著者
須田 年生 馬場 理也 石津 綾子 梅本 晃正 坂本 比呂志 田久保 圭誉
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

造血幹細胞ニッチと幹細胞動態の研究、ならびに幹細胞におけるDNA損傷反応に関する研究を展開し、しかるべき成果を得て論文発表すことができた。幹細胞ニッチに関する研究に関しては、Integrin avb3 が周囲の環境に応じて、サイトカインシグナルを増強することを通して、造血幹細胞の維持・分化を制御することを示した(EMBO J, 2017)。造血幹細胞の代謝に関連した研究では、造血幹細胞が分裂する直前に、細胞内カルシウムの上昇を通して、ミトコンドリアの機能が活性化することを見出した。さらに、造血幹細胞分裂直前の細胞内カルシウムが上昇をカルシウムチャネル阻害によって抑制すると、① 造血幹細胞の分裂が遅延すること、② 分裂後の幹細胞性の維持(自己複製分裂)に寄与することを示した。また、in vivo において、造血幹細胞周辺のMyeloid progenitor(lineage-Sca-1-c-kit+)細胞が細胞外アデノシンが造血幹細胞の細胞内カルシウムの上昇やミトコンドリア機能の制御に関与することも確認した。さらに興味深いことに、Myeloid progenitorは、上記の細胞外アデノシンによる造血幹細胞の与える影響を増強していることも見出している(JEM in Revision)。造血幹細胞におけるDNA 損傷反応における研究では、Shelterinと呼ばれるタンパク複合体の構成因子Pot1aが、造血幹細胞のDNA損傷の防止に加えて、活性酸素(ROS)の産生を抑制し、造血幹細胞の機能維持に寄与することを新たに明らかにした(Nat Commun, 2017)。
著者
上山 直美 松尾 博哉 田中 祐子 山下 正 子安 恵子 野島 敬祐 高橋 篤信
出版者
宝塚大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

未就学児の父親の育児参加を促すことを目的とした教育プログラムの実践と,父親が育児知識、育児技術や育児情報を得られ、父親同士の交流を図れるようなインターネット上のウェブメディアの開発を行って運営することの両者を合わせ育児支援サービスシステムとして、その構築をおこなった。具体的な内容として、育児支援サービスシステムの中で、教育プログラムで提供した育児知識をウェブメディアでも配信することで情報の共通性や拡散を行い、また、継続的に育児知識、育児技術、育児情報の提供を行った。今後の研究の課題は、より多くの育児期の父親に対してのウェブメディアの普及である。
著者
齋藤 夏雄
出版者
広島市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度はこれまで行ってきた標数2および3の体上における3次元Calabi-Yau多様体の研究をさらに進め、その構造を完全に解明することを目指した。我々の構成したCalabi-Yau多様体は,標数0への非リフト性や一般ファイバーが特異であるようなファイブレーションが存在することなど,正標数特有の病的な性質を有することが前年度までの研究ですでに明らかになっている。ただし基礎体の標数が2であるとき,2つの準楕円曲面のファイバー積上に生じる複雑な特異点の計算が残されていた。本年度はこれを準楕円曲面のタイプごとに徹底的に調べ,それぞれの場合について特異点の状況を完全に確定させた。この結果,この3年間の研究の中心テーマであったCalabi-Yati多様体の構造が明らかになったので,廣門正行氏・伊藤浩行氏との共著論文として2編にまとめ発表した。一方,上に記した特異点の計算を行う中で,有理二重点の変形空間におけるeauisingularな空間が次元を持っていることも明らかになった。これは標数0の体上では起こり得ないことが証明されており,正標数特有の現象であるといえる。低標数においては有理二重点はもはやディンキン図形から方程式が一意に決定されず,いくつかのタイプに分裂することが知られているが,我々は各タイプに対して局所的な計算を行い,変形空間におけるeiuisingularな空間の次元とその空間を与える式を決定することに成功した。これについては,現在論文を準備中である.なお研究にあたっては,国内外の研究者との議論および情報収集を行うことを目的として,研究集会やセミナーに積極的に参加した。2007年9月には慶應義塾大学で行われた研究集会で研究成果を発表した他,群馬県の玉原で行われたセミナーや城崎シンポジウム,さらに高知大学で行われた研究集会にも参加し,研究者と活発な議論を行った.
