著者
越後 成志 橋元 亘 森川 秀広
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

我々は、IL-18の抗腫瘍効果の詳しいエフェクター細胞に関してマウスの系を用いて解析を行い、その抗腫瘍効果のエフェクター細胞がNKT細胞ではなくNK細胞であること(論文投稿中)、またIL-18がNK細胞を活性化し腫瘍細胞をアポトーシスに陥らせる結果、樹状細胞を介して効率良く腫瘍特異的CTLを誘導すること(Tanaka et al. C. Res. 2000,60:4838-4844)などを明らかにしてきた。平成13年度は、ヒトでのIL-18の抗腫瘍効果、特にその詳しいエフェクター細胞の解析を行った。ヒト末梢血をHuIL-18で14日間刺激・培養し、リンパ球の表面マーカーの変化を解析したところ、CD3-D56+(NK)細胞が著明に増加することが分かった。また、その際の培養液中のIFN-γ産生量をELISA法にて測定したところ,IL-2単独で培養した場合と比較して、多量のIFN-γ産生がみられることを明らかにした。IL-18の添加培養でNK細胞が増加していること、またIFN-γの産生増強がみられたことより、IL-18がヒトにおいても抗腫瘍効果を発揮することが予想された。そこで次に、IL-18により活性化されたリンパ球が腫瘍細胞に対してアポトーシスを誘導するかどうかを検討した。HuIL-18を添加培養したヒト末梢血リンパ球とヒト腫瘍細胞株とを8時間共培養した後、腫瘍細胞をAnnexin-V, Phi-Phi-Lux, PI等で染色することによりアポトーシスの検出を試みた。その結果、IL-2単独で培養した場合と比べてIL-18+IL-2で培養したとき、腫瘍細胞のアポトーシスが増強された(論文準備中)。以上のことより、ヒトの系においてもIL-18が抗腫瘍効果を有することが明らかになり、ヒト悪性腫瘍治療への臨床応用の可能性が示唆された。
著者
大竹 美登利 中山 節子
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

インドネシアでは、インドネシア中央統計局の協力をえて、2004年9〜11月に調査を実施した。調査はアフターコード方式の日記形式とし、「ペイド/アンペイド」「誰と」等を記述させるものとした。調査対象者は、ジャカルタの5地区から200世帯ずつ抽出した10歳以上の世帯員全員である。調査の配布と回収は、各地区40人の調査員が担当した。回収された4,151人のうち集計に使用したのは、平日2,408人、土曜3,253人、日曜2,343人である。タイでは、サワポーン(カサタート大学教授)を代表とするタイ生活時間調査チームを結成し、このチームと協力して、バンコック市内に住む住民の調査を実施した。調査は2005年12月〜3月に実施された。回収された300世帯のなかで、調査に協力してくれた人は1,244人であった。なお、日本の調査は資金等の関係から、事例的な調査とした。調査の結果、ペイド・ワークの時間は男性の方が長く、アンペイド・ワークである家事・育児の時間は女性の方が長く、インドネシア、タイにおいても性別役割分業は明確であった。ただし、ペイドワークにおいても、アンペイドワークにおいても、日本とは違う特徴があった。すなわち、女性がペイド・ワークに費やす時間は日本より多く、女性が社会的経済活動に参加しているが、家事の延長線上の小規模な生産活動が多く、インフォーマルな労働に多く携わっているという傾向があった。また、アンペイドワークにも、男性は日本より長く参画していたが、その内容は地域社会との交流に関わるものが多く、女性は炊事や洗濯などの家事雑事が多いなど、その内容に性による相違があることが明らかとなった。なお、これらの結果の一部は、2006年8月にデンマークで開催された国際生活時間学会で発表した。
著者
根本 正之 笹木 義雄
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.20-29, 1993-05-28
被引用文献数
3

