著者
矢野 宏光
出版者
聖カタリナ大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2002

我が国の運動心理学領域における先行研究においては、軽度の強度強度で行う身体運動が不安や抑うつの軽減に有効であり、その結果自尊感情は向上するという報告はあるものの、高強度での身体運動による抑うつ低減効果についてはほとんど述べられていない。むろん、高強度スポーツの参加者に適合した尺度の開発についての研究もほとんどなされていない。著者は、ウルトラマラソン(以下UM)という、1日で100キロもの長距離を走りきる過酷な競技に参加する中高年を研究対象として、UM完走が精神的健康度にどのように影響を与えているかについて研究を継続してきた。その結果、UMへの挑戦という大きな達成課題を設定し、それに挑戦することで自尊感情が高まり、抑うつ傾向は軽減される。そして、それによって精神的健康度の向上に結びつくという傾向が認められている。そこで、平成16年度においては、1)研究対象者について継続的に質的・量的両方にわたりデータ収集を行い、高強度スポーツ参加者の特徴をより詳細に分析・検討する。2)著者が現在作成している高強度スポーツ参加者用に適合した自尊感情測定尺度の精度を向上させ、より適合度の高い尺度にしていくことを本研究の目的として今年度の調査を実施した。その結果、以下の事項が知見として得られた。1)中高年UM参加者の自尊感情がレースを通してどのように変化するかという点に関しては、UMのレース結果(完走あるいはリタイア)に直接的に関与しているのではなく、レース後に現在の自己をどのように評価しているかによって、自尊感情の増減が決定されることが明らかになった。また、評価はレース後のみを対象としてはおらず、レースに挑むまでに個人がどのようなプロセスを踏んで、どのように準備したかによっても自尊感情の増減が異なることが判明した。2)UMへの挑戦によって変化した自尊感情は、どれだけ継続・保持するのかという課題に関しては、その個人がおかれている社会環境によって大きく異なっている。すなわち、どれだけストレスの強い職場であるか、家族との良好な関係が営まれているかなどによって、継続・保持の期間は異なってくると考えられる。だが、少なくとも社会環境が悪化した場合においては、中高年のUM参加が自尊感情の再現に大きく貢献していることが質的分析から明確となった。
著者
瀬山 厚司 濱野 公一
出版者
山口大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

1.目的 骨格筋への骨髄細胞投与により誘発された新生血管により、骨格筋の生理的機能が改善されるか否かを知ることを目的とした。2.方法 ラット下肢虚血モデルを用いて、骨髄細胞注入による骨格筋血管新生を誘導した。群分けは、Sham群、Ischema群(虚血肢を作成したのみ)、PBS群(骨髄細胞の浮遊液であるPBSのみを注入)、BMI群(骨髄細胞を注入)の4群(各群n=5)とした。骨髄細胞は赤血球を除去した後、1×10^7/10μlを腓腹筋に6ヵ所経皮的に注入した。血管新生の程度は血管造影、alkaline phosphatase染色による毛細血管数、大腿静脈のarteriovenous oxygen difference(AVDO^2)にて比較した。また新生血管の生理的有用性を評価するために、20m/min,10%勾配のトレッドミル上でラットを走行させ、その走行時間を各群で比較した。3.結果 下肢血管造影では、BMI群において他の3群と比較して良好な側副血行路の発達を認めた。大腿内転筋及び腓腹筋における単位筋当たりの血管数は、BMI群において他の3群と比較して有意に高値であった(P<0.01)。モデル作成2週後のAVDO^2は、Ischema群においてSham群、BMI群と比較して有意に高値であった(P<0.01)。ラットのトレッドミル走行時間は、Sham群ではモデル作成1,2,4週後のいずれにおいても、全てのラットが5時間完走した。モデル作成2,4週後において、BMI群はIschema群、PBS群と比較して有意に長時間走行した(P<0.01)。4結論 骨髄細胞の注入により虚血肢に誘導された新生血管は、低下した運動能の回復に寄与すると考えられた。
著者
荒木 勉 安井 武史
