著者
堀 知行
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

近年、実環境での微生物代謝生理を決定する同位体追跡技術の進展・適用により、陸上地下圏においてメタンの産生抑制や分解に関与する微生物の存在が明らかになってきている。本研究では、嫌気土壌圏メタンフラックスに中心的に関わる未知細菌群を分子生態学的手法によって探索し、さらに分離培養することを目的とした。まず初めに、分離培養の微生物接種源である美唄湿原土壌の分子生態解析を行った。pmoA,mcrA,16S rRNA遺伝子のクローンライブラリ解析の結果、美唄湿原ではType Iメタン酸化細菌やFen clusterに分類される新規なメタン生成古細菌群が優占化していることが明らかとなった。現在、水素資化性メタン生成菌の基質競合細菌(還元的酢酸生成菌)に関する生態学的知見を得ることを目的として、アセチルCoA経路の鍵酵素遺伝子,fhsを標的としたクローン解析を進めている。また酢酸資化性メタン生成菌と基質競合する鉄還元細菌を分離培養すべく、難分解性の結晶性酸化鉄(GoethiteやHematiteなど)を電子受容体とした集積培養実験を開始した。しかし、これまでのところ新規な鉄還元細菌の純粋分離には至っていない。さらに嫌気環境のメタン動態に直接的に関与する嫌気メタン酸化微生物の取得を目指したバイオリアクターを考案・設計した。今後は、本連続培養システムを用いて目的微生物群の集積培養を行う予定である。
著者
西 敏行 花岡 良一
出版者
富山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

高圧架空配電系統において、絶縁電線は、電柱にがいしとバインド線により支持されている。配電線の近傍に落雷が発生した場合、電線の心線には誘導雷サージ電圧が侵入する。このサージ電圧が、電線の支持点に到達すると、がいしの絶縁破壊に続きバインド線先端から電線表面に沿って沿面放電が進展する。この沿面放電が、電線溶断事故などの原因となる。このような災害を未然に防ぐためには、沿面放電現象の特性解明が重要となるが、現在では未解明な点が多く存在している。本研究では、誘導雷サージの波高値V_m(V_m=±90、±100kV)、波頭長T_f(1.2≦T_f≦100.0μs)が、電線表面を進展する正、負極性沿面放電にどのような影響を及ぼすかを観測し、以下のような新しい知見を得た。1、正極性沿面放電(1)進展長について波頭長T_f=1.2〜8.0μsでは、波高値の上昇とともに単調に増加し、進展長に相違は見られない。しかし、波頭長T_f=10.0〜100.0μsでは、波高値の上昇とともに進展長は単調に増加するが、波頭長が長い場合ほど短くなる。T_f=1.2、100.0μsにおける進展長をV_m=-100kVの場合について比較すると、T_f=100.0μsでは、T_f=1.2μsの場合より、約30%に減少する。(2)進展様相について 波高値、波頭長が変化しても影響を受けず、電線表面をジャンプしながら進展する。2、負極性沿面放電(1)進展長についてT_f=1.2〜20.0μsでは、V_mの上昇と共に進展長の増加、減少領域が現れる。しかし、T_fの増加と共に、進展長の減少領域は縮減する。T_f=50.0、100.0μsでは、V_mの上昇と共に進展長は単調に増加するようになる。しかし、T_fの増加と共に進展長は抑制される傾向を示す。(2)進展様相についてV_m≦100kVでは、T_fの増加とともに放電先端で発生する離散的なジャンプ現象が抑制される。負極性沿面放電では、放電先端におけるジャンプ現象の衰退が進展長を助長することが明確になった。
著者
広瀬 茂男 PAULO Cesar Debenest
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