光環境をめぐる作物と雑草の競合は、これまで寒冷紗による遮光実験や圃場における作物と雑草との混植実験に基づいて解析されてきた。寒冷紗の下と圃場の群落内では光の波長組成が著しく異なるが、その違いに着目して解析した研究はほとんどない。本研究では、この二つの異なる光環境下でツユクサを栽培し、その生育特性について比較検討した。光環境が常に一定な寒冷紗処理区では、ツユクサの草高は対照区より高く、最終調査時の8月1日まで伸長した。また分枝の発生が顕著であり、光強度の増大に伴い葉数が増加した。一方、ギャップサイズの減少により光環境と土壌の水分条件が継続的に変化した草地内のツユクサは、草高の伸びが7月25日前後で停止、分枝の発生は全く認められず、葉数の増加はほとんど認められなかった。また葉重比が寒冷紗処理区や対照区より明らかに小さかった。 開花開始時期は対照区が最も早く、次いで寒冷紗処理区、草地内ギャップの順であった。しかしながら粗個体再生産効率には差が認められなかった。ツユクサの生産構造は可塑性が非常に大きかった。特に草地内のギャップでは光環境の違いと水分ストレスの影響を受け、寒冷紗処理区の個体とは明らかに異なった形質を示した。 以上のようにツユクサの生育特性は寒冷紗処理区と草地内ギャップでは著しく異なることが判明した。
著者
鷲田 豊明 大沼 あゆみ 坂井 豊貴
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の主要な研究成果は次のようにまとめられる。(1)複数の地域でお金を出し合って迷惑施設を建てる問題において,効率的かつ公平な意思決定を実現するゲーム理論的なメカニズムについて,実験により実際的な性能を検証した。(2)生物が狩猟される状況の下での狩猟許可証配分の効果を、密猟を考慮した場合に分析した。(3)温暖化対策において、国家間の相互関係が環境政策に与える影響をゲーム論とシミュレーション的手法によって分析した。
著者
林 洋子 山口 東平 野中 俊輔
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.309-312, 2004-12

症例は46歳,女性. 1988年に原発性胆汁性肝硬変(PBC)と診断され,加療を受けていた. 2002年肝硬変による浮腫,腹水貯留が出現し,2003年には腹部CTにて門脈血栓を指摘された. 2004年4月4日,吐血し,意識レベルの低下を認め,緊急入院となった. 食道静脈瘤,貧血の治療を行うも,血圧は徐々に低下し,吐血から26時間後に死亡した. 病理解剖では,多量の消化管出血及びstageIVのPCBを背景に広範な急性中心性肝壊死が認められた. Sepsis,DICの所見も確認された. 死因は,septic shockの可能性も否定できないが,hypovolemiaに起因する中心性肝壊死による肝不全が直接死因として最も重要な病態と考えられた.
著者
荻田 喜代一 米田 幸雄
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ddY系雄性マウスにKA(30mg/kg)を複腔内投与し、一定時間経過後に海馬および大脳皮質から細胞核抽出液およびミトコンドリア抽出液を調製した。ゲル移動度シフト法によりそれぞれのAP-1DNA結合能を解析したところ、KA投与はいずれの部位でも細胞核抽出液およびミトコンドリア抽出液中のAP-1DNA結合を著しく増強させることが判明した。AP-1DNA結合能はKA投与後1時間で有意に増強し、その増強は3日後まで持続した。また、スーパーシフト法およびウエスタンブロット法により、本結合増強に関与するAP-1結合蛋白質はc-FosおよびFos-Bであることが判明した。さらに、KA投与動物で発現したc-Fos蛋白は細胞核内ばかりでなくミトコンドリアのマトリクス内にも存在することが免疫電子顕微鏡法により明らかとなった。次に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)へのAP-1の結合について解析を進めた。mtDNAの転写調節部位と考えられる非翻訳領域についてAP-1認識配列を検索したところ、10箇所にAP-1類似配列(MT-1〜MT-9と命名)が見出された。これらの類似配列の中で、MT-9がAP-1結合に対して最も著明な拮抗作用を示した。また、放射性MT-9プローブを用いたゲル移動度シフト法は、KA投与動物から得られたミトコンドリア抽出液中にMT-9結合蛋白質が存在すること、およびそのMT-9結合蛋白質がAP-1構成蛋白質であるc-Fos、Fos-B、c-Jun、Jun-BおよびJun-Dにより構成されることを示した。さらに、ゲノム免疫沈降法によりc-Fos蛋白質がmtDNAに結合することも確認された。以上の結果より、カイニン酸シグナルにより発現した転写因子AP-1は細胞核のみならずミトコンドリア内にも移行し、mtDNAの転写調節領域に結合することが明らかとなった。これらの事実は、グルタミン酸シグナルがmtDNAの転写に影響を与えることによりミトコンドリア機能変化を起こす可能性を推察されるものである。
著者
黒澤 睦
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、告訴権・親告罪制度の観点から、犯罪被害者と刑事司法過程の関係の在り方を考察するものである。告訴および親告罪は、犯罪被害者の意思を尊重しようとする制度であり、近年の犯罪被害者を重視した法政策の中では、大きく注目されるべきものである。本研究では、とりわけ、親告罪をめぐる捜査機関・訴追機関の対応、いわゆる告訴権の濫用(不当告訴・不当不告訴)とその法的対応、告訴任意代理制度と被害者支援思想などについて、歴史的・比較法的検討を行った。
著者
甲平 一郎 二宮 庸太郎 武田 明雄 小幡 典彦
出版者
JAPAN EPILEPSY SOCIETY
雑誌
てんかん研究 = Journal of the Japan Epilepsy Society (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.167-173, 2002-10-31
被引用文献数
1