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究ではテラヘルツ(THz)電磁波による金属蔓塗装剥離の遠隔検出を目指している。このような剥離の非破壊検査では、内部の様子を階層的に検査できる断層画像撮影技術は極めて有効である。そこではじめに機械走査によるTHz断層画像計測システムを試作し、剥離検出を行なった。しかし実用性を考慮すると高速で2次元断層イメージを取得する必要がある。そこで、次にTHz波の光としての並列性に注目し、電気光学的時間一空間変換と線集光THz結像光学系を利用して、機械的走査機構を用いることなく、高速で2次元断層分布の取得が可能になる手法を考案した。このアイデアに基づいた実時間2次元THzトモグラフィー装置を試作し、塗装された移動基板の表面変化の様子、ならびに塗装直後から乾燥にいたる膜厚の経時変化を追跡し、試作装置の性能を評価した。以下に成旺を列挙する。(1)1mmごとのビーム移動による点計測によって10mm四方のアルミ基板上の白アルキド樹脂塗装剥離を検出できた。剥離に対する奥行分解は40μmで最大500μmの剥離が確認できた計測時間は5分であった。(2)実時間2次元トモグラフィーにおいては、300μm厚に塗装された物体を5mm/秒で移動させた場合、ムービー上に順次塗装膜に対応した1Hzエコー像が表示された。膜厚に関する分解はさきほどと同様40μmである。(3)20分間の連続した乾燥による塗装膜厚の変化がムービー上に記録され、塗装完走に対する情報が検出できた。(4)膜厚に対する分解能向上のため新たに重回帰アルゴリズムを適用し、20μmの分解能を達成した。なお、以上の成旺はNHK教育テレビ「サイエンス・ゼロ」(2007.2.23)で放映された。
著者
物部 博文
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

火災や火炎に対応する消防員の装具は、必然的に衣服熱抵抗の高い密閉型の衣服となる。しかし、火災に対する熱抵抗性を高めることで、夏季における消火活動中に消防士がヒートストレスを生じ、たおれるという事故も発生するようになってきた。そこで、本研究では、消防服を着用し消火活動を行うことでどの程度生体への影響が生じるのか。その時に認知判断能力へはどの程度の影響があるのか。また、どの様な部位をどの様な方法で冷却することが効果的であるのか。を明らかにすることを目的した。実際にヒートストレスが生じた消火活動の状況をシナリオ化し、被験者に同程度の負荷を与えたところ約2℃近い体温上昇が生じることが明らかになった。しかし、今回の実験結果に限って言えば、一過性のヒートストレスでは、認知判断力には影響がないことが示唆された。また、衣服内換気を行うことで体温の上昇を約1℃抑えられること、頭部冷却を行うことで快適感が向上することを明らかにし、換気型消防服の開発に取りかかった。平成17年度は、日本家政学会で「換気型消防服の開発」で、を、日本衣服学会で「消火活動に伴う体温上昇と認知判断」を発表するとともに、3年間の総括として研究報告書を作成した。
著者
倉掛 重精 中路 重之 熊江 隆
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究計画は、別府大分毎日マラソン大会に参加した選手を対象者としている。平成17年の別府大分毎日マラソン大会は、2月6日に開催された。調査は大会当日のレース前とレース終了直後の2回行った。調査項目はアンケート、鼓膜温、体重、採尿および採血を行い、現在統計学的検討を行っている。そこで今年の対象者の結果ではなく、昨年度の結果について報告する。対象者41名の成績は、完走者29名、途中で棄権およびタイムオーバーのために関門を通過できず失格となった選手(以後非完走群)19であった。レース中の温熱環境条件は、風も強くなく、気温も好条件であった。選手の体重はレース後に2.1kg減少、途中で走るのを中止した非完走群でも1.7kgの減少で、完走した選手群は2.3kg減少が認められ、多量の発汗と血液の濃縮が示唆された。総蛋白値を用いて血液濃縮率を算出した。完走群の血液濃縮率は103.9%、非完走群では103.2%、全員の結果は103.7%の濃縮が認められ、発汗による体重の減少と血液の濃縮が認められた。完走群中には、レース後に脱水のために採尿できない選手がみられた。平成14年度の研究では、多量の発汗による脱水の影響したのか、血液生化学成分と尿中成分との間には、統計学的に有意の相関は認められなかった。完走した選手はレース後に筋逸脱酵素群の有意の増加が認められたが、尿中成分との間ではいずれの項目も有意の相関は認められなかった。