著者
杉ノ原 伸夫 尹 宗煥
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

暖かい海水で満たされている南, 北両半球にまたがる海洋が, 南半球の南端域で冷たい水を形成することによって, どのように冷やされるかを調べることにより, 深層循環の基本的力学の理解を図った. 深層循環を水平対流として考えることにより, 形成される冷たい水がそれ自身の力学によってどのように深層湧昇を形成するかを理解しようとするものである. 海面では全海洋一様に暖めた. 太平洋を対象としたモデルであり, 以下のような知見が得られた.1.海洋の冷却は, 形成域から冷水がポテンシャル渦度を保存しつつケルビン波形の密度流となってもたらされることから, 赤道域及び東岸域の深層部から始まる. この東岸域の冷水は, ロスビー波型の密度流として内部領域に極向き流を形成しながら西に進み, 西岸に達して, 北半球には北向きの西岸境界流を形成する. このようにして赤道を横切る境界流が形成され, 効率よく北半球が冷やされるようになる. 北半球の北半分に反時計回りの循環が, 東岸, 北岸に沿って進ケルビン波の公課によって形成される.2.残りの海洋は内部領域及び沿岸での湧昇によって深層からより浅い層へと冷却されていく.3.上記過程において, 冷たい水がまわりの暖かい水と混合することによって温度躍層が深層域まで広がる傾向がある. これにより, 深層にも顕著な鉛直構造が存在するようになり, 求まった水平循環パターンは最深層部のみがストメルのものとなる.4.赤道域の冷え方はそれ以外の海域と異なり, 赤道に沿った東西流に"ZIGGY"構造が見られるように, 鉛直高次モードの運動が卓越する.5.循環の強さは, 等温面に直交する意味での鉛直拡散の効果に大きく存在しており, この効果が大きい程循環が活発になる.
著者
神原 ゆうこ
出版者
北九州市立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究は、政治方針の変更に直面せざるを得ないスロヴァキアのローカルな地域社会の現場における公共性のあり方を明らかにすることを目的としている。欧米型の NGO 活動とそのネットワークは、 1990 年代以降の都市部で発展し、現在のスロヴァキア社会を支えているが、変容をめざす村落の若者のアソシエーション活動とはうまく接合できていない。自由な市民の活動が基盤であるがゆえに、現在の公共的世界のネオリベラルな限界が明らかになった。
著者
歌川 光一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、都市新中間層生成期の「娘」教育における遊芸の位置づけ及びその機能を明らかにすることを目的とする。考察の対象としては、ピアノ、ヴァイオリンといったモダン文化との比較が可能な遊芸として、箏、三味線、琵琶といった楽器を据えた。本年度の成果は、以下の通りである。第一に、1900~1920年代の女性の職業準備としての遊芸習得について記述のある婦人・少女雑誌記事、職業案内書の内容を整理した。その結果、高収入がゆえに虚栄的なイメージもつきまとった洋楽の女流プロよりも、主婦役割を逸脱しない程度に収入を稼げる遊芸師匠の方が、良妻賢母像に親和的な職業として扱われており、その結果、「娘」期からの和楽器習得が、より修養的な役割を担わされたことが示唆された(「明治後期~大正期女子職業論における遊芸習得の位置-楽器習得に着目して-」『文化経済学』9_2、2012年ほか)第二に、婦人・少女雑誌付録の絵双六に関する所蔵状況を整理し、内容の分類を試みた。検討の結果、「娘」の将来像が良妻賢母か職業婦人かによって、また、同じ未婚女性であっても、「少女」と「令嬢」という理想像の違いによって、習得が期待される楽器の和洋が異なることが明らかとなった(「20世紀初頭の女性雑誌付録絵双六にみる『楽器定義のジェンダー化』過程-雑誌の対象年齢層に着目して-」女性と音楽研究フォーラム12月例会、於、中野区勤労福祉会館、2012年ほか)。第三に、本研究の背景となる、女性のアマチュア芸術文化活動のネットワーク化や、それに対する社会的まなざし、階層性について考察を重ねた(「女性芥川賞作家としての重兼芳子-カルチャーセンター・主婦・高女世代-」『「女性文化人」の社会的形成に関する歴史社会学的研究(稲垣恭子研究代表、平成22年度~平成24年度科学研究曹補助金(基礎研究B)研究成果報告書)』2013年ほか)。
著者
宮本 幸一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

