著者
山下 仁
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.251-261, 2020 (Released:2021-09-28)
参考文献数
51

茨城県内原の満蒙開拓青少年義勇軍訓練所(1938~1945年)に設置されていた「一気寮」は国家プロジェクトの一部に組み込まれた灸療所であり日本の近代医史学的に稀有な存在であるため,設置の背景や活動の実態などについて,文献収集,インタビュー,現地訪問などにより情報を集約した。加藤完治所長の理解の下で代田文誌と田中恭平の提案により設置された一気寮は,灸療の臨床と訓練を担っていた。現存する臨床データや記録から,訓練生の健康増進と一部の疾病治療(夜尿症および結核疑い者ほか)において良好な臨床成果を挙げていたことが窺われる。一方,収集した情報からは位置的・組織的・心理的に増健部の他部署と一定の距離があることが推察された。灸療に期待される役割は時代とともに変容したが,医療手段の多様性,汎用性,補完性,持続可能性などを考える上で一気寮の発想と活動内容は今日においても示唆に富んでいる。
著者
西村 秀樹
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.5-20, 2016-10-05 (Released:2017-10-05)
参考文献数
24

大相撲は、スポーツらしからぬ部分を持つ。その最たるものは、「立ち合い」である。「阿吽の呼吸」で立つとか、「合気」で立つというように、当事者同士の相互主観的な一致の「とき」に、立ち合いは成立する。近代スポーツに見られる判定の客観的合理化の流れとはまさに逆行している。この点は、大相撲の伝統的「芸能性」と関連している。 スポーツらしからぬ部分は、明治・大正から昭和の戦前にはもっと多くあった。それらは近代的スポーツとしての未成熟さをあらわすと言えば、確かにそうであるに違いないのだが、大相撲がスポーツとして公正な勝負の論理を志向したのではなく、「祝祭」であったことが考慮に入れられなければならない。当時の国技館は、まさに「祝祭空間」であった。その「祝祭性」の充満には、近代スポーツからすればまさに未成熟に他ならないルールの「曖昧さ」や、力士の賤視される「芸人」としての身分が寄与したのである。これらが、観客を能動的な主役として熱狂させたのである。 この「祝祭」としての大相撲が「スポーツ化」していくプロセスは、興味深い。中世のヨーロッパ各地でおこなわれたフォークゲームとしてのフットボールにおいては、その近代的スポーツとしての発展の経緯は、広範囲での大規模な国際的な試合を可能にするために統一組織・統一ルールが出来上がるという内的発展の論理に求められる。それに対して、大相撲の近代化は外的・社会的状況によって推進されたのである。協会の財団法人化による品位向上・天皇賜杯認可による権威づけと、天皇制ファシズム推進による国民生活全般の「厳粛化」のなかで、大相撲の礼儀作法や観戦態度が「神聖化」されていく一方、取組や裁定にあった「曖昧さ」は排除され、公正な勝負の論理が支配的になり、ガチンコ勝負としてスポーツ化が推進されたのである。
著者
中村 智幸 片野 修 山本 祥一郎
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.287-291, 2004-09-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
30
被引用文献数
1

コクチバスによる在来魚への捕食圧を軽減するうえでの水草帯設置の効果を実験的に検証した。屋外実験池8面のうち4面に, クサヨシを1m2の範囲に100本植え, 他の4面は無植栽とした。そして, 各池にコクチバス3尾とフナおよびウグイを各20尾放流し, 1期14日間, 計2期, フナとウグイの被食数を調べた。その結果, 両種ともにクサヨシ帯を設置した池では, 被食数が有意に減少することが明らかになった。この結果は, 自然水域における水草帯の保全・拡大が, コクチバスによる在来魚への捕食圧を軽減するうえで効果的であることを示す。
著者
奥山 治美 山田 和代 宮澤 大介 安井 裕子 市川 祐子
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.8, no.10, pp.421-427, 2008 (Released:2013-06-01)
参考文献数
24

