著者
高橋 厚 別所 隆 大西 英胤 篠原 央 近藤 喬 栗原 博明 小野口 勝久 関 泰 飯尾 宏 古川 俊治 飛田 浩輔 向井 美和子
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.592-597, 1991-03-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
36

最近われわれは急性の経過をとった腸間膜脂肪織炎の1例を経験した.症例は23歳女性で腹痛と発熱を主訴に来院した.腹部CTにて腸間膜の炎症性疾患が疑われたが,症状増悪するために開腹手術が行われた.開腹所見は小腸間膜の炎症性肥厚を認め肉眼的に腸間膜脂肪織炎と診断した.腸間膜の生検より組織学的にも腸間膜脂肪織炎と診断された.この症例は抗生剤と非ステロイド性消炎鎮痛剤投与のみで症状軽快した.腸間膜脂肪織炎は腸間膜の非特異性炎症性疾患であり多くは慢性に経過する.検索し得た本邦報告例35例を集計し文献的考察を加え報告する.
著者
南 昌孝 森原 徹 大西 興洋 加太 佑吉 祐成 毅 古川 龍平 木田 圭重 琴浦 義浩 藤原 浩芳 久保 俊一
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.541-544, 2017 (Released:2017-09-20)
参考文献数
8

胸郭出口症候群(TOS)は,上肢のしびれや放散痛が生じる疾患である.投球時に同様の症状を訴える野球選手をしばしば経験するが,その疫学や病態は明らかでない.高校野球検診でTOSと診断された選手の疫学と病態を検討した.検診に参加した選手のうち,投球時に上肢のしびれや放散痛を自覚しWright testが陽性の選手をTOSの疑いありとした.そのうち病院を受診した選手の病態を検討した.TOSを疑われた選手は305名中13名であり,5名が病院を受診した.5名の身体所見は,肩甲骨の運動不良3例,胸椎のアライメント不良3例であった.すべての選手に運動療法を行い,2ヵ月以内に症状は消失した.野球選手のTOSは,筋の過緊張やリリース時の牽引などが原因とされている.今回経験した5例では筋の過緊張や肩甲骨下方偏位に加え,胸椎のアライメント異常が影響していると考えた.それらを改善することで症状は消失した.
著者
久保田 江里 櫻井 梓 高橋 優宏 古舘 佐起子 品川 潤 岩崎 聡
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.531-537, 2018-12-28 (Released:2019-01-17)
参考文献数
18

要旨: 2017年, 成人人工内耳の国内適応基準が改訂され, 1) 平均聴力レベル 90dB 以上の重度感音難聴, および 2) 平均聴力レベル 70dB 以上 90dB 未満かつ補聴器装用下の最高語音明瞭度が50%以下の高度感音難聴, と新たに定められた。本研究では, 新適応基準の妥当性について, 平均聴力レベルと裸耳の最高語音明瞭度, および平均聴力レベルと補聴器・人工内耳装用下の最高語音明瞭度との関係から検討した。 対象は成人人工内耳装用者37名と, 補聴器装用者77名である。その結果, 平均聴力レベルと裸耳語音明瞭度との間に負の相関がみられ, 平均聴力レベル 70dBHL に値する語音明瞭度は45%であった。また, 補聴器および人工内耳装用下での比較では, 裸耳の平均聴力レベル 70dBHL において両群の語音明瞭度は同等となりその値は50%であった。 医療技術・機器の進歩による聴力温存と, 聴取成績の向上により, 人工内耳適応基準は今後も定期的に検証する必要があると思われた。
著者
古賀 徹
出版者
日本比較教育学会
雑誌
比較教育学研究 (ISSN:09166785)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.17, pp.43-56, 1991-07-01 (Released:2010-08-06)
参考文献数
31
被引用文献数
1
著者
吉井 めぐみ 清水 邦夫 古津 年章
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.75-87, 2002-07-31
参考文献数
16

