著者
並木 由佳
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

MRL/MpJマウス精巣は減数分裂中期特異的にアポトーシスを引き起こす(msa)。以前の研究において、msaは第一染色体81. 9Cmに位置するExoI遺伝子の変異によるものだということを示した。そこで本研究において、(1) MRLマウス由来のmsaを持つB6の遺伝子背景を持ったコンジェニックマウス(Cg1)をさくせいした。また、(2) Cg1およびB6マウスの精巣(6週齢)からRNAを抽出し、マイクロアレイを行うことよりmRNAの発現を比較することにより、アポトーシスに関与する遺伝子を検出することを試みた。
著者
野口 隆子
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度においては現職保育者及び実習生に対する調査研究をおこなった。まず第1に、保育者養成大学において初めて保育の場での観察実習をおこなった実習生80名を対象としたグループディスカッションを実施し、各グループのディスカッションの内容、実習経験と対話による学びについて検討をおこなった。第2に、保育の場で長期的な実習を経験した実習生13名及び幼稚園に勤務する現職保育者9名に対し、ビデオを用いた面接調査をおこなった。そして第3に、現場での学びがどのようにしておこるのか、そして実習指導について、保育者・実習生に対するインタビュー調査をおこなった。平成18年度・19年度には、これらの調査で得られたデータを分析し、国内外の学会において研究発表をおこなった。こうした面接調査・インタビュー調査は、保育における実践知の特徴を明らかにする上で重要であり、実習の経験や保育経験によって促される保育者の専門的発達の過程、メンターの役割やメンタリングの内容に関する基礎的知識を提供しうると考えられ、この点に意義があると考えられる。また、これらの調査から得られた知見をもとに、学び手が期待するメンター役割及びメンタリングを明らかにするための質問紙を作成した。この質問紙を用い、保育者養成大学で様々な実習を経験をした学生約120名を対象とした調査をおこなった。様々な園の文化によってメンター役割やメンタリング内容が異なっているが、その中で共通の要因が明らかとなった。メンタリングの場や内容、そして誰がメンターになるか、どのような指導をおこなうか、各々園が持つ文化があり、職場の制約も存在している。保育の場で実際に可能な指導とともに、成長を促すために必要となるメンタリングのタイプが示唆された。
著者
ベッカー カール 谷田 憲俊 得丸 定子 岩田 文昭 山崎 浩司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

目的意識や前向きな姿勢、倫理観などを高める教育を研究した。対象は教室の生徒や学生をはじめ、家庭内の親子、病院の新看護師等を含んだ。方法は、例えば講義やグループワーク、文学作品やアニメ、さらにはイメージトレーニングや瞑想法まで利用した。それらの影響は、主観的感想のみならず、唾液中の活性アミラーゼでも測ってみた。分析は今後も続くが、講演や書籍出版で詳細な成果を還元する計画である。
著者
高野 光則
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

