著者
松山 知弘 磯 博行 塩坂 貞夫
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ニューロプシンの海馬機能における役割を検討する目的でニューロプシンノックアウト(KO)マウスの学習・記憶障害を行動学的に検討した.KOマウスはwildのlittermateに比較し,オープンフィールドテストではより高い活動性を示し,Auditory Startle Reflexでは驚愕反射の増大と延長を,そして水迷路テストでは反応潜時の明らかな延長を認めた.一方,放射状迷路テストと受動的回避学習テストでは両群間で有意差は認められなかった(Obata K,et al.4th World Stroke Congress,Melbourne,Australia,2000).KOマウス脳は病理組織学的にはwildのそれと比較し、シナプスに形態異常のあることが判明した(Hirata A,et al.Mol Cell Neurosci,in press,2001).さらにニューロプシンは海馬LTPに重要な役割を果たしていることが明かとなった(Komai S,et al.Eur J Neurosci 12:1479-1486,2000).従ってニューロプシン欠損は高次脳機能のうち情動障害と空間認知機能障害をはじめとする学習・記憶障害をきたすことが明らかとなった.マウスの一過性前脳虚血モデルを用い,脳虚血負荷後の海馬機能を行動学的に検討した.虚血負荷後CA1錐体細胞死のみられたマウスではすべての行動テストに異常を認めた.一方,細胞死のみられない動物ではオープンフィールドテストや回避学習テストではsham群に比し差異を認めなかったが,水迷路では反応潜時の明らかな延長を認めた.放射状迷路学習での誤反応数は細胞死の有無にかかわらず虚血群とsham群間に差異は認めなかったが,虚血群では空間配置の確認作業や遂行の順序だての欠落を示すと考えられる行動異常,痴呆症にみられる徘徊行動を説明する現象を認めた.従って,脳虚血は明らかな海馬神経障害の有無にかかわらず空間認知機能障害をはじめとする学習・記憶障害をきたすことが明らかとなった(Matsuyama T,et al.J Cereb Blood Flow Metab 17(Suppl 1):S638,1997).以上の所見より,脳虚血に伴う海馬ニューロプシンの低下は学習・記憶障害を引き起こす可能性のあることが明らかとなった.これらの結果は今後の神経行動科学研究に有用であると思われる.
著者
戸田 真紀子
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

伝統的な家父長制社会において、クオータ制導入による女性議員の増加が社会に与える影響の有無、大小を調査し、社会の価値観に変化がみられる場合はそのメカニズムを明らかにすることが本研究の目的である。事例として、女性議員比率世界一のルワンダと、戦前から女性解放運動がありながら、いまだに家父長制社会が制度的にも肯定され、家制度が温存され、女性議員比率が低迷している日本を比較している。研究2年目となる2018年度は、日本側とルワンダ側双方で研究が進んだ。まず、日本側は研究代表者である戸田による女性議員へのインタビューがルワンダ側と比較できる数まで進んだ。また、資料収集にも進展があった。ルワンダ側も、現地の研究協力者であるプロテスタント人文・社会科学大学のジョセフィン先生とフォーチュネ先生による女性議員へのインタビュー調査が完了した(インタビューにかかる費用が見積もり予算よりはるかに多く、予算内に収めるために、インタビューができた女性議員の数は予定よりも少なくなっている)。戸田が8月にルワンダに渡航し、現地で、両先生から詳細な説明を受け、疑問点についての解説を得た。予算の関係上、日本には1名の先生しか招聘できないが、両先生とも、現地社会の諸問題についても独自に調査をしておられるので、その知見も来年度の学会報告に生かせることに確信が持てた。現地では、2019年度の学会報告に向けての打ち合わせに加えて、1名の先生を日本に招聘するための査証申請の準備も行った。
著者
丸、瑠璃子 谷島 一嘉 白石 信尚 伊藤 雅夫
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