熱帯降雨観測衛星(TRMM)では,緯度約±37゜の範囲内において,緯経度5゜×5゜領域内の1ヵ月平均降雨強度が最終的なプロダクトとして求められる.TRMM搭載降雨レーダなどの降水レーダで直接に測定される量はZ因子(単位体積あたりの後方散乱断面積に比例する量で,一般に使われるレーダ周波数では雨滴粒径分布の6次モーメントに等しくなる)である.一方,気候や防災などの分野で重要な量は降雨循環であり,何らかの方法でZから降雨強度を推定する必要がある.降雨強度を算出するさいに,いくつかの仮定の下で,レーダ反射因子Z(mm<SUP>6</SUP>/m<SUP>3</SUP>) と降雨強度R (mm/h) との間にべき乗関係(Z-R関係) Z=AR<SUP>B</SUP> (A>0) の成り立つことが知られている.ここで,A と Bは定数である.<BR>本稿はZ-R関係のパラメータ推定を問題とした.気象レーダ観測で得られるレーダ反射因子Zと雨量計によって地上で計測される降雨強度Rとの関係を与えるパラメータの値を知ることは,TRMMにおいてよりよい降雨マップを得るための研究として重要である.Z-R関係の決定のために,これまで,回帰もしくは逆回帰法,分布関数マッチング法,モーメント分布関数比マッチング法,ローレンツ曲線を利用する方法が知られている.本稿では,logZ と logRについて正規線形構造モデルを仮定し,識別可能な場合としてlogRの分散を既知とした場合を採用した.TRMMが目標とする熱帯から中緯度にかけての降雨のうち,熱帯降雨に関しては対数正規分布の降雨強度分布への適合の良さが観察されていることと,降雨の種類や観測領域等によって適切に層別を行えば,対数正規分布の型パラメータはほぼ一定値をとる傾向があるという経験的事実が知られていることによる.ランダムな欠測が起こるかも知れない状況を想定したデータ構造の下に,モデルパラメータの最尤推定を論じた.
著者
古賀 麻奈美 長谷 麻由 芳野 千尋 籾井 佑都 松本 彬 田鍋 拓也 有吉 雄司 山本 浩由 甲斐 悟 高橋 精一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.H4P3260-H4P3260, 2010

【目的】<BR>大脳皮質でストレスと認知された刺激は自律神経系,内分泌系,免疫系を介して全身に伝達され,身体的,心理的な反応を引き起こし,精神疾患以外にも生活習慣病など様々な疾患の引き金になると考えられている.そこでリラクセーションとして用いられている深呼吸のストレス緩和効果を明らかにする.<BR><BR>【方法】<BR>健常成人女性15名(平均21.8±0.7歳)を対象とした. ストレス後の深呼吸の効果をみるために,深呼吸介入と非介入の条件で測定日を2日以上離してランダムに測定した.対象者には椅子坐位での5分間の安静後にストレス負荷として内田クレペリン検査を15分間実施し,その後,深呼吸群は5分間の深呼吸行い,コントロール群は5分間の安静を行った.深呼吸はストップウォッチを見せながら呼息6秒・吸息4秒の条件で実施した.深呼吸非介入時は安静を保った.安静開始4分後,ストレス負荷12分後,深呼吸開始及び深呼吸非介入時には安静4分後に,唾液アミラーゼを測定(CM-2.1,ニプロ株式会社)した.飲食物の影響を避けるため,食後直ぐには行わなかった.測定は,室温23~26°C,湿度30~50%の環境で実施した.統計学的分析は,二元配置分散分析と多重比較検定を行った.有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者には本研究の目的および方法を説明し,同意を得たうえで測定を実施した.また,被験者はいつでも研究への参加の同意を撤回する権利を有し,それによる不利益は決して生じないことを説明した.<BR><BR>【結果】<BR>深呼吸介入時の唾液アミラーゼの値は,それぞれ<BR>安静時 45±21.3 KU/L,ストレス負荷時:83.2±33.3 KU/L,深呼吸時:40.7±16.3KU/L であった.