著者
柄谷 友香
出版者
名城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.犯罪発生の要因分析と犯罪に強いまちづくり方策の提案前年度までに実施したクライムマッピング(警察庁)と高解像度写真を活用した犯罪発生箇所の同定,及び,まち歩きの実施による地域モラル情報の収集・整理によって整備された犯罪空間データと犯罪発生率との関係を分析することによって,犯罪発生要因を明らかにした.具体的には,集合住宅,公園,駅,道路,コンビニエンスストアなどの公共施設との距離と,それらのインフラを維持管理していくための市民のモラル水準を説明変数とし,犯罪発生率との関係の定量化を行った.その結果,対象地域である京都市の地区特性と犯罪発生との関係を定量的に捉えることによって,区画整理や市街地開発を行う際に,集合住宅や公園の配置,さらには,その維持管理のための人的,金銭的投資配分など,具体的なまちづくり方策にっいて検討を行った.2.犯罪マップの公開と作成過程のパッケージ化による防犯意識の啓発本研究では,GIS機能をもつ,ESRI社ArcGIS,及び,一般にも閲覧操作可能なGoogleMapsの異なる特性をもっソフトウェアを用いて,1.の分析結果の可視化を試みた.また,これらのGISを活用して作成した犯罪マップは,最終成果物として地域やWeb GIS(インターネット上)での公開を行うことの必要性と効果の高さについて論じるとともに,今後の防犯への意識啓発への貢献について検討を行った.また,これまでの成果を通した犯罪マップ作成から公開までの一連の過程をパッケージ化し,かつ,マニュアル化することによって,他地域への普及を可能にしていくことを自治体等との議論をもとに整理した.
著者
島田 貴仁
出版者
科学警察研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

犯罪不安(Fear of Crime)は、犯罪や、犯罪に関連するシンボルに対する情緒的反応と定義される(Ferraro,1995)。日本では近年、犯罪の増加に伴い犯罪不安の高まりが指摘されるようになったが、犯罪不安に影響する性別、年齢などの個人差、犯罪発生率との関係などの地域差に関する基礎的な研究が不足している。このため、本研究では1)日本における犯罪不安の測定尺度の確立2)犯罪率が異なる複数地区における犯罪不安の比較、3)リスク知覚を含めた犯罪不安の説明モデルの構築を目的とする。本年度は、予備的な分析として、JGSS(日本版総合社会調査)、ICVS(国際犯罪被害調査)の犯罪リスク知覚(FEARWALK,近隣で危険を感じる場所の有無)を被説明変数にした再分析を行った。米国での知見と同様に、女性は男性よりも、若年者は高齢者よりも犯罪リスクを知覚している割合が高いことが示された。ロジスティック回帰分析の結果、性別、既婚・未婚、年齢が有意にリスク知覚を予測した。また、パス解析により、犯罪リスク知覚が居住満足感を低減させ、政府の犯罪取締支出に対してより許容的にさせることが示された。変数FEARWALKは、米国の世論調査ではデファクトになっているが、構成概念妥当性への疑義や、個人の犯罪不安の程度を示すことができないといった欠点が指摘される。このため、空き巣やひったくりなど12の犯罪について「被害にあう心配」を4件法で尋ねる犯罪不安尺度を構成した。確認的因子分析の結果、財産犯と身体犯の2因子構造をもち、犯罪不安の性差は身体犯不安に起因することなどの知見が得られた。今後、HLM(階層線形モデル)を用いて、個人差と地域差とを統合した分析を行う予定である。
著者
島田 貴仁 鈴木 護 原田 豊
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.51-64, 2004-10-18
被引用文献数
1