昭和59、60、61年度科学研究助成により作成した空気置換式人体体積計の精度向上を図りの体学学生を中心に、男性175名、女性22名の被検者について体容積および諸形態を計測した。計測データから、各種階層 (性別、身長別、体重別、年令別) の被検者郡について、体比重と体型との関連性について検討した。また、女性6名について、CT横断面像から大腿部および腹部3部位の皮下脂肪面積を求め、体比重との関連性について検討した。1) 高精度人体容積計の精度 (信頼測定範囲、最低50ml) に見合った体重測定を可能にするために、読取限度1gの高精度電子秤量計 (Sartorius F150g) を購入し測定精度の向上を図った。2) 男性170名、女性22名のを対象に実測した体比重は、男子1.0592±0.0157女性1.048±0.033であり男性において高値を示す。この時の皮脂厚 (腹部、背部、上腕部の合計) は、男子44.2±23.4、女性44.6±16.5であり、いずれも体比重との間に高い正の相関が認められた。3) 男子大学生170名の体比重を体重別に集計すると、体重の平均-1.5σ以下で1.0704±0.0041、- (0.5〜1.5) σで1.0692±0.0065、±0.5σで1.0593±0.0104+ (0.5〜1.5) σで1.0508±0.0196、+1.5σ以上で1.0381±0.0179となり、明らかに過体重群において低い値を示している。4) 中年 (45〜55才) 女性6名におけるの体比重は (1.0106 1.056) 、1.0379±0.0179であり、女子大学生の1.048±0.033に比べて、明らかに低い値を示している。また、皮脂厚も61.4mmと、女子大学生に比べて有意に厚くなっている。他の形態計測値からも、中年女性の肥満傾向は明らかである。5) CT画像から求めた皮下脂肪面積と体比重との相関係数は、大腿部及び下腹部 (臍点下部5cm) で高値を示した。
著者
平 智 松本 大生 池田 和生
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ミツバアケビ果実生産に対する自家不和合性の影響を明らかにすることを目的として、一連の受粉試験を行った。受粉雌蕊の花粉管を観察したところ、自家花粉管は胚珠付近にまで到達していたことから、ミツバアケビは後発型自家不和合性を示すものと考えられた。ミツバアケビの6栽培系統間における交雑(不)和合性を調査したところ、いずれの系統も自家不和合であること、一部の交雑は不和合であることが明らかになった。交雑和合な系統の雄花を用いて人工受粉を行った際の結実率は30%以上であったが、開放受粉での結実率は1%以下であった。また、自家花粉を25%以上含む混合花粉を受粉すると、結実が阻害されることが明らかになった。
著者
今津 勝紀
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本の古代では、旧暦の夏に必ず飢饉が発生していた。飢饉の発生により疫病も発生するのだが、本研究では、その被害の程度を推定した。具体的に取り上げたのは隠伎国で、貞観八年・九年(866~867)の疫病により、人口が三割から五割減少したと推定される。もっとも、これだけの被害が列島全体を覆うわけではなく、全体を見た場合には、変動の幅は小さくなるのだが、地域社会にとっては、大打撃であることは間違いない。古代社会は決して、牧歌的な農耕社会ではなく、厳しい生存条件のもとで流動性高い過酷な社会であった。
著者
西田 公昭
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

マインド・コントロール影響の被害実態の把握する個別面接調査を9名の対象者に行った。その結果、1)被害の状況、2)最初の接近方法、3)影響力の心理的過程、4)現時点の反省が明らかになった。またもう一方で、詐欺被害者95名と非被害者168名とを対象にした質問紙調査を行った。その結果、1)被害の現状、2)被害後の心理的苦悩、3)欺瞞的説得の心理的方略、4)被害者の個人的特徴が明らかとなった。これらの成果から、この不当な影響力への防衛的な対処とすべきスキルと心理特性を明らかにした。
著者
松良 俊明 坂東 忠司 梶原 裕二
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

