著者
小江 和樹 Oe Kazuki
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要 人文社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.161-168, 2007

情緒イメージの代表的なものとしてあげられる「楽しい-さびしい」,「うれしい一悲しい」,「陽気な一陰気な」,「さわやかな-うっとうしい上「心地よい一不愉快な」の5つのイメージ対に関して,選択される色彩の傾向を調査し,それぞれのイメージにおいて選択される色彩,色相及びトーンの分布状況から,色相やトーンへの依存度とその特徴を明らかにした。その結果,色彩認知イメージの場合とは異なる傾向を見出すことができた。これは,造形表現において色彩イメージの効果的な活用方法を探る上で,重要な要素であると考えられる。
著者
西田 昌史
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,討論などの議事録に話者の発話状態を付与するため,音声から音響特徴を抽出し分析することで,話者の発話状態をモデル化し推定することを目的としている.これまでの研究では,日本語地図課題対話コーパスを対象として話者4名の40発話を用いて,6つの発話状態と4つの韻律特徴の全体の相関関係を正準相関分析により明らかにした.これを踏まえて,今回はさらにデータ量ならびに韻律特徴を増やして重回帰分析に基づき各発話状態のモデル化と推定について検討を行った.データとしては話者10名の130発話を用い,今回「強調」「疑問」「驚き」「自信」「迷い」の5つの発話状態に対して被験者12名によりSD法に基づいて7段階で評定実験を行った.各音声データごとに平均の評定値が一定値以上であればその発話状態があるとみなした.また,韻律特徴としては「F0の平均値・レンジ・最大値・最小値」「パワーの平均値・レンジ・最大値・最小値」「平均モーラ長」の9つを用いており,話者ごとにパラメータを正規化している.以上の評定実験で得られた評定値を目的変数,韻律特徴を説明変数として重回帰分析によりモデル化を行った.変数選択により,「強調」は「F0レンジ・最小値」「パワー平均値・最大値」,「疑問」は「F0平均値・レンジ」「パワーレンジ・最大値」,「驚き」は「F0レンジ・最大値・最小値」「パワーレンジ」「平均モーラ長」などのように韻律特徴により各発話状態をモデル化することができた.この重回帰モデルにより発話状態の推定を行った.その結果,各発話状態がある場合の判別制度が64%,各発話状態がない場合の判別制度が93%となり全体で80%の判別制度が得られた.また,重回帰モデルの推定値と人間の評定値との相関を分析した結果,平均して0.74の相関値が得られ今回のモデルが人間の印象を反映できていることがわかった.
著者
高橋 裕一 井上 栄 阪口 雅弘 片桐 進
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.1612-1620, 1990
被引用文献数
7

我々は, Schumacherらにより開発されたfluorescence immunoblotting法を, 二次抗体に酸素標識抗体を用いることで肉眼または10×ルーペで花粉アレルゲンを判別できる方法に改良した.すなわち, Burkard捕集器の透明なテープ上に捕集した大気中の花粉アレルゲンをニトロセルロース膜に転写し, アレルゲンを抗Cry j Iウサギ血清または抗Lol p Iウサギ血清と反応させ, 次いでアルカリホスファターゼ標識F(ab')_2抗ウサギIgGで処理した.最後に, BCIP/NBT基質を加えることで青紫色のスポットを得た.この方法は, 従来用いられている形態観察による計数法のような熟練を必要としない.また, 共通抗原性を有する花粉全体を計数し得るため, ある花粉症患者の感作花粉アレルゲンの空中量を把握するにはすぐれた方法と考えられる.ただし, スギ花粉のように大量に飛散する花粉では, 試料捕集面積の0.16cm^2当たりに400個以上の花粉がみられた場合には, 花粉数が多く重なってしまい, スポット数として求めることができなかった.この場合には, 染色領域を1花粉の染色領域で除して算出する方式を試みた.しかし, 花粉症患者の原因物質量の把握という意味ではスポット数として計数するよりは, むしろデンシトメータを用い比色定量しアレルゲン濃度として表示する方式のほうが良いと思われる.