本研究では,東京都大田区南部の104町丁目に住む3,120名を対象にした社会調査データに構造方程式モデリングを適用して,犯罪不安と被害リスク知覚の認知構造とその形成要因を検討した.調査では12罪種を提示し,犯罪に対する情動的な反応である犯罪不安と,主観的な発生確率の見積りである被害リスク知覚とを区別して測定した.まず,確認的因子分析により,犯罪不安・リスク知覚はともに財産犯と身体犯の2因子構造を有し,空き巣やひったくりなどの財産犯は,一般市民には身体犯としても認知されていることが示された.次に,被害経験・見聞,地域の無秩序性,富裕度,家族内弱者の有無が犯罪不安,犯罪リスク知覚にもたらす影響を検討した.これら形成要因は被害リスク知覚を媒介して間接的に犯罪不安を生起させていたのに加え,直接犯罪不安を喚起していた.また,ゴミや落書きなどの地域の無秩序性が財産犯被害不安を生起させていることや,子どもや高齢者を家族に持つ回答者は,身体犯被害の伝聞情報によって犯罪不安を生起させていることが明らかになった.
著者
西村 雅史 伊東 伸泰
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.2473-2480, 2000-11-25
被引用文献数
26

ディクテーションシステムが実用となった今, 大語彙音声認識の研究対象は, 「読み上げ(read speech)」から自然で自由な発話(spontaneous speech)」へと移行しつつある.このような自由発話については過去に対話音声コーパスを利用して様々な観点からその性質が調べられてきた.しかし, 特に日本語に関してはそのデータ量が統計的手法に基づく大規模な音声認識システムを構築するには不十分であったこともあり, 自由発話の書き起こしを目的とするような大語彙音声認識システムの性能についてはあまり報告されていない.我々は自由発話の認識精度改善を目的として, 放送大学の講義音声を題材とした自由発話コーパスの整備を進めてきた.ここではこのコーパスの概要と, それを用いて作成した自由発話の大語彙音声認識システムの認識性能について報告する.実験の結果, 従来の読み上げを対象とするシステムでは51.5%であった講義音声の単語誤り率が, 16.4%にまで改善された.
著者
奥田 一博 川瀬 知之 鈴木 啓展
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

歯周疾患により失われた歯肉および歯槽骨を成体由来細胞、増殖因子、マトリックスの三者を用いて組織工学的に再生させることを目的とした。とりわけ、細胞供給については少量の組織片から培養操作を経てシート状の大きさに拡大することにより初めて臨床応用が可能となった。具体的には歯肉組織片から上皮細胞と線維芽細胞に分離・培養して培養上皮シートと培養線維芽細胞シートを完成させた。また骨膜組織片から培養骨膜シートを完成させて、すでに報告済みの多血小板血漿(PRP)とハイドロキシアパタイト(HAp)顆粒混合物に被覆する形で歯槽骨欠損部に臨床応用を行った。基礎的研究成果として、培養上皮シートの細胞挙動、動物製剤を含まない培地で歯肉スポンジを培養する方法、骨芽細胞・歯根膜細胞における肝細胞増殖因子(HGF)の作用、細胞外ATPおよびATPγSの歯根膜細胞増殖に対する作用について検討した。臨床的研究成果として、培養線維芽細胞シートを従来の結合組織移植片の代替物として用い露出根面の歯肉被覆に成功した。培養骨膜シートを多血小板血漿(PRP)とハイドロキシアパタイト(HAp)顆粒混合物と用いることで、骨再生が飛躍的に向上した。今後、臨床研究については細胞プロセシングセンターでの培養を規格化し培養骨膜シートの症例数を増やしてかつ長期的予後を観察することで先進医療として申請したい。基礎的研究に関しては、さまざまな足場材料を検討するとともに細胞の播種方法に多血小板血漿やヒアルロン酸を応用することで細胞の更なる高密度の培養を図る予定である。
著者
宮田 俊弘
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.23, no.67, 1999-11-05

1999年9月6日から9日まで、ドイツ、ベルリン市で開催されたThe 19th International Display Research Conference(Euro Display '99)について報告する。ここでは、発光型ディスプレイ分野の発表の中で、特に有機および無機エレクトロルミネッセンス(EL)並びに電界放出ディスプレイ(FED)に関連するセッションで発表された論文の内容を要約して紹介する。発表件数は、有機LEDが7件、無機ELが11件そしてFEDが7件であった。
著者
北島 勉 野山 修 加藤 誠久 CHADBUNCHACHAI Witaya CHAIPAH Weerasak CHUAYNA Nonglak
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.377-386, 2001