アクチンフィラメントに沿ったミオシン分子の1方向的な滑り運動は,ミオシンとアクチンフィラメントとの間の相互作用エネルギー地形の特徴によって説明されることが示された(名古屋大・寺田,笹井氏との共同研究)。エネルギー地形はフィラメントに沿って非対称的であり,さらに,大局的にはファネル状になっていることがわかった。アクトミオシンの分子モーターとしての機能それ自体とカップルした,いわゆる"機能ファネル"がエネルギー地形に形成されているようである。また,分子間相互作用に関与すると推測されている一群のアミノ酸について置換の影響を調べたところ,過去のin vitro motility assayの実験結果と符合した。アクトミオシンの分子間相互作用の詳細に探りを入れるため,水分子をexplicitに取り入れたアクチン,ミオシンの全原子MD計算も本格的に開始した。まず,アクチン,ミオシンそれぞれ単体のアロステリーに注目した。現在のところ,結晶構造で示唆されているようなヌクレオチド結合状態の変化にともなう顕著な立体構造変化はみられない。また,アクチンの重合・脱重合過程の分子機構の解明にも取り組んだ。フィラメント構造の安定性には分子間の2種類の静電相互作用,および分子間の接触面の柔らかさが重要であることが分かった。関連研究として,プリオンの重合・脱重合過程についてMD計算による研究を行い,プリオンの脱重合過程のシミュレーション結果をもとに,プリオン重合の新たなメカニズムを議論した(岐阜大・中村,桑田氏との共同研究)。またアクトミオシンの滑り運動機構の研究成果をふまえ,キネシンー微小管系におけるキネシンの1方向的な滑り運動の計算機実験と理論解析を行った。
著者
和田 友孝 岡田 博美 六浦 光一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、(1)ノンストップ位置推定、(2)3次元位置推定、(3)モバイルロボットの自己位置推定、の3課題を解決する手法を検討し、計算機シミュレーションおよび実験によりその有効性を明らかにすることができた。さらに、モバイルロボットの自己位置推定を応用した自律移動方法の検討も行った。その結果、目的地までモバイルロボットを自律的に移動させることができることを確かめた。本研究の成果により、身体障害者へのナビゲーション、案内ロボットの移動手段などにも応用できると考えられる。
著者
金子 真
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では次の3点を主張した:i)日本語のタチ・ラは英語の複数形と異なり、累加複数 (ex.「学生タチ」=students)だけでなく、結合複数 (ex.「学生タチ」=学生とその他)、similative plural (ex.「今日ラ」=今日ナンカ)、coordinated whole (ex.「トムとジェリータチ」:タチは2匹が事態の中で対称的位置にあることを表す)など多様な用法を持つ。ii)タチ・ラは単複の区別の中和を表し得る。iii)タチ・ラの定性、特定性は、基本用法である結合複数用法において、「主名詞の外延はその他の成員より際立ち度が高い」という語用論的制約が課されることから生じる。
著者
錦 仁 志立 正知 渡邉 麻里子 志立 正知 平林 香織
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

これまで和歌は、中央に住む貴族・僧侶・武士の文学として研究されてきた。また、地誌は地理学や民俗学の資料と見なされてきた。この研究では、地誌の中に大量に記載されている和歌に関する記事を分析した。そして、東北地方の藩主や藩士の和歌に対する思想を明らかにした。新しい観点と方法を導入することによって、これまでの和歌研究の常識をくつがえした。
著者
直江 学美
出版者
金沢星稜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

史料収集では,250点を越える史料を見つけた。弟子たちは,プッチーニなど,当時,存命していたイタリア系作曲家の新曲を歌っていた事を明らかとした。イタリアでは,出生証明書や新聞記事を発見,イタリアでの活動の一端を明らかにできた。ただ,大都市での演奏歴や演奏批評は見つかっておらず,今後も調査する必要がある。サルコリの人間関係に結びつくような固有名詞もみられ,今後の研究に結びつくと考える。本研究によって,これまで明らかになっていなかったサルコリの活動内容を日本,イタリア両国で明らかにし,民間にいながら,西洋声楽を受容する一端を大きく担ったサルコリの活動を明らかにした。
著者
小泉 寛恭
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は摩耗モデルの構築と各光重合条件の設定をおこない、歯ブラシ摩耗を行った際の経時的変化を解明した。摩耗モデル:前装用硬質レジンに対し精密低速切断機を用いてφ10.0×10.0mmの寸法に調製する。メーカー指示によるものを比較対照として、光強度、照射時間を変化させた試料を作製した。光強度をさらに変化させるために、メーカー指示の光照射器のほかに、メタルハライドランプを使用している多目的光重合器を使用した。照射時間は、上下両面から30,60,90,120,180秒間照射を行った。重合後、レジン表層を耐水研磨紙、アルミナ懸濁液とバフの順で研磨し、実験試料とした。歯ブラシ試験:この摩耗モデルに対し歯ブラシ摩耗試験を行った。摩耗試験条件は、歯ブラシとしてナイロン毛のものを使用し、歯磨材として研磨剤の含有したものを選択し、ストローク式摩耗試験機を用いて、荷重条件2.9N、ストローク幅60mmの条件下で10万回まで行う。摩耗面の測定、観察は1万回ごとに走査型レーザー顕微鏡にて行った。さらに歯ブラシ摩耗後の表面粗さの測定として3次元測定器の使用を検討し、さらに臨床においての歯ブラシ摩耗の現状について報告した。
著者
佐道 泰造
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

