著者
野崎 浩成
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,電子化された新聞記事フルテキストデータベースを対象に,カタカナ語の使用実態調査を実施した。本研究での調査により,海外在住の日本語学習者や成人の外国人留学生を対象とした語彙習得支援環境を構築するために必要な基礎的データを得ることができた。具体的には,国民への定着度や使用頻度の低いカタカナ語を明らかにした上で,それらのカタカナ語の特徴を分析した。そして,それらのカタカナ語について,定着率や頻度が低い理由を考察し,語彙習得を促すための適切な学習方略を提案することを試みた。次に,国立国語研究所(2003)が定めた『第1回「外来語」言い換え案』に示された「カタカナ語62語」を対象に,その使用実態を調査した。その結果の概要は,次の通りである。「カタカナ語62語」のうち1993年と1996年の新聞で使用されていなかった語(オンデマンド,フィルタリング,プロトタイプなどの6語)は定着度が低いこと,「アクセス」や「コンセンサス」のように新聞での使用頻度が高いにもかかわらず,国民各層への定着度が低い語が存在すること,などが示された。さらに,「カタカナ語62語」について電子辞書『大辞林』(第二版)での辞書掲載状況を分析した。その結果,1.複数の見出し語として大辞林に掲載されているカタカナ語であっても,使用頻度や定着度が著しく低い語(モチベーション,アジェンダ,モラトリアムなど)が存在すること,2.大辞林には掲載されていないカタカナ語は16語(オンデマンド,フィルタリング,インターンシップなど)が存在すること,3.2で述べた16語の多くは使用頻度や国民への定着度が低く,複合語(セカンドオピニオンなど)もいくつか含まれていること,などが明らかになった。こうして得られた結果は,日本語教材に掲載するカタカナ語を選定する際の基礎的資料となり,語彙習得支援環境を構築するために役立つ有用な知見となり得る。
著者
田中 ゆかり
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は、これまで首都圏方言域を中心に実施してきたアクセント・イントネーション関連の「意識形」「実現形」に関するデータの整理・デジタル化を中心に行った。あわせ、多変量データの分析方法について、過去の言語を対象とした多変量データを分析/解釈した研究を対象としたメタ研究を行った。とくに、言語を対象とした多変量データに関する成果として、『日本語科学』9(国立国語研究所)に「調査者属性による偏りのない項目-『国語に関する世論調査』(H7年度調査〜H10年度調査)から-」・『日本語学』20-5「観察法・実験法と日本語研究」を公開できた。「意識形」「実現形」という考え方をデータに導入すると、従来の被調査者と被調査者の反応という2次元のデータではなく、少なくとも3次元のデータとなってしまう。言語事象を対象としたデータ分析としては、ほとんど例のない3次元(以上の)データの分析方法について。考えを深めることができた。また、刊行が遅れているが、「意識形」「実現形」にに関しては、コラムの形式ではあるが、「気づかないが、変わりやすい方言」として提案を行った(2001年12月刊行予定であった『21世紀の方言学』(国書刊行会))。この提案については、具体的なデータの収集・分析には及ばなかったが、今後の課題としたい。
著者
西田 司
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.コミュニケーション行動の予測に関する異文化間コミュニケーションの分析フレームワークを作成した。その分析フレームワークには第2章で詳述したように、四次元で構成した。(1)相手への態度や出会いの場の不安と不確実感の制御といったことがコミュニケーションが効果的になるかどうかに大きな影響を与える。(2)コミュニケーションの目的によっては、コミュニケーションをしようとする動機が強く影響する。(3)意思の表出能力と相互作用の能力はコミュニケーション行動が効果的であるか、ひいては、(4)コミュニケーション行動の結果、つまり、評価と満足に影響する。2.アジア人にはアメリカ人とは異なるコミュニケーションのルールがあることを知っていても、これまでの研究においてはアメリカで用いられている調査方法で研究がなされてきた。個人情報の開示に関する研究とコミュニケーション行動と内集団の研究を検証し、調査に取り入れるべき観点や方法を第3章で提案した。それは人の交流を複数の観点から捉えるもので、調査も集団の観点から行うことを意味する。3.調査法の転換に関する議論をもとに、二つの調査を行った。一つは、中国と日本において仕事や授業の終わった後の、内集団と交流活動の実態について学生を中心に調査票による調査を実施した。たとえば時間的コミットメントの実態、中国と日本の共通する面が確認された。また、交流時間は少ないが交流の重要性は高いという点が中国サンプルに明らかになった。もう一つは、アメリカ、中国、日本における人間関係のルールについて調査した。関係のみを明示しルールを集めた。この目的は、三つの文化における実際的な状況に関する情報を得るためであった。
