著者
若林 茂則 穂苅 友洋
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

英語の「名詞+動詞+接尾辞-er」の形を持つ複合名詞は生産的で、「猫を食べる人」をcat eaterのように表すことができる。英語を母語として習得中の子供やスペイン語を母語とする英語学習者は、この複合名詞の使用において、語順や形態素の使い方を誤ることが知られていた。本研究では2種類の実験で日本語話者も誤りを産出するが、その誤りは他の学習者とは種類が違うことを明らかにした。先行研究ならびに本研究の結果に基づいて、誤りの原因は文構造規則の単語構造への適用と、別の形態素(-ing)の誤用にあると論じた。
著者
井上 智洋
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-10-21

デフレ不況が長期的にマクロ経済にどのような影響を与えるかという点について、既に井上智洋(2021)『「現金給付」の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』(NHK出版)の第4章にまとめており、2021年度はこの本に関して取材を受けたり、政治家や企業経営者などと討議を行ったりした。そういった討議の一つは、宮内義彦・井上智洋(2022)『2050年 「人新生」の未来論争』(プレジデント社、6月出版予定)の第4章に掲載されている。そこでは、マクロ経済学の基本的な命題である「貨幣の長期的中立性」は間違っており、実際には、貨幣量の増大率は長期的にも雇用や実質成長率といった実質値に影響を及ぼすと論じられている。また、経済が過度なインフレにならない程度に貨幣量を増大させるべきだと主張されている。その他の研究は進んでいない。昨年同様に、「ラーニング・バイ・ドゥーイングモデル」と「ニューケインジアンモデル」を統合したモデルを構築し既に論文にまとめているが、まだジャーナルへの投稿はできていない。「クオリティー・ラダーモデル」や「人的資本モデル」などの内生的成長モデルと「ニューケインジアンモデル」との統合についても論文を書こうともくろんでいるが、全く手つかずの状態である。別件の人工知能が経済に与える影響やベーシックインカム、コロナ危機に関する仕事の依頼があって、本研究は全体的にあまり進んでいない状況である。何より体調不良で研究が進んでいない。は全体的にあまり進んでいない状況である。何より体調不良で研究が進んでいない。
著者
清水 英雄
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

ハンチントン病(HD)は、変異型ハンチンチンが原因で引き起こされる神経変性疾患である。HDのモデルマウスでは、シナプスの機能異常が起きており、責任遺伝子であるハンチンチン遺伝子のノックアウトは胎生致死に至る。これらのことから、変異型ハンチンチンは発生期から発現して、脳発達初期からシナプス形成に対して悪影響を及ぼすことが予想される。本研究では、シナプス形成異常と興奮毒性等による神経細胞死を、HDモデルマウスと同腹仔の野生型の初代培養神経細胞をそれぞれ用いて定量的に比較する。これにより、HDにおけるシナプス形成異常と神経細胞の脆弱性を明らかにし、HD発症に至る神経発達異常のメカニズムを解明する。
著者
益田 重明 小尾 晋之介
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

