著者
大森 俊宏
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

2020年度では,精子と精子の間に働く流体力学的相互作用に着目し,流体干渉による精子遊泳の変化を議論した.この解析を行うため,精子鞭毛の弾性変形と鞭毛周りの流れ場を連立する計算手法を開発し,2体精子の遊泳シミュレーションを行った.その結果,精子と精子が,体長程度の近距離にいる場合,鞭毛運動によって作られる流れ場の変動の効果が大きくなり,単体で遊泳する時よりも1割ほど早く遊泳できることを明らかにした.これは,精子が集まることで素早く遊泳できることを意味し,この協調遊泳の効果は受精競争に有利に働くものと推察できる.これらの結果をPhysics of Fluid誌(Taketoshi et al., Phys Fluids, 2020)に発表,また大学広報を通じてプレスリリースを行った.協調遊泳の効果は,多体になるほど大きくなるものと予想されるため,多体干渉時にどの程度の効果が出るのかを解析していく予定である.本手法を,繊毛・鞭毛を用いて遊泳する生物運動(繊毛虫の遊泳など)へと一般化し,繊毛運動によって生じる流体粘性散逸,遊泳効率の解析を行った.特に,繊毛の本数と細胞体の大きさとの関係に着目して解析を行ったところ,遊泳効率が最大となる繊毛密度が存在することを発見.得られた最適な繊毛数密度は自然界に存在する微生物との一致しており,この結果は現存する微生物は運動エネルギーを最小化していることを意味する.本研究結果はPNAS誌に掲載された(Omori et al., PNAS, 2020).
著者
山崎 恒夫
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

アミロイドβ蛋白(Aβ)とタウ蛋白の脳内沈着はアルツハイマー病を特徴づける重要な所見だが、両者の存在が単なる合併なのか、あるいは何らかの関連が有るのかは不明であった。ニーマン・ピック病タイプC(NPC)はNPC遺伝子に変異を持っ遺伝性神経変性疾患であり、興味深いことに神経細胞内にアルツハイマー病と全く同じタウの沈着が生じる。NPCのもう一つの特徴は細胞内、特に後期エンドソーム内にコレステロールが沈着することであり、これがNPCの本態と考えられている。近年、アルツハイマー病とコレステロールの関連が想定されつあり、私はNPCに見られるコレステロール輸送異常機構がいかにタウの沈着に結びつくか、またAβの異常とも関係があるのかを検討することとした。まずAβを産生するCHO細胞にType2 amphiphileを作用させ、NPCと同様にコレステロールを細胞内に蓄積させた。次に、コレステロールを蓄積する後期エンドソームを細胞分画法によって集め、生化学的に解析したところ、Aβが同じ画分に凝集していることが判明した。そこで、後期エンドソームをセルソーターによって集め解析すると、やはりAβの凝集が明らかとなった。このエンドソーム内へのAβの蓄積はコレステロールの蓄積量に依存していた。一方、Runzらは同様の処理を細胞に行い、エンドソーム内にAβの産生酵素を検出した。これらの事実は、後期エンドソームがAβの産生部位の一つであることを示すとともに、コレステロールの輸送異常はタウ並びにAβの細胞内蓄積を生じさせ、このことがアルツハイマー病の病態発生に関与している可能性が考えられた。
著者
岸本 忠史 吉田 斉 能町 正治 玉川 洋一 小川 泉 硲 隆太 梅原 さおり 吉田 斉 飯田 崇史 中島 恭平
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-07-10

48Caの0ν二重ベータ崩壊(0nDBD崩壊)で、将来ニュートリノ質量で数meVの領域の探索のため、以下の3点の研究を進めた。①48Ca同位体濃縮技術の実用化:自然存在比0.19%の48Caで2%以上を目指した。高熱伝導率の絶縁物で電気泳動させる新しい濃縮法(MCCCE法)で、16%と目標の約10倍の驚異的な濃縮を達成した。更に改善できる。②高分解能蛍光熱量検出器の開発:極低温でCaF2結晶の熱と蛍光を測定して、高分解能化を粒子弁別と両立させる道を拓いた。③CANDLES装置で48Caの0nDBD崩壊の観測:遮蔽システムを建設し環境バックグランドを2桁減少させて、世界で一番良い感度を達成した。
著者
菊池 潔 廣井 準也 田角 聡志
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

