出版者
国立国会図書館
巻号頁・発行日
vol.2022年, no.(739), 2022-11-01
著者
松島 泰勝
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は、 1972年に沖縄県が日本に「復帰」して以降、実施された振興開発に関する分析と、沖縄県における内発的発展に関する検討という2つに大きく分けることができる。前者に関する本研究の成果は、振興開発が初期の目標を実現できなかった要因を明らかにしたことである。特に、振興開発を米軍基地の押し付け策と連動させる「アメとムチ」の政策が振興開発失敗の最大の要因であることが本研究によって明らかにされた。後者に関する本研究の成果は、名護市の「逆格差論」に基づく内発的発展がなぜ近年再評価されたのかの理由を分析したことである。また沖縄全体の内発的発展を実現するため政策提案も行った。
著者
周 燕飛
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
pp.2019.001, (Released:2019-04-12)
参考文献数
28
被引用文献数
4

本研究は,母親による児童虐待の発生要因について,子育て世帯に対する大規模調査データを用いて分析を行った。その結果,児童虐待が発生する背景には,母親の病理的要因のみならず,経済環境と社会環境も影響していることが分かった。具体的には,母親が健康不良,うつ傾向,DV被害者といった病理的特徴を持つ場合や,貧困など経済状況の厳しい場合,周囲から十分な育児支援を得られない場合に,虐待確率が高い。 いずれの種別の児童虐待についても,健康不良,メンタルヘルスの問題,未成年期の虐待経験など,母親自身の病理的要因の影響が確認される。一方,経済環境と社会環境の影響は,虐待の種別により若干の違いが見られる。「身体的虐待」は,貧困家庭というよりも,多子家庭で生じやすい。「育児放棄」は,低出生体重児のいる家庭やひとり親家庭で発生する確率が比較的高い。
著者
渡辺 真由子
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.2_81-2_88, 2012 (Released:2012-12-25)
参考文献数
39

青少年による性的有害情報への接触は、インターネットの普及で容易になった。フィルタリングが必ずしも有効でないスマートフォンの登場がその傾向を後押ししており、新たな対策は急務といえる。本稿は、マス・コミュニケーションの効果研究において、性的有害情報に関する従来メディアの研究を概観した上で、ネット上の性的有害情報をめぐり海外で行なわれている研究の最新動向を伝え、ネットならではの影響特性や影響研究の限界についても分析した。性に関する情報が全て有害なのではなく、問題は、その描写内容に「性暴力」が登場するかどうか、さらには被害女性の反応をどう描くかにあることが示唆される。CGの発達やコミュニティサイトの相互作用性など、ネットの特性が生み出す実態にも目を向けねばならない。ネット上の性的有害情報への対策を技術的な規制のみに頼るのは限界がある。新たな自主規制・法規制の検討や、性情報の歪みやネットならではの特性を批判的に読み解くリテラシー教育が、家庭や学校において今後より求められよう。
著者
寺町 晋哉
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.10, pp.10_76-10_83, 2022-10-01 (Released:2023-02-23)
参考文献数
25

2021年度現在、高校卒業後に4年制大学へ進学する者の数は男子57.4%、女子51.3%であり、二人に一人以上が進学しているが、実は二つの「足枷」が存在している。一つは非大都市圏、いわゆる「地方」であり、どの地域に在住しているかによって大学進学のハードルは異なっている。もう一つは「性別」であり、全国の大学進学率において女子が男子を上回ったことはこれまで一度もなく、特に「地方の女子」は「地方と性別」双方が大学進学の「足枷」になる。 大学進学には社会的諸条件が影響するため、「大学進学はやる気さえあれば誰でも可能」といった個人の努力や意志の問題へ矮小化してはならない。大学という進路選択が開かれた社会を目指すためにも、「足枷」をなくしていく政策や支援制度が必要である。その一方で、大学進学を選択しなくとも安心して暮らせる社会を基盤に据えることも重要である。
著者
数土 直紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.163-179, 1998-06-15 (Released:2016-08-26)
参考文献数
25