回転座標系における境界層では、凹面上の境界層におけるゲルトラ-渦と類似の縦渦の形成から乱流遷移が始まることが知られており、コリオリカ不安定による三次元微小撹乱の線形成長として説明されている。本研究ではこれに続く撹乱の非線形成長の過程、すなわち二次不安定について実験的に調べた。先ず、波長の異なる撹乱を人工的に与えてゲルトラ-渦に発生状況を観察し、波長選択の機構について検討した。その結果、撹乱波長が過大の場合には発生した縦渦の分裂(splitting)が、また過少の場合には合体(merging)が起こり、最終的に特定の波長に漸近する傾向を示すこと、この特定の波長は人工撹乱を加えない自然の状態で観察されやすい波長に近いことを見出した。さらに、このスパン方向二次不安定に続いて流れ方向に周期性を持つ別の二次不安定(流れ方向二次不安定)が発生すること、これには馬蹄渦モードと正弦波モードがあること、モード選択には一次不安定(ゲルトラ-渦)の波長のほかに、二次撹乱の対称性が関わっていること、流れ方向二次不安定の発生と同時に壁面近傍に強い速度変動が新たに生ずることを明らかにした。さらに、上記の二次不安定は縦渦によってもたらされる速度分布の空間変化の振幅が主流速の40%程度、境界層厚さを基準としたゲルトラ-数が約130に達した段階で発生すること、これらは凹面境界層における従来の結果とほぼ一致することを明らかにした。さらに線形撹乱方程式の形から、遷移初期の縦渦形成段階は少なくとも遠心力とコリオリカに関する限り外力の種類によらないこと、非線形段階に達して二次不安定が発生する状況に至っても、外力型不安定から変曲点型不安定に切り替わることによって、やはり外力の有無や種類に関係しない、縦渦を伴う遷移に共通の現象であることを示唆した。一般の乱流遷移の終期段階における縦渦の重要な役割が知られており、本研究の成果はその解明にとって新たな知見を与えた。
著者
富田 瑛智
出版者
関西国際大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は飽きの発生と解消に関わる要因を検討する。特に,飽きの解消に焦点を当て,反復提示によって生じる飽きの時間変化について検討するものである.研究では,時間経過などを操作し,飽きを測定する主観評価,行動指標及び生理反応を取得し、発生および解消の過程を検討する.
著者
山口 多恵
出版者
長崎県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

アンラーニングは組織改革や専門実践において広く汎用されている戦略的学習概念であり,時代や環境の変化により有用性を失った知識や技術,価値観を棄却して新しいものを獲得するプロセスである(山口,2017).回復期リハ病棟へ配置転換した看護師のアンラーニングの促進は,リハビリテーション看護のコンピテンシーの獲得に影響を及ぼすことが期待される.本研究により開発するアンラーニングを促進する教育プログラムがリハビリテーション看護のコンピテンシーの獲得に寄与するかという仮説を検証する.日本のケアシステムにおいて,高齢者の自立支援と生活を支えるリハビリテーション看護の理論的発展に貢献する研究に位置づく.
著者
岩田 太 秋元 奈穂子
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は,新型感染症・発症予防対策などの公衆衛生分野における法の役割に関する日本・台湾・合衆国の比較研究である.そのため,文献研究と実地調査を交えて,今般のコロナ蔓延時などの緊急事態下のみならず,人々の健康全般および発症予防を重視する平時の「パブリック・ヘルス・ロー」の視覚とその具体的な法制についても包括的に検討する.従来十分注目されることのなかった,パブリック・ヘルス・ロー(「公衆衛生と法」)を包括的に検討し,未知の部分も多い新型感染症など緊急事態下の対応と,発症予防を中心とした新生児スクリーニングや予防接種などにおける平時のパブリック・ヘルス・ローの機能について,共通性と差異を検討する.
著者
羽山 恵 河合 裕美 及川 賢
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、子どもの英語力および英語学習に対する意欲・態度などと家庭要因の関係について調査を行う予定である。家庭要因とはこの場合、(1)子ども要因、(2)環境要因、(3)保護者要因、(4)保護者の子どもとの関わり要因、(5)子どもの家庭生活要因などを指す。扱う家庭要因は多岐にわたるが、最終的には英語能力および意欲・態度と関係の強いものを統計的分析によって特定し、関係性モデルを構築することを目指す。家庭要因を調査することにより、学校が子どもの背景にある家庭状況と英語学習の状態・関係をより理解し、英語教育において両者(学校と家庭)が連携する体制を整える一助となりたい。
著者
宮地 良樹 中村 元信 荒川 明子
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