そこで15年度は運動後に変動が見られる尿中ミオグロビンの項目を新たに加え、筋逸脱酵素群との関連について検討した。尿中ミオグロビンと筋逸脱酵素群は、いずれもレース後に有意の増加が認められた。そこで尿中ミオグロビンと筋逸脱酵素群との関連性について検討した。レース後のCKおよびLDHの値は、レース後の尿中ミオグロビン値と間で、それぞれ相関が認められた。そこでレース前後の変動について検討した。尿中ミオグロビンとGOT(r=0.347)、CK(r=0.684)、LDH(r=0.511)の間で、いずれもレース前後の差に相関が認められた。また発汗量が多く、レース後に脱水が認められ、発汗の影響を避けるため、レース後に水分を補給した選手を除いた完走群選手11名について検討した結果、CKと尿中ミオグロビンの間で高い相関(r=0.906)が認められた。これらの結果から尿中ミオグロビンが、筋逸脱酵素群の疲労評価の指標になりえる可能性を示唆しているものと考えた。平成16年度の調査においては、尿中ミオグロビンと筋逸脱酵素群の関連について、尿中ミオグロビンが疲労評価の指標となりえるか検討中である。
著者
富樫 雅文
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.839-848, 1989-07-15
被引用文献数
1

新しい和文入力方式として超多段シフト方式を提案する.従来の各種入力方式の長所を継承するために 多段シフト方式からキーヘの漢字の多重配置を コード入力方式から漢字のコード化を また 仮名漢字変換からは 入力のてがかりとしての読みの利用を各々取り入れた.入力には標準鍵盤を使用し あらかじめ 各キーに漢字を多重配置しておく.漢字の入力には まず 読みを入力して鍵盤を仮想的にシフトし 漢字の配置されたキーを次に打鍵して漢字を一意に指定する.これは シフト段数が2 943段に及ぶ超多段シフトである.パーソナルコンピュータ上で 本方式による和文入力システムを実現した.本方式のための漢字配列の決定と 操作性向上のための若干の工夫および使用方法について説明する.また 本方式による和文入力速度を 学習を伴う打鍵モデルに基づいて予測し 200時間の訓練後で毎分137字という結果を得た.超多段シフト方式は 初心者には仮想鍵盤の表示と目視打鍵による対話型のインタフェースを また 熟練者には可変長コードの触指打鍵入力による一方的インタフェースを提供する.
著者
矢野 宏光
出版者
聖カタリナ女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

これまで・中年期は人生の中でも非常に安定した時期として認知されてきた。しかし、社会が急激に変容を遂げると共に中年期を取り巻く環境も変化し、それにより中年期の社会適応と個人内適応は共に難しさを増している。著者は、UM参加行動は、中年期参加者の持つ自己に関する問題意識と彼らを取り巻く外的要因から生じていると考える。彼らは自己に対して達成困難な課題を設け、それに挑み、あるいは達成する過程で、自己と向き合い、自己を吟味しながら、自己を再構築しようとしていると推察される。言い換えれば、高強度の身体運動が自己の心理的課題の解決を図る場としての役割を果たしているとも考えられる。そこで、本研究においてUMにはどのような人格特性を持った参加者が集まるのか、また彼らは自己に対してどのように評価していて、レース前後でその評価は変わるのかについて着目しながら分析・検討を行った。【方 法】UMにエントリーしてくる参加者に対して、調査用紙を郵送により配布した。そして大会前日の受付時に回答した調査用紙を回収した。1)調査対象:ウルトラマラソン参加者500名2)調査期間:2001年4月〜2002年3月3)調査用紙の構成と内容:a)参加者の属性(年齢、性別、職業、家族構成、UMへの参加状況、マラソン頻度等),b)参加動機の調査項目,c)KG式日常生活質問紙(日本語版成人用タイプA検査):全体のタイプA得点の他に、攻撃・敵意(AH)、精力的活動・時間切迫(HT)・行動の速さ・強さ(SP)の下位得点が測定可能である,d)自尊感情尺度(Self-Esteem Scale):Rosenberg(1965)が作成した10項目を山本ら(1982)が邦訳した尺度,e)改訂版UCLA孤独感尺度:ここで定義している孤独感とは、願望レベルと達成レベルの間にギャップを感じたときに生ずる感情である,f)UMに対する考え方についての設問項目。