著者
狩俣 繁久
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、東京大学名誉教授柴田武が1970年から1975年までの6年間に宮古島平良市で調査して得られた宮古平良方言資料に記載された方言語彙(「柴田ノート」)をパソコンに入力して整理し、録音した。(1) 総語数1万1千のうち、重複を整理し、6千5百に確定した単語について、宮古平良市で、柴田武東大名誉教授が調査した立津元康さんと同じ平良市下里出身の話者の方言を録音した。病気等で録音ができなくなった話者にかわって、新たに話者を選定し直した。下地明増(大正7年生)、下地文(大正12年生)のお二方で、ともに下里生まれで下里育ちで、現在も下里に在住の方である。(2) 録音場所は前年度にひきつづき平良市中央公民館和室を利用した。録音は、蝉の声などの雑音がなく、遮音のために部屋を閉め切っても暑くない冬を選んだ。録音は若干の補足調査をのこしてほぼ終了した。(3) その方言語彙を録音資料の音質、および保存性にすぐれているDAT(デジタルオーディオテープ)とMD(ミニディスク)を使用して録音した。MDは補助的な録音である。(4) 「柴田ノート」から25年経っていて、現在の話者が知らないと答える語も少なくなかったし、発音の変化した単語も若干みられたが、全体に影響をあたえるほどのものではなかった。(5) 録音された音声をもとに平良方言の音声の詳細な分析をおこない、類似の音韻体系をもった、おなじ宮古諸方言の下位方言の調査もおこなった。
著者
森川 由紀子 村田 光範 大塚 睦子 大坪 裕美 出口 敬子 草川 三治
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.620-620, 1971-08-25

東京女子医科大学学会第169回例会 昭和46年5月21日 東京女子医科大学本部講堂
著者
五味渕 典嗣
出版者
大妻女子大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本課題の最終年度である平成19年度は、前年度からひきつづいて研究環境の整備を図る他、具体的な成果の公表を見据え、積極的に資料の集積を行い、特に台湾で発行されていた日本語週刊新聞の記事分析・データベース化を進めた。平成19年8月には、植民地期台湾の日本語文学を専攻する和泉司氏(慶應義塾大学日本語・日本文化教育センター非常勤講師)を研究協力者として委嘱、台湾・台北に出張し、国立中央図書館台湾分館・国立台湾大学図書館での調査を行い、資料の補足と週刊新聞の紙面分析に必要な情報収集につとめた。その成果は、「対抗的公共圏の言説編制-『新高新報』日文欄をめぐって-」(『大妻女子大学紀要-文系-』40号)にとりまとめた。また、本課題で集積した資料体のうち、1920年代〜30年代の新聞学・広告論にかかわるものは、関連する研究課題である「改造社を中心とする20世紀日本のジャーナリズムと知的言説をめぐる総合的研究」(基盤研究(C)、課題番号17520126、研究代表者:松村友視慶應義塾大学教授)における研究の相互乗り入れ的な進展にも、積極的に活用した。この他、植民地時代の朝鮮半島で発刊されていた日本語逐次刊行物について、大妻女子大学文学部草稿・テキスト研究所の調査研究費を活用し、韓国・ソウル市に出張、ソウル大学中央図書館での調査を行った(平成20年2月)。当時の半島各地に存在していた新聞の所蔵状況についてはいまだ明確な成果は出ていないが、1930年前後の朝鮮・満州で発行されていた逐次刊行物にかかわる二次的な資料を研究資料として収集することができた。東京を中心とする情報ネットワークとは異なる、旧植民地地域独自の日本語言説の生産・流通・受容のサイクルを考えるうえで、今後、さらなる発展的な研究に向けた重要な足がかりを作ることができたと考えている。
著者
江口 智 平尾 邦雄 松尾 弘毅 石井 信明
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 工学部 (ISSN:05636787)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.187-197, 1992

This paper describes the guidance strategies of solar sails which leave the circular orbit with 50,000km radius around the earth towards the moon. The solar sail is a spacecraft which is thrust by the light pressure (radiation pressure) of the sun. The design of the orbit targeting the moon using the solar sail is complicated due to reasons as follows : 1) The thrust obtained by the solar light pressure is so small that the long flight time is needed in the lunar mission. 2) As the thrust vector is determined by the relative angle between the sun and the sail, magnitude and direction cannot be controlled independently with a sail. One of the typical control method of the solar sail is "Maximum velocity increment control", where the sail direction is always kept along the instantaneous velocity of the spacecraft to get the maximum acceleration. It is efficient to increase the radius of orbit in the initial phase, but insufficient in the last phase to hit the moon. Therefore, other control procedure should be adopted to approach to the lunar orbit. In this approaching phase maneuver, the principle of "Maximum velocity increment control" is still used in conjunction with the control of the magnitude of acceleration between zero and 100% of the maximum level, which can be achieved by means of the specially designed sail. With this method, the apogee distance as well as the arrival time to the apogee can be adjusted to hit the moon. The most efficient time to switch from the initial to the approaching phase is also discussed with R-T (the apogee distance the apogee passage time) diagram proposed in this paper.
