著者
梶原 洋
出版者
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館
雑誌
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館年報 (ISSN:21862699)
巻号頁・発行日
no.12, pp.43-50, 2021-06-23

1933 年に伊東信雄により樺太で発見された2 領のアイヌ鎧は、主としてその構造が古墳時代の挂甲に類似していることから、平安初期(9 世紀)の所産と推定されていた。しかし、11 から12 世紀に生まれ、鎌倉時代以降に盛んに用いられた「腹巻鎧」との構造的な類似性をもつと推定される。そして、鎧自体の特徴は、北東アジアのチュクチ族などの前合わせ式鎧と共通していて、その伝統に倣った上で、日本式鎧の縄目縅、菱縫などの製作技法を取り入れて作られた可能性が高い。また、サハリンに残されたアイヌ鎧に見られる巴文が、南北朝以降の型式であり、新たに確認された松皮菱文は、武田氏に関連することから、15世紀に蠣崎氏(武田氏)を中心とした道南の和人勢力とアイヌ民族との間で繰り広げられた戦いとの強い関連も推定される。したがって、この鎧は、平安時代9 世紀の所産ではなく、室町時代の15 世紀頃に奥州以北などで製作され、サハリン(樺太)にまでもたらされたとの説明が最も有力となり、従来の年代感は訂正されなくてはならないだろう。
著者
岡庭 信司
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.226-237, 2015-05-31 (Released:2015-06-19)
参考文献数
31
被引用文献数
3

体外式超音波検査(以下US)は簡易で低侵襲な検査であるため人間ドックや集団検診といったスクリーニングにも広く用いられている.胆嚢ポリープや壁肥厚はよく遭遇するUS所見であり,胆嚢癌はUS検診の成果が期待できる癌とされている.胆嚢の腫瘍性病変の超音波像は隆起あるいは腫瘤像(有茎性,広基性)と壁肥厚に分類する.この分類は鑑別診断のみならず深達度診断にも有用であり,有茎性の癌は早期癌(腺腫内癌)と診断可能である.胆嚢癌との鑑別診断には,大きさ,内部エコー,表面構造,層構造,ドプラ所見などを評価することが有用である.さらに,胆嚢腫大,肝外胆管拡張,デブリ,胆嚢壁の性状といった間接所見も胆道癌の拾い上げに有用である.深達度診断においては,胆嚢壁の低エコー層にMPとSS浅層が含まれるため層構造の評価のみでは診断が困難であり,病変の形状,大きさ,内部エコーおよび造影エコーによる染影所見などを併用する必要がある.
著者
Takashi KURAMOTO
出版者
Japanese Association for Laboratory Animal Science
雑誌
Experimental Animals (ISSN:13411357)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-6, 2011 (Released:2011-02-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1 4

During the 18th century, raising the "nezumi" rodent became so prevalent in Japan that two guidebooks were published on the topic. The first guidebook was entitled Yoso-tama-no-kakehashi (1775) and the second was entitled Chinganso-date-gusa (1787). It remains unclear in these texts whether the term nezumi was used to refer to the rat (Rattus norvegicus) or the mouse (Mus musculus). In this review, I explore Yoso-tama-no-kakehashi (English translation: A bridge to obtaining novel jewel-like nezumi). It was written by the owner of "Shunpo-do" and comprises two volumes; the first is 34 pages in length and the second is 14 pages. It introduces the nezumi and then provides details on novel varieties and the methods that were used to raise them. The nezumi dwells in peoples' homes. It is noteworthy that the "norako" species is classified in the same group as the nezumi. The norako is smaller than the nezumi. Its alias is "hatsuka-nezumi", a term which is still used in Japan today when referring to the mouse. This indicates that when the guidebook was written people distinguished the rat from the mouse by identifying the rat using the word nezumi and the mouse using the word norako. Moreover, I recently confirmed that the rat varieties which are introduced in Yoso-tama-no-kakehashi, such as "white", "spotted", "black bear-like", "deer-spotted", and "cracked-mark", can be found in modern laboratory rats. Taken together, it is very likely that the term nezumi is used to refer to the rat in Yoso-tama-no-kakehashi and that this was indeed a guidebook on the rat.
著者
志馬 伸朗
出版者
COSMIC
雑誌
呼吸臨床 (ISSN:24333778)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.e00008, 2017 (Released:2019-06-27)
参考文献数
23

