国のみでなく,アジア全体的な視野において探求しなければならないと強調する。
著者
吉野 純
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,可能最大規模の台風上陸を想定した台風災害外力を評価することを目的とする.台風予測に特化した高効率で高精度な台風災害外力モデリングシステムを新たに構築することで,温暖化の進行に伴い北西太平洋上の「強い台風」の勢力と頻度が一層増す傾向にあることが明らかとなった.また,温暖化の進行に伴い,全国的に可能最大高潮が徐々に増大するトレンド(傾き:約+0.5m/100年)にあり,一方で,年々変動によるばらつき(標準偏差:+0.7m~1.0m)も大きく,温暖化の進行の度合いに関わらず近い将来であっても悪条件が重なれば可能最大規模の高潮災害が発生する可能性があると結論づけられた.
著者
西村 一之
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

台湾の日本植民統治期の出来事が、地域住民の手によって歴史あるいは伝統として位置づけられていく過程について文化人類学的研究を行った。台湾東部の地域住民(漢人と先住民)によって選択される、植民地期の事象や経験が、如何に扱われるのかを明らかとした。政治的民主化と社会の台湾化を経て、地域社会の中では民族意識を表明する機会が増え、観光開発の影響も受けて、「歴史」や「伝統」は、さまざまに意味づけられて資源化している現状を示した。
著者
田代 朋子 佐々木 仁 大江 和彦 木村 優 熊渕 智行
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.231-242, 1995-03-31

医学雑誌に報告される臨床症例を全文データベース化した「臨床症例データベース」を精度良く検索するために医学用語シソーラスを作成した。このシソーラスは従来のシソーラスと異なり文献中に出現する自由語をそのまま収録したものであり、仮に「自由語シソーラス」と呼ぶことにする。本シソーラスにより自由な語から網羅性の高い検索を行うことができる。
著者
深井 有 斎藤 好雄
出版者
中央大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

本年度は、当初の研究計画に基づいて平成二年度より引き続き、酸化物超伝導体に捕獲されたフラクソイド動特性の研究および高圧合成の可能性について研究を推進した。前者に対しては、特に粒間と粒内電流密度の評価法の確立およびビスマス系(2212相)単結晶の不可逆磁化の磁場及び温度依存性の研究を行った。一方、高圧合成については、銀添加されたイットリウム系にたいして高温(RT〜1000℃)高圧(1〜5GPa)下の処理効果の研究を行った。フラクソイド動特性の研究は、これまで研究成果を逐次JJAP、物理学会、応用物理学会等で報告してきたが、今年度は焼結体の粒間電流と粒内電流を分離する事に成功したので、その成果をM2SーHTSCで報告した。これは従来の方法に加えて、本年度購入したクライオスタット中でホ-ル素子を用いた局所磁化の測定を行うことによって分離を確実に行えるようになったものである。その結果、焼結体の電流密度の磁場及び温度依存性をより明確にする事が出来た。さらに、ビスマス系(2212相)単結晶について高温超伝導体におけるフラクソイド動特性の特徴のひとつである、不可逆磁化の温度依存性及び磁場依存性を限られた磁場温度領域ではあるが明らかにすることができ、本研究で開発した局所磁化及び局所残留磁化の測定法が有効であることを示すことが出来た。これらの成果については、上述のプロシ-ディングズ(Physica C)に一部が報告され、現在論文準備中である。一方、高圧合成は、種々の物質にたいして試みられているが、最近になってようやく興味ある結果が得られつつある。すなわち、高圧高温処理を施した銀添加イットリウム系試料についてインダクタンス測定などを行った結果、超伝導の体積分率が広い温度範囲にわたって、温度減少とともに直線的に増加することを見いだした。これは、粒界講造(及び粒径分布)やピンニング機構への銀添加効果によるものと考えられる。しかしながら、本研究の本来の目的である1)イットリウム系における粒間電流の増加や、2)ビスマス(2212相)へのピンニング中心の導入という観点からは、未だにめざましい成果は得られておらず今後の課題となっている。
著者
倉本 宣 芦澤 和也 岡田 久子 知花 武佳
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

河川生態系において出水によるかく乱とそこからの再生は生態系の動的な維持に重要な役割を持っている。多摩川では2007年に大規模な出水が発生したので,出水による生育地の変化と河川敷に生育している植物の生育のかかわりを検討した。調査の対象とした植物は,上流域で岩場に生育するユキヤナギ,中流域の礫河原に生育するカワラノギク,下流域に生育し,かく乱による裸地に依存して生育するウラギク,中流域の水域に生育し,出水によって流下するカワシオグサであり,それぞれ特徴的であった。
著者
堤 裕昭 門谷 茂 高橋 徹 小森田 智大
出版者
熊本県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