著者
佐藤 俊英 岡田 幸雄 宮本 武典
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

1.ウシガエルの生体内味細胞及び単離味細胞を用い、電気生理学的方法によって、味細胞に存在するイオンチャネル・ポンプの種類及び味刺激の種類によるトランスダクション機構の相違を究明した。2.味細胞膜には、Naチャネル、Ca活性Kチャネル、遅延整流性Kチャネル、一過性Kチャネル、内向き整流性Kチャネル及びNaチャネルなどの電位依存性チャネルが存在する。3.NaClに対するトランスダクション機構には、味受容膜のカチオン及びアニオンチャネルと基底外側膜のTTX非感受性Naチャネルが関与する。4.苦味のQーHClに対するトランスダクションには、細胞内Cl^ーの味受容膜Cl^ーポンプを通っての分泌が関与する。5.甘味のガラクト-スに対するトランスダクションには、味受容膜を通っての細胞内OH^ーの流出か表面液のH^+の流入、または両作用が関与する。6.酸味のHClに対するトランスダクションには、基底外側膜に存在するチャネルやポンプは直接関与せず、味受容膜に存在するCaチャネルおよびプロトンポンプが関与する。前者の関与の程度が大きく表面液にCd^<2+>などのCaチャネルブロッカ-の添加で酸の受容器電位は大幅に減少する。7.単離味細胞の味受容膜にce11ーattached状態でパッチ電極を置きその一本の電極で電流の記録と味刺激を同時に行って、イオンチャネルの種類を検討した。NaCl刺激のトランスダクションには、受容膜に存在するカチオンに対する選択性の弱いKチャネルが関係することが明らかになった。
著者
内出 崇彦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度の研究で、断層すべりインバージョン解析によって得られた成長期から衰退期への移り変わりを捉えた。その移り変わりの際にどのような過程が進行しているのか、明らかになっていない。そこで、破壊過程のわずかな消長を捉えるために、震源における高周波地震波放射の時間的空間的な特徴を調べる手法を開発し、これまでの結果と合わせて地震の破壊成長過程の特徴を幅広い時間・空間スケールで記述することを試みた。手法としては、整合フィルタ解析法を応用した。これは、検出したい時系列データと似た部分を複雑な時系列から見出すために、両者の時刻をずらしながら相互相関係数をとっていき、高い相互相関係数を得られるところを検出するものである。本研究では、大地震と小地震の波形を高周波帯域(例えば、4-16Hz)で比較することで、高周波放射を見出すことを目指した。この手法を利用するための計算機コード開発と確認のためのテストを行った。次に、開発した手法を2004年米国パークフィールド地震(M6.0)に適用して、同地震の高周波放射源の特定を目指した。その結果、破壊開始点から北西に8km程度のところで、破壊開始からおよそ3秒後に高周波地震波が放射されたことが推定された。2004年パークフィールド地震は、主に2つの主要な破壊領域からなると知られているが、今回推定された高周波地震波放射源は、その2つ目が破壊し始めるところに相当する位置にある。ただし、さらに議論を深めるには更なるデータが必要であり、今後はよりデータの充実した日本の地震に取り組む予定である。本年度、その足がかりをつくったことには大きな意味がある。
著者