円形脱毛症の中には、多発型円形脱毛症あるいは全頭部に拡大する全頭型脱毛症、眉毛や体毛の脱毛もある汎発型脱毛症があり、ステロイドの外用、内服、局所免疫療法、光線療法などの既存の治療法に反応しないことが多い。私たちは円形脱毛症の病因が制御性T細胞の機能不全であるという仮説のもと、坂口志文教授らとの共同研究で円形脱毛症患者の末梢血を解析し、有意な制御性T細胞減少があることをすでに見いだしている。自己免疫疾患マウスに制御性T細胞を移入すると自己免疫反応を抑制できるため、制御性T細胞操作の治療への応用が期待されている。我々はまず円形脱毛症を自然発症するC3H/HeJマウスの皮膚局所へ制御性T細胞を投与し、人体に応用する前にまず、円形脱毛症モデルマウスC3H/HeJマウスへの治療効果を検討する。(1)C3H/HeJマウスCD4陽性細胞をソーティングする。(2)FoxP3発現用レトロウイルスをトランスフェクト(3)C3H/HeJマウスの末梢血、脾臓、胸腺を採取する。(4)CD4陽性CD25陽性細胞をソーティングする。(5)FoxP3発現用レトロウイルスをトランスフェクトしたCD4陽性細胞とCD4陽性CD25陽性制御性T細胞をそれぞれC3H/HeJマウスの脱毛斑に局所投(6)外毛根鞘細胞のMHCclassI、II蛋白の発現量、インターフェロンガンマの産生を定量する。
著者
山本 希美子 安藤 譲二
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

血管内皮細胞は血流や血圧に起因する力学的刺激であるせん断応力や伸展張力を常に受けている。内皮細胞には力学的刺激をセンシングし、血行動態の情報として細胞内部に伝達することで細胞応答を起こす働きがあり、循環系の恒常性維持に重要な役割を果たしているが、その仕組が障害されると、様々な心血管病の発生に繋がる。最近、せん断応力依存的に血管内皮ミトコンドリアでATPが産生することを見出し、力学的刺激が細胞のエネルギー代謝に直接関与する事を示した。本研究では、血流刺激に反応するミトコンドリアでのATP産生メカニズムに焦点を当て、力学的刺激受容オルガネラとしてのミトコンドリアの役割とATP代謝経路を解明する。
著者
北村 理依子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本年度は、人権の普遍性の議論を研究対象とした。人権の普遍性に関連する議論は複数あるが、そのうち本研究が扱うのは、普遍主義と文化相対主義の対立である。普遍主義は、人権の普遍性は人権それ自体に埋め込まれているものであり、その主たる理由は、人権の骨子である平等性から人権を持つ者は国・地域に拘らず同様の人権を持つことが導かれるため、というものである。その中核には、人間の尊厳、平等という概念が存在する。一方、文化相対主義は、国際文書に示された人権規則は、各国の歴史、宗教、文化および種族構造を考慮に入れた上で解釈・適用されなければならないとする。こうした対立は、人権の普遍主義が国際文書の形で登場したときから現実に看守できる。国際文書における人権の普遍性に関連する文書として挙げられるのが、1993年のウィーン宣言である。同宣言は人権の普遍性および不可分性を謳うものであり、多くの国に支持を受けて採択された。一方、この前後にバンコク宣言およびクアラルンプール人権宣言がそれぞれ採択され、アジアの基本的な人権観がまとめられた。人権の普遍性との関連でいえば、ここでは、人権は国家的及び地域的特殊性と、様々な歴史的、文化的、宗教的背景に留意しなければならない旨が述べられている。このように対立しているように見えるが、理論的にはこの対立は解消されている。すなわち、人権の普遍性はCONCEPTの段階では認められるが、CONCEPTIONおよびIMPLEMENTATIONの段階では相対性が認められるということである。CONCEPTの段階で普遍性を保つのは、機能的要請から、つまり脆弱な個人を組織的な社会の脅威から保護するために必要であるからであり、また現実に多くの国が人権という概念の存在を認めているからである。さらに、現実に内容が普遍的な人権もあると主張される。このように、両者が歩み寄る形での理論が優勢である。
著者
矢野 勝也
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

