著者
湊 信幸 富田 淳
出版者
独立行政法人国立博物館東京国立博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

日本に現存する中国絵画、中国書跡の内、これまで未調査であった重要な作品ついて、書画家印、鑑蔵印、落款の調査を実施した。今回の調査の対象としては東京国立博物館に保管されている中国書画作品に重点をおいて実施した。調査は、従来通り、原則として6×4.5判カメラによる原寸大の白黒写真として撮影した。これらの写真資料については、B6判のカードに貼り、それぞれ基礎データを記入し、分類整理の作業を継続実施した。収集資料の基礎データを作成するにあたっては、特に難解な書画家印・鑑蔵印の印文の読みに努めるとともに、データベース化のために、これまで蓄積された写真資料については、スキャナーを用いてデジタル画像化をこころみた。また、従来6×4.5サイズのカメラでは原寸撮影できなかった大きな印について、デジタルカメラによる調査の有効性を検証するため、デジタルカメラによる資料撮影を一部実施した。これらのデジタル画像を含む基礎資料のデータベース化について検討をおこなった。特に問題としたのは、原寸撮影による写真資料をデジタル画像化し入力する際に、印影の大きさを示すための有効な方法についてであるが、これについては充分な結論を得るに至っておらず、今後の課題として、さらに検討を重ねていきたい。また、本研究の将来の目的である「日本現存中国書画家鑑蔵家落款印譜』公刊のための基礎的作業の一つとして、諸資料の中から、よく知られている主な書画家、鑑蔵家を抽出し、文字データと画像データを示したものを報告書としてとりまとめた。
著者
湊 信幸 富田 淳
出版者
東京国立博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

日本に現存する中国絵画、中国書跡の内、本研究にとり重要である作品を選定し、諸作品に押印されている書画家印、落款を、原則として6×4.5判カメラによる原寸大の白黒写真撮影、必要に応じて6×4.5判カメラによる原寸大のカラー写真、また印色の記録の為に35ミリカラースライド撮影により調査を実施した。今回の調査と対象としては東京国立博物館に保管されている中国書画作品に重点をおいて実施した。調査により収集することの出来た諸印、落款の原寸大焼付写真資料を、従来、収集整理した写真資料と同様にB6判のカードに貼り、原則として、それぞれに印文、落款、書画家名、賞鑑家名、用印年代、作品名、作品の制作年代、所蔵者、作品登録番号、ネガ番号、撮影年月日等の基礎データを記入し、画家、書家、賞鑑家別に分類整理をおこなった。また、諸資料の整理にあたっては、落款および諸印の真偽の問題等について、日本国外に現存する作品の諸印の関係資料も、出来る限り比較して検討する作業を実施し、諸印と落款に関するいくつかの個別的問題について具体的に検討を加えた。さらに、今後の課題として、収集した写真資料のデジタル化の問題についても検討をした。
著者
吉田 正広
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、ロンドンにおける第一次大戦の戦死者追悼記念碑や式典のあり方を、企業、地域社会、国民国家さらに帝国に至る重層的なアイデンティティ形成の問題として考察する。その際、記念碑の様式や式典のあり方にコミュニティ毎の違いがあることに着目し、地域社会の特質や政治との関連で記念碑や式典を考察する。ロンドン・シティの狭い区域内に数多くの記念碑が点在する。それは決して偶然ではなく、シティの金融機関に勤める従業員の多くが志願して戦死したことと関係する。初年度は、ロンドン・シティの調査と分析を実施した。2017年11月12日(日)リメンバランスサンデーの正午ごろに、王立取引所前のロンドン部隊記念碑前で始まった追悼式典を実際に観察し、その様子を動画および画像に収めた。これはコミュニティの追悼のあり方を知る上で重要な機会となった。また、金融機関や教会、鉄道の駅の記念碑など、11月12日の追悼式典後の記念碑の様子、とくに奉納されたポピーの花輪の文面を画像に収め、式典参加者やそのメッセージを資料として入手した。