中村 逸郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、モスクワ市内に発生している住民紛争を調査しました。その内訳は、以下のとおりです。(1)共同アパートの住人の間での紛争(2)アパートを取り囲む鉄柵をめぐるアパート住人と周辺住民の間の紛争(3)高級分譲マンション建設と周辺住民の間の紛争(4)アパート修繕をめぐる住人の間の紛争(5)高層ビジネスビル建設をめぐる政財界と近隣住人の間の対立。以上の5つの住民紛争を具体的に取り上げ、関係者にインタビューし、文書と資料を入手しました。住人たちが身近な自治体に紛争の解決を要請しても、多くの場合自治体は権限がないことを理由に、問題を放置しています。今回の調査で判明したのは、住民たちが日常問題をロシア大統領府住民面会受付所に提出していることです。実際に大統領府を訪問すると、ロシア全土からたくさんの住民たちが直訴状を持参しているのです。そこで、住民たちにインタビューを行いました。人びとは身のまわりの地域社会で発生する社会問題をロシア大統領に直訴し、最終的には大統領に裁定を委ねています。地域社会でコミュニティーが登場し、地域社会の問題に深く関つてきていますが、そうした人びとの自立的な動きは皮肉にも、最高権力者の権力基盤を強化しているのです。本研究の成果は、中村逸郎著『帝政民主主義国家ロシアープーチンの時代-』岩波書店、2005年に収められています。
著者
吉田 勝平
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

エネルギー変換用蛍光色素の開発を目的として新規複素多環系固体発光性色素を分子設計・合成し、これら色素の溶液状態および固体状態における光物性を測定し、固体発光性とX線結晶構造の相関性を追究した。さらに、色素を高分子樹脂中に含有させた蛍光フィルムを試作し、それら光物性や耐光性を評価した。蛍光フィルムは優れた波長変換機能と良好な耐光性を示し、太陽光や人工光の波長分布を簡便に調整できることがわかった。
著者
田坂 敏雄
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

バンコク・ファッション・シティ計画とは、ファッション産業関連3業種の国際競争力強化を狙った産業政策である。本報告の第1章では、バンコク・ファッション・シティ計画とは何かを追究する。本報告では、11のサブ・プロジェクトの目標と課題を示し、現在、どのように取り組まれているかを解説した。同計画は「人の創造」や「まちの創造」だけでなく、何よりも「ビジネスの創造」である。「ビジネスの創造」とはファッション関連3業種である繊維・衣料産業、製靴・皮革産業、宝石・ジュエリー産業の競争力を強化する計画である。そこで、第2章では繊維・衣料産業を取り上げ、この産業を取り巻く国際状況を概説する。そして衣料産業がサプライチェーンを改善し、グローバリゼーション時代に対応する構造改革に取り組んでいる状況について解説する。第3章は宝石・ジュエリー産業の現状と競争力強化計画を取り上げる。バンコク・ファッション・シティ計画は、産業競争力の強化計画の中でも、とくに人材の育成に力をおき、デザイン力やブランド開発に結び付くことを狙ったものである。それは、タイの宝石・ジュエリー産業がもはや下請け生産や委託生産では生き残ることが出来ず、デザイン力やブランドを開発して直接的に消費者に結び付くことを企図したものである。第4章では製靴・皮革産業を取り上げる。製靴・皮革産業の競争力強化プログラムの特徴は、国際的な下請け生産の基地から自前のデザインやブランドの創造を目指し、専門家による個別のビジネス・プランを提案しているところにある。また、バンコク・ファッション・シティ計画に関する資料と、AFTAの影響について考察したタイ開発研究所(TDRI)の3つの報告書を翻訳した。タイ工業連盟(FTI)は、「AFTAの発効がタイのファッション産業にどのような影響を与えるか」について、タイ開発研究所に調査を依頼した。タイ開発研究所は、ファッション産業を(1)繊維・衣料産業、(2)宝石・ジュエリー産業、(3)皮革産業に分け、それぞれの産業実態と国際競争力について調査し、1996年にタイ工業連盟に答申した。本報告書では、その3本の報告書の翻訳を納めている。また、「バンコク・ファッション・シティ構想に関する資料」では、タイ工業連盟の機関誌に載った論文とインタビュー記事、『トラキット・カーウナー』誌の特別論文、そして産業振興局の『ウサハカム・サーン』誌の論文の計4本を翻訳・紹介したものである。これらの論文やインタビュー記事により、バンコク・ファッション・シティ計画の基本的内容を掴むことができるのではないかと考える。