海と河をめぐる回遊機構(遡河回遊)に関しては、これまでに多くの生理・生態学的な知見が集積しているが、回遊を可能ならしめたゲノム上の変異は同定されていない。トラフグ属魚類の多くは純海産魚であるが、その近縁2種は淡水適応に成功し、河に遡って産卵する。本研究では、これまでの回遊研究とは異なった切り口、すなわち順遺伝学的手法を採用した。その結果、遡河性2種に共通の淡水耐性遺伝子座を見出した。次に、トラフグ属魚類合計10種のゲノムDNA配列を用いて、淡水で生息可能な2種にのみ共通するDNA配列を探索したところ、回遊を可能ならしめた変異候補をさらに絞り込むことができた。
著者
片山 義雄
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成27年度には、マウス造血組織である骨髄、胸腺、脾臓だけでなく造血幹細胞株やT細胞株での匂い感受シグナル特異分子 AC3 と Golf の mRNA 発現を確認できた。これらの一部は蛋白レベルでも確認できた。In vivo の実験として、植物由来匂い物質であるα-ピネンをG-CSFによる造血幹細胞動員に併用したが、動員効率を変化させる効果はみられなかった。平成28年度には、in vitro で血球のみでなく間葉系も含めた各種細胞株における、ある匂い物質による細胞運命制御の検討に集中して研究を進め、この部分に関しては今後特許申請予定となったため公開を差し控える。
著者
山口 真由
出版者
信州大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

親とは何か――この問いに対する法的に普遍的な答えは、いまだ与えられていない。例えば、わが国においては、両親の婚姻又は親子の血縁のいずれを重視するかによる緊張関係がある。わが国に先んじて、社会的変化に直面し、各州が競って親子法制を進化させた合衆国の親子法を題材として、普遍的な「親子の要件」を抽出することを、本研究の目的とする。その際に、婚姻と血縁に収斂すると思われている親子の要件について、それとは異なる可能性や、父と母の決定に関して異なる哲学に基づく別個の法理が形成されている可能性を検証する。
著者
小林 憲正 三田 肇 癸生川 陽子
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

従来の古典的な化学進化説では,小分子から少しずつ大きな分子が生成し,その後,機能が創出したと想定されてきた。本研究では,単純な分子の混合物に高エネルギー付与と急冷により微弱な化学機能をもつ多様な分子(がらくた分子)が一挙に生成し,その進化・選択により微弱な生命機能を有する分子群が生成するというシナリオ,「がらくたワールド説」の実験的検証を行う。一酸化炭素・アンモニアなどの模擬星間物質や模擬原始大気に粒子線を照射した時に生じた高分子態複雑分子(がらくた分子)の機能を調べ,それが種々の宇宙地球環境下で変成を受けた場合の機能の進化を調べる。
著者
杉本 雅則 橋爪 宏達
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

超音波とカメラを用いて、モーションキャプチャのための3次元トラッキングシステムを構築した。超音波により距離、カメラにより距離方向の鉛直面でのターゲット位置を取得する。提案システムは安価なカメラと超音波送受信機で構成され、非常にコンパクトに実装できる。測位性能向上のため、超音波送信機の位相特性補正を行い、位相補正面をBスプライン関数で補完するという方法を取った。実験の結果RMSEが1.20mm(静止時)、1.66mm(毎秒1m)での3次元トラッキングが可能であることが示せた。これは、最新の高価なモーションキャプチャシステムに匹敵する性能である。
著者
田島 陽一
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