著者
柳川 堯 小西 貞則 百武 弘登 内田 雅之 二宮 嘉行 川口 淳 長山 淳哉 野中 美祐
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

高次因果モデリングの有力な手法として、グラフィカルモデリングが提案されているが、連続変量の場合多次元正規分布が仮定されており、制約的でしかも線形関係だけが対象とされている。これを、高次非線形因果モデリングに拡張することを狙って順位相関係数を利用する理論を発展させ手法を開発した。また、分担者の協力を得てその計算アルゴリズムを開発しシミュレーションを行いその有効性を評価した。さらに、共同研究者から提供されたデータに適用し乳幼児の甲状腺機能、免疫機能に与える環境汚染物質のインパクトを明らかにした。その他、潜在構造モデルを用いる離散型変数、連続型変数混在の場合のグラフィカルモデリング、時系列データに関するグラフィカルモデリング、ノンパラメトリック共分散分析のグラフィカルモデリングに関して分担者と共同研究を行い、いくつかの価値ある結果を得た。これに関する基礎研究においても、以下のような成果をえた。・超高次元データから有益な情報やパターンを抽出するための手法開発に取り組み,基底展開法を用いた次元圧縮と圧縮したデータ集合に基づく識別・判別問題を定式化し,新しい解析手法を提唱した.開発した解析手法をシステム工学,生命科学の分野の問題に応用し,その有効性を立証した.・繰り返し測定値に対する非線形モデルのパラメータの関数について、コントロールとの多重比較のための同時信頼区間の近似を与え、その精度をシミュレーションにより検証した。・小さな拡散をもつ拡散過程に従う離散観測データから,未知のドリフトパラメータを推定する研究を行った.具体的には,条件付き期待値をIto-Taylor展開を用いて近似することにより近似マルチンゲール推定関数を構成した.それから得られる推定量が非常に弱い条件の下で漸近有効性をもつことを証明した.
著者
石渡 明
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

この研究では,既に国際学術誌に論文公表済みの多くの成果があった.Koizumi & Ishiwatari(2006)では丹波帯の付加体緑色岩が,ナップ基底部にまとまって産するものとメランジュ中にバラバラに産するものとの間で化学組成の多様性に大きな違いがあり,前者が海台,後者が通常の海洋底に由来すると結論した.Ichiyama et al.(2006)は丹波帯小浜地域の付加体緑色岩から,これまで日本ではほとんど報告がなかった,大規模火成岩区(LIP)に特徴的な鉄ピクライトを報告し,その成因を論じた.Ichiyama et al.(2007)は丹波帯の同じ緑色岩体から,顕生代では初めての大型スピニフェックス組織を示す玄武岩を報告し,同様の岩石を産するコラ半島ペチェンガ地域の原生代前期火山岩やズピニフェックス組織の再現実験結果と比較しながらその成因と地質学的意義を論じた.Ichiyama et al.(2008)は基底部緑色岩をTi含有量によって3種類に区分し,スーパープルームによるマグマ活動の一般的な時間的変化と対応づけてペルム紀海洋下におけるそれらの形成過程を論じた.このほか,この研究課題に関連する研究成果として,Ishiwatari et al.(2006)では小笠原前弧の母島海山にアダカイト質火山岩が産することを報告し,他の火山岩,斑れい岩,超苦鉄質岩の分布や岩石学的性質を検討して,太平洋プレート上の小笠原海台の沈み込みに関連してブロック状に隆起した前弧オフィオライト衝上岩体であるとするモデルを提出した.柳田ほか(2007)はマリアナ海溝南部の島弧側斜面からドレッジされた超苦鉄質岩を研究し,海洋底では初のMgカミングトン閃石を報告するとともに,原岩の鉱物化学組成や平衡温度,そして変成作用の特徴などから,この地域では前弧から背弧に至るマントル断面が,それらを横断するように形成された新しい海溝斜面に露出している可能性を示唆した.また,Ishiwatari et al.(2007)は世界的にも例の少ないざくろ石斑れい岩-超苦鉄質岩体をロシア北東部から報告した.
