著者
石岡 丈昇
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.107, pp.71-106, 2009

本稿は,P. ブルデューとL. ヴァカンのリフレクシヴ・ソシオロジーの方法に倣い,フィリピン・マニラ首都圏のジムに暮らすボクサーたちのボクシングセンスを再構成する試みである。ヴァカンが言うように,社会学は生身の身体を具象な水準で論じてこなかった。よって,身体の社会学を構想する必要性が90年代以降社会学界で叫ばれながらも,そこで対象として扱われるものは,<血と汗のにおい>を内包した私たちにとってタンジブルな位相にあるそれからは飛翔した身体言説の分析が支配的であった。ブルデューとヴァカンと共に,社会的行為者が特定のフィールドと親和性を持つ固有の道徳的倫理的図式のセット-本稿でボクシングセンスと呼ぶもの-を受肉化するプロセスを「客観化の技法を客観化しつつ」記述すること,さらにそこから理論化の構えを提示することが,本稿の目的である。
著者
新井 イスマイル 川口 誠敬 藤川 和利 砂原 秀樹
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.2319-2327, 2007-07-15

近年,口コミ情報サイトを例とする,ユーザの行動を基にした店舗・施設の検索サイトが注目されている.これらの検索サイトでは,位置に基づいた検索が可能であることと,店舗・施設に対して複数のユーザからの第3 者の評価情報が取得できることが求められている.しかし,商用の検索サイトには広告収入や検閲の影響により,被評価店舗にとって不都合な情報が現れにくく第3 者の評価情報の提供に問題がある.また,従来の情報取得手法ではWWW 上の情報をすべて収集し,複雑な自然言語処理によって位置に基づいた評価情報を抽出する作業が必要となり,サービス構築コストが膨大となるという問題がある.そこで本研究では従来の全文型検索エンジンを活用し,目的の分野を示すキーワードと商用検索サイトを除外するキーワードを組み合わせることによって目的の第3 者の評価情報を収集する手法と,単純な形態素解析と文字列のパターンマッチングを用いた文字列処理によって住所を抽出する手法を提案する.この手法に基づいてWeb インデクサを評価した結果,一度の収集のうち44%が目的とする個人サイトであり,位置情報の取得再現率が59%という結果が得られた.
著者
北山 大輔 宮本 節子 角谷 和俊
雑誌
情報処理学会論文誌データベース(TOD) (ISSN:18827799)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.65-81, 2010-12-21

近年,オンライン地図をはじめとする地図サービスが多く提供されるようになってきている.ユーザはこれらの地図サービスを用いて,旅行先や飲食店を探すなど,興味がある地理オブジェクトを探索する.しかしながら,これらの地図サービスにおいて地理オブジェクトの表示様式は,地図の提供者により決定されている.一方,地図を利用する目的はユーザにより異なり,すべてのユーザが同じ情報を求めているわけではない.そのため,状況に適合し,かつ,ユーザの意図に沿った表示オブジェクトを呈示する手法が必要とされる.そこで,本研究では,地図上の表示オブジェクトをカスタマイズする手法を提案する.本手法では,オンライン地図のユーザ操作と表示オブジェクトの出現パターンによりユーザの意図を抽出し,ユーザの意図に沿った表示オブジェクトを決定する.すなわち,ユーザの地図上での目的オブジェクトの発見支援を行うために表示オブジェクトをカスタマイズした地図を呈示する.本稿では提案手法に基づきプロトタイプを作成し,評価実験を行った.
著者
上野 吉一
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.11-19, 1996-08
被引用文献数
1

最近、日本において"フェロモン"という言葉が非常に一般的になり、広く使用されるようになってきている。しかし、そうした場合の多くで、"フェロモン"を「性に関連した匂い」ひいては「性的魅力」を意味する言葉として用いている。フェロモンを性と強く結び付けて捉えるというこの傾向は、通俗的な使用のみならず学術的な使用においても少なくない。そのため、その意味するところが非常に偏って認識され、かつ"匂い"との区別が曖昧になっているように思われた。そこで本研究では、従来フェロモンの概念がどのように規定されてきたのかを検討し、その基準の再確認を試みた。この結果、ある匂いをフェロモンとするための基準として、次の5つを挙げることができた。1)同種ないし近縁種のみで作用。2)送り手・受け手にとり互恵的な特異的反応(リリーサー効果もしくはプライマー効果)の解発。3)生得的要因への高い依存。4)特定の匂い刺激のみに起因する反応。5)1つないし少数の物質の情報伝達への寄与。これをもとに哺乳類での"フェロモン"の使用を鑑みると、これまでにも指摘されてきたように、フェロモンと表現することが必ずしも妥当ではない場合が多いと考えられた。また、中にはフェロモンの概念の基準を考え合わせることなく使用している場合すらあった。このような"フェロモン"の使用は、匂いに対する過剰ないし誤った評価・認識を引き起こし、哺乳類における嗅覚コミュニケーションの適切な理解を妨げる。そこで本論文では、哺乳類の匂い情報を考えていく上で、上記の基準を満足することが明らかな場合を除き、学術用語として"フェロモン"の使用を避けるようにすべきだと考える。
著者
志摩 園子
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