以上6事項を調査用紙内に配置し、調査用紙を作成した。【結果と考察】1)UM参加者のタイプA特性は、男性42.0、女性48.7であり女性が有意に高い傾向を示した。一般的にタイプA特性は、男性より女性が低いと言われているが、本研究対象者においてはこれに相反する結果がみられた。さらに、女性参加者のHT, SPも高いことが特徴的である。またAHは男女共に低い値を示した。2)UM参加者の自尊感情について平均値±1SDで高自尊感情群(H-SE)、低自尊感情群(L-SE)の2群を設定し、自尊感情の高低、性別が孤独感情に与える影響について検討した。その結果、交互作用は認められなかったが、自尊感情の高低と性別に主効果がみられ、L-SEはH-SEより有意に孤独感が高いことが判明した。また孤独感情は男性が女性より有意に高かった。UM女性参加者はタイプA特性の強いパーソナリティを有することが特徴的であり、さらに高い自尊感情を持ち孤独感の低い集団と考えられる。これは過酷で男性的な色彩の強いUMを完走することで得られる達成感にも強く関連していることが予想される。3)レース前後での比較においては、自己における評価が変化している傾向がみられた。
著者
松浦 佐江子
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、ソフトウェア開発の全工程において、プロダクトおよびプロセスの妥当性検証方法を取り入れたオブジェクト指向開発技術の学習方法およびその評価方法を研究し、これらの方法に基づいたPBL (Project Based Learning)によるソフトウェア開発実習を最終ターゲットとしたカリキュラムならびに授業設計をJavaおよびUMLといったオブジェクト指向開発技術に基づき実施した。
著者
清水 宏幸
出版者
山梨大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

中学校数学の教材の中に潜むかかわりを教材研究で顕在化し,それを授業の中で活動させながら生徒につかませることをねらう授業づくりを研究するものである。研究のねらいは次の2点である。(1) 生徒が自らかかわりを見いだすことができるような活動を授業で仕組むために,中学校3年間を見直し,教材研究を行い課題開発をする。(2) かかわりを見いだす活動を重視した授業を行い,生徒の反応,思考の様相をとらえカリキュラム作成に向けて実践を積み重ね,その成果を蓄積していく。平成19年11月10日の山梨大附属中の公開研究会では「一次関数の利用」の単元で「太陽光発電は損か得か」という授業研究を公開した。この授業では,10ケ月までの電気使用量から12ケ月の合計の電気使用量を予想するために,棒グラフを使い,本来直線となっていないグラフを直線と見るということを生徒に作業をさせながら見いださせた。その上で,太陽光の設備を自宅に設置したら,何年後に設備費が償還できるかを考えさせる授業である。また,平成20年2月28日には自主公開研究会を行い,「円周角の定理」の単元で授業を行った。この授業では,グラウンドに出て,40人の生徒みんなでメガホンでサッカーゴールをのぞいてどのような位置にみんなが立つのだろうかという授業を行い,円周角と弧の関係に着目しながら円周角の定理を見いだすという授業を行った。いずれの授業もビデオで授業と研究協議会を録画し,そのプロトコールをおこし分析することで,協議会で指導をしていただいたことと共に授業について検証した。そして授業中の生徒の作業の様子を観察し,授業後の学習感想を書かせ授業評価をおこなった。その結果,生徒たちが教材の中に潜む関係を見いだし,興味深く学んだ様子が,ビデオのプロトコールや学習感想から明らかとなった。
著者
小田 慶喜
出版者
姫路獨協大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究の目的は車いす競技者の運動処方やトレーニング処方を呼吸循環器系の反応を中心に系統立てようとするものである。世界的に車いすマラソン競技は注目され、その競技者のレベルが年々向上している。しかも、競技スポーツ仕様の車いすに関する研究は、メカニカルな組み合わせや材質に集中するようになってきている。しかし、運動生理学的分析を用いたトレーニング処方が少ないことが、競技を安全に実施する時に大きな障害となっている。今回は初心者が参加することを想定し、車いすマラソン競技を希望する学生を被験者として測定を実施した。