超弦理論に関連する宇宙モデルの観測的シグナルについて研究を行った。主な内容は以下の3点である。1:将来の観測による宇宙ひものパラメータの決定精度の推定宇宙ひもとは、宇宙論的な長さを持つ、莫大なエネルギーが凝縮した1次元的な領域である。超弦理論に基づく宇宙モデルのいくつかは、その存在を予言する。私は、将来の重力波直接検出実験、宇宙背景放射(CMB)の観測、パルサータイミング実験により、宇宙ひもを特徴付けるパラメータがどの程度の精度で決定されるかを調べた。そして、異なる実験の組み合わせによりパラメータの決定精度を改善できること、重力波直接検出実験が特に強力な手段をなることを明らかにした。2:超伝導宇宙ひもに対する観測的制限宇宙ひもの存在を予言する理論の一部においては、宇宙ひもは超伝導状態になる。このような超伝導宇宙ひもは、強力な電磁波を放出し、特異なシグナルをもたらす。私は、CMB、電波、X線、ガンマ線の観測や、ビックバン元素合成への影響を考慮して、超伝導宇宙ひもへの制限を導出し、また、将来の実験において超伝導宇宙ひもが発見される可能性を調べた。その結果、CMB非等方性の観測から最も厳しい制限が与えられること、将来の電波バーストの観測が超伝導宇宙ひもを発見する上で強力であることを明らかにした。3:初期宇宙の磁場が作るCMBエネルギースペクトルの歪みの非等方性銀河や銀河団の中の磁場の起源を説明するため、宇宙初期において磁場が作られる宇宙モデルが活発に研究されている。その中には、超弦理論に基づくモデルもある。私は、初期宇宙の磁場のシグナルとして、CMBのエネルギースペクトルの歪みに着目した。そのような歪みの空間的に一様な成分に関する先行研究を拡張し、ランダムな磁場によって作られる非一様な歪みを計算した。その結果、初期宇宙に強い磁場があれば、将来の衛星により歪みの非等方性が検出されるとわかった。
著者
澤田 充
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では戦前の銀行のデータを用いて、銀行間ネットワークの構造を明らかにし、それがどのようなインプリケーションを持つかについて実証的な観点から検証を行なった。実証分析の結果、戦前期の約半分の銀行が役員兼任を通じて他の銀行とのネットワークを構築しており、銀行間ネットワーク持つ銀行は持たない銀行と比べ、生存確率が高いことが明らかになった。また、銀行間ネットワークの質をネットワーク先の銀行の平均的なパフォーマンスで定義し、銀行間ネットワークの構造としてネットワーク統計量を用いて分析を行なった結果、ネットワークの質は銀行の生存確率に有意な影響を与えているのに対し、ネットワークの構造については銀行の生存確率に強い影響を与えていないことが実証的に確認された。さらに、昭和金融恐慌期のデータを用い、銀行間ネットワークを通じて預金の引き出しが伝播するかについて分析を行なった結果、預金の伝染効果について強い確証は得られなかった。
著者
京免 徹雄
出版者
郡山女子大学短期大学部
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、フランスの進路指導における多機関連携ネットワークの全体像を描き出し、教育学的観点から進路を公的に保障する仕組みを解明することである。パリおよびオルレアンで実施した実地調査の結果、2009年にサービスの範囲・対象者・内容の異なる諸機関の関係が、社会的ステータス(横軸)と社会的機能(縦軸)に従って整理されていることが明らかになった。さらに、2011年に発表された認証評価基準によって、そのネットワークの質保証が行われている。
著者
井原 今朝男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

中世禁裏財政は幕府財政からの補助金で幕府の政所によって運営されていたという通説を批判した。新出史料の「即位下行帳」の分析から、禁裏の賦課した諸国段銭や諸国所課を幕府が徴収して共同財政の惣用下行帳で、公家の伝奏切符と幕府方の惣奉行人らの下書との複合文書で財政支出システムを運営していたことをあきらかにした。業者は必要経費を立て替え払いし、請求書を禁裏の公家と幕府奉行人に示して手形を発給してもらい公方御倉から支払を受けるという債務を前提にした請求主義の決算システムになっていたことをあきらかにした。その研究成果は『室町廷臣社会論』(塙書房2014)として公刊した。
著者
殿﨑 薫
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