著者
米倉 誠一郎 島本 実 崔 裕眞 宮崎 晋生 平尾 毅 川合 一央 星野 雄介 清水 洋
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究プロジェクトは、日本企業の製品開発における外部の経営資源の活用を考察することを目的としたものであった。特に、近年になり外部の経営資源を活用した価値づくりは、「オープン・イノベーション」として大きな注目をあつめるようになった。本研究プロジェクトではオープン・イノベーションを中心として研究を進め、日本企業の課題を分析してきた。より具体的には異なる企業間のコラボレーションを上手く進めるための組織体制や、外部の経営資源を活用する上での戦略などを議論してきた。それらの一部は『オープン・イノベーションのマネジメント』として2015年に出版された。

1 0 0 0 OA 禽譜

著者
水谷豊文//〔著〕
出版者
巻号頁・発行日
vol.5 也行(や~て),
著者
河口 洋一郎 橋本 康弘 堀 聖司 原田 隆宏 米倉 将吾
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、鑑賞者と投影画像に対してスクリーン自体が凹凸運動によって連続的・有機的かつダイナミックに反応する事が可能な、新しい映像装置システムの開発、および展示実験を通した評価を行った。スクリーンの形状は、連結・分割可能で自立可能なことから日本の伝統的な什器「屏風」の形状を目標とした。H17年度においては、まず凹凸スクリーン上に投影するCG画像生成、および、レンチキュラー方式による立体視CG画像の生成に関する研究・試作を行い、鑑賞者の動作・視線の変化に応じて画像が変容する屏風の視覚効果について実験を行った。また、並行して凹凸反応するスクリーンの概念設計のための基礎研究を行い、格子状に並べた直動アクチュエーターによってスクリーンの凹凸形状を制御する駆動システムの動作実験を繰り返し、実機制作のための知見を得ることができた。続くH18年度においては、小型エアシリンダによってスクリーン表面の凹凸を駆動するシステムの実装を行った。完成した凹凸スクリーンはACM-SIGGRAPH2006のアートギャラリー部門にエントリーして受理され、国際大会の会場にて展示、発表を行い、大きな成果を収めることができた。H19年度においては、スクリーンのコンテンツとして流体と生物的造形物の相互作用シミュレーションが非常に効果的であったため、コンテンツの作成に重点を置いて研究を行った。また、大規模な展示をACM-SIGGRAPH2007において行い、この新しい画像装置システムが観衆に対してどのような影響を与えるか、定性的な実験を行った。H20年度においては、スクリーンにより提示される立体感と、実際の立体物に対する立体感との比較を行うため、幾つかの立体物を構築し、印象の差異を中心に定性的に比較した。さらに、ASIAGRAPH 2008, ACM-SIGGRAPH2008アートギャラリー等に出品し、広く成果報告を行った。
著者
平塚 良子 植田 寿之 藤田 博仁 久保 美紀 戸塚 法子 牧 洋子