植物が野外で遭遇する環境は、実験室レベルの研究で採用されるような均一な環境条件とはほど遠く、むしろ不均一性を特徴としている。このような不均一な環境条件下における植物は、均一な環境条件では想像もできないような振る舞いを示すことがある。その一例が、乾燥地で植物が深い根を発達させて地下水を吸収する一方で、表層の乾いた土壌に根から水を放出する現象(hydraulic lift)である。本研究は、hydraulic lift現象における水の放出経路を解明し、放出能の種間差を評価することを目的とした。まず、植物根からの水放出経路を追跡するための方法論に取り組んだ。すなわち、植物根の導管にあらかじめ取り込ませたトレーサーから、水移動を把握することを試みた。一部の根からトレーサーとしてセシウムやルビジウムを取り込ませた根系を、高浸透圧条件のゲル上に展開することでhydraulic liftを引き起こさせた。蛍光X線解析装置を用いて、ゲルを含めた根系全体の2次元元素マッピング画像を得ることで、非破壊的にトレーサーの動きを捉えることができた。同様に、導管から色素を取り込ませることによっても、導管内の水移動を追跡できた。これらの結果から、根の形態によって水放出能に違いのあることが示唆された。上層・下層に分かれた栽培容器を用いて、深根性植物6種のhydraulic lift能を比較した。供試したいずれの植物種もhydraulic liftによって下層部から上層部へと水を供給したが、その供給能は種間差が大きかった。根量当たりの水放出能を調べると、供試した5種の植物間では有意差が認められず、主に根量の違いが水放出量を規定していたと考えられた。その一方で、供試した植物種の1つは根量当たりの水放出能が著しく高いことが明らかとなった。
著者
高橋 英彦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

統合失調症患者の脳内における単語の表象ネットワークの乱れを脳内における単語の表象ネットワークにグラフ理論による解析を適応し、定量的に解析することを目的とする。対象は統合失調症患者で、臨床・心理データに加え、脳MRIを取得する。被験者に自然動画刺激を提示し、全脳活動をfMRIによって記録する。動画に含まる単語のラベル時系列と脳活動から、重み係数を求める。この過程で、単語をベクトルに変換する自然言語処理技術Word2Vecを用いる。脳内単語ベクトルの任意の2語の組み合わせの類似度を表した行列を得るこの行列から、隣接行列を作成し、グラフ理論による脳内の単語表象のネットワーク解析を行う。
著者
小関 由美
出版者
東京女子医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

関節リウマチ(RA)に合併する続発性(AA)アミロイドーシスでは、血清アミロイドA(SAA)に由来するアミロイドA蛋白が臓器に沈着するSAAはCRPと同様にIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン刺激により主に肝細胞で産生されるが、RA患者や培養肝細胞においてステロイドに対するSAAとCRP産生には違いがあることが示唆されている。より有効にSAA産生を抑制する薬剤を検討するため、各薬剤で治療中のRA患者でSAAとCRPを測定し、培養肝細胞を用いてSAAとCRP産生に与えるステロイド薬および免疫抑制薬の影響を蛋白レベル、mRNAレベルで解析した。CRP遺伝子には多型はなくSAA/CRP比は一定の炎症刺激に対するSAA産生を示すと考えられる。283例のRA患者でSAA/CRP比と薬剤の関係をみると、SAA/CRP比はステロイド投与群で有意に高く(7.8±7.2 vs 3.3±2.8,P<0.001)、ステロイド投与量と正の相関を示した。ステロイド非使用患者で、抗リウマチ薬(メトトレキサート、スルファサラジン、SH基剤)服用の有無とSAA/CRP比を検討したところ、いずれも有意差はみられなかったが、メトトレキサート使用患者で低い傾向があった。サイトカイン刺激HepG2細胞に薬剤を添加し採取した培養上清のCRP濃度は、ステロイド、MTX、シクロフォスファミド添加にて、いずれも薬剤無添加に比べ低くなり、SAA濃度はMTX、シクロフォスファミド単独の添加とステロイドとの併用では薬剤無添加に比べ低かったが、ステロイド単独の添加では高値となった。HepG2細胞より抽出したSAA1mRNAの発現はサイトカイン刺激前はみられず、刺激にて発現を認めた。またステロイドの添加でmRNAの発現は増加したが、免疫抑制薬(特にMTX)の添加では発現は低下した。
著者
石場 厚
出版者
愛知県警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