“動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らして高リノール酸植物油を増やすと, 血清コレステロール値が下がって心疾患が予防できる” というコレステロール仮説は誤っていた。この説に基づく指導を長期に続けても血清コレステロール値は下がらず, むしろ心疾患死亡率が上がり, 寿命が短くなることがわかった。一方, 大部分の人 (40~50歳以上の一般集団) にとっては, 血清コレステロール値が高い群ほど癌死亡率が低く長生きであった。すなわち, “飽和脂肪酸に富む動物性脂肪が血清コレステロール値を上げ, 心疾患の危険因子となっている”, と考える根拠は崩壊した。心疾患の危険因子はコレステロールではなく, 摂取脂肪酸のn-6/n-3バランスであった。最近トランス脂肪酸 (水素添加植物油) の安全性の問題が再びクローズアップされ, 代替油脂としてパーム油がわが国の供給植物油の20%を占めるまでに至っている。しかしパーム油は動物実験で発癌促進, 寿命短縮などの有害作用を示す。他にも動物に類似の有害作用を示す食用油が数種ある。このような安全性の確立していない植物油に対し, 動物性飽和脂肪 (バター, ラードなど) の安全性が強調できる。メタボリック症候群の危険因子はタンパク質, 糖質を含めた栄養素の過剰摂取による過栄養 (over-nutrition) であり, 動物性脂肪は肥満にならない範囲で安全に摂取できる。
著者
Kazuhiro Kubo Mayu Kasumi Takatoshi Yamashita
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
pp.FSTR-D-23-00059, (Released:2023-07-27)
被引用文献数
1

Hard water is softened because its use in everyday life can cause various problems in the living environment. However, existing water-softening methods have a number of drawbacks. Here we examined a new water-softening method involving atomization. Three concentrations of calcium-based synthetic hard water and a commercial natural hard water were prepared. Each hard water was sprayed into the atmosphere at 1 MPa from an atomization nozzle and then collected. Part of the collected water was recirculated, and the atomization treatment was continued. After the treatment, a white precipitate and fine bubbles were generated, the Ca2+ concentration and electrical conductivity decreased, and the pH increased. Then over time, the white precipitate increased slowly and the Ca2+ concentration decreased until finally it almost fell within the recommended range. This water-softening phenomenon was thought to be due to expansion of the gas-liquid interfacial area and generation of fine bubbles with atomization. This method is extremely simple and expected to show high versatility.
著者
松井 哲哉 田中 信行 八木橋 勉
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.7-13, 2007 (Released:2008-07-10)
参考文献数
43
被引用文献数
7 7

温暖化した2100年における白神山地のブナ林の分布適域を,分類樹モデルと二つの気候変化シナリオ(RCM20とCCSR/NIES)によって予測し,ブナ林の将来変化について考察した。4気候変数と5土地変数を用いたブナ林の分布予測モデルENVIによると,白神山地地域のブナ林の分布は冬期降水量(PRW)と暖かさの指数(WI)で制限されている。二つの気候変化シナリオのPRWは将来も変化が少ないので,将来ブナ林分布へ影響を与える主要因はWIである。分布確率0.5以上の分布適域は,現在の気候下では世界遺産地域の95.4%を占めるが,2100年にはRCM20シナリオで0.6%に減少し,CCSR/NIESシナリオでは消滅する。ブナ優占林の分布下限のWI 85.3に相当する標高は,現在は43 mだが,RCM20シナリオでは588 m,CCSR/NIESシナリオでは909 mに上昇する。現地調査と文献情報にもとづいて求めたブナ林の垂直分布域は,標高260~1,070 mであった。施業管理計画図によると自然遺産地域の約8割が林齢150~200年生であるので,2100年には多くのブナが壮齢期から老齢期を迎える。温度上昇により,ブナ林下限域から,ブナの死亡後にミズナラやコナラなどの落葉広葉樹が成長し,ブナの分布密度の低下が進行する可能性がある。

18 0 0 0 OA 教草

出版者
博覧会事務局
巻号頁・発行日
vol.一, 1872
著者
佐藤 郁哉 Ikuya Sato
出版者
同志社大学商学会
雑誌
同志社商学 = Doshisha Shogaku (The Doshisha Business Review) (ISSN:03872858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.1-26, 2023-06-30

同志社大学商学研究科において2018年度いらい開講されてきた「研究基礎」の概要について、これまでの授業実践の内容を中心にして解説するとともに、同授業科目の今後の方向性について検討していく際に参考になると思われる幾つかの論点を、講義担当教員としての体験を踏まえて提出した。
著者
貞岡 美伸
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.104-112, 2015-09-26 (Released:2016-11-01)
参考文献数
37