「ダンゴムシ-枯葉-微生物」の3者関係に着目し、ダンゴムシが陸上生態系の中で果たしている役割を中学生が十分理解・認識できる3種類の実験を開発した。すなわち、ダンゴムシは新しい枯葉より腐食のすすんだ枯葉を好むことを確かめる実験、ダンゴムシが枯葉を摂食することで微生物による枯葉の分解が促進されることを確かめる実験、またダンゴムシが枯葉を摂食した後に残る糞や食べ残しが植物生産に正に作用することを確かめる実験である。
著者
折田 悦郎 新谷 恭明 藤岡 健太郎 梶嶋 政司 永島 広紀 陳 昊 井上 美香子 横山 尊 市原 猛志 田中 千晴
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

戦前期の帝国大学(以下、帝大)のうち、法文学部が設置されたのは九州帝大と東北帝大だけであった。東京、京都の両帝大には、法学部、文学部、経済学の3学部が置かれ、一方、九州・東北帝大以降の北海道、大阪、名古屋の各帝大には、法文系学部は設置されなかった。このことは法文学部の存在そのものが、帝大史研究の中では一つの意味を持つことを示唆している。本研究は、このような法文学部について、九州帝大の事例を中心に考察したものである。
著者
山岸 明彦 三田 肇 田端 誠 小林 憲正 横堀 伸一 東出 真澄
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

国際宇宙ステーションで実施した曝露実験試料および超高速微粒子捕集実験試料の解析を行い、生命の起源に関する二つの仮説を検証する結果を得た。エアロゲルの表面に0.1mm以上の衝突痕を合計200個以上発見した。捕集粒子および曝露パネルの分析から以下の結果を得た。1.微生物密度の上限を決定した。2.曝露微生物生存率を推定し、宇宙での死滅が指数関数的であることを確認した。3. 複雑態アミノ酸前駆体がヒダントインのような単純な前駆体よりも安定であることを確認した。4. 捕集超高速衝突粒子の無機鉱物分析を行い宇宙塵を確認した。 5. 世界最高性能エアロゲルを実証した。 6. 微小デブリの衝突頻度を得た。
著者
橋本 英樹
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

申請者は鉄酸化細菌Gallionella ferrugineaが自然界で作るねじれ紐状酸化鉄を“G-バイオジナス酸化鉄(G-biogenous iron oxide: G-BIOX)”と命名し機能探索を行ったところ,リチウム(Li)イオン充放電特性を示すことを発見した.これまでの申請者の研究成果により,G-BIOXの組成・微細組織・結晶構造が明らかとなった.また,最近の予備研究によって,G-BIOXをLiイオン電池の正極材料として用いたところ,現行材料を遥かに凌駕する初期充放電容量が得られることを世界で初めて発見し,鉄酸化細菌由来酸化鉄の機能性材料への可能性を示した.本研究の目的は,予備研究結果を更に発展させて(1)G-BIOXの原子レベルでの構造を明らかにすると共に,(2)G-BIOXをLiイオン電池の電極材料(正極および負極)として応用することである.(1)G-BIOXの構造解析:申請者はG-BIOXと構造の良く似た酸化鉄(Leptothrix ochraceaが作ったBIOX,L-BIOX)の高エネルギーX線回折を行っている.本年度は,G-BIOXの構造を明らかにするための第一段階として,既に得られているL-BIOXのデータを元に逆モンテカルロ法を用いて原子配列を明らかにした.その結果,L-BIOXは酸化鉄のネットワーク中に酸化シリコンが孤立して存在する興味深い構造を有することを明らかとした.(2)G-BIOXをLiイオン電池の電極材料としての応用:平成24年度では正極としての特性を検討した.具体的にはG-BIOXを活物質として電極を作製し,Liを対極としたハーフセルで4.0–1.5 Vの電圧範囲で充放電特性を評価した.その結果,G-BIOX電極はこれまでに報告されている酸化鉄系材料よりも優れた特性(容量,サイクル特性,レート特性)を示すことを見出した.
著者
鋤柄 俊夫
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