著者
新山 龍馬
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

人体の特長を備えた筋骨格ロボットを工学的に実現し,それを用いて筋骨格系を基盤とした身体運動の原理を明らかにすることを目指して研究を行った.最終年度は,筋骨格系を工学的に実現する設計論と筋骨格系のための運動制御手法を確立し,開発した筋骨格ロボットによって走行を実現した.具体的な内容は以下のとおりである.筋骨格系の力学特性を記述し,筋指令を単純な基底関数の組み合わせによって表現する"SCA(Sparse Coding of Activation)"と呼ぶ手法を提案し,筋骨格ロボットに適用し,筋骨格系を基盤とした俊敏な身体運動(跳躍・走行)について調べた.走行の運動制御では,まず,ヒト筋骨格系と対応がとれることを活かして筋賦活パターンの原型をヒトの走行中のEMG(筋電図)を単純化することで得た.次に,計算機シミュレーション上での走行実験および運動学習によって筋賦活パターンを改良し,実機に適用する筋賦活パターンを得た.実機実験では,各筋の賦活によって理論値と一致する方向の床反力ベクトルが得られることを示した.また,計算機シミュレーションと同様に,下腿ブレードの弾性を利用した約1mのストライド(1歩あたりの距離)による3歩の走行を実現した.さらに,床反力の方向制御によって,体幹の姿勢を調節できることが示された.生体と同様に筋の応答遅れがあることから,予測的な筋指令が重要であることがわかった.
著者
石濱 裕美子 福田 洋一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究はチベット仏教の大成者ツォンカパ・ロサンタクペーペル(1357-1419)の最古層の伝記の研究を通じて、ゲルク派の歴史・教会史を明らかにすることを目的とした。現在入手可能なツォンカパの最も古い伝記には、『自伝』、直弟子のケドゥプジェ(1385-1438)の一般的な伝記『信仰入門』と神秘体験を綴ったンカ『秘密の伝記』、それに対する補遺として書かれたジャンペルギャムツォ(1356-1428)の『ツォンカパ伝補遺』他2篇がある。本研究課題では、これらの伝記の和訳研究を通じて、文献学、歴史学、仏教学の視点からツォンカパの思想形成や当時の教団の具体的な姿などを明らかにした。これらの伝記の成立順も確定することができた。まず最初に『自伝』が書かれて、ツォンカパの学習過程が修学期間、思想形成期間、講説期間という三つの期間に分けるパターンが確立した。ケドゥプジェの『信仰入門』が書かれ、次に同じく『秘密の伝記』が書かれ、それらを踏まえて『ツォンカパ伝補遺』が書かれた。その大部分はツォンカパ在世時に書かれたが、ツォンカパの死後『信仰入門』の最後にその様子が付け加えられたと推定される。また、ツォンカパの著作の全てのコロフォンを整理した。そこには、著作年次はほとんど見られないが、著作場所が記されていることが多く、また『信仰入門』にはツォンカパの場所の移動が細かく記されているので、それらを対照することで、多くの著作の著作年次または著作順序を明らかにすることができた。本研究課題の成果として、報告書において『自伝』、『秘密の伝記』、『補遺』の訳注と『信仰入門』の梗概を収録した。『信仰入門』全体の訳注は後日、その他の資料も含めて刊行予定である。
著者
鴨池 治 金崎 芳輔 秋田 次郎 吉田 浩 北川 章臣