がん増悪化における細胞融合の役割は、染色体およびDNAの不安定性によって腫瘍の表現型に多様性を生み出すことが考えられる。ただし、細胞融合が悪性腫瘍の引き金になるかは不明である。間葉系幹細胞(MSC)と膀胱癌細胞との細胞融合により融合遺伝子の形成、細胞の形質変化、および腫瘍形成に変化が見られた。また、細胞融合により多くの遺伝子が変動した。その中のX遺伝子は腫瘍の成長につれて発現が増加する傾向を示し、遺伝子破壊により腫瘍形成が抑制される知見を得た(論文作成中)。これらの結果からMSCとがん細胞との細胞融合は、がんの多様性に関与する可能性があると考えられる。
著者
加藤 昭 齋藤 靖二 松原 聰
出版者
国立科学博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

本邦各地の層状マンガン鉱床産の鉱石試料中に含まれるニッケル・コバルト鉱物の同定を行った。それらのうち、三種について化学組成を決定した。又一部のゲルスドルフ鉱・輝コバルト鉱については、購入のプリセションカメラにより晶系を決定(等軸)した。最も重要な事実は、栃木県鹿島鉱山産試料中の含ニッケル黄鉄鉱(最高Ni0.46重量%)の確認、ニッケルの分布状態の把握、その成因の推定で、そのニッケルは本来テフロ石(【Mn_2】Si【O_4】)中の微量成分として含まれていたものが、そのバラ輝石(〜MnSi【O_3】)化に伴なって濃集されたものであろうという結論に達した。この結論はバラ輝石の集合中に含まれるニッケル・コバルト鉱物の成因を説明することができる。またこれらが砒素を含む場合、その砒素の根源も恐らくテフロ石にあるであろうと考えることができる。また栃木県板荷産のバラ輝石を主とする鉱石中に見出されたシーゲン鉱(【(Co,Ni)_3】【S_4】)+輝コバルト鉱((Co,Ni)AsS)の組合せではCo/(Co+Ni)比は前者中で後者より小さいことを明らかにした。なお鹿島鉱山ではテフロ石(最高NiO 0.07重量%)以外にも、チロディ内石(〜$$Mn_2$$$$Mg_5$$$〔OH|Si_4O_11〕_2$$)中に最高NiO 0.18重量%が認められた。これらの鉱物中に含まれるニッケル・コバルトの根源については、現世の深海底に堆積しつつあるマンガンノジュール様のものの生成が過去の地質時代にもおこっており、これがそれに該当するとして説明される。まずこれを構成する二酸化マンガンの鉱物がニッケル・コバルトを取り込んで結晶化しその後の中間過程は不明であるが、最終的には上述のような含ニッケル・コバルトテフロ石となり、この中ではこれらはマンガンを置換しているが、テフロ石からバラ輝石の生成や硫黄の供給などによってニッケル・コバルトは硫化物等として結晶したものである。またこれらの過程を通じて、両元素の地球化学的挙動は似通っていた。
著者
谷野 圭亮
出版者
大阪府立大学工業高等専門学校
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では,第二言語習得研究により明らかにされてきた動機づけ理論,特に第二言語自己動機づけシステム理論を基礎として学習者の動機づけ状況を個人レベルで判定し,そのレベルに適切な動機づけ戦略を提供することにより,学習者の動機づけレベルの向上に貢献するスキームの開発,実証とそれを運用することができる学習支援システムの開発とその評価実験を行う.
著者
常木 和日子
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