現地調査後半では、かつてのロンドンの波止場地区であるポプラー周辺や、さらにロンドン東部のイーストハム、ウェストハムに残る企業の記念碑を調査した。研究成果としては、イングランド銀行記念碑の設立に関する一次資料を分析し、職員たちによる記念碑設立活動の詳細を明らかにした。それはイングランド銀行の職員たちの自発的な活動として追悼委員会を通じて行われた。同委員会は、職員の階層や所属する部門の特質を反映した。また、職員総会での委員長ブライアントの演説を分析すると、世界の金融センターとしての自負心やその中枢としての自行への誇りが、強い愛国心を表明させたこと、また、自行の敷地拡大時における教会の解体や物質文明を担うことへの罪意識が、記念碑としての十字架建立の提案に至ったことを確認した。
著者
鄭 明政
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

生存権の段階的保障を憲法に基礎づけるためには、「人権のパンチ力」を維持しようと試みる「切り札としての人権論」よりも、基本権の実現の最大化を図る理論を構成するべきである。このことは、台湾の憲法15条の生存権条項だけでなく、22条の包括的条項や人間の尊厳からも導かれる。社会的弱者に適切な配慮がなされたかどうかを狭く深い引導的な司法審査することにより、生存権の段階的保障を促進できるように思われる。
著者
青柳 幸利
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

高齢者の日常身体活動を加速度計により10年間連続して測定し、どのような活動パターンが心身の健康、特に骨量・筋量維持に最適であるのかを縦断的に明らかにした。特に歩数および中強度活動時間と骨粗鬆症・骨折の発生との関係について分析した結果、当該病態の罹患率を抑えるための至適活動閾値は、男女とも歩数>7,000~8,000歩/日かつ/または中強度活動時間>15~20分/日であった。また、女性において、骨折の予想リスクは歩数が1日に6,800歩未満の参加者で8,200歩以上の人に比べると5~8倍も高く、中強度活動時間が1日に15分未満の参加者は24分以上の人と比べて3~4倍も骨折しやすいと見積もられた。
著者
川久保 友紀 鮫島 達夫 笠井 清登 川久保 友紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまでわれわれは脳機能イメージング(近赤外線スペクトロスコピー:NIRS)によって精神疾患における前頭葉機能障害を捉えてきた。特に統合失調症におけるNIRS信号の前頭葉異常は、全般的な生活機能評価と有意な関連があることを見出した(Takizawa, et. al., 2008)。NIRSは光を用いた安全で非侵襲的な技術であり、自然な姿勢・環境で被検者に負担が少ない検査を実現しているため、将来、精神疾患の臨床場面において、補助診断、薬効予測や症状評価への応用が期待されている。本研究ではさらに一歩進めて、こうしたNIRS信号の意義を明らかにするため、これまでに統合失調症の認知機能障害との関連についての先行研究があるcatechol 0-methyltransferase (COMT) (val^<108/158>met)遺伝子多型に着目し、完全に非侵襲性な脳機能計測技術(NIRS)と分子遺伝学的分析を双方向に組み合わせ、統合失調症の前頭葉機能異常を明らかにすることを目的とした。平成18年度から成19年度にかけて、計画通りにさらに被検者数を増やすことができた。サンプル数を増加させても結果に変化はなく、各群で語流暢性課題遂行成績に有意差はないにも関わらず、COMT遺伝子多型のMet carrier群では、Val/Val群に比べて、課題遂行中の[oxy-Hb]増加が大きく、有意差のあるチャンネルを前頭前野に認めた。本研究でも統合失調症の前頭葉機能への神経伝達物質関連遺伝子との関連が示唆された。こうした結果を、平成19年度に第62回アメリカ生物学的精神医学会(San Diego, USA)等、国内外の学会や雑誌で発表してきた。現在、英文雑誌へ投稿中である。そして今後も、薬効予測・薬効評価につながるNIRSの精神疾患への臨床応用を裏付ける研究を続けていく方針である。