被験者は21歳学生(第12胸椎脱臼骨折脊髄損傷による両下肢の機能全廃)であり、普段は生活用車いすで移動をしている。次年度からのトレーニング効果に関する研究を考慮して、意図的に競技の為のトレーニングを負荷しない状況を設定した。車いすマラソン競技として抽出した10kmから42.195km(実際の競技時間は、30分48秒から2時間46分)までの10回の車いす競技に参加した結果、走行中の心拍数は平均173.2±2.9拍/分であった。この競技者の実験室でのピーク心拍数は201拍/分(トラックにおける12分間走トライアル中の心拍数は189.5拍/分)であったことから、走行中は86.2%HRmaxの運動強度で進退運動を実施していた。車いす運動を全身運動としてとして評価しているが、局所運動としての腕運動の評価も今後の課題となる。一般道路を使用して実施される競技は、高低差を分析条件として加えなければならないため、距離だけを単純に比較することは問題がある。しかし、同一競技会に2度目の参加をした場合、6.2%の記録の向上が認められたが、有意な差は認められずほぼ同程度の体力を維持し続けたことが推定される。同時に測定した皮膚温の変化を分析すると、高温環境下での運動においては、一般市民ランナーに対する注意と同じ方法で対処できるが、低温環境下においては、環境温に機能を失っている脚の温度が接近していき、今後の課題として、脚抹消循環の体温低下による全身運動への影響を検討する必要があろう。
著者
鈴木 政登 井川 幸雄 鈴木 政登
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

1.運動強度と腎機能との関連健康成人男子7名を対象に、43〜100%VO_2max強度のトレッドミル走を20分間負荷し、腎機能変化を追跡した。クレアチニンクリアランス(Ccr、尿蛋白(アルブミン、β_2Mなど)および電解質排泄量いずれも強度の影響をうけたが、とくに尿濃縮能がその影響を鋭敏に反映し、43%VO_2max後では2.8%、100%VO_2max後では39%減少した。2.RIアンギオグラフィ-による最大運動後の腎血流量の測定健康成人男子6名を対象に、^<99m>Tc-フチン酸(92.5MBq)肘動脈よりボ-ラス注入しシンチカメラで腎領域の時間放射能曲線を求め、それからpool transit time(Oldendorf法)を算出し、その逆数変化を腎血流量(RBF)変化とした。エルゴメ-タで最大運動を負荷した。RBFは運動直後58.4%、60分後でも20.7%の有意減少で回復しなかった。3.運動性蛋白尿出現機序健康男子10名を対象に、captopril 50mgを経口投与しAngiotensin II(AngII)産生を抑制し、トレッドミルで最大運動を負荷した。captopril投与により運動後の血漿Ang II濃度上昇は抑制されたが、尿蛋白排泄抑制はみられず、運動性蛋白尿はAng IIによるfiltration fraction上昇に起因したとする従来の考え方を改める必要があり、これには運動で生じたアニオンギャップの増大が大きく関与していた。4.微量尿蛋白排泄の日内リズムと身体活動との関連健康男子10名を対象に、アルブミン(alb)、β_2M,NAG尿中排泄リズムと身体活動量(エネルギ-消費量)変化との関連を追求した。alb、β_2M,NAG排泄いずれも活動量の影響を受けたが、β_2M,NAG排泄は夜間休息時(10時頃まで)でも抑制されず、内因性調節支配を受けていることが示唆された。
著者
中山 章宏
出版者
岐阜経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、最適速度模型を2次元に拡張し、その振舞を理論的及び数値解析的に調べることである。それにより、粉体流や歩行者流、あるいは生物集団など交通流と類似の系との関係や、それらの振舞がより明確に解明できると考えられる。第一年度では、まず1次元模型を多変数型に拡張した模型の性質を調べた。その結果、これらの模型の性質は全て1次元最適速度模型の枠内で理解できることを確認した。最適速度模型を単純に2次元へ拡張した模型は、密度(自動車、歩行者など)が低い場合にはうまく適用でき、秩序相とそうでない相(渋滞相)が存在する。また、歩行者を想定した異種混合流や対向流では自発的な流れの分離も再現できることも示された。この他に、高速道路の交通流データの解析も同時に行なった。