現生の脊椎動物のうちで最も原始的な体制を示す円口類(ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)の横断連続切片を作成し、比較解剖学、比較組織学的観点から、この類の体制の機能的および系統的特徴を明らかにしようとした。ヤツメウナギ類に関してはアンモシ-テス幼生も観察した。器官、組織レベルで円口類の最も特徴的な点は、広大な血洞系の存在と、多様に分化した軟骨系、および顕著な赤筋の存在であった。この3つの系は、特に呼吸器官を特徴づけていた。アンモシ-テス幼生では、口腔と咽頭の間に縁膜が存在する。この縁膜の絶え間ない運動により口から呼吸水と食物であるプランクトンが取り込まれる。縁膜内には血洞系と赤筋が発達しており、またひずみがかかる口腔壁への付着部には繊維性の粘液軟骨がみられた。縁膜の運動は一義的には赤筋によるが、この収縮を縁膜全体に伝える上で、血洞系が一種の液体骨格の役割を果しているらしい。ヤツメウナギ(スナヤツメ)成体では縁膜は退化的になり、呼吸水は鰓孔と鰓嚢の間を往復する。成体では血洞系が体内各所にみられるが、鰓嚢を囲むものがよく発達していた。閲嚢外壁には赤筋が広く分布するが、この収縮が囲鰓血洞を運動伝達装置として鰓嚢の収縮、呼吸水の流出を引き起こすものと考えられる。その後の呼吸水の流入は、鰓嚢壁に存在する特異的な胞状軟骨を連結する繊維性構造の弾性に基づく鰓嚢の拡張によるらしい。ヌタウナギでも広大な血洞系が体内各所にみられるが、やはり縁膜内血洞や囲鰓血洞が存在する。また縁膜内にはヤツメウナギのものとは組織学的に異なる胞状軟骨と赤筋がみられた。円口類では特異的に分化した筋肉系と軟骨系が呼吸運動に関与しており、また血洞系がその運動の円滑な遂行に、一種の液体骨格として重要な役割を果していると推定された。しかしナメクジウオや軟骨魚類との比較から、血洞系の存在は円口類の共有派生形質とはみなせなかった。
著者
城塚 達也 多田 昌平
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

CO2の再資源化を目的として、ジルコニア系触媒を用いたCO2水素化によるメタノール合成が注目を集めている。本研究では、ジルコニア系触媒による触媒反応における分子科学を電子状態計算により明らかにし触媒活性との相関を解明する。そして、ジルコニア系触媒を用いたCO2水素化反応を題材とし、constrained density functional theory (CDFT)法などの触媒反応の理論的解析手法の更なる開発と応用の開拓を目指す。
著者
菊地 利明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

レジオネラ菌(Legionella pneumophila)は重症肺炎の起炎菌として、しばしば臨床的問題となっている。当該研究ではレジオネラ菌の無作為遺伝子変異株を作製し、その原因遺伝子の探索を行った。その結果、レジオネラ菌ゲノム上に計7個の責任遺伝子が同定された。これらはレジオネラ菌において分泌機構に関わっていることが知られている遺伝子だったため、なんらかの分泌因子がレジオネラ菌より分泌され、これによってレジオネラ肺炎が重症化するものと考えられた。
著者
佐藤 慎太郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究計画では、ヒトノロウイルス(HuNoV)ワクチン開発を念頭に置き、その抗原としてウイルス様粒子と、これまでは検討することができなかった不活化全粒子の優位性を比較するとともに、投与経路として注射型と経粘膜型の優位性も比較検討する。実験には申請者らが最近樹立に成功したヒトiPS細胞株由来の腸管上皮細胞と、この細胞で増殖、精製したHuNoVの感染性粒子を用いる。免疫担当細胞のHuNoV認識における、抗原取り込みに特化した上皮細胞であるM細胞の関与を検討し、経粘膜型ワクチンにおいてM細胞に標的化することの有用性も検討する。
著者
國吉 一樹 大鳥 精司
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ラット腕神経叢損傷の節前モデル(BPA)において,疼痛行動および脊髄におけるグリア活性を比較・検討すると同時に神経栄養因子低親和性受容体であるp75NRTの抗体の局所または全身投与による疼痛抑制効果を検討した. 結果, BPA群では損傷側において有意な疼痛過敏を認めると同時に反対側においても有意な疼痛過敏を認め, 脊髄の非損傷側レベルにおいてmicrogliaおよびastrocyteの活性化が有意に認められた.またp75NRT抗体の局所投与または腹腔内投与によりどちらにおいても有意に疼痛過敏が減少した. 脊髄microgliaおよびastrocyteの活性化は非投与群に比べ有意に抑制された.
著者
倉本 一宏
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