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本年度の研究では、以下の3点の実績が得られた。1.はじめに、確定拠出年金の導入は実質的には退職金の前払いであり、その導入を決断した企業は年功賃金制のような賃金後払いの方法で従業員の勤労意欲を引き出すことを(部分的に)断念したに等しい。こうした企業は勤労意欲を引き出す手段として効率賃金を採用する可能性が高いが、この方法が広汎に採用されると、労働市場は高賃金が支払われる内部市場と低賃金が支払われる外部市場に階層化し、全く同じ能力を持つ労働者の生涯効用に格差が生じることになる。2.つづいて、厚生労働省のホーム・ページから2000年8月末に「確定拠出年金企業型年金承認規約代表企業一覧」を入手した。このリストにある1,993の企業から株式公開企業520社、さらに東証1部上場企業337社を抽出した。次に、日経テレコン21の記事検索により401k年金導入の記事が掲載された企業93社を探し出した。最後に、東洋経済新報社の株価CD-ROMより新聞掲載前後の株価データを入手し、401k年金導入のニュースに対して、株価(企業価値)がどう変化するかのイベント・スタディを行った。その結果、確定拠出年金導入の公表は当該企業の株価を高める効果は確認できなかった。3.最後に、『家計調査』の2002年から2006年までの貯蓄・負債編の公表集計表のデータを用いて日本における確定拠出年金制度の家計貯蓄に与えた効果を回帰分析した。年金型貯蓄/総貯蓄比率を被説明変数とした回帰では、勤労者でより所得の大きな世帯で拠出限度額の改定が総貯蓄に占める年金資産額を増やす可能性が示された。しかし、総貯蓄/所得比率を被説明変数とした回帰では勤労者でより所得の大きな世帯で、拠出限度額の改定が総貯蓄を侵食している可能性が示されている。いずれのケースにおいても、所得の小さな世帯においては確定拠出年金制度が年金型貯蓄および、総貯蓄を増加させているという効果は確認できなかった。
著者
林 光緒
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

居眠り運転による交通事故、夜勤中の産業事故や医療事故など、疲労と睡眠不足による居眠り事故は枚挙に暇がない。これらの事故は生命にかかわる問題だけに早急な対処法を講じる必要がある。筆者らは、これまで日中の覚醒水準の向上を図る方法として短時間仮眠法を提唱してきた。本研究は短時間仮眠法の実用化に向けて短時間仮眠法の洗練化をはかったものである。特に最適な仮眠環境の構築と、最適な仮眠取得のタイミングを明らかにすることを目的として実施された。仮眠後には、却って眠気が強くなったり作業成績が低下したりする睡眠慣性の影響が残る。睡眠慣性は徐波睡眠から覚醒すると強くなるため、短時間仮眠後の睡眠慣性を低減させるには、徐波睡眠に達しないよう仮眠内容をコントロールすることが必須となる。そこで、短時間仮眠の睡眠内容を検討したところ、若年成人の場合は20〜30分間の仮眠でもそのうちの43%の仮眠に徐波睡眠が出現し、15〜20分間の仮眠でも23%の仮眠に徐波睡眠が出現していた。しかし、15分以内の仮眠であれば徐波睡眠は出現しなかったことから、短時間仮眠の長さは、15分以下にすることが望ましいことが明らかになった。また、徐波睡眠を含まない短時間仮眠は睡眠段階1と睡眠段階2だけで構成されているが、睡眠段階1だけでは効果がなく、少なくとも睡眠段階2が3分出現することが必須であることも明らかとなった。このときの仮眠の長さは9分間であったことから、適切な仮眠の長さは19〜15分であるということが明らかとなった。さらに居眠り運転事故の予防のために車輌で仮眠をとる場合は、シート角度(座面と背面との角度)を150度に倒すこと、仮眠時間を15分間とすることがより効果が高いことを明らかにした。入眠までに約5分かかることを考慮すると、車輌シートで仮眠をとる際は、20分間の仮眠時間を確保することが必要であることを明らかにした。