江原ら(1984)及び山崎&江原(1993)は、会話分析において次のような事実を見いだした。1)男性同士の会話では沈黙が多い。2)女性同士の会話では沈黙が少ない。3)にもかかわらず、男性と女性の間の会話では、男性が女性の話に割り込みやすく、女性が聞き役になる。江原らは、この奇妙な現象の中に性による権力を見いだした、しかし、江原らは、そのような権力を産出するメカニズムを特定できなかった。本稿は、進化ゲーム理論を用いて、このメカニズムを分析する。その結果、性による権力は自我を防衛しようとする感情に起因することが明らかにされる。また、本稿は、男性と女性の間の対等な関係が、否定的な他者に対する寛容によって可能になることを示す。
著者
森永 康子 坂田 桐子 古川 善也 福留 広大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.375-387, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
44
被引用文献数
11

「女子は数学ができない」というステレオタイプに基づきながら, 好意的に聞こえる好意的性差別発言「女の子なのにすごいね(BS条件)」(vs.「すごいね(統制条件)」)が女子生徒の数学に対する意欲を低下させることを実証的に検討した。中学2, 3年生(研究1), 高校1年生(研究2)の女子生徒を対象に, シナリオ法を用いて, 数学で良い成績あるいは悪い成績をとった時に, 教師の好意的性差別発言を聞く場面を設定し, 感情や意欲, 差別の知覚を尋ねた。高成績のシナリオの場合, BS条件は統制条件に比べて数学に対する意欲が低かったが, 低成績のシナリオでは意欲の差異は見られなかった。数学に対する意欲の低下プロセスについて, 感情と差別の知覚を用いて検討したところ, 高成績の場合, 低いポジティブ感情と「恥ずかしい」といった自己に向けられたネガティブ感情の喚起が意欲を低めていること, 怒りなどの外に向けられたネガティブ感情はBS条件の発言を差別と知覚することで喚起されるが, 数学に対する意欲には関連しないことが示された。
著者
山室 真澄 鑪迫 典久
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

市販の柔軟剤4製品を最適化した方法で分析した。各社ともほぼ同じ香料を組み合わせて使用していた。同じ方法で千葉県の人工河川の河川水を使って分析したところ、標準試薬にある12成分のうち10成分の人工香料が検出された。このことから、最適化した方法で環境水中の香料成分を検出できることが分かった。環境水にマイクロカプセルの形で拡散している場合、環境水を濾過して懸濁物を接触する二枚貝がマイクロカプセルを取り込んでいる可能性がある。そこで西日本の汽水湖沼および首都圏の感潮河川で漁獲されたヤマトシジミを提供いただき分析したところ、柔軟剤から検出された香り成分と似た組み合わせで人工香料が検出された。
著者
矢武 陽子
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.197-204, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
13

2017年6月に神奈川県内東名高速道路上で発生したあおり運転等に起因する死亡事故が発端となって、あおり運転の危険性が日本で注目されている。しかしながら、同運転行為は今に始まったことではなく、古くからイギリス等で研究されてきた。そこで、この調査では、先行研究をレビューし、そこで明らかになった特徴が日本の事例で当てはまるかを検証し、日本におけるあおり運転の特徴を明らかにすることとする。過去の研究では、年齢が若い、男性、社会的階級、場所および時間、きっかけ(トリガー)が攻撃的運転の要因になっていると提唱している。本稿での事例調査は、自動車運転死傷処罰法に基づく危険運転致死傷罪(妨害目的)が適用された事件を対象とした。その結果、年齢、性別、社会的階級、きっかけ(トリガー)および運転態様については、先行研究と似たような特徴が見られたが、時間では見られなかった。
著者
髙畑 克徳 髙嶋 博
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.9-18, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