てんかん重積状態で入院した35歳の女性例を報告した。34年間の部分発作と全身痙攣発作を有するてんかんの病歴があった。入院時には右上下肢の強直性間代性痙攣へ二次性に進展していく顔面の運動発作が2分置きに出現していた。入院直前10時間の間に経静脈的にフェニトイン750mgとアセタゾラミド500mgで加療を受けていた。入院後直ちにミダゾラム10mg、ベクロニウム10mg、プロポフォール200mgを静脈内にボーラスで投与後発作は消失した。気管内挿管し人工呼吸器管理を行い、ミダゾラムの持続点滴を開始した。発作消失26時間後より顔面の痙攣が出現し2日続いたため、プロポフォールの持続点滴を開始した。プロポフォールの静脈内投与にて全ての発作は消失した。発作が消失して17日経過して再度てんかん重積状態となりプロポフォールの経静脈内投与を行ったところ発作は直ちに消失した。2回目のてんかん重積状態の治療は経静脈的にはプロポフォール単独で行った。今回の症例はフェニトインやミダゾラムに抵抗性の難治性てんかん重積状態の治療においてプロポフォールが有用である可能性を示唆している。<br>
著者
黒澤 美枝子
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

体表への触刺激は心地よさ、リラックス効果、不安・抑うつ感の軽減作用などを有することから、薬物療法を補助する療法として臨床的にも注目されている。その効果には脳内のドーパミンやセロトニンが関与する可能性が示唆されているが、これまでそれを直接証明した研究はなかった。我々は、皮膚に加えた触刺激によって、快感や動機付けの発生に密接に関わる「側坐核のドーパミンの放出」が増加すること、一方、嫌悪感や不安の発生に重要な「扁桃体のセロトニン放出」が逆に減少することを、ラットにおいて明らかにした。
著者
片平 正人
出版者
横浜市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

Musashiタンパク質のタンデムな2つのRNA結合ドメインと標的RNAの複合体に関して、構造解析を行った。まずRNAとの結合状態にあるMusashiの2つのドメインの構造を、NOE等に基づいて決定できた。次に2つのドメインの相対配向を、残余双極子結合に基づいてイ決定した。さらに長さを変えた様々なRNAを利用する事でMusashiとRNAの間の分子間NOEの同定に成功し、それに基づいた複合体の構造決定を進行させた。常磁性緩和効果による惣ングレンジの構造情報の取得も試みた。テロメア配列のDNA/RNA結合タンパク質hnRNPA1のタンデムな2つの核酸結合ドメインが、テロメアDNA及びテロメレースRNAとどのような様式で相互作用するのかを明らかにした。これにより同タンパク質によるテロメレースのテロメアDNAへのリクルート機構に関する構造学的な基盤が得られた。またRNAi法を用いてhnRNPA1タンパク質及びhnRNPDタンパク質をノックダウンした細胞におけるテロメア長を測定する事で、両タンパク質の機能に直接迫った。ヒトのテロメアDNAが生理的なイオン条件下(カリウムイオンに富んだイオン条件下)において形成する特異な4重鎖構造の決定に成功した。これまで考えられていたものとは異なる新規構造が見出され、分子内の構造体でありながら、3本の鎖が平行に配置され、残り1本のみが反平行に配置されていた。
著者
三田 肇
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

立体構造が制御された核酸中の特定の部位に、機能発現を誘起させるための分子を配置することにより、高度に設計された新規機能性材料を合成することを目指した研究を進めた。本研究期間では、テロメア部位のモチーフ配列d(TTAG3)がK^+存在下で形成するパラレル四重らせん構造に補欠分子族であるヘムを組み込んだヘム-核酸複合体を合成し、外部配位子の配位や酸化還元特性とその制御機構の解析を行った。さらに、四重鎖DNAのダイマー化反応などを利用し、2つのヘムを組み込み、ヘム間距離を変えたヘム-核酸複合体の形成について検証した。四重鎖DNA中にヘムを組み込んだヘム-核酸複合体を構築可能なことを明らかにした。ヘム-核酸複合体は、分光学的性質がヘムタンパク質・ミオグロビンに類似しており、様々な化合物を軸配位子として結合し、酸化還元応答も得られることが明らかとなった。また、Mg^<2+>イオンなどの存在により安定なダイマー構造をとることや、塩基配列を選択することによりモノマー中に2つのヘムを組み込むことが可能なことも明らかとなった。さらに、2つの異なるダイマーを形成する四重鎖DNAを組み合わせることにより、ヘテロダイマーを構築することも可能であることが明らかとなった。以上のことより、異なる軸配位子をもったヘムを特定の距離に配置することが、このヘム-核酸複合体では可能になることを示した。