発展途上国では,交通事故等による外傷が増加しており,救急搬送システムを構築することへの必要性が高まっている。本研究では,タイ王国の一地方都市であるKhon Kaen市(コンケン市)での救急搬送システム構築に関する先駆的な取り組みを分析し,タイ及び発展途上国における救急搬送システムのあり方を検討した。コンケン市では,コンケン病院が中心となり,コンケン大学病院,ボランティア団体,警察署,教育機関が連携をとりながら人材育成,通報手段の整備,搬送サービスの提供を行っていた。しかし,コンケン病院の救急隊とボランティア団体の救急隊との間には患者へのケアにおいて格差が認められた。様々な部門と協力しながら救急搬送システムを構築していくことは,多くの発展途上国にとって現実的な方法であるが,システムを更に発展させていくためには,研修や情報システムの整備等により,サービス提供者間のサービスの質の格差を是正する必要があると考える。
著者
岩本 晃明 佐藤 三佐子 古市 泰宏 野澤 資亜利
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

当研究は当初「国際学術研究」として申請・採択されたものであり、国外研究協力者のMcGill大学・Gagnon教授との共同研究により、精子運動抑制因子(SPMl)およびその前駆体のSemenogelin(Sg)を中心として研究を行い以下の知見を得た。(1)従来より精漿蛋白は精子のcapacitationに関与すると言われており、ヒト精子capacitationに対するSgの影響を検討した。ヒト臍帯血に含まれる分子量3KDa以下の低分子成分(FCSu)を用いてcapadtationを誘発した。Sgの存在によりヒト精子のhyperactivationが抑制されるのが観察されたが、運動精子を用いたアッセイ系の不安定さや、精子自動分析機による解析が困難で、明らかな濃度依存性は見いだせなかった。つぎにacrosome reactionを指標とした検討で、Sgは濃度依存性にヒト精子のcapacitationを抑制することが判明した。Xantine oxidaseを用いたケミルミネッセンスの測定から、その作用機序はO_2^-の生成抑制であることが明らかになった。また、Sgは精製精子とインキュベーションすることで分解を受け、その分解産物も同様にヒト精子のcapacitationを抑制することをも見いだした。この結果より、SgおよびSPMlは精子のcapacitationに関与していることが示唆された。(2)男子不妊症および正常男性の一部にSg遺伝子の欠失が見られたことから、この変異型蛋白の機能を解析中である。また、DNA二次元電気泳動法によりSg遺伝子のSNP検索を行っているが、現在のところSNPは確認されていない。(3)組換え型Sg(r-Sg)蛋白の発現に成功し、多量の高純度・高活性r-Sg蛋白の精製が可能になった。このr-Sgを抗原として作製した抗体は、天然型SgやSPMlとも特異的に反応した。
著者
前田 雅英 星 周一郎 亀井 源太郎 木村 光江
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、不正アクセス禁止法、児童買春等処罰法、ストーカー規制法などの近時の新設刑事立法につき、立法過程や立法趣旨を解明し、これらの特別法の射程を解明することを目的とした。平成13年度に、これらの特別立法の運用状況の実際を検証するため、北海道警察本部、福岡県警察本部をはじめとする関係官庁にヒアリング調査を行ったが、平成14年度はそこで得られた調査結果並びに、統計資料を整理・検討し、具体的分析を行った。また、インターネットをはじめとする諸通信手段の法規制とその実効性について検討を加えたが、その過程で、新たに導入が始まった防犯カメラシステムについても、その運用状況についての検討を行った。以上の成果として、第1に、児童買春等処罰法、ストーカー規制法、DV防止法は、いずれも、従来は「犯罪」として認知されて来なかった領域であるが、分析の結果、極めて積極的に活用されていることが分かり、さらに法適用を積極的に進めるための法改正、運用の改善が必要であることが明らかとなった(前田「犯罪の増加と刑事司法の変質」罪と罰39巻1号5〜12頁)。さらに主要国との比較から見ても、児童ポルノに画像データを含めること、児童ポルノの単純所持・保有を処罰対象とすること、実在の児童に見せかけたCGなどについて、処罰範囲を拡大する必要性があることが判明した(木村「児童買春等処罰法、ストーカー規制法、DV防止法の運用状況と課題」都法43巻1号)。第2に、防犯カメラシステムにつき、新宿、ニューヨーク等の検討の結果、犯罪抑止に絶大の効果があることが実証されつつあることが示されたが、さらに一層具体性・詳細な分析を行い、いかに効率的にカメラを配置するかを検討する必要があることが明らかとなった(亀井「防犯カメラ設置・使用の法律問題-刑事法の視点から」、都法43巻2号)。
著者
高村 大也 乾 孝司 奥村 学
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告自然言語処理(NL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.22, pp.79-86, 2005-03-11
参考文献数
14
被引用文献数
1