著者
福岡 裕美子 佐々木 英忠 佐々木 英忠
出版者
秋田看護福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

在宅寝たきり老人へ手軽に下半身浴が実施できることを目指し機器の開発を行った。最終的に完成したものは塩化ビニール製で全長160cm,幅90cm,前面部分へ実施者の腕を挿入する穴6ヶ所(直径14cm),排水口3ヶ所(直径10cm),内部へ保温用のポリウレタンシート(全長160cm,幅73cm)を敷いた。試用の結果この機器は在宅療養中の末期がんの方や,住居の立地条件のため訪問入浴車が入ることのできない場合,訪問入浴を何かしらの理由で拒否している場合等にニーズがあることがわかった。
著者
福永 淑子 蓮沼 良一 大坂佳 保里 永嶋 久美子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

1.日本米(うるち米)の米粉を選別して180メッシュ以上の粒径の小さいものだけで米麺をつくると、でんぷんを一切加えなくとも、こしがあり、かつ嗜好性の高い純米麺を作れた。すなわち、純米麺は、米粉を180メッシュ以上の細かい粒径にするだけで日本米からでも製造できることが明らかになった。2.インディカ米であるタイ米や台湾米ではアミロペクチンの含有割合が少ないので純米麺が製造でき、一方アミロペクチンの含有割合が多い日本うるち米では純米麺が出来ないという通説がある。しかし、180メッシュ以上の粒径の小さい米粉にアミロペクチンをかなり添加しても純米麺が製造できることが分かった。3.以上の実験結果から、従前の通説は間違いで、純米麺が製造できる条件としては、アミロペクチン含有量が少ないということではなく、米粉の粒径が180メッシュ以上に細かいという条件が必要であることが明らかになった。4.また、アミロペクチンが少ないとこしが強くおいしい麺が製造できると言う説もあるが、アミロペクチン含有量は純麺のこしの強さや食味にはとくに関係はなく、米粉の粒径がこしの強さや食感に関係が深いことも明らかになった。5.180メッシュ以上の細かい粒径の米粉は、浸水しておいた日本うるち米を水挽きすることによって効果的に得ることができることが分かった。
著者
藤原 奈佳子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、(1)ライフスタイルや運動機能、高次脳機能などの加齢変化の把握 (2)脳機能の異常を早期段階でスクリーニングする簡便法としての指標を検討することである。対象者は本研究目的に同意を得た者で日常生活に支障ない60歳以上の在宅高齢者で男性が71名(73.0±6.5歳)、女性が231名(70.1±6.0歳)である。調査項目は問診(ライフスタイルなど)52項目、身体特性5項目、運動機能5項目、PGCモラールスケール、Zung鬱スケール、高次脳機能検査5項目(MMS,三宅式記銘力PAL,仮名ひろい,Raven,Rey複雑図形)である。対象者のMMS得点平均値は男性が26.1±3.5、女性が26.9で±2.5で、臨床的には痴呆症状のない者である。対象者のうち111名(男性35、女性76)は脳MRI検査も実施した。加齢とともに、熟睡ができず(男)、睡眠時間が長くなる(女)、咀嚼困難、飲酒量低下(男)、陽気(男)小心(女)、新聞を読むのが面倒になる、肥満指数BMIが低くなる(女)、拡張機血圧低下(女)、握力低下、大腿四頭筋筋力低下、動作が遅くなる、平衡能低下、高次脳機能検査得点の低下、鬱傾向(女性)となる傾向にあった。脳MRI検査成績は、梗塞性所見は、65-69歳では男性が71.4%で女性が66.7%であったが、70歳以上では、男女ともに90%以上の者に所見を認めた。脳萎縮所見を有した者は男性では65-69歳の28.6%から75-79歳の45.5%へと加齢とともに増加傾向にあったが、女性では65-69歳で26.7%、75-79歳で26.3%と加齢による増加は認められなかった。MRI検査で梗塞性所見または脳萎縮性所見(臨床的に問題とならない程度のものも含む)が認められた者の特徴(年齢補正)は、睡眠時間が長い、MMS得点が低い(男)、三宅式記名検査得点が低い(男)、仮名拾いテスト拾い忘れが多い(女)、Raven得点が低い、Rey得点が低い(男)、動作が遅い(男)、平衡保持時間が短い(女)などであった。今後、対象者を追跡し本成績と記銘力体または痴呆症との関連を把握する予定である。
著者
伴野 朋裕
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
vol.59, 2001-06

前号「IT革命と教育を考える」を読んで、江藤 淳氏が1996年1月の新聞に寄せた稿を思い出した。青春は「自分探し」の病気のようなもの。自己嫌悪に胸を噛まれながら、「自分」以外のものになろうとして七転八倒し、愚行を重ねたあげくの果てに「自分」でしかない自分に投げ戻される、それが昔の青春だった。 ...
