著者
桜井 富士朗 桜井 香代子 辻田 夏希
出版者
帝京科学大学
雑誌
帝京科学大学紀要 (ISSN:18800580)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.19-25, 2010-03-31

ニホンザルの内部寄生虫は、宿主であるニホンザル自体の疾病や死亡原因となるだけでなく、ヒト社会と生息域が重なることにより、公衆衛生上の問題として人獣共通感染症(zoonosis)の病原体ともなりうる。私たちは異なる生息地にすむ二つの野生ニホンザル群から糞を採取、分析、内部寄生虫保有率を比較した。調査対象は、人里に近い帝京科学大学に近接する山梨県大月市の野生ニホンザル群と、無人の宮城県金華山島の野生ニホンザル群である。大月群での内部寄生虫保有率は75%、金華山群では18,8%であり、主たる寄生虫は鞭虫(Trichuris sp.)であった。結果は、二つの群れの自然人為環境の違いが内部寄生虫保有率の違いに影響を与えていることを示唆する。
著者
西藤 岳彦 竹前 善洋 内田 裕子
出版者
獣医疫学会
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.71-75, 2009

2009年4月にメキシコで発生したインフルエンザの流行が豚インフルエンザウイルスの遺伝子再集合ウイルス(リアソータント)によるものであることが明らかになり,6月にはWHO(世界保健機関)も新型インフルエンザウイルスとしてパンデミックを宣言した。1997年にH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスによる人感染事例によって6人が死亡して以来,高病原性鳥インフルエンザウイルス(Highly Pathogenic Avian Influenza virus ; HPAIV)に対する注目が高まっていた中で起こった新型インフルエンザの流行によって動物のインフルエンザウイルスが人獣共通感染症として人類に与える脅威が改めて認識されたことと思われる。本稿では,動物,特に家畜(豚,馬,家禽)に存在するインフルエンザウイルスについて解説する。<BR>動物のインフルエンザはオルソミクソウイルス科(<I>Orthomyxoviridae</I>),インフルエンザウイルスA属(<I>Influenzavirus A</I>),インフルエンザA型ウイルス(<I>Influenza A virus</I>)によって引き起こされる。一方,人のインフルエンザは,インフルエンザA型,B型,C型ウイルスによるもので,それぞれの型はウイルスのNP(Nucleoprotein),M(Matrix)蛋白の抗原性によって区別される。
著者
新井 重光 菊地 正武
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.189-196, 1971-10-29

草地の不耕起簡易造成への易溶性カルシウム塩の利用の可能性につき圃場試験で検討した。試験地は愛知県北設楽郡設楽町の名古屋大学草地研究施設内の雑木林地で土壌は腐植に富む「黒ボク」である。得られた結果は次のように要約される。1)酢酸カルシウム施用によって,牧草収量,牧草率および荳科率が高まった。しかし,2年目には炭酸カルシウム区の収量および牧草率は酢酸カルシウム区のそれらに近くなった。2)土壌分析の結果では酢酸カルシウムあるいは炭酸カルシウム施用のいずれによっても表層5cmまでのpH (H_2O,KCI),y_1に影響がみられたが,より下層では明らかではなかった。しかし,下層の置換性カルシウム含量は酢酸カルシウム施用によって明らかに増大した。このことから易溶性カカシウム塩による草地化促進の効果の原因を推定した。3)これらの結果から易溶性カルシウム塩の利用の可能性が結論された。
著者
久保 成隆 大里 耕司
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本科学研究補助金による4ケ年間の研究を通じて、下記の各項について以下の様な成果が得られている。先ず、(1)user friendlyな非定常流シミュレーションモデルに関しては、陰差分法をベースとしたモデルの開発に成功した。そのモデルをベトナム紅河デルタでの排水解析に適用しその有効性を実証した。同時に非定常流モデルを水文解析のタンクモデルとしても使えることを示した。次いで、(2)広域な低平地における排水解析に関しては、タイ国のチャオプラヤデルタの浮稲地域を研究対象として、水収支計算により、デルタの浮稲地帯の持つ遊水能力を検討した。その結果、雨季における洪水問題と乾季における水不足問題を軽減する遊水地と調整池の設置構想を提案して、それによって二つの問題をある程度解決することが可能であることを示した。(3)感潮河川における堰の建設がもたらす異常潮位の解析に関しては、摩擦項の非線形性を考慮した理論解析に成功した。その結果、堰の河口からの位置によって異常潮位の振幅を予測する近似的な理論式を提案することができた。(4)水位観測による用水路の流量推定に関しては、村高用水での現地観測と実験室における模型実験によってその可能性を検討した。その結果、水位観測データによる非定常流解析が、流量を推定する上で非常に有効であることが実証された。しかし、同時に、模型実験においては縮尺比率が大きい場合、摩擦項の取り扱いに関して疑問点が指摘され、それに関しては今後の課題となった。(5)用水路系では水理操作は定常から次の定常を目指して行われるわけであるが、それの遷移過程に関しては、その理論解析に成功した。その結果、水路の長短は支配方程式の無次元化によって分類でき、短い水路での定常への遷移過程は波の往復によって、一方、長い水路で定常への遷移過程は拡散現象によって実現されることが判明した。
著者
村田 和義 中野 有紀子 榎本 美香 有本 泰子 朝 康博 佐川 浩彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.610, pp.25-30, 2007-03-16

