著者
外山 喬士
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

メチル水銀は魚介類の摂取を介して人体に蓄積し、中枢神経障害を惹起するが、その機構は不明である。最近申請者はメチル水銀を投与したマウスの大脳皮質において、脳内の免疫担当細胞であるミクログリアを活性化している可能性を見出した。これまで、活性化したミクログリアは 炎症性サイトカイン類の過剰産生を介して神経細胞死を誘導することで;、様々な神経疾患の発症に関わる可能性が示唆されている。そこで本研究では、1. メチル水銀による神経傷害へのミクログリア活性化の関与と、2. メチル水銀によるミクログリア活性化を介した神経傷害機構について解明を目指す。
著者
吉田 邦夫 國木田 大 佐藤 孝雄 加藤 博文 増田 隆一 Ekaterina Lipnina
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

バイカル・シベリアのマリタ遺跡は、マンモスの牙から作られたヴィーナスや鳥などの彫像が出土した著名な遺跡である。1928年以来、たびたび発掘されてきたが、出土物の層位が明確になっていない場合が多い。2013年、2014年に日ロ共同発掘調査を行い、層準が明確な資料を得た。また。ロシア国立歴史博物館・エルミタージュ国立美術館・イルクーツク国立大学に収蔵されている資料から年代測定用試料を採取した。これら、小児骨、ヴィーナス像を含む70試料を超える、主として骨試料について、年代値・炭素窒素安定同位体比を得た。同遺跡における複数の地質学的層序と文化層、自然環境とその年代についての重要な知見を得た。
著者
北浦 靖之
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

分岐鎖アミノ酸(BCAA:Leu, Ile, Val)の代謝を促進させることによる走運動持久力、肥満・インスリン抵抗性に対する影響について解析した。まず、新規BCAA代謝促進因子を発見し、そのin vitroでの作用メカニズム、in vivoでの血中BCAA濃度への影響を明らかにした。また、BCAA代謝がビタミンB1により促進され、ビタミンB1の摂取および遺伝的BCAA代謝促進による走運動持久力、肥満・インスリン抵抗性への影響を明らかにした。さらにBCAAに対するmTORC1の反応が、BCAA代謝促進および食餌中タンパク質含量により影響を受けることを明らかにした。
著者
高木 廣文
出版者
東邦大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

質的研究での主観的なテクスト解釈の問題点について、構造構成主義、ウィトゲンシュタインの言語に関する論考、科学的言語学であるソシュールの一般言語学およびチョムスキーによる普遍文法に基づき検討した。医療関係者、看護関係者及び哲学者等からテクスト解釈の問題点について情報収集し、心脳構造の言語システムの仮説的モデルを考察した。その結果、テクスト解釈の一般的方法をある程度は定式化できることが示唆された。さらに、ヴィエルジュビツカによる言語の概念的原子要素を用いたテクスト解釈、脳科学からのアプローチ、クワインの科学的な言語哲学の理路が、今後のテクスト解釈の科学的研究上で有用ではないかと考えられた。
著者
上宮 健吉
出版者
久留米大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

世界のヨシノメバエ属の種分化、系統発生、配偶者認知システムに係わる雄の交尾信号と雌の受諾信号を日本産とヨーロッパ諸国、ソ連邦産について音響学的、行動学的に追求した。採録した音響データは既知種8種、未記載種3種の総計611個体、86地域集団、5万個余りの信号数に達した。さらに、本属に近縁の属の交尾信号を波形パターンの原始性の決定に比較検討した。交尾信号の音響学的特性をオシログラムや周波数スペクトルから測定し、異種間、異地域同種間について、多変量解析の諸法によって有意性の検定や非類似度、群別化を行った。同種の異地域集団では、信号の物理的性質が様々の程度で遺伝的に固有化し、これが過去のヨシ湿原の地理的連続性がもたらすジーンプールの共有性の程度や、湿原の歴史性やヨシノメバエの侵入の起源に由来する場合と、隔離の成立の古さによって、近接集団と類似性のないランダムな特性として固定化している場合とが認められた。ヨーロッパの種類の中には、信号の時間軸特性が地理的隔離の程度が大きいほど、特異性が顕著であり(例えばブルガリア、ラトビア、イギリス産)、一方、地史的に連続性の新しい東ドイツ、チェコ、ハンガリー間には有意な差は認められなかった。このことは、孤立した遺伝子集団において、信号発生に係わる遺伝子系の変異の累積的蓄積に起因すると思われた。国内の1種では、中国大陸要素と考えられる集団が対馬、北九州、吉野川産に認められた。本州や北海道産では多群の正判別率が九州産よりも12.7%高く、地理的障壁の豊富なことを示した。多変量解析によるとrufitarsisはヨーロッパ産と日本産で明瞭に異なる数値が得られ、妊性交雑によっても別種であった。また、この群に東北・北海道に分布する種と、長野県に分布する2新種の存在が信号特性から判明した。音響特性や雌の反応性、交尾成功率、妊性からソ連産の1種がシブリング種として確立された。
著者
姫宮 彩子
出版者
山口大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