平安時代の漢文日記である古記録の中で、宇多・醍醐・村上という三人の天皇によって記録された、三代御記(三代天皇御記)について、他書に引用されて残された逸文の史料的価値を検討する。そして三代御記の逸文である可能性があるものについて、精確な本文を確定し、その訓読文を作成して、テキスト・データベースとしてアーカイブス化することによって、内外の研究者・国民の利用における便宜をはかる。後世、「延喜天暦の治」と賞讃されたこの時期において、三代御記は政事・儀式の慣例典故を徴すべきものとして特に尊重された。本研究は、その価値を甦らせ、正しい平安時代認識を導こうとするものである。
著者
柳澤 憲史
出版者
長野工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

冬季の災害において毎年頻発している着雪氷による災害の防止技術として期待される超音波振動を利用した超滑水性CNT複合シートを開発し、滑水性におけるCNT複合シートへの超音波振動の効果を明らかにし、超音波振動影響下でのCNT複合シートの雪の滑り落とし性能を検証することを目的としている。CNT複合シート表面の水滴および雪粒が振動により滑水性を向上させることを確認し、振動の振幅と周波数が与える影響について考察した。
著者
養父 佐知子
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、リウマチ様関節炎を自然発症するHuman T cell Leukemia Virus Type I (HTLV-1) 遺伝子導入(Tg)マウスに核酸・核タンパク(NP)1.2%含有餌を3ヶ月間摂取させた。その結果、関節肥大、組織の増悪抑制や、NO酸化代謝物(3-ニトロチロシン)の低下が認められた。さらに、電子スピン共鳴法(ESR)を用いてNPが一重項酸素およびNO消去能を示すことをin vitroの実験で明らかにした。しかし、生体内に摂取された後のNPのフリーラジカルに対する作用は不明である。そこでリポポリサッカライド(LPS)誘導性肝傷害モデルマウスを作製しNP摂取の作用を調べた。その結果、NP摂取は過剰産生されたNOを直接消去するだけでなく、クッパー細胞の活性化抑制やiNOSタンパクの発現抑制により肝傷害を改善することが明らかとなった。
著者
山崎 捨夫 大井 修三 佐藤 亮平
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

我々は,鳴禽類の研究ではセキセイインコを被験体として音声コミュニケーション行動を神経行動学的アプローチで解析し,魚類の研究ではキンギョを被験体として視覚性振動刺激の認知について検討した。インコを被験体とした研究では,雌のインコを防音箱の中に入れ,同種の雄のSong(さえずり)を聞かせ、最初期発現遺伝子Zenkの産生物であるZENKタンパク質(ZENK)の発現を指標として,認知的な情報処理を行っている脳の部位を検討した。初年度の研究では,高次聴覚関連野(neostriatum caudale pars medialis ; NCM)のニューロンが,song(言語性音声)認知に関与していることを明らかにした。また,刺激Songの複雑度が増すにつれて、NCMにおけるZENK発現細胞数が増加した。次年度以降の研究では,この様な関連核としてNILが,また前脳部分ではfield L1,field L3,caudomedial neostriatumが関与していることを明らかにした。キンギョを被験体とした研究では,当初の予定とは異なり,聴覚性振動刺激の認知機構を調べるにあたり,聴覚刺激のみを使用するのではなく視覚的刺激を併用する形で認知機構を検討することが振動性刺激認知の解明に有用であることが分かってきたので,視覚性振動刺激として白黒縞模様を用い,その認知機構の解明を先に行うこととした。その結果,水平あるいは垂直方向の傾向情報の弁別が可能であることが分かった。さらに,この傾向情報からの偏角情報(傾角情報)をも認知情報として弁別方略に使用していることが明らかとなった。ただし,この傾角情報の弁別では,傾角が大きくなるに従い弁別能が低下していた。傾向と傾角の弁別方略においてどちらの情報を主に使っているかについては,被験体ごとでの一定した認知方略が認められなかった。