2006年の11月から2007年の1月の間、我々のロボットは、カンボジアでテストを行った。カンボジアの組織CMACが、シュリムアップ近くの実験場を供給してくれた。ここでは、位置の認識できるところ(キャリブレーション地区)と位置のわかっていない地区(テスト地区)とに地雷が埋められていた。クロアチアとの実験とは異なり、我々自身ではロボットは使用せず、現地作業員に操作方法を教え、我々は技術的問題の補助を行った。トレーニングの期間、我々の部隊は、キャリブレーション地区でテストを行い、ソフトと機構上の調整をおこなった。クロアチアでの実験以降に改良した点は、ペンキとプラスチック円盤を用いたマーキング機構を追加したところであり、両者とも良好に動いた。GPSデータを用いた地図座標の取り入れ機構も導入し、1cmの精度で計測できた。操作者と評価者の為のユーザーインタフェースの改良も行った。言語の違いとコンピュータ操作の不足があったが、現地作業員は、操作手順を早く習得し、簡単な問題点は、自分達で解決することができた。カンボジアでは、2つのロボットを同時に操作させる事も行った。それぞれのロボットは、金属探知機および、GPRを装備した二種類がある。マーキングも別々のものを装備した。第一次実験の結果から、金属探知機のみを装置したロボットが人間作業者よりも早く作業をすることができた。地雷を間違って認識することは特別な状況以外はなかった。金属探知機を、GPR機を装備したロボットはGPRの検出速度の制限からスピードは、はるかに遅かった。また地雷検出能力も高くはなかった。GPRデータは、岩石等と地雷を判別する事ができなかった。我々は現在、核磁気共鳴型装置を用いたセンサーで火薬そのものを検出するセンサーを開発中である。センサーは、今迄のものよりもはるかに重いため、新しいマニュピュレーターを作る必要がある。現在、その実験は大阪大学にて実施している途中である。
著者
青木 淳賢
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

これまでのノックアウトマウスを用いた解析により、オートタキシンは発生段階の血管形成過程に重要な役割を有することが明らかになっている。しかしながらその詳細な作用機構は明らかでなかった。この問いに答えるために我々はゼブラフィッシュに着目した。ゼブラフィッシュは分子レベルでも哺乳類と血管形成過程が類似していることが示されている。我々は、オートタキシンが、ゼブラフィッシュにも高度に保存されていること、および、in vitroで発現させたとき、リゾホスファチジン酸産生活性(リゾホスホリパーゼD活性)を示すことを確認した。さらにオートタキシンに対するアンチセンスオリゴ(MO)を投与することでオートタキシンの機能抑制を行ったところ、ゼブラフィッシュにおいても顕著な血管形成異常が観察された。今後は各LPA受容体、並びにオートタキシンの基質産生酵素候補遺伝子に関して、血管形成異常を指標として機能的関連性を明らかにし、オートタキシンの血管形成過程における役割を分子レベルで明らかにされることが期待される。
著者
永井 健治
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、光照射によって、蛍光活性化する生理機能センサータンパク質を開発することで、生きた細胞内や個体内の、ナノからマクロに及ぶ、様々な空間スケールにおける生理機能を高感度に観察する手法を構築することを目的とした。昨年度に作製したPA-GFPとDsRedをFRETのドナー・アクセプターとして利用した光活性化型Ca^<2+>指示薬PA-cameleonは光活性化前の状態でもDsRedによる青色励起光の吸収により蛍光が観察されたため、光活性化の利点の1つである高いコントラストを実現することができなかった。その一方で、405nmのレーザーを照射し、PA-GFPを活性化すると、緑色の蛍光が現れ、リガンド刺激に伴う細胞内Ca^<2+>濃度の変化を捉えることができた。本年度はDsRed以外の赤色蛍光タンパク質や緑色光を吸収するが蛍光性の無い色素タンパク質を用いる事で光活性化によるコントラストのさらなる増加が実現できないかを検討した。その結果、試験管内、細胞内のいずれにおいても405nmの刺激光照射によって不可逆的に無蛍光状態から蛍光性を獲得することが確認され、刺激光の照射範囲をガルバノミラーなどで制御することで、培養ディッシュ上の特定の細胞にPA-cameleonを出現させ、その細胞内のCa^<2+>動態を高いコントラストで可視化することに成功した。さらに、ゼブラフィッシュ幼魚における特定の筋細胞の自発的収縮とCa^<2+>濃度の変化を同時に観察することにも成功した。本方法はCa^<2+>指示薬以外のFRET指示薬にも原理的には応用可能であるため、光活性化指示薬開発のための汎用的指針として、その利用が期待される。
著者
波田野 誠一
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土と基礎 (ISSN:00413798)
巻号頁・発行日
vol.22, no.11, pp.85-93, 1974-11-25
被引用文献数
25
著者
田代 正之
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.86, pp.325-339, 1972-06-30
被引用文献数
1

