著者
早川 竜馬
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、近年、フレキシブルな機能を有する電子デバイスとして注目されている有機トランジスタの特性を有機ヘテロ界面での電荷移動を光により制御することによって変調することである。下地となるクォテリレン有機トランジスタの高性能化に成功し、2分子層程度でも良好に動作する薄膜トランジスタの作製に成功した。有機ヘテロ界面での効果的な電荷移動を誘起させるために電子受容性が極めて高い電荷移動錯体を用いて積層型トランジスタを作製した。電荷移動錯体分子を蒸着することによりクォテリレントランジスタの閾値電圧を変化させることに成功した。この結果から、有機ヘテロ界面を利用したデバイス制御が可能であることが示された。
著者
福間 浩司 磯部 博志 林田 明
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中国沿岸部や韓国などの東アジアの湿潤地域では, アジア大陸内部からダストが間断なく供給されると同時に, 過去から現在まで人類が継続的に活動してきた痕跡が数多く残されており, 人類の活動と気候変動の影響を研究するための理想的なフィールドである. 中国沿岸域や韓国の旧石器遺跡のダスト堆積物について交流磁化率や磁気ヒステリシス特性の測定を行い, 磁性ナノ粒子の種類・含有量・粒径分布を求めた. 乾燥地域のダスト堆積物との比較から, 従来の磁気測定では解明できなかった湿潤地域の気候と磁性ナノ粒子の対応関係を明らかにすることができた.
著者
東 正剛 緒方 一夫 辻 瑞樹 緒方 一夫 辻 瑞樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

インドとその周辺のツムギアリについて分子系統解析を行い、インド・スリランカ個体群はバングラディッシュまで分布する東南アジア個体群とは明らかに異なる系統であり、乾燥・寒冷期にインド南西部にあったレフュージア熱帯林から拡散したことが明らかとなった。系統上近縁と考えられているアシナガキアリはツムギアリほど明瞭な系統地理を示さず、人為的攪乱の影響を大きく受けていることが明らかとなった。DNA解析と生態調査の結果、生態系攪乱規模の違いは遺伝的なものではなく、侵入先の生態系が大きく関わっていることが示唆された。
著者
高原 光 深町 加津枝 大迫 敬義 小椋 純一 佐々木 尚子 佐野 淳之 大住 克博 林 竜馬 河野 樹一郎
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

堆積物中に残存している花粉や微小な炭(微粒炭)の分析から,特に過去1万年間には,火が植生景観に強く影響してきたことを解明した。特に1万~8千年前頃には火事が多発して,森林植生の構成に影響を及ぼした。また,過去3千年間には,農耕活動などに関連して火事が多発し,照葉樹林やスギ林などの自然植生はマツ林と落葉広葉樹林へと大きく変化した。火入れによって,ナラ類を中心とする落葉広葉樹林が成立する機構も解明できた。草原や里山景観の形成には,火入れが強く関連していることが明らかになった。
著者
林 竜馬
出版者
京都府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究課題の目的である、約12万年前の温暖期(最終間氷期)における近畿地方での森林変化を明らかにし、温暖期の気候システムの変化が森林に及ぼす影響について解明するために、本年度は以下の内容の研究を実施し、研究成果の公表を行なった。1.最終間氷期における森林変遷の特徴と気候システム変化の影響の解明:現在の温暖期と比較した、最終間氷期の森林変遷の共通性と特異性とを明らかにするために、琵琶湖高島沖堆積物の最終間氷期の層準と、琵琶湖ピストンコアの現在の温暖期の層準にあたる花粉分析結果について、花粉組成や年間花粉堆積量の対比を行なった。その結果、最終間氷期の前半には現在の温暖期と比べてブナが多く生育していた事、さらに後半ではアカガシ亜属から成る常緑広葉林の拡大が少なかった事が示された。現在よりも海水準が高く、夏の気温も温暖であったとされる最終間氷期において、常緑広葉樹林が制限されていたことの要因として、最終間氷期の前半で冬の日射量が少なかったことに起因して寒冷な冬の気候が成立したこと、さらに後半では急激な夏の日射量の低下による冷涼な夏の気候が成立したことが考えられた。2.成果の公表:最終間氷期を含む過去約14~3万年前における琵琶湖高島沖、神吉盆地堆積物の花粉分析結果について、学会誌に公表した。また、平成21年7月6日から11日にかけてアメリカのオレゴン州立大学で開催されたPAGES(Past Global Changes)国際会議に参加し、本研究の成果を発表した。
著者
中尾 龍馬
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