有明海奥部では、近年、中央部および東側の海域で海底堆積物表層の泥分の増加および赤潮プランクトン由来の有機物の堆積による有機物含量の増加が起きていた。これらの事実は、同海域における潮流の減・および海水の鉛直混合力の減少を示し、梅雨期や秋雨期に河川水の一時的な流入量の増加に対して、形成される塩分成層の強度が強まることを示唆している。海域への栄養塩流入量が増加しなくても、成層強度の強化による赤潮の頻発、海底における汚泥堆積、夏季における貧酸素水発生が起きるメカニズムが解明された。
著者
稲永 健太郎
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.686-689, 2012-06-15

・企業と連携した実践教育
著者
太子堂 正称
出版者
創文社
雑誌
創文 (ISSN:13436147)
巻号頁・発行日
no.526, pp.16-19, 2009-12
著者
Masao Iwagami Kanae Kubo Ryoichi Tanaka Kimito Kawahata Akiko Okamoto Noboru Hagino Kazuhiko Yamamoto
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.50, no.20, pp.2413-2416, 2011 (Released:2011-10-15)
参考文献数
14
被引用文献数
3 8

We present the first documented case of thrombotic thrombocytopenic purpura (TTP) with severe hypertension complicated by polymyositis and systemic sclerosis sine scleroderma. TTP developed in the progressive phase of visceral fibrosis in the absence of skin thickening. ADAMTS13 activity was not useful for the diagnosis of TTP. Although TTP and scleroderma renal crisis (SRC) share similar findings of thrombotic microangiopathy, severe thrombocytopenia with multiple organ injuries and hemorrhagic manifestations suggested TTP rather than SRC. The patient's condition improved dramatically with plasmapheresis.
著者
張臨傑 渡邉 慶太郎 野寺 隆
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.80, pp.145-150, 2007-08-02

大規模で非対称な係数行列を持つ連立1次方程式の近似解法には、クリロフ部分空間に基づく様々な反復解法が存在する。通常、このような反復法の収束を向上させるためには、方程式の前処理を利用することになる。近年、大規模な係数行列の前処理として、近似逆行列を用いる場合が増えている。本稿では部分構造法の観点に立ち、グラフ分割を利用して係数行列を再構成し、部分行列の計算に AISM 法 [SIAM J. Sci. Comput. Vol. 25 No. 2 pp. 701-715 (2003)] による近似逆行列の応用を考える。さらに、シュールコンプリメント計算における速度向上を解析し、それを予測する手法を提案する。最後に、算法の実装を行い、数値実験により提案した手法の有効性を示す。There are lots of Krylov subspace iterative methods for the approximate solution of large sparse nonsymmetric linear systems of equations. To solve the large linear systems, we can usually apply an iterative method on the preconditioned equation to improve the convergence of iterative method. In recently, approximate inverse strategies are useful for the preconditioning of iterative method, for solving the large linear systems. In this paper, we make the computation strategy using Schur-complement from the view of substructure, using graph partitioning. We consider to apply AISM method [SIAM J. Sci. Comput., Vol. 25, No. 2, pp. 701-715 (2003)] on the derived sub-matrices. We also analyze its Speed-Up in detail and give a way for predicting the Speed-Up. At last, we implement the proposed algorithm and also show numerical experiments for sufficiently large problem.
著者
上野 陽里 青木 達 栗原 紀夫 山本 啓一
出版者
京都大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

核融合研究が発展し試験炉が運転を始めると大量のトリチウムが環境に放出される恐れがある. 環境中のトリチウムが増加すると種々の経路を通じて体内に侵入したトリチウムにより放射線被爆の可能性が増加する. したがって現在の日本人体内のトリチウム量を測定し, 基準値となるバックグラウンド値を明らかにしておくことは今後の増加を知り, 環境のリスク評価を行う上で重要である. 日本人の体内自由水トリチウムについては現在まで今年度の9例を加えて29例の測定を行っており, 組織結合型トリチウムについても測定を始め数例の結果を得た. 材料は法医解剖をうけた生前は健康と思われた遺体から得た. 各組織は真空凍結乾燥法により72時間かけて捕集した. 捕集して得た自由水は従来からのアロカ製低バックグラウンド液体シンチレーション計数値LSCーLB1と, 今回本科学研究費で入手したパッカード製液体シニチレーションアナライザTRIーCARB1550を用いて測定を行った. 組織結合水については, 燃焼後の水を捕集して測定した. 全試料数は86個でその平均は105pCi/lであった. 個体間のばらつきは52pCi/lから210pCi/lの間にあった. 各組織の平均は脳で71pCi/l, 肺で88pCi/l, 肝で87pCi/l, 腎で162pCi/l, 筋で69pCi/l, 脾で102pCi/lであった. 組織結合水では肝で750pCi/l, 筋で600pCi/l, 蒸溜水で320pCi/lと大きい値を示した. この理由は不明であるが, 恐らくスペクトルがトリチウムに類似した有機物質の疑計数であろうと思われる. 今後この分析を行うと共に例数も増加させていく予定である. 試料は目下蓄積中である.