集積回路(LSI)の省電力化に向け、高性能なトンネル型トランジスタが要求されている。しかし、従来のSiを用いたトンネル型トランジスタでは、オフ電流が低減できるものの、オン電流が小さいとの課題がある。本研究では、トンネル型トランジスタの高性能化を目指し、絶縁膜上のGe結晶薄膜のバンド構造を直接遷移型化するための歪み導入プロセスを創出するとともに、Ge結晶薄膜への高濃度ドーピング技術を開発した。これにより、LSIプロセスとの整合性が良好で、高いオン電流を有する高性能なトンネル型トランジスタの基盤技術を開発した。
著者
上原 明 塩谷 孝夫 上原 清子
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は、ヒト心室頻拍患者の心筋リアノジン受容体の点変異体K4750QをIn vitro再構成し、変異体の単一チャネル電流特性とCa2+動態を検討した。その結果、細胞質側Ca2+による活性化、細胞質側Ca2+による不活性化、小胞体内腔側Ca2+による活性化の3つから成るRyR2のCa2+感受性機構群は、全てCa2+リーク能が劇的に高まる方向に変化していた。これは、3つのCa2+リガンド結合部位群からのCa2+結合に伴う構造変化の情報がK4750を含む箇所で収斂される部位に変異が入っていることで説明される。変異RyR2発現細胞では、Ca2+リーク亢進による小胞体内口腔のCa2+枯渇も確認された。
著者
絹川 麻理 井上 登紀子
出版者
社会福祉法人敬友会(高齢者住宅研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

地域包括ケアシステムの構築推進を背景に、自助・互助も含めた地域ケアの主体のインタープロフェッショナルエデュケーションの円滑化に向けて、教育コンテンツとして地域生活支援連携のモデル構築を目的とした。オランダ、国内の事例の文献調査、聞き取り調査等から、連携における自助・互助の位置づけや自助・互助も対象とできる教育の重要性を確認した。また、生活支援と介護サービスを提供する在宅生活支援サービスの記録資料から、連携の主体・関係・属性(誰が何について連携したか)のデータ化、関係モデルを用いた図化を行い教育ツールを作成した。同ツールを用いて専門職による疑似検討を行い、その有効性・課題の確認を行った。
著者
高潮 征爾
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は心不全患者における脳由来神経栄養因子(BDNF: Brain-derived neurotrophic factor)を評価し、心臓リハビリテーションによるBDNF値の変化と、抑うつ症状や運動耐容能の改善が相関するか検討した。BDNF値は心不全が重症になると低下し、その低下は予後不良因子であった。心臓リハビリテーションによりBDNF値は有意に上昇するが、運動耐容能やBNPの改善とは相関せず、抑うつ症状の指標と相関が見られた。本研究の結果から、心不全患者ではBDNFは低下しており、心臓リハビリテーションによるBDNF上昇は抑うつ症状改善と関連する可能性が示された。
著者
中野 さやか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当研究では、ナディームと呼ばれる宮廷文人達を取り上げ、彼らの宮廷内部の活動を分析することで、アッバース朝宮廷の当時の在り方を明らかにすることを目的としている。今年度は、ナディーム達が活躍する場となった宮廷の酒宴を巡って、当時の法学者や文筆家達がそれぞれの立場を表明した写本類を、シリア・アラブ共和国のザーヒリーエ図書館にて調査した。ナディームとはもともと「飲み仲間」を意味するアラビア語であり、君主の酒宴に侍った詩人や歌手、道化などを指した。しかしアッバース朝宮廷で酒宴が慣例化すると、有力官僚などのカリフの側近達も酒宴に侍るようになり、「ナディーム」とはカリフの公私に亘る側近を意味するようになった。しかし飲酒はイスラームでは明確に禁止されている宗教的タブーである。その為、法学者や著名な文筆家達は、飲酒の合法化理論を宮廷に提出し、一方で禁酒の勧めを執筆した御用学者も存在した。これらの議論が提出された9世紀は、市井ではハンバル派の影響力増大により、飲酒を忌避する傾向が強まる一方で、宮廷では酒宴が慣例化し密室化していった時期である。宮廷の酒宴を巡る一連の議論は、当時の社会と宮廷との関わりを表す史料であり、平成23年度中に雑誌論文として投稿する予定である。また昨年度から続けてきたナディーム研究について、国内外の学会にて発表した。
著者
水上 優
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ライトの住宅の変容過程を明らかにするために,独自のダイアグラムを用いた第1黄金時代のプレイリー・ハウスの8つの型が指摘され,各型間の同一性と差異の考察によって,プレイリー・ハウスの生成過程の全体像が明らかにされた。また同一型内の個別住宅作品間の同一性と差異が「ヒコックス」型において考察された。次いで両黄金時代に挟まれた期間の住宅のDとKとの繋がりをたどり,第2黄金時代のユーソニアン・ハウスの構成の要となるワークスペースの成立過程が明らかにされた。最終的にプレイリー・ハウスとユーソニアン・ハウスの変容の鍵となる住宅が明らかにされ,建築思想の変容との関わりから作品の変容過程の意味が考察された。
著者
泊 幸秀 塩見 美喜子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