単語の感情極性(望ましいか否か)を判定する方法を提案する。提案手法では、単語の感情極性をスピンの方向とみなし、語釈文によって構築された語彙ネットワークをスピン系でモデル化する。平均場近似を利用してスピン系の状態を近似的に求めることにより、単語の感情極性を判定する。また、系の状態に影響を与えるハイパーパラメータの予測方法も同時に提案する。英語と日本語で実験を行い、数語から十数語という少数の単語を種として、高い正解率で単語の感情極性判定が実現できることを示した。We propose a method for extracting semantic orientations of words:desirable or undersirable. Regarding semantic orientations as spins of electrons,we use the mean field approximation to compute the approximate probability function of the system instead of the intractable actual probability function. We also propose a criterion for parameter selection on the basis of magnetization. Given only a small number of seed words,the proposed method extracts semantic orientations with high accuracy in the experiments on English lexicon and Japanese lexicon. The result is comparable to the best value ever reported.
著者
長谷川 成一
出版者
歴史地震研究会
雑誌
歴史地震 (ISSN:13499890)
巻号頁・発行日
no.2, pp.109-119, 1986

第3回歴史地震研究会報告(昭和61年9月6日 於東京大学地震研究所)
著者
田中 佐知
出版者
神奈川県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】犬は、ヒトの生活の中でペットとして飼われているだけでなく、盲導犬や救助犬をはじめ、様々な場面で使役犬として活躍しでいる。いろいろな使役に適するように品種改良を重ねられてきた結果、現在は400種以上の犬種が存在している。しかし同一犬種内でも使役犬になれる個体と、なれない個体がいるのが事実であり、ヒトのニーズに応えていない。そこで、犬の気質(個性)に関連しているとされている脳内神経伝達物質であるドーパミン受容体D4 (DRD4)及び5-Hydroxytriptamine Receptor (5-HTR)の1Bの各遺伝子と個体の行動との関連を調べることで、使役に適した個体の選別につながると考えた。【方法】牧羊犬として品種改良されたボーダーコリー種を用いた。一般家庭で飼われ、牧羊犬の訓練を受けている個体の行動を一定時間観察し、羊に対する集中力(注視率)を調べた。また、DRD4遺伝子については、nested-PCR法により遺伝子型を調べ、シークエンスによる塩基配列分析を行った。5-HTR1B遺伝子については、SNaPshot法を用いてSNPsを調べた。これらの結果から、注視率と各遺伝子型及びSNPsの関係を統計学的に解析した。【成果】ボーダーコリー種において、DRD4遺伝子では、3種類の対立遺伝子(435, 447a, 498bp)が検出された。それらから得られた遺伝子型はいずれも注視率との間に有意差が認められなかった。447aアレルでは、本来存在する2つの塩基置換のうち1つが存在していなかったが、アミノ酸の置換は認められなかった(非同義置換)。5-HTR1B遺伝子では、既報のとおり6つのSNPsが確認され、そのうち2つ(G246A, C660G)において、注視率との有意差が認められた。また、羊に初めて対面した年齢が1歳未満の個体は、1歳を過ぎてから初めて羊に対面した個体よりも高い注視率を示した。以上のことから、牧羊犬の気質に影響を与えるものとして、遺伝学的な素養も加味されるが、できるだけ早い時期に羊に対面させることも必要であると考えられた。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.165-174, 1997-03-31
著者
上野 和之 神山 新一 MASSART R. BACRI J.ーC. 小池 和雄 中塚 勝人 神山 新一 上野 和之
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