<BR>深呼吸非介入時の唾液アミラーゼの値は,それぞれ安静時51.7±17.9 KU/L,ストレス負荷時:86.2±23.0 KU/L,深呼吸非介入時:69.8±33.2KU/Lであった.ストレス負荷時と深呼吸介入時には統計学的有意差(p<0.05)が認められたが,深呼吸非介入時には有意差が認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR>本研究の結果,唾液アミラーゼの値からは深呼吸がストレスを緩和する効果があることが示された.ストレス負荷時では,大脳皮質でストレスと認識された刺激により大脳辺縁系が不安,怒りなどの情動を引き起こし,視床下部へと興奮が伝わった結果,内分泌系や自律神経系に作用し交感神経を刺激したことが考えられる.その結果,交感神経系の指標とされるノルエピネフリンの増幅器として働く唾液アミラーゼの分泌が亢進されたことが考えられる.生理学的に,深呼吸をすると迷走神経が興奮して心拍数減少が認められており,副交感神経活動が優位となるといわれている.また,深呼吸時に吸息時間より呼息時間を長くすることで,副交感神経をより高めるという報告もみられた.このことから,深呼吸を行うことで副腎髄質のノルエピネフリン分泌と交感神経の興奮が抑制され,唾液アミラーゼの値は減少し,副交感神経が有意に働いたことでストレスを緩和したと考えられる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>理学療法領域での深呼吸の有用性に関しては,肺気腫や気管支喘息などの呼吸器疾患患者に対する症状改善が報告されている.また,平成19年の労働者健康状況調査では仕事上のストレスを感じている人が58%,すなわち2人に1人がストレスを感じていると報告されている.臨床で接する対象者や医療従事者も日常生活で様々なストレスを抱えていると考えられ,ストレスに対するコントロール法が必要とされている.今回の研究においては,深呼吸を理学療法に取り入れることで治療場面のみならず,予防医療の一環として有用である可能性が示された.
著者
古川 真宏
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度は、「世紀末ウィーンにおける芸術と精神医学」についてのこれまでの研究の成果をまとめ、論文「世紀末ウィーンの芸術における病理学的身体――クリムト的女性像に関する一考察」として紀要『ディアファネース――芸術と思想』(査読有)で発表した。この論文は、当時「世紀の病」として広く認知されるようになったヒステリーと精神衰弱という二つの病の観点から、様々な芸術分野に対する精神医学の影響をまとめたものである。当論文では、世紀転換期の女性像を芸術批評・医学的言説・図像との比較・分析を通じて、ヒステリー的ファム・ファタールと神経衰弱的ファム・フラジールの二つの類型に分類した。また、グスタフ・クリムト、エゴン・シーレ、オスカー・ココシュカの作品、臨床の現場における神経衰弱の女性像、シュルレアリスムにおけるヒステリーの女性像などと比較することで、芸術的主題としての病理学的身体の系譜を描き出した。また、前年度の研究のテーマであった「スタイルとモード」という問題系についても同時に研究を進めた。その研究過程で重要な参照項として浮かび上がってきたゴットフリート・ゼンパーの様式論とアンリ・ヴァン・デ・ヴェルデの服飾論については、加藤哲弘編『芸術教養シリーズ28芸術理論古典文献アンソロジー西洋篇』において、解説・抄訳のかたちで概要を発表した。また、このテーマに関する論文「ウィーンの/とファッション」(仮題)は、池田裕子編『ウィーンー総合芸術に宿る夢』(竹林舎、2016年春刊行予定)に掲載されることが決定している。
著者
桂 敏樹 古俣 理子 小倉 真衣 石川 信仁 星野 明子 志澤 美保 臼井 香苗
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.457, 2018 (Released:2018-12-18)
参考文献数
32