日本産のpennatae trigoniidsの特に九州姫浦層群産の種を中心に, その表面装飾及び成長に伴う形態変化を細かく観察した結果, これらの3属Apiotrigonia, Heterotrigonia, MicrotrigoniaはFrenguelliellaに酷似した幼殼を持ち, diskのL型肋は各々成長初期に突発的に形成され, areaの装飾は種により特徴ある形態を示す。Heterotrigonia特有とされたareaの放射状肋に似た細肋がApiotrigoniaやMicrotrigoniaの成長形にも弱いが出現することがある。又Heterotrigoniaのdiskにおける定向的な装飾変化はApiotrigonia, Microtrigoniaと酷似する。したがって, これら3属間には互いに密接な関係があり, 特にMicrotrigoniaはApiotrigoniaより分かれたことは明瞭である。このpennatae trigoniidsの起源はおそらくFrenguelliellaに端を発し, Trigoniinaeに加うべき過程を経たと思われるが, 成長後の形態は独特のL型肋を示すので, むしろこれらを一括して, 新亜科を設定すべきかと思われる。これらの属に加えられる姫浦層群産の3新種Ap. utoensis, Het. himenourensis, M. imutensisを記載した。またAp. minor var. nankoi NAKANOとAp. obliquecostata NAKANOは各々Ap. obsoleta NAKANOとAp. minor (YABE and NAGAO)の同種異名であろう。
著者
峯松 信明 片岡 嘉孝 中川 聖一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.100, pp.39-46, 1995-10-20
被引用文献数
23

本研究では講演調の話し言葉に対して,音響的/言語的,更には知覚的観点から分析を行なった。特に,講演調の話し言葉に対して人間が感じる「ポーズ(間,区切り)」が音響的(物理的)なポーズとどの程度対応がとれるのか,そして,知覚的ポーズの周辺にはどのような言語表現(間投詞,つなぎ語,終助詞)が頻出するのか,の2点に焦点を置いた分析を行なった。その結果,音響的ポーズと知覚的ポーズとの相関には発話速度が関与していることが示された。また,知覚的ポーズをほぼ確実に引き起こす言語表現として「え[?]」「え[?]と」「で」が観測された。なお本報告では,50年代より言語学者らによって行なわれてきた話し言葉に村する研究例のサーベイも行なっている。これらの研究例を考察することは工学的応用と言う観点から考えた場合においても,非常に有益なことである。Analysis of spoken language in lecture style was carried out from acoustic, linguistic and perceptual viewpoints. Especially, the correlation was investigated between pauses which human listeners perceive in lecture-style speech and those which were detected semi-automatically using some acoustic methods. Linguistic expressions(interjections and filled pauses) around the perceptual pauses were also analyzed. As a result, it was found that the correlation between the two types of pauses was influenced by speech rate and that "e[e]", "e[e]to" and "de" were observed as the linguistic expressions which caused perceptual pauses in quite high probability. And in this paper, some of the traditional researches for spoken language conducted not by engineers but by linguists were also surveyed. It is very beneficial to look into these researches in terms of technological application.
著者
泉田 啓 飯間 信 平井 規央
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

蝶の羽ばたき飛翔は,生成される流場を環境とする,移動知の一例である.本研究では特に,羽ばたきにより創成される渦列流場という環境が安定化とマヌーバに与える影響という観点から,飛翔における蝶の適応的行動能力を発現するメカニズムを解析し,他の移動知にも共通する移動知発現の力学的共通原理の解明に貢献することを目指す.具体的には,(1)生体の蝶の感覚器(センサ)入力および身体の応答動作との関係,(2)蝶の安定飛行と状態間遷移飛行を実現する制御機構に環境(流れ場)がどのように影響するか,という2点を研究期間にわたり調査した.A. 生物学的アプローチアサギマダラ蝶を経常的に供給できるようにした.実験装置を構築して観測実験を行い,蝶の運動と空気力を計測した.可能な能動的動作を知るために,マイクロCTを用いて解剖学的理解を進めた.B. 工学的アプローチ飛翔安定化およびマヌーバビリティ(状態遷移能力)を探るために2次元数値モデルを構築し,大摂動に対する回復過程と、飛翔の数理構造の解析に基づいた遷移制御の研究を行っている.3次元数値モデルを構築し,実験観測データと比較して,数値モデルの妥当性や精度を検討した.また,羽ばたき飛翔の周期解の探索,渦列流場と翅の柔軟性が安定性に及ぼす影響について検討した.その結果,渦列流場と柔軟性が移動知の共通原理の陰的制御と捉えることができることが明らかになった.
著者
横山 祐子 稲葉 智之 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.83-93, 2003-09
被引用文献数
1