著者
北出 幸夫
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究により得られた知見を述べる。1)アデノシンの6位置換体の場合では、アデノシンの場合に比較し反応性が低下した。また、プリン環7位窒素原子がメチン基に置き変わった、7-デアザ体ではイノシン型、アデノシン型ともに本条件下では反応が進行しなかった。この事実は本還元反応が、DIBAL-Hのプリン環7位窒素原子への配位により惹起されることを示唆するものである。このことより、O^6-置換体のDIBAL-H還元に於いてはDIBAL-Hと酸素原子との親和性が高いためにDIBAL-Hが先ず6位酸素原子に配位し、更に7位窒素原子に配位したために好効率に進行したと考えている。2)一方本反応をプリミジン系アシクロヌクレオシドの合成に適用したが反応が複雑に進行し、期待するするアシクロピリミジンンヌクレオシドを得ることはできなかった。3)著者は、DIBAL-Hによるピリンヌクレオシドの糖部開環反応を用いて、強力なSAdenosyl-L-homocysteine(SAH)hydrolase阻害剤として知られるNeplanocin Aの糖部開環体の合成に成功した。その他、SAH hydrolase阻害が期待されるアシクロ系アデノシン誘導体も合成した。本反応を用いることにより様々なアシクロプリンヌクレオシド誘導体の合成が可能であることを示すことができた。以上の如く本研究に於いて、著者は、DIBAL-Hによるヌクレオシド類の糖部開環反応を種々検討した。その結果、本反応はプリン系ヌクレオシド誘導体に有効であることを明らかにした。また、詳細な反応性の検討によりプリン塩基部の置換基効果と配位の重要性を明らかにした。更に、本還元反応を利用した種々の抗ウイルス活性の期待されるプリン系アシクロヌクレオシド類への誘導に成功した。
著者
松田 彰 綿矢 有佑 宮坂 貞 牧 敬文
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

本研究班では、従来の医薬品開発を目標に直結したランダムスクリ-ニング的発想に基づく研究ではなく、核酸の構造や代謝の分子論的な解析を基に新しい機能性ヌクレオシドの創出を図ることを目的にしている。松田は、ヌクレオシドレベルでは化学的に安定であるがDNAに組み込まれると鎖切断などの反応性を示すヌクレオシドの設計を行っており、今年度は、2'ーdeoxycytidineの2'ーβ位にシアノ基、イリシアノ基、エチニル基を含む誘導体の合成を行った。この中で、シアノ基を含むCNDACは強い細胞毒性を示し、その5'ートリリン酸体は牛由来のDNAポリメラ-ゼαの強力な阻害剤となった。この時の阻害様式は、chainーterminator型であったが鎖切断の結果そうなったのかどうかについて更に検討を行っている。牧は、アデノシン誘導体が電子移動により酸化される新しい反応を見い出し、その反応を利用し、DNAやRNAの鎖切断へ応用しようと試みている。宮坂は、AIDSの原因ウイルスであるHIVーIを新しい様式で阻害するアシクロウリジン誘導体を合成した。その中でこれらの化合物は、従来のAZTやddIが感染細胞中の酵素によりトリリン酸体に変換されて、逆転写酵素を阻害するのとは異なり、リン酸化を受けずに阻害すること、また天然の基質であるTTPと非競合型の阻害を示すことから、逆転写酵素のTTP結合部位でアロステリックな阻害を示すことを明らかにした。綿矢は、ヌクレオシドやヌクレオチドの生物種間での差異を明らかにするために、寄生原虫をヒト由来細胞を用いて、糖部や塩基部が天然型とは異なる誘導体を用いて代謝系を調べた。リュ-シュマニアが特にプリン生合成がヒトとは異なることを利用して強い抗原虫作用を示すヌクレオシドを数種見い出した。
著者
松田 彰 綿矢 有佑 宮坂 貞 牧 敬文