マルチモーダルコミュニケーションでは,音声,ジェスチャ,オブジェクト操作など異なるモダリティーの振る舞いが同時にかつ適切なタイミングで生じている.本研究では特にテレビパソコン操作時におけるマルチモーダル対話型ヘルプエージェントに注目する.まずWizard-of-Oz法を用いて利用者-ヘルプエージェント間の対話例を収集し,対話的なヘルプエージェントでは利用者の状態の確認とそれに伴う補助的な説明が行われることを示す.さらに利用者-エージェント間の対話状態を予測するための確率モデルをベイジアンネットワークにより構築し,ヘルプエージェントが補助的な説明を行う最適なタイミングの予測を行う.
著者
倉鋪 桂子 末次 聖子 平井 由佳
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成17年度の実施事項1.研究の対象および方法二ケ所の介護老人福祉施設から軽度の認知症でアクティビティへの意思を表明できる者10名を選び、研究の承認を得た。研究者二人で8月〜12月の間、週2回施設を訪問した。対象者一人について1回1〜1.5時間を用いた。2.研究経過および結果第1期(8月-9月)「対象者の意思表出がない」時期「今最もしてみたいこと」について話し合ったが利用者の意志表示はなかった。「施設のスタッフは忙しい」とか、「叱られる」などの発言があった。第2期(10月-11月)具体的な意思表出された時期A:ソ連の捕虜収容者の生活を懐かしみ、写真集や記録書を頼りに言語障害があるがロシア語を思い出したり、当時を生き生きと話す。B:「定期的に外出したい」に対し、利用者の日課と人材(職員やボランティア)、健康状態から実行可能な計画をたてて外出ができた。C利用者:「揚げたてのテンプラ」「自分用のコーヒー缶」など食に対する興味が強い。嚥下困難があるためSTの介助でてんぷら、すし、あんぱん等を摂取できた。第3期(12月)積極的な行動が現れた時期C:家族関係が複雑で、妻・息子とも交流は無かったが「孫に会いたい」と言われ、関係者の努力で孫の面会を得られ、それにより家族との関係回復も出来た。D:クリスマス会の最後に利用者代表で感謝の言葉を述べた。それまでは催し物に受動的であった。3.男性利用者のアクティビティ・ケア男性は団体行動より個別の行動を好んだ。男性利用者のアクティビティには、本人の施設入所に対する「肯定感」「施設生活への存在感」を確認する必要がある。それには、彼らが施設の生活にどれだけ主体的に行動をしているかが重要であった。一方施設のスタッフも食事・入浴等個人の好みには気遣うが全体生活にアクティビティとしての主体的な行動の理解が乏しかった。今後、男性利用者自身が生活の企画や自らの組織つくりへの参画が必要と考える。
著者
水越 允治 吉村 稔
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.中部・近畿両地方の歴史時代の気候復元を、古記録に記された日々の天候記録をもとにして行った。古記録の収集地点数は約35地点、対象年代は主として17世紀以後とした。ただし京都・奈良については、15世紀まで溯って収集を行った。2.収集資料を日ごとに整理し、天気の推移から年々の季節の進み遅れ、季節の特徴を明らかにする作業を進めた。3.梅雨の季節については、入・出梅日の推定を15世紀以後の約500年間、梅雨期間降水量の推定を17世紀末以後の約300年間に関して行なった。(1)出梅日の長期変動には70年程度の周期が検出された。(2)梅雨期間降水量には10年平均値を対象にした場合、約120年の周期が認められる。(3)1771〜1870年の100年間について、毎年の梅雨の経過を詳細に検討したところ、集中豪雨型の梅雨は1771〜1790年と1821〜1870年の期間に多発しているのに対し、空梅雨型の梅雨は1791〜1810年の間に多発していること。4.台風の動向について、1781〜1860年の間を対象に、襲来数、襲来の時期の変動傾向を調査した。(1)襲来数には時代による増減が見られ、1810〜1820年代には比較的少なく、1830年代以後に著しく増加していること。(2)襲来の時期については現在と大きな差は認められないこと。5.冬の寒さについて、小氷期の頂点といわれる1820年代を対象に調査を行った。(1)厳寒の冬は連続して発生せず、数年おきに出現していること。(2)寒さの程度は現在に比べれば顕著であるが、気象観測時代に経験された範囲を出るものではないこと。
著者
Daichi Kitagawa Seiya Kobatake
出版者
The Chemical Society of Japan
雑誌
Chemistry Letters (ISSN:03667022)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.93-95, 2011-01-05 (Released:2010-12-16)
参考文献数
37

A photochromic diarylethene having methoxymethyl groups at the reactive carbons was synthesized, and the thermal stability of the closed-ring isomer was examined. The closed-ring isomer of the diarylethene caused both the thermal cycloreversion and a thermally irreversible reaction at 120 °C. The structure of the thermal product was determined by 1H NMR, MS, and X-ray crystallographic analysis.