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、福祉サービス利用者の生活事象を環境との関係で捉えるために多次元的・全体的・総合的に把握するエコマップ(eco-map)の評価尺度の開発を行い、利用者の生活支援に資することにある。加えて、人間と環境との関係理論の構築をも遠望している。研究方法は開発した評価尺度(評価モデル)をソーシャルワーカーに実験的に適用してもらい、評価尺度の妥当性、客観性、信頼性等々を図りつつ安定した評価モデルを導き出すというものである。最終年にあたる今年度の成果の特徴は、下記の通りである。1)評価モデルの最終的な精査を行い、最終版の評価モデルを導き出した。方式は初年度のデジタル型の方式を採った。物理的環境概念をより反映させ、評価の妥当性を高めるために評価尺度には「非該当」を導入した。2)評価において正確さを高めるために、(1)「エコマップ評価簡易版」と(2)評価項目、評価基準等の詳細な説明を加えた「評価ブックレット」を作成した。3)最終版評価モデルを、2)を活用しつつソーシャルワーカー(19名)が実践事例に適用するようにした。評価モデルとしては、おおむね安定性を保持することができ、本研究の評価尺度開発はおおむね目的が達成できた。4)適用結果の分析デザインにはデジタルやアナログ的発想を採り入れた。(1)評価項目と環境とをクロスさせつつ分析するアナログ方法、(2)評価項目4群に分けて図式作成し相関させつつ評価点から分析するアナログとデジタルの混合的方法、(3)試みとして実践の1事例を統計的に分析するデジタル的方法。分析手法の開発は今後の課題。5)人間と環境との関係についての全体的な特性が抽出できた。今後より詳細な分析を図りたい。6)本研究は、評価尺度開発が中心となったが、今後、集積した事例数を総合的に分析する手法の開発を手がけ、人間と環境との関係理論の構築を図りたい。(以上の詳細については研究成果報告書に記載)
著者
土肥 秀行
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

初年度に行ったローマ国立図書館や国内における資料収集によって、テーマであるイタリアの短詩形における日本の詩の影響に関して、重要な役割を演じたのが下位春吉であることを確認した。その結果は「イタリア図書」誌上における2度の連載にあらわれている。今後、出版を目指していく下位についての単行本において、日本の詩の影響についてまとめられるだろう。初年度より継続して行ってきた、イタリアにおいてもっとも有名な歌人である与謝野晶子の受容についての調査は、その成果が論考「近代歌曲の詩人たち」にまとめられた。前衛である日本の詩歌の音楽との親和性について触れた論となった。年次計画に記したとおり、フィレンツェ大学の日本文献学講座の主任である鷺山郁子教授との共同研究「日本・イタリア詩の韻律の比較」(2001年より実施)の最終成果を、11月にボローニャ大で行われた国際シンポジウムの折に、鷺山教授の発表に協力するかたちで実現することができた。この国際シンポジウムでの発表において、パゾリーニの日本での受容を紹介するだけでなく、20世紀初頭から訳されてきた日本文学の少なからぬ恩恵をパゾリーニが受けたことを示せた。よってパゾリーニという特定の作家研究だけでなく、現代イタリア文学史の広い範囲に影響する重要な指摘としてイタリアの研究者に受けとめられた。また日本文学史家であるローマ大学のオルシ教授、マストランジェロ教授とは、11月のローマ大学でのワークショップの際に、下位の文学活動の実際の影響力について貴重な意見交換ができた。短詩形をもっとも革新的に用いた詩人ウンガレッティについての資料の精査は、これから一連の論考として発表していくが、まずは1月の口頭発表「初期ウンガレッティとハイク」に成果の一部が紹介された。2月にはボローニャ大学イタリア文学科にて、ステファノ・コランジェロ教授との共同研究の成果発表の場として、20世紀文学における翻訳の問題についての特別講義を行った。専門家の評価だけでなく学生の関心も高く、今後も継続してボローニャ大研究者との共同研究を続けていくことになった。
著者
中江 彬 Nakae Akira
出版者
大阪府立大学人文学会
雑誌
人文学論集 (ISSN:02896192)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.27-44, 2000-03-20