種間交雑では,しばしば胚乳発生異常など種子形成時の生殖的隔離が障害となる.ハクサイやカブ等を含むBrassica rapaとダイコンを含むRaphsnus sativusの種間交雑では,胚乳発生の異常が生じる.しかしながら,B. rapa品種の「聖護院カブ」を種子親として用い,R. sativusの花粉を交雑した場合には,例外的に低頻度ながらも種間の生殖的隔離が打破される.これまでに,雑種形成能力を有する「聖護院カブ」と雑種形成能力のない「チーフハクサイ」を用いた遺伝解析から、B. rapaの雑種形成能に関わる3つのQTLを同定し,その内、2つのQTL領域内に座乗するBrFIE及びBrMSI1の2つの遺伝子において,機能に影響を及ぼすと推定されるフレームシフト変異を見出している.BrFIEおよびBrMSI1は,ポリコーム複合体構成因子をコードしている.ポリコーム複合体は、MADS-box転写因子であるPHE1やAGL62の発現を抑制することで正常な胚乳発生を制御している.そこで,B. rapaのポリコーム複合体標的遺伝子と推定されるBrPHE1及びBrAGL62について,自殖種子及びR. sativusとの雑種種子での発現解析を行った.自殖・雑種種子に関わらず「聖護院カブ」由来のゲノムを持つ場合,標的遺伝子の発現レベルは「チーフハクサイ」のそれらより低い傾向にあった.このことから「聖護院カブ」では,恒常的にポリコーム複合体による標的遺伝子の制御が強く,それによって種間交雑でも胚乳発生に関わる遺伝子を正常に制御することができているため,生殖的隔離を打破している可能性が考えられた.ナチュラルバリエーションの中から,生殖的隔離を引き起こす因子としてポリコーム複合体の関与を示したのは初めての結果である.ポリコーム複合体の種内変異の重要性を示した例はこれまでになく,本研究成果から種間交雑で見られる生殖的隔離の分子機構に関与する重要な知見を得ることができた.
著者
高安 健将
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

議院内閣制は、議会と政府を同じ政治勢力が掌握するシステムである。それゆえに、その政治勢力には大きな権力が委ねられることになる。このような強い権力の出現が許容されてきたのは、政治エリートへの信頼と政権党による民意の集約が前提とされたからである。しかし、近年、日英両国でこうした前提が成立しなくなっている。本研究は、議院内閣制を成立させる前提条件が変化する中で、それとは必ずしも一貫性を持たない、第二院や最高裁判所の活性化、分権化や権力移譲といった制度とその運用に注目し、議院内閣制に対する影響を考察した。「マディソン主義」は近年の日英両国における政治の動きを捉えようとして導入された視座である。
著者
佐藤 正彦
出版者
九州産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.大分市古国府に子孫が在住する旧府内藩、大工棟梁利光平十郎が明治17年に建立した八幡社神殿と同13年に建立した柞原八幡宮仮殿から平十郎の作風を検討して、平成18年度日本建築学会大会にて、「大工棟梁利光平十郎の作品と作風」として次のような結果を発表した。1)向拝組物が三斗枠肘木である。2)向拝中備に斗なし墓股を用いる。3)身舎については、仮殿に組物や中備がないのは神殿と違って仮殿(お旅所)の建物の性格の相違によるものとした。2.江戸時代小城在住の大工丹宗常十が天保10年に建立した岡本八幡神社宮殿と嘉永5年に建立した星厳寺楼門から常十の作風を検討し「大工丹宗常十の作品と作風」として次のような結果を日本建築学会九州支部大会で発表した。1)組物が大斗肘木である。2)柱を切目長押、内法長押、頭貫で固める。星厳寺楼門は上層に地長押が付く。本稿では解体され現存しない牛津町乙宮社拝殿が丹宗常十の作品であったことにも触れた。3.大分市古国府の大工利光家の文書は、解読を終了し、一部は学内研究報告に発表し、研究成果報告書に全文を掲載した。その結果、利光家は江戸から大正まで、大工職につき、技術は京都から得ていたと推定した。また、組織として、利光が大工棟梁をつとめると、引頭が矢野、仕手を利光がつとめ、矢野が大工棟梁をつとめると引頭が利光、仕手が矢野又は利光であることを指摘した。4.長府博物館所蔵の大工河村家文書の解読を終了し学内研究報告に発表した。
著者
竹内 弥彦
出版者