著者
山田 義顕
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9年度は、装甲艦<A>問題が浮上する時期に、<ローマン事件>を契機として、すでに軍部対政府・議会という対立関係から、軍部・政府対議会という対立関係に政軍関係が変化していたことを指摘した。平成10度は、まず装甲艦<A>の成立過程を、軍事的、外政的側面から検討した。この点ではまず、海軍指導部が、ヴェルサイユ条約によって厳しい制約を受けながらも、北海でフランス艦隊に対抗できる新型艦の開発に成功した過程をたどった。その過程で、「砲撃では巡洋艦に、速力では大型戦艦に優越する」「小型巡洋戦艦」(いわゆるボケット戦艦)として、装甲艦<A>の決定をみたことを明らかにした。またこの装甲艦<A>は、ドイツ海軍が単に沿岸防衛に専守する任務をもつものではなく、制海権を目標とした戦前のドイツ大洋艦隊の道を再び歩む方向を決定づけたことを指摘した。つまり装甲艦<A>は、ドイツ海軍のイデオロギー的連続性を示すものであったのである。ついで、ヘルマン・ミュラー大連合内閣の時期に、1928/29年予算に計上された装甲艦<A>の第一回分割払いの問題を、「政党と海軍」、「政治と海軍」を中心に取り上げた。ここでは、装甲艦<A>の軍事的、外政的、財政的な面から建造に反対する諸政党に対し、国防大臣ヴィルヘルム・グレーナーが、どのようにこの艦の必要性を説いたかを検討した。両年度の研究実績の詳細については、『研究成果報告書』の第1章と第2章でまとめた。
著者
黒橋 禎夫
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

自然言語の文章では,人間にとって理解可能な範囲で頻繁に省略や代名詞化がおこる.この問題は,文章を単語集合として扱っている現在の情報検索でさほど表面化しないが,今後,情報検索を高度化していくためには,省略・代名詞に対する照応詞の同定が必須の要素技術となる.省略・代名詞解析には,用言(動詞,形容詞,名詞+判定詞)ごとに,どのような名詞が主語,目的語(格要素)になるかという情報をまとめた格フレーム辞書が必要となる.しかし,数千から数万の用言について,専門分野における特殊な用法までカバーする大規模で実用的な格フレーム辞書はこれまでのところ存在しなかった.格フレーム自動構築における最大の問題は,用言の意味の多義性である.たとえば「(友達に)なる」と「(病気に)なる」,「(塩,調味料などを)加える」と「(砲撃を)加える」では,同じ動詞でも格フレームのパターンがまったく異なる.この多義性を解消しなければ,格フレームは自動的には構築できない.ここでのポイントは,用言の意味を決定づける重要な名詞は用言の直前にあり,かつそれは文章中で省略されることは比較的少ない,という点である.そこで,用言単独ではなく,用言とその直前の名詞のペア,すなわち「友達になる」や「病気になる」を格フレームの単位とし,そのまわりに他にどのような格要素が存在するかを大量のテキストから学習するという手法を考案した.新聞記事を対象とし,約370万文から格フレームを学習したところ,9,900用言について平均6.0個の格フレームが学習された.さらに,この格フレーム辞書を用いて文章中の省略要素を同定する実験を行ったところ,70%程度の正解率が得られた.この手法は言語独立,分野独立であり,必要となるのはある分野の大量のテキストだけである.今後,ゲノム文献を対象としてこの手法の有効性を確認し,これを検索の高度化につなげていく予定である.