平成9年4月から平成11年3月までの2年の研究期間中に2回の日仏共同研究セミナーを開催し、研究成果の発表と討議を通して共同研究の進展が図られた。2年間の共同研究の成果をまとめれば、以下のようになる。1. 高機能磁性流体の開発とその物性超微粒子の表面改質や各種ベース液への安定分散の成功により、磁性流体の高機能化が進み、知能流体としての特性の解明が進められた。特に、超微粒子の磁化特性や超微粒子を含む磁性流体の光学特性(Soret effect)の解明が、測定法の開発も含めて進められた。また、液体金属を母液とする磁性流体の開発も進められた。2. 管内流動特性の解明高機能磁性流体を用いて、管内振動流や気液二相流の流動特性に及ぼす磁場の影響が詳細に解明された。特に、非一様磁場下での磁性流体の加熱沸騰を伴う気液二相流の熱・流動特性の解明が進められた。3. 応用研究磁性流体の応用研究としては、ダンパ、アクチュエータ、ヒートパイプ、エネルギー変換システムの開発に関する基礎研究が進められた。
著者
嶋矢 貴之
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

マネーロンダリングへの刑事法的対応、非刑事法的対応、専門家の責任につき、下記のような成果を得た。【刑事的対応】わが国はマネーロンダリングにつき、組織犯罪等処罰法などにおいて、原則故意犯の処罰を定めているが、ドイツにおいては犯罪行為等に由来する財産であることを注意に認識せずマネーロンダリングを行った者も2年以下の自由刑若しくは罰金(故意の場合は3月以上5年以下の自由刑)を定め、これは故意犯(財産の由来の点以外の構成要件メルクマール)と過失犯の混合形態の犯罪であると理解されている。もっとも政策的必要性は理解可能だが、罪刑均衡やわが国の刑罰体系からすれば、慎重な対応が必要であると考える。【非刑事的対応と専門家の責任】平成18年度、わが国では犯罪収益流通防止法案が検討され、法律会計の専門家のマネーロンダリングに関する責任、届出義務が問題となった。ここでは弁護士が受ける対価が不法収益に当たるかという問題と、守秘義務との関係で届出を義務付けるべきかという問題がある。弁護士顧問料などは不法収益の規律に従うと考えることが可能と思われるが、具体的な刑事事件での弁護士費用の場合にはどのように考えるべきかは、ドイツなどでも問題となっている。差し当たり、被告人の弁護人依頼権、その政策的な保護という側面が否定方向に働き、不法収益は自由な処分は一切出来ない財産であるという理論的側面、不法収益を利用して高額な弁護士費用を正当化することになる帰結が肯定の方向に働くとの分析を行った。いずれにせよ、それらの調整を図った明確なルールが存在することが望ましいものを思われる。同じく専門家の責任については、イギリスでも一定の場合には、疑わしい取引の届出義務につき、弁護士に免責を与える判例があるが、それがどの段階から始まるかについては争いがあり、さらに検討を要する。

1 0 0 0 IR 編集後記

著者
笹澤 豊
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.64, 2003-03

この冬は、近年になく寒さが厳しかった。「地球は寒冷化しつつあるのではないか」という思いが一再ならず脳裏をよぎるほどだった。しかし、つい半年前を思い返せば、去年の夏、その暑さは異常ともいえるもので、「地球はやはり確実に温暖化している …