冷戦終結後のヨーロッパの東方拡大により他の東・中央ヨーロッパ、バルト諸国と並んで、ラトヴィヤは2004年5月1日にヨーロッパ連合に正式加盟を果たした。これは、1991年に、ソ連から独立を回復してからのラトヴィヤの外交政策の最優先事項であった。このラトヴィヤの独立回復とその後の国家形成は、戦間期に独立をしていたラトヴィヤ共和国をその存在基盤としている。したがって、とりわけ、独立回復後の歴史の見直しにおいて、この「国民国家」ラトヴィヤが、いかに苦難の中から独立を勝ち取ったかという「国民の歴史」が重視され叙述されているのが現状である。このような描き方は、他のバルト諸国の歴史叙述も含めて、一般的なバルト諸国の国家形成史として、冷戦期は欧米の亡命者によって示され、冷戦終結後は、地域内で現われてきている。さらに、こういった歴史叙述の傾向は、戦間期の独立時代にみられたような国民国家としての「国民の歴史」の叙述を想起させるものであり、その歴史観の復活のようにもみえてくる。20世紀末のこの現象は、ラトヴィヤにとって、まさにソ連からの分離・独立回復としての思想的な裏づけをするための政治的な欲求の発露に他ならなかったのである。ところが、実際のラトヴィヤの独立経緯を歴史的な史実に基づいて考察するならば、果たして、国家形成を目指して独立したのかという疑問がわく。また、欧米の研究者が大国のパワーポリティックスの視点に立って国際政治的な観点から叙述する時、ラトヴィヤをはじめとするバルト諸国の独立は偶然の産物であるという主張にも疑問が生じる。これらの疑問に対して、著者は国際関係史の視点から次のように考える。ラトヴィヤ人の民族意識そのものは確かに19世紀後半から育ってきていたものの、実際の国際関係の複雑な動きとラトヴィヤ人の利益を反映するような主体的な動きとの複雑な絡み合いが、歴史的経過の中で係わり合いながら展開した結果、ラトヴィヤの独立に至ったと考えるのである。換言するならば、ラトヴィヤ人としての共通のアイデンティティや地域的な一体性への要求は展開されながらも、国民国家成立に向けての準備ができていないままに、複雑な国際環境の波間に投げ出されたラトヴィヤ人が、歴史の流れの中でラトヴィヤ人の利益を主体的に反映できるのは国民国家であるという理解に至るという経過こそが、独立国家成立への重要な背景となるのである。従って、国家基盤の脆弱性が、地域協力への関心へとつながっている。
著者
西方 篤
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

耐候性鋼製のくし型プローブ電極を試作し、新潟市の苗引橋と福山市の両国橋(いずれも耐候性鋼橋梁)において、耐候性鋼の腐食モニタリングを2年間実施した。低周波数のインピーダンスの逆数1/Z_<10mH>の平均値は、腐食減量から得られた平均腐食速度Icorrと極めて高い相関を示し、相関式(Icorr/μAcm^<-2>)=17. 7×(Z10mHz/Ωcm^2)^<-0. 16>を得た。この相関式によりモニタリングデータから直接平均腐食速度を推定することが可能となった。
著者
芳賀 洋一 松永 忠雄 牧志 渉
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1本の光ファイバーを電磁的に2次元スキャンさせ画像を構成する原理を用い、細径かつ解像度の高い医療用内視鏡の実現を目指した。血管内、乳管内、歯周ポケットなどへ挿入し光学的観察を行うことを想定している。外径2mmのポリイミドチューブを基板とし、円筒面上へのフォトリソグラフィーと銅の電解めっきにより2次元駆動のための多層コイルを作製した。円筒状基板へのフォトリソグラフィーは、露光光としてレーザ光をスポットで照射し、基板をステージ制御で動かすレーザ描画で行う。スプレーコーターでレジストを均一な膜厚で塗布し、レーザ描画露光装置を用いてコイル形状をパターニングする。その後レジストを型として電解めっきを行いコイルの作成を行った。光ファイバーを電磁的に駆動し振動させるため、永久磁石を取り付けたコリメートレンズ付き光ファイバーをコイル内に内蔵する。永久磁石は、外径500μm、内径140μm、長さ2mmのFe-Cr-Co系永久磁石を使用した。また、コリメートレンズは外径125μmで長さ790μm、焦点距離750μmのファイバー融着型グリンレンズを使用した。コイルに交流電流を流すと永久磁石の磁気モーメントが磁界と揃うように曲がり光ファイバーを振動させる。X,Yそれぞれの1次元の駆動および、X方向とY方向の位相を90度ずらした状態で正弦波振動させ円を描き、2次元駆動を確認した。
著者
亀田 幸枝 島田 啓子 田淵 紀子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、妊娠・出産・育児に向けた妊婦の主体的行動を支援するために妊婦のエンパワメントを把握し、出産前教育の評価指標となる尺度を開発することである。臨床での尺度の有用性を確認し、修正した尺度の信頼性・妥当性を検討した。調査の結果、エンパワメント尺度を用いてクラスに参加した妊婦のエンパワメントの変化が把握できること、また、エンパワメントの高さは妊婦の主体的行動に影響することが示された。よって、エンパワメントに介入する意義、出産前教育の評価指標としての有用性が示された。また、尺度の修正版を作成し、妥当性と信頼性を確認した。今後、更に尺度を洗練させ、効果的な出産前教育を検討することが課題である。
著者
亀田 純
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