千葉県立保健医療大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、高齢者における脊柱形態および椎体間可動域と補償的ステップ反応時の身体動揺特性、下肢関節モーメントとの関係を明らかにすることである。本研究の結果から、高齢者の後方ステップ着地時に生じる身体重心動揺の制御には、足関節底屈モーメントが関与していることが確認された。さらに、椎体間可動域と身体重心動揺との相関分析から、ステップ着地時における身体重心の動揺制御には第11・12胸椎間および第5腰椎・第1仙椎間の伸展可動域が重要であることが示唆された。
著者
風間 北斗 遠藤 啓太 塩崎 博史 BADEL Laurent 髙木 佳子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ヒトの活動を支える記憶は、細胞の活動や形態の変化として脳内に刻み込まれると考えられている。しかしながら、記憶のメカニズムに関しては未知な部分が多い。本研究は、ショウジョウバエ成虫の匂い記憶をモデルとし、細胞・シナプス・回路レベルで記憶のメカニズムを解明することを目指した。その結果、単一動物を対象にして匂い記憶を形成させる手法を確立すること、記憶に関わる複数の神経細胞群から同時に活動を記録すること、匂い記憶に必要な脳領域に存在する細胞の電気的性質やシナプスの性質を調べることに成功した。
著者
松尾 秀邦 高橋 治郎 鹿島 愛彦
出版者
愛媛大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究によって新知見とすべき事項は下記の五項目である.1.岩湧寺植物群(Iwakiji Flora):伊藤大一(1986)により発見された. この化石植物群は白亜紀後期の植物群としては珍しい落葉樹林相を示す.2.Archaeojostera属について:郡場・三木(1931, 1958)によって新属とされた被子植物化石である. 一部の人々によって生痕化石説が唱えられているが, この化石の大半は植物化石である. しかし, 一部には生痕化石の疑いの残る部分もあって今後の研究が望まれる化石の一つである.3.鮮新世火成活動による変質:この現象は和泉砂岩層群の分布域の西端部で観察される. 鮮新世火成活動(主に含黒雲母安土岩, 石英安山岩など)によって, この地層の基部に近かい礫岩及び砂岩層が侵され, その硬度を増し, 割栗石その他の石材として採石されている.4.和泉砂岩層群の西端域について:この層群の地層の分布の西端部は愛媛県長浜町青島とされているが, その分布は対岸の大分県臼杵市近効大野川流域まで拡がる可能性がある. 化石こそ少ないが, 岩相の酷似が極め手となる. 今後の研究が望まれる.5.和泉砂岩層群の堆積構造について:これらの地層が堆積した後, 中央構造線を形成した地殻運動によって, 東西の曳きずりが働き, 南北性断層が発達している. これらの断層に区切られた6区の地域では, それぞれ東に落ちる向斜構造が認められる. この構造については, 和泉山脈西端部において松尾(1949)が始めて提唱し, それ以来幾多の研究者によって解明が試みられているが, 未だに説明できない構造の一つである.
著者
佐藤 健一 神野 正彦 森 洋二郎 長谷川 浩 菊池 和朗
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

フレキシブル大容量光ネットワークアーキテクチャに関して,これまでに開発したグループドルーティング並びにバーチャルダイレクトルーティングの総括的な評価を行い,その効果の詳細を明らかにした.その結果を基に,メトローコアをシームレスに効率的に転送できる新しい枠組みを開発した.多次元自由度を駆使したフレキシブルネットワークに関しては,新たに考案したWDM/SDM波長選択スイッチの試作機を用いて、LCoS分割によるスイッチ集積化とジョイントスイッチングによる一括スイッチングの基本動作を確認した。また,ジョイントスイッチによるスーパーチャンネル内クロストート発生機構を明らかにし、実験により定量評価した。さらにクライアントIF速度の増加トレンドと空間スイッチの低コスト性・低損失性に着目した階層化WDM/SDMネットワーク並びに増設性と信頼性に優れた空間クロスコネクトアーキテクチャを新たに考案した。高次多値変調方式および超高密度波長分割多重技術を導入したフレキシブルコヒーレント光伝送システムに関しては,これを実現するにためには,位相および周波数が極めて安定なレーザが必要となり,それに伴い,レーザの位相および周波数特性を高精度に測定・解析する技術が不可欠である.今年度は,これを実現する新たなレーザ特性解析法を提案し,その有効性を計算機シミュレーションおよび実験により示した.本研究成果に関して,レーザ分野において最高峰の学会であるCLEO-Europeで口頭発表を行った.