飲酒実験では、呼気採取直後では口腔内等に残留するアルコール(Alc)が多いが、時間経過にしたがって吸収過程に伴って上昇した循環中(血中)Alcが呼気中へ排泄される分が増加するため、呼気中Alc濃度(BrAC)は指数関数的に減少した後、10~20分程度の時点で増加に転じる挙動を示した。一方、洗口実験では、BrACは採取直後から指数関数的に減少して10~20分程度で十分に低下した。両実験のBrAC値の差をとった曲線は、血中Alc動態における吸収相を考慮したモデル式に合うと考えられた。今後も引き続きデータの集積を継続し、完了次第、ALDH2遺伝子型を考慮した動態モデルの検討を行う予定である。
著者
藤永 徹 水野 信哉
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

感染病、炎症あるいは組織損傷の初期に生ずる一連の現象を急性相反応という。この時血漿中に増加する蛋白が急性相反応蛋白と呼ばれ、感染病などに対する抗体や細胞性免疫反応が発現するまでの間の初期における生体の防御反応を非特異的に担う重要な血漿蛋白群といわれている。本研究ではウマのC-反応性蛋白(CRP)、セルロプラスミン(CP)、α_<1->酸性糖蛋白(α_1AG)、酸可溶性蛋白(ASP)、ハプトグロビン(HG)、血清アミロイドA蛋白(SAA)およびα_<2->マクログロブリン(α_2MG)をとりあげ、それぞれの蛋白を分離・精製して性状を調べ、ウマ血清中の濃度測定法を確立した。次いで、正常馬の加齢性および周産期におけるそれら蛋白の血清中濃度変動を明らかにし、炎症性病態における急性相蛋白の診断法を確立し、その意義について検討した。その結果、α_2MGはウマでは急性相蛋白ではないと判断された。急性相蛋白としての血清濃度の変動は、炎症刺激に対する反応性が最も速い蛋白はSAAで、処置後2日目には処置前値の数十倍から数百倍にも上昇した。次はα_1AGとCRPで、α_1AGは処置後2,3日目に約1.5〜2倍の上昇を示し、CRPは処置後3、4日目に約4倍の上昇を示した。HGは処置後4、5日目に約1.5〜9倍の上昇を、ASPは処置後5日目に約1.8〜1.9の上昇を示した。CPは処置後6〜7日目に1.5〜2倍の上昇を示した。また、SAAとCRPはその血中濃度が良く相関したが、SAAがより鋭敏であった。この様な蛋白毎の反応性の違いは今のところ不明であるが、今後これら急性相蛋白の変動を詳細に検討することによって、急性相蛋白の血中濃度測定の臨床的意義がより明らかにされるものと考えられる。しかしながら、この様な蛋白の幾つかを組合わせて血中濃度を測定することによって、病期が推測できる可能性が示唆され、病勢の診断や治療指針に有力な情報となりうる可能性が示唆された。
著者
宮崎 剛亜
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

N結合型糖鎖はタンパク質の翻訳後修飾の一つであり、ヒトなどの真核生物においてあらゆる生理機能や疾患などに関与する極めて重要な役割を果たしている。医療用の糖タンパク質の生産方法として昆虫細胞やカイコ虫体を用いた発現系が検討されているが、昆虫のN結合型糖鎖の構造はヒトのそれとは異なる点が大きな問題となっている。一方で、昆虫にはヒト型糖鎖生合成に必須な酵素と類似するタンパク質の遺伝子をゲノム中に有しているが、それらの機能や構造はほとんど解明されていない。本研究では、これら昆虫の機能未知酵素群の構造や機能を明らかにし、これらを利用したヒト型糖鎖の合成や新規機能性糖質を創出することを目的とする。
著者
中井 智也
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-01-04

本研究では、数学能力の神経基盤を、以下の段階を経て明らかにする:(1)数学能力の脳機能モデルとしてのニューラルネットワークモデルを構築する。(2)実験参加者が数学課題実行中のMRI計測を行う。課題内容からニューラルネットワークにより抽出した特徴量と脳活動の多変量線形回帰により符号化モデルを構築し、各特徴量の脳情報表現を検討する。(3)脳活動の予測精度を元に、複数のニューラルネットワークモデルのうちヒトの脳機能に最 も近似したモデルを調査する。(4)構築した符号化モデルの一部の構造を崩すことにより、仮想的な脳機能への影響をシミュレートする。
著者
竹田 雄一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