Argonauteファミリータンパク質はすべての小分子RNA作用マシナリーの核心を成す因子であり、恒常的に発現するAGOサブファミリーと生殖細胞特異的なPIWIサブファミリーに分類される。AGOサブファミリータンパク質については、これまで機能未知であった「Nドメイン」が小分子RNA二本鎖の一本鎖化に極めて重要な役割を果たしていることを見いだすなど、作用マシナリーの形成と機能に関する多数の重要な知見を得た。またPIWIサブファミリーについては、piRNAの生合成過程の一部を再現出来るin vitroの実験系の構築に成功しその素過程を初めて生化学的に明らかにするなど、顕著な成果を上げた。
著者
塩見 春彦 井上 俊介 塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

我々はトリプレットリピート病の代表例である脆弱X症候群の分子機序の解析を行っている。脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴う遺伝性の病気である。大部分の脆弱X症候群患者では、X染色体上に存在する遺伝子FMR1の5'非翻訳部位にある(CGG)nリピートが伸長し、その結果FMR1遺伝子産物の発現が転写レベルで抑制される。つまり、この病気はFMR1の機能欠損によるものである。FMR1の発現は健常人では脳神経系で非常に高く、一方、FMR1の発現のない脆弱X症候群患者は脳神経系の形態異常、特にシナプス形成の場であるスパインの形態異常を示す。FMR1蛋白質はRNA結合蛋白質で、しかもリボソームと相互作用していることからある種のmRNAの翻訳を直接叉は間接的に調節していると考えられているが、標的mRNAは今だ同定されていない。したがって、FMR1蛋白質の標的mRNAの同定はFMR1研究の最重要課題となっている。FMR1の標的mRNAを同定するために、我々はFMR1遺伝子の発現の変化に伴いその動態を変化させる蛋白質の同定をプロテオミクス解析法を用いて進めている。この研究を推進していくために、脆弱X症候群患者から樹立した各種細胞株と患者の正常な兄弟から同様に樹立した培養細胞株を用いている。この研究過程において、我々は、FMR1蛋白質はリボソームと相互作用していることから、患者由来と正常細胞におけるリボソーム分画の蛋白質レベルでの比較を行い、顕著な違いがあることを見い出した。この結果はFMR1蛋白質の有無がリボソームに構造的または質的な変化を与えることを示唆している。これは、ひいてはこのリボソームの構造的または質的な違いが翻訳するmRNA種のセレクターとして働いている可能性を示唆する。正常細胞においても、刺激に応じたFMR1蛋白質の修飾がリボソームとの相互作用を変化させ、その結果、リボソームの構造的または質的な変化を誘導することが考えられる。現在、両者で発現量に違いの見られる蛋白質の二次元電気泳動法による分離と質量分析による同定を進めている。さらに網羅的にFMR1蛋白質の有無により動態変化の見られる蛋白質の探索を進め、FMR1蛋白質の『標的遺伝子』を同定し、それらの発現調節機構の解析を通して脆弱X症候群の分子機序を明らかにしていきたい。
著者
塩見 春彦 岡野 栄之 塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