著者
中野 茂
出版者
姫路工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

子どもの笑いの月齢による増減を指標に、発達的に母親の働きかけへの協調的反応が減少する時期を探り、その要因を検討した。また、母親が子どもを笑わせようとしてしばしばするからかいゲームがなぜ乳児の笑いを引き出せるのかその構造を、このようなやりとりはメタコミュニケーション論でいう二重のコミュニケーションではなく、何らかの身体表現に基づくのではないかという仮説に沿って検討をした。対象は、20組の母子。6か月から12か月までの毎月と15か月まで縦断的に親自身が育児記録として自分と子どもとのやりとりをビデオに記録した。こうして得られたビデオ記録から、まず、子どもの笑い、不快の出現時点を同定し、そこ5秒を基準点とし、それに前後の20秒を加えたの合計45秒の時系列を1エピソードと定義した。結果は、6か月で微笑んでいたのが、7か月では微笑みが減り、8か月では不快の表出が比較的高まり、9か月以降は、不快の出現が希となり、協調的、積極的に母親に応じるように変わったことを示した。したがって、8か月での不快の増加傾向は、子どもの積極性が増し、この時期に母子のやりとりが再編成されたと考えられる。次に、子どもの笑い、不快、母親の情動表出と「ふり」の出現率の高低で「調和」・「不調和」群に母子を分け、笑い、不快の先行要因にどのような違いがあるのかを典型例で比較した。その結果、調和群では、基準点の直前で「本来」から「ふり」、または逆の入れ替わりが認められるのに対して、不調和群では一貫して本来がふりより高いかった。この違いが両群の笑い・不快の出現率の違いを生んだと考えられる。つまり、母親が急に大げさ・コミカルな動作をしたり、逆に、急に真面目になったりする行為の落差が、子どもの笑い引き出したと考えられる。したがって、メタコミュニケーションは、このような動きの系列から考え直さなくてはならないことが考察された。
著者
星野 聖
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

舞踊や手話動作に見られるような,ヒトの比較的複雑な随意運動や順序運動の多くは「見まね」により獲得される.上肢動作の見まね学習においては,第一に,網膜に映った他者3次元上肢運動の2次元写像映像から3次元運動を復元する過程第二に,自己上肢の各筋肉のどれを,どのような時間的タイミングで,どのような強度で収縮させるかのパターンに変換する過程,の少なくとも2過程が必要である.また特に手指動作の見まね学習では,第三に,サイズが小さいにも関わらず形状が複雑で自己遮蔽が多く,しかも大きな空間を動く手指3次元動作の2次元映像から,高速かつ高精度に形状推定を行う過程も必要となる.このような制御上の不良設定問題を持つ問題や,生理学レベルでの情報処理機構が不明な対象に対しては,生理学的に等価な工学システムを設計し,それを操作して入出力関係を検討することにより,脳の情報処理の一端を伺い知ることが可能となる.本課題では,(1)エアシリンダを使ったヒト型ロボットアームの設計,(2)ヒト型ロボットハンドの設計,(3)単眼CCDカメラによる上肢3次元動作の推定システム設計,(4)非接触的方法による手指形状の実時間推定システムの設計,(5)データグローブによるロボットハンド制御,などを行った.(1)と(2)により実証研究のためのハードウエア的基盤を作り,(3)と(4)により上肢や手指の3次元運動推定,(5)により手指制御を実験的に検討して,動作の見まね学習機構の理解に迫った.開発したヒト型ロボットハンド1号機は大きさと重さがヒト手指と同程度で,しかも拇指以外の4指間の開閉ができるため,手話や舞踊動作といった「情報発信」が可能である.同ハンドを使って,ダイナミクスや自由度数が異なるデータグローブでの遠隔操作に成功し,前提となった自由度低減や自由度合成の知識を,次課題の「見まね」(非接触的方法)での動作再現に活用した.