1 0 0 0 IR 堀研

著者
堀 研 HORI Ken ホリ ケン
出版者
広島市立大学芸術学部
雑誌
広島市立大学芸術学部紀要
巻号頁・発行日
no.4, pp.18-19, 1999-03

「神原垂れ桜」
著者
姜 柱賛 松田 治
出版者
広島大学生物生産学部
雑誌
生物生産学研究 (ISSN:1341691X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.p71-78, 1993-12

底生性甲殻類のガザミ、ヨシエビ、テナガエビに対する硫化水素の毒性試験を行った結果、硫化水素の96hr-LC50はガザミ、ヨシエビ、テナガエビに対し、それぞれ31.5μgℓ-1、35.2μgℓ-1、51.0μgℓ-1であった。無酸素条件下でのガザミ、ヨシエビ、テナガエビの半数死亡時間(LT50)は、それぞれ28時間(1.2日)、22時間(0.9日)、35時間(1.6日)であり、無酸素耐性はテナガエビ、ガザミ、ヨシエビの順で高かった、今回実施した無酸素と硫化水素の複合的な実験条件下でガザミ、ヨシエビ、テナガエビのLT50はそれぞれ20時間(0.8日)、22時間(0.9日)、26時間(1.1日)となった。以上の結果からガザミとヨシエビは、硫化水素を伴った貧酸素水塊が形成された場合、テナガエビより耐性が低いと判断される。Both acute toxicity tests of hydrogen sulfide and tolerance test to anoxia and anoxia with hydrogen sulfide on Portunus trituberculatus, Metapenaeus monoceros and Macrobrachium nipponense were carried out. The 96hr-LC50 of hydrogen sulfide is 31.5 μgℓ-1 for P. trituberculatus, 35.2μgℓ-1 for M. monoceros, and 51.0μgℓ-1 for M. nipponense. In anoxia, values of median lethal time (LT50) were 1.2 day (28hr), 0.9 day (22hr) and 1.6 day (35hr) for P. trituberculatus, M. monoceros and M. nipponense, respectively. The tolerance of P. trituberculatus and M. monoceros to anoxia is lower than the tolerance of M. nipponense. These results suggest that field populations of P. trituberculatus and M. monoceros are easily affected by natural hypoxia with hydrogen sulfide.
著者
河本 浩明
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,下肢の歩行障害をもつ方を対象に,人間と機械を一体化させ人間の身体機能を強化・拡張・補助するロボットスーツHALの受動的動作(ロボット的自律制御)と能動的動作(随意制御)を活用し,脳の運動学習過程に立脚した歩行機能再建支援システムの開発を行った.実証試験の結果,歩行能力,及びバランス能力の改善が認められ,本システムによる歩行機能再建の可能性が示唆された.
著者
家井 美千子 IEI Michiko
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
アルテスリベラレス (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
no.44, pp.p173-190, 1989-06
著者
河本 晴雄 坂 志朗
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

木質バイオマスからCOとH_2(合成ガス)を製造することができれば、従来天然ガスベースで行われている触媒での変換を組み合わせることで、現在石油より製造されている燃料、ケミカルスを木質バイオマスより製造することが可能になる。本研究課題は、一番のネックとなっているクリーンガス化(特にCO生産)に着目したものである。平成22年度の研究では、以下の成果が得られた。木材多糖より生成する代表的な揮発性熱分解物であるレボグルコサン、グリコールアルデヒド、ヒドロキシアセトン、蟻酸などはコーク(気相での炭化物)を生成することなく、CO、H_2、CH_4へと変換されることが昨年度の研究で示された。本年度は、これらのガスへの変換機構について検討した結果、水素の引き抜きにより生成するラジカル種の崩壊(β-開裂、α-開裂)による経路が重要な機構であることが示唆された。また、これらの熱分解物をガス状物質として気相に保つことで、脱水反応やグリコシル化反応などの酸性条件で進行する反応が抑制されたが、これについては、これらの反応を触媒する水酸基間の水素結合が気相では抑制されることによる機構が提案された。さらに、気相で効率的にCOとH_2へと変換するためには、本研究で使用してきたPyrexガラス管製の反応器の最高温度である600℃よりも高温での反応、あるいはラジカル生成を目的とした触媒の利用が有効であることが示された。これらの研究成果を基に、2台の管状炉を用いることで熱分解物を与える一次熱分解過程とこれら一次熱分解物の二次分解過程を異なった温度で加熱でき、なおかつ二次分解過程を触媒を作用させながら1000℃までの高温域で検討可能な二段階加熱装置を設計・試作するに至った。
著者
河本 満 Barros A.K. Mansour A. 松岡 清利 大西 昇
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.82, no.8, pp.1320-1328, 1999-08-25
被引用文献数
21