代理懐胎の是非と誕生した子どもの母は誰かという2つの問題は異なる。本稿では、子どもを産むという代理懐胎者の主体的な意志を尊重し、代理懐胎者を保護する立場から、分娩後に一定期間を置いて、母を変更することの意義を検討した。先ず代理懐胎における母の型を明確にした。子どもの誕生を意図して養育意思を持つ母、子どもの誕生を意図して養育意思を持ち自己の卵子を使用した母、代理懐胎で分娩した母において利点・欠点をまとめた。次に代理懐胎者が母となる場合の問題、一定期間を置く根拠を考察した。分娩者が母ルールは、代理懐胎契約に違反し、代理懐胎者を母とした場合に養育環境を整えやすい。また代理懐胎依頼者が母となる時期を子どもが誕生した直後よりむしろ誕生後6ケ月以内とすることに意義がある.
著者
草野 美保
出版者
一般社団法人 日本家政学会 食文化研究部会
雑誌
会誌食文化研究 (ISSN:18804403)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.13-26, 2020-12-25 (Released:2021-07-09)
参考文献数
87

The bean sprouts (moyashi) and the Chinese cabbage (hakusai) were introduced to Japan from China and both vegetables are often used in Japanese and Chinese cuisine nowadays. Although the two were introduced in Japan at different times, the period of their spread was the same-between the Great Kanto earthquake (1923) and the late 1930s. That time coincided with the popularization and development of Chinese cuisine in Japan.The purpose of this article is to examine the differences between the spread of the two vegetables, the influence of Chinese cuisine on the process and their uses in Japanese, Western and Chinese cuisines on the basis of newspapers, magazines and cookbooks published from the 1920s to the early 1930s.
著者
馬場 典子 片山 隆志 香西 武 米澤 義彦
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.168-175, 2013 (Released:2019-09-28)
参考文献数
12
被引用文献数
2

中学校新学習指導要領では,理科の第2分野に新しく「遺伝の規則性と遺伝子」の内容が加えられ, 生徒実験として,食塩水と台所用洗剤を用いた簡便法による「DNA の抽出」が提案されている.本研究は,中学校における DNA の抽出実験について,これまでに報告されている材料と方法を再検討し, 中学校でも実施可能な DNA の抽出実験の材料と方法を提案することを目的として行われた.また,報告されている簡便法によって抽出されたものが DNA であることを確認するために,抽出物のUV吸収スペクトルを測定し,市販の DNA 抽出キットによって抽出した DNA と比較した.その結果,DNA の抽出液として,4%食塩水と5%SDS溶液の混合液(24:1)を用いること,材料としてはブロッコリーが適していることが明らかになった.また,抽出物が DNA であるか否かについてはジフェニルアミン法によって確認できることを確かめた.さらに,改良した方法を用いて行った附属中学校での授業実践をもとに,教科書の記述内容の変更を提案した.
著者
旦 直子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.140-152, 2013 (Released:2013-10-30)
参考文献数
105

本稿では, わが国における子どもとメディアについての近年の研究を, 1. 対象としてのメディア, 2. 環境としてのメディア, 3. 道具としてのメディア, という三つの観点から概観した。対象としてのメディア研究では, 子どものテレビ映像認識における大人と異なる様々な側面が報告されている。また, 環境としてのメディア研究については, 多くの研究者によってメディア接触が子どもにもたらすネガティブな影響が議論されているが, 最終的な結論を求めるためには実証的な研究結果の蓄積が必要である。さらに, 道具としてのメディアについては, 実践において様々なメディアを使った教育支援の試みが報告されているが, メディアの教育的利用を効果的に行うための実証的かつ体系的研究が望まれる。最後に, 現在の研究における問題点を指摘し, 今後求められる研究について論じた。
著者
米嶋 一善 武田 智徳 友利 幸之介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.640-655, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
56

内部障害の目標設定の状況と研究ギャップを特定するためにスコーピングレビューを実施した.全1114編のうち46編が対象となり,がん19編,心臓疾患16編,呼吸器疾患6編,腎臓疾患0編,複合疾患5編であった.作業療法領域,個別的で活動や参加に焦点を当てた目標設定に関する報告は少なかったが,がんを対象とした報告では比較的実施されていた.ただし,がん以外の領域で研究の必要性がないわけではなく,心臓疾患や呼吸器疾患でカナダ作業遂行測定(COPM)を用いた作業ニーズを調査する研究等が報告されており,今後本邦においても類似した研究の実施が求められる.

18 0 0 0 OA 上総国町村誌

著者
小沢治郎左衛門 著
出版者
小沢治郎左衛門
巻号頁・発行日
vol.第1編, 1889