本研究は,要介護状態でない地域在住高齢者を対象に,閉じこもり及び非閉じこもり高齢者におけるソーシャルキャピタル(SC)とフレイルとの関連を検証することを目的とした。 閉じこもり高齢者47名と,性別と年齢でマッチングした非閉じこもり高齢者47名を対象に,2016年7月~10月の期間で訪問調査測定を実施した。調査項目は身体的フレイル,精神的フレイル,社会的フレイル,ソーシャルキャピタルである。閉じこもり群におけるフレイルとソーシャルキャピタルの関連はχ2検定により分析した。 地域閉じこもり高齢者ではSCは精神的フレイルと有意な関連が認められた。一方地域非閉じこもり高齢者においてSCは全てのフレイルと有意な関連が認められた。 地域在住高齢者においてSCは包括的なフレイルと精神的フレイル出現の予防と関連している。一方地域閉じこもり高齢者では地域における抽出方法と精神的フレイル予防の介入方法開発が必要である。
著者
春日 章宏 三枝 優一 古井 陽之助 速水 治夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.32, pp.61-66, 2007-03-22
被引用文献数
3

インターネット上でコミュニケーションを行う場の一つとして注目されている招待制の SNS には「現実の人間関係を再現し、人と人とのつながりを重視したコミュニケーションを支援する」という特徴がある。しかし既存の SNS では、そうしたつながりを通して「友達の友達」を知ることはできるが、それを足がかりに新たな人間関係を構築することへの支援には改善の余地がある。そこで本研究では、「自分」「友達(仲介者)」「友達の友達」までが参加できる仲介型のチャットを組み込んだ新しい SNS を設計・開発した。8人の被験者による評価実験を行ったところ、SNS と仲介型チャットの組み合わせが友達の輪を広げるのに有効である可能性が示唆された。Invitation-only SNS sites, which attract considerable attention for the communication on the Internet, allow participants to bring their relationship from the real world into the computer network. A participant can find his/her friend's friends through the relationship. However, the SNS should have more effective functions that help him/her make friends with the friend's friends smoothly. We integrated a chat function into our new SNS system; each participant has a chat room, and can invite his/her friends to act as an intermediary. We also conducted an experimental evaluation that involved eight participants. The result indicates the possibility that the combination of an SNS system and a chat function can support the relationship extension effectively.
著者
伊藤 毅志 古郡 廷治
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.406-407, 1997-09-24

通信技術やマルチメディア技術の発達に伴い, グループウエアの研究も盛んになってきている。それにつれて, 教育工学の分野では, 共同学習や協調学習がテーマとなり, 様々な研究が行われるようになっている。しかし, 共同学習の効果に関しては, 様々な報告がある上に, 共同学習場面における学習者の認知面での研究は立ち後れていると言わざるを得ない。一方, コンピュータチェスの分野では, ディープブルー(コンピュータチェス)が, ついにカスパロフ(チェスのグランドマスター)に勝利を収め, 将棋の分野でも日々コンピュータの棋力は向上している。しかし, それらのソフトは, 強さを求めるあまりに, それに勝てない人間からは「ただ自分より強いだけのマシン」となり, ユーザーインターフェースという観点からは, 面白くない対戦相手になっている。本研究では, 共同学習の例として「将棋の感想戦」に注目した。将棋の感想戦では, 「学習者は比較的高い学習意欲を持っていること」「学習効果があることが経験的に知られていること」から効果的な共同学習が起こっている好例であると考えた。この感想戦機能を, 将来, 強い将棋ソフトに備えることができれば, 多くの将棋の学習者に貢献できると考えている。また, 同様の知見を一般の教育システムへ応用することも考えられる。我々は, そのための基礎研究として, 実際に二人の被験者を使っておよそ2ヶ月半にわたって将棋を学習させ, 感想戦がどのように学習過程に影響を与えているのかを発話プロトコルデータを取って, その過程を認知科学的に分析して調査した。その結果をもとにして, 学習者の共同学習時の認知モデルの構築を目指していく。
著者
古橋 英枝
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.573, 2018-12-01 (Released:2018-12-01)

今月号の特集タイトルは「人工知能(AI)について」です。近年「機械学習」や「ディープラーニング」といった言葉を耳にすることが多くなり,自動運転技術や囲碁の対局等が大きなニュースになるなど,人工知能の技術が日々進化し,生活レベルでも身近なものになりつつあります。そこで,人工知能技術が学術情報流通においてどのように関わっているのか/関わってくるのか,また今後インフォプロが人工知能とどう関わり,付き合っていくべきかなどについて,身近にある人工知能技術や実際の活用事例などを踏まえながら必要な知識を分かりやすく提供することを,本特集の目的としました。国立情報学研究所の相澤彰子氏には,学術論文を中心とする学術情報の検索システムにおける人工知能の活用を事例として,人工知能の背景にある解析技術について,現状と課題を概観していただきました。骨董通り法律事務所の出井甫氏には,内閣府が今年公表した第5期科学技術基本計画において提唱されているSociety 5.0の話題を交えつつ,著作権法を中心に,人工知能によって生成されたものに関する知的財産権の現状と課題について,考察していただきました。京都大学の西田豊明氏には,人工知能における,倫理,法,社会の分野を総称したELSI(Ethical, Legal and Social Issues)と呼ばれる観点での取り組みについて,セキュリティやプライバシー等,慎重な検討が必要な点から利活用に向けた動きまで,詳細に執筆いただきました。そして,このような人工知能をめぐる歴史的な背景や技術発展,著作権やELSI等,利活用が進む現在において念頭に置かなければならない観点を前提に,人工知能を利用したサービスについて2本ご執筆いただきました。朝日新聞社メディアラボの田森秀明氏,人見雄太氏,田口雄哉氏には,ラボにおける人工知能研究の取り組みとその成果について,近畿大学アカデミックシアターの寺本大修氏と株式会社エイド・ディーシーシーのスガオタカヒコ氏には,本のマッチングサービスの開発に至る経緯から仕組みやサービス開始後の反響等についてご紹介いただきました。相澤氏のまとめを一部引用させていただくと,人工知能の活用目的は「研究そのものを代替することではなく,AI技術の助けを借りて,より有望な知識の候補を,より素早く見つけ出して,ユーザに提示することである。」とあります。本特集をご覧になった読者が,今後「人工知能」と対面していく中で,どのような観点を持ち,どのような姿勢で考えていけばよいのか,少しでもヒントになれば幸いです。(会誌編集担当委員:古橋英枝(主査),稲垣理美,炭山宜也,長屋俊,松本侑子,南山泰之)
著者
徳永 章二 飯田 隆雄 古江 増隆
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.135-145, 2005-05-25