ブラインド信号分離とは, 信号が複数の信号源から流れていて, それらの混合信号を複数のセンサで観測できるとき, その観測信号のみを用いてもとの信号を分離して取り出す信号処理技術である. 本論文では, 信号源からの信号は, 非定常信号(例えば, 音声, 音楽)であるとし, それらが時空間的に混合している観測信号からもとの非定常信号を分離することができるブラインド信号分離の方法を提案する. 提案する手法は, 観測信号の2次の相互相関値が零になったときのみ最小値(零)をとる非負関数を最小化することによってブラインド信号分離を実現する. 本手法の有効性は, 計算機シミュレーションと普通の部屋で観測される音声の混合信号を用いて行う実 験で確かめられる.
著者
中嶋 芳也 小形 恵一 宍戸 寿雄 柴 伸弥 中川原 克彦 安保 佳一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.278-286, 1992-10-30

異なる蒸煮条件下で処理したカラマツの第一胃内分解性(試験1),蒸煮処理カラマツ給与による第一胃内性状(試験2),第一胃内流出速度および消化管内滞留時間(試験3)をめん羊を用いて調べることによって蒸煮処理カラマツのもつ粗飼料効果をより明らかにしようとした。分解性の測定は,セルラーゼによるin vitro法とポリエチレン・バッグを用いたin situ法によった。in situ法では,得られた各培養時間の分解率をp = a + b (l-e^<-ct>)のモデルに当てはめて最大可能分解率(a + b)と分解速度(c)を測定した。測定試料には,蒸気圧3水準(10,12.5, 15kg/cm2,蒸煮時間20分),蒸煮時間4水準(5,10,15,20分,蒸気圧10kg/cm^2)で処理したカラマツと,対照として蒸気圧10kg/cm^2,蒸煮時間20分で処理したシラカンパを用いた。第一胃内性状は,15ks-/cm^2-15分で処理したカラマツ10%(W-10),20%(W-20)および30%(W-30)給与区と,対照として乾草30%(H-30)および70%(H-70)給与区を設けて調べた。また,第一胃内流出速度および消化管内滞留時間は,W-10,W-20およびW-30区と,対照としてH-70区について調べた。(1)処理条件の差異にかかわらず蒸煮カラマツの分解率はin vitroおよびin situのいずれにおいても未処理カラマツと比べて明らかな上昇は認められなかった。これとは対照的に,蒸煮シラカンパは,in vitro分解率46.6%,in situ最大可能分解率(a + b)80.6%および分解速度(c)1.5%/hを示し,著しい処理効果が認められた。(2)第一胃内性状では,飼料給与後6時間までの平均値で表したpHはW-30区で最も高い6.55で,H-30およびH-70のいずれの乾草区よりも高い値を示した。酢酸・プロピオン酸比はカラマツ区で2.03(W-20)-2.75(W-30)の範囲となり,W-30区はH-30区とH-70区の中間の値を示した。(3)カラマツ給与区の第一胃内滞留時間は,乾草H-70区の26時間よりも著しく長かった.カラマツの給与割合が増すにつれ滞留時間な短縮されたが,最も短い時間をを示したW-30でも約42時間であった。これとは逆に下部消化管内滞留時間は,給与割合の増加に伴って延長した。全消化管内平均滞留時間では,W-20区とW-30区が約103時間でW-10区よりも短く,しかし,乾草区の約55時間と比較すると約2倍の値を示した。(4)以上のことから,蒸煮処理カラマツは,現段階では,反芻家畜飼料の有効炭水化物源となり得ないが,30%程度の給与割合で粗飼料因子として十分な物理的効果を現わすことができるものと推察された。