Porphyromonas gingivalisは主たる歯周病原性細菌であり,近年は動脈硬化や冠状動脈疾患の発症,早産の誘発などにも関与することが示されている。本疾患形成には,菌体外膜にあるLPSやある種のタンパクが関連すると考えられている。本研究では,菌体外へ放出される外膜ヴェシクル(OMV)と糖合成系経路で機能するUDP-galactose 4-epimerase(GalE)に着目し,galE変異に伴うOMV産生への影響について調べた。野生株(ATCC 33277株),galE変異株,galE相補株の培養上清に含まれるOMVの形態と量を電子顕微鏡にて経時的に観察した。培養上清中のLPSはリムラス試験法にて定量した。野生株の培養上清中のOMV量は培養開始から3日間は経時的に増加し,その後死菌由来と思われるデブリスを増した。一方,galE変異株は培養開始から3日間はほとんどOMVを産生せず,その後デブリスが増した。また,galE変異株の培養上清中のLPS量も同様に,野生株に比べて著しく減少した。しかしgalE遺伝子の相補によりOMV産生は回復しなかった。以前のP.gingivalis galE変異株の解析から,GalEはP.gingivalisの生育に影響しないこと,LPSや外膜タンパクの糖化に関与することが明らかになっている^<1.2>。一方,本研究において,galE変異株のOMV産生はほとんど失われたが,galE遺伝子を相補してもOMV産生の回復がみられなかったことから,OMV産生にはgalE以外の遺伝子が関連するものと推察された。
著者
佛書刊行會編纂
出版者
佛書刊行會
巻号頁・発行日
1912
著者
鈴木学術財団編
出版者
講談社(発売)
巻号頁・発行日
1970
著者
仏書刊行会編纂
出版者
名著普及会
巻号頁・発行日
1978
著者
小瀬木 えりの
出版者
大阪国際大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

フィリピンのパナイ島アクラン州カリボは、20世紀末に復興されたパイナップルの葉脈繊維の伝統手織物ピーニャの主要産地として知られている。復興後約20年を経て、この地域の手織物産業は比較的安定した雇用を作り出し、農村を基盤とした副業の性格を脱して専業化した織手職人を抱えるようになりつつある。その背景には、先進国の大手ブランドの下請等、地元の織物製造業者に大口の契約がもたらされた状況があり、この点で生産と市場のグローバル化という潮流に、発展途上国に特徴的な家族経営を未だに基本とするこの地域の零細業者も巻き込まれている構図が見て取れる。専業化傾向は他方で、伝統的な労使関係にも影響を与えている。以前は製造業者と織手は1回の仕事ごとに契約を交わすのみで、長期契約または常態的雇用は保証されなかった。ところが今日では従業員を社会保障制度に加入させ保険料を負担する等、長期雇用を前提に企業が労働者に行うような福利厚生サービスを実施する零細業者も現れ始めた。このことは織手職人と製造業者との関係が、常態的雇用に近い長期契約関係に移行しつつあることを示唆しており、これが農業を離れた専業的職人を生じる基盤となっている。長期契約の専業職人化を促す原因は先進国の大手企業である。カリボの業者が自発的に労働者の待遇改善を図る1つの理由は、品質管理や納期に厳しい先進国の取引先のニーズのため良質な職人を確保する必要に迫られたことである。もう1つは社会的責任と対外的イメージを重視するこれら大企業が、下請業者にも労働者の待遇や福利厚生にしばしば厳しい注文をつけ始めたことである。90年代に発展途上国の子供労働の搾取問題で揺れた米企業の教訓が影響しているのである。外圧により移行を迫られている近代的労使関係と、伝統的なパトロン-クライエント関係には類似点もあり、ここにおいて両者が調整された新たな関係が創発しつつあると考えられる。
著者
宇津 圭祐 石井 啓之
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IE, 画像工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.206, pp.97-102, 2009-09-17