油症患者は「油症診断基準」により診断・認定されてきた.これまでに1800人以上が油症患者と認定された.1968年刊行の最初の基準は油症の症状・徴候に基づいていたが,1973,1976,1981年の改訂により,血液中のポリ塩化ビフェニール(PCB)とポリ塩化クアターフェニール(PCQ)の性状及び濃度が基準に加わった.しかし,ダイオキシン類の1群であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)は油症患者の血液中の総毒性等量(TEQ)のうち最も大きな割合を占める事が示されているにもかかわらず,血液中ダイオキシン類濃度の測定が困難なため,これまで診断基準に入れられていなかった.近年,5gという少量の血液サンプルから高い妥当性と再現性でもってダイオキシン類濃度を測定できる方法が開発された.この改良された方法により,全国油症患者追跡検診受診者から得られた多数の血液サンプルでダイオキシン濃度を定型作業として測定する事ができるようになった.この論文では,全国油症患者追跡検診受診者と一般人口の血液中ダイオキシン濃度を統計学的に解析することで考案された,血液中ダイオキシン濃度を用いた油症の新しい診断基準を提案する.これは血液中ダイオキシン濃度をもとに油症患者を識別しようとする最初の試みである.
著者
岸 國平 古川 聡子 小林 享夫 白石 俊昌 酒井 宏 田中 一嘉
出版者
The Phytopathological Society of Japan
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.43-49, 1998

堀による命名以後,アナモルフの記載等に疑問を残したまま放置されてきたネギ黒渋病について研究し,以下のような事実を明らかにした。<br>(1)群馬県下仁田町で,多年にわたり自家採種と連作が繰り返されてきた同町特産の下仁田ネギに,本病が毎年激しく発生することが認められた。(2)本病の発生は下仁田町を含む関東北部,東北,北海道地域で多く認められ,関東南部および関東以西の地域ではまれにしか認められなかった。(3)培養菌叢片およびほ場病斑の成熟子のう胞子を用いて行った接種実験において,いずれも自然発病と同様に病徴を再現した。(4)観察されたすべての自然発病および人工接種病斑においてテレオモルフは形成されたが,アナモルフは全く認められなかった。(5)本病菌の培地上の生育適温は約20°C,子のうの成熟適温は20∼25°C,子のう胞子の発芽管伸長の適温は20∼25°Cであり,生育とpHの関係はpH 4∼9で生育し,6∼9で最も良かった。
著者
古木 誠彦
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.109-121, 2003-09

大盂鼎は、清朝道光 (一八二一〜五〇)の初めに陵西省都縣禮村より出土したと伝えられている。戦時中は埋蔵して戦火を避けたとも言われている。高さ一〇〇・八cm、重量一五三・五kg、口径七八・三cmの鼎で、その威風堂々とした様子はいかにも周王朝の権力の絶大さと、国の安泰を象徴しているが如くである。その姿以外に、銘文の内容からもその様子が読み取れるため、西周王朝の歴史研究にはなくてはならぬ文献の一つである。そのためにこの内容は、内外問わず (特に中国国内においては) いろいろな解釈がなされている。銘文中の年号より、西周王朝・康王時のものであると比定されている。また康王三年のものである。銘文中には、康王の言が多く記載されているため、王自身の思想や、周国建立以来の精神も理解でき、また殷国滅亡の様子も記載されている。なにより大盂鼎出土地が政治の中心地であるが故に、当時の使用言語についても理解可能な資料であると考える。しかしながら大盂鼎銘文には、同年代頃で他地域出土の銘文に記されている文字とは違うものが幾つか見られる。西周王朝の中心、中国の中心地でありながら、当時、一般的に使用されていた文字とは違う文字が何故あるのか。幾つかある異体文字についての解読を中心とし、それらの文字が意味することについて考察を行う。そして、そこより垣間見える康王時西周社会の実状の究明もそうであるが、今後の西周時代の文字変遷を調査研究していく上での、いち基盤としたい。