人工呼吸器関連肺炎(VAP)はICUにおける最頻の感染性合併症であり,致死率は30%と高い。予防策として,早期の呼吸器離脱,誤嚥を回避する体位や幽門後栄養投与,カフ上部吸引などがある。診断において,気管支肺胞洗浄を用いた侵襲的微生物診断を行うべきかどうか議論が続いている。経験的治療の適切性が予後に関連する因子であるが,その選択において肺炎診療ガイドラインを上手く活用する価値がある。
著者
崔 紗華
出版者
早稲田大学
巻号頁・発行日
pp.1-331, 2019

早大学位記番号:新8448
著者
伊賀 聖屋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.150-178, 2008-05-01 (Released:2010-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
5 7

近年, 新たな食料供給のあり方としてショートフードサプライチェーン (SFSC) が注目を集めている. その主な特徴は, 主体間の近接性や独自の価格形成・保証方式にある. 本稿では, ローカルな場面で酒造業者A・B社が酒米生産者と結ぶ提携関係をSFSCと位置づけ, その形成過程とそれが個々の主体に及ぼす影響を考察した. その結果, 以下の点が明らかとなった. (1) A・B社と酒米生産者の提携関係は, そこでの「個人間の相互作用」と「密な情報交換」に対する各主体の期待が合致することで生み出された. (2) その形成過程では, 主体の積極的働き掛けのほか, 自然食品のネットワークや生産地域内の近隣関係が各主体の思惑を結びつける機能を果たしていた. (3) 提携が主体に及ぼす影響としては, 信頼関係の醸成, ネットワークの進化, 酒造業者による経済的支援, 市場競争力の強化, 生産調達リスクの増加が挙げられ, これら作用をいかに活用ないし克服するかが提携の存立に向けた鍵といえる.
著者
平野 綾 奥平 奈保子 金井 日菜子 峯下 圭子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.418-427, 2010-09-30 (Released:2011-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

単語の復唱・音読は良好だが呼称時のみ音韻探索が著明で,多彩な錯語を呈した流暢型失語の 1 例を報告した。症例は 69 歳,右利き女性,高校卒。左側頭─頭頂葉の脳梗塞で中重度流暢型失語を発症,会話時ほとんど錯語はなく流暢に話すが,指示代名詞の多い空虚な発話だった。呼称時の誤反応を,語彙性,意味的関連性,音韻的関連性の観点から,意味性・無関連・形式性・混合性・音韻性錯語および新造語の 6 つに分類した結果,これらすべての種類の反応が認められた。特に,音節・韻律構造といった語の「枠組み」が保たれた非単語が多数認められた点が特徴的で,これらは,語の音韻形式のうち音節・韻律情報に比べて音素情報が得にくく,回収された語の枠組みを埋めようと音素を探索する過程で表出されたと考えられた。また,形式性錯語や,複数語彙が混合したと思われる非単語が認められたことから,語選択における語彙レベルと音韻レベルの相互的な影響も示唆された。
著者
佐藤 寛子 柴田 ちひろ 斎藤 博之 佐藤 了悦 齊藤 志保子 高橋 守 藤田 博己 角坂 照貴 高田 伸弘 川端 寛樹 高野 愛 須藤 恒久
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.21-25, 2013-03-15 (Released:2013-07-06)
参考文献数
19

Since 1993, no cases infected with high pathogenic Kato type of Orientia tsutsugamushi (O.tsutsugamushi) had occurred. However, in August, 2008, we found a patient with tsutsugamushi disease (scrub typhus) who had the antibody against Kato serotype antigen the titer of which was raised at the level of the convalescent phase. The patient resided along Omono river, Daisen city, Akita Prefecture, Japan. We surveyed the vector mites and the field mice as hosts around the endemic locality, from spring to autumn, 2009. We found out Leptotronbidium akamushi (L. akamushi) and succeeded to isolate the Kato type of O. tsutsugamushi from the field mice at the endemic locality. L. akamushi were also found at the famous place for national fireworks in Daisen city, not so distant from the endemic locality. In order to avoid additional latent infections among the local residents or tourists, it is necessary to enlighten that there is risk of infection with this disease along Omono river in summer.
著者
仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-42, 1993-05-15 (Released:2010-06-28)
参考文献数
9