著者
小風 秀雅
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

不平等条約を19世紀近代世界システムのサブシステムとして、異文化の共牛を図るとともに列強の優位を維持するシステムを内包していることを明らかにし、近代世界システムのなかに構造的に位置づけるとともに、そのシステムの形成から崩壊までのプロセスを、日本を中心に東アジアの視野のなかで明らかにし、東アジアにおける近代化の国際的前提を解明した。
著者
王 雲海
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

この研究を通じて死刑多用という現代の中国の死刑政策・死刑制度を歴史的かつ刑事政策的に深く見ることができた。つまり、中国社会が国家権力を原点とする「権力社会」であって、そこでの死刑政策・死刑制度は、封建時代から民国時代を経て今日に至るまでは、基本的に権力を中心にその統治状況により政治的に決定されており、純粋な法律制度として完全に刑事政策的に対処されることにはまだ至っていない。この「死刑の政治性」こそ中国での死刑政策・死刑制度のありかた、そして、死刑多用の現実を根本から左右しているのである。
著者
中山 晶一朗
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

周知の通り交通混雑・交通渋滞は都市部における大きな社会問題となっている.交通混雑は単に所要時間が増加するのみならず,その信頼性が著しく低下することも問題である.所要時間がはっきりとは分からないことは,時間通りに到着することが出来ず遅刻に至ることになり,また,遅刻を回避するためには出発時刻を早めなければならず,様々な時間的,経済的,精神的損失を生み出すことになる.これまで交通工学では,時間信頼性を考慮しない交通量配分モデル(交通ネットワーク均衡モデル)が既に提案され,実用化に至っている.既往のモデルでも交通システムでの旅行時間を算出することは可能である.しかし,それらでは旅行時間の確率分布を取り扱うことは出来ず,単に一つの値としての旅行時間を算出するのみである.したがって,それらの既往のモデルでは先に述べた時間信頼性を考慮することはできない.昨年度では,時間信頼性を考慮した均衡モデルの基本的均衡概念について明らかにし,道路利用者の経路選択が不確実なため(確率的であるため)に道路ネットワークの状態が確率変動する場合の確率的均衡モデルを構築した.しかし,旅行時間や交通量の変動の原因は経路選択の不確実性のもならず,交通需要が確率的に変動することも重要である.本年度は,昨年度のモデルを拡張し,交通需要が不確実に変動するとともに経路選択が確率的に行われる場合のモデルを構築した.また,モデルを金沢都市圏道路ネットワークに適用するためのデータ整備も行った.
著者
高田 賢一
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、20世紀アメリカ児童文学における子ども像と自然環境意識の変容の歴史を解明することである。そこから得られた結論の第1は、自然環境の破壊と公害の先進国であるアメリカは、児童文学の分野において人間と自然環境の調和を真剣に考える先進国でもあるということである。結論の第2は、子どもが社会改革の可能性を秘めた存在であるという点である。第3の結論は、20世紀アメリカ児童文学、特に動物物語における子ども像と環境意識の歴史的変遷を『オズの魔法使い』を始めとする主要な作品に即して解明することにより、アメリカの児童文学が未来の社会を担う子どもたちに対して、新たな自然観、さらに自然環境への対応方法を提示してきたことが明らかとなった。すなわち、自然は人間が支配することのできない他者であるとの認識を持つことの必要性である。第4の結論は、児童文学に焦点を絞ることにより、自然・環境意識の変遷、レイチェル・カーソンのいう「驚きの感覚」を持つ子どもと自然環境との関連の歴史的特質、そして児童文学作家たちの環境意識の変容を明らかにしたことである。つまり本研究は、子どもと自然環境の角度から考察したアメリカ研究なのである。今後の課題は、子どもと自然環境の関わりを重視する新たなアメリカ児童文学史の構想であり、児童文学と環境教育との結びつきを視野に入れた研究へと幅を広げる必要性ではないだろうか。今後、このような考えに基づき、さらに多くの作家・作品を対象とすれば、その研究は国内外の最先端の研究と位置づけることが可能になると思われる。
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