アドホックネットワークにおいて,ネットワーク全体に情報を配信する方式として,フラッディングが用いられている.しかし,過剰なフラッディングの使用は,大量の冗長パケットが発生しネットワークに多大な負荷を与える.冗長パケット送信の削減と負荷の低減のため,多くの方式が提案されてきた.しかし,ノードの負荷状況を考慮し,高いメッセージ到達率を確保しつつ,冗長な再ブロードキャストの削減を実現している方式は数少ない.我々は以前よりノードのMAC送信キュー情報に基づき,再ブロードキャストの実行可否を判断する効率的フラッディング方式を複数提案している.本稿では,このうちノードの負荷状況により動的に再ブロードキャスト確率を設定する,Load-aware Dynamic Probabilistic Flooding(LDPF)に焦点を当てる.そして.ネットワークシミュレーションによる性能評価を行い,有効性を示している.
著者
濱田 淳司 内山 彰 山口 弘純 楠本 真二 東野 輝夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.8, pp.17-24, 2009-01-22
被引用文献数
1

本稿では,無線アドホック通信を用いて,携帯情報端末を保持する歩行者や車載端末を搭載した車両 (ノード) の密度分布をリアルタイムに推定する方法を提案する.各ノードが周辺のノード密度分布を把握できれば,交通状況に応じた高度ナビゲーションや混雑するイベントでの歩行者誘導など高度交通システムにおける様々なサービスなどへの応用が期待できる.提案手法では,各ノードは GPS などで自身のおおよその位置を把握できるものとし,隣接端末が保持するノード分布情報をアドホック通信で定期的に受信することで自身が把握するノード分布情報を更新する.また各ノードがノード分布の変化予測を行うことで時間経過によるノード分布の変化にも追随する.シミュレーション実験を行い,実密度分布と推定密度分布に対して単位領域ごとの密度値の順位付けの相関を導出した結果,相関係数が 0.64 から 0.84 となり,両者の相似度が十分高いことが示された.In this study, we propose a method for mobile wireless nodes, which may be pedestrians or vehicles with information terminals, to estimate the density of mobile nodes in their surroundings. The method enables to provision intelligent services which are environment-aware with highly dynamic movement of nodes, like intellectual navigation that tells the user the best route to detour congested region. In the proposed method, each node is assumed to know its location roughly (i.e. within some error range) and to maintain a density map covering its surroundings. This map is updated when a node receives a density map from a neighboring node. Also by estimating the change of the density, taking into account the movement characteristics of nodes, it is updated in a timely fashion. The simulation experiments have been conducted and the correlation between the ranks of density values of unit cells in the real and estimated density maps has been measured. The results in two different scenarios have shown that the proposed method could attain the correlation coefficients 0.64 and 0.84, indicating the high accuracy of the estimated density maps.
著者
伊藤 健児 若山 公威 岩田 彰 梅田 英和
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告マルチメディア通信と分散処理(DPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.26, pp.147-152, 2006-03-16

2005年6月から7月にかけて、「IT実証実験」として、愛・地球博の会場において、最大130台規模の大規模モバイルアドホックネットワークの実証実験を行った。実証実験では、アドホックネットワークにおける位置推定、およびPKIベースの機器認証と暗号化通信に基づくセキュア通信の実証を目的とし、自由に動き回っている多数の端末間でも、的確にマルチホップ通信が行えることを確認したが、規模の拡大に伴いメッセージ数の増加が問題となった。実証実験の経験から、本研究では動的なルーティングパラメータの変更による通信メッセージ数削減手法を提案し、静的パラメータを用いた従来方式より、同等の遅延時間を保ちつつ、メッセージ数を削減できることを確認した。From June to July 2005, we have executed an experiment of large scale mobile ad hoc networks using 130 mobile wireless LAN terminals as "IT Proof Experiment" at "EXPO 2005 AICHI, JAPAN". The purpose of this experiment is to examine our position estimation method on ad hoc networks, and secure communication protocol based on authentication and encrypted communication (PKI). It has been confirmed that multi hop communications between many moving terminals were possible, but the more terminals using, the more packet collisions occurred because of message increasing. A method to change routing parameters dynamically is proposed in this paper. It has been investigated the proposed method can reduce messages than conventional method using static parameters though keeping same delay time.
著者
石原 昭彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高齢者を用いて最大努力での大腿屈曲及び伸展筋力、大腿部の血流量、酸化ストレス度を測定した。さらに最大努力による筋運動の効果を検討した。加齢に伴い屈曲及び伸展筋力が低下した。筋力と血流量の間には高い相関が認められた。60歳代と70歳代では、運動前と比較して運動後に屈曲及び伸展筋力、血流量が増大した。60歳代では、運動により酸化ストレス度が減少した。以上の結果より、年齢が若いほど筋運動の効果が顕著に認められること、筋力の増大には血流量の増大が関係していること、運動により活性酸素の産生が抑制されることが明らかになった。
著者
澤井 仁美
出版者
大学共同利用機関法人自然科学研究機構(共通施設)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

