著者
小林 幸雄
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

縄文時代の繊維質胎漆製品である"赤い糸"は、糸の製作技術、漆などの膠着材や彩色用赤色顔料などの素材、さらには工程全体に関わる技術などが体系的に具現化されている。それらの技術内容には、縄文時代の人々の生活や文化を復元する上で有効な情報が含まれている。本研究では、縄文時代の"赤い糸"を自然科学的手法によって具体的に検討し、製作技術に関わる材質や技法などの知見を得ることができた。
著者
西影 裕一
出版者
兵庫県姫路市立前之庄小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

未曾有の被害をもたらした兵庫県南部地震・東北地方太平洋沖地震により、国民は地震に対して関心が高くなった。兵庫県では活断層としてよく知られている「山崎断層帯」が存在する。この断層帯は兵庫県南部地震を起こした野島断層と共役断層である。マグニチュード7(以下、M)の地震を868年に起こしてから1,145年経っており、東海・東南海・南海地震に誘発され大地震を引き起こすのではないかと心配されている。しかし、ほとんどの県民は山崎断層帯という言葉は知っていても実物は見たことがない。学校教育では小中学校とも理科の地質単元に地震について学習する項目がある。そのため、地域に存在するこの活断層について学校教育面からも社会教育面からもその実態を科学的な見地から知らせることは大切である。そこで、本研究では山崎断層帯を調査し、山崎断層帯はどこに行けば実物を観察できるのかという案内書を作成した。私は山崎断層帯を調査しだしてから33年が経つ。地表に出ている断層を「断層露頭」というが、約110箇所の断層露頭を発見した。また、収集した約1,700本のボーリングデータを基に姫路平野の標高・岩盤の深さ・砂層の厚さ等からM7の地震が起こればどのような災害が起こるかを調べた。これらの成果を調査報告書としてまとめ、市内の学校・教育機関・県及び各市町の防災担当者・大学及び自然計博物館・マスコミ等に送付したところ、問い合わせがあり、県民の防災に対する危機意識の高さに驚いている。本研究は、防災啓発資料として役立つことができ、防災に活かせるものと確信している。
著者
渡邉 守
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

野外で活動中の蝶類の糖濃度選好性を調べるため、三重県津市周辺と長野県白馬地区でナミアゲハとキアゲハ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、モンキチョウを捕獲した。捕獲個体は、直ちに、あらかじめ成分・濃度を数段階に設定しておいた糖溶液を3分間与え、その間の吸飲量を測定した。アゲハ類では20%糖溶液が最も好まれ、蒸留水は少ししか吸飲されなかった。日令の進んだ成虫ほど吸飲量は多く、雌の方が雄よりも多く吸飲した。一方、シロチョウ類でも20%糖溶液が最も好まれていた。モンシロチョウは糖濃度の違いの感受性が低く、スジグロシロチョウが高かった。また、モンキチョウは蒸留水をかなり吸飲することが分った。しかしシロチョウ類では、日令の違いによる吸飲量の差は得られなかった。これらの結果をそれぞれの種の生息地選択の観点から考察した。室内ではナミアゲハの雌を羽化させ、濃度を数段階に設定した糖溶液をそれぞれ1日1回3分間ずつ与えて吸飲量を調べた。雌は室温で常時三角紙内に静置するか室内のケ-ジ、戸外の網室で飼育した。20%糖溶液を与えた雌の寿命が最も長くなった。また、実験に供した雌を様々な日令で解剖し、保有していた卵数を数えた。これらの雌はすべて未交尾のまま保ち、産卵をさせなかったところ、低濃度の糖溶液を与え続けた雌では日令が進むと成熟卵の再吸収が認められた。「水」のみを与えた個体は絶食させたが個体よりも寿命が延びることも分かった。脂肪体の減少傾向は糖摂取量の少ない個体ほど強く、多い個体ほど弱かった。保有している成熟卵数は高濃度の糖溶液を吸飲した個体ほど多かった。この傾向は日令が進むほど顕著となっている。これらの結果を比較すると、摂取された糖は成虫の体を維持すりばかりでなく、卵成熟のためのエネルギ-源として使われていたことがわかった。
著者
田之倉 優
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