1992年3月8日午後, 愛媛県松山市堀江沖2.3km, 水深22メートルの海底でヘルメット式潜水器具を用いてタイラギ貝漁をしていた潜水夫が行方不明になった.この潜水漁を支援していた船の船長によると, 作業中の潜水夫から突然「上げてくれ」という救助を求める声を聞き, 20分程度かけてやっと引き上げたが, ズタズタに裂けた潜水服とヘルメットだけを回収したという.潜水夫は行方不明で, その後の捜索にもかかわらず, 結局発見できなかった.この事故直後に海上保安部などにより潜水服の調査が行われ, その結果サメによる事故とされた.しかし, その後は詳しい調査が行われず, サメ以外の説も出されるようになったため, 佐賀県太良町の潜水士宅に保管されていた潜水服の再調査を実施した.その結果, 潜水服は胸部から脇腹にかけての胴部右半分と右足が切断され, 肩や腕などに多くの咬み傷のあることが改めて確認された.ヘルメットを固定する金属性の肩当て部分には強い力で穿孔されたと思われる穴や細かな平行な曲線からなる傷跡があり, 通信用ケーブルやゴム部の切断面にも細かな平行のすじ状の模様があった.肩当て部分のゴムの深い傷から長さ約5mm, 幅約2.5mmの歯の破片が発見され, これには2個の鋸歯が残されていた.また, 肩当てや潜水服に残された咬み跡を調査して顎の幅を検討したところ, 40cmはあったと推定された.これらの証拠から, この潜水夫を襲ったのは歯の縁辺部に鋸歯をもっかなり大形のサメであったことが明白となった.これらの歯の破片の特徴, 潜水服などに残された傷跡, 顎の大きさなどに加え, 水温 (当時の付近の水温は水深20mで1L6℃) や四国近海での当時のサメ類の出現状況などを総合的に検討した結果, この潜水夫を襲ったのは全長5m前後のホホジロザメであると結論された.日本では以前からサメによる被害が新聞などで時々報道されているが, これらの記録は散逸し, 被害の実態を捕らえることが出来ない.従って, 日本のサメによる被害を調査したが, 公認されているものも含め現時点で10数件の被害例を見い出した.しかし, これらの日本の事例においては, 襲ったサメの種類調査など後の科学的調査がほとんどなされていないため, 日本で被害を与えているサメについては種名すら分かっていないのが現状である.将来のサメによる事故を防ぐ意味からも, まだ埋もれているサメ被害例を発見し, 分析してみる必要があろう.なお, 本研究で集められたサメによる被害にっいては国際サメ被害目録 (International Shark Attack File, 事務局はフロリダ自然史博物館) に載せておいた.
著者
佐藤 正志 張 志祥 サトウ マサシ チョウ シショウ Masashi SATO Zhixiang Zhang
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.89-102, 2009-10

「満洲国」において、「満洲産業開発五カ年計画」が動き始めた1937年前後から、星野直樹、東條英機、鮎川義介、松岡洋右および岸信介の「二キ三スケ」と呼ばれた5人の実力者の存在が注目されはじめた。そのなかで、経済産業政策を中心的に担ったのが岸信介である。植民地研究の第一人者である小林英夫は、岸が革新官僚として「満洲国」に渡り、そこでさまざまな統制経済の「実験」を実施し、この「満洲経営」が、戦時統制経済をはじめ、第2次世界大戦後に世界に類例をみない日本の高度経済成長や戦後日本経済のグランドデザインをつくったと指摘しており、戦前と戦後の連続性を主張する最近の論調を代表する。本稿では、岸が「満洲経営」で果たした役割とそれの戦後経済成長との関連性をめぐり、どのような言説が流布され、いかなる主張がなされているのか。また、それをいかに論証しているのか、最近の岸に関する研究動向のみならず一般書や雑誌記事などにおける代表的な言説をレビューし、革新官僚・岸信介による「満洲経営」の経済史的意義を解明する際の課題について考察する。
著者
日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.539-579, 2014-09-01 (Released:2014-09-17)
参考文献数
333
被引用文献数
1 33

本ガイドラインは,それまで日本集中治療医学会規格・安全対策委員会(当時)で進行中であった作業を引き継ぐ形で,2013年3月に発足したJ-PADガイドライン作成委員会が作成した,集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドラインである。その作成方法は米国で作成された「2013 PAD guidelines」に準じているが,内容は「2013 PAD guidelines」以降の文献の検討をも加えたばかりでなく,人工呼吸管理中以外の患者に対する対応や身体抑制の問題なども含み,さらに,重症患者に対するリハビリテーションに関する内容を独立させて詳述するなど,わが国独自のものも多い。わが国の集中治療領域の臨床現場で,本ガイドラインが適切に活用され,患者アウトカムの改善に寄与することが期待される。