著者
由井 哲哉
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』の4幕1場は本筋とは無関係なラテン語文法レッスンの場であり、Q版には存在しなかったことから、その存在意義についてこれまで様々な憶測を呼んできた。だが、この場面を作品全体に見られる多様で特異な言語スタイルとの関連で見直すと、この芝居の新たな面が見えてくる。本研究では、4幕1場とその前後にある二つの洗濯籠の場を中心に取り上げ、その特異な言語スタイルを、葛藤が起きてもすぐ脱線しいつのまにか立ち消えになってしまうアクションと絡めて考察した。特に、本作品の主人公フォールスタッフが洗濯籠に入れられ運搬されて河に放り込まれる喜劇的場面は、舞台化されずにフォールスタッフ本人の語りで処理されるのだが、ここには「運搬、移動、窃盗、翻訳」に関するこの作品のテーマが集約されている。結局、この作品は、洗濯籠の場と4幕1場を境にして喜劇の質が変わっているように思われる。最終幕では、フォールスタッフ一人に贖罪を負わせるのではなく、むしろ芝居の構造と言語のあり方そのものに自浄作用が働いており、それがこの喜劇の質を決定している。本作品は広い意味での「移動・運搬・翻訳」を根幹に据え、Aの世界からBの世界への移行のズレや拡散をプロットの起動力に仕立てながら、通常の市民喜劇に見られる陰謀喜劇でも祝祭喜劇でもアリストファネス型喜劇でもない新しい形の喜劇形態へのシェイクスピアの実験的散文劇と考えられる要素が見られるのではないか。
著者
船津 美智子
出版者
福岡女学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1.つわり症状に影響がある因子は「人間関係関」、次に「身体状況」「周囲環境」「勤務状況」であった。2.ストレスを感じることでつわり症状に影響があった顕著な項目は出産の不安度、および周囲からの出産への期待度であった。出産の不安度と期待度はいずれも流産経験数と正の相関があり、出産への不安度が高い妊産婦ほど1日のつわり症状時間が長いことがわかった。周囲の相談者数、医療関係者数と出産の不安度には負の相関が認められ、人間関係では医療従事者とのコミュニケーションがつわり症状の緩和になることがわかった。2.つわりの顕著な症状の吐き気は色彩、臭気と関わりがあり、食事内容と関わっていた。78項目の食物嗜好調査結果では、60%以上の妊産婦が食べやすいとした食物の5位までが果物であり、食べにくいとしたのはいずれも臭いが強い食物であった。3.食物の色彩、臭い、味の関係を、つわり症状がある妊産婦についてつわり中と出産後の嗜好変化による環境評価の移行について追跡調査を行い、つわり症状の特性と緩和のための対応について検討を行った。つわり期と出産後の妊産婦の色彩嗜好変化で有意差が認められたのは、中明度、高彩度の紫、高明度、低彩度の青、白であった。紫はつわり期には嗜好性が高かったが、出産後には低下した。また、青、白はいずれも出産後には嗜好性が高くなった。食べものと色相の相関についてみた結果、嗜好性が高い色相の紫と食物のブドウ、また、嗜好性が低い色相の白と食べにくい白米に傾向はみられたが、相関は認められなかった。ブドウが好きな妊産婦は橙色の嗜好性が高かった。橙色には積極的な気分を与えるとする相関がみられた。4.つわり期と出産後のPOMSによる気分調査の6項目中では緊張と混乱の2項目には出産後には改善され、有意差が認められたが、怒り、抑うつに出産後の改善の有意差は認められなかった。つわり期における色彩と気分の相関では、彩度が高い赤、紫、黄緑などが「積極的な気分」「陽気な気持ち」「他人の役に立つ気がする」などの積極的な気分と正の相関が認められた。
著者
中尾 敬
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本年度は,答えが1つではない事態における行動選択過程を明らかにするため,事象関連脳電位を用いた実験1〜4と,行動指標を用いた実験5を実施した。実験1,2では,答えが1つでない事態における行動選択(職業選択課題:どちらの職業に就きますか?「高校教師大工」)時に認められる陰性電位が,競合(迷い)の程度を反映しているのかどうかを検討した。その結果,職業選択時の陰性電位の振幅が,競合の程度によって変化することが明らかとなった。このことにより,答えが1つではない事態における行動選択過程を探るための1っの指標(CRN,conflict related negativity)を確立することができた。実験3では,CRNを指標とし,内側前頭前皮質の表象(自己知識)が,職業選択時の競合を低減するのかどうかを検討した。自己知識課題(例:あなたにあてはまりますか?