オリザシスタチン(OC)はコメ(Oryza sativa)中に含まれ、システインプロテアーゼ(CP)を特異的に阻害する蛋白質である。この蛋白質はパパインを化学量論的に阻害し、炊飯条件下でも活性を失わない耐熱性を持ち、酸やアルカリに対しても安定である。この蛋白質は、種子内蛋白質分解に関与するCPの働きを制御することにより、代謝を調節するとともに、昆虫、細菌、ウイルスなどの外敵や感染源に存在するCPを外来性標的酵素として認識して、その活性を阻害することにより生体防御を担っていると言われている。本研究では、生化学的解析および立体構造解析により、OCの機能構造相関の解析を行った。温度、濃度、pHなどの溶液条件を変化させる、あるいは、変性剤により変性させることでOCを自由にダイマーやモノマーに変換することに成功した。各成分のプロテアーゼ阻害活性を比較したところ、ダイマー状態の方がモノマー状態より活性が低下することが明らかとなった。このことから、本タンパク質は、イネの生育段階における様々な環境変化に応じて、自分自身の状態(構造)変化を起こすことでプロテアーゼ活性の制御を行い、調節因子として働いていることが示唆された。また、NMR構造解析により、OCはダイマー化すると、阻害活性に重要とされている第一ループと第二ループの構造が変化していることが示され、このために阻害活性が低下することが示唆された。さらに、OCのホモダイマーの結晶化に成功し、2.9Å程度の分解能のデータを得た。OCは、医薬品や機能性食品としての適用が検討されている。本研究の成果により、溶液条件を変化させることでその活性が制御できることが明らかになったので、その機構を利用し、熱や酸に対しても耐性があり、pHによって制御が出来るナノマシン等更なる応用が期待される。
著者
大村 尚 藤井 毅 石川 幸男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

モンシロチョウの嗅覚を利用した寄主探索や交尾後の行動・嗅受容の変化について調べた。交尾雌は処女雄より匂いに対する反応性が高く、植物模型にキャベツ葉の匂いを賦香すると着陸頻度が増加した。雌の触角嗅覚感受性は交尾前後でほとんど変化しなかったため、交尾雌での行動の鋭敏化は、嗅受容に関する中枢神経系での変化に起因すると推定された。寄主探索をおこなう雌は幼虫糞の匂いを弱く忌避する傾向があり、交尾雌よりも処女雌において忌避反応は顕著であったが、活性物質の特定には至らなかった。雌成虫の遺伝子発現を調べ、触角での発現量は極めて少ないこと、胸部・卵では十数種の遺伝子が交尾後に過剰発現することを明らかにした。
著者
石原 武明
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

過去の文献および海外の学会から手に入れた情報をもとにholeのサイズ、holeの間のサイズ、表面あたりのholeの個数、その配列情報を収集した。これらの情報より人へ照射できるサイズのグリッドを作図し、鉛素材をつかって、金属加工の業者に作成していただいた。まずはこのグリッドをX線が正確に通過することを確認する必要があり、そのためフィルムを使った照射実験を行った。照射を行ったフィルム解析では、想定どおりの線量のvalleyとpeakが表現できており、照射可能な状況であることを確認した。また、エネルギーを変えたり、線源を変更したが、いずれも問題なくこのholeを通過することを確認することができた。
著者
稲津 哲也 田中 輝幸 片山 将一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

Cyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5)はタンパク質リン酸化酵素であり、その遺伝子の変異は精神発達遅延、てんかん等を伴う重篤な疾患であるレット症候群を発症させることが知られている。しかし、有効な治療法は存在しない。本研究では、日本古来より用いられる漢方薬である「抑肝散(ヨクカンサン)」を用い、ヒトiPS細胞、Cdkl5ノックアウトマウス(KO)等における抑肝散の効果について検証し、最終的に有効成分の単離を実施し、レット症候群(特にCDKL5 欠失症(CDKL5 deficiency disorder))の治療薬創製を最終的な目標と定める。
著者
西村 信哉 湊 太志 LIANG HAOZHAO 今井 伸明 西村 俊二 有友 嘉浩
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