人々のインタラクションは、日常の具体的な実践の文脈に埋め込まれている。そして、そうした文脈には発話や発話者だけでなく、聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースが存在し、それらが人々のインタラクションにおける一つ一つの発話順番の積み重なりに深く関わっている。本研究では、こうした視点から多くの自然会話の事例を分析していくことを通して、日本語の使用と学習の問題を再考し議論していった。研究の目的としては、(a)日本語を母語あるいは第二言語とする者のワークプレースおける自然会話を、微視的かつボトムアップに記録し記述し、(b)こうした相互行為実践の具体的場面の事例的研究を蓄積し、最終的に日本語教育における学習や教授に関する提言を行うことであった。具体的成果として、さまざまなワークプレース(大学の実験室やアルバイト先の飲食店やボクシングジム)におけるデータの分析から、(1)彼らが会話への参加の微妙な調整を通して「参加」を組織化している様子、(2)聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースを通してインタラクションがマルチモダルに組織化されている様子、(3)参加者による「職業的/専門的な見方」、つまり、「ある社会グループに特有の興味関心に応じる、社会的に組織されたものの見方や理解の仕方」が形成され志向され、また理解される様子、さらに、(4)人々は純粋な個体としてそこにいるのではなく、むしろ、周囲の人、モノ、テクノロジーとの布置連関のあり方を通して我々の前に立ち現れており、彼らはそうしたリソースやネットワークへのアクセスのあり方そのものであること、を明らかにした。
著者
米倉 迪夫 奥平 俊六 高見沢 明雄 木村 三郎 早川 聞多 林 進
出版者
東京国立文化財研究所
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

1.美術史研究用画像処理パッケージソフトの開発本研究で導入した画像処理システム(NEXUS6810)をパーソナルコンピュータ(NEC9801VM)より制御するソフト。NEXUS6810のもつコマンド群に習熟し、美術史研究に必要なソフトの機能を協議、画像処理の実験を重ね、ソフトの仕用案を作成した。プログラミングは、専門のソフト開発業者に依頼した。コンピュータのハード面に詳しくない美術史研究者が、研究支援の道具として画像処理技術を応用できるよう、主として次の4点に注意を払った。1)操作が手軽であること。2)画像ファイルの管理がすぐれていること。3)グラフィック及び画像処理機能が充実していること。4)研究者が手直しできる高級言語を使用していること。2.画像処理技術を応用した美術史研究の実例尾形光琳筆紅白梅図屏風(MOA美術館蔵)における制作過程と原状のシミュレーション3.画像データベース(dBASEIIIPLUSを使用)の試作文字型データベースに蓄積された文字情報とNEXUS側の画像情報とをリンクさせ、画像ファイルの検索・表示を可能にした。4.公開シンポジウムの開催本研究テーマのもとで二度の公開シンポジウムを開催し、美術史研究における画像処理技術の応用について活発な議論があった。1)第1回(10月25日) 於奈良・大和文華館西日本の美術史研究者を中心に約40名が参加。2)第2回(3月9日) 於東京国立文化財研究所。東日本の美術史研究者を中心に約60名が参加。
著者
川合 研兒 鄭 星珠
出版者
高知大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

これまでの一連の研究で、Aeromonas hydrophila A-3500株を液体培地で培養したのち塩類溶液で飢餓させた菌は、コイなどに対する病原性が培養菌よりも高いことを明らかにしてきた。本研究では、まずこれらの菌の病原性の違いをフナでも確認したのち、病原性に関与すると考えられる菌の生物学的性状を両菌で調べた。その結果、フナの皮膚に対する付着性、体表粘液・血清の殺菌性に対する抵抗性、および頭腎マクロファージの貪食に対する抵抗性がいずれも飢餓菌のほうが高く、このような生物活性の高さが飢餓菌の高い病原性を裏付けるものと推定した。培養菌、飢餓菌および感染魚から回収した菌から外膜タンパク(OMP)を抽出し、SDS-PAGEで比較したところ、36および43kDaのOMPが共通に認められた。そこで、これらの抽出したOMPをそれぞれキンギョに注射して免疫したのち感染試験を行ったところ、いずれの免疫魚も非免疫魚より高い生存率を示し、共通のOMPには感染防御抗原性があると推定された。