浅部化石付加体である三浦-房総付加体に発達する沈み込み帯前縁断層(白子断層、浅間断層)を対象として粘土鉱物分析を行った。その結果、いずれの断層においても断層内部(断層ガウジ)における局所的なスメクタイト-イライト相転移反応の進行が見られた。この反応はおそらく断層運動時の摩擦発熱によるものと考えられ、地震性の高速すべりが付加体先端部まで到達していたことの物的証拠と考えられる。
著者
村主 崇行
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

私の研究計画の主眼は、ソフト的には「物理的自由度、ないし計算資源」の適切な分配の実現、ハード的には価格性能比が良い汎用GPU型並列計算機の利用によりシミュレーション宇宙物理学で独創的な研究を実現することであった。DC2採択までに行った準備的研究の結果、当初の研究計画にあった無衝突粒子加速現象に加えて、当初の計画では、GPU化が困難と考えていた流体計算についても、GPU化できるという目途が立った。そこで、2009年4月から8月にかけては、無衝突加速現象の数値実験を行い、統計データをためる一方で、原始惑星系円盤における氷粒子の表面帯電と電荷分離の素過程の研究を行った。2009年10月にはこれに関する論文[1]を提出し、受理された。つぎに、2009年9月には、並列GPU計算機向けの3次元流体シミュレータを作成し、2009年11月より東京工業大学のTSUBAMEグリッドクラスタ、つづいて長崎大学のDEGIMA GPUクラスターコンピュータにて、本格的な規模のGPUを利用した研究を開始した。宇宙物理学の未解決問題として、星間物質の熱的不安定性によって引き起こされる3次元乱流の研究を選んだ。その結果、前人未到の高解像度の計算を実現し、幅広い応用〓をもつもののGPU化は困難とされていた流体計算がGPU計算に適していることを実証した。この結果を論文にまとめ、投稿している。私は自分自身の研究を進めつつ、共同研究、講習会を主催・参加してGPUのメリットを分かちあってきた。すると、GPUやより将来の計算機を使う上での障害も見えて来、研究計画にあった「アルゴリズムの記述を元に、設計の異なる計算機に対してコードを自動生成・変換する」手法の重要性がますます明確となってきた。そこで、長期的視点に立ったコード生成手法の研究開発を主眼とし、京都大学の次世代研究者育成センターの職員に応募したところ採用され、2010年4月より特定助教として、宇宙物理学および情報学、さらには学問一般を見据えた研究に邁進している。
著者
二村 雄次 佐野 力 安部 哲也 梛野 正人 横山 幸浩 國料 俊男 千賀 威 西尾 秀樹
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

大腸癌皮下発癌モデルに対してNek2 siRNAとS1併用投与群はNek2 siRNA単独投与群より有効であった。Nek2 siRNAとCDDP併用投与群においても有効であり、相加効果であった。ラットでのNek2 siRNAの血中移行は局所投与後15minで最高となり60minでほぼ消失していた。またNek2 siRNAの毒性試験より無毒性量(NOAEL : No Obeserved Adverse Effect Levels)は3.7(mg/kg)で、Nek2 siRNAの最大推奨初期投与量(MRSD : Maximum Recommended Starting Dose)は0.0285(mg/kg)であった。