「やさしい」)の遂行直後に職業選択を行った場合と,他者知識課題(例:小泉首相にあてはまりますか?「陽気な」)の遂行直後に職業選択を行った場合とで,職業選択時のCRNの振幅を比較したところ,自己知識が活性化されやすい状況で職業選択を行ったときの方がCRNの振幅は1」小さかった。また,実験4から,実験3の結果が,自己知識課題と職業選択の両方が自己についての判断であったことにより認められた結果ではなく,自己知識が行動選択の基準として機能したためにみられた結果であることが明らかとなった。このことから職業選択時には自己知識が行動選択の基準として機能していることが示された。実験5はfMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いた実験を行うための予備実験として実施した。実験5からは,行動選択の基準として機能している情報の特性(行動選択の基準に記銘語を関連付けると記憶が促進される)が明らかとなった。今後はこれらの実験結果の公表を進めつつ,fMRIを用いて,答えが1つでない事態における行動選択の脳内過程についての検討をさらに進めたい。
著者
川本 隆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

教育の危機と改革が叫ばれて久しい。そこで論じられている数多くのホットな争点のうち、高等教育機関における研究活動に深く関連するものに、初等・中等教育と大学教育との《接続》がある。この問題への社会的関心を喚起したのが、中央教育審議会答申『初等中等教育と高等教育との接続の改善について』(平成11年12月16日付け)である。これと連動するかたちで申請者は、所属する日本倫理学会の大会において二年連続(平成13年および14年)のワークショップ「公民科教育と倫理学研究の《つなぎ目》」を企画・運営してきた。本研究のねらいは、中教審答申の以前から取り組まれてきた教育と研究の接続の試みを《公民科教育と倫理学研究とのアーティキュレーション》(すなわち、二つの活動の「分節化・接続・連携」)という観点から吟味し、福祉と人権をどう教えるかを軸に教育と研究のあるべき協力関係を探り当てようとするところにある。三年間にわたった研究の開始と同時に、所属部局を教育学部・教育学研究科へと移した研究代表者のポジションをフルに活用して、関連分野の研究者との交流や情報交換を深くかつ広く展開することができた。研究期間中の《アーティキュレーション》の特筆すべき成果としては、検定を通過し平成19年度より高校現場での使用が始まった公民科現代社会教科書の分担執筆および編集委員を務めた『現代倫理学事典』(弘文堂、2006年)の刊行が挙げられよう。後者は初等・中等教育の教員を主要な読者として想定している。また2004年11月よりスタートした人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「グローバル化時代における市民性の教育」(日本学術振興会)に企画段階から関与し、そのサブグループ(公共倫理の教育)の世話人を務めている。本研究とも密接な関連性を有するプロジェクトであり、それが目指す社会的提言に本研究の成果を盛り込む所存である。なお平成19年度より同じく基盤研究(C)の交付を受けて、「シティズンシップの教育と倫理(ケアと責任の再定義を軸として)」がスタートすることになった。これが本研究をさらに発展・深化させるものであることを付言しておきたい。
著者
五十嵐 敬喜 武藤 博己 大熊 孝
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究プロジェクトの実施により、次の知見が得られた。大きくはポスト公共事業社会成立に係わるもの、市場化改革の動向に係わるもの、市民事業の理論化に係わるものである。第一の点については、全国総合開発計画に係わる歴史分析、亀井改革、小泉構造改革などを通じた制度改革の動向、長野県、広島市などの事例研究を通じて、公共事業の縮小が構造的な要因に基づくものであることが明らかになった。併せて公共事業社会からポスト公共事業社会への移行を、歴史認識として鮮明化するために公共事業関連年表の作成を行った。第二の点については、公共事業がもたらした現代社会システムの問題性の検証及び、入札改革、PFI、指定管理者制度など、国における制度改革の事例研究を通じて、官を主体とした制度改革の限界が明らかになった。このなかで官から民へ、市民へという公共事業の主体の転換について方向性を示した。第三の点については、実態調査を通じた市民事業の現状を把握すると共に、これに対応した国及び地方自治体(長野県、山形県)の政策対応を検証することで、市民事業の可能性と公共事業のオルタナティブとなるための政策課題が明らかになった。また、市民事業の主体として建設業者の事業転換の可能性について方向性を示した。以上の作業を通じ、ポスト公共事業社会の展望として、「美しさ」という価値基準の提唱を試みると共に、市民事業を通じた新しい公共のあり方について提案を行った。