rプロセス元素合成は、宇宙における鉄より重い元素の主要な起源である。rプロセスの元素合成経路は安定核から大きく離れた中性子過剰側にあり、原子核の物理的性質が未解明である。rプロセスが起こる天体環境も長らく未解明であったが、近年、重力波・マルチメッセンジャー天文学の進展により、対応する天体現象キロノヴァが観測された。本研究では、重力波天文学の新しい知見を踏まえ、元素合成と原子核の理論計算の両者を「アップデート」する。原子核理論の最近の成果を基に代表者が構築してきた元素合成計算を拡張する。rプロセスを対象に、核物理と天体物理の双方の不定性を踏まえ観測から理論を制限する。
著者
橋口 倫介 鈴木 宣明 シロニス R.L. ペレス F. リーゼンフーバー K. 大谷 啓治
出版者
上智大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本計画の2年目で最終年度に当る平成2年度は13世紀から15世紀までの学者の自己理解と知識観の変遷との関係が研究課題となった。この研究テ-マを計画通りに時代区分に従って3つの分野に分けて研究が進められた。1.13世紀の知識観は、大学とくに神学部と哲学部において形成されたものなので、パリ大学とオックスフォ-ド大学における学問論が主題となり、2.14・15世紀に関して、フランス・ドイツ・イギリスにおける「古き道」と「新しき道」という2通りの学問理解が研究され、3.14世紀後半〜15世紀は、イタリアの人文主義にみられる学問観が研究課題となった。1.に関して、13世紀大学において展開された知識観の内、3つの基本形態が区別できるようになった。(1)12世紀サン=ヴィクトル派の学問観を継承・発展させた旧フランシスコ会学派とくにボナヴェントゥラに代表される神学的学問観では、諸学問を神学の下で統一しようとする伝統的知識観、(2)ボエティウスを通して媒介されたアリストテレスの哲学的学問論を受け継いだドミニコ会とくにトマス・アクィナスによって代表される認識論的知識観、(3)オックスフォ-ドにおける、アラブ哲学とアウグスティヌス主義の光論を基盤とし、中期フランシスコ会学派とくにロジャ-・ベ-コンによって代表される数学的・実用主義的な知識観。2.に関して、14・15世紀ヨ-ロッパ北方において、(1)いわゆる「古き道」のアルベルトゥス学派、トマス学派、スコトゥス学派における体系的で思弁的な学問観、(2)「新しき道」を自称した形式論理的・唯名論的・経験論的な学問観、(3)とくにフランスにおいて登場した自然学・経済学・歴史学などの新学問によって特徴づけられた知識観。3.に関して、14・15世紀イタリアにおける学問を生活・文芸・人間形成と結びつけて考察する初期ルネサンスの知識観を研究し、その社会的背景と学者の精神性との連関性を明確にとらえることができた。
著者
塚原 伸治
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

形態学的に性差がみられる神経核は性的二型核とよばれ脳機能の性差の構造基盤であると考えられている。マウスにおける性的二型核の性差構築には周生期の精巣から分泌されるアンドロゲンの作用が必要であることが知られているが、近年では、思春期以降の性腺から分泌される性ホルモンの働きも重要であることが指摘されている。本研究では、思春期以降に分泌される性ホルモンの性的二型核の性差構築における役割と作用機序を明らかにするため、雄優位な性的二型核であるSDN-POAとBNSTpおよび雌優位な性的二型核であるSDN-DHを対象とした組織学的解析を実施した。これまでの研究より、雄マウスのSDN-POAとBNSTpのニューロン数は思春期前の精巣除去により減少し、雌マウスのSDN-DHのニューロン数は思春期前の卵巣除去により減少することが分かった。また、これら性的二型核に対する思春期前の性腺除去の影響は性ホルモンの代償投与により回復することも分かった。本年度の研究では、性ホルモンが作用する時期を特定するため、思春期後に施した性腺除去の影響を検討した。その結果、雄マウスのSDN-POAとBNSTpにおけるニューロン数は思春期後の精巣除去により変化せず、雌マウスのSDN-DHにおけるニューロン数は思春期後の卵巣除去により変化しなかった。以上のことから、思春期の精巣から分泌されるアンドロゲンはSDN-POAとBNSTpの雄性化を促し、卵巣から分泌されるエストロゲンはSDN-DHの雌性化を促すことが明らかになった。
著者
杉野 隆一
出版者
埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