脆弱X蛋白質のショウジョウバエ相同体dFMR1タンパク質がRNAi分子経路と相互作用することを明らかにし、「RNAi分子装置の異常による疾患」という新しい領域を開いた。さらにdFMR1複合体(dFMR1-RNP)の精製を進め、この複合体にはRNAi関連因子AGO2とDmp68のみならず、性行動関連因子Lingererが含まれていることを明らかにした。また、この複合体には約20塩基長の小分子RNAが含まれていることも判明した。クローニングを進めた結果、約20塩基長の小分子RNAは内在性siRNAであると考えられた。そこで、AGO2と相互作用するは内在性siRNAのクローニング法を確立し、それらの配列情報を得た。また、Lingererにはヒト相同体(AD-010とNICE-4)が存在し、これらがヒトFMR1と相互作用することを確認した。一方、Musashi1 (Msi1)に結合する共役蛋白質の濃縮・精製を行い、MALDI-TOF MS法でPoly (A) Binding Protein 1 (PABP1)を同定した。Msi1はPABP1のeIF4G結合部位(PABP1のN末部位)に結合し、eIF4GとPABP1の結合を積極的に解除または弱めていることをin vitroの結合実験で明らかにした。またMsi2単独欠損マウスの個体の解析を行ったところ、背側神経節の発達不全のために脊髄との線維連絡が低下していることが明らかとなった。さらに、Msi2の標的遺伝子の解析を行ったところプライオトロピン(ptn)が同定され、ptnのmRNAの3'非翻訳領域に特異的に結合し、その発現を転写後調節していることが明らかになった。
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴うヒト遺伝病であり、その発症率は新生児の約四千人に一人である。精神遅滞以外には、自閉症的症状や睡眠障害、その他特異な身体的特徴を示す。病理学的には、神経シナプス形成の場であり、脳高次機能に直接関わることが確実視されている樹状突起状スパインの形態異常を示す。1991年、脆弱X症候群の原因遺伝子FMR1が同定された。FMR1の5'非翻訳部位に位置するCGGリピートの異常伸長と過剰なDNAメチル化によるFMR1遺伝子の転写阻害が発症原因であることがわかっている。私は、FMR1というたった一つの遺伝子の発現(機能)欠失が精神遅滞発症へと至る分子機序に興味を持っている。現在は、FMR1側系遺伝子をもたないショウジョウバエをモデル生物として選択し、ショウジョウバエFMR1(dFMR1)の機能解析をすすめている。主に生化学的手法を駆使することによって、交尾制御因子lingererがdFMR1と特異的に結合する事を突き止めた。lingerer欠損変異体ショウジョウバエ交接器には形態変化が観察されないため、神経筋系の異常が交尾接合異常の原因であると考えられる。dFMR1欠損変異体では神経筋結合のシナプス末端に異常が観察される事をふまえ、これら2つの遺伝子の相互関係を遺伝学、生化学両面から解析しつつある。lingererはUBAドメインを有することから、ユビキチン経路において何らか役割を担う因子であると推測された。最近、lingererはRNA結合性タンパク質であり、dFMR1/lingerer複合体はsmall RNA分子を含む事を見出した。現在、このRNA分子の配列決定を進めている。ヒトlingerer相同体もFMR1と結合する事を見出した。今後、ショウジョウバエに限らず、哺乳細胞も扱うことによって、FMR1とlingererの相互関係を解析する。