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究班では、核酸の構造や代謝の分子論的な解析を基にした機能性ヌクレオシド誘導体の創生を計ることを目指している.松田は、新しいアミノリンカーを持つDNAオリゴマーの設計と合成を行なった.これらは標的とするRNAと安定な二本鎖を形成し,さらに、リンカーにインターカレーターなどの機能性分子を導入することが可能である.これらのオリゴマーは天然型のリン酸ジエステル結合を持つにもかかわらずヌクレアーゼに抵抗性を示すこと,および,RNase Hの基質になることを明らかにした.DNA鎖切断型の自殺基質として分子設計したCNDACがモデルテンプレート・プライマー系でDNApolymeraseを作用させたとき予想通りの鎖切断を引き起こすことを確認した.牧は、光励起下で活性酸素の模倣物として機能する特異な複素環N-オキシド(POP)を用いてヌクレオシド類の光酸化反応を詳細に検討した.さらに、POPが水中で水酸ラジカルを発生しDNA鎖を効率的に切断することを明かにした.宮坂は、HIV-1の逆転写酵素(RT)に特異的に結合する化合物(BEMI)を用いてこの化合物に対する耐性株の遺伝子分析を行なった.本化合物によるRT耐性は103番目のリシンがグルタミン酸に,181番目のチロシンがシステインに変化していることによることを明らかにした.綿矢は、ヒトに感染しマラリアを引き起こす4種類のマラリア原虫を識別できるDNA診断法を開発した.さらに,5-fluoroorotateとスルファモノメトキシンを併用することによりクロロキン耐性マラリア(ネズミマラリア感染マウス)を治癒出きることを明らかにした.
著者
趙 哲済
出版者
(財)大阪市文化財協会
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

旧石器の層位を撹乱する原因のひとつである地層の割れ目に関して、野外における観察と室内での分析により、朝鮮半島のソイルウェッジと本州中央部の更新統に見られる乾裂痕、北海道の氷楔痕とを比較し、凍結割れ目と乾裂との構造・形成機構の相違と移行性を検討した。1.朝鮮半島の上部更新統の対比 朝鮮半島のソイルウェッジを含む更新統上部では、割れ目の上限付近で極細粒砂サイズ以下に球状石英をはじめとする球状鉱物が比較的多く認められることにより、風成の黄砂に由来した鉱物である可能性が指摘できる。また、AT火山灰に由来する火山ガラスが割れ目充填物に比較的多く含まれることも明らかとなった。これらのことは、最上位の割れ目が最終氷期極寒期前後に形成されていたことを示唆する。さらに、暗色帯や赤褐色帯を手がかりにして、更新統上部の割れ目を対比し、4時期に区分した。2.割れ目の構造と形成要因 朝鮮半島のソイルウェッジ・カストと本州中央部の乾裂痕は、現地での観察においても、不撹乱試料の研磨面での観察においても、割れ目の最上郡付近を除けば充填物は雨水によるとみられる泥のベインだけであり、ほとんど開口しなかったことが推定される。また、共に垂直方向の割れとともに水平方向の割れも観察された。この割れ目現象は北海道の活動層を伴う氷楔痕には見られない構造であり、周氷河現象の氷楔痕の主たる成因が凍結によるものであるのに対して、ソイルウェッジや本州中央部の乾裂痕は最終氷期の寒冷条件に支配されつつも、乾燥による収縮が主要な成因であったと考えられ、いわゆるソイルウェッジとは異なる割れ目だと結論される。
著者
長谷部 晃 佐伯 歩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

口腔カンジダ症の原因病原体のCandida albicansが、なぜ口腔内に常在できるのか不明である。我々は、C. albicansの経口摂取がそれに対する経口免疫寛容が誘導するからではないかと考えた。経口免疫寛容とは、食物に免疫反応が起こらないのと同様に、口から摂取された異物に対して免疫反応が起こらないシステムのことである。そこで、経口的にC. albicansを若いマウスや高齢のマウス、TLR2遺伝子欠損マウスに摂取させたがC. albicans特異的血中抗体に対する免疫抑制を誘導せず、TLR2の有無もC. albicansに特異的な抗体産生誘導には影響しないとわかった。
著者
藤原 宏子
出版者