生物の進化は種内に存在する遺伝的変異の集団内での拡散によって起こる。遺伝的変異に働く自然選択は進化的に有利なもの、不利なもの、中立なものに分けて考えられる。有利な突然変異率は小さいものの、正の自然選択により短期間で固定する。不利なものは固定しづらいが率が高いため影響は無視できない。有利な突然変異が頻繁に起こると変異同士が干渉し合うため固定確率が下がる。これはclonal interference(CI)と呼ばれ、有効な集団サイズが大きな生物で見られる現象だと考えられている。ここで組換えが起こると有利な変異は独立に固定することができ、より多くの突然変異が集団中に固定することができる。同じ状況は有害な突然変異についても起こる。集団内の有害な突然変異率が高いとほとんどの個体がなんらかの有害な変異をもつため有害な変異でも固定する。固定した変異は組換えがなければ集団から取り除けないので、次々に蓄積してしまう。この不可逆な進化はマラーのラチェットと呼ばれている。いずれの場合でも、組換え自体が中立でも結果的には有利なシステムとなる。本研究ではシミュレーションを用いて、上の理論が自然界で当てはまるのかを検証した。パラメーター(突然変異率、有効な集団の大きさ、組換え率)はバクテリアで観察されるものを用いた。まず、有利な突然変異では、CIは組換えが起こらない状況で最も影響を及ぼすが、変異率が大きくなりすぎると再びCIの影響が強くなり、有利な変異の固定確率が中立なものと変わらなくなることがわかった。そして、バクテリアのパラメーターは、組換えが有利に働く幅に収まっていた。有害変異においても変異率があがると固定確率は中立に近づいた。そして、観察される組換え率では固定率は下げられていた。以上のことから、バクテリアにおいて組換えは進化的に有利に働いていることが示唆された。
著者
熊倉 永子
出版者
国立研究開発法人建築研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、人々が生活の中で感じる温冷感を対象とした新たな指標の開発を目指している。都市生活者が投稿したジオタグ付きTweetデータの中から、暑さや涼しさを表現した短文や写真データを抽出し、投稿された場所や時間の特徴を明らかにする。また、投稿が集中する場所について、実測とシミュレーションによる物理的な熱環境の実態や、空間用途及び人口統計データ等との関係から、都市生活者が感じる暑さや涼しさとの相違を分析する。その結果をもとに、都市生活者が感じる暑さや涼しさのパターンを明らかにし、暑熱に対する適応策を検討する。
著者
仲吉 信人
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は次の二つの事項を達成する.1:地上気象ビッグデータ取得デバイスの開発,2:地上気象ビッグデータの数値気象モデルへの同化手法の構築,および計算精度の向上性の評価.それぞれについて今年度の実施状況は以下の通りである.1.地上気象ビッグデータ取得デバイスの開発:3つの球形温度センサを用いた気象3変数逆同定システムであるグローブ風葬放射センサを従来の直径12 mmから4 mmまでダウンサイズすることに成功した.また,同定する3気象変数として,風速・日射・輻射熱の組み合わせから風速・日射・気温の組み合わせを逆同定するシステムを新たに構築した(Globe Radio-anemo Thermometer; GRaT).GRaTとすることで,正確な気温測定に必要であった強制通風筒が必要なくなるため,システム全体の低消費電力化,さらなる小型化が可能となった.GRaTに関して特許の出願を行った.加えて,PM2.5を測定する簡易・小型測定デバイスを開発した.2.地上気象ビッグデータの数値気象モデルへの同化手法の構築:地上気象ビッグデータの気象シミュレーションへのデータ同化インパクトを評価するため,オープン気象モデルWRFの3Dvarを用いたデータ同化数値実験を行った.夏の晴天日を対象としたシミューレーションにより地上気象データの同化が上空の気象解析値を有意に修正させることが確認された.一方で,精度の向上は確認されておらず,2020年度は4dvarを用いた同化数値実験を行う.上記に加え,上空風速の簡易・安価な測定原理であるCIV(Cloud Image Velocimetry)の開発,および羽田・成田空港を離発着する航空機から排出される排熱・排ガスのメソ気象用データベースの構築を行なった.
著者
島崎 淳也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

現在熱中症における意識障害の原因解明研究をすすめている。研究の柱は3つあり、①ラットモデルを用いた病態解明、②臨床研究による熱中症性脳症の臨床像解明、③レジストリーデータを用いたリスク因子の抽出である。①熱中症ラットモデルを用いた熱中症性脳症のメカニズムを解明:データ解析を行っている②熱中症患者における熱中症性脳症の臨床像解明:現在多施設研究を実施している③熱中症レジストリーを用いた熱中症性脳症の疫学調査:HeatStroke Study2017-2018のデータ解析を現在すすめている。
著者
福士 謙介 渡部 徹 渡辺 幸三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

東南アジアでは、暑熱環境による熱中症や睡眠障害、洪水や渇水に伴う水系感染症、そして蚊個体数・生息分布の増加に伴うベクター感染症が、気候変動下で深刻化している。本研究は、環境情報、文化的な情報、エネルギー使用状況等の情報および、人間行動や建築情報を含めたデータの収集を行った。都市の下水からの病原微生物による近郊農地が汚染されていること、および洪水時にウイルスによる胃腸炎が流行していることが示唆された。また、スマートフォンアプリを開発し、リアルタイムで蚊に刺された住民からデータを集積できた。さらに、効率的に蚊を集め、深層学習などを使って蚊を蚊として正しく羽音に基づいて同定できる正答率を高めた。
著者
福元 健太郎 菊田 恭輔
出版者
学習院大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