著者
下地 秀樹 山崎 鎮親 太田 明
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.25-44, 1992-03-30

Niklas Luhmann, der mit seiner Systemtheorie einen unubersehbare EinfluB auf verschiedene Disziplinen ausubt, beobachtet, zusammen mit Padagoge K. -E. Schorr, das Erziehungssystem aus seiner eigenartige Perspektiv. Seit 80er Jahren, angereizt durch Problemstellung Luhmanns, die Selbstthematisierung der Padagogik und Refexion auf Reflexion des Erziehungssystems impliziert, sieht sich die Padagogik gezwungen, die Uberlegungen uber die padagogische Selbstverstandnis anzustellen und die Gegenuberstellungs-oder AnschuluBpunkt gegen oder an die Systemtheorie klar zu machen. Der vorliegende Beitrag bring die Problematik zwischen Systemtheorie und Padagogik (I), uberblickt die systemtheoretische Voraussetzung des Erziehungssystems (II), disktiert dann die Reaktion der Padagogik auf das systemtheoretische Verstandnis des Erziehungssystems (III), und schlieBlich betrachtet, was Luhmanns Systemtheorie fur Theorie der Erziehung leistet (IV).
著者
芹澤 知広 志賀 市子 角南 聡一郎 槙林 啓介 中尾 徳仁
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本各地の博物館に収蔵されている、20世紀前半に日本人が中国から持ち帰った中国の生活用品・民間工芸品について、共同調査を行った。その作業を通じて、どのような品物が現在残されているのかということがわかり、また多くの博物館が、それらの収蔵品について館内データベース等を通じて積極的に公開していることもわかった。その調査を踏まえ、研究代表者と研究分担者は個々の関心に基づき、対象を絞った事例研究を行った。
著者
山崎 太
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.305-309, 1985
被引用文献数
10

スギ花粉症が流行するか否かは, その雄花芽の分化成績に相関する.1983年7月は九州・山陽地方を除き全国的に著しい低温であったことから, 翌年春には両地方を除きほぼ全国的に同症は流行しないと予測された.ところが, 同年春にはこの両地方では本症が流行し, 東北・北陸地方ではそれが流行しなかったものの, その他の地方では先の予測に反しいずれも本症の流行をみるに到った.これにより, スギの雄花芽分化に影響を及ぼす気象因子は7月の平均気温だけではないことが示唆されたのでそれを検討し, 以下の結果を得た.1.スギ雄花芽分化成績(スギ花粉症流行程度)の予測法は, 7月の平均気温がその平年値より高ければ従来どおりでよい.2.従来の報告では7月の平均気温がその平年値より低ければ, スギ雄花芽は分化しないとしたが, その1旬が高温のときには雄花芽分化があり得ることが判明した.3.7月の1旬が高温で, かつその年度の春にスギ花粉が飛散していないならば, その旬に雄花芽は分化するため翌春の花粉飛散量は増加し, スギ花粉症は流行する.以上のように, 7月の平均気温が低くても, その旬別平均気温が高い場合には, スギの雄花芽が分化し, 翌春にはスギ花粉症が流行することもあり得ることが明らかとなった.