日本女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では、セキセイインコの雌雄を5週間つがわせた後に、行動(目的1)と脳(目的2)を調べ、配偶者コールの記憶に性差があるかを検討した。さらに、配偶者の声の記憶(聴覚記憶)に関する脳部位の研究に、非侵襲的な脳計測方法の導入を試みた(目的3)。1、行動実験(目的1)昨年度の音声呈示実験で得られた行動データについて、詳細な統計的解析を行った。その結果、配偶者コールの記憶を獲得・保持する能力には性差がないことを明らかにした。2、脳実験-侵襲的方法(目的2)鳥脳の大脳後部の二次聴覚領域は、音声知覚・記憶に関与すると考えられている。配偶者コールを呈示した時の、セキセイインコ・二次聴覚領域における神経活動を調べた。神経活性のマーカーであるimediate early geneの発現を免疫細胞化学的に調べた結果、配偶者コールの刺激によって、二次聴覚領域では雌雄共に同程度の発現がみられることを明らかにした。論文公表に向けての打ち合わせを、共同研究者のオランダ・ユトレヒト大Bolhuis教授と電子メールにより行った。3、非侵襲的方法による脳活動の解析(目的3)Tchernichovsky教授(米国、City University of New York)の研究室に短期滞在し、非侵襲的方法のfMRIを小鳥脳に適用する技術を習得した。日本国内では、鳥脳研究へのfMRI適用例はないが、青木伊知男博士(放射線医学総合研究所)の協力により、セキセイインコのfMRI実験の準備を開始した。以上の成果により、つがいの絆を脳機能の側面から理解していくための大きな手がかりが得られた。
著者
柳井 秀雄 檜垣 真吾
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度および14年度の研究により、以下の成績を得た。残胃癌において、約4割と非常に高率のEBウイルス感染を検出し、極めて重要な成果として、英文誌に報告した(Scand J Gastroenterol 2002)。慢性胃炎・胃癌症例について、胃内視鏡検査時に被験者への十分な説明と承諾のもとに、通常の診断目的の生検に加えてシドニーシステムによる胃粘膜5点生検を行い、EBウイルスDNAのBamHI-W断片をリアルタイム定量PCR法にて検出し、ウイルス感染の有無、胃内分布と感染コピー数、の検討を行った。その結果、65.7%の症例において、胃生検切片からEBV DNAが検出された。胃粘膜よりのEBV DNA検出は、中等度の萎縮性胃炎例の萎縮中間帯に有意に高頻度であった(論文投稿中)。胃癌手術例での、EBウイルス感染細胞に多数存在るEBV encoded small RNA1 (EBER1)に対するoligonucleotide probeを用いたin situ hybridizationでは、EBウイルス関連胃癌は、胃体部の胃粘膜萎縮境界近傍に存在していた。胃癌120病巣におけるEBER1 ISHによる検索では、EBV関連胃癌は、内視鏡的粘膜切除を行った54病巣には見られず、外科手術の66病巣中3病巣(5%)を占め、胃型の粘液形質と関連を有していた(論文準備中)。これらの結果より、EBVは、慢性萎縮性胃炎の経過において中等度の萎縮の進展に伴い萎縮境界近傍に感染し、発がんに関与するものと推定している。これらの成果を含めて、画期的な邦文成書「EBウイルス」(監修:高田賢藏、編集:柳井秀雄・清水則夫)を編集し、発刊予定である(診断と治療社、東京、2003年6月予定)。
著者
田中 庸裕 宍戸 哲也 寺村 謙太郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

時間分解 XAFS 法と種々の分光法を組み合わせることによって溶液中ならびに無機酸化物上における各種ナノ粒子形成過程の「その場観察」を行い,ナノ粒子の形成過程と,形成過程に及ぼす各制御因子の解明を進めた.特に時間分解 XAFS 法と四重極質量分析を組み合わせることで有益な情報が得られることが分かった.本研究では以下の 4 種類の系について検討を進めた.1)液相還元法における金ナノ粒子の形成過程に及ぼす硫黄系配位子の影響2)ロジウムナノ粒子のモルフォロジーに対する配位子および塩の効果3)酸化チタン表面における電析過程、4)無機酸化物表面における白金あるいは白金-スズ合金ナノ粒子の形成過程