高次算術的リーマン・ロッホの定理の定式化とその証明に向けて,研究を行った.具体的には,iterated doubleと呼ばれる既約でない多様体上の計量つきベクトル束に付随する高次解析的トーションの理論を構成することを試みた.そして証明を完成させるために必要な高次解析的トーションに関する十分条件を見つけた.また筆者は,t-コア分割と呼ばれる特別な性質をもつ自然数の分割について研究を行った.そして,t-コア分割に関係する興味深い2次形式を発見して,その2次形式やそれに関連する有限体上の幾何を用いて,t-コア分割の分割数の間の関係式を導出するための,組み合わせ論的な手法を見出した.
著者
唐澤 重考
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

約16,000個体の標本データに基づき日本におけるワラジムシ亜目の分布データベースを構築した.また,このデータに基づき外来種オカダンゴムシの日本における分布制限要因を調べた結果,その分布には最寒月の気温が大きく影響していることが明らかとなった.加えて,日本に侵入したオカダンゴムシのmt DNAのCOI領域に5つの遺伝子型があることを明らかにし,本種は5つの原産地から持ち込まれたことを示唆した.さらに,琉球列島の4島(奄美大島,沖縄島,宮古島,石垣島)のワラジムシ相調査,および,福岡県宗像市の草地における群集生態学的調査から,現在のところ外来種による在来種の排他現象は生じていないと考えられた.
著者
石井 正将
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

急性心筋梗塞に対する治療法の発展により、その予後は改善傾向であるものの、最近、閉塞血管のない心筋梗塞であるMINOCA(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries)の存在が認識され始めたが、日本においてはまだMINOCAに関する報告がほぼなく、MINOCAの実態は不明である。本研究ではビッグデータを用いて日本におけるMINOCAの診療実態を疫学的に明らかにするとともに、その診断に寄与する血液バイオマーカーの探索を行う。
著者
木村 宣彰
出版者
大谷大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

中国とインドの交流は西域を媒介としており、西域の仏教や国情が密接に関係している。インド・西域からの渡来僧は、中国へ仏教を伝えることを目的にしている。例えば、月支の竺法護や亀茲の鳩摩羅什等の例に見られるように経典翻訳や教義理解や実践の指導を行っている。ところが、中国からインドへの入竺求法の動機は学問的な関心であった。中国僧の入竺は既に三世紀の後半から始まっている。その最初は魏の朱士行であり、魏の甘露五年(260)に西遊しているが、その動機は『道行般若経』を読み、文意が通じなかったため自ら西域に原本を求めるためであった。また道安の『放光光讃略解序』によれば、晋成帝の時代(327〜334)に慧常・進行らが西遊しているが、その目的も学問的な課題であった。かの法顕や玄奘も同様に自らの仏教研究の課題の解決にあった。また中国僧の入る竺の目的として自らの宗教体験や受戒の正否を確かめることもあった。その点で中国僧の入竺は、日本仏教における巡礼や、世の諸宗教にみられる聖地巡拝とは全く異なる性格のものであった。この様な目的でインドに渡った中国僧のためにインドに「漢寺」が存在していたことを確認した。『法苑珠林』所引の王玄策の『西域志』や引継の『印度行程』などによってそれを知ることが出来る。中国とインドの交流が最も活発になるのは5世紀と7世紀であり、逆にそれが減ずるのは6世紀と8世紀である。これは西域の事情や中国の秦や唐など国情と密接に関係している。中国僧の入竺記録としては法顕の『仏国記』や玄奘の『西域記』などは著名であるが、その他に、雲景の『外国伝』、智猛の『遊外国伝』、法勇の『歴国伝記』などが存在した。それらの逸文の収集に努めた。今後の残された研究課題としては、それらの入竺或いは渡来の僧たちが中国仏教の形成と発展に如何なる影響を与えているかの解明が是非とも必要になる。
著者
小澤 貴明
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

共感能力はヒトが集団として生存し,発展する上で必須の能力である。ヒトは他者の幸福に対して同じように喜ぶこともあれば(共感的喜び),妬むこともある。また,他者の不幸に対して共に悲しむこともあれば(共感的悲しみ),他者の不幸を喜ぶことさえある(シャーデンフロイデ)。本研究は,モデル動物を用いて,個々人を取り巻く社会的環境と他者の幸不幸に対する共感性についての基本的傾向の関係性について調べる。
著者
三浦 麻子 小林 哲郎 清水 裕士
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の目的は,様々な社会的行動・態度の個人差を説明する新たな価値観概念として「常民性」―民主主義やキリスト教といった現代欧米社会に深く根ざす思想の呪縛を受けない,システム正当化,生活保守主義,個人幸福志向などが複合した概念―を探究し,妥当性と信頼性の高い測定尺度を開発することである.(a)質的面接調査,(b)Web調査,(c)尺度開発の3プロジェクトが遂行される.一般的な質問紙調査ではリーチできない層を対象とする丹念な質的データ収集にもとづいて概念の精緻化を試みる点,尺度開発に統計モデリングを活用する点に学術的独自性と創造性がある.