つぎに、各地で異なった魚種から分離されたA.hydrophila7株およびA.hydrophilaと近縁種のAeromonas veronii biotyoe sobria T30株、Aeromonas jandaei B2株およびAeromonas sp.T8株を用い、抗A-3500株血清を用いたSDS-PAGE/ウェスタンブロットおよび菌体凝集反応を行って、抗原の比較を行った。その結果、凝集反応ではA.hydrophila株間および近縁種との間で、凝集価が大きく異なり血清型が異なることが示された。しかし、ウェスタンブロットではA.hydrophilaの菌株間ではほとんど差異がないが、近縁種との間ではパターンに大きな差異が認められた。これらのことから、本菌の飢餓菌と培養菌との間に認められる36および43kDaのOMPは、病原性にはあまり関与しないが、本種における共通の感染防御抗原である可能性が強いと考えられる。
著者
諸 洪一
出版者
札幌学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度〜平成19年度の科学研究費補助金を受けて行った本研究の課題は、宮本小一の「朝鮮論」と宮本が進めた日朝修好条規(以下、通称の江華島条約と略す)および「附属条約」であり、明治初期の日本の外交政策における宮本の朝鮮政策の意義と位置づけを試みた。研究結果の概要は次の通りである。1.江華島条約を構想し、この構想に沿って交渉を進めたのは、宮本であったことを明らかにした。江華島条約の構想は、明治2年末の宮本の「朝鮮論」が下地になった。江華島条約は、宮本の穏健かつ穏便な「朝鮮論」に則って成約に到っていた。今までの江華島条約に対する評価は、受け身に徹する朝鮮側とこれに一方的な強要をする日本側との対立構図として描かれていた。しかし本研究の結果江華島条約は、宮本の穏健な「朝鮮小国論」に基づいた日本側の消極的な朝鮮開国交渉と、日朝外交通商体制を主導的に措定しようとする朝鮮側の積極的な交渉とが、大きな対立点を露呈することもなく折り合って成立したことを明らかにした。2.江華島条約同然その「附属条約」を構想し交渉に当ったのも、宮本であったことを明らかにした。宮本が成約に導いた江華島条約は、日本外交の穏健論の集大成であり、したがって理事官宮本によって進められた「附属条約」は、当然ながら宮本の穏健かつ穏便な外交政策が実行されたものであった。ただし宮本の穏健外交とは相容れない強硬論の京城公使館設置問題が、宮本によって主張された。京城公使館設置問題は、榎本武揚によって提起された問題であった。宮本の穏健路線の連続である「附属条約」交渉に、急遽公使館設置のような強硬論が試されたのは、榎本による「英国」流の権力政治観と原理原則的な万国公法の適用を試みる強硬外交が台頭してきたためであった。その後の日本外交は、穏健な宮本外交から強硬な花房(榎本)外交へ転換していくのである。
著者
三浦 定俊 早川 泰弘 木川 りか 佐野 千絵 宮越 哲雄
出版者
独立行政法人文化財研究所東京文化財研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我が国の科学技術黎明期資料が、江戸時代から明治時代のはじめにかけて当時どのような材料と技術を用いて造られたかについて、これまでほとんどなされていなかった科学的観点からの実証的な調査研究を行った点が、本研究の特色である。幸いにも東京文化財研究所には、国立科学博物館に寄託されたトヨタコレクションが保管されていたので、コレクションをよそへ移動せずにその実証的な研究が可能となった。本研究では、資料のX線撮影にX線デジタル画像装置を利用した。この装置はダイナミックレンジが広く、通常の写真フィルムでは撮影が困難な、材質や厚みの著しく異なる資料の撮影に最適であった。また現像の手間が掛からないデジタル処理なので、点数が1,300点にも上るトヨタコレクションであっても効率的に研究し、本書に示すような成果を上げることができた。また今回の特定領域研究には大勢の研究者が関わっていたので、調査成果を速やかに整理して、デジタル画像をコピーして配布するなど、X線デジタル撮影の特長を生かして、本研究は「江戸のモノづくり」の特定領域研究全体に貢献することができた。この他、武雄市図書館・歴史資料館の所蔵する、二十人代武雄領主鍋島茂義(皆春齋、1800〜62)が収集した顔料の調査を行った。資料館の所有する茂義のコレクションの中には、当時の包みのままの絵の具が多数残されている。他に類例のない大変貴重なもので、資料館の協力を得て、それらの絵の具を整理・分類して分析し、当時どんな名称の下にどんな顔料が使用されていたか明らかにすることができた。