著者
宮内 佐夜香
出版者
中京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は近世・近代の日本語における逆接接続詞の発達を調査することを目的としたものである。主な対象は「ソレダガ」「ダケド」などの指示詞や断定辞と接続助詞を構成要素とする接続詞的形式であり、近世後期から明治期において、どのようにその形態と機能が推移したのかを明らかにした。また、このような分析の前提として、接続助詞の使用状況を精査することが重要であるため、近世上方語の逆接の接続助詞の使用実態を記述し、近世後期については江戸語・東京語との対照を行った。また、近年整備されつつある近世・近代資料のコーパスを活用し、本研究課題の成果と関連する接続助詞を指標とした文体研究を行った。
著者
久野 マリ子
出版者
國學院大學
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成元年(1989)から平成4年(1992)にかけて調査された東京都下のデータが収集されたままになっていた。これらをもとに、『新東京都言語地図』を作成し、発表した。東京方言の伝統的特徴を示す162項目、高年層と青年層の分布図である。首都圏方言の古層を明らかにするには、伝統的な東京方言の実態を明らかにする必要がある。この資料は明治35年~昭和3年生まれの生え抜きの高年層の話者と、昭和42年から昭和45年生まれの青年層の話者について、対面聞き取り調査した資料である。両親もしくは少なくとも一方の親がその土地の出身で、言語形成期をその地で過ごした男性の話者に限定した話者から得られた資料は、平成の世の東京都方言の実態を反映している。調査音声資料が残されている。とりわけ、高年層の話者のデータは貴重で、現在では、すでに明治生まれの話者に話を聞くことは不可能である。当時の東京都下の方言を記録した音声資料を公表することは、東京方言の実態、首都圏方言の研究に大きな価値を持つと言えよう。音韻の項目については、伝統的な音声特徴の年代による差を明らかにした。例えば、ヒとシの混同や、直音化は青年層では消えかけている。連母音の融合では、体言よりも用言の方が融合しやすい。形容詞では場面により青年層で融合形が増加することが指摘された。例えば、「大根」は連母音が融合したデーコンと発音する話者は青年層ではほとんどみられなかった。一方、「痛い」では、とっさの場合に発音するとき、イテーと発音する話者は青年層の方が高年層よりも多く観察された。ただ「痛い」の場合は、イテーと答えた話者は高年層の方が多く、青年層では減っていた。このことから、場面差による連母音の流合が青年層では若者ことばとして広まりつつことあることが予測できる。引き続き、足柄上郡出身の明治20年代生まれの話者によるライフヒストリーの文字化作業も行っている。
著者
石川 源 竹下 俊行 瀧澤 俊広 磯崎 太一
出版者
日本医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

近年、胎児型Fc受容体が、IgGだけでなくアルブミンとも結合し、生体において、その異化から保護する作用があることが示唆されている。ヒト胎盤絨毛の栄養膜には胎児型Fc受容体が発現しており、母体血を介してアルブミンならびにIgGを担体として、選択的に胎盤への物質輸送が可能である。この研究にて、胎児型Fc受容体によるトランスサイトーシス機能を介した新規胎盤治療法開発を展開するために、先ずヒト初期胎盤を用いて胎児型Fc受容体のアルブミン保護作用を検討した.IgGとアルブミンの初期胎盤絨毛組織における詳細な局在解析を進めるために、光顕レベルで電子顕微鏡の解像力に迫る、独自に開発した超高分解能蛍光顕微鏡法でさらに解析した。母体血に接する栄養膜合胞体内には、IgGの局在を示す、たくさんの大小顆粒状の蛍光を認めた。栄養膜細胞内にはIgGは観察されなかった。しかし、隣接する栄養膜細胞間にIgGの存在を示す蛍光が観察された。栄養膜を越えて絨毛内間質にもIgGが検出された。