サル類の公衆衛生学的研究の一環として,東京都内動物商およびペットショップで死亡したサル類5科15属22種96個体について,寄生蠕虫類の調査を実施した。検査動物の属としてはLemur, Galago, Nycticebus, Perodicticus, Aotus, Saimri, Cebus, Cebuella, Callithrix, Saguinus, Leontidius, Macaca, Cercopithecus, Erythrocebus, および Miopithecusであった。その結果,45個体に何らかの寄生蠕虫類を認めた。特に,調べたリスザル12個体とタラポアン14個体すべてに蠕虫類が認められたが,いずれも愛玩動物として人気が高いので警戒が必要とされた。今回の調査では線虫13属,吸虫1属,鉤頭虫2属,すなわちPhysaloptera, Rictularia, Dipetalonema, Gongylonema, Streptopharagus, Enterobius, Lemuricola, Crenosomatidae gen., Primasubulura, Globocephalus, Strongyloides, Molineus, Trichuris, Dicrocoeliidae gen., Prosthenorchis, Nephridiacanthusが検出された。このほか舌虫類の若虫(おそらくProcephalus sp.およびArmillifer sp.)が見つかったが,条虫類は見つからなかった。ほとんどの蠕虫類が日本で初めての報告となった。
著者
細谷 裕 波場 直之 尾田 欣也
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

標準理論を超える物理がLHCの実験で見えるか。ヒッグス粒子、フレーバー混合、ブラックホール生成の物理を鍵に、余剰次元の存在を検証できるか。これが本研究課題で追求する中心テーマであり、ゲージ・ヒッグス統合理論、フレーバー混合、ブラックホール生成を、主に余剰次元の観点からLHC実験への帰結に焦点をあて研究する。ヒッグス場の起源については、細谷機構により電弱ゲージ対称性をダイナミカルに破るゲージ・ヒッグス統合理論を中心に調べ、暗黒物質の正体に関わる宇宙論的帰結もあきらかにした。細谷達はRandall-Sundrum時空上で、現実的なクォーク・レプトンを含むSO(5)xU(1)モデルで、W,Zボゾン、ヒッグスボゾン,クォーク・レプトンの波動関数を決定し、電弱相互作用のゲージ結合の大きさ、湯川結合の大きさを決定した。前年度に、すでに、Aharonov-Bohm位相の値が量子効果により、90度となることが示された。このことを使い、ヒッグス場との3点結合は、厳密に零になることが明らかにされた。このことより、ヒッグスボゾンが安定になるという驚くべき描像が帰結される。さらに、その結果として、現在の宇宙の暗黒物質は実はヒッグスボゾンであるという可能性が生じ、WMAPのデータから決められた宇宙の暗黒物質の質量密度から、ヒッグスボゾンの質量が約70GeVと決定される。これらは、画期的な結果であり、今後、暗黒物質探索、加速器実験で更なる検証がなされるであろう。また、波場、尾田達は、5次元オービフォルド上で、ヒッグス場がある場合、ブレーン相互作用のために湯川結合が大きくずれることを示した。
著者
近藤 元治 池崎 稔 今西 仁 西垣 逸郎 細川 計明 増田 正典
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.519-524,539, 1976
被引用文献数
1