Autoimmune encephalopathies are clinically and immunologically heterogeneous disorders. Over time, many different types of autoimmune encephalopathy have been discovered. In such clinical situations, we often recognize that patients with autoimmune encephalopathy are often misdiagnosed as exhibiting functional psychogenic movement, conversion, or somatoform disorders. We clinically analyzed 63 patients (14 males and 49 females; age range, 15–79 years) diagnosed with autoimmune encephalopathy in our hospital from 2013 to 2015. Throughout this period we diagnosed almost no conversion disorders in our department. These patients were diagnosed using the diagnostic criteria for each disease, following clinical features showing neurological symptoms of brain origin, responsiveness to immunosuppressive therapy, the existence of known pathological antibodies, and/or history of human papilloma virus (HPV) vaccination. Fourty–two patients showed motor disturbance (weakness, paresis of extremities, or slower pinching) and 35/42 (83.3%) patients showed give–way weakness, indicating disruption of continuous muscle contraction. Fourty–four patients showed sensory abnormalities such as strong pain, deep muscle pain, dysesthesia, paresthesia, or fast neurologic pain. Surprisingly, most pain was distributed in manner that was not explainable anatomically, while some patients also showed patchy, stocking–glove, or localized pain. Seventeen patients exhibited involuntary movements such as tremor entrainment, dystonia, or coarse involuntary movement. In most patients, such motor, sensory, or involuntary movements were markedly improved with immunosuppressive therapies such as prednisolone, azathioprine, or immune adsorption therapy. We observed memory loss, PNES (psychogenic non–epileptic seizure), dissociative amnesia, hyperventilation, opsoclonus, epilepsy, or autonomic symptoms amongst our patients. Although give–way weakness, anatomically unexplainable pain/abnormal sensation, and strange involuntary movements were thought to be psychogenic, the presence of one of these three symptoms was indicative of autoimmune encephalopathy. As autoimmune encephalitis exhibits diffuse involvement with the whole brain, these symptoms were entirely understandable. Except for the presence of organic disease, most patients were classified into somatoform disorders (DSM–IV, ICD–10) or functional movement disorders. Without first excluding autoimmune encephalopathy, we propose that physicians should not diagnose somatoform disorders. Since autoimmune encephalopathy patients often possess so–called psychogenic signs, it is possible that such signs might be generated by autoimmune encephalopathy instead of somatoform disorders. In conclusion, we propose that give–way weakness and anatomically unexplainable pain/abnormal sensation are key symptoms of autoimmune encephalopathy. We hope that many patients with autoimmune encephalopathy will now be identifiable using our new neurological examination and that each patient can be given an exact diagnosis and therefore be administered with the appropriate treatments.
著者
Kiyoshi Mabuchi Kensei Tanaka Daichi Uchijima Rina Sakai
出版者
Japanese Society of Tribologists
雑誌
Tribology Online (ISSN:18812198)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.147-151, 2012-09-30 (Released:2012-09-30)
参考文献数
4
被引用文献数
5 12

We measured the frictional coefficient under banana skin on floor material. Force transducer with six degrees of freedom was set under a flat panel of linoleum. Both frictional force and vertical force were simultaneously measured during a shoe sole was pushed and rubbed by a foot motion on the panel with banana skin. Measured frictional coefficient was about 0.07. This was much lower than the value on common materials and similar one on well lubricated surfaces. By the microscopic observation, it was estimated that polysaccharide follicular gel played the dominant role in lubricating effect of banana skin after the crush and the change to homogeneous sol.
著者
古旗 崚一 所 史隆 根本 隆夫 加納 光樹
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
pp.21-00010, (Released:2021-10-26)
参考文献数
31

チャネルキャットフィッシュによる張網漁獲物の捕食実態を把握するため,2016年6-8月と2017年3-8月に霞ヶ浦で張網により採集した個体の食性を精査した。本種は張網に同時に入網するワカサギ,シラウオ,ウキゴリ,テナガエビを主に食べていた。体長20 cm以上の個体は自然環境下と比べて胃充満度指数が極端に高く,張網内でそれらを摂餌したと考えられた。張網内での漁獲物の被食率はワカサギで74%,シラウオで80%,ウキゴリとテナガエビで30%以上と推定され,張網漁業への甚大な影響が懸念された。