気体分子を生理的なエフェクターとする気体分子センサータンパク質は、各種生物の遺伝子発現制御、代謝系制御、運動性制御など様々な生理機能制御に関わっていることが明らかにされつつあり、近年、大きな注目を集める研究対象となっている。ヘムタンパク質が気体分子のセンサーとして機能するためには、生理的エフェクターとして機能する特定の気体分子が選択的にヘム鉄に結合し、それに伴う構造変化がタンパク質全体に伝わることで機能が発現されると考えられる。この機能が正常に発現するためには、ヘムおよびその近傍にあるアミノ酸側鎖が気体分子を選択的に認識し、エフェクターとして機能する特定の気体分子がヘム鉄に結合したときのみ構造変化が生じなければならない。しかし、多くの気体分子センサータンパク質では、このような気体分子の認識・感知やそれに続く構造変化と機能発現に関する分子メカニズムは未解明である。本年度は、緑膿菌Pseudomonas aerginosa中に含まれ、酸素に対する走化性シグナルトランスデューサーとして機能すると推定されていたAer2タンパク質が、ヘム含有PASドメインをセンサードメインとして利用している新規な酸素センサータンパク質であることを明らかにした。ヘム含有PASドメインを有する走化性シグナルトランスデューサーは、Aer2が世界で最初の例であった。本研究において、各種変異体を調製し、それらを対象として共鳴ラマン分光法などの各種分光学的測定により、Aer2タンパク質の構造機能相関解明を目的とした研究を実施した。その結果、Aer2がこれまでに例の無い新規な酸素センサータンパク質であることを見出した。
著者
尾島 俊之 谷原 真一 中村 好一
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

【研究目的】従来のコホート研究は、死亡や生活習慣病への罹患をエンドポイントにしたものがほとんどである。しかし、WHO憲章で健康の定義が、心理的、社会的健康も含むとされているように、昨今は、QOL(生命の質)を目指した保健福祉活動が必要であると考えられるようになった。さらに、近年は、損失生存年数(PYLL)などの分析から、自殺の重要性が認識され、うつ状態が重視されている。そこで、脳血管疾患の有病者、その他、様々な状況の人について、これらの要因の状況等を明らかにし、特にうつ状態の危険因子を明らかにすることを目的とした。【研究方法】脳血管疾患罹患率の高いA地区の住民を対象として、コホート研究のデザインで実施した。まず、ベースライン調査を実施した。調査は、訪問面接調査、家庭血圧測定を実施した。調査項目には、ADL(Activities of Daily Living)、手段的ADL、SF-36(Short Form)によるQOL、睡眠状況なども含まれる。また、一部の対象者に関しては、血液検査、24時間血圧、心臓超音波検査などを含むより詳細な検査を行った。最終年度に、再度、訪問面接調査、家庭血圧測定を実施し、エンドポイントデータとした。この中には、知識・態度・行動(KAP)、CES-D(the Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)による抑うつ度、ストレスなども含まれる。【結果】CES-Dによる抑うつ度に関しては、7.7%が抑うつ状態にある結果であった。一人暮らしは統計的に有意ではないものの2.41という高いオッズ比を示した。物忘れがひどいは2.59、朝食を食べない4.58、ストレスがとてもある7.20、自分の体重を測っていない2.30、早朝覚醒2.45、寝付くために睡眠剤・アルコールなどに頼る2.96、楽しみや生きがいがない2.78などが高いオッズ比を示した。今後は、一人暮らし者を対象としたうつ病対策なども重要であろう。また、今回の結果では、因果関係の逆転によると考えられる項目も多数見られたため、より長期の追跡を行う研究も必要であろう。