著者
西尾 太一 西岡 昭博 香田 智則 宮田 剣
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

経皮薬剤の分野においては、適量を持続的に一定期間投与できる製品が求められている。この要請に対し、本研究課題ではポリエチレン(PE)フィルム内に薬剤を供給するセルロース粉体を分散させた薬剤経皮貼付フィルムを創成するための研究を実施した。PEフィルム表面に供給される薬剤の濃度を表面拡散量と定義し、その影響をフィルム表面における結露実験と表面反射光の赤外吸収スペクトルで評価した。本研究課題を実施した結果、吸収母材となるセルロースの結晶化度を調整することで薬剤供給の速度が制御できることが分かった。また、PEの結晶化度を制御することで表面拡散量の定常化(0次放出)が実現できることが確認できた。
著者
木暮 照正
出版者
福島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

人間が外界を理解する上で,視覚情報を一時的に保持し,後々の判断に利用できることは,日常生活を恙無く過ごすためにも重要な基本的認知能力の一つである.本研究の目的は,この視覚短期記憶機構の加齢変容を解明することである.平成16年度(最終年度)の到達点は,前年度までの研究成果を踏まえて,1)20歳台から高齢期に至るまでの各年齢層を対象とし,物体性及び空間性の視覚短期記憶機構の加齢変容について実験心理学的に検討すること,及び2)加齢シミュレーション研究も併用し,機構の解明にアプローチすることの2点である.(加齢シミュレーション研究とは,健常若年者を実験対象とし,課題難易度を調節して仮想的に高齢群と同等のレベルまで認知成績を低下させ,背景にある認知メカニズムを精査する手法である.)まず1)に関して,物体性視覚短期記憶については,記銘する特徴によって加齢変容が異なる傾向が見られた.色特徴のみを短期保持する場合に加齢変容(成績低下)が著しく,線分の方位のみを短期保持する場合には加齢変容は認められなかった.一方,空間性視覚短期記憶(物体間の空間関係情報の短期保持)については,顕著な加齢変容は認められなかった.2)に関しては,若年者群を対象に物体性短期記憶における空間成分の手がかりを操作する実験を実施した.物体の特徴(色や方位)を短期保持する場合に,事前にどの位置に刺激が出てくるのか,あるいは,どの位置に刺激が出ていたのかを指示することで記憶成績が変化するかどうかを検証した.その結果,空間位置の事前予告では成績は向上せず,事後の指示ではむしろ成績を低下させるものの,事前予告は事後指示の負の効果を相殺することが分かった.以上の知見を総合的に考察すると,視覚短期記憶における空間成分(刺激の布置や刺激間の空間的関係性など)が短期保持の成績を左右する重要な要因であることが示唆されたといえる.
著者
副島 弘文
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では炎症において中心的役割を果たすT細胞に注目し、虚血性心疾患患者における活性化について調べた。活性化されたT helper cellとしてTh1 cellとTh2 cellがある。Th1 cellが産生するinterferon-gammaとTh2 cellが産生するinterleukin-4といった細胞内サイトカインを染色することでT helper cellがTh1 cellまたはTh2 cellのいずれへ活性化しているのかがわかる。虚血性心疾患患者から採血を行い、そのhelper T cell内のinterferon-gammaとinterleukin-4を染色した。interferon-gammaとinterleukin-4の細胞内発現の程度を不安定狭心症患者、冠攣縮性狭心症患者、安定狭心症患者および健常者で比較した。その結果、不安定狭心症と冠攣縮性狭心症の患者のT細胞では健常者に比べinterleukin-4の産生亢進はなくinterferon-gammaの産生亢進が認められ、これらの患者ではT細胞のTh1 cellへの活性化が生じていることが分かった(Circulation 2003)。また、血清中のTh1系の蛋白質としてCD 40 ligandおよびinterleukin-18について調べた結果、不安定狭心症や冠攣縮性狭心症患者では血中蛋白質もTh1系の蛋白質が健常人に比べ多くなる傾向が認められた。また、膠原病患者ではリュウマチ性関節炎のようにTh1に活性化されているものとsystemic lupus erythematosusのようにTh2に活性化されているものとがあり注目して同様の検討をしてみた。その結果、膠原病患者で虚血性心疾患を有するものと有さないものとで比べてみると、虚血性心疾患を有する患者ではTh1へ活性化されやすく、虚血性心疾患のうちでは冠攣縮性狭心症患者が多いことが分かった(Circulation Journal 2004 in press)。さらに、経皮的冠動脈インターベンションにより患者のhelper T cellはTh1 cellへ活性化してしまうこと、事前にstatinを投与することでその活性化を抑制できることも分かった(American Joural of Cardiology 2004 in press)。