○研究目的2-アミノ-1-フェニル-プロパン-1-オンを基本骨格とするカチノン系薬物にはフェニル基に置換基が導入されたものが数多く存在する。しかしながらオルト、メタ、パラといった位置異性体の違いにより指定される法律が異なることもあり、これを正確に識別できなければ誤認逮捕につながりかねない。薬物分析で用いられるガスクロマトグラフ質量分析においては、位置異性体の識別が困難な場合が多く、他の分析法を併用する必要がある。そこで芳香族置換基の位置異性体を識別する方法として呈色反応に着目した。○研究方法今回、検討した薬物はα-PVP及びそのフェニル基に置換基(メチル基、メトキシ基、メチレンジオキシ基)を導入した化合物8種類の計9種類である。メチル基、メトキシ基が導入されたものについては当研究所で合成した。またメチレンジオキシ基が導入されたものについては当研究所保有の薬物を使用した。これらの薬物の溶液を呈色板に滴下し、風乾後、呈色試薬を滴下し室温で5分反応させた後、色の変化を観察した。呈色反応に使用した試薬は、マルキス試薬はじめ21種類の試薬を検討した。○研究成果メチル基が導入された薬物についてはいずれの呈色試薬を用いてもオルト、メタ、パラの異性体を識別することは困難であった。メトキシ基のものでは硫酸がオルトのみを呈色し、マルキス試薬がオルト及びメタを呈色することからこれらの呈色試薬を組み合わせることで異性体の識別は可能であった。メチレンジオキシ基のものではマルキス試薬で2, 3-体と3, 4-体を識別することが可能であった。カチノン系薬物はカルボニル基の電子吸引性により芳香環の反応性が低下しているため、電子供与性置換基が導入されている薬物については呈色反応による位置異性体の識別は可能であると考えられる。
著者
向井 讓 篠原 健司 角張 嘉孝
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

ロドキサンチンの光防御機能を解明することを目的として光合成特性、電子伝達効率(Fv/Fm)、光合成関連タンパク質、色素組成の季節変化などを調べ、以下の結果を得た。(1)ロドキサンチンを蓄積できないミドリスギは野生型のスギ以上に光阻害を受けていたため、ロドキサンチンは光阻害の進行を防止する。(2)被陰処理により光量子量を調節して生育させたスギ苗木を解析し、キサントフィルサイクルの稼働効率が低下し夜間にもゼアキサンチンが残存する条件下でロドキサンチンが蓄積し、蓄積量は過剰な光エネルギーの量と高い相関がある。このため、ロドキサンチンは、夜間にも残存するゼアキサンチンを前駆体として光阻害が引き金となって合成される。(3)標高が異なる4カ所の南向き斜面にあるスギ造林地(標高150m,630m,900m及び1,120m)の陽樹冠の針葉を解析した結果、標高が高いほど光阻害の程度(Fv/Fmの低下率)が大きかった。また、標高間でロドキサンチンの最大蓄積量には差がないが、蓄積及び消失の開始時期には差があるため、ロドキサンチンの蓄積や消失時期が光阻害の指標となる可能性がある。(4)ロドキサンチンが蓄積した厳冬期の屋外の枝を採集し、室内に移して回復過程を解析した結果、夜間のゼアキサンチンが消失した後、ロドキサンチンの消失が始まった。また、消失速度は光阻害の程度が少ないほど早く、ロドキサンチンの消失に伴って減少していた光合成関連タンパク質の量が増加した。(5)九州から北陸に至る地域で選抜されたスギ精英樹クローンを用いて、クロロフィル蛍光及び色素組成の季節変動を解析し、光強度や標高などの環境による変動と、比較するとクローン間の遺伝的変動は小さいが、ロドキサンチンの最大蓄積量や冬期のFv/Fmの最小値にはクローン間で有意な差があり、光阻害耐性品種を選抜できる可能性がある。
著者
徳留 信寛 王 静文
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