従来の武士と農民だけの中世史を見直すために、京都や鎌倉など中世を代表する中心都市以外の村や町や都市的な場の復原を、考古学資料を軸に文献史料と歴史地理を合わせた地理情報システムの方法によっておこなってきた。研究の対象は、京都府八幡市に所在する石清水八幡宮門前と京都府京田辺市に所在する普賢寺谷中世館群である。研究は歴史情報の取得、歴史情報の分析、歴史情報の総合の3段階でおこなった。歴史情報取得では、木津川の改修によって水没した石清水八幡宮の周辺旧村落跡の分布調査を2001年度におこない、2002年度と2003年度に普賢寺谷の新宗谷館跡で試掘調査と発掘調査をおこなった。歴史情報分析はデジタルマップを利用して石清水八幡宮の周辺村落を推定し、また普賢寺谷の地形と中世の古絵図の関係を検討した。歴史情報の総合では、中世の集落に関わる南山城および他地域の史料および遺跡情報をデータベース化し、普賢寺谷と石清水八幡官門前の復原のためのモデルを作成した。これらの研究の結果、普賢寺谷の中世館群はあたかも根来寺や平泉寺でみられるような宗教を核とした城塞都市に類似することがわかった。これは当時の一般的な中世村落とは異質であり、山城国一揆の見直しにもつながる。石清水八幡宮門前では従来の研究が中世後半のみの復原であったことを明らかにし、宮寺が最も中央権力と結びついていた平安時代後期から鎌倉時代の風景は、水陸交通の要衝として淀を最大の門前としていた可能性を指摘した。これは中世前半の都市論に対する新しい提案である。
著者
佐久川 弘 竹田 一彦 山崎 秀夫 チドヤ ラッセル サンデー マイケル アデシナ アデニュイ ダーバラー アリー アブデルダム シェリフ モハメド モハメド アリ カオンガ チクムブスコ チジワ
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-07-19

瀬戸内海において海水、堆積物、生物試料を採取し、海域による農薬汚染の進行度の評価を行い、瀬戸内海全域にわたる汚染の歴史的変遷を明らかにした。生物試料中の農薬濃度の測定から、食用魚等の食品としての安全性を評価し、水生生物へのリスクアセスメントを行った。さらに、瀬戸内海の海水等の農薬濃度、農地等での農薬使用量、船底塗料の出荷量から、過去の農薬の物質収支の変遷に関して解析を行った。その結果、測定した8種類の農薬のうちで、陸地で使用されるダイアジノン(有機リン系殺虫剤)がすべての試料において、比較的高濃度で存在し、水産食品としての安全性への懸念や水生生物に対する負の影響が認められることを明らかにした。
著者
前迫 ゆり 名波 哲 鈴木 亮
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

特別天然記念物春日山原始林はかつて豊かなフロラを有し,数百年にわたって保護獣のシカが生息してきた文化的背景を有している。調査の結果,1)生物多様性の再生には自然攪乱が関係しており,ギャップ形成後,すぐに植生保護柵を設置することによって種の多様性再生が生じたが,不嗜好植物の外来種(アオモジ,ナギ,ナンキンハゼ)の定着も認められた。2)シカの長期的インパクトは,常緑広葉樹から常緑針葉樹林(不嗜好植物ナギ)への偏向遷移をもたらし,100年オーダーで不可逆的変化が生じると考えられた。3)古いギャップに植生保護柵を設置した場合,埋土種子が枯渇し,実生更新がきわめて困難であることが検証された。
著者
伴野 潔
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