慢性肝炎および肝硬変患者につき, 低温で分離した血清とヘパリン血漿の補体価を検討し, 120名中8名に血清補体の著明な低下と血漿補体は正常であるという補体の解離現象を認めた.これは患者血清を37℃で分離の後0-11℃に移すと補体の低下がみられることから, 血液凝固に際して現れた因子が, おそらくproteolyticな作用で低温で補体のclassical pathwayを活性化したと考えられた.この現象は, Gjφnnaessの報告したVII因子のcold activationと類似した現象であるが, Trasylol, SBTIが補体の活性化を防止し得なかった点で多少異なるようである.またplasminの関与は, trans-AMCHAがほとんど効果を示さないことから否定的である.vitamin Eおよびprednisoloneに効果がみられたことは, その機序は不明であるが, 今後の研究の方向づけに大いに重要であると考えられた.
著者
中沢 次夫
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.424-427, 1984
被引用文献数
1

副腎皮膚ステロイドの前投与は遅発性喘息(LAR)の発現を抑止しうる.この事実はLARの発生機序に何らかのステロイド不全の依存を示唆する.今回はそれを解明する第一歩として喘息患者にアレルゲン吸入試験を行い, その前後の血漿コーチゾル値の変動を観察した.1.LARを呈した群のコーチゾル値は, 前値の9.22±2.96μg/dlから時間の経過とともに低下し, LAR発現時には2.76±0.42μg/dlと著明に低下した.この低下は日内変動域をこえていた.2.DARを呈した群では, 前値9.10±1.00μg/dlがIAR発現時に11.66±2.42μgと上昇し, その後低下した.そしてLAR発現時には4.23±1.45μgとやはり有意に低下した.3.IARを呈した群では, IAR発現時にコーチゾル値は上昇した.その後, 時間の経過とともに漸減傾向がみられたが, その減少は日内変動域内であった.以上の事実は, 一部のLARがおそらくはステロイドの合成あるいはregulationの一時的な不全状態に起因する可能性が想定される.
著者
西山 恭子
出版者
福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

真菌感染症の診断・治療を行ううえで病原菌の分離・同定は基本となるステップである。しかし、真菌は(1)培養しても発育しない。(2)発育までに時間がかかる。(3)特徴的な形態の発育がないと同定できない。など様々な問題がある。そこで本研究は真菌を培養せずに、DNA解析によって迅速に診断する技術を開発することを目的とした。検体は造血幹細胞移植後、発熱した患者の血液98サンプルを用いた。DNAの抽出については(1)、既存のDNA抽出キットを使用する方法。(2)、(1)のキットを使用前に超音波と酵素を使用する方法。(3)、化学的・物理的に細胞を破砕し、磁性シリカにてDNAを抽出する方法。(4)血液を化学的・物理的細胞破砕を行った後、DNAをフェノール・クロロホルム法により抽出する方法。(5)市販の検体処理剤を用いた方法など様々な方法を検討した。1番良好な結果をみとめたのは(3)の磁性シリカによる抽出であり、その方法でDNA抽出を開始した。しかし、その後磁性シリカにDNAの混入がみられ途中から(2)の方法で実施した。真菌の定量はITS2領域をターゲットにしたユニバーサルプライマーを用いてReal-time PCR(SYBR Green法)を行った。菌種同定はReal-time PCRで得られた増幅産物をT-cloning法でPCR産物をクローニングし、各検体3コロニーずつシークエンスを決定し、相同性検索によって菌種の同定を行った。98サンプル中16サンプル(16%)で増幅がみとめられた。値は4.7~58.4 copies/μlであった。1コロニーでも同定できたのは14サンプルで酵母用真菌が6菌種、糸状菌が3菌種であった。その中で特に多い菌種はTrichosporon sp.で次に多いのがCandida glabrata と Candida parapsilosisだった。敗血症の起因菌として多く報告されているCandida albicansは1サンプルから検出されたのみだった。今回検討したサンプルからは定量値が低いことより、起因菌か常在菌叢かの判断はできないが通常検出される真菌の菌種とは異なっており培養法とあわせたより詳細な検討が必要と思われた。また、市販のDNA抽出キットやPCR関連試薬には細菌・真菌のDNAのコンタミが見られることがあり、PCR感度を上げることが難しかった。この点において企業に対しDNA free資材の必要性を要望した。