研究の第二年度では、高密度の場合に不自然な振舞をする2次元最適速度模型を修正し、全ての密度において適用可能な模型を構築した。この年度では、歩行者流の振舞を調べるために、市民マラソンでの走行者の運動の観測を行ない、レーン形成や密度揺らぎの存在を確認した。これらは2次元最適速度模型で得られる結果と矛盾していない。また、秩序相での運動について解析的な議論を行ない、安定条件を決めることができた。さらに、2次元最適速度模型に修正を加え、生物群集の運動、特に群れの形成に対して適用した。その結果、一様な状態から出発しても自発的に群れが形成され、これについても最適速度模型によっても説明できることがわかった。また、近年話題となった道路交通における同調流についても研究を行ない、1次元最適速度模型の枠内で説明可能であることを示した。
著者
高田 肇
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

施設作物を加害するアブラムシ類の生物的防除素材として、アブラムシ寄生性ツヤコバチ科の在来寄生バチの利用を検討した。わが国では4種のツヤコバチが、ワタアブラムシとモモアカアブラムシ(以下それぞれワタ、モモアカと略記)に寄生することを確認した。主要種はAphelinus gossypiiとAphelinus sp.B(nr.varipes)である。長日(15L-9D)における雌の平均発育期間は、A.gossypiiでは18℃で21.9日、25℃で12.3日、Aphelinus sp.Bでは18℃で23.3日、25℃で13.7日であった。長日18℃におけるA.gossypiiの平均産卵数は57、寄主体液摂取数は11、長日25℃におけるAphelinus sp.Bの平均産卵数は48、寄主体液摂取数は24であった。A.gossypiiはワタに対する適性は高いが、モモアカに対する適性は低い。Aphelinus sp.Bはワタ、モモアカのいずれに対しても適性が高い。さらに、大量増殖用の寄主として好適なマメにも適性が高い。Aphelinus sp.Bは北海道と京都個体群は長日型の休眠性をもつが、沖縄個体群はもたない。マミ-形成後の休眠幼虫を5℃で4週間保存する場合、生存率は順化処理を行った区(86%)のほうが、行わなかった区(39-63%)より高かった。Aphelinus sp.Bでは、大部分の蛹がマミ-内で頭部をマミ-の後方に、腹面をマミ-の背面に向けていた。成虫の羽化脱出率はマミ-の背面よりも腹面を張り付けたときのほうが高かった。A.gossypiiのLD50は、成虫施用よりマミ-施用のほうがマラソンでは16倍、ピリミカーブでは38倍、フェンバレレートでは6倍大きかった。これら3種殺虫剤の中では、本種に対する影響力はピリミカーブが最も小さいと考えられる。
著者
田島 文博 中村 健 峠 康
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【目的】健常者における運動時の免疫機能はNatural Killer細胞(NK細胞)活性を指標として、多数の報告がある。しかし、脊髄損傷者においては、我々が車いすフルマラソンではレース直後にNK細胞活性が低下し、ハーフマラソンでは上昇する事が知られているだけである。今回我々は、実験室で運動強度を一定にし、2時間の運動を継続した時の免疫機能の変動を調査した。【方法】対象は男性脊髄損傷者7名(脊損者、年齢34.3±7.1歳、損傷レベルTh11〜L4)と健常男性6名(健常者、年齢28.8±7.7歳)とした。予めハンドエルゴメーターで被験者の最大酸素摂取量(VO2max)を測定した結果、脊損者は27.9±3.0ml/min、健常者は25.7±4.1ml/minであり、両群に有意差を認めなかった。VO2max測定とは別の日に、被験者はそれぞれのVO2maxの60%で2時間ハンドエルゴメーター運動を行った。採血は、運動前、1時間運動後、運動終了直後、終了後2時間の4回行い、白血球数、アドレナリン、NK細胞数、NK細胞活性を測定した。別の日に運動を行わないタイムコントロール実験を行った。【結果】健常者の白血球数と血中アドレナリンは運動直後に有意な上昇を見た。NK細胞数は運動直後の変動は有意ではなかったが、NK細胞活性は運動直後に有意に低下し、2時間後に回復した。【考察】車いすフルマラソンの実験モデルを行い、NK細胞活性は低下した。しかし、NK細胞活性は2時間後には回復した事から、車いすマラソンで選手が感染に留意する時間は数時間で良いと考えられる。