ニホンナシ3品種‘おさ二十世紀'、‘菊水'、‘幸水'とリンゴ3品種‘ふじ'、‘つがる'、‘王林'を供試して、それぞれ正逆交雑を行ない、胚培養を実生法と併用して、ニホンナシとリンゴの属間雑種固体を110系統余り育成した。また、胚培養法を用いてシュート形成が認められない雑種の子葉においても、不定芽誘導法を併用することで、効果的に雑種が獲得できることが明らかになった。得られた属間雑種について、新梢や葉の形態的特性、葉や枝のアントシアニン蓄積の有無、圃場での病虫害の発病程度等を調査するとともに雑種の光合成特性、接ぎ木親和性についても調査した。これらの結果から、得られた属間雑種個体の表現形質は母本に類似している反面、アントシアニンの発現性や父本の台木に対する接ぎ木親和性の向上等、父本の遺伝子もかなり導入されていることが明らかになった。また、これらの属間雑種の光合成活性は、自根樹では低いものの、接ぎ木によって母本と同程度に回復することも明らかになった。さらに、ナシ黒斑病、リンゴ斑点落病に対する検定を行ったところ、ナシを母本とした雑種では、両病に対する遺伝分離が様々に現れるが、リンゴを母本としたものでは、両病に対してほとんどすべて抵抗性を示した。また、リンゴ黒星病について検定したところ、ナシを母本とするものでは、すべて抵抗性を示し、リンゴを母本とするものでも28系統のうち7系統が抵抗性と判定された。これらの結果は、耐病性育種を進めるうえで、属間雑種の利用が新しい育種戦略となりうることを示唆した。一方、細胞融合による属間雑種を得るために、プロトプラストの単離と培養法、PEG法及び電気融合法による細胞融合法について検討した。その結果、プロトプラストからカルスまでの培養系については確立できたものの、カルスからの再分化率が極めて低く雑種育成が困難であった。
著者
中堀 博司
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

4年目の2019年度には、研究代表者の中堀が、低地地方の主要都市リルにおいて追加の調査を実施した。リルは、ブルゴーニュ公国の形成から崩壊までほぼ1世紀を通じて北の拠点で(南の拠点はディジョン)、同市にかかわる調査は以下の通りである。①ブルゴーニュ公滞在時の宮廷・都市イベントに関する新たな文献資料調査、②宮廷・都市イベントを記述する年代記の分析(特に重要なのはJ.デュ・クレール『覚書』)、③都市リルの宮廷関連施設についての地誌的検討である。①~③は相互に関連するが、特に③都市地誌の検討が重要である。1450年代以後、第3代ブルゴーニュ公(フランドル伯)フィリップ・ル・ボンは、新たにリウール宮(Palais Rihour)の建設を開始した(その一部遺構のみ現存)。その結果、1460年代から、フランドル伯がそれまで居所としてきたド・ラ・サル館(Hotel de la Salle)は、都市リルに譲渡されたのち16世紀には廃棄された。ところで、このド・ラ・サル館においてこそ第1回金羊毛騎士団総会や名高い雉の誓いの宴、また宮廷貴族の結婚式ほか数々の祝祭イベントが繰り広げられたが、実はその所在地すら謎めいたままである。この点を明らかにするための資料調査・収集を、リル大学附属図書館、ノール県文書館、リル市立文書館および図書館で重点的に実施することができた。その他、研究協力者の畑は、前年度までに収集した史資料の分析に基づき、ホラント・ゼラント都市に関する報告を行った。
著者
可知 悠子
出版者
北里大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

H30年度は、マタニティハラスメントのその母子の健康や退職への影響について、文献調査や関係者へのヒヤリングを行い、その結果に基づいて研究計画書ならびにアンケート調査票を作成し、倫理審査への申請を行った。また、調査対象となる産婦人科にて、調査フローについての相談も行った。文献調査では、国内外においてマタニティハラスメントの母子の健康への影響についての研究は見当たらなかった。職場における心理社会的・物理的・化学的曝露については、数は少ないものの知見があったため、結果を整理した。ヒヤリングでは、NPO法人マタニティネットのメンバーに被害の状況と、マタニティハラスメントの要因と考えられる職場環境について、聞き取りを行った。以前よりも、退職勧奨や配置転換などのわかりやすいマタニティハラスメントは減少し、「もっぱら雑用をさせる」や「情報を共有しない」といった嫌がらせのような立証しにくいケースが増えているとのことであった。また、長時間労働や職場における男女差別が依然としてマタニティハラスメントの要因として存在すること、母性保護に関する法整備が整ってきているにも関わらず、現場の理解が浸透しておらず、裁判に持ちこんだとしても罰則がないため、声を上げる女性が減っているなどの声も挙げられた。なお、倫理審査については、現在結果待ちである。
著者
近藤 直 鈴木 哲仁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

