- 著者
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木村 ひなた
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2021, 2021
<p>世界有数の地震国である日本は,1995年兵庫県南部地震や,2016年の熊本地震のような内陸地殻内地震により構造物に多大な被害を受けている.特に,兵庫県南部地震と熊本地震では,地表に地表地震断層が出現して,その直上ではずれによる被害も確認された.地震動に対する防災の備えのためには,将来どのような地震および地震動が発生するのか,特に,構造物の破壊に効くとされる強震動の予測が重要である.</p><p> 兵庫県南部地震以降,地震調査研究推進本部は,強震動予測手法(以下,「レシピ」)を構築・公開している.その「レシピ」では,活断層の長さと経験式などから地下の震源断層を表す巨視的パラメータを決定して,次に微視的・その他の2種類のパラメータを設定し,特性化震源モデルを作成する.その際,震源断層は2km以深のみに設定されるこれは,震源動力学モデルの研究から,地表付近の数kmに及ぶ堆積岩層において応力降下がほとんど発生しないと考えるためである.しかし,この考え方に対して,地表付近の断層すべりも震源断層のすべりの一端であり,その効果が断層近傍で記録された地震波形に寄与しているとすれば,地表から深さ2〜3kmの浅部にすべりを与えない特性化震源モデルは,地震動を過小評価する恐れがあるという考え方もある.また,熊本地震で観察された地表地震断層の周囲約100mの家屋の顕著な倒壊については,深さ2〜3kmの浅部領域での地震波生成を考慮する必要があるとの議論も行われている.地震本部は,熊本地震で地震計に観測された永久変位の再現に加えて,この過小評価を回避するために,従来の特性化震源モデルの背景領域を地表まで延伸する検討が行っているが,観測波形と計算結果との整合性は不十分である.</p><p> 大熊(2019,岡山大学卒業論文)は,兵庫県南部地震を契機とした地震観測網の充実により日本国内で初めて地震計に記録された熊本地震の永久変位を研究対象とし,活断層から発生する地震の強震動予測の観点から,「レシピ」の特性化震源モデルを基本としつつ,野外での変動地形調査により活断層情報として得られる地表地震断層の変位量データを地下最浅部に浅部すべりとして加えるモデルを考案した.これを特性化震源モデルとして,久田(2016)の波数積分法を用いて計算することで,地震危険度評価を高度化することの検討・検証を行なった。その結果,永久変位の予測の向上が確認でき,変動地形情報を断層モデルに組み込む重要性を示した.</p><p> しかし、大熊(2019)の改良特性化震源モデルは,Asano and Iwata(2016)や地震本部の特性化震源モデルの中で,断層面上端以浅の地下深さ2kmに変動地形データ1行を加えたものであり、地表地震断層を観察・計測した変動地形の成果の解像度には達していない.さらに,このことは,地震波形が観測された地点と断層面との最短距離の再現にも影響する問題であった.熊本地震で,例えば熊原ほか(2016)によって観測された地表地震断層の観測点間隔はおよそ平均100mオーダーであり,先に述べた地表地震断層の周囲約100mの家屋の顕著な倒壊を議論するためにも,地表地震断層の詳細分布を考慮した熊本地震の変位波形計算が望まれていた.</p><p> 本研究は、地表地震断層の詳細分布を考慮した断層モデルを作成し変位波形を計算することで,永久変位の予測のさらなる向上を目指す.(1)Asano and Iwata (2016)の断層モデルに60度の傾斜を持たせ,断層位置を変更したモデル,(2) (1)のモデルに100mの解像度の地表地震断層の変位量データを浅部すべりとして加えたモデル,(3)Asano and Iwata (2016,AGU)を震源断層におき,インバージョン 結果を100mの解像度へ補間しすべり量として与えたモデル(4)(3)のモデルを震源断層におき, 100mの解像度の地表地震断層の変位量データを浅部すべりとして加えたモデル,以上4つのモデルを考案した.計算のため,それぞれ100m解像度の点群データとして整備し,防災科学技術研究所が公開している3次元差分法を用いたGMSで計算を行い,変位波形を計算し,実際の観測記録と比較した.なお,PCの計算能力の制約上本研究では予察的な計算である.</p><p> 益城町宮園において,地表地震断層の変位量データを浅部すべりとして加えたモデル(1),(4)ともに水平成分の過小評価の割合の減少を確認することができた.しかし,(1)の鉛直成分では過大評価,(4)の鉛直成分では過小評価となり,変動地形情報からの地表のすべり量と地下のすべり量の接合条件で異なる傾向を得た.今後の課題として,現実的な予測のために,複数のモデル・パラメータの組み合わせからばらつきを評価する手法が必要だと考える.</p>