大腸がんには多くの環境要因が関連していますが、そのなかで脂肪および食物繊維摂取が重要だと考えられます。また、遺伝的感受性が大腸がんの発症に重要な役割を担っていることも報告されています。インドには各種ベジタリアンがおり食物繊維摂取量が多く、また、脂肪摂取量が少ないので大腸がん罹患率が低いのではないかと考えられています。遺伝的要因・環境要因と大腸がんリスクの関連を明らかにするためにインドにおける大腸がんの症例対照研究を行っています。この研究では、喫煙、飲酒はある程度の大腸がんのリスクと関連していたことが示唆されましたが、野菜、果物の高摂取は大腸がんの発症リスクを下げる効果が見られました。葉酸の代謝酵素MTHFRの遺伝子多型は大腸がんとの関連を検討したところ、MTHFR A1298C多型のCC型では統計学的に有意なリスクの低下を認め、さらに野菜の高摂取との交互作用が見られました。だが、MTHFR C677T多型と大腸がんのリスクとの関連は観察されませんでした。このほかに、脂肪の蓄積の主調節要因であるPPAR-gammaのPro12AlaとC161T遺伝子多型、細胞周期のG1期からS期への移行において重要な役割を演じるCCND1のA870G遺伝子多型と大腸がんの関連を検討しました。PPAR-gamma C161T多型のT alleleでは大腸がんのリスクが高く、特に結腸がんでは強い関連が観察されました。さらに、PPAR-gammaのPro-T haplotypeでは大腸がんリスクの高いことが見出されましたが、魚摂取の交互作用は認められませんでした。CCND1 AA型では大腸がんのリスクが高くなり、CCND1 A alleleが常染色体劣性遺伝形式に適合していることが認められました。さらにA870G多型は、肉、魚と野菜摂取により大腸がんリスクを修飾する可能性が示唆されました。
著者
郭 南燕 中尾 徳仁 李 梁 白石 恵理
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

土山湾は中国上海市徐家匯地区の村落である。1864年にイエズス会がそこに孤児院を設立し、職業訓練の工房を開設し、1950年代まで運営した。そこで制作された美術工芸品と印刷物は、幕末から昭和初期まで日本に輸入されて、博物館、記念館、修道院等に収蔵され、幅広く利用されている。本研究では、①日本に散在する土山湾の美術工芸品と刊行物に関する網羅的調査とデータベース化、②国内諸機関の書誌に対する補足情報の提供、③土山湾作品を手本とした幕末~明治初期の「プティジャン版」と布教用木版画の分析を通して、土山湾の作品が日本文化に与えた影響を検討し、日本現存の作品の保存と研究の推進に寄与したいと考える。
著者
本田 秀夫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、特定の出生コホートの累積発生率調査(Honda et al, 2005)で把握された自閉スペクトラム症(ASD)の子ども278名の長期追跡を行い、成人期の転帰を調査することである。278名のうち189名に連絡がとれ、そのうち170名から研究参加に同意が得られた。全般的社会適応は、全体の11%が優良、14%が良、37%が可、33%が不良、5%が著しく不良であり、過去のASDの長期追跡調査での報告と比べると、不良/著しく不良が少なかった。ASDの人たちは、幼児期より個々の特性に応じた環境設定や支援を受ければ、それなりに安定した成人期の生活を送ることが可能であることが示された。