脂肪交雑度が高い牛肉を生産するためには,牛の血中ビタミンA濃度(VA)の制御が重要である。本研究は,目の画像を自動撮影して画像データからVAを推定した。用いたカメラは,照明用LEDを切り替えることにより1台のカメラで瞳孔画像と眼底画像を取得するものである。カメラ箱は飲水場に設置し牛が飲水中にガラス製の撮影窓を通して撮影した。VAの推定は,抽出した画像特徴量を抽出して多変量解析により行った。
著者
松村 良之 木下 麻奈子 白取 祐司 佐伯 昌彦 村山 眞維 太田 勝造 今井 猛嘉 林 美春 綿村 英一郎 長谷川 晃
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2020年度には実査が予定されているので、総括班、社会調査班を中心に実査の大枠を固めた。本調査は継続調査であり、第1、2波の調査と同一の調査方法によることが必須であることが確認された。予算制約の結果、抽出サンプル数は900(予想回収数500)であり、第1波、第2波調査の半分程度となるが、統計学的に許容できる水準であることが確認された。調査票については、16頁構成のうち、シナリオ部分約4頁を新規設問に入れ替えることが確認された。そして、心理学班も加えて検討した結果、責任主義関連項目では、心理学的な能動性(moral agency)評価と責任能力、少年、過失・故意を取り上げることとした。心理学班は第1に、日本人の法意識の背後にあると想定される公正観(公正世界尺度に由来する「運の等量仮説」、ハイトに由来する道徳尺度の日本バージョンなど)尺度の開発を試た。さらに、agency性評価の心理尺度について、その妥当性、信頼性を検討し調査票に組み込むべく準備した。第2に、少年犯罪について、人々が少年を罰しようとする応報感情の性質について検討した。世論は非行少年に対して厳罰志向的な態度を有しているが、他面、非行少年の置かれた環境的負因(責任主義につながる)について全く意識していないわけではない。そのことを踏まえて、少年に対する保護と刑罰という観点からの質問票作成を試みた。第3に、刑事法学班と協力して、刑法学の観点からは学説史に遡りつつ、また近年の脳科学の成果を踏まえた自由意思についての見解にもよりつつ、錯誤論、共犯論と関連させて過失・故意の教義学的議論について検討を深めた。それを踏まえて、大きくは結果責任と主観責任という枠組みで、質問項目を検討した(なお、少年、過失・故意については、シナリオを用いた実験計画法による)。
著者
若桑 みどり 栗田 禎子 池田 忍 川端 香男里
出版者
川村学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

(1)若桑の研究成果。インドの独立運動において、とくにベンガル地方の文学と美術において女神カーリの復活または興隆があったことを明らかにした。この精神的起源として宗教家Vive kanandaによるカーリ崇拝の復興を指摘し、その信仰が男性的原理、暴力と国家主義の原理に支配されるイギリス帝国主義の男性性に対立するインドの女性性という対立軸の形成にあったことを示した。黒いカーリは先住民族の人種的出自を示すものであり、男性支配以前の母系制的インドの再支配を意味する。これは岡倉天心によって、西洋対東洋の図式に置き換えられ、汎アジア主義へと変容した。(2)池田の研究成果。植民期の日本絵画には「支那服を来た女性像」が頻出するが、それは植民地化された中国の可視化であり、植民され中国を「女性」として隠喩するものであった。また同様に日本女性が支那服を着る画像も生産されたが、それは西洋に対立する日本と中国を汎アジア化するものであった。これらがすべて女性像であったことは、これによって男性による日本帝国主義が、植民地と女性を統治し、自己の卓越性を表象するものであった。(3)栗田の研究マフデイー運動に参加した女性戦士は男装してそのジェンダーを隠蔽した。指導者は独立運動の展開のために女性のエネルギーを最大限必要としたにもかかわらず、女性が性別役割の境界線を超えることを欲しなかったためである。このことはインドにおいてガンジーらが女性のエネルギーを主軸として不買抵抗運動を成功させたことと対照的であり、ヒンズーの文化の基層をなす母系制的土台と、イスラームの父権主義の差異を示すものである。