初期胎盤絨毛組織において、栄養膜細胞層は、母児間IgG輸送の物理的バリアとはなっておらず、栄養膜合胞体においてトランスサイトーシスされたIgGは、栄養膜細胞間腔を通過し、絨毛間質へ既に到達することが明らかとなった。GFP融合胎児型Fc受容体ベクターを作製、絨毛癌細胞株(BeWo等)へ導入し、バイオイメージング解析を行った。解析を効率よく進めるためのGFP発現安定株の作製、霊長目を用いたin vivo実験は課題として残された。今回の研究から、従来の定説とは異なる。初期絨毛での胎盤関門に関する新知見を得ることができた(投稿準備中)。さらに、IgGのみならずアルブミンをキャリアーとして、初期胎盤絨毛組織内へ効率よく治療薬分子を投与することが可能であることを強く示唆する結果を得た。
著者
堤 英敬 上神 貴佳 稲増 一憲
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、有権者と政党の関係が希薄化した政党脱編成期において、両者の関係を再構築する役割を担うと期待される投票支援アプリケーション(VAA)の効果を検証し、その可能性と課題を探ることを目的としている。平成28年度には、VAAの効果に関する2つのサーベイ実験を実施した。第1に、7月に実施された参議院議員選挙において、VAAの利用に期待される効果を検証することを目的としたサーベイ実験を実施した。具体的な実験方法としては、クラウド・ソーシングで募集した本調査への協力者ならびに研究組織のメンバーが所属する大学の学生を対象として、ランダムに選ばれた人たちに参院選前にVAAを使用してもらい、VAAを使用しなかった人との間に(参院選後の調査で尋ねた)参院選での投票参加や、参院選前後における政治意識、情報接触パターンに差異が生じるかを確かめた。VAAを利用することで情報コストが軽減され、投票者が増えることや、新たな情報を得ることで、政治への関心や政治的有効性感覚が高まったり、政治情報の取得に積極的になったりすることを予測していたが、実験の結果は必ずしもこうした予測とは一致しないものであった。第2に、VAAが利用者に対して政党の政策的立場に関する正確な情報を提供できる点に着目し、その効果を測定するサーベイ実験を行った。具体的には、調査会社のモニターを対象としたインターネット調査において、一般に認知度が低いと考えられる2つの政策争点における自民党、民進党の政策的立場をランダムに選ばれた調査回答者に提示し、それ以外の回答者との間に、政党に対する好意度や政治的有効性感覚、政治情報の取得の積極性に違いが見られるかを検証した。結果としては、政党の政策情報を示された人の方が若干ではあるが、むしろ政策情報の取得に消極的になるとの結果が得られた。
著者
兼崎 友
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

常温性のシアノバクテリアが突然変異の蓄積によりどこまでの高温耐性を獲得できるのかという命題に挑むため、3年に及ぶ長期間の寒天培地上での高温順化培養により、シアノバクテリアS. elongatus PCC 7942の通常の生育限界温度である43℃を大きく超えた株群を得ることに成功した。これらの高温耐性突然変異株群について、ゲノム上の突然変異部位を次世代シーケンサーを用いてゲノムワイドに同定し、さらに遺伝子組換えを用いた実験から高温耐性に寄与した変異遺伝子座を概ね明らかにした。この高温耐性突然変異株では、高温下での転写産物プロファイルや細胞形態、生育速度などに大きな違いが見られた。
著者
山下 潤
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012

ES 細胞の分化において、分化に要する時間はほぼ制御不能である。本研究は、幹細胞の分化速度を制御する新しい分子機構の解明を通して、「目的細胞への分化時間の短縮」という画期的技術開発を目的とする。ES 細胞分化途上において PKA シグナルを活性化することにより、ES細胞からの中胚葉及び血管内皮細胞分化を従来の約2倍早く誘導することに成功し、PKA がヒストンアセチル化酵素 G9a の発現を上昇させることにより分化速度を早めるという新規機構を見出した。