災害への対処が公金に値するかを市町村が「認定」すると、不正を含む政治的バイアスが入り込む余地がある。具体的には次の3つを検討する。(1)災害復旧事業費の国庫補助率を嵩上げする激甚災害指定の有無が、その前後の選挙におけるその市町村の与党得票率と関連しているかを、選挙間の最大降水量を操作変数として用いて不偏推定する。(2)災害弔慰金の対象となる災害関連死を認定するタイミングが、市町村によってどれほど異なるかを、ノンパラメトリックな生存分析を用いて調べる。(3)住家の被害認定が被災者生活再建支援金の支給条件を満たすか否かが人為的に決められていないかを、回帰不連続デザインによって判断する。
著者
岩澤 真理 中村 悠美
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

申請者らは新規C. albicans経表皮感染マウスモデルを確立し、感染初期における菌体排除に、Type3 innate lymphoisd cellsとγδT 細胞によるIL-17産生が重要であることを見いだした。一方、先天的な遺伝子異常により難治性・再発性の口腔・皮膚のカンジダ症を表現型とする、Chronic mucocutaneous candidiasis disease がヒト疾患として報告されている。この疾患のヒト末梢血細胞では、CD4+T細胞によるIL-17産生の障害が疾患の発症に重要であると報告され、我々のマウスの系で明らかにした細胞と異なる。この相違は、獲得免疫系でCD4+Th17細胞の役割が重要であることに依存していると考え、本研究ではすでに確立したC. albicans経表皮感染マウスモデルを発展させ獲得免疫系におけるIL-17産生細胞の解析を行い、C. albicansに対する獲得免疫系の役割を明らかにする。通常、抗原への初回暴露後αβT細胞の出現は、7日目位から3週間後をピークとする事が知られているので、マウスへのC. albicans 経表皮暴露後7日、14日、21日におけるIL-17産生CD3+, αβTCR+, CD4+細胞の誘導を感染局所および所属リンパ節の細胞を用いて観察した。なお、感染免疫においては、αβTCR+分画において、CD4+細胞以外にもCD8+陽性細胞もIL-17産生に関与することが知られているので同様にCD8+陽性細胞の分画も解析を行った。現時点までに、C. albicans経表皮暴露後の獲得免疫系の異差を検出できておらず、実験系の検討が必要であると考えられた。
著者
加納 和彦
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

感染症発生動向調査(NESID)の全数把握対象疾患(87疾患)の届出データの可視化・分析システムの設計、開発、及び改良を行った。本可視化システムは、リアルタイムな感染症発生(報告)状況把握と異常検知、週報集計時点の報告数と今後の動向予測、過去の発生動向データとその関連情報が参照できる感染症情報ライブラリの機能を備えたシステムとして開発を進めた。具体的には、時・人・場所の観点からデータを容易に把握できるように工夫し、過去の平均的な増加率に基づく年間累積報告数の見積値を確認できるようにするとともに、感染症発生動向調査やその周辺制度に関連する様々な情報を紐づけて表示する機能を実装した。
著者
西浦 博
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-07-19

感染症流行の数理モデル研究は、流行途中の分析や予測を実施するリアルタイム研究では先進諸国を中心に実装面で成功を収めつつある。本研究は、数理モデルを流行前から準備するという意味でプレモデリングと称する計画であり、リアルタイム流行分析に特化した数理モデルの構築と観察データの収集、統計学的分析に関して方法論的基盤・数理的研究手法を確立することを目的に実施した。マダガスカルにおける肺ペスト流行やイエメンでのコレラ流行、バングラデシュにおけるジフテリア流行など、突発的流行を通じた研究機会に恵まれた。プレモデリング体制が徐々に確立することを受けて、流行発生時の観察データの分析成果を創出することに注力した。
著者
東 秀明 稲葉 愛美 愛知 正温
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ザンビア国内で発生している人獣共通感染症病原体の感染経路の解明を目的とし、河川水中の炭疽菌芽胞に着目し病原体の水系伝播の解明を試みた。炭疽アウトブレイクが繰り返し発生しているルアンガ川流域において河川水を採取し、本研究で開発した炭疽芽胞濃縮法により試料を調製した。PCR及び次世代シークエンサーを用いた解析から河川水中に炭疽菌が存在していることを示すとともに、同河川水での腸管系ウイルスの存在を明らかにした。加えて、採材地点の河川水深、水温、濁度、河川水流等